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真実~相手の身になって考える~
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無事に宿屋へと帰還を果たした俺たちは、毎度おなじみエナの部屋に集合する。
何かある度にエナの部屋に集まってるな俺たちは。
「俺たちに全部話す」と言ったテレアは、この部屋についてから一言も喋らずベッドに腰かけて黙ったままうつむいている。
頭の中で言葉を整理しているのか、はたまた俺たちを自分の事情に巻き込んでしまうことを躊躇しているのかはわからない。
まあ急かすつもりはこれっぽちもないのでテレアが話し出すのをゆっくりと待っている次第だ。
「えっとね……テレアがこの町にいるのは、誘拐されたからなの……」
その言葉を皮切りにテレアがぽつぽつと事の経緯を語り出した。
数々の偉業を打ち立て、冒険者の間で知らない者はいないとまでされるテレアの両親……通称「シルクス夫妻」。
冒険者として活動してた二人だったが、後のテレアの母親である「リリア=シルクス」が「ヤクト=シルクス」との子供を身ごもったことを契機に冒険者を引退し、今俺たちのいるこの国「ライノス」の隣国「マグリド」に居を構え、そこで無事にテレアを出産し、三人はマグリドで暮らしていくこととなった。
もちろんそのことは国中に広まり王の耳にも入ることとなる。
冒険者として蓄えてきた豊富な知識や、数々の戦いを生き抜いてきた力量を見込まれ、王直々の頼みで二人はマグリド国のご意見番となった。
テレアの知る限りマグリド国は過去三回ほど魔物の侵攻を受けたのだが、その三回をシルクス夫妻の主導の元、犠牲者を出すこともなく見事に撃退している。
その他にも外交問題を穏便に済すべく王に助言をしたり、内乱が発生しそうになるとそれをいち早く察知し未然に防ぐなど、文字通り二人はマグリド国に多大な貢献をしていき、王だけでなく多くの民衆も信頼も得ていく。
そんな二人ではあったが国のご意見番であると同時に国の一国民であることに固持し、王からの爵位の授与も断り続け、領地も受け取ることもなくマグリドの城下町で親子三人平和に暮らしていた。
そうなってくると、それを面白くないと思うのが貴族連中である。
元々マグリドは貴族間の権力争いが激しいことで有名であり、王もそのことで手を焼いていたらしい。
シルクス夫妻ですら貴族問題に手を出すべきではないと、基本的には関わらないようにしていたとのこと。
だが貴族連中はというと、王や民衆から絶大な支持を得ているシルクス夫妻を抱き込むことができれば、他の貴族たちよりも優位に立てるとし、幾度となくシルクス夫妻に接触し自分たちのもとに引き入れようとあの手この手で勧誘するも、二人が首を縦に振ることはなかった。
そんなことを繰り返していくうちに貴族間の間でシルクス夫妻への不信感が募っていく。
その不信感は「あの二人がどこの勢力にも属さないのはやがて自分たちが貴族へと成り上がり、自分たちを潰すつもりなのだ」という根も葉もない噂へと形を変えていった。
とんでもない話だと思う、二人はただ一国民として最愛の娘と穏やかに暮らしていきたいだけなのにな。
そんな二人の願いとなど知らぬとばかりに、日に日に貴族たちの勧誘は激しさを増していき、やがてそれは脅迫染みたものへと変わっていくだけでなく、自分たちにとって邪魔な存在であるとして二人を排除しようとする貴族まで出てくる始末だった。
それでも二人は貴族たちに屈することはなく、なんとか貴族たちと波風を立てぬようにやり過ごしていた。
だがついにとある貴族が強硬手段に出た。
マグリドの数ある貴族の中でも強硬派と言われる「リドアード家」が二人の元を訪れ―――
「自分たちに属さないのであればいかなる手段をもってしてでも、お前たちを潰してやる」
もう原文まま。捻りも何もない剛速球のストレートもいいとこ。そうはっきりと言い放った。
ちなみになんでこれが原文ママなのかわかるのかというと、テレアもその場でそのセリフを聞いていたからに他ならない。
しかしいくら強硬派といわれるリドアード家といえども、昨日の今日でいきなり強硬手段など取ってこないだろうと思った二人であったが、相手はよほどのせっかちさんだったらしく……。
翌日テレアは外で友達と遊んでいたところ、見るからに怪しいローブを着た男たち三人にあっという間に取り囲まれ、抵抗する暇すら与えられず、友達の目の前で白昼堂々誘拐された。
……そいつらあのズッコケ三人組じゃあるまいな?
誘拐されてしまったテレアは身動きが取れないように縛られ口を塞がれたのち馬車に押し込められ、食べ物も与えれることもなく一日馬車に揺らされ続け、このライノス国へと強制連行されてしまった。
男たちの本拠地につき、馬車を下ろされたテレアは拘束を解かれた。おそらく相手は子供だから拘束を解いたところで何もできないと思っていたんだろうが、それは間違った判断だった。
言うまでもなくテレアは瞬時に身体強化を発動し、その場から強引に逃げることに成功した。
その後あの三人組と二日にわたる逃亡劇を繰り広げ、あの武器屋で俺たちと出会ったのだ。
以上の事が、時々言葉に詰まりつつ、要領も得ないたどたどしい口調で、テレアが一生懸命語ってくれた真実だった。
「どこへ行っても、貴族というものは自分たちのことしか考えてないんですねぇ……」
話を聞き終わったエナが、ため息とともにそう吐き捨てる。
なんだろう?貴族関連で何か嫌なことでもあったのかな?
それしても、テレアが英雄とまで呼ばれたシルクス夫妻の娘という話を聞いたときに今のテレアの状況について仮説を立てたんだが、細かいところに違いはあれど大体想像していた通りだった。
テレアを誘拐したことにより、リドアード家はシルクス夫妻への脅迫に使える最大の武器を手に入れたことになる。
シルクス夫妻はテレアの生死を盾にされることにより、おそらく自由に動くことができなくなってるはずだ。
これは思った以上に事態は深刻なのかもしれない。
「なんで武器屋で俺たちと会った時に助けを求めてくれなかったんだ?」
実は兼ねてより疑問に思っていたことをテレアに尋ねる。
「……テレアはその……知らない人とお話しするの怖くて……」
そんな理由かいっ!
と思わず突っ込みそうになったが、それが原因で見知らぬ土地で誰にも助けを求めることも出来ず、たった一人で逃げ回っていたテレアの心境を思うと、とてもじゃないけどそんなこと言えなかった。
しかもあいつらのことだ……たとえ誰かに助けてもらえたとしてもそんなことお構いなしにテレアを強引に連れ去っていってしまっただろう。
ギルドの承認試験の帰り道で俺たちに助けを求めに来た時には、きっともう心身ともに限界だったんだろうな。
「知らない人は怖いし、でも本当は助けてほしくて……でもきっとあの人たちはそんなこと関係なしに、テレアのこと捕まえようとしてくるかもしれなくて……でも誰かに助けてほしくて……」
テレアの声に段々と嗚咽が混じっていく。
「ごめんなさい……お兄ちゃんたちを巻き込んでごめんなさい……うぐぅ……ひっく」
「大丈夫ですよ?もう大丈夫ですからね?」
泣きじゃくるテレアをそう宥めながらエナが優しく抱き留める。
それから10分ほどテレアはエナの胸の中で泣き続けていたのだった。
「さて、問題はこれからどうするかだな」
ひとしきり泣きはらし、ようやく落ち着いたテレアとその隣に座るエナに向けて俺は言った。
「恐らくなんだけどまだテレアの両親には、テレアに逃げられたことが伝わってないと思う。その証拠がさっき戦ったあの槍の男だ」
あんな強い奴を使ってまでテレアを取り戻そうとしてることが何よりの証拠だ。
テレアに逃げられたなんてシルクス夫妻に知られてしまったら、自分たちの優位性なんてあっという間になくなってしまうからな。
「それとこの宿ももう引き払った方がいいだろうな。十中八九テレアがここにいることもばれてるだろうし、俺とエナの面も割れてると思う」
「まあそうでしょうね……」
これについてはエナもそう思っていたようで、俺の意見に同意を示してくる。
「ごめんなさい、テレアのせいで」
「良いんですよテレアちゃん、どうせ私たちは冒険者ですから!本来ならよほど長期の仕事でもない限り一か所に留まり続けるなんてないんですから」
謝るテレアの頭をエナが優しくなでる。
「それらを踏まえて俺たちはこれからどうするかを考えないといけないんだ。俺としてはテレアを、ひいてはテレアの両親を助けたいと思ってる」
俺の言葉を聞いたテレアが泣きはらし真っ赤になった眼を向けてくる。
「エナはなんで誘拐されたテレアが国外であるこのライノスまで連れてこられたと思う?」
「え?えっと……マグリド国内だとシルクス夫妻にテレアちゃんを見つけられてしまうかもしれないから……ですかね?」
「うん正解。じゃあ次にエナだったらテレアが自分の手元にいることを仮定して、どうやってシルクス夫妻を始末する?」
「なんですかその質問」
エナが微妙に嫌そうな顔をする。
「えっと……テレアちゃんを餌に二人をこちらに呼び寄せて、抵抗できないところを……とか?」
「半分正解かな。こちらに……ライノス国までおびき出してそこで始末してしまったら、多分国交問題に発展すると思う」
「それはいくらなんでも大げさでは……?」
「シルクス夫妻は王直々の勅命でご意見番にまでなった、マグリドの英雄だろ?その二人がライノス国で死体として見つかったら、俺だったら真っ先にこの国を疑うね」
確かに大げさかもしれないが、物事ってのは常に最悪のケースを想像して、そうならないように計画を進めていくものだ。
いくらリドアード家が強硬派といえど、そこまでの展開を望んでるわけではないだろう。
連中はただ自分たちの目の上のたんこぶであるシルクス夫妻を、秘密裏に始末したいだけだろうしね。
そうなってくるとマグリド国内で堂々とテレアを誘拐したのは完全に悪手だよなぁ……それとも連中にはそれを誤魔化しきれる算段でもあったんだろうか?
「おそらく国間にあるどこか人目の付きそうにないところにでも呼び出して、そこで始末するつもりじゃないかな?それこそ事故でも装ってさ」
「はぁ……」
「そして質が悪いことに連中の手にテレアがいないという事実は、シルクス夫妻をおびき出すことをやめる理由にはならないと思うんだ。テレアが誘拐されているという事実だけあれば、シルクス夫妻を無力化できるんだから。多分昨日の槍の男がテレアを取り戻すことをあっさりと諦めたのも、そういう理由があったからだと思う」
「へぇ……」
「おびき出してしまえば、後は顔をわからないようにしたテレアに扮した偽物をテレアと言い張って二人を無力化して始末できるし、テレアの所在事態もすでに割れているわけだからあとでゆっくり探し出して始末しちゃえばいいだけの話だし」
「えっと、なんでそんな恐ろしいことをぽんぽんと思いつくんですかシューイチさんは?」
なんか引かれてる。
「俺が言いたいのは、俺でも簡単に思いつくような作戦しか向こうにはないってことなんだよ。だから付け入る隙なんていくらでもあるってこと」
そう言って弁明したものの、エナからの疑惑の目は変わることはなかった。
俺は悲しいよ。
何かある度にエナの部屋に集まってるな俺たちは。
「俺たちに全部話す」と言ったテレアは、この部屋についてから一言も喋らずベッドに腰かけて黙ったままうつむいている。
頭の中で言葉を整理しているのか、はたまた俺たちを自分の事情に巻き込んでしまうことを躊躇しているのかはわからない。
まあ急かすつもりはこれっぽちもないのでテレアが話し出すのをゆっくりと待っている次第だ。
「えっとね……テレアがこの町にいるのは、誘拐されたからなの……」
その言葉を皮切りにテレアがぽつぽつと事の経緯を語り出した。
数々の偉業を打ち立て、冒険者の間で知らない者はいないとまでされるテレアの両親……通称「シルクス夫妻」。
冒険者として活動してた二人だったが、後のテレアの母親である「リリア=シルクス」が「ヤクト=シルクス」との子供を身ごもったことを契機に冒険者を引退し、今俺たちのいるこの国「ライノス」の隣国「マグリド」に居を構え、そこで無事にテレアを出産し、三人はマグリドで暮らしていくこととなった。
もちろんそのことは国中に広まり王の耳にも入ることとなる。
冒険者として蓄えてきた豊富な知識や、数々の戦いを生き抜いてきた力量を見込まれ、王直々の頼みで二人はマグリド国のご意見番となった。
テレアの知る限りマグリド国は過去三回ほど魔物の侵攻を受けたのだが、その三回をシルクス夫妻の主導の元、犠牲者を出すこともなく見事に撃退している。
その他にも外交問題を穏便に済すべく王に助言をしたり、内乱が発生しそうになるとそれをいち早く察知し未然に防ぐなど、文字通り二人はマグリド国に多大な貢献をしていき、王だけでなく多くの民衆も信頼も得ていく。
そんな二人ではあったが国のご意見番であると同時に国の一国民であることに固持し、王からの爵位の授与も断り続け、領地も受け取ることもなくマグリドの城下町で親子三人平和に暮らしていた。
そうなってくると、それを面白くないと思うのが貴族連中である。
元々マグリドは貴族間の権力争いが激しいことで有名であり、王もそのことで手を焼いていたらしい。
シルクス夫妻ですら貴族問題に手を出すべきではないと、基本的には関わらないようにしていたとのこと。
だが貴族連中はというと、王や民衆から絶大な支持を得ているシルクス夫妻を抱き込むことができれば、他の貴族たちよりも優位に立てるとし、幾度となくシルクス夫妻に接触し自分たちのもとに引き入れようとあの手この手で勧誘するも、二人が首を縦に振ることはなかった。
そんなことを繰り返していくうちに貴族間の間でシルクス夫妻への不信感が募っていく。
その不信感は「あの二人がどこの勢力にも属さないのはやがて自分たちが貴族へと成り上がり、自分たちを潰すつもりなのだ」という根も葉もない噂へと形を変えていった。
とんでもない話だと思う、二人はただ一国民として最愛の娘と穏やかに暮らしていきたいだけなのにな。
そんな二人の願いとなど知らぬとばかりに、日に日に貴族たちの勧誘は激しさを増していき、やがてそれは脅迫染みたものへと変わっていくだけでなく、自分たちにとって邪魔な存在であるとして二人を排除しようとする貴族まで出てくる始末だった。
それでも二人は貴族たちに屈することはなく、なんとか貴族たちと波風を立てぬようにやり過ごしていた。
だがついにとある貴族が強硬手段に出た。
マグリドの数ある貴族の中でも強硬派と言われる「リドアード家」が二人の元を訪れ―――
「自分たちに属さないのであればいかなる手段をもってしてでも、お前たちを潰してやる」
もう原文まま。捻りも何もない剛速球のストレートもいいとこ。そうはっきりと言い放った。
ちなみになんでこれが原文ママなのかわかるのかというと、テレアもその場でそのセリフを聞いていたからに他ならない。
しかしいくら強硬派といわれるリドアード家といえども、昨日の今日でいきなり強硬手段など取ってこないだろうと思った二人であったが、相手はよほどのせっかちさんだったらしく……。
翌日テレアは外で友達と遊んでいたところ、見るからに怪しいローブを着た男たち三人にあっという間に取り囲まれ、抵抗する暇すら与えられず、友達の目の前で白昼堂々誘拐された。
……そいつらあのズッコケ三人組じゃあるまいな?
誘拐されてしまったテレアは身動きが取れないように縛られ口を塞がれたのち馬車に押し込められ、食べ物も与えれることもなく一日馬車に揺らされ続け、このライノス国へと強制連行されてしまった。
男たちの本拠地につき、馬車を下ろされたテレアは拘束を解かれた。おそらく相手は子供だから拘束を解いたところで何もできないと思っていたんだろうが、それは間違った判断だった。
言うまでもなくテレアは瞬時に身体強化を発動し、その場から強引に逃げることに成功した。
その後あの三人組と二日にわたる逃亡劇を繰り広げ、あの武器屋で俺たちと出会ったのだ。
以上の事が、時々言葉に詰まりつつ、要領も得ないたどたどしい口調で、テレアが一生懸命語ってくれた真実だった。
「どこへ行っても、貴族というものは自分たちのことしか考えてないんですねぇ……」
話を聞き終わったエナが、ため息とともにそう吐き捨てる。
なんだろう?貴族関連で何か嫌なことでもあったのかな?
それしても、テレアが英雄とまで呼ばれたシルクス夫妻の娘という話を聞いたときに今のテレアの状況について仮説を立てたんだが、細かいところに違いはあれど大体想像していた通りだった。
テレアを誘拐したことにより、リドアード家はシルクス夫妻への脅迫に使える最大の武器を手に入れたことになる。
シルクス夫妻はテレアの生死を盾にされることにより、おそらく自由に動くことができなくなってるはずだ。
これは思った以上に事態は深刻なのかもしれない。
「なんで武器屋で俺たちと会った時に助けを求めてくれなかったんだ?」
実は兼ねてより疑問に思っていたことをテレアに尋ねる。
「……テレアはその……知らない人とお話しするの怖くて……」
そんな理由かいっ!
と思わず突っ込みそうになったが、それが原因で見知らぬ土地で誰にも助けを求めることも出来ず、たった一人で逃げ回っていたテレアの心境を思うと、とてもじゃないけどそんなこと言えなかった。
しかもあいつらのことだ……たとえ誰かに助けてもらえたとしてもそんなことお構いなしにテレアを強引に連れ去っていってしまっただろう。
ギルドの承認試験の帰り道で俺たちに助けを求めに来た時には、きっともう心身ともに限界だったんだろうな。
「知らない人は怖いし、でも本当は助けてほしくて……でもきっとあの人たちはそんなこと関係なしに、テレアのこと捕まえようとしてくるかもしれなくて……でも誰かに助けてほしくて……」
テレアの声に段々と嗚咽が混じっていく。
「ごめんなさい……お兄ちゃんたちを巻き込んでごめんなさい……うぐぅ……ひっく」
「大丈夫ですよ?もう大丈夫ですからね?」
泣きじゃくるテレアをそう宥めながらエナが優しく抱き留める。
それから10分ほどテレアはエナの胸の中で泣き続けていたのだった。
「さて、問題はこれからどうするかだな」
ひとしきり泣きはらし、ようやく落ち着いたテレアとその隣に座るエナに向けて俺は言った。
「恐らくなんだけどまだテレアの両親には、テレアに逃げられたことが伝わってないと思う。その証拠がさっき戦ったあの槍の男だ」
あんな強い奴を使ってまでテレアを取り戻そうとしてることが何よりの証拠だ。
テレアに逃げられたなんてシルクス夫妻に知られてしまったら、自分たちの優位性なんてあっという間になくなってしまうからな。
「それとこの宿ももう引き払った方がいいだろうな。十中八九テレアがここにいることもばれてるだろうし、俺とエナの面も割れてると思う」
「まあそうでしょうね……」
これについてはエナもそう思っていたようで、俺の意見に同意を示してくる。
「ごめんなさい、テレアのせいで」
「良いんですよテレアちゃん、どうせ私たちは冒険者ですから!本来ならよほど長期の仕事でもない限り一か所に留まり続けるなんてないんですから」
謝るテレアの頭をエナが優しくなでる。
「それらを踏まえて俺たちはこれからどうするかを考えないといけないんだ。俺としてはテレアを、ひいてはテレアの両親を助けたいと思ってる」
俺の言葉を聞いたテレアが泣きはらし真っ赤になった眼を向けてくる。
「エナはなんで誘拐されたテレアが国外であるこのライノスまで連れてこられたと思う?」
「え?えっと……マグリド国内だとシルクス夫妻にテレアちゃんを見つけられてしまうかもしれないから……ですかね?」
「うん正解。じゃあ次にエナだったらテレアが自分の手元にいることを仮定して、どうやってシルクス夫妻を始末する?」
「なんですかその質問」
エナが微妙に嫌そうな顔をする。
「えっと……テレアちゃんを餌に二人をこちらに呼び寄せて、抵抗できないところを……とか?」
「半分正解かな。こちらに……ライノス国までおびき出してそこで始末してしまったら、多分国交問題に発展すると思う」
「それはいくらなんでも大げさでは……?」
「シルクス夫妻は王直々の勅命でご意見番にまでなった、マグリドの英雄だろ?その二人がライノス国で死体として見つかったら、俺だったら真っ先にこの国を疑うね」
確かに大げさかもしれないが、物事ってのは常に最悪のケースを想像して、そうならないように計画を進めていくものだ。
いくらリドアード家が強硬派といえど、そこまでの展開を望んでるわけではないだろう。
連中はただ自分たちの目の上のたんこぶであるシルクス夫妻を、秘密裏に始末したいだけだろうしね。
そうなってくるとマグリド国内で堂々とテレアを誘拐したのは完全に悪手だよなぁ……それとも連中にはそれを誤魔化しきれる算段でもあったんだろうか?
「おそらく国間にあるどこか人目の付きそうにないところにでも呼び出して、そこで始末するつもりじゃないかな?それこそ事故でも装ってさ」
「はぁ……」
「そして質が悪いことに連中の手にテレアがいないという事実は、シルクス夫妻をおびき出すことをやめる理由にはならないと思うんだ。テレアが誘拐されているという事実だけあれば、シルクス夫妻を無力化できるんだから。多分昨日の槍の男がテレアを取り戻すことをあっさりと諦めたのも、そういう理由があったからだと思う」
「へぇ……」
「おびき出してしまえば、後は顔をわからないようにしたテレアに扮した偽物をテレアと言い張って二人を無力化して始末できるし、テレアの所在事態もすでに割れているわけだからあとでゆっくり探し出して始末しちゃえばいいだけの話だし」
「えっと、なんでそんな恐ろしいことをぽんぽんと思いつくんですかシューイチさんは?」
なんか引かれてる。
「俺が言いたいのは、俺でも簡単に思いつくような作戦しか向こうにはないってことなんだよ。だから付け入る隙なんていくらでもあるってこと」
そう言って弁明したものの、エナからの疑惑の目は変わることはなかった。
俺は悲しいよ。
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