君に恋を

河嶋 亜津希

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向かい合って葉津希と座る。クラッシックの音楽が小さく流れる店内はショッピングセンターの喫茶店とは思えないぐらい落ち着いていた。

「こんな喫茶店知らなかった。」

ここに連れてきたのは葉津希だった。最初こそ奈津希が手を引いていたがフードコートでは落ち着かないし飲食店に入るのも違うとうろうろ迷っていると葉津希が無言で奈津希を引っ張っていったのだ。葉津希は届いたばかりのコーヒーに砂糖を入れてかき回している。

「知り合いが働いてるんだ。」

小さく口を開いた。普段、大人でしっかりしている葉津希が小さく見える。どことなくしゅんとした葉津希に奈津希は少し申し訳なくなった。無理矢理連れてきたのが怖かっただろうか。態度が冷たすぎたのかもしれない。奈津希は頭を下げる葉津希の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?、ごめんね…もう俺は怒ってないよ。」

「あぁ、俺が悪いんだ…ごめん、奈津希。」

葉津希はそっと目を伏せた。奈津希はたまらなくなって葉津希の頭に手を伸ばす。さらさらの髪が手をすり抜けた。驚いたのか葉津希はぱっと顔を上げて奈津希を見た。奈津希はなにも言わずただ少し笑ってみせる。大丈夫、葉津希。心の中でそう言った。すると葉津希が口を開いてぽつりと話し始めた。

「高校、やめたいって言ったのは今の現状に怖くなったからなんだ。やりたいことが見つからない今が怖い。でも中途半端にすることはばあちゃんも母さんも父さんも裏切ることになる。奈津希と志津希も裏切ることになるってわかった。…ごめんな、奈津希が考え込みやすいのはわかってたのに無茶苦茶なこと言って…俺が子供だった。ごめん。」

奈津希は首を横に振った。考え込みやすいのは葉津希も同じだ。でも、葉津希はそれを表には出さない。だからきちんと受け止めてあげなければいけないのに奈津希にはそれができなかった。

「俺の方こそ、ごめんね。葉津希が悩んでるの気づけなかった。…自分勝手に怒ったし」

久しぶりに見る弟の弟らしい表情。緊張していた奈津希の心が少し緩む。

「奈津希は悪くない。…もう辞めるとか言わないから、安心しろ。」

「でも、いいの?葉津希が決めたことなら俺は止めないよ。たぶん、志津希もお婆ちゃんも一緒だと思う。」

葉津希なりに答えを探して見つけた結果。それも受け止めてあげなきゃいけない。葉津希の人生だ。口出しする権利はない。

「もういいんだ。なんだかあの時は俺、おかしくてな。いろいろ冷静に考えられなくて、でももう大丈夫だから。」

葉津希はスッキリした表情だった。本当にもう大丈夫なんだろうと思った。お互い少し離れて考えてよかったんだと思う。志津希の言う通りだった。近すぎて見えなくなることはたくさんある。

「うん、大丈夫ならよかった。」

奈津希は少しだけ肩の荷がおりたような気がした。葉津希と話せてよかったと奈津希は胸をなでおろした。
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