無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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襲撃~最悪の展開~

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 いよいよ、公演の日がやってきた。
 今、サーカステントではお客さんを楽しませようと、一座の団員たちが一丸となって頑張っていることだろう。
 テントと仮設宿舎はほぼ隣接しているので、お客さんの歓声が聞こえてくるのだ。

「今日も大盛況のようじゃのう」

 その歓声をベッドの上で聞きながら、ルーデンスさんが目を細めて笑う。
 そしてその傍らには、今日は歌を披露しないフリルが座っている。

「歓声の大きさからすると、今は空中曲芸の真っ最中かもしれませんね」
「空中ブランコとか凄かったよね!テレア、ハラハラしちゃった!」

 あの時の興奮が蘇ったのか、エナとテレアのテンションが若干上がった。
 
「機会があるならもう一度見ておきたいよなぁ」
「ありますよ!そのためにこうしてフリルちゃんとルーデンスさんを私たちが守ってるんですから!」

 そう、俺たち三人はフリルとルーデンスさんを守るために仮設宿舎に待機している。
 フリルがどうしても今の状況でルーデンスさんを一人にしたくないと言うので、その意見を汲んで俺たちはルーデンスさんの部屋にいるわけだ。
 ぶっちゃけロイは何をしてくるかわからないからな……最悪ルーデンスさんが一人でいるところにロイが現れて人質にされるなんて事態も十分にありうる。
 それならこうしてフリルと含めて俺たちで守っていたほうが安全だということになった。
 今のところは何も起きる気配はないが油断は禁物だ。

「このまま何事もなく終わってくれればいいんじゃがのう……」

 俺たちが感じている共通の不安を、ルーデンスさんが口にする。
 過信しているわけではないが、いくらロイと言えども俺とエナとテレアの三人がいる状況で手を出してはこないはずだ。
 そう言えばさっきからずっと気になっていたんだが、フリルが一言も言葉を発していない。

「フリル、大丈夫か?」
「……うい」

 心配になって声を掛けるも、どこか心ここにあらずといった感じでぼーっとしている。
 フリルは基本的にはぼーっとしてることが多い子だけど、目の前のフリルは普段のそれとは違う異質な何かを俺に感じさせる。

「……どうやらもうすぐ公演が終わるみたいですね」

 テントから聞こえてくる拍手と歓声を聞いて、エナがほっとしたようにそう言った。
 どうやら今日は何事もなく終わりそうだ。

「……行かなきゃ」

 突如フリルがいきなり立ち上がって部屋の扉へと歩いて行く。
 だがテレアが立ちふさがるようにしてフリルの進行を阻んだ。

「フリルお姉ちゃん、どこに行くの?」
「……行かないと……みんなが待ってる」
「みんな……って?」
「……お客さんが私の歌を待ってる」

 明らかに普通じゃないフリルの雰囲気に異様なものを感じ、俺も立ち上がり二人のもとに一歩踏み出したその時―――


「そうですよ、お客さんがあなたの歌を待っていますよ?こんなところに引きこもってないで歌いに行かなければ」


 今この場でもっとも聞きたくなかった人物の声が聞こえ、場に緊張が走る。
 そして部屋の扉を開き、そいつは姿を現したのだった。

「ロイ!?」
「どうも……二日ぶりですね?」

 そう言って相変わらずの不気味な微笑みをロイが浮かべる。
 こいつ堂々と俺たちの下に乗り込んできたのか!?
 俺はとっさに腰に下げた剣を抜こうとしたが、どういうわけか身体がピクリとも動かない。
 エナとテレアも同様に動けなくなっているようだ。

「そろそろ頃合いかと思いましてね?ゲームをクリアしにきました」
「てめえ、ふざけんな!」
「それにしてもおかしいですね……あの日あなたたちに二人に記憶操作とは別にいざというときに意識を乗っ取れるように細工をしておいたんですが……あなたは記憶が戻っているだけでなく、植え付けたはずの私の魔力が消えてしまっている……エナさんにもわからないように巧妙にカモフラージュしたはずなんですが」

 あの時記憶を操作しただけでなく、何か仕込んでやがったのか!?
 やっぱりシエルにフリルの記憶操作も解除してもらっておけばよかった!

「私の想像よりもずっと早く騎士団が来たので不思議に思っていたのですが、これで合点がいきましたよ」
「ロイ!!」

 何がおかしいのか笑いながらのたまうロイを、エナが睨みつける。
 エナのこんな表情は初めて見た。

「あなたという人は!あの国だけでなく、このリンデフランデまで滅茶滅茶にするつもりですか!?」
「おやエナさん!あの時は挨拶できなくて本当に申し訳ございませんでした!お元気でしたか?」
「ぬけぬけと……!」

 瞬間、エナが魔力を活性化させて魔法を唱える。

「ディスペル・マジック!!」

 俺たちの身体が光に包まれて、身体の自由が利くようになった。
 その刹那、弾けるように動き出したのはテレアだった。

「えいっ!!」

 テレアが拳を繰り出すも、それをひらりと躱しロイがフリルを盾にするように後ろに回り込んだ。

「おっと!可憐な見た目に関わらず活発なお嬢さんですね!さすがはあのシルクス夫妻の娘なだけはあります」
「てめえ!何フリルを盾にしてんだ!」

 これじゃあ迂闊に手を出せない!
 テレアもフリルを盾にするロイに対して攻めあぐねている。
 肝心のフリルはというと、すでに目に光が宿っておらず、完全にロイの操り人形と化してるようだ。

「そんな……私のディスペル・マジックでフリルちゃんの洗脳状態が解除されない!?」
「とびきり強力な催眠魔法を施してますからね?いくらあなたの魔法と言えどそう簡単には解除はできませんよ?」

 油断したわけじゃなかったのに、まさかこんな一瞬で状況をひっくり返されるなんて……!
 フリルのことを全力で守るって約束したのに何やってんだ俺は!

「さてと……それではあまり時間もないことですし、行きましょうかフリルさん」

 ロイがそう言ってフリルを脇に抱えると、空いた手を天井に向けて光弾を放ち穴を開ける。
 そしてロイとフリルが淡い光に包まれると宙へと浮かび上がり、そのまま天井の穴から外へ飛んで行った。
 あまりの一瞬の出来事に、俺たち全員が呆気にとられた。

「シューイチさん!あの二人を追いかけないと!!」

 エナの叫びに俺たちはようやく意識を持ち直した。

「よっよし!テレアは俺と一緒にテントに行くぞ!エナは悪いけどルーデンスさんを安全なところに避難させておいてくれ!」
「うっうん!」
「わかりました!ルーデンスさんを避難させたら私もすぐに追いかけますから!」
「頼む!フリルを助けてくれ!一生のお願いじゃ!」

 ルーデンスさんの懇願に対し頷いて、俺とテレアは部屋を飛び出しロイが向かったと思われるサーカステントに向けて走りだした。
 くそっ!想定してた最悪の状況になっちまった!
 なんとしてでもロイを止めないと、この人が大勢集まっている状況で神獣を復活させられたら、とんでもないことになってしまう!
 俺たちは団員が使用する裏口からテントの中に入っていき、ステージを目指し駆け抜けていく。

「どうしたんだよシューイチにーちゃん!?そんなに血相変えて?」

 そんな俺たちを見たダックスが驚き共に声を上げる。

「説明してる時間がない!とりあえず壇上に出てない団員だけでもここから逃がしてくれ!」
「え?……わっわかった!」

 あらかじめラフタさんあたりから話を聞いていたのだろう、ダックスが今何が起こっているのかを察してくれて、他の団員に避難するように促し始めた。
 それを横目で見ながら、俺とテレアは尚も駆け抜けていく!
 先ほどから観客の歓声が全く聞こえてこない……物凄く嫌な感じだ。
 ようやく俺たちはステージに到着した。

「なっ……!?」
「え?なにこれ……!?」

 俺とテレアが思わず言葉を失う。
 それもそのはず、会場は物音一つなくシンと静まりかえっており、しかも席に座る観客たちの目が光を失っていて、茫然とステージの中央にいるロイとフリルにその視線が注がれていたからだ。
 ロイとフリルのそばには仰向けに倒れているラフタさんもいた。
 この世の物とは思えない異様な光景だった。

「さて、最後の観客も到着したことですし、早速始めましょうか?さあフリルさん……」
「……わかった」

 ロイが懐から何かを取り出し、それをフリルに手渡す。
 よく見るとそれはいびつな形をして、黒く輝く10cmほどの大きさの石だった。

「これなんだと思いますか?とある遺跡から拝借した、神獣の心臓らしいんですよ?」

 言いながらロイが指を鳴らすと、どこからともなく不気味な音楽が流れてきて、フリルが黒い石を掲げながら歌を紡ぎ始める。
 その途端、フリルの身体に黒い霧のようなものが纏わりついていく。
 ……って呑気に見てる場合じゃない!やめさせないと!!

「ロイ!!」

 今度こそ俺は腰の剣を引き抜き、身体強化を発動してロイに斬りかかった。

「おっと」

 それをたやすく躱したロイの手に魔力が集まっていき、それが光弾となって俺に向かって放たれた。

「お兄ちゃん!!」

 それを見たテレアが猛スピードでダッシュしてきて俺を押し倒すと、俺とテレアの頭上すれすれを光弾が通り抜けていく。
 その光弾は客席に向かって飛んで行ったものの、観客に当たる前に何か見えない壁のようなものに阻まれて、爆発音と共に消失した。
 どうやらご丁寧に結界のようなものを貼っているらしい。

「折角のフリルさんの歌なんですから、大人しく聞きましょう?」

 そう言って倒れこんでいる俺とテレアに向けて、ロイが左手を突き出し魔力を活性化させて魔法を発動させた。
 その瞬間、俺とテレアに『何か』がのしかかってきて、まるで地面に縫い付けられるように動けなくなる。

「うっうごけねぇ……!!」
「ううぅ……っ」

 どうやら俺たちの周りの重力を操って、重くしているようだった。
 そうこうしている間にもフリルの歌は続いていて、歌の進行と共に両手に掲げた石が赤黒く不気味な光を放ち始める。

「やめろ……フリル!!」
「フリルお姉ちゃん……!!」

 俺とテレアの叫びも空しく、ついにその呪詛とも言っても差し支えない不気味な歌は終わりを告げた。

「どうやら神獣が復活するみたいですね!私の狙い通りですよ!あははは!!」

 楽しそうに……本当に楽しそうに、まるで子供のようにロイが笑う中、赤黒く光る石はフリルの手を離れ宙に浮かび上がっていく。
 フリルに纏わりついていた黒い霧が今度は宙に浮いたその石へと集まっていき石を包み込み始める。
 驚いたことにその霧はフリルからだけでなく、観客からも噴き出してきて、その全てが黒い石に収束していく。
 そしてその黒い霧は徐々に大きさを増していき、とある生物を型取り始め―――

「ルオオオオオオオ――――――――――――!!!!!!!」

 身の丈5メートルはあろうかという巨大な赤黒い亀の姿になったのだった。


 恐れていた最悪の事態、神獣の復活の瞬間だった。
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