君に愛を

河嶋 亜津希

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「おーい?大丈夫?入るよ?」

がちゃりと遠慮なしにドアが開いてエプロン姿の男が入ってくる。葉津希はまだ少しくらくらする頭を抑えて顔を向けた。

「店長!すいません。店の裏でお客様が…体調が悪そうで、勝手に入れてしまいました。」

立ち上がった店員は店長と呼んだ男に頭を下げた。葉津希は目の前の光景に声を出すこともできずぼーっと見ておくしかできない。渡された保冷剤を頭に当て思考が巡ってくるのを待つ。ひょこっと顔を出した店長は葉津希の姿を捉えて声を上げた。

「え、!大丈夫?あ、この人この前の!」

やっぱりここはあのカフェの裏でスタッフルームらしい。そして葉津希を助けてここまで連れてきたのはあの綺麗な店員だ。先程訳もわからず嫌な態度をとったことに葉津希は後悔し始める。即効性が高いのか葉津希の体温はほんの少し下がり視界もクリアになってきていた。はっきりと姿を認識する。

「すいません、勝手に。でも放っておけなくて…」

「いや、そりゃそうだよ!だいぶ体調悪そうだもんね。顔も真っ青だし…お客様大丈夫ですか?」

ソファに座る葉津希のもとへより店長はすっと膝をついた。ふわっとコーヒーの香りが漂う。長髪をひとつにまとめて揃いのストライプのシャツに黒いエプロン。いかにもカフェのマスターという雰囲気だ。葉津希は少しはっきりし出した意識をフル稼働させ慌てて店長と目の前に立つ男に頭を下げた。

「申し訳ございません、勝手に入ってしまって、。ご迷惑を…」

「あー、無理しないで無理しないで、むしろこっちは謝らなきゃいけない立場ですから!」

頭を下げる葉津希を店長は慌てて止めた。薬が効いてきたと言ってもまだ頭痛はすぐそばにあるし葉津希の息は荒い。フラフラな葉津希の様子を見て店長は困ったような眉を下げた。

「どうしようか…。このままひとりで帰れそうにないし、…。お客様はお家この近くですか?」

店長の問いかけに葉津希はこくんと頭を縦に振る。立っていた店員が店長と同じように葉津希の目の前に跪いた。冷たい手が再び葉津希の額に触れる。

「さっき早く効く解熱剤飲ませたので、大丈夫かと思うんですけどやっぱり熱、高いですね。」

「うーん…そうだよね。」

大人をふたりも困らせているのがどうにも落ち着かない。しかもふたりはおそらく勤務前と勤務中だ。葉津希は精一杯の力を振り絞り頭を下げて立ち上がった。重力がのしかかりふらつくも足に力は入る。薬のおかげで帰れそうではあった。

「本当に、ご迷惑をおかけして…この通り帰れそうなので。ありがとうございます、」

軽くお辞儀をすると葉津希を目眩が襲う。ふらついた葉津希をぱっと店員が支える。

「おっとっ…駄目です、すぐ動いちゃ。店長、お客様危ないのでお家まで送ってきてもいいですか?タイムカードまだ切ってないので帰ってきたら仕事戻りますから。」

「はっ、ちょっと、」

「それがいいよ!何かあったら心配だし。それにタイムカード俺、切っとくから時給つけとくよ!気をつけてね。」

納得したように頷いた店長はスタッフルームの扉を開けてくれ、葉津希を支える店員の補助に回る。わけがわからない葉津希は抵抗する間もなく肩を支えられて歩き出した。

「ゆっくりでいいですから、辛かったら言ってください。道案内だけ頼みますね。」

あの優しくて綺麗な笑顔が葉津希に向けられる。相手から伝わる体温はひんやりと冷たいのに葉津希の体は熱く熱を帯びていた。葉津希はそれが熱の所為なのか目の前の男の所為なのか考えてもわからなかった。
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