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しおりを挟む部屋の時計が夕方の五時を指していた。本来ならもう春のバイク後ろにぎゅっとしがみついてわくわくしていただろうか。奈津希は痛む胸を強く抱きしめていた。部屋の窓は開けたまま。どうしても奈津希は窓を閉めれなかった。ここは春と奈津希が繋がる唯一の場所だったからだ。だけど視界には入れたくなくて窓に背を向けていた。クリスマスなのにろくな一日じゃない。奈津希は手探りでベッドに潜り込んだ携帯をつかんだ。あれから着信はひとつもない。声が聞きたい、会いたい、触れたい。いろんな感情が湧き上がる。ぼーっと画面を眺めていると突然いつもの着信音が鳴り響いた。心臓がどきっと脈を打つ。奈津希は勢いよく起き上がった。
「…」
文字を見ただけで泣きそうになる。宮塚 春の文字がはっきりと映っていた。この電話をとるのが最善なんだろうか。働かない頭が焦りだけを生み出す。着信音が早く早くと奈津希を急かした。奈津希は震える指で通話ボタンを押した。
『奈津っ、…』
たった一言名前を呼ばれただけなのにぎゅっと胸を掴まれる。
「…春くん、」
掠れた声しか出なかった。胸がいっぱいいっぱいで詰まってしまう。奈津希は溢れ出そうになる涙を必死に閉じ込めようとしていた。
『ごめん。俺、お前に甘えてた。奈津はずっと俺の隣に当たり前にいてくれると思ってた。でもそれが一番お前を不安にさせてたんだよな。』
「っ、」
奈津希は涙を流しながら声を必死に抑える。春には見えないのに奈津希は首を振り付けた。違う、奈津希だって春に甘えていた。伝えることを恐れていた。
『奈津、部屋にいるよな?』
「…え、?」
奈津希は恐る恐る振り返った。あぁやっぱり俺は春くんが好きだ。奈津希は心のなかで呟いた。
「奈津が好きだ。昔からずっと。俺はお前だけだ、奈津」
「遅い、…馬鹿ぁっ…」
もう我慢しなくてもいいんだ。奈津希の手から携帯が滑り落ちる。向かいの窓から伸びる春の手を取った。ゆっくりと春の部屋に踏み入る。今までにない安心感が奈津希を包む。
「好きだ、奈津…」
ずっと待っていた言葉がそこにあった。奈津希は泣きながら離れないように強く春に抱きつく。夕方の光が射し込んでふたりを赤く染めていた。
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