無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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戦闘~一点集中~

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「迎え撃つって、本気ですか!?逃げた方がよくないですか!?」

 謎の追跡者を迎え撃つ判断を下した俺に、エナが驚愕の表情で訴えてくる。

「ダメだよエナお姉ちゃん、逃げても絶対どこかで追いつかれちゃう」
「宿屋まで帰ってしまえば、向こうだって迂闊に手を出しては来ませんよ」
「昨日のズッコケ三人組の様子を見るに、どこにいようとお構いなしだと思うぞ?」

 それをしたとして一番考えられる最悪のケースは、宿屋でテレアが一人になった瞬間を狙われることだ。
 心配事をなくすためにも今ここで憂いのもとを断った方がいい。

「うぅ……わかりましたよ」

 観念したようにエナが力なくうなだれる。
 エナが迎え撃つことに否定的なのは相手の強さが云々じゃなく、俺に全裸になられるのが嫌なんだろうなぁ。

「大丈夫だ、今回は全裸にならずに済むようにするから」
「そんな簡単な相手とは思えないんですけどね……」
「全裸?」

 テレアが全裸の単語に反応して、疑問符を浮かべながら首をかしげる。

「なあテレア?今追ってきてる奴ってテレアが本気で戦ったとしても勝てない相手なのか?」
「多分だけど、今のテレアが本気で頑張っても無理だと思う……」
「なら俺とエナが協力したとしたらどうだ?」

 俺のその言葉に、テレアが目を伏せて考え始める。
 時間にして10秒ほど悩んだ末、テレアは顔をあげた。

「それでも相手のほうがほんのちょっと上だと思う」

 ほんのちょっとね……多分それは嘘だな。
 テレアの様子を見るに。おそらく俺たちと追跡者の間には相当な力の差があると思う。
 だが力の差があるからと言ってそれが直接勝敗に直結するかというとそうではない。
 相手は一人のようだし、一対三という状況を最大限に活用させてもらおう。

「よし、なら迎え撃とう」
「私たちが三人がかりでも相手のほうが強いのにですか?」
「別に無謀な戦いをしようってわけじゃないよ、おそらくだけどなんとかなるはずだし」
「なんの根拠があって……」

 エナの表情が不安で彩られる。
 
「ちゃんと勝算があってのことだって!」
「本当ですか?」
「今から作戦を説明するから歩きながら聞いてくれ……」

 二人に作戦を説明しながら、人通りの少ない道を選んで行く。
 人通りが少なくなってくるにつれて、追跡者の気配が段々と濃厚になり俺にもはっきりと感じ取れるようになってくる。
 もう隠す必要はないってことなんだろうな……だがそれはこちらも同じだ。
 最終的には俺が全裸になってしまえばそれで勝てるが、今回はその方法は取らない。
 この先こんな状況は幾度となくある気がするし、無敵パワーがあるから最終的にはそれ頼っちゃえばいいや!なんて環境に甘んじてはいけない気するのだ。

 ほどなくして俺たちは行き止まりへとたどり着く。
 後ろに気配を感じ俺たちは振り返ると、そこには槍を背負った男が立っていた。

「ずっと後を付いてきやがって……ストーカーかよ」
「すまんが戯言に付き合うつもりはない。簡潔に用件だけを言う……その少女をこちらに渡せ」

 なんとなくわかってたことだけど、昨日の三人組みたいに俺の軽口に反応して頭に血を登らせるタイプじゃないみたいだ。
 仮にそうだったらものすごく楽だったんだけどなぁ。

「渡すわけないだろ何言ってんだ」
「それなら仕方がない、こちらも仕事なんでな」

 そう言って男が槍を構え、一瞬で戦闘態勢に移行する。
 それに反応し、テレアが俺たちの前に出た。

「依頼対象は無傷で連れて来いと言われてるんだがな」
「……」

 テレアも拳を構えて一触即発の状態になる。
 あたりが静寂に包まれ、この時がずっと続く気がしたのも束の間、先に動いたのは槍の男だった。

「ふっ!」
 
 槍による突きを身体をそらすことで回避したテレアは、サイドステップで相手の死角へと入りこむ。
 だがそれを読んでいたとばかりに男は槍を薙ぎ払うが、テレアは低い身長を生かししゃがむことで回避し、バックステップで距離を取った。

「ふむ……子供だと思っていたがやはりあの二人の娘ということか」

 槍を構えなおし、感心したように男が呟く。
 今の一瞬の攻防だけでテレアの技量を見抜いたんだろう。

「見てるだけで息が詰まるんですけど……」
「気持ちはわかるけど絶対に目を離すなよエナ?」

 呟いたエナに俺が注意を促す。
 男がそんな俺たちに一瞥をくれたが、すぐにテレアに向き直る。
 俺たちのことも警戒はしてるようだがテレアに比べると優先度は低いみたいだ。
 それならそれでこちらにとっても好都合だけどな。

 男が再び動き、手にした槍で無数の連続突きを繰り出す。
 対するテレアは、それを身を捻りかわし、時には受け流しつつさばいていく。
 均衡を保っているように見える攻防だが、次第に技量の差が浮き彫りになってきた。

「……っ!」
 
 放たれた槍がテレアの髪を掠ったのだ。
 だがテレアはそれに焦った様子もなく、相手の突きを冷静にさばいていくものの、少しずつ劣勢へと追い込まれていく。
 
「どうして攻撃してこない?かわしてるだけではじり貧だぞ?」

 言いつつもテレアへの攻撃の手を緩めないあたり、余裕があるのが伺える。
 それでもテレアは自分から相手に攻撃をしにいかず、攻撃をさばくことに専念している。
 そりゃそうだ、だって攻撃せず防御に専念するように言ってあるからな。
 どうやらテレアは、俺の言った作戦をちゃんと実行に移してくれているようだ。
 とはいえ、防御に専念してるはずなのに徐々に追い込まれているのを見ると、こちらも早々に次の手を打たなくてはならない。
 
「あっ!」

 突きをかわしたテレアが足を滑らしバランスを崩した。
 もちろん相手はその隙を見逃さず、バランスを崩したテレアへ突きを放つ。
 だがそれを見逃さなかったのはこちらも同じことだ!

「エナ!」
「はい!プロテクション!!」

 エナが魔法を使った刹那、テレアの眼前に光る防御壁が出現し槍の一撃を弾いた。

「なっ?」

 確実に決まると思った攻撃を防がれた男が動揺したように声を上げた。
 その瞬間、俺は弾かれるように二人に向かって駆けだす。
 動揺しているにも関わらずそれを瞬時に察知し、あまりにも無防備に飛び出した俺に対して男が槍を構える。

「エナ!テレア!」

 二人に合図を送り、俺は瞬時に体内の魔力を活性化させて、昨日の夜にエナに教えてもらった簡単だが……でも確実に効果が出る魔法を放つ。

「フラッシュ!!」

 俺から強烈な閃光が迸り、相手の視界を奪った。

「ぬっ!?」

 その隙に腰に下げられた剣を鞘から引き抜き、振りかぶり切りかかるが―――

「甘い!」

 視界を奪われているにも関わらず相手は振り降ろされた剣を、頭上で槍を両手で水平構えることで防ぐ。
 そのままの状態で俺たちは膠着状態になった。

「上手く隙をついたつもりかもしれんが甘かったな?太刀筋があまりにも未熟すぎる」
「そう?俺としてはこの状況って狙い通りなんだよね?」
「なに……?」

 俺が軽口を叩いた瞬間、頭上から「何か」が凄い勢いで降ってきて俺の剣にぶつかり力を加えた。

 バキンッ!!

 その衝撃に耐え切れず俺の剣は砕け……そして相手の槍がへし折れた。

「ばっ……バカな」

 その振ってきた「何か」はテレアだった。
 見るとテレアの両足が光に包まれている。
 おそらく部分的に強化を施すエナの補助魔法「パワーエンチャント」だろう。
 それにテレアの身体強化魔法を両足に集中させ飛び上がり、落下の勢いを加えたドロップキックで俺の剣ごと相手の槍をへし折ったのだ。

 俺たちの作戦は「相手の武器を破壊する」その一点に集中することだった。
 少し前に相手の尾行に気が付いていたテレアは、相手の獲物が槍であることを確認していた。
 技量で劣ることがわかっていたので、普通に相手に勝つことを諦めて戦力を奪うことを重点を置いたのだ。
 危険を承知でテレアには前線に立ってもらい防御に徹することで相手を観察し、こちらでなんとか隙を作り一気に武器破壊へと繋げることができた。
 昨日のうちにあらかじめエナが使える魔法を詳しく聞き、かつ今の俺にもできる簡単な魔法を教わっておいて良かった……それがなかったらこの作戦は立てられなかった。

「ふむ……油断したわけではなかったんだがな」

 男が立ち上がり俺とテレアを交互に見る。

「残念だが槍がなければ俺は戦えん、依頼は失敗だな」

 フッと笑い男は踵を返し、俺たちの前からあっさりと立ち去ったのだった。
 これはなんとなくなんだが、おそらく俺たちは見逃されたのだと思う。

「……ぶっはああぁ!」

 大きく息を吐きだした俺は、思わず地面にへたり込む。
 死ぬかと思った!まったく生きた心地がしなかった!!こんなこと繰り返してたらいつか絶対死ぬって!!!
 今になってやっぱり全裸になって問答無用でぶっ飛ばしておけばよかったと思ってしまった。

「お兄ちゃん大丈夫?」

 テレアがしゃがみ込み、地面にへたり込んだ俺を心配そうな瞳で見つめる。

「俺なら大丈夫だよ。テレアこそ怪我してないか?」
「テレアも大丈夫……エナお姉ちゃんが守ってくれたから」
「いや~うまくいって良かったですね!」

 ほんとそうだよ……大まかな作戦は立てたものの、最終的には各々の判断に任せる形だったから、不安はもちろんあった。
 あそこで俺の魔法が発動しなかったら……エナの防御魔法が間に合わなかったら……何か一つでも欠けていたら俺たちは確実に負けていて、きっとテレアはあの男に連れ去られていただろう。
 それほどまでに俺たちとあの男の間には力の差が存在していたのだ。

「まあとにかく……ありがとうテレア、よく頑張ったな」

 言いながら俺は、この戦いの一番の功労者であるテレアの頭を優しくなでた。
 


 戦いが終わり気分を落ち着けた俺たちは宿へ戻るべく歩を進める。
 その間、うつむき終始無言だったテレアが意を決したように顔を上げ―――

「二人にちゃんと話すね……テレアのこと」

 と言ったのだ。
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