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転生~ただし全裸~
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人間一度は、自分の死にざまを想像したことくらいあるはずだ。
病気?
交通事故?
それとも…殺人?
最愛の人に看取られて死ぬこともあるだろうし、誰にも知られずひっそりと死ぬこともあるだろう。
もしかしたら、歴史に名を残すような死に方をするかもしれない。
……とまあ、こんなのは始めて5分も経たないうちにバカバカしいと切って捨てるような想像だ。
5分……もっと極端な話、1秒先の未来すら誰にもわからないんだから考えるだけ無駄というものだ。
せめて死ぬなら普通に死にたいねぇ。
……そう思っていたんだけどなぁ。
「これはないわー」
風呂で身体を洗い、湯船につかろうと立ち上がった途端足を滑らせ、風呂の淵に頭をぶつけて気を失い、そのまま頭から湯船につっこみ……。
気が付いたら、俺は自分で自分を見下ろしていた。
正真正銘の溺死だ。それ以外の何物でもない。
下半身を露出したまま、湯船に頭から突っ込んでいる自分を客観的に見ることが、こんなにも情けないとは夢にも思わなかった。
どの程度時間が経ってるのかわからないが、助けを求めるどころか悲鳴すら上げる暇もなかったせいで、未だ家族の誰に発見されてないという始末だ。
しかしそう時を待たずして、風呂から出てこない俺の様子を見に来た母さんあたりが発見することになるだろう。
この無様な死に方をしているこの俺……葉山宗一を。
「うわー死んじゃったのは仕方ないにせよ、もうちょっとましな死に方できなかったのかよ俺!父さん母さんほんっとごめん、最後の最後まで恥さらしな息子で!」
なんて言うものの、別段恥を晒してきた人生ではなかったし俺は俺でちょっとアニメや漫画やゲームが好きなごく普通の高校生だ。
友達だってそこそこいたし運動も勉強もまあ普通だった。
彼女どころか好きな女の子すらいなかったのが若干心残りではあるかな。
悪さをしたわけでもなかったのに、いくらなんでもこの死に方は情けなさ過ぎる……もうちょっとましな死に方があっただろうに……。
死んでしまえばあとのことなんて気にする必要なんかないと生前は思っていたが、いざ実際に死んでみるとこれはこれで不安ばっかりだった。
頭を抱えながら悶えていると、不意に視界がホワイトアウトし始める。
何事かと周囲を見渡す間にも、見る見るうちに世界が白く塗りつぶされていく。
無様な恰好で溺死している自分自身も白く覆いつくされていき、もはやなにも視界に映さなくなった。
これはあれかな?このまま天国に行くか、生まれ変わるかするかの前兆だったりするのかな?
そんなことを考えていると不意に何者かの気配がする。
「この度はほんっっっっっっとうに申し訳ありませんでしたっ!!!」
溜め長っ!
思わず心の中で突っ込みを入れつつ声のした方向に振り替えると、白いワンピースを着た女の子が土下座していた。
よく見ると背中から小さな羽が生えている……天使かなにかだろうか?
「えっと……いきなり謝られても困るんだが」
「手違いであなたを死なせてしまいましたっ!!!まっっっっっっことに申し訳ございませんでしたっ!!!」
「お前のせいかっ!!」
「ひいぃっ!!」
思わず怒鳴ってしまった俺に反応し、小さく悲鳴をあげながらおびえた表情で女の子が顔を上げた。
中々に可愛らしい顔つきをしているのだろうが、恐怖に歪んで見る影もない。
「あっいや、突然怒鳴って悪かった。もう怒鳴らないからそんなおびえた顔しないでくれ」
「びっくりしたぁ……まさかいきなり神を怒鳴りつける人間がいるなんて思わなかったので」
自らを神と呼称した彼女は立ち上がり膝を軽く叩く。
そして俺を見た後、深々と頭をさげた。
「葉山宗一さんですね?初めまして、私は神様見習いのシエルと申します」
そう言って顔を上げてほほ笑むシエルと名乗った少女。
さっきも思ったけどやはり可愛らしい顔つきをしていて、腰まで届きそうなブロンドヘアーと純白のワンピースも相まって神々しさすら感じる。
こんなわけのわからない状況じゃなければ、ここまでの美少女に出会えたことを大手を振って喜んでるところなんだがなぁ……。
「先ほども言いましたが、私の手違いであなたを死なせてしまいました……本当に申し訳ありません」
「あーやっぱり俺は死んだのね……」
「私昨日から見習い神として仕事を始めたばかりだったんですが、まさか初回からこんな失敗をしてしまうなんて」
「手違いってことは、俺はここで死ぬはずではなかったってこと?」
「はい……本来ならあなたは98歳まで生きるはずでしたが、同姓同名の98歳のおじいさんと間違えてしまって……」
「なんで間違えるの!?ありえないでしょ!?」
「だって同姓同名なんですよ!仕方ないじゃないですか!資料には写真とかなかったですし!」
逆切れされてしまった。
「あっ……ごめんなさい!どう考えても私のせいなのに」
「まあそうなんだけどね……それで?結局君は何しに来たの?俺を天国に連れてってくれるの?」
「いえ!今回は特例としてあなたに選択権を持ってきました!」
選択権?ひょっとして何かを選ばせてくれるんだろうか?
定番から言って生き返るか生まれ変わるか……異世界に転生するとかだよな?
「このまま生き返るか、別の世界に転生するかのどちらかを選ぶことができます!」
「捻りも何にもないな」
「それならこのまま地獄にいきますか?」
「やだこの子極端すぎて怖い!」
「地獄はあんまりいいところじゃありませんよ?あんまり環境もよくありませんし。でも住めば都という言葉もありますから……ほら人間って環境適応能力高いじゃないですか」
「待って、なんで地獄に行く方向で話し進めてるの?そんなもの生き返る一択に決まってるじゃん!」
こんな無様死に方で人生を終わらせるなんて死んでもごめんだ!……いやもう死んでるけどね。
親だってあんな醜態晒まくりの息子を見るのはつらいだろうし……待てよ?
「あのさ、俺って……ああ死んじゃってるほうの俺って今どうなってるのかな?」
「もうとっくにあなたのお母さんに発見されて病院に担ぎ込まれてる最中ですが?」
「あかん最悪や……」
思わずがっくりとうなだれる。
「何かまずいんですか?このまま生き返る選択をすれば、病院で懸命な処置を受けて息を吹き返したことになりますからそんなに不自然ではないはずですけど」
「だって俺全裸じゃん」
「全裸でしたね」
「あんな醜態を晒した後に、のこのこと生き返るなんて恥以外の何物でもないぞ」
最悪、事あるごとにに両親からこのことでからかわれながら生きていかねばならない。
それだけならまだいいが、おしゃべりな母さんのことだ……絶対にご近所にも広まるだろうし、挙句の果てに俺の通う高校にまで広まる可能性がある。そうなったらもう生き地獄決定だ。
取れる選択肢は一つしかない。
「転生!異世界に転生させてくれ!」
「こんなしょうもない理由で異世界転生を選ぶ人っているもんなんですねぇ……」
「死んだような魚のような目で見ないでくれない?」
見た目に反して失礼だなこの自称神様見習いは。
「じゃあ異世界転生ということで。オプションサービスとして異世界で生まれなおすか、葉山宗一としてそのまま異世界に転生するかのどちらかを選べますけど?」
「至れり尽くせりだな」
「完全にこちらの手違いですから、このくらいのフォローは当然ですよ!あっでも……」
そう言って言葉を止め大げさな咳ばらいをし、神と名乗る女の子の表情が真剣なものに変わる。
「どちらを選んでも転生先は選べませんし、異世界で生まれなおす場合は記憶から魂まであなたの全てを浄化してから転生しますから、異世界に完全に順応した形で人生を再スタートできますが、もう葉山宗一さんではなくなってしまいますね」
「俺のまま異世界に転生するとどうなるの?」
「あなたをそのまま転生させる場合、完全に異世界に順応させた状態で……っていうのは難しいんですよ。転生のさいになにかしらの不具合が生じてあなた自身に異変が起こるかもしれません」
異変……ねぇ。
なんだろう?よくわからない化け物になってしまうとか性別が変化するとかかな?
「どうしますか?」
押し黙ってしまった俺の様子を窺うように恐る恐る問いかけてくる自称神様見習い少女。
正直なところ俺はまだ葉山宗一として生きて行きたいと思っている。
もっともっとやりたいこともあったし、楽しいことも辛いことも沢山あるはずなんだ……こんな不完全なまま人生を終わらせたくはない。
異世界に転生する選択をした俺がこんなこと言えた義理ではないが、それでも俺はまだ俺のままでいたいのだ。
「必ずしも異変が起きるってわけじゃないんだよな?」
「そうですね……私もできる限りの手は尽くしますから確率を0%に近づけることはできますけど」
「それでも絶対じゃないわけか」
「はい」
もう一度考え直すも結局先ほどと変わらない思考が展開されただけだった。
やはり俺は葉山宗一であることをやめたくない。
「よしわかった!俺のまま……葉山宗一として異世界に転生する!」
これが俺の出した結論だった。
「……わかりました、ではそのようにしますね。それと安心してください、あなたの転生後私もすぐに追いかけますから」
「一緒に来てくれるの?」
「事後確認もありますし、異世界に放り込んだまま「はいさよなら」というわけにもいきませんから」
それはありがたい。右も左もわからない場所に一人で放り込まれるのはさすがに怖いからな。
「あと最初に言っておきますけど、行った先が気に入らないか再転生したいというのはダメですからね?」
「文句なしの一発勝負ってわけか……まあそうだよな」
それにしても異世界か……漫画やアニメなんかではよく見かけるシチュエーションだが、いざ自分がその状況に置かれると感慨深いものがあるな。まるでラノベの主人公にでもなった気分だ。
「じゃあさっそく始めますね!目を閉じてリラックスして……できるだけ何も考えないようにしてくださいね?それが原因で不具合が起きることも充分ありますから」
「わかった!それじゃあやってくれ!」
「ではいきますよ……」
シエルが目を閉じなにやら呪文のようなものを唱え始めると、俺の身体が淡い光に包まれ始めた。
やばい!なんだこれ凄いワクワクするぞ!
自分が死んでしまったことも忘れ、まだ見ぬ異世界に向けてテンションが高まるが、改めて自分が今どういう状況だったかを思い出す。
俺全裸じゃん!
ひょっとして全裸のまま異世界に転生されるのか?それってやばいんじゃないの?
卑猥物陳列罪で逮捕されたりしないかな?最悪異世界に転生した直後に人に見つかって変態呼ばわりされるかもしれない……それはちょっと洒落にならないんだけど!?
「あの……」
「余計なことは考えないでください」
「はいすいません」
ぴしゃりと言われる。
こうなれば仕方ない、全裸であることは目をつぶろう。意外と何とかなるかもしれないしな!前向きに考えていこう!ポジティブシンキング!
だってさ……
もう二度と全裸でなんて死にたくはないからな。
結果から言うと俺は無事に異世界転生に成功することになるが、後に後悔することになる。
この時余計なことを考えなければよかったと……。
病気?
交通事故?
それとも…殺人?
最愛の人に看取られて死ぬこともあるだろうし、誰にも知られずひっそりと死ぬこともあるだろう。
もしかしたら、歴史に名を残すような死に方をするかもしれない。
……とまあ、こんなのは始めて5分も経たないうちにバカバカしいと切って捨てるような想像だ。
5分……もっと極端な話、1秒先の未来すら誰にもわからないんだから考えるだけ無駄というものだ。
せめて死ぬなら普通に死にたいねぇ。
……そう思っていたんだけどなぁ。
「これはないわー」
風呂で身体を洗い、湯船につかろうと立ち上がった途端足を滑らせ、風呂の淵に頭をぶつけて気を失い、そのまま頭から湯船につっこみ……。
気が付いたら、俺は自分で自分を見下ろしていた。
正真正銘の溺死だ。それ以外の何物でもない。
下半身を露出したまま、湯船に頭から突っ込んでいる自分を客観的に見ることが、こんなにも情けないとは夢にも思わなかった。
どの程度時間が経ってるのかわからないが、助けを求めるどころか悲鳴すら上げる暇もなかったせいで、未だ家族の誰に発見されてないという始末だ。
しかしそう時を待たずして、風呂から出てこない俺の様子を見に来た母さんあたりが発見することになるだろう。
この無様な死に方をしているこの俺……葉山宗一を。
「うわー死んじゃったのは仕方ないにせよ、もうちょっとましな死に方できなかったのかよ俺!父さん母さんほんっとごめん、最後の最後まで恥さらしな息子で!」
なんて言うものの、別段恥を晒してきた人生ではなかったし俺は俺でちょっとアニメや漫画やゲームが好きなごく普通の高校生だ。
友達だってそこそこいたし運動も勉強もまあ普通だった。
彼女どころか好きな女の子すらいなかったのが若干心残りではあるかな。
悪さをしたわけでもなかったのに、いくらなんでもこの死に方は情けなさ過ぎる……もうちょっとましな死に方があっただろうに……。
死んでしまえばあとのことなんて気にする必要なんかないと生前は思っていたが、いざ実際に死んでみるとこれはこれで不安ばっかりだった。
頭を抱えながら悶えていると、不意に視界がホワイトアウトし始める。
何事かと周囲を見渡す間にも、見る見るうちに世界が白く塗りつぶされていく。
無様な恰好で溺死している自分自身も白く覆いつくされていき、もはやなにも視界に映さなくなった。
これはあれかな?このまま天国に行くか、生まれ変わるかするかの前兆だったりするのかな?
そんなことを考えていると不意に何者かの気配がする。
「この度はほんっっっっっっとうに申し訳ありませんでしたっ!!!」
溜め長っ!
思わず心の中で突っ込みを入れつつ声のした方向に振り替えると、白いワンピースを着た女の子が土下座していた。
よく見ると背中から小さな羽が生えている……天使かなにかだろうか?
「えっと……いきなり謝られても困るんだが」
「手違いであなたを死なせてしまいましたっ!!!まっっっっっっことに申し訳ございませんでしたっ!!!」
「お前のせいかっ!!」
「ひいぃっ!!」
思わず怒鳴ってしまった俺に反応し、小さく悲鳴をあげながらおびえた表情で女の子が顔を上げた。
中々に可愛らしい顔つきをしているのだろうが、恐怖に歪んで見る影もない。
「あっいや、突然怒鳴って悪かった。もう怒鳴らないからそんなおびえた顔しないでくれ」
「びっくりしたぁ……まさかいきなり神を怒鳴りつける人間がいるなんて思わなかったので」
自らを神と呼称した彼女は立ち上がり膝を軽く叩く。
そして俺を見た後、深々と頭をさげた。
「葉山宗一さんですね?初めまして、私は神様見習いのシエルと申します」
そう言って顔を上げてほほ笑むシエルと名乗った少女。
さっきも思ったけどやはり可愛らしい顔つきをしていて、腰まで届きそうなブロンドヘアーと純白のワンピースも相まって神々しさすら感じる。
こんなわけのわからない状況じゃなければ、ここまでの美少女に出会えたことを大手を振って喜んでるところなんだがなぁ……。
「先ほども言いましたが、私の手違いであなたを死なせてしまいました……本当に申し訳ありません」
「あーやっぱり俺は死んだのね……」
「私昨日から見習い神として仕事を始めたばかりだったんですが、まさか初回からこんな失敗をしてしまうなんて」
「手違いってことは、俺はここで死ぬはずではなかったってこと?」
「はい……本来ならあなたは98歳まで生きるはずでしたが、同姓同名の98歳のおじいさんと間違えてしまって……」
「なんで間違えるの!?ありえないでしょ!?」
「だって同姓同名なんですよ!仕方ないじゃないですか!資料には写真とかなかったですし!」
逆切れされてしまった。
「あっ……ごめんなさい!どう考えても私のせいなのに」
「まあそうなんだけどね……それで?結局君は何しに来たの?俺を天国に連れてってくれるの?」
「いえ!今回は特例としてあなたに選択権を持ってきました!」
選択権?ひょっとして何かを選ばせてくれるんだろうか?
定番から言って生き返るか生まれ変わるか……異世界に転生するとかだよな?
「このまま生き返るか、別の世界に転生するかのどちらかを選ぶことができます!」
「捻りも何にもないな」
「それならこのまま地獄にいきますか?」
「やだこの子極端すぎて怖い!」
「地獄はあんまりいいところじゃありませんよ?あんまり環境もよくありませんし。でも住めば都という言葉もありますから……ほら人間って環境適応能力高いじゃないですか」
「待って、なんで地獄に行く方向で話し進めてるの?そんなもの生き返る一択に決まってるじゃん!」
こんな無様死に方で人生を終わらせるなんて死んでもごめんだ!……いやもう死んでるけどね。
親だってあんな醜態晒まくりの息子を見るのはつらいだろうし……待てよ?
「あのさ、俺って……ああ死んじゃってるほうの俺って今どうなってるのかな?」
「もうとっくにあなたのお母さんに発見されて病院に担ぎ込まれてる最中ですが?」
「あかん最悪や……」
思わずがっくりとうなだれる。
「何かまずいんですか?このまま生き返る選択をすれば、病院で懸命な処置を受けて息を吹き返したことになりますからそんなに不自然ではないはずですけど」
「だって俺全裸じゃん」
「全裸でしたね」
「あんな醜態を晒した後に、のこのこと生き返るなんて恥以外の何物でもないぞ」
最悪、事あるごとにに両親からこのことでからかわれながら生きていかねばならない。
それだけならまだいいが、おしゃべりな母さんのことだ……絶対にご近所にも広まるだろうし、挙句の果てに俺の通う高校にまで広まる可能性がある。そうなったらもう生き地獄決定だ。
取れる選択肢は一つしかない。
「転生!異世界に転生させてくれ!」
「こんなしょうもない理由で異世界転生を選ぶ人っているもんなんですねぇ……」
「死んだような魚のような目で見ないでくれない?」
見た目に反して失礼だなこの自称神様見習いは。
「じゃあ異世界転生ということで。オプションサービスとして異世界で生まれなおすか、葉山宗一としてそのまま異世界に転生するかのどちらかを選べますけど?」
「至れり尽くせりだな」
「完全にこちらの手違いですから、このくらいのフォローは当然ですよ!あっでも……」
そう言って言葉を止め大げさな咳ばらいをし、神と名乗る女の子の表情が真剣なものに変わる。
「どちらを選んでも転生先は選べませんし、異世界で生まれなおす場合は記憶から魂まであなたの全てを浄化してから転生しますから、異世界に完全に順応した形で人生を再スタートできますが、もう葉山宗一さんではなくなってしまいますね」
「俺のまま異世界に転生するとどうなるの?」
「あなたをそのまま転生させる場合、完全に異世界に順応させた状態で……っていうのは難しいんですよ。転生のさいになにかしらの不具合が生じてあなた自身に異変が起こるかもしれません」
異変……ねぇ。
なんだろう?よくわからない化け物になってしまうとか性別が変化するとかかな?
「どうしますか?」
押し黙ってしまった俺の様子を窺うように恐る恐る問いかけてくる自称神様見習い少女。
正直なところ俺はまだ葉山宗一として生きて行きたいと思っている。
もっともっとやりたいこともあったし、楽しいことも辛いことも沢山あるはずなんだ……こんな不完全なまま人生を終わらせたくはない。
異世界に転生する選択をした俺がこんなこと言えた義理ではないが、それでも俺はまだ俺のままでいたいのだ。
「必ずしも異変が起きるってわけじゃないんだよな?」
「そうですね……私もできる限りの手は尽くしますから確率を0%に近づけることはできますけど」
「それでも絶対じゃないわけか」
「はい」
もう一度考え直すも結局先ほどと変わらない思考が展開されただけだった。
やはり俺は葉山宗一であることをやめたくない。
「よしわかった!俺のまま……葉山宗一として異世界に転生する!」
これが俺の出した結論だった。
「……わかりました、ではそのようにしますね。それと安心してください、あなたの転生後私もすぐに追いかけますから」
「一緒に来てくれるの?」
「事後確認もありますし、異世界に放り込んだまま「はいさよなら」というわけにもいきませんから」
それはありがたい。右も左もわからない場所に一人で放り込まれるのはさすがに怖いからな。
「あと最初に言っておきますけど、行った先が気に入らないか再転生したいというのはダメですからね?」
「文句なしの一発勝負ってわけか……まあそうだよな」
それにしても異世界か……漫画やアニメなんかではよく見かけるシチュエーションだが、いざ自分がその状況に置かれると感慨深いものがあるな。まるでラノベの主人公にでもなった気分だ。
「じゃあさっそく始めますね!目を閉じてリラックスして……できるだけ何も考えないようにしてくださいね?それが原因で不具合が起きることも充分ありますから」
「わかった!それじゃあやってくれ!」
「ではいきますよ……」
シエルが目を閉じなにやら呪文のようなものを唱え始めると、俺の身体が淡い光に包まれ始めた。
やばい!なんだこれ凄いワクワクするぞ!
自分が死んでしまったことも忘れ、まだ見ぬ異世界に向けてテンションが高まるが、改めて自分が今どういう状況だったかを思い出す。
俺全裸じゃん!
ひょっとして全裸のまま異世界に転生されるのか?それってやばいんじゃないの?
卑猥物陳列罪で逮捕されたりしないかな?最悪異世界に転生した直後に人に見つかって変態呼ばわりされるかもしれない……それはちょっと洒落にならないんだけど!?
「あの……」
「余計なことは考えないでください」
「はいすいません」
ぴしゃりと言われる。
こうなれば仕方ない、全裸であることは目をつぶろう。意外と何とかなるかもしれないしな!前向きに考えていこう!ポジティブシンキング!
だってさ……
もう二度と全裸でなんて死にたくはないからな。
結果から言うと俺は無事に異世界転生に成功することになるが、後に後悔することになる。
この時余計なことを考えなければよかったと……。
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