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勧誘~盗人猛々しい~
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翌日、冒険者ギルドに行く用事があった俺は、午前中のうちに済ませようと思い立ち部屋を出たところでエナとばったり出くわした。
「おはようございますシューイチさん」
「おっおはようエナ」
「なんでそんな後ずさるんですか?」
いや……だってねえ?
「はあ……昨日シューイチさんが何をしていたのか大体察しはつきますけど、甘いものを奢ってもらうということで手打ちにしたじゃないですか?」
「まあそうなんだけどね……」
「それはともかく……お出かけですか?」
「ちょっと冒険者ギルドにね」
俺が持ち込んだ依頼の達成報酬と、王様からの推薦状が恐らく届いてるはずなので、その両方を受け取りに行かないといけないのだ。
自分が持ち込んだ依頼の達成報酬を自分で受け取るというのも変な話だが、あれは正確にはフリルが持ち込んだ依頼が巡り巡って国からの依頼という形になり、俺がそれを無事達成したのだから俺に報酬を受け取る権利があるんだそうだ。
すでに国から色々としてもらったのに、さらにギルドからも……なんて断ろうかと思ったがクエスさん曰く「そう言う規則だから受け取ってもらわないと困る」とのこと。
「私も一緒していいですか?」
「勿論いいよ、一緒に行こう」
そんなわけでエナを伴い、俺はリンデフランデの冒険者ギルドへとやって来た。
そういえばライノスの冒険者ギルドへ行ったときは、まだ俺はこの世界の文字を読めなかったな……とギルドの看板を見て感慨深い気持ちになった。
もちろん文字が読めるようになるまで様々な苦労があったわけで……主にエナのスパルタ教育的な奴が。
ヤバい思い出したら変な汗出てきた。
「どうしたんですか、シューイチさん?」
「……エナって顔に似合わず凶暴な一面が隠れ住んでるよね?」
「人を見るなり失礼ですよ!」
なんてアホなことをしてないでさっさと用事を済ませて帰ろう。
「もう!なんなんですか!」とぷりぷりと怒るエナを共にギルドの入り口をくぐる。
そのまま受付までやってくると、俺に気が付いた受付嬢が笑顔で挨拶をしてきた。
「ようこそリンデフランデ冒険者ギルドへ!……あっハヤマ様!」
「おはようございますミツキさん、今日は依頼達成報酬を受け取りに来ました」
「はい!マスター様から伺っております!……そちらの方はお仲間の方ですか?」
受付のミツキ嬢がエナを見て首をかしげる。
「あっはい」
「そうなんですね!私てっきりハヤマ様はソロで活動されている方だと思ってました」
「あーそういえば私たち『パーティー登録』してませんでしたね」
「え?なにそれ?」
聞けばパーティー登録をしておけば、例えソロで依頼を達成したとしてもきちんとパーティー登録されている仲間の冒険者に均等に報酬額が支払われるシステムだとか。
ライノスでスプリントボア討伐依頼の報酬を三人でどのように分けるかを話し合ったが、ああいう手間のかかることをギルドが一括でやってくれるとのこと。
あとギルドカードには持ち主がどの程度活躍したかを判別する特殊な魔法が掛けられていて、それを参考にその依頼でMVPを獲得したパーティーメンバーに特別報酬を支払われるなどのことを教えてもらった。
「無理にパーティー登録する必要はありませんけど、どうしますか?」
ミツキさんの言葉に俺たちは頭を悩ませる。
「うーん……この際だからやっておこうか?」
「でもテレアちゃんがいませんよ?それに今後はフリルちゃんも加わるんですから、二人がいるときにした方がいいのでは?」
どの道明日の一座の公演が終わり、この国を発つときにはクエスさんに挨拶に来るつもりだし、その時に澄ませてしまった方が手間もなくていいか。
「じゃあパーティー登録については保留にしておこうか?」
「そうですね、それじゃあまた今度改めて登録しに来ます」
「はい、かしこまりました!では本日は国からの特別依頼の達成報酬の件でよろしいですね?」
ミツキさんのその言葉に周りにいた冒険者たちが反応し、こぞって俺たちに顔を向けてきた。
え?何この状況?
「おいアンタ!」
その中の一人が突然俺のもとに歩いてきていきなり肩を掴んできた。
なにこれ?俺もしかしてこのまま縊り殺されるの?
「俺はこの間の神獣との戦いのときにギルドマスターと一緒に駆け付けた内の一人なんだけどよ」
「ああ……その節はどうも」
はっきり言ってどんな人がいたかなんて全然見てなかったので覚えてない。
あの時は神獣を抑えるので一杯一杯だったからなぁ……。
「俺のパーティーに入らないか!?」
「……はい?」
「あの神獣を相手に一歩も引かず……むしろ圧倒していたあんたがいれば、うちのパーティーは安泰だ!あんたまだどこにもパーティー登録してないんだろう?なら俺のパーティーに入ろうぜ?なっ?」
すっげー必死!
必死すぎてちょっと後ずさってしまうくらい必死!
「おいてめえ!黙って聞いてりゃきたねえぞ!何抜け駆けしてんだ!!」
「そうよ!その彼は私のパーティーに入ってもらうんだから!」
「うるせえ!お前らのとこはもう十分な戦力が整ってるだろうが!うちは前線が不足してるんだよ!」
「私の見立てでは彼は前線だけじゃなく、中衛はおろか後衛だってこなせるはずだわ!そんな人材をみすみす逃す手はないわよ!」
「うちだってこれから超大型魔物と一線交えようってんだ!神獣すら圧倒するそいつがいれば俺たちは何事もなく勝てるんだよ!」
超大型魔物とか何それ怖すぎるんですけど!?
しかしギルド内が混沌としてきてしまったなぁ。
「あの皆さん!落ち着いてください!」
一度火のついた冒険者たちは、ミツキさんの注意くらいでその火を鎮火させることなどなく、ますますヒートアップしていく。
しかもそれを遠巻きに見ていたほかの冒険者までもが興味本位で混じってきていよいよ収集が付かなくなってきた。
こういう時はさっさと用事を済ませてこの場を去るに限るんだけど……この状況でそれができるか疑問だ。
などと考えていると、エナが俺の前にやってきた。
「すみませんシューイチさん、ちょっとギルドカード貸してください」
「え?いいけど……?」
俺からギルドカードを受け取り、今度はその足ですたすたと受付に歩いて行く。
「ミツキさん、シューイチさんとのパーティー登録をお願いします。」
「え?あっ……はい、かしこまりました!」
「「「あ――――――――――――!!!」」」
喧々囂々としていた冒険者たちが一斉にエナを指さし声をそろえて叫んだ。
「おいおいお嬢ちゃん!そりゃあないだろう!?」
「そうよそうよ!抜け駆けだわ!」
「今すぐそのパーティー登録申請を取り消せ!!」
周りの冒険者たちが口々にエナに囃し立てる。
おいおいさすがにエナに手を出そうものなら、俺も黙ってはいないぞ?
「私は元々シューイチさんと共に旅してきた仲間ですよ?その私が彼とパーティー登録をすることに何か問題でもあるんですか?」
「そっそれは……でも!」
「それに私と彼と……今ここにはいませんがテレアちゃんを含めた私たち三人は、マグリド王に正式に認めらている冒険者パーティーです!なんなら今ここでマグリド王の推薦状をお見せしましょうか?」
マグリド王の推薦状という単語に、周りの冒険者たちが一気にクールダウンしていく。
俺はというとエナの迫力に圧倒されて、情けなくも声すら出せなかった。
「……悪かった、頭に血が上った……」
「ええ……熱くなりすぎたわ、ごめんなさいね」
「すまねぇ……騒ぎを起こすつもりじゃなかったんだ」
それぞれに謝罪の言葉を口にしながら冒険者たちが散っていった。
あービックリした……何に一番びっくりしたかと言えばやはりエナに一番びっくりした。
まさかあの状況であんな行動に出るとは……。
「登録完了しました!お連れ様がいらっしゃるのなら、後日また連れ来ていただければその時に追加で登録いたしますので」
「ありがとうございます」
「依頼達成報酬についてはどうしましょうか?今ここでお渡ししますか?」
「うーん……それは私たち全員がパーティー登録済ませてからでいいかもですね……それでいいですかシューイチさん?」
エナのその言葉に、俺は無言でうんうんと何度も頷いた。
「ではまた近日中にこちらに来ますのでその時にお願いします」
「はい!……えっとありがとうございました」
「いいですよーこんなことはギルド内ではしょっちゅうだと思いますし」
そんな感じでミツキさんと一言二言交わしたエナが俺のもとに戻って来た。
「シューイチさんのギルドカード返しますね」
「あっうん」
エナから受け取った俺のギルドカードを懐にしまうと、それを確認したエナが俺の手を取り出口に向かって歩き出した。
結局そのままギルドを出て、しばらく歩いたあとようやくエナは俺の手を離した。
「あのーエナさん?」
「なんですか?」
「なんか怒ってらっしゃる?」
恐る恐る聞いてみる。
「ええ怒ってますとも!何なんですかまったく!」
歩いてる間に幾分かクールダウンしたようだが、俺に指摘されたせいでどうやらまた怒りが湧いて来たみたいだ。
「シューイチさんは私の仲間なんですから!それを横からかっさらっていこうだなんて!盗人猛々しいですよ!」
「あっ、そっちに怒ってたのね」
「他に何かあるんですか!?」
てっきりあの場でなにも出来なかった俺に怒ってるのだとばかり思っていたが、今それを指摘するとついでに俺も怒られそうな気がしたので黙っていることにした。
しかし……「私の仲間」か……。
この間は「一人の方が気楽だった―――」みたいなこと言ってたのになぁ。
「……どうしてシューイチさんはニヤニヤしてるんですか?」
「え?ニヤニヤなんてしてないけど?」
「してますよ!……もしかしてさっきの冒険者の中にいたあの妙に露出の高い魔法使いの人を思い出してるんじゃないでしょうね?」
そんな人いたっけ?
女の人がいたような気もするけど、あんまり気にしてなかったな……よく見ておけばよかった。
「たしかに……私は露出も高くないし胸も……」
「えっ?」
「なんでもありません!それよりもうギルドでの用事は済みましたよね?なら甘い物食べに行きましょう!」
そう言って先に行こうとするエナに小走りで追いつき俺は言った。
「さっきのエナ、かっこよかったぞ?」
「女の子としては嬉しくない言葉ですね……」
なんて言いつつもちょっと満更でもない表情を浮かべるエナと連れ立って、俺たちは甘いものを求めて街へと繰り出して行ったのだった。
後日、体重計を目の前にしてがっくりとうなだれているエナを目撃することになるのだが……その話はまた別の機会でいいよな?
「おはようございますシューイチさん」
「おっおはようエナ」
「なんでそんな後ずさるんですか?」
いや……だってねえ?
「はあ……昨日シューイチさんが何をしていたのか大体察しはつきますけど、甘いものを奢ってもらうということで手打ちにしたじゃないですか?」
「まあそうなんだけどね……」
「それはともかく……お出かけですか?」
「ちょっと冒険者ギルドにね」
俺が持ち込んだ依頼の達成報酬と、王様からの推薦状が恐らく届いてるはずなので、その両方を受け取りに行かないといけないのだ。
自分が持ち込んだ依頼の達成報酬を自分で受け取るというのも変な話だが、あれは正確にはフリルが持ち込んだ依頼が巡り巡って国からの依頼という形になり、俺がそれを無事達成したのだから俺に報酬を受け取る権利があるんだそうだ。
すでに国から色々としてもらったのに、さらにギルドからも……なんて断ろうかと思ったがクエスさん曰く「そう言う規則だから受け取ってもらわないと困る」とのこと。
「私も一緒していいですか?」
「勿論いいよ、一緒に行こう」
そんなわけでエナを伴い、俺はリンデフランデの冒険者ギルドへとやって来た。
そういえばライノスの冒険者ギルドへ行ったときは、まだ俺はこの世界の文字を読めなかったな……とギルドの看板を見て感慨深い気持ちになった。
もちろん文字が読めるようになるまで様々な苦労があったわけで……主にエナのスパルタ教育的な奴が。
ヤバい思い出したら変な汗出てきた。
「どうしたんですか、シューイチさん?」
「……エナって顔に似合わず凶暴な一面が隠れ住んでるよね?」
「人を見るなり失礼ですよ!」
なんてアホなことをしてないでさっさと用事を済ませて帰ろう。
「もう!なんなんですか!」とぷりぷりと怒るエナを共にギルドの入り口をくぐる。
そのまま受付までやってくると、俺に気が付いた受付嬢が笑顔で挨拶をしてきた。
「ようこそリンデフランデ冒険者ギルドへ!……あっハヤマ様!」
「おはようございますミツキさん、今日は依頼達成報酬を受け取りに来ました」
「はい!マスター様から伺っております!……そちらの方はお仲間の方ですか?」
受付のミツキ嬢がエナを見て首をかしげる。
「あっはい」
「そうなんですね!私てっきりハヤマ様はソロで活動されている方だと思ってました」
「あーそういえば私たち『パーティー登録』してませんでしたね」
「え?なにそれ?」
聞けばパーティー登録をしておけば、例えソロで依頼を達成したとしてもきちんとパーティー登録されている仲間の冒険者に均等に報酬額が支払われるシステムだとか。
ライノスでスプリントボア討伐依頼の報酬を三人でどのように分けるかを話し合ったが、ああいう手間のかかることをギルドが一括でやってくれるとのこと。
あとギルドカードには持ち主がどの程度活躍したかを判別する特殊な魔法が掛けられていて、それを参考にその依頼でMVPを獲得したパーティーメンバーに特別報酬を支払われるなどのことを教えてもらった。
「無理にパーティー登録する必要はありませんけど、どうしますか?」
ミツキさんの言葉に俺たちは頭を悩ませる。
「うーん……この際だからやっておこうか?」
「でもテレアちゃんがいませんよ?それに今後はフリルちゃんも加わるんですから、二人がいるときにした方がいいのでは?」
どの道明日の一座の公演が終わり、この国を発つときにはクエスさんに挨拶に来るつもりだし、その時に澄ませてしまった方が手間もなくていいか。
「じゃあパーティー登録については保留にしておこうか?」
「そうですね、それじゃあまた今度改めて登録しに来ます」
「はい、かしこまりました!では本日は国からの特別依頼の達成報酬の件でよろしいですね?」
ミツキさんのその言葉に周りにいた冒険者たちが反応し、こぞって俺たちに顔を向けてきた。
え?何この状況?
「おいアンタ!」
その中の一人が突然俺のもとに歩いてきていきなり肩を掴んできた。
なにこれ?俺もしかしてこのまま縊り殺されるの?
「俺はこの間の神獣との戦いのときにギルドマスターと一緒に駆け付けた内の一人なんだけどよ」
「ああ……その節はどうも」
はっきり言ってどんな人がいたかなんて全然見てなかったので覚えてない。
あの時は神獣を抑えるので一杯一杯だったからなぁ……。
「俺のパーティーに入らないか!?」
「……はい?」
「あの神獣を相手に一歩も引かず……むしろ圧倒していたあんたがいれば、うちのパーティーは安泰だ!あんたまだどこにもパーティー登録してないんだろう?なら俺のパーティーに入ろうぜ?なっ?」
すっげー必死!
必死すぎてちょっと後ずさってしまうくらい必死!
「おいてめえ!黙って聞いてりゃきたねえぞ!何抜け駆けしてんだ!!」
「そうよ!その彼は私のパーティーに入ってもらうんだから!」
「うるせえ!お前らのとこはもう十分な戦力が整ってるだろうが!うちは前線が不足してるんだよ!」
「私の見立てでは彼は前線だけじゃなく、中衛はおろか後衛だってこなせるはずだわ!そんな人材をみすみす逃す手はないわよ!」
「うちだってこれから超大型魔物と一線交えようってんだ!神獣すら圧倒するそいつがいれば俺たちは何事もなく勝てるんだよ!」
超大型魔物とか何それ怖すぎるんですけど!?
しかしギルド内が混沌としてきてしまったなぁ。
「あの皆さん!落ち着いてください!」
一度火のついた冒険者たちは、ミツキさんの注意くらいでその火を鎮火させることなどなく、ますますヒートアップしていく。
しかもそれを遠巻きに見ていたほかの冒険者までもが興味本位で混じってきていよいよ収集が付かなくなってきた。
こういう時はさっさと用事を済ませてこの場を去るに限るんだけど……この状況でそれができるか疑問だ。
などと考えていると、エナが俺の前にやってきた。
「すみませんシューイチさん、ちょっとギルドカード貸してください」
「え?いいけど……?」
俺からギルドカードを受け取り、今度はその足ですたすたと受付に歩いて行く。
「ミツキさん、シューイチさんとのパーティー登録をお願いします。」
「え?あっ……はい、かしこまりました!」
「「「あ――――――――――――!!!」」」
喧々囂々としていた冒険者たちが一斉にエナを指さし声をそろえて叫んだ。
「おいおいお嬢ちゃん!そりゃあないだろう!?」
「そうよそうよ!抜け駆けだわ!」
「今すぐそのパーティー登録申請を取り消せ!!」
周りの冒険者たちが口々にエナに囃し立てる。
おいおいさすがにエナに手を出そうものなら、俺も黙ってはいないぞ?
「私は元々シューイチさんと共に旅してきた仲間ですよ?その私が彼とパーティー登録をすることに何か問題でもあるんですか?」
「そっそれは……でも!」
「それに私と彼と……今ここにはいませんがテレアちゃんを含めた私たち三人は、マグリド王に正式に認めらている冒険者パーティーです!なんなら今ここでマグリド王の推薦状をお見せしましょうか?」
マグリド王の推薦状という単語に、周りの冒険者たちが一気にクールダウンしていく。
俺はというとエナの迫力に圧倒されて、情けなくも声すら出せなかった。
「……悪かった、頭に血が上った……」
「ええ……熱くなりすぎたわ、ごめんなさいね」
「すまねぇ……騒ぎを起こすつもりじゃなかったんだ」
それぞれに謝罪の言葉を口にしながら冒険者たちが散っていった。
あービックリした……何に一番びっくりしたかと言えばやはりエナに一番びっくりした。
まさかあの状況であんな行動に出るとは……。
「登録完了しました!お連れ様がいらっしゃるのなら、後日また連れ来ていただければその時に追加で登録いたしますので」
「ありがとうございます」
「依頼達成報酬についてはどうしましょうか?今ここでお渡ししますか?」
「うーん……それは私たち全員がパーティー登録済ませてからでいいかもですね……それでいいですかシューイチさん?」
エナのその言葉に、俺は無言でうんうんと何度も頷いた。
「ではまた近日中にこちらに来ますのでその時にお願いします」
「はい!……えっとありがとうございました」
「いいですよーこんなことはギルド内ではしょっちゅうだと思いますし」
そんな感じでミツキさんと一言二言交わしたエナが俺のもとに戻って来た。
「シューイチさんのギルドカード返しますね」
「あっうん」
エナから受け取った俺のギルドカードを懐にしまうと、それを確認したエナが俺の手を取り出口に向かって歩き出した。
結局そのままギルドを出て、しばらく歩いたあとようやくエナは俺の手を離した。
「あのーエナさん?」
「なんですか?」
「なんか怒ってらっしゃる?」
恐る恐る聞いてみる。
「ええ怒ってますとも!何なんですかまったく!」
歩いてる間に幾分かクールダウンしたようだが、俺に指摘されたせいでどうやらまた怒りが湧いて来たみたいだ。
「シューイチさんは私の仲間なんですから!それを横からかっさらっていこうだなんて!盗人猛々しいですよ!」
「あっ、そっちに怒ってたのね」
「他に何かあるんですか!?」
てっきりあの場でなにも出来なかった俺に怒ってるのだとばかり思っていたが、今それを指摘するとついでに俺も怒られそうな気がしたので黙っていることにした。
しかし……「私の仲間」か……。
この間は「一人の方が気楽だった―――」みたいなこと言ってたのになぁ。
「……どうしてシューイチさんはニヤニヤしてるんですか?」
「え?ニヤニヤなんてしてないけど?」
「してますよ!……もしかしてさっきの冒険者の中にいたあの妙に露出の高い魔法使いの人を思い出してるんじゃないでしょうね?」
そんな人いたっけ?
女の人がいたような気もするけど、あんまり気にしてなかったな……よく見ておけばよかった。
「たしかに……私は露出も高くないし胸も……」
「えっ?」
「なんでもありません!それよりもうギルドでの用事は済みましたよね?なら甘い物食べに行きましょう!」
そう言って先に行こうとするエナに小走りで追いつき俺は言った。
「さっきのエナ、かっこよかったぞ?」
「女の子としては嬉しくない言葉ですね……」
なんて言いつつもちょっと満更でもない表情を浮かべるエナと連れ立って、俺たちは甘いものを求めて街へと繰り出して行ったのだった。
後日、体重計を目の前にしてがっくりとうなだれているエナを目撃することになるのだが……その話はまた別の機会でいいよな?
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