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出発~魔女の食卓~
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時間にしてお昼過ぎといったところか。
いよいよマグリドを発ち、エルサイムへの遠征を始める出発日となった。
旅に必要な物も粗方準備できたし、道中使用する馬と荷台はヤクトさんが用意してくれた。
なんだかんだでマグリドにいる間はヤクトさんのお世話になっりぱなしだった気がする。
城下町の出口まではシルクス夫妻が見送ってくれるというので、俺たちは馬車を引きながら出口へと向かう。
「私、一応馬術の心得がありますけど、さすがに長旅で私一人ではきついのでシューイチさんにも覚えてもらいますからね?」
「頑張ります」
エナばかりに苦労させるわけにいかないからな、俺も馬を扱えるようにしないといけない。
「エナお姉ちゃん、テレアにもできるのかな?」
「勿論できますよ?シューイチさん同様、テレアちゃんにも馬術を教えてあげますね?」
そんな話をしていると、ほどなくして城下町の出口へとたどり着いた。
「さて、それじゃあここでお別れだね。君たちには本当に助けられたよ」
「それを言うならこちらこそですよ。マグリドにいる間は本当にお世話になりました」
そう言って俺はヤクトさんに深々と頭を下げる。
宿から何まで色々と手配してくれて本当に頭が下がる思いだ。
「なにかあったらいつでも私たちを頼ってくださいね?」
「その時はぜひにとも」
リリアさんにももちろん頭を下げるのを忘れない。
色々とやりこめられたりしたけども、リリアさんにだって世話になったからな。
「お父さんお母さん、元気でね」
「テレアも元気でね」
「シューイチ君たちに迷惑をかけないようにな?それと向こうに着いたらルカーナによろしく言っておいてくれな?」
「うん!」
ヤクトさんとリリアさんがそれぞれ順番にテレアを抱きしめる。
そうして別れの挨拶を済ませたテレアが俺たちの元に駆け寄ってきた。
「シューイチ君、エナさん、テレアのことよろしく頼んだよ」
「頼まれました」
「任せてください!」
ヤクトさんに頭を下げられ、俺とエナがそれに力強く答える。
いよいよお別れの時だ。
お互いに名残惜しいが、実のところテレアのことを考えるとあまりこの国に長居はできないのだ。
本来なら今から2日前に出発する話だったが、ヤクトさんに「せめて5日後にしてほしい、少し調べたいこともあるし、その間は絶対に君たちには手を出させないようにする」と言われたので今日までマグリドにいたわけだ。
そういえば前にテレアの家に行った時もヤクトさんはいなかったし、もしかしたらその調べものとやらをしていたのと、貴族たちが俺たちに手を出せないように手を回していたのかもしれない。
エナとテレアの二人が馬車へと乗り込んで行ったのを確認し俺も最後の挨拶をしようとしたところで、ヤクトさんが一枚の手紙のようなものを取り出し、俺に渡してきた。
「ここ数日で今回の事件について僕が調べて判明したことをこの手紙に記してある。後で時間があるときに読んでおいてほしい」
「……わかりました」
「正直、少しきな臭い……恐らくだけど広い意味でこの事件は終わってないかもしれないんだ。君たちなら大丈夫だと思うがくれぐれも気を付けてほしい」
きな臭い……ね。しかも事件は終わってないかもしれないときたもんだ。
この手紙は絶対にあとで読もう。
手紙を懐にしまい込んだ俺は―――
「それでは本当にお世話になりました!お二人もこれから大変でしょうが、頑張ってください!」
最後の挨拶をして馬車へと乗り込んだのだった。
軽快な馬の蹄の音と、石畳が木のタイヤを通じて荷台に与える振動を旅のお供に、俺たちは街道を進んでいく。
決して乗り心地が良いとは言えないが、以前の廃墟から遺跡に行く際に乗った荷台に比べたら雲泥の差だった。
「良い感じですよテレアちゃん、あまり馬を刺激しないように気を付けてくだいね?」
「うん……!」
現在エナがテレアに馬の扱い方を教えてる最中だった。
こうして見てると本当の姉妹みたいだな……思わず和む。
……と和んでばかりもいられない、俺はヤクトさんからもらった手紙の続きを読んでいく。
エナの教育の賜物で、俺はマグリドにいる間に一通りの文字は読めるようになっていた。
スパルタに次ぐスパルタだった……もう思い出したくもない。
それにしても……いやはや、この5日間でよく調べ上げたもんだ。さすが元冒険者と言ったところである。
手紙を読み終えた俺はそれを再び懐にしまいこみ、手紙の内容を踏まえて今後について思いを巡らせていく。
手紙の内容の簡潔に要約すると―――
・誘拐したテレアをわざわざライノス国にまで連れて行ったのはリドアードが国間の争いを誘発させるための行動だった。
・あの槍の男はリドアードの手の者ではなかった。
・リドアードを裏で唆していた者がいる。
・カルマ教団には気を付けること。
この四つに分けられていた。
あの成金クソ野郎、まさか本当にマグリドとライノスの間で国交問題を誘発させるつもりだったのか……。
しかもそれを操っていた黒幕までいるとのこと。
そして何よりも驚いたのが、あの槍の男がリドアードと関係がなかったことである。
正確に言うと全く無関係ではないのだが、直接的にはリドアードとは繋がりがなかったのだ。
そしてヤクトさんの見立てではその槍の男は「カルマ教団」の手の物ではないかとのことだった。
多分知っていると思われていたのだろうか、肝心のカルマ教団についての説明は省かれていた。
あとでエナに聞いておいた方がいいなこれは。
「確かにきな臭いわこりゃ」
ヤクトさんがこの事件は広い意味でまだ終わってないかもしれないと言っていた意味がよくわかる。
このまま行くと俺たちはエルサイムの前にリンデフランデに着くことになるが、そこでは何も事件が起こらないことを祈るばかりである。
「エナってリンデフランデには行ったことあるの?」
馬に悪戦苦闘しているテレアを見守るエナに言葉を投げかけた。
「ありますよ?あの国はマグリドほどの都会っぽさはありませんが、娯楽の国として有名ですね」
「娯楽の国ねぇ」
「子供の娯楽から大人の娯楽まで多種多様に取り揃えられてますねあの国には」
「大人の娯楽とか素敵な響きだね」
エナが白い目で見てくる。
「冗談だよ」
「私たちはエルサイムに行くのが目的なんですからリンデフランデはただの通過点ですよ?一日二日くらいは滞在する予定ですけど呑気に娯楽にかまけてる暇はありませんからね?」
エナさんは大変真面目じゃのう。
「テレア知ってるよ?リンデフランデには神獣様のお話があるんだよね?」
「そうですよ。よく知ってますねテレアちゃん」
少し馬の扱いに慣れて余裕が出てきたテレアが、俺たちの会話に交じってきた。
神獣様とはこれまた神格高そうな話が出てきたな。
「お母さんに聞いたの。リンデフランデは神獣様の加護で守られてるって」
「守り神様的な奴なのか?」
「ところがそうでもないんですよ」
そう言ってエナがその神獣様とやらについて話し始める。
「リンデフランデの神獣は守護神であると同時に破壊神でもあるんです」
「守護神なのに破壊神なのか?」
「あの国って実は結構長い歴史があるんですが、神獣が国を守っているのは確かなんですけど、その長い歴史の中であの国は一回神獣に滅ぼされかけてます」
守り神であるはずの神獣に滅ぼされかけてる?
国を守るはずの神獣が国を滅ぼしかけたってそれ矛盾してないか?
「なんでそうなったかはちょっと知りませんが、そのおかげで神獣は守護神であり破壊神でもあると言われる伝説があるんです」
「そうなんだ……テレア知らなかったよ」
「俺も知らなかったよ」
「いやシューイチさんは……ってそれはいいんですよ」
それとか言わないでほしい。
「まあ私たちにとってあの国は通り過ぎるだけの場所ですからね。そこまで深くかかわることはないと思いますけど」
「でもテレア、ルーデンス旅芸人一座にはちょっと興味があるんだけど……」
「大丈夫ですテレアちゃん、私も興味ありますから」
「あるんかい」
思わず突っ込んでしまった。
ただの通過点に過ぎないと言ってたのにねぇ。
「だって有名ですからねその一座は!芸のレベルが非常に高いらしくて!その中でも特に有名で人気を集めているのが「新緑の歌姫」と呼ばれる人らしいんですよ!」
「新緑の歌姫ねぇ?」
「いつもショーの最後に出てきて一曲歌うらしいんですけど、それが本当に凄いらしくて、それにその歌姫と呼ばれる女の子も可愛いと評判なんですよ」
「そうなんだ……テレア楽しみだよ!」
歌と可愛らしい容姿で人気を集めるか……俺のいた日本で言うところのアイドルみたいなもんかな?
この世界にアイドル文化があるかどうかは知らないけど、俺も少し楽しみになってきたな。
俺のそんな思いを乗せつつ、馬車は街道を進んで行くのだった。
日も暮れかけ俺たちは夕食の準備をすることとなった。
街道には定期的に広いスペースが点在しており、旅人はそこを休憩点とし一時旅の疲れを癒すのだ。
とはいえ基本的には野ざらしになってるスペースなので魔物や盗賊などの被害は決して少なくはないとのこと。
俺たちも十分に気を付けないといけない。
「さあ夕飯の準備をはじめますよー!」
なんかこの時を待ってましたとばかりにエナが腕まくりしてやる気満々になっている。
「エナって料理できるんだ?」
「好きなんですよ料理するの!二人に美味しいものを食べさせてあげますから、楽しみにしていてくださいね?」
ライノスやマグリドにいた時は外食ばかりだったからな。
久しぶりに手料理……しかもエナのような美少女の手料理が食べられるとは……異世界に来てよかったなぁ。
「テレアも何かお手伝いすることあるかな?」
「大丈夫ですよ?パパっと作っちゃいますから、シューイチさんと一緒に休んでてくださいね?」
テレアがパタパタと俺の元にやってきて隣に腰かける。
そのしぐさが可愛らしくて、微笑ましい気分になる。
「えへへ、断られちゃった」
「だな。まあ自信満々みたいだから任せておこうか?」
ライノスで出会った頃に比べると本当によく笑顔を見せてくれるようになったなぁ……なんて思いつつテレアと適当な雑談をしながらエナの料理ができるのを待っていた。
……のだがその30分後にこの時に何としてでもエナが料理するのを止めておけば良かったと俺たちは後悔することになった。
「出来ましたよ二人とも!早速食べましょう!」
「「……」」
なにをどうやったらこんな料理が出来きるのか、わけがわからなかった。
どう表現したらいいんだろう……ああ、俺の貧弱な脳みそではこの形容しがたい料理のような物の詳しい詳細を表現することが出来ない!
あのテレアでさえ真顔で固まってしまっている。
「エナさんや?これは一体何でございましょう?」
「料理に決まってるじゃないですか?それ以外に何に見えるんですか?」
へえ~これを料理と言い切っちゃうんだ……へえ~。
この子今までどうやって一人で旅してたの!?霞でも食ってたの!?仙人なの!!??
「味見とかした?」
「してませんけど絶対に美味しいはずですから!さあ冷める前に食べちゃいましょう!」
「何で味見しないの!?しようよ!?」
味見もしてないのに何がどう大丈夫なのか本気でわからないんだけど?
「……テレア食べてみるよ」
「ばっか!無茶するなテレア!?大変なことになったらどうするんだ!?」
「でももしかしたら味は美味しいかもしれないし……」
「それだけは絶対にない!断言してもいい!!」
「なんかさっきから失礼ですよ二人とも」
俺の制止を振り切り、テレアがエナの料理?を口に運ぶ。
「〇×△□!!!??」
その瞬間、声にならない悲鳴を上げながらテレアが街道の外の草むらにすっ飛んで行った。
それを見送った後、俺はエナに向き直りジト目で見る。
「……そんなに美味しかったんですかね?」
「何そのポジティブシンキング!!??」
前向きにもほどがありすぎるっ!
「エナは今後一切料理するの禁止な?」
「ええー!?何でですかっ!?」
結局その日の夕飯は、俺のつたないキャンプ料理の知識を総動員してなんとか作り上げたものの、エナよりはましという程度だった。
エナは終始納得いかない顔をしていたが、これはいい教訓だ。
料理ができるようになるか、もしくは料理ができる仲間が俺たちには必要だった。
いよいよマグリドを発ち、エルサイムへの遠征を始める出発日となった。
旅に必要な物も粗方準備できたし、道中使用する馬と荷台はヤクトさんが用意してくれた。
なんだかんだでマグリドにいる間はヤクトさんのお世話になっりぱなしだった気がする。
城下町の出口まではシルクス夫妻が見送ってくれるというので、俺たちは馬車を引きながら出口へと向かう。
「私、一応馬術の心得がありますけど、さすがに長旅で私一人ではきついのでシューイチさんにも覚えてもらいますからね?」
「頑張ります」
エナばかりに苦労させるわけにいかないからな、俺も馬を扱えるようにしないといけない。
「エナお姉ちゃん、テレアにもできるのかな?」
「勿論できますよ?シューイチさん同様、テレアちゃんにも馬術を教えてあげますね?」
そんな話をしていると、ほどなくして城下町の出口へとたどり着いた。
「さて、それじゃあここでお別れだね。君たちには本当に助けられたよ」
「それを言うならこちらこそですよ。マグリドにいる間は本当にお世話になりました」
そう言って俺はヤクトさんに深々と頭を下げる。
宿から何まで色々と手配してくれて本当に頭が下がる思いだ。
「なにかあったらいつでも私たちを頼ってくださいね?」
「その時はぜひにとも」
リリアさんにももちろん頭を下げるのを忘れない。
色々とやりこめられたりしたけども、リリアさんにだって世話になったからな。
「お父さんお母さん、元気でね」
「テレアも元気でね」
「シューイチ君たちに迷惑をかけないようにな?それと向こうに着いたらルカーナによろしく言っておいてくれな?」
「うん!」
ヤクトさんとリリアさんがそれぞれ順番にテレアを抱きしめる。
そうして別れの挨拶を済ませたテレアが俺たちの元に駆け寄ってきた。
「シューイチ君、エナさん、テレアのことよろしく頼んだよ」
「頼まれました」
「任せてください!」
ヤクトさんに頭を下げられ、俺とエナがそれに力強く答える。
いよいよお別れの時だ。
お互いに名残惜しいが、実のところテレアのことを考えるとあまりこの国に長居はできないのだ。
本来なら今から2日前に出発する話だったが、ヤクトさんに「せめて5日後にしてほしい、少し調べたいこともあるし、その間は絶対に君たちには手を出させないようにする」と言われたので今日までマグリドにいたわけだ。
そういえば前にテレアの家に行った時もヤクトさんはいなかったし、もしかしたらその調べものとやらをしていたのと、貴族たちが俺たちに手を出せないように手を回していたのかもしれない。
エナとテレアの二人が馬車へと乗り込んで行ったのを確認し俺も最後の挨拶をしようとしたところで、ヤクトさんが一枚の手紙のようなものを取り出し、俺に渡してきた。
「ここ数日で今回の事件について僕が調べて判明したことをこの手紙に記してある。後で時間があるときに読んでおいてほしい」
「……わかりました」
「正直、少しきな臭い……恐らくだけど広い意味でこの事件は終わってないかもしれないんだ。君たちなら大丈夫だと思うがくれぐれも気を付けてほしい」
きな臭い……ね。しかも事件は終わってないかもしれないときたもんだ。
この手紙は絶対にあとで読もう。
手紙を懐にしまい込んだ俺は―――
「それでは本当にお世話になりました!お二人もこれから大変でしょうが、頑張ってください!」
最後の挨拶をして馬車へと乗り込んだのだった。
軽快な馬の蹄の音と、石畳が木のタイヤを通じて荷台に与える振動を旅のお供に、俺たちは街道を進んでいく。
決して乗り心地が良いとは言えないが、以前の廃墟から遺跡に行く際に乗った荷台に比べたら雲泥の差だった。
「良い感じですよテレアちゃん、あまり馬を刺激しないように気を付けてくだいね?」
「うん……!」
現在エナがテレアに馬の扱い方を教えてる最中だった。
こうして見てると本当の姉妹みたいだな……思わず和む。
……と和んでばかりもいられない、俺はヤクトさんからもらった手紙の続きを読んでいく。
エナの教育の賜物で、俺はマグリドにいる間に一通りの文字は読めるようになっていた。
スパルタに次ぐスパルタだった……もう思い出したくもない。
それにしても……いやはや、この5日間でよく調べ上げたもんだ。さすが元冒険者と言ったところである。
手紙を読み終えた俺はそれを再び懐にしまいこみ、手紙の内容を踏まえて今後について思いを巡らせていく。
手紙の内容の簡潔に要約すると―――
・誘拐したテレアをわざわざライノス国にまで連れて行ったのはリドアードが国間の争いを誘発させるための行動だった。
・あの槍の男はリドアードの手の者ではなかった。
・リドアードを裏で唆していた者がいる。
・カルマ教団には気を付けること。
この四つに分けられていた。
あの成金クソ野郎、まさか本当にマグリドとライノスの間で国交問題を誘発させるつもりだったのか……。
しかもそれを操っていた黒幕までいるとのこと。
そして何よりも驚いたのが、あの槍の男がリドアードと関係がなかったことである。
正確に言うと全く無関係ではないのだが、直接的にはリドアードとは繋がりがなかったのだ。
そしてヤクトさんの見立てではその槍の男は「カルマ教団」の手の物ではないかとのことだった。
多分知っていると思われていたのだろうか、肝心のカルマ教団についての説明は省かれていた。
あとでエナに聞いておいた方がいいなこれは。
「確かにきな臭いわこりゃ」
ヤクトさんがこの事件は広い意味でまだ終わってないかもしれないと言っていた意味がよくわかる。
このまま行くと俺たちはエルサイムの前にリンデフランデに着くことになるが、そこでは何も事件が起こらないことを祈るばかりである。
「エナってリンデフランデには行ったことあるの?」
馬に悪戦苦闘しているテレアを見守るエナに言葉を投げかけた。
「ありますよ?あの国はマグリドほどの都会っぽさはありませんが、娯楽の国として有名ですね」
「娯楽の国ねぇ」
「子供の娯楽から大人の娯楽まで多種多様に取り揃えられてますねあの国には」
「大人の娯楽とか素敵な響きだね」
エナが白い目で見てくる。
「冗談だよ」
「私たちはエルサイムに行くのが目的なんですからリンデフランデはただの通過点ですよ?一日二日くらいは滞在する予定ですけど呑気に娯楽にかまけてる暇はありませんからね?」
エナさんは大変真面目じゃのう。
「テレア知ってるよ?リンデフランデには神獣様のお話があるんだよね?」
「そうですよ。よく知ってますねテレアちゃん」
少し馬の扱いに慣れて余裕が出てきたテレアが、俺たちの会話に交じってきた。
神獣様とはこれまた神格高そうな話が出てきたな。
「お母さんに聞いたの。リンデフランデは神獣様の加護で守られてるって」
「守り神様的な奴なのか?」
「ところがそうでもないんですよ」
そう言ってエナがその神獣様とやらについて話し始める。
「リンデフランデの神獣は守護神であると同時に破壊神でもあるんです」
「守護神なのに破壊神なのか?」
「あの国って実は結構長い歴史があるんですが、神獣が国を守っているのは確かなんですけど、その長い歴史の中であの国は一回神獣に滅ぼされかけてます」
守り神であるはずの神獣に滅ぼされかけてる?
国を守るはずの神獣が国を滅ぼしかけたってそれ矛盾してないか?
「なんでそうなったかはちょっと知りませんが、そのおかげで神獣は守護神であり破壊神でもあると言われる伝説があるんです」
「そうなんだ……テレア知らなかったよ」
「俺も知らなかったよ」
「いやシューイチさんは……ってそれはいいんですよ」
それとか言わないでほしい。
「まあ私たちにとってあの国は通り過ぎるだけの場所ですからね。そこまで深くかかわることはないと思いますけど」
「でもテレア、ルーデンス旅芸人一座にはちょっと興味があるんだけど……」
「大丈夫ですテレアちゃん、私も興味ありますから」
「あるんかい」
思わず突っ込んでしまった。
ただの通過点に過ぎないと言ってたのにねぇ。
「だって有名ですからねその一座は!芸のレベルが非常に高いらしくて!その中でも特に有名で人気を集めているのが「新緑の歌姫」と呼ばれる人らしいんですよ!」
「新緑の歌姫ねぇ?」
「いつもショーの最後に出てきて一曲歌うらしいんですけど、それが本当に凄いらしくて、それにその歌姫と呼ばれる女の子も可愛いと評判なんですよ」
「そうなんだ……テレア楽しみだよ!」
歌と可愛らしい容姿で人気を集めるか……俺のいた日本で言うところのアイドルみたいなもんかな?
この世界にアイドル文化があるかどうかは知らないけど、俺も少し楽しみになってきたな。
俺のそんな思いを乗せつつ、馬車は街道を進んで行くのだった。
日も暮れかけ俺たちは夕食の準備をすることとなった。
街道には定期的に広いスペースが点在しており、旅人はそこを休憩点とし一時旅の疲れを癒すのだ。
とはいえ基本的には野ざらしになってるスペースなので魔物や盗賊などの被害は決して少なくはないとのこと。
俺たちも十分に気を付けないといけない。
「さあ夕飯の準備をはじめますよー!」
なんかこの時を待ってましたとばかりにエナが腕まくりしてやる気満々になっている。
「エナって料理できるんだ?」
「好きなんですよ料理するの!二人に美味しいものを食べさせてあげますから、楽しみにしていてくださいね?」
ライノスやマグリドにいた時は外食ばかりだったからな。
久しぶりに手料理……しかもエナのような美少女の手料理が食べられるとは……異世界に来てよかったなぁ。
「テレアも何かお手伝いすることあるかな?」
「大丈夫ですよ?パパっと作っちゃいますから、シューイチさんと一緒に休んでてくださいね?」
テレアがパタパタと俺の元にやってきて隣に腰かける。
そのしぐさが可愛らしくて、微笑ましい気分になる。
「えへへ、断られちゃった」
「だな。まあ自信満々みたいだから任せておこうか?」
ライノスで出会った頃に比べると本当によく笑顔を見せてくれるようになったなぁ……なんて思いつつテレアと適当な雑談をしながらエナの料理ができるのを待っていた。
……のだがその30分後にこの時に何としてでもエナが料理するのを止めておけば良かったと俺たちは後悔することになった。
「出来ましたよ二人とも!早速食べましょう!」
「「……」」
なにをどうやったらこんな料理が出来きるのか、わけがわからなかった。
どう表現したらいいんだろう……ああ、俺の貧弱な脳みそではこの形容しがたい料理のような物の詳しい詳細を表現することが出来ない!
あのテレアでさえ真顔で固まってしまっている。
「エナさんや?これは一体何でございましょう?」
「料理に決まってるじゃないですか?それ以外に何に見えるんですか?」
へえ~これを料理と言い切っちゃうんだ……へえ~。
この子今までどうやって一人で旅してたの!?霞でも食ってたの!?仙人なの!!??
「味見とかした?」
「してませんけど絶対に美味しいはずですから!さあ冷める前に食べちゃいましょう!」
「何で味見しないの!?しようよ!?」
味見もしてないのに何がどう大丈夫なのか本気でわからないんだけど?
「……テレア食べてみるよ」
「ばっか!無茶するなテレア!?大変なことになったらどうするんだ!?」
「でももしかしたら味は美味しいかもしれないし……」
「それだけは絶対にない!断言してもいい!!」
「なんかさっきから失礼ですよ二人とも」
俺の制止を振り切り、テレアがエナの料理?を口に運ぶ。
「〇×△□!!!??」
その瞬間、声にならない悲鳴を上げながらテレアが街道の外の草むらにすっ飛んで行った。
それを見送った後、俺はエナに向き直りジト目で見る。
「……そんなに美味しかったんですかね?」
「何そのポジティブシンキング!!??」
前向きにもほどがありすぎるっ!
「エナは今後一切料理するの禁止な?」
「ええー!?何でですかっ!?」
結局その日の夕飯は、俺のつたないキャンプ料理の知識を総動員してなんとか作り上げたものの、エナよりはましという程度だった。
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