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しおりを挟む食卓にご飯の茶碗を置いて奈津希は春の向かいに座った。
「いただきます。」
「はい、どうぞ」
今日のメニューは肉じゃがとほうれん草のおひたし。相変わらず普通の夕飯だ。奈津希は春が箸をつけるまで待ってから食べ始める。
「ん、うまい。」
満足そうな春にほっとした。いつまでたっても春に料理を作るときは緊張する。美味しくなかったらどうしようとか味が濃かったらどうしようとかとにかく春が感想を言うまでどきどきするのだ。あの一年生に身がもたないなんて思ったけど奈津希も大差ない。
「奈津、25日だけど昼まで大学だから夕方から行こうと思ってるんだけどいいか?」
「うん、俺はなにもないから家で待ってるね。」
もう少しで一番楽しみにしていたクリスマスがやってくる。本音を言えば一日中春と一緒にいたいけど奈津希のために予約を入れてくれただけで充分だからわがままは言わない。
「お前、学校いつ終わるんだ?」
「えっと…確か終業式が23日だったかな。」
奈津希は薄い記憶を手繰り寄せた。こう思うと時間が過ぎるのはあっという間で春の家に転がり込んでから約二週間もたっていた。春の隣にいると余計にビュンビュン音を立てて時間が過ぎていくような感覚になる。春は奈津希の答えに少し考えてから口を開いた。
「じゃあ26日か27日にむこう帰るか。」
思わず奈津希の心臓が脈を打った。ゆっくり声を出さずに頷く。志津希が帰るタイミングで奈津希も帰ろうとは思っていたが面と向かって春に言われるとどきっとしてしまう。ちらっと春を見るとまっすぐ奈津希を見つめていてふたりの目線が重なった。
「そんな顔すんなよ。奈津がこっちにいたいんだったらまた俺と一緒に帰ればいいだろ?さすがに正月は俺もお前も帰んねぇとな。志津に顔見せてやれ。」
奈津希の表情から春は全てを察して優しくそう言った。奈津希はもう一度頷いてじゃがいもを口に放り込む。春が奈津希の気持ちをわかってくれていたこともまた一緒に帰ればいいと言ってくれたことも奈津希は嬉しくてたまらなかった。だけどそれを素直に出せないから思わず黙ってしまう。
「志津は?いつ帰るって?」
そういえばまだ志津希から休みの予定を聞いていない。奈津希は傍に置いてある携帯をちらっと見た。
「まだ聞いてないんだよね。決まったらメールくれるって言ってたのに…明日メールしておく。」
「ん。葉津にも帰る日伝えておけよ。ばあちゃん飯作るだろうから。」
奈津希は首を縦に振る。たしかに早く祖母のご飯が食べたい。いくら奈津希が上手く作っても祖母の味には敵わなかった。同じ作り方をしても全然違うのだ。奈津希はもう一口肉じゃがを口に入れてやっぱりなにか違うなと自分の手料理を噛み締める。もう随分祖母の料理を食べていないような気になる。春のそばにずっといたいけど家族とも離れたくない。奈津希はわがままな自分が嫌になって誤魔化すように黙々と夕飯を口に運んだ。
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