無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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謁見~肝を冷やす人々~

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 しかし通信機とは……このもろにファンタジーな世界におけるルナティカルにおいて、随分と日本的な名前だな。

「失礼ですが、いまここで開けても?」
「構わぬぞ」

 王様から許しをもらえたので早速箱を開けて中身を確認する。
 あまりにも見覚えのあるそのデザインや形を見て、俺は思わず箱を落としそうになった。

(なんだこれ?まるっきり携帯電話じゃないか!?)

 スマホではなく今やすっかり見かけなくなった折り畳み式のガラケーが二台入っていた。
 手に取った質感もまるっきり俺の知っているものであり、携帯を開いてみたところ上部は液晶画面であり下部はこれまた見慣れた感じに数字や通話ボタンが並んでいた。
 もうどこに出しても恥ずかしくない携帯電話そのものだった。
 今じゃすっかりスマホに取って代わられたガラケー……まさか異世界に来て再びお目にかかる日が来るとは。

「使い方は「取扱説明書」なるものが同梱されておる、それを見ればある程度分かるはずだ」

 見なくてもわかるんだよなぁ。
 しかしここまでもろに携帯電話だと、俺の世界の人間がこの世界に流れてついて、携帯の技術を再現したのか疑ってしまう。

「王様、このけいた……通信機を作ったのはどのような人かわかりますか?」
「アーデンハイツ国にいる「スチカ=リコレット」なるものが作り出したと聞いておるな」

 またスチカ=リコレットか……カルマ教団内部で掛かっていた洗脳音楽を発する機械を作り出したのもその人だとロイが言っていたな。
 一体何者なのだろうか?
 形だけとはいえここまで俺の知っている携帯電話を再現されると、俺と同じように異世界人なんじゃないかと疑ってしまう。
 エルサイムにあるヤクトさんの元拠点に辿り着いて落ち着いたら、そのアーデンハイツとやらに行って直接会ってみる必要があるかもしれない。覚えておこう。

「スチカ=リコレットに興味があるか?ならば儂がアーデンハイツへ口利きをしてやってもよいぞ?」

 王様の提案を受けて少し考える。
 確かに興味はあるがわざわざ王様に口利きしてもらってまで……でもこれだけのものを作り出す人物だし国のお抱えになってる可能性もあるだろうから、王様に口利きしてもらうのも手だよな。

「それではお願いできませんでしょうか?」
「ではついでだ、儂もマグリド王に倣って其方たちに推薦状を書くとしよう。さすればアーデンハイツだけでなくその他の国でも効力を発揮するはずじゃ」

 推薦状二枚目ゲットだぜ!
 なんて物まねしてる場合ではない。

「いえいえ!そこまでしていただくわけには……!」
「こう見えて儂は其方らに多大な感謝をしておる。国を救ってくれた英雄たちに報いることが出来るのであれば推薦状の一枚や二枚はたやすい物じゃ」

 マグリド王の推薦状だけでもこの国を動かす力があったというのに、これにリンデフランデ王のまで加わってしまったら……もういっそこの世界の国中の推薦状を集める諸国漫遊の旅でもするか!?
 別に俺の目的は世界制覇ではないのでそんな面倒なことはするつもりはないが、いやはや俺のちょっとした発言のせいでとんでもないことになってしまった。

「では近日中に推薦状を書き、そこのクエスに渡しておくので後に受け取るがよい」
「あっありがたき幸せ……」

 ここまできたらもうどうにでもなれだ。
 別に持っていて損をする物でもないしな。

「では次の話に入ろう……フリル=フルリルよ、歌魔法を駆使し神獣を鎮めたというのは真なのか?」
「……うい」

 王様の前なのにこの子本当に自分のキャラを崩さないな!
 そういうところ素直に凄いと思うわ!

「それならば其方にも相応の褒美を取らせたいと儂は思っておる。其方の望むものを言うがよい」
「……一座の公演場所の土地代を免除してほしい」

 即答かよ!!
 しかも結局自分のことじゃなく一座ことを優先してるのがいかにもフリルらしい。

「そんなことでよいのか?」
「……それと一座の座長のルーデンスがこの国で生活する上での保障をしてほしい」

 そうか、次の公演で一座は解散するからな……ルーデンスさんはもう歳のせいで立ち上がるのも難しいほど身体が弱っているし、必然的にこの国に骨をうずめることになるだろう。
 国に生活を保障してもらえるなら残りの人生を穏やかに過ごすことができるかもしれない。

「こう言っては何だが其方はそこのハヤマ=シューイチと同じくこの国の英雄と呼ぶにふさわしい働きをしたのだぞ?もう少し自分の望みを……」
「……それ以外に私の望みなんてない」

 王様にここまで言い切れるって凄いなぁ。
 自分のキャラもそうだけど、意志すら曲げないのは素直に尊敬する。

「……そうか、わかった。其方の望むとおりにしよう」
「……うい」

 何か言いたそうにしていた王様だったが、このフリルを説得するのは骨が折れると思ったのか、結局は顔を綻ばせてフリルの願いを快く受け入れた。
 その後もエナとテレアにも同じような質問を投げかけられて、二人が見てて可哀そうなくらいあたふたする場面があったが、二人の名誉のためそこは省略してあげよう。
 結果だけいうと、エナはこの国での宿泊費の免除で、テレアは母国で貴族問題と戦っているシルクス夫妻のバックアップをお願いしていた。
 とはいえこの国が他国の貴族問題に大々的に関わるわけにはいかないので、あくまでも秘密裡でということになったが、それでもあの二人には大きな助けになるはずだ。
 なんとも自分たちの欲がないパーティーだと俺自身少し心の中で呆れてしまった。

「さて……ここからは提案というか儂自身の頼みがある」

 王様が椅子に座りなおすし、真剣な表情になる。

「ハヤマ=シューイチよ、この国に定住する気はないか?」
「……え?」

 突然の提案に思わず間抜けな声で返してしまった。

「正直なところお主のような人材を手放すのは惜しいと儂は思っておってな?どうだろう、もしこの国に定住してくれるのであれば、相応の待遇を約束しよう」

 なんか俺という存在が過大評価されている傾向があるな……俺なんてその辺にいる一般的な年ごろの男と何ら変わらなというのに。
 どうしたもんだろう……なんて思いつつもその提案に対しての答えなんてすでに決まっている。

「申し訳ないですが先約もあるし、自分にそんな待遇は過ぎたものだと思うのでお断りさせていだきます」
「先約とな?」
「ちょっとマグリドで色々とありまして……その関係で知人からエルサイムにある拠点を頂いてしまっているんですよ。それを無下にすることはできないんで申し訳ないんですがこの国に定住することはできません」

 言い切った俺を、エナとクエスさんがなんか真っ青な顔して見てきた。
 なんでそんな顔してきますか?

「その先約があるから儂の誘いは受け入れられぬと、そう申されるのだな?」
「簡潔にいうとそういうこと……なのかな?」

 それが一番の理由だが、自分にそんな待遇は過ぎた物だと思うのも嘘ではない。
 いくら王様の誘いと言えど、ヤクトさんたちには本当にお世話になったし、感謝の意である頂いた拠点だって無駄にはできない。

「ふむ、冒険者というものはいつの世も縛り付けるのは難しいものじゃな……すまなかった、先程の件は忘れてくれ」
「えっと……なんかすみません」
「よいよい!それに先ほども言ったが儂は其方に多大な感謝をしておるのだ!もし今後何か困ったことがあったら遠慮なく儂を頼るとよい!必ずお主の力になろうぞ!」

 なんか楽しそうに笑いながら王様がそう言った。
 よかった……「王である儂の頼みを断るとは!打ち首獄門じゃ!」とか言われたらどうしようかと思った。

 そんなこんなで王様との謁見は終わりを告げたのだった。




「どうしてあんなことを言ったんですか!!??」

 王宮を出た途端、慌てた様子でエナが俺に言ってきた。

「王様にも言ったけど、ヤクトさんたちの厚意を無下にすることはできないだろ?」
「そうなんですけど……そうなんですけど!!もう少し言い方があるじゃないですか!!ある意味では神獣と戦ってる時よりも生きた心地がしませんでしたよ!?」

 フリルのあの対応でもあの王様は怒ったりしなかったんだから、結構度量の深い人だと思うんだけどなぁ。
 まあもし次にああいうことがあった場合はもう少し気を付けよう。

「エナ君の意見はもっともだ……まさか王様の誘いをあそこまではっきりと断る人間がいるとは思わなかった」

 クエスさんも若干呆れ顔になっている。

「とりあえず君たちを送っていくよ……あの一座の宿舎前で良かったか?」
「あっはい、それでいいんでお願いします」

 帰り馬車の中でエナからああいった場面での礼儀作法を嫌というほど教えられながら、フリルのことについて思いを巡らせる。
 昨日も思ったけどフリルは一座がなくなった後どうするんだろうか?
 多分ルーデンスさんはフリルには自分の両親を探し出して、本当の家族と共に暮らしてほしいと願っているはずだ。
 直接聞いたわけではないが、ルーデンスさんの態度や口ぶりから容易に想像できる。
 ではフリルは?
 ルーデンスさんや一座のみんなが家族だと言ったフリルはどうするのだろうか?
 王様との謁見の時フリルは「ルーデンスさんがこの国で暮らしていく上での保障」を願ったが、そこに自分が入っていなかった。
 ずっとルーデンスさんのそばにいると言ったのだからあの願いの中に自分を含めるのは当然のことだと思うのだが……。
 そんなことを考えていると馬車は一座の仮設宿舎の前へと到着した。
 宿舎の入り口前で俺たちを待っていたらしいラフタさんが馬車から降りた俺たちに駆け寄ってくる。

「帰って来たみたいだな!シューイチとフリルに、座長が話したいことがあるってさ」
「ルーデンスさんが俺に?」

 そう言えばロイが襲撃してきたときに、エナに避難させてもらってから顔を合わせてなかったな。
 俺も事後報告をしたいし、なにより公演会場を滅茶滅茶にしてしまったことを謝らないといけないしちょうどいいか。

「わかりました、それじゃあちょっと行ってくる」
「じゃあ私たちは一座の会場修復作業ののお手伝いをしてきますね」

 エナたちと別れ、ラフタさんに連れられてフリルと共に宿舎のルーデンスさんの部屋へと赴く。
 この数日で何回この部屋に来たかなぁ、初めてきた日がすでに懐かしい。

「やあ、待っておったよ」
「怪我もないみたいでなによりですよ」

 相変わらずベッドの上からだが、昨日一件で怪我を負った形跡もないので安心した。

「えっと……仕方がなかったとはいえ、公演会場を滅茶滅茶にしてしまってすいませんでした!」
「そこは気にしなくてもよい、むしろあれだけの被害で済んでよかったわい」

 そう言ってルーデンスさんが朗らかに笑った。

「儂こそお前さんに例を言わねばならんて……フリルを助けてくれてありがとう」

 どっちかというとある意味で助けられたのは俺たちなので、お礼を言われると少し微妙な気持ちになってしまうが、そこを追求すると話がややこしくなるから甘んじて感謝を受け入れた。

「えっと、それで俺に話というのは?」
「ふむ……話とはいうのは他でもない……多分お前さんも思っておることじゃよ」

 俺とルーデンスさんが共通で思うことなんてもう一つしかないよな。

「やっぱりフリルのことですか?」

 俺の言葉に、ルーデンスさんが頷いた。
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