君に恋を

河嶋 亜津希

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テスト用紙のめくれる音、シャーペンが滑る音。心地よく響く音がたまらなく眠気を誘う。全て埋まった回答用紙を奈津希は裏返した。全部正解してはないけど六割は合ってるような気がする。

「残り十分です、しっかり見直ししてくださいね。」

試験監督の類樹が相変わらずの笑顔で生徒に呼びかける。必死になってテスト用紙を睨む生徒がほとんどでそれを余裕に見下している。やっぱりこの男は性格が悪いと奈津希は思った。なんだか目をつけられそうで奈津希は再び回答用紙をひっくり返す。ずらっと並んだ自分の回答。見返せば見返すほど間違っているような気がしてならないから見直しはあまり好きじゃない。しかもぎりぎりで直すと高確率で間違っている。奈津希は不満顔を浮かべながら用紙をしばらく睨んだ。類樹がゆっくりと教室を徘徊している。奈津希の前で類樹の気配が停滞した。心臓がどきっと締め付けられる。悪いことはしてないのになんだか動揺してしまう。奈津希はちらっと類樹を見上げた。ふたりの目が合う。類樹には珍しい真顔。奈津希は眉を歪めた。テスト終了のチャイムが鳴り響く。騒めきが教室内に伝染していく。

「はい、終了です。シャーペン置いて~」

類樹はいつもの調子に戻って踵を返した。なんなんだ?奈津希は不信感を覚える。

「河嶋?なんかしたの?安斎めっちゃ見てたけど」

テスト用紙を回してきた後ろの子が不思議そうな表情で聞いてくる。奈津希は思い切り首を振った。

「なんもしてないよ。」

こっちがなにかあったか聞きたいくらいだ。奈津希は疑問を抱きながら淡々とテスト用紙を数える類樹を見ていた。

「はい、問題ないですね。じゃあ今日はこれで終わりなので気をつけて帰ってください。後河嶋くん。図書委員のことで話があるので美術室に来てください。」

「は…」

半分放心状態の奈津希を放ったらかして終了してしまった。類樹が教室から出て行って続々と帰る用意をしていく。

「図書当番さぼったのかー頑張れよっ!」

後ろのやつがにやっと笑って奈津希を通り越して行った。いや、さぼったことないんだけど…。奈津希は心の中で反論して鞄に荷物を突っ込んだ。
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