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訪問~昼下がりの奥様と~
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エルサイムへの遠征を2日後に控えたある日のこと。
「ごめんくださーい」
シルクス邸を前に俺は大声で呼びかける。
こういうとき携帯があれば直接本人に連絡取れるんだけど、生憎この世界にはそんなものはないのだ。
でもあの三人組はリドアードと何かしらの手段で連絡を取っていたみたいだし、もしかしたらそれに似た何かはあるのかもしれない。
気軽に買えて使えるものでもないかもしれないが、いつか探してみるのもいいかもな。
「ごめんなさい、出るのが遅れてしまって……あら?シューイチさん」
そんなことを考えていると、テレアのお母さんのリリアさんが俺を出迎えてくれた。
今日も相変わらずの美人さんである。
「こんにちは、テレアいますか?」
「あの子今おつかいに行ってて……でももうすぐ帰ってくると思いますから家の中でお待ちになってくさださいな」
テレアがいないなら帰ろうと思っていたがすぐ帰ってくるとのことなので、折角だから家の中で待たせてもらうこととなった。
家の中に通されて周囲を見回すが、どうやらヤクトさんはいないみたいだ。
「お茶いりますか?」
「ああいえ、お構いなく」
テレアが帰ってきたら出かける予定だし、そんなに長居しないからな。
テーブルに着くと向かい側にリリアさんも着いて、なにやらニコニコしながら俺の顔を見てくる。
なんだろう、ご飯粒でも付いてるのかな?
「えっと……何か?」
「いえいえ~気にしないで?」
そう言われてもめっちゃ見てくるんで気にするなというのは無理があるんですが。
「シューイチさん、一つ伺ってもいいかしら?」
「一つと言わずいくつでも」
「年下は女の子は好きかしら?」
年下?っていうかなんでいきなりこんな話が出てくるんだ?
「リリアさんもしかして俺より年下なんですか?」
「あら?もしそうなら素敵ね!うふふ」
俺の冗談をうふふ笑いで軽やかにスルーするあたり、この人は相当のやり手であると俺の勘が告げている。さすがヤクトさんの奥さんだ。
「主人とお話してるときにも思ってたんだけど、シューイチさんは面白い人ね」
「恐縮でございます」
「それで?テレアのことどう思ってくれてるのかしら?」
なんとなくそういう話題なんだろうなと思ったから冗談で回避したのに、軌道修正された挙句ド直球のストレートをぶち込まれた。
「どうと言われましても……まあ、可愛いしちょっと臆病なところもあるけど根っこの部分は強いし、素直に懐いてくれてる妹みたいな感じですかね?」
「あら?あの子のことよく見ててくれてるのね?わが娘のことながら嬉しいわ」
リリアさんが本当に嬉しそうに笑う。
そりゃ付き合いはまだまだ短いけど、出会ってからここ数日で色々ありましたからね。
「あの子ね、最近は口を開けばシューイチさんのことばかりなのよ?正直少し嫉妬しちゃうわね」
「どうせ碌な話じゃないでしょう?」
「あれを碌な話じゃないとしたら、私の知ってる誉め言葉は取るに足らない戯言になってしまうわ」
あーなんかもうそれだけで大体の内容を察してしまった。
前にも言ったことだけど、リドアードの件に関しては割と自分の感情を優先させて動いたところがあるから、そのことが原因でテレアが懐いてくれたことに少しばかり複雑な思いを抱いてしまう。
「シューイチさん、例え切っ掛けが自分勝手な行動でもそれが結果的に誰か心に響くことはあるわ?あなたは人に誇れることをしたんだもの、胸を張ってもいいと思うの」
俺の心情を見抜いたのか、リリアさんがそんなことを言ってくれた。
「でもあれね?あの子的にはあなたのそういう部分がいいのかもしれないわね」
「勘弁してくださいよ……」
一昨日のエナの一件でもそうだったが、なんか俺がやり込められる展開が多いんで辟易してしまう。
ちょっと気分を落ち着かせる意味を込めて話題を変えよう。
「折角だからテレアのことについて聞きたいことがあるんですが」
「あら?シューイチさんからテレアを攻略してくれるのかしら?」
もうその話題はいいっちゅーねん。
「えっと、テレアってあの年齢にしては随分と強いですよね?なんかもうギルドにも登録されていたし」
「あの子天才なのよ」
すべての疑問をそれ一つで片づけられる単語が出てきた。
「主人の戦闘センスと、私の魔法の才能の良いところを全部引き継いでるのよね……しかも主人が毎朝運動がてらにしてる武術の型を見ただけで覚えちゃったみたいだし」
「そういや本人も見様見真似って言ってましたよ」
「私たちが下につけて直接指導したわけじゃないんだけど、いつの間にか魔力の活性化と身体強化を自力で習得してたみたいだし」
ちゃんと指導されてないというのにあの強さなのか……なんともはや末恐ろしい。
「でもほかの魔法はからっきしなのよ?あの子イメージするのが苦手みたいで身体強化とかそういう類の魔法しか使えないのよ」
「誰かの指導をちゃんと受けたら凄いことになりそうですね」
「ポテンシャルだけならすでに主人と私を上回ってるのよあの子は……シューイチさんたちとの旅で良い師匠にでも巡り合えればいいのだけど」
そう言ってリリアさんが軽くため息を吐く。
テレアが強くなって戦いに身を置くこと自体は全く否定しないあたりが、元冒険者だなと思ってしまう。
「あとあの子がギルド登録されてるのは、主人がいつかあの子が旅に出ることを見越した上でのことよ?」
そしてそれは見事に現実になってしまったわけだ。
「疑問なんですけどギルドって何歳から登録できるものなんですか?」
「その辺の規定は特に設けられてなかったわね……冒険者って一杯いると思われがちだけど実はあれで結構不足気味なのよ?だから割と来るもの拒まずなところがあるわね」
だから年齢制限を特に設けていない……ということなのか。
「ちなみにテレアが登録したのは今からちょうど一か月前くらいだったかしらね?承認試験もあっさり突破しちゃったわね」
まああの試験あってないようなものだからなぁ。
「冒険者と言えば、あの子……エナさんも変わってると言えば変わってるわね」
「エナですか?」
まさかエナの話題が出るとは思ってなかったので、ちょっと面食らってしまった。
確かにちょっと謎が多い子だなとは俺も思ってはいるが。
「あの子の使う魔法ってちょっと普通で考えられないくらい強力なのよ。例えばこの前私たちがリドアードの油断を誘うためにわざと弱体化の魔法にかかったじゃない?」
事前にそういう罠があることを念話でシエルを通して伝えたはずなのに、あっさり罠にかかってるからおかしいとは思ってたけど、油断を誘うためにわざと罠にかかったのか……。
そういやエナが「計画を変更した」って言ってたもんなぁ。
「あの弱体化の魔法って実はそう簡単に無効化できる代物じゃないはずなのに、それをエナさんはあっさりと無効化させたわ」
「あの弱体化の魔法ってそんなに強力だったんですか?」
「だって魔法使い10人集めてやっと起動できる魔法よ?弱いはずがないじゃない?」
そうだったのか……。
もしかして槍の男の攻撃を防いだ「プロテクション」の魔法も普通じゃ考えられない強度だったのかもしれないな。
魔法についても結構精通してたし、謎の裏技で俺にも魔法を使えるようにしてくれたし、エナの謎が深まるばかりだ。
「これはもしかしたらなんだけど……ううん、言うのはやめておくわ」
「え?気になるんですけど?」
「もしかしたらエナさんは自分から言うつもりじゃないかもしれないのにそれを私が言っちゃうのは……ね?それに旅をしていればいつかわかる日が来ると思うのよ」
俗に言う「男なら察してやれ」って奴か?
男にばかりそういう無理難題を押し付けるのやめてもらいたいなぁ。
女心とか俺には未知の領域すぎてとてもとても……。
「ああそうそう!シューイチさんに聞きたいことがあるのよ!」
「なんなりと」
「エナさんとはどういった関係なのかしら?」
「……」
2秒前に戻って軽率な自分を殴り飛ばしたい。
なんでこの人隙あらばそういう話題に持っていくのかなぁ!?
「ただの旅の仲間ですよ」
「本当に?もしかしてテレアと二股かけてるんじゃないわよね?」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!」
二股をかけるどころかそもそも付き合ってもないし!
テレアに至ってはまだ……あれ?テレアって何歳だっけ?
「シューイチさんモテそうだものね……これは私の勘なんだけど、多分これから沢山の女の子に好かれると思うのよねシューイチさんは」
モテそうとか初めて言われたぞ。
生まれてこの方女子から告白されたことも付き合ったことないというのに。
たしかにこの世界に来てエナと出会ってちょっと幸先いいかもな……なんて思っちゃったりはしてるけども。
「テレアもこの先大変だわ……でもあの子以外と押しが強い一面があるから何とかなっちゃうかもしれないけど」
「えっと……もうこの話題から離れてくれませんかね?」
そんな話をしていると玄関のドアを開いて、テレアがようやく帰宅してきた。
「ただいまお母さん!……あれ?お兄ちゃんがいる」
「ようテレア!待ってたぞ!」
話題を変える絶好のチャンスとばかりにテレアへと向き直る俺。
ヘタレと言われてもいい。とにかくこの話題から逃げたかった。
「いらっしゃいお兄ちゃん!テレアになにか用事かな?」
「この前テレアにがんばってもらったからさ!アイスをご馳走してあげようと思ってな!」
「「アイス?」」
テレアとリリアさんがそれぞれ別々のニュアンスで呟いた。
「本当に!?お兄ちゃんテレアにアイスをご馳走してくれるの!?」
「おっおう……?」
なんだかテレアのテンションが爆上がりしたので、思わず引いてしまった。
なんだ?テレアってそんなにアイス好きなのかな?
「シューイチさんちょっと」
「なんですか?」
近づいてきたリリアさんが俺に紙幣を握らせてくる。
なんでだ?アイスを奢ってあげるくらいのお金なら持ってるぞ?
「きっと必要になると思うわ」
「え?いやあの……?」
わけがわからず茫然としていると、突然テレアに手を掴まれ引っ張られる。
「早く行こうお兄ちゃん!アイス溶けちゃうよ!」
まだ買ってもいないアイスの何が溶けるというのだろうか?
そんなことを思いつつもテレアにぐんぐんと手を引っ張られる。やめてやめて引っこ抜けちゃうから!
助けを求めるようにリリアさんを見ると、なんだか戦場へ向かう兵士を見送るような目で俺を見ていた。
この後すぐに俺は思い知ることになる。
まるで異次元の中に吸い込んでいくかの如く、アイスを胃袋へと収めていくテレアのアイスに対する凄まじいまでの執念を。
リリアさんの渡してくれた紙幣は勿論テレアのアイス代になりその役目を終えていった。
俺はリリアさんのあの目の意味を知ると同時に学んだことが一つある。
これからは不用意にテレアの前でアイスの話はしてはいけないということを。
「ごめんくださーい」
シルクス邸を前に俺は大声で呼びかける。
こういうとき携帯があれば直接本人に連絡取れるんだけど、生憎この世界にはそんなものはないのだ。
でもあの三人組はリドアードと何かしらの手段で連絡を取っていたみたいだし、もしかしたらそれに似た何かはあるのかもしれない。
気軽に買えて使えるものでもないかもしれないが、いつか探してみるのもいいかもな。
「ごめんなさい、出るのが遅れてしまって……あら?シューイチさん」
そんなことを考えていると、テレアのお母さんのリリアさんが俺を出迎えてくれた。
今日も相変わらずの美人さんである。
「こんにちは、テレアいますか?」
「あの子今おつかいに行ってて……でももうすぐ帰ってくると思いますから家の中でお待ちになってくさださいな」
テレアがいないなら帰ろうと思っていたがすぐ帰ってくるとのことなので、折角だから家の中で待たせてもらうこととなった。
家の中に通されて周囲を見回すが、どうやらヤクトさんはいないみたいだ。
「お茶いりますか?」
「ああいえ、お構いなく」
テレアが帰ってきたら出かける予定だし、そんなに長居しないからな。
テーブルに着くと向かい側にリリアさんも着いて、なにやらニコニコしながら俺の顔を見てくる。
なんだろう、ご飯粒でも付いてるのかな?
「えっと……何か?」
「いえいえ~気にしないで?」
そう言われてもめっちゃ見てくるんで気にするなというのは無理があるんですが。
「シューイチさん、一つ伺ってもいいかしら?」
「一つと言わずいくつでも」
「年下は女の子は好きかしら?」
年下?っていうかなんでいきなりこんな話が出てくるんだ?
「リリアさんもしかして俺より年下なんですか?」
「あら?もしそうなら素敵ね!うふふ」
俺の冗談をうふふ笑いで軽やかにスルーするあたり、この人は相当のやり手であると俺の勘が告げている。さすがヤクトさんの奥さんだ。
「主人とお話してるときにも思ってたんだけど、シューイチさんは面白い人ね」
「恐縮でございます」
「それで?テレアのことどう思ってくれてるのかしら?」
なんとなくそういう話題なんだろうなと思ったから冗談で回避したのに、軌道修正された挙句ド直球のストレートをぶち込まれた。
「どうと言われましても……まあ、可愛いしちょっと臆病なところもあるけど根っこの部分は強いし、素直に懐いてくれてる妹みたいな感じですかね?」
「あら?あの子のことよく見ててくれてるのね?わが娘のことながら嬉しいわ」
リリアさんが本当に嬉しそうに笑う。
そりゃ付き合いはまだまだ短いけど、出会ってからここ数日で色々ありましたからね。
「あの子ね、最近は口を開けばシューイチさんのことばかりなのよ?正直少し嫉妬しちゃうわね」
「どうせ碌な話じゃないでしょう?」
「あれを碌な話じゃないとしたら、私の知ってる誉め言葉は取るに足らない戯言になってしまうわ」
あーなんかもうそれだけで大体の内容を察してしまった。
前にも言ったことだけど、リドアードの件に関しては割と自分の感情を優先させて動いたところがあるから、そのことが原因でテレアが懐いてくれたことに少しばかり複雑な思いを抱いてしまう。
「シューイチさん、例え切っ掛けが自分勝手な行動でもそれが結果的に誰か心に響くことはあるわ?あなたは人に誇れることをしたんだもの、胸を張ってもいいと思うの」
俺の心情を見抜いたのか、リリアさんがそんなことを言ってくれた。
「でもあれね?あの子的にはあなたのそういう部分がいいのかもしれないわね」
「勘弁してくださいよ……」
一昨日のエナの一件でもそうだったが、なんか俺がやり込められる展開が多いんで辟易してしまう。
ちょっと気分を落ち着かせる意味を込めて話題を変えよう。
「折角だからテレアのことについて聞きたいことがあるんですが」
「あら?シューイチさんからテレアを攻略してくれるのかしら?」
もうその話題はいいっちゅーねん。
「えっと、テレアってあの年齢にしては随分と強いですよね?なんかもうギルドにも登録されていたし」
「あの子天才なのよ」
すべての疑問をそれ一つで片づけられる単語が出てきた。
「主人の戦闘センスと、私の魔法の才能の良いところを全部引き継いでるのよね……しかも主人が毎朝運動がてらにしてる武術の型を見ただけで覚えちゃったみたいだし」
「そういや本人も見様見真似って言ってましたよ」
「私たちが下につけて直接指導したわけじゃないんだけど、いつの間にか魔力の活性化と身体強化を自力で習得してたみたいだし」
ちゃんと指導されてないというのにあの強さなのか……なんともはや末恐ろしい。
「でもほかの魔法はからっきしなのよ?あの子イメージするのが苦手みたいで身体強化とかそういう類の魔法しか使えないのよ」
「誰かの指導をちゃんと受けたら凄いことになりそうですね」
「ポテンシャルだけならすでに主人と私を上回ってるのよあの子は……シューイチさんたちとの旅で良い師匠にでも巡り合えればいいのだけど」
そう言ってリリアさんが軽くため息を吐く。
テレアが強くなって戦いに身を置くこと自体は全く否定しないあたりが、元冒険者だなと思ってしまう。
「あとあの子がギルド登録されてるのは、主人がいつかあの子が旅に出ることを見越した上でのことよ?」
そしてそれは見事に現実になってしまったわけだ。
「疑問なんですけどギルドって何歳から登録できるものなんですか?」
「その辺の規定は特に設けられてなかったわね……冒険者って一杯いると思われがちだけど実はあれで結構不足気味なのよ?だから割と来るもの拒まずなところがあるわね」
だから年齢制限を特に設けていない……ということなのか。
「ちなみにテレアが登録したのは今からちょうど一か月前くらいだったかしらね?承認試験もあっさり突破しちゃったわね」
まああの試験あってないようなものだからなぁ。
「冒険者と言えば、あの子……エナさんも変わってると言えば変わってるわね」
「エナですか?」
まさかエナの話題が出るとは思ってなかったので、ちょっと面食らってしまった。
確かにちょっと謎が多い子だなとは俺も思ってはいるが。
「あの子の使う魔法ってちょっと普通で考えられないくらい強力なのよ。例えばこの前私たちがリドアードの油断を誘うためにわざと弱体化の魔法にかかったじゃない?」
事前にそういう罠があることを念話でシエルを通して伝えたはずなのに、あっさり罠にかかってるからおかしいとは思ってたけど、油断を誘うためにわざと罠にかかったのか……。
そういやエナが「計画を変更した」って言ってたもんなぁ。
「あの弱体化の魔法って実はそう簡単に無効化できる代物じゃないはずなのに、それをエナさんはあっさりと無効化させたわ」
「あの弱体化の魔法ってそんなに強力だったんですか?」
「だって魔法使い10人集めてやっと起動できる魔法よ?弱いはずがないじゃない?」
そうだったのか……。
もしかして槍の男の攻撃を防いだ「プロテクション」の魔法も普通じゃ考えられない強度だったのかもしれないな。
魔法についても結構精通してたし、謎の裏技で俺にも魔法を使えるようにしてくれたし、エナの謎が深まるばかりだ。
「これはもしかしたらなんだけど……ううん、言うのはやめておくわ」
「え?気になるんですけど?」
「もしかしたらエナさんは自分から言うつもりじゃないかもしれないのにそれを私が言っちゃうのは……ね?それに旅をしていればいつかわかる日が来ると思うのよ」
俗に言う「男なら察してやれ」って奴か?
男にばかりそういう無理難題を押し付けるのやめてもらいたいなぁ。
女心とか俺には未知の領域すぎてとてもとても……。
「ああそうそう!シューイチさんに聞きたいことがあるのよ!」
「なんなりと」
「エナさんとはどういった関係なのかしら?」
「……」
2秒前に戻って軽率な自分を殴り飛ばしたい。
なんでこの人隙あらばそういう話題に持っていくのかなぁ!?
「ただの旅の仲間ですよ」
「本当に?もしかしてテレアと二股かけてるんじゃないわよね?」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!」
二股をかけるどころかそもそも付き合ってもないし!
テレアに至ってはまだ……あれ?テレアって何歳だっけ?
「シューイチさんモテそうだものね……これは私の勘なんだけど、多分これから沢山の女の子に好かれると思うのよねシューイチさんは」
モテそうとか初めて言われたぞ。
生まれてこの方女子から告白されたことも付き合ったことないというのに。
たしかにこの世界に来てエナと出会ってちょっと幸先いいかもな……なんて思っちゃったりはしてるけども。
「テレアもこの先大変だわ……でもあの子以外と押しが強い一面があるから何とかなっちゃうかもしれないけど」
「えっと……もうこの話題から離れてくれませんかね?」
そんな話をしていると玄関のドアを開いて、テレアがようやく帰宅してきた。
「ただいまお母さん!……あれ?お兄ちゃんがいる」
「ようテレア!待ってたぞ!」
話題を変える絶好のチャンスとばかりにテレアへと向き直る俺。
ヘタレと言われてもいい。とにかくこの話題から逃げたかった。
「いらっしゃいお兄ちゃん!テレアになにか用事かな?」
「この前テレアにがんばってもらったからさ!アイスをご馳走してあげようと思ってな!」
「「アイス?」」
テレアとリリアさんがそれぞれ別々のニュアンスで呟いた。
「本当に!?お兄ちゃんテレアにアイスをご馳走してくれるの!?」
「おっおう……?」
なんだかテレアのテンションが爆上がりしたので、思わず引いてしまった。
なんだ?テレアってそんなにアイス好きなのかな?
「シューイチさんちょっと」
「なんですか?」
近づいてきたリリアさんが俺に紙幣を握らせてくる。
なんでだ?アイスを奢ってあげるくらいのお金なら持ってるぞ?
「きっと必要になると思うわ」
「え?いやあの……?」
わけがわからず茫然としていると、突然テレアに手を掴まれ引っ張られる。
「早く行こうお兄ちゃん!アイス溶けちゃうよ!」
まだ買ってもいないアイスの何が溶けるというのだろうか?
そんなことを思いつつもテレアにぐんぐんと手を引っ張られる。やめてやめて引っこ抜けちゃうから!
助けを求めるようにリリアさんを見ると、なんだか戦場へ向かう兵士を見送るような目で俺を見ていた。
この後すぐに俺は思い知ることになる。
まるで異次元の中に吸い込んでいくかの如く、アイスを胃袋へと収めていくテレアのアイスに対する凄まじいまでの執念を。
リリアさんの渡してくれた紙幣は勿論テレアのアイス代になりその役目を終えていった。
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