無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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拳士~英雄の娘~

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 テレアも目を覚ましたので俺たちは朝食をとるために、昨日と同じ食堂に来ていた。

「はあぁぁぁ……お姉ちゃん……いい響きですね……お姉ちゃん」
「いつまでトリップしてるんだよ……」

 お兄ちゃんだなんて団地に住んでた頃散々呼ばれてたから慣れたもんだったとはいえ、テレアほど可愛い子にお兄ちゃん呼びされたことがなかったこともあり、さすがの俺でもちょっとクラっと来た。
 俺でさえ結構クルものがあったんだ……兄妹のいないらしいエナのダメージはそれはもう計り知れないだろう。

「テレア、悪いことしちゃったのかな……?」
「気にしなくていいからな?これからもどんどんお姉ちゃんと呼んであげるといい」
「うん……」

 小さな口で卵サンドを一生懸命ハムハムしてる姿はさながら小動物のようで、見ていて非常に癒される。
 よく考えたらこっちの世界に来てから妙に殺伐した状況に置かれることが多かったからなぁ……テレアの存在は俺にとって一つの清涼剤だな。
 ……とまあ和んでばかりもいられないので、聞くべきことを今のうちに聞いておかないと。

「さて……俺とエナは今日ギルドの仕事をしに行く予定なんだけど、テレアはどうする?」
「え?」

 牛乳に伸ばした手を止めて、テレアが俺とエナに交互に視線を送る。

「宿屋のエナの部屋で留守番するか?」

 実際のところ、テレアの状況はあまりよくないと言えるかもしれない。
 テレアが何で追われてるのか知らないが、このまま宿屋に一人残るのも俺たちに付いてくるにしても、どちらを選んでも危険が付きまとう。
 恐らくテレアを追っている連中は昨日の一件でテレアがこの町にいることを知っているだろうから、仮に宿屋で一人留守番したとしても人海戦術で宿屋をしらみつぶしに探されたらアウトだ。
 それなら俺たちと一緒にいれば相手も手を出しづらいかも……と思ったが、昨日のあのズッコケ三人組の様子を見るに俺たちがいても関係なしだったことから、テレア的にはどちらを選んでも危険度は変わらないだろう。
 それならテレアに選んでもらった方がいいと、俺とエナは互いに話し合って判断した。
 もし仮にテレアがどちらも選ばず一人出ていく選択をするなら、それなら仕方ないが……。

「テレアは……一人はいや……」
「じゃあ俺たちと一緒に行動するか?」
「うん、テレアはお兄ちゃんたちと一緒がいい」

 その答えに俺は安堵した。
 どちらを選んでも……なんて言ったが、俺たちの目の届く範囲にいてくれたほうがやはり安心できる。
 それに昨日みたいに追手が襲ってきたら、死ぬほど嫌だが最悪全裸になればなんとかなるはずだしな。

「今日は魔物の討伐依頼をするつもりなんだけど、テレアが危ない目に遭わないように気を付けるからさ」
「……魔物の討伐をするの?」
「ああ。俺の実践訓練も兼ねてな」
「じゃあ……テレアもお兄ちゃんたちを手伝うよ」

 いや手伝うってあなた……。

「いやいや!大丈夫だって!テレアに危ないことさせるわけには―――」
「えっとね……テレアも一応戦える……よ?」





「うわー……まじかー」
 ギルドの討伐依頼を受注して平原にやってきた俺たちの目の前で、信じられない光景が広がっていた。
 複数のスプリントボアとかいう小型の猪のようなモンスターの突進攻撃を巧みにさばきながら、テレアが的確にスプリントボアを打ち取っていく。しかも拳で。
 まあ拳と言っても、武器屋で急遽購入した格闘用のグローブをつけているわけだが。

「凄いですねテレアちゃん……」
「人は見かけによらないって本当なんだな……」

 テレアの背中を狙って、一匹のスプリントボアが突進を仕掛けるものの、後ろに目でも付いてるかの如くひらりとかわす。
 しかも突進をかわされて急ブレーキをかけたスプリントボアに即座に追いつき、拳を打ち込む芸当まで見せてくれた。
 なんなん?ほんとなんなん?

「ふう……終わったよ?」

 ざっと見たところスプリントボアは10匹はいたはずなんだが、五分後にはテレア一人に全滅させられていた。実に一分で二匹のペースだ。怖いほんと怖い。

「あの……そんなに強いならどうして昨日私たちに助けを求めてきたんですか?」

 エナが至極当然の疑問をテレアに投げかける。

「えっとね……テレア、二日くらいずっと逃げ回ってたから、もう戦えるだけの魔力が残ってなくて……」
「魔力?……もしかしてテレアちゃん身体強化の魔法使ってるんですか?」
「うん……」

 え?何その身体強化って?凄い興味のある単語飛び出してきたんだけど?

「でも身体強化魔法を使ってるとはいえその身のこなしは……んん?」
「どうしたんだエナ?」

 当然エナが唸りながら首を捻り始めた。
 なんかぶつぶつと独り言を言い始めたので、とりあえず放置しておこう。

「しかし俺の出る幕が全くなかったな」
「あっ……そういえばお兄ちゃん実践訓練を兼ねてって言ってたのに、テレア一人で……ごめんなさい!」

 むしろ俺のほうがなにもしてないので、テレアにごめんなさいしないといけないんだが。

「まあとにかく、依頼内容のスプリントボアの五匹討伐は完了したんだし問題なしだ」

 五匹余分に倒しちゃってるが、追加報酬とかあるのかな?

「それにしてテレアがこんなに強いだなんて意外だったな」
「そっそんなこと……テレアはただお父さんのやってることを見よう見まねでやってるだけだから……」

 見よう見まねでそんなに強いなんて、この子天才なんじゃないの?
 それともう一つ意外だったのが、テレアはすでにギルト登録されていた。
 受付のリンカ嬢がテレアのギルドカードを見て「ああ、あの……」って言ってたのが妙に印象深い。
 あのってなんだよあのって。
 ……とここで天啓が閃く。

「なあテレア、頼みがあるんだけどさ?俺に戦い方を教えてくれないか?」
「テレアがお兄ちゃん……に?」
「そう!お兄ちゃんに!」

 テレアの戦い方を少しでも吸収出来れば、俺もなんとか一人で戦えるようになるはずだ。
 そしてついでに身体強化とやらも教えてもらえれば、鬼に金棒だ。

「いいけど……テレアで大丈夫かな?」
「勿論大丈夫だ!」
「思い出した―――!!!」

 突然エナが顔を上げて叫んだ。
 いきなり叫ばないでほしいし、一体なにを思い出したっていうんだろうか?

「もしかしてテレアちゃんのご両親ってシルクス夫妻ですか!?」
「うっ……うん」

 シルクス夫妻?エナの驚き具合を見るに有名な人なんだろうか?

「あーそれならテレアちゃんの強さも納得です……そうかぁ……あのシルクス夫妻の」
「有名な人なのか?」

 あいにく俺はこの世界について何も知らないからなぁ。
 俺だってそのシルクス夫妻という人たちの凄さを知って、エナと一緒に驚きたい。

「えっと……シルクス夫妻っていうのは、ヤクト=シルクスとリリア=シルクスという二人の冒険者のことなんですけど、冒険者ギルドに登録しててこの二人を知らない人はいないってくらい、数々の偉業を成し遂げた二人なんですよ!隣の国では英雄って呼ばれてますね」
「ほうほう?」
「でも子供が生まれたことを切っ掛けにして冒険者を引退してこの国の隣の「マグリド国」に腰を据えたという話だったんですが」
「その二人の子供がテレアってことなのか?」
「うん……」

 それならエナが驚くのも無理はないな。
 しかし英雄とまで呼ばれたテレアの両親が隣の国に腰を据えているのか……それならなぜテレアは一人でこの町にいたんだ?しかも何者かに追われて……。
 新たな疑問が増えたが、そのおかげで俺は今テレアが置かれている状況に一つの仮説を立てることができた。
 まあ穴だらけな上に仮説はしょせん仮説だ、真実をテレアから聞かないことには何の意味もない。

「どうしたんですかシューイチさん?急に黙っちゃって?」
「ん?ああごめんごめん!ちょっと驚いてただけだよ」

 テレアが不安そうな顔で俺を見ている。
 俺が何かに気が付いたのを、もしかしたらこの子は見抜いているのかもしれない。
 きっと俺たちが思っている以上にテレアは聡い子なんだろうな。

「テレアがそんな凄い人たちの子供なら、尚更テレアに戦い方を教えてもらわないとな!」
「うっうん!テレアで良ければお兄ちゃんに戦い方を一生懸命教えてあげるよ……!」

 ギルドの依頼達成期限まではまだまだ時間があるので、俺はテレアから戦闘訓練と身体強化について教わるのだった。




「追加の報酬もらえましたね!」
「なんか思ってた以上にお金稼げちゃったな」

 本来ならスプリントボア五匹討伐で2000SRの報酬だったのが、テレアが五匹余分に倒してくれたので追加で500SR増額されて、合計2500SRももらえてしまった。

「実はここだけの話、お金結構ピンチだったんですよね……でもこれで少し潤いましたよ」
「あー……なんかごめんな?」
「ごっごめんなさい……!」

 俺とテレアに謝られて、エナがしまったという顔になる。

「あっ違うんですよ!?二人のせいって言ってるわけじゃないんですよ!?私も最近装備を新調したりちょっと金使いが荒いところがあったわけでして……とにかく二人のせいじゃありません!」

 エナが面白いようにあたふたしだす。
 見てて非常に面白いが助け舟を出す意味を込めて話をそらしてあげよう。

「さて……それじゃあ報酬の分配しようぜ?今回はテレアが活躍してくれたから、そっちの取り分を多めにしてあげないとな!」
「え?でもテレアは……」
「いいんですよ!テレアちゃんのおかげで報酬額も増えたんですから、その増えた分はテレアちゃんがもらってください」

 和気藹々としていると、不意にテレアの表情が強張る。
 なんだろう?もっと報酬の取り分を多めにしてあげた方がいいのかな?
 そう思って脳内で再びテレアの取り分の計算をしようとしたところ、テレアが俺の袖を掴んできた。
 なにやら雰囲気が尋常じゃないな……これは報酬とはまた別の問題でもあるのだろうか?

「お兄ちゃん……テレアたちの後を誰かが付いてきてる……」
「え?」

 そう言って後ろを見ようとした瞬間―――

「見ちゃダメ!」

 はじかれたようにテレアが声を上げる。
 テレアのこの様子からするに、相当ヤバい奴が後をつけてきてるのか?
 俺たちの間を不穏な空気が取り巻いていく。

「ごっ……ごめんなさい……今のでテレアたちが気が付いてるのを、相手にも気付かれちゃったかも……」
「ほっ……本当ですか?」

 エナの顔に緊張が走る。
 これはもう戦いを避けられないのかもしれないな。
 しかし、ギルドの依頼を終えて疲れて気が緩んでるところを狙い撃ちしてくるなんて、性格の悪い奴だな。

「逃げることは?」

 テレアが小さく首を横に振る。
 そうか……逃げるのは無理なのか……ならばもう選択肢は一つしかない。


「人通りの少ないところへ行こう……そこで迎え撃つ」
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