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意志~受け継いだもの~
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いよいよルーデンス旅芸人一座の最後の公演の日がやってきた。
団員たちの曲芸も一段と気合が入っており最後を飾るにふさわしく、素晴らしい物であった。
会場も観客たちから発する熱と歓声でもはや暑いくらいだ。
神獣に破壊された会場の修復だが、急ピッチで進めたおかげでなんとか体裁を保てるくらいには修復できた。
ただ俺が開けてしまった天井の大穴だけはどうにもならず、間に合わせでブルーシートをのようなものを上から被せることで対処した。
神獣に壊されたのが会場だけであり、曲芸に使うような小道具や舞台装置などが破壊されていたら、とてもじゃないけど今日の公演には間に合わなかったとラフタさんが言っていた。
「こんなすごい物をただで見させてもらっていいのかなぁ……」
再び見ることが出来た空中ブランコを見つつ、興奮しながらもテレアが言った。
客として見る以上はお金を払うと言ったのだが、ラフタさんが頑として受け取らなかったのだ。
「これだけ関わった以上は、アンタたちはもううちらの家族みたいなもんだ!金なんて取れないよ!」
結局そう言われながら背中を押され、この一番見晴らしのいい席へと強引に座らされたのである。
「だよなぁーお金払わせてほしいよなぁー」
「シューイチさんもテレアちゃんも人の厚意を素直に受け取るの苦手ですよね……気持ちはわかりますがここは素直に楽しんでおきましょうよ?」
ただより高いものはないって言葉もあるにはあるが……まあこの一座のことだしそこまで警戒するようなものでもないか。
ここはエナの言う通り素直に楽しんでおくとしよう。
そんな俺たちを尻目にどんどん演目は進んでいき、いよいよ残すところは……。
「それでは皆さんお待ちかね……新緑の歌姫フリル=フルリルのご登場だー!!」
ラフタさんの口からフリルの名前が出てきただけで、観客から割れんばかりの歓声が響き渡る。
相変わらずフリルの人気は凄まじい物があるな。
フリルがいつもの歩調でトコトコと壇上の真ん中まで歩いてきて、ペコリとお辞儀する。
壇上で歌の準備を始めていくフリルを見ながらこの国に来てからの一連の出来事を思い返す。
この国来てすぐにフリルと出会い、最初は変な子に絡まれたな……なんて思いつつ相手にしてたっけな。
そこから矢継ぎ早にロイが引き起こした一座の魔物の暴走をなんとか収めて、翌日フリルから助けを求められて……。
そこからはロイのもとに乗り込んで記憶操作されたり、それをシエルになんとかしてもらったり、色々と資料を調べまわったり……最終的には神獣が復活する事態に陥ってしまったものの、無事にフリルの歌で鎮められた。
……そういえばあの時光となった神獣が、フリルに吸い込まれていったように見えたんだけど、あれは何だったんだろうか?今度フリルに確認しないといけないな。
そうして紆余曲折の末、この国と太いパイプが出来てしまっただけでなく、フリルも俺たちの仲間になることになってしまった。
はっきり言って、どうしてこうなった状態だ。
フリル自身は俺たちの仲間になること自体は容認しているが、俺にはどうしても一つだけ気がかりなことがある。
それは勿論フリルがいなくなった後のルーデンスさんのことだ。
「お兄ちゃん、フリルお姉ちゃんの歌が始まるよ」
「ん?ああっ?」
テレアの声で思考の海に潜っていた意識が現実に引き戻される。
会場を見れば今まさにフリルが歌い始めようとしているところだった。
「ぼーっとしてたみたいですけど、どうしたんですか?」
「ちょっと色々とね……」
エナの心配する声を軽くいなしながら、俺は始まったフリルの歌に集中し始める。
文字通りこの一座の公演の最後を飾るフリルの歌は、自分の周りにいる人たち全てに贈る感謝の歌であった。
「わざわざ呼んでしまってすまないのう」
「いえ、俺もちょっと話したいことがあったんで」
一座の公演が終わって、相変わらず座席に座りフリル歌の余韻に浸っていた俺たちのもとにラフタさんがやってきて、この後みんなで打ち上げをするのでぜひ参加してほしいと言われた。
一座のみんなと打ち上げで盛り上がる中、フリルに「おじじが呼んでるから来てくれ」と言われて、俺は一人ルーデンスさんの部屋にやって来たのだ。
「まあそこに座りなさい」
「はい……」
いつもフリルが座っていたルーデンスさんの寝ているベッドの傍らに置かれた椅子に腰かける。
「こうしてお前さんの顔をしっかりと見るのは初めてじゃな」
「そういやそうでしたね」
いつもこの位置にはフリルがいて、俺たちは遠巻きで話すだけだったからな。
「中々端正な顔つきをしておるではないか……ほっほっほっ」
「そんなこと言われたのは初めてですよ」
「お前さんにならフリルを預けても大丈夫じゃな」
そう言って俺の顔を見ながら目を細めるルーデンスさんが、手を差し出してくる。
俺はその手を両手で包み込むように握る。
「お前さんに頼みがある……儂の代わりにフリルの両親を見つけてやってくれ」
「……はい、必ず」
ルーデンスさんが生きがいとまで言った、フリルの両親探しを今度から俺が引き継ぐことになる。
わかっていたことだが、その意志は大きくて重たい。
だからこそフリルを預かると決めた俺が背負わなければならない重さなのだ。
途中で放り投げるわけにはいかない。
フリルを預かると同時に俺はルーデンスさんの残りの人生をも背負ったことになったのだから。
「よかった……これで儂はもう思い残すことはないわい」
「俺からも一ついいですか?ルーデンスさんはこれからどうするんですか?」
その言葉を受けてルーデンスさんが俺から視線を外し、天井を見上げる。
「どうもせんよ……これらも一座のみんなと騒がしくやっていくわい」
「フリルと似たようなこと言うんですね」
「そうか……結局あの子は自分のことなど二の次なのじゃな」
ルーデンスさんがため息を吐く。
だがフリルがそうであるように、ルーデンスさんも自分のことなど二の次なのだ。
フリルとルーデンスさんはよく似ている。
本当の親子ではないものの、二人の間にある絆は本当の親子には負けない強固なものだ。
それを俺が引き離してしまっていいのだろうか?
「本当にいいんですか?本当はルーデンスさんは最後までフリルのそばにいたいんじゃないんですか?」
「フリルのことはお前さんに託した……だから何の心配もしとらんよ」
「いや、そうではなくて……」
「わかっておるよお前さんの言いたいことは……お前さんは優しいのう……だがこれは儂のわがままじゃ」
天井を見ていたルーデンスさんが、再び俺に視線を戻す。
「老い先短いおいぼれの最後のわがままじゃ……どうか聞き入れてくれ」
「……」
「たしかにフリルと別れるのは辛いことじゃが、儂はフリルに感謝もしておる……儂のように結婚もせず子供もいなかった男に、娘がいることの幸せを教えてもらったからな……だが生きていれば必ず別れはくる。それは明日かもしれんし一年後かもしれん……あの子を一人にするよりは、フリルが信頼しているお前さんに預けた方が何倍も安心じゃわい」
きっとこの人は常にフリルとの別れを覚悟をしながら生きてきたのだろう。
なんて強い人なんだろう……素直に尊敬する。
俺にそんなことが出来るのだろうか?
ただでさえエナやテレアと何かが原因で別れることになったらと思うと、身を切られるような思いになるというのに。
「それに儂にはまだ一座のみんながおる。ラフタも一人前の座長にしてやらないといけないし、まだまだ休んでおる暇などないわい」
「……そうですか」
「だからフリルのことはお前さんに託した。あの子を……儂の娘をどうかよろしく頼む」
俺の両手に包まれたルーデンスさんの手に今まで以上に力が籠る。
俺はそれに強く握り返すことで答えたのだった。
「おうおかえりシューイチ!座長は?」
「疲れたから今日はもう寝ると」
「そっか。何を話してた?……なんて野暮なことは聞かないよ。たださ……座長があのフリルをアンタに預けるってことの意味を汲んでやってくれないか?」
この人もルーデンスさんのことをよく理解しているんだろう。
恐らく先ほど俺がルーデンスさんと交わした会話の内容も察しているのだろうな。
「ルーデンスさんもフリルも幸せ者ですね。こんなに想ってもらってるんですから」
「そうだぞ?だからフリルを泣かせたら、私がすっ飛んで行ってぶん殴るからな?」
「そうなったら全裸になって迎え撃ちますよ」
「卑怯だぞ!?それじゃあ手も足もでないじゃないか!」
そうして俺たちは顔を見合わせて笑いあった。
「まあそういうわけなんで、よろしく頼まれてやってくれよ?」
「頼まれましたよ」
ラフタさんがそう言い残し、打ち上げの輪の中に戻っていった。
本当にどうしてこうなったんだろうな?
そんな風に思いながら、ラフタさんに続くように俺も打ち上げの輪の中に入って行くのだった。
明けて翌日。
忘れないうちにと朝一番にテレアとフリルを伴いギルドへと行き、フリルのギルド登録とテレアを含めたパーティー登録を済ませた。
ちなみにフリルのギルド登録承認試験は、国とクエスさんからの特別処置ということで免除された。
「正直合ってないような試験だし、それに君たちが付いているなら何の問題もないだろう」
「いいんですか?ギルドマスターがそんなこと言って?」
「これが国の騎士団入団試験ならこうはいかないが、ここは冒険者ギルドだろ?」
そう言ってクエスさんがにやりと笑う。
散々お世話になっておいてなんだが、この人も中々食えない人だ。
「まあそういうことだよ……それとこれが王からの推薦状だ」
「どうも……それはともかく依頼報酬あんなにもらってよかったんですか?」
「国からの特別依頼の報酬が多いのは当たり前だろ?」
だからって多すぎなんだよなぁ……額を見て目玉が飛び出るかと思ったぞ。
正確な額はあえて伏せるが、しばらくは何もせず遊んで暮らせるのではないかと思える額だった。
まあ遊んで暮らそうだなんて思っちゃいないわけだが。
これから冒険していく上でお金は必要になってくるだろうし、このお金は活動費として大事に使っていかないとな。
「君のおかげでこの国は神獣の被害から救われた。例を言うよ」
「こちらこそ色々と無理を聞いてもらってありがとうございました!これからもよろしくお願いします」
「出来ればもう勘弁してほしいところだが、君は通信機を持ってるしな……まあ立場上困ったことがあったら頼ってくれと言っておくよ」
そう言って俺たちは握手を交わした後、笑顔で別れたのだった。
「忘れ物はありませんね?」
「うん!ちゃんと確認したから大丈夫だよ!」
一週間くらいお世話になった宿屋を前に馬車を停めて、俺たちは最後の確認を行う。
そうしていると、フリルを連れた一座のみんながぞろぞろと宿の前にやって来た。
さすがにルーデンスさんはいないだろうと思ったが、ラフタさんにおんぶされる形でこの場に来ていた。
「こりゃまた大勢で来ましたね」
「そりゃそうだぜ!なんたって俺たちの家族のフリルの門出だかんな!」
「それにアンタたちだってもう家族みたいなもんだよ!だからこうして一座総出で来たってわけさ!」
笑いながらダックスとラフタさんが俺に言った。
この二人にも結構世話になったなぁ……ラフタさんには背中叩かれてばかりだったような気がするけど。
「お前さんたちのおかげで、最後の一座の公演を有終の美で飾ることができた……感謝しておるよ」
「いえいえ!俺たちもいい物を見させてもらったので!」
ラフタさんに背負われたルーデンスさんが笑いながらお礼を言ってきた。
むしろ最終日はただで公演を見せてもらったんだからお礼を言うのはこっちのなんだけどね。
「さあフリル」
「……おじじ今までありがとう……ございました……私……」
「お前さんとの別れは昨日までで散々済ませたじゃろ?これ以上話すことはない」
「……うん!……おじじも元気で」
「うむ、達者でなフリル」
その言葉に頷いたフリルが、俺たちの下に駆け寄って来た。
そして立ち止まり、深々と頭を下げる。
「……これからよろしくお願いします」
「はい!今日からフリルちゃんは私たちの仲間ですよ!」
「うん!よろしくねフリルお姉ちゃん!」
「よろしくな!」
俺たちの歓迎の言葉を聞き顔を上げたフリルが、一座のみんなに振り替えり再び頭を下げる。
「……今までお世話になりました……行ってきます!」
「おう!行ってこい!」
「新緑の歌姫の歌を世界に広めて来い!!」
「フリルちゃん元気でね!」
「たまには帰って来いよ!!」
一座のみんなの別れの言葉を受けたフリルが顔を上げ、俺に振り返った。
「……それじゃあ運ちゃん、行ってくれ」
「誰が運ちゃんやねん!!」
そのやりとりに、周りからどっと笑いが沸き起こった。
こんな状況でも……いやこんな状況だからこそフリルはフリルなんだよな。
俺たち四人は馬車に乗り込み、一座のみんなの声に見送られながら馬車を走らせた。
こうして俺たち一行は新たな仲間を加えて、この国を後にしたのだった。
さらばリンデフランデ!
団員たちの曲芸も一段と気合が入っており最後を飾るにふさわしく、素晴らしい物であった。
会場も観客たちから発する熱と歓声でもはや暑いくらいだ。
神獣に破壊された会場の修復だが、急ピッチで進めたおかげでなんとか体裁を保てるくらいには修復できた。
ただ俺が開けてしまった天井の大穴だけはどうにもならず、間に合わせでブルーシートをのようなものを上から被せることで対処した。
神獣に壊されたのが会場だけであり、曲芸に使うような小道具や舞台装置などが破壊されていたら、とてもじゃないけど今日の公演には間に合わなかったとラフタさんが言っていた。
「こんなすごい物をただで見させてもらっていいのかなぁ……」
再び見ることが出来た空中ブランコを見つつ、興奮しながらもテレアが言った。
客として見る以上はお金を払うと言ったのだが、ラフタさんが頑として受け取らなかったのだ。
「これだけ関わった以上は、アンタたちはもううちらの家族みたいなもんだ!金なんて取れないよ!」
結局そう言われながら背中を押され、この一番見晴らしのいい席へと強引に座らされたのである。
「だよなぁーお金払わせてほしいよなぁー」
「シューイチさんもテレアちゃんも人の厚意を素直に受け取るの苦手ですよね……気持ちはわかりますがここは素直に楽しんでおきましょうよ?」
ただより高いものはないって言葉もあるにはあるが……まあこの一座のことだしそこまで警戒するようなものでもないか。
ここはエナの言う通り素直に楽しんでおくとしよう。
そんな俺たちを尻目にどんどん演目は進んでいき、いよいよ残すところは……。
「それでは皆さんお待ちかね……新緑の歌姫フリル=フルリルのご登場だー!!」
ラフタさんの口からフリルの名前が出てきただけで、観客から割れんばかりの歓声が響き渡る。
相変わらずフリルの人気は凄まじい物があるな。
フリルがいつもの歩調でトコトコと壇上の真ん中まで歩いてきて、ペコリとお辞儀する。
壇上で歌の準備を始めていくフリルを見ながらこの国に来てからの一連の出来事を思い返す。
この国来てすぐにフリルと出会い、最初は変な子に絡まれたな……なんて思いつつ相手にしてたっけな。
そこから矢継ぎ早にロイが引き起こした一座の魔物の暴走をなんとか収めて、翌日フリルから助けを求められて……。
そこからはロイのもとに乗り込んで記憶操作されたり、それをシエルになんとかしてもらったり、色々と資料を調べまわったり……最終的には神獣が復活する事態に陥ってしまったものの、無事にフリルの歌で鎮められた。
……そういえばあの時光となった神獣が、フリルに吸い込まれていったように見えたんだけど、あれは何だったんだろうか?今度フリルに確認しないといけないな。
そうして紆余曲折の末、この国と太いパイプが出来てしまっただけでなく、フリルも俺たちの仲間になることになってしまった。
はっきり言って、どうしてこうなった状態だ。
フリル自身は俺たちの仲間になること自体は容認しているが、俺にはどうしても一つだけ気がかりなことがある。
それは勿論フリルがいなくなった後のルーデンスさんのことだ。
「お兄ちゃん、フリルお姉ちゃんの歌が始まるよ」
「ん?ああっ?」
テレアの声で思考の海に潜っていた意識が現実に引き戻される。
会場を見れば今まさにフリルが歌い始めようとしているところだった。
「ぼーっとしてたみたいですけど、どうしたんですか?」
「ちょっと色々とね……」
エナの心配する声を軽くいなしながら、俺は始まったフリルの歌に集中し始める。
文字通りこの一座の公演の最後を飾るフリルの歌は、自分の周りにいる人たち全てに贈る感謝の歌であった。
「わざわざ呼んでしまってすまないのう」
「いえ、俺もちょっと話したいことがあったんで」
一座の公演が終わって、相変わらず座席に座りフリル歌の余韻に浸っていた俺たちのもとにラフタさんがやってきて、この後みんなで打ち上げをするのでぜひ参加してほしいと言われた。
一座のみんなと打ち上げで盛り上がる中、フリルに「おじじが呼んでるから来てくれ」と言われて、俺は一人ルーデンスさんの部屋にやって来たのだ。
「まあそこに座りなさい」
「はい……」
いつもフリルが座っていたルーデンスさんの寝ているベッドの傍らに置かれた椅子に腰かける。
「こうしてお前さんの顔をしっかりと見るのは初めてじゃな」
「そういやそうでしたね」
いつもこの位置にはフリルがいて、俺たちは遠巻きで話すだけだったからな。
「中々端正な顔つきをしておるではないか……ほっほっほっ」
「そんなこと言われたのは初めてですよ」
「お前さんにならフリルを預けても大丈夫じゃな」
そう言って俺の顔を見ながら目を細めるルーデンスさんが、手を差し出してくる。
俺はその手を両手で包み込むように握る。
「お前さんに頼みがある……儂の代わりにフリルの両親を見つけてやってくれ」
「……はい、必ず」
ルーデンスさんが生きがいとまで言った、フリルの両親探しを今度から俺が引き継ぐことになる。
わかっていたことだが、その意志は大きくて重たい。
だからこそフリルを預かると決めた俺が背負わなければならない重さなのだ。
途中で放り投げるわけにはいかない。
フリルを預かると同時に俺はルーデンスさんの残りの人生をも背負ったことになったのだから。
「よかった……これで儂はもう思い残すことはないわい」
「俺からも一ついいですか?ルーデンスさんはこれからどうするんですか?」
その言葉を受けてルーデンスさんが俺から視線を外し、天井を見上げる。
「どうもせんよ……これらも一座のみんなと騒がしくやっていくわい」
「フリルと似たようなこと言うんですね」
「そうか……結局あの子は自分のことなど二の次なのじゃな」
ルーデンスさんがため息を吐く。
だがフリルがそうであるように、ルーデンスさんも自分のことなど二の次なのだ。
フリルとルーデンスさんはよく似ている。
本当の親子ではないものの、二人の間にある絆は本当の親子には負けない強固なものだ。
それを俺が引き離してしまっていいのだろうか?
「本当にいいんですか?本当はルーデンスさんは最後までフリルのそばにいたいんじゃないんですか?」
「フリルのことはお前さんに託した……だから何の心配もしとらんよ」
「いや、そうではなくて……」
「わかっておるよお前さんの言いたいことは……お前さんは優しいのう……だがこれは儂のわがままじゃ」
天井を見ていたルーデンスさんが、再び俺に視線を戻す。
「老い先短いおいぼれの最後のわがままじゃ……どうか聞き入れてくれ」
「……」
「たしかにフリルと別れるのは辛いことじゃが、儂はフリルに感謝もしておる……儂のように結婚もせず子供もいなかった男に、娘がいることの幸せを教えてもらったからな……だが生きていれば必ず別れはくる。それは明日かもしれんし一年後かもしれん……あの子を一人にするよりは、フリルが信頼しているお前さんに預けた方が何倍も安心じゃわい」
きっとこの人は常にフリルとの別れを覚悟をしながら生きてきたのだろう。
なんて強い人なんだろう……素直に尊敬する。
俺にそんなことが出来るのだろうか?
ただでさえエナやテレアと何かが原因で別れることになったらと思うと、身を切られるような思いになるというのに。
「それに儂にはまだ一座のみんながおる。ラフタも一人前の座長にしてやらないといけないし、まだまだ休んでおる暇などないわい」
「……そうですか」
「だからフリルのことはお前さんに託した。あの子を……儂の娘をどうかよろしく頼む」
俺の両手に包まれたルーデンスさんの手に今まで以上に力が籠る。
俺はそれに強く握り返すことで答えたのだった。
「おうおかえりシューイチ!座長は?」
「疲れたから今日はもう寝ると」
「そっか。何を話してた?……なんて野暮なことは聞かないよ。たださ……座長があのフリルをアンタに預けるってことの意味を汲んでやってくれないか?」
この人もルーデンスさんのことをよく理解しているんだろう。
恐らく先ほど俺がルーデンスさんと交わした会話の内容も察しているのだろうな。
「ルーデンスさんもフリルも幸せ者ですね。こんなに想ってもらってるんですから」
「そうだぞ?だからフリルを泣かせたら、私がすっ飛んで行ってぶん殴るからな?」
「そうなったら全裸になって迎え撃ちますよ」
「卑怯だぞ!?それじゃあ手も足もでないじゃないか!」
そうして俺たちは顔を見合わせて笑いあった。
「まあそういうわけなんで、よろしく頼まれてやってくれよ?」
「頼まれましたよ」
ラフタさんがそう言い残し、打ち上げの輪の中に戻っていった。
本当にどうしてこうなったんだろうな?
そんな風に思いながら、ラフタさんに続くように俺も打ち上げの輪の中に入って行くのだった。
明けて翌日。
忘れないうちにと朝一番にテレアとフリルを伴いギルドへと行き、フリルのギルド登録とテレアを含めたパーティー登録を済ませた。
ちなみにフリルのギルド登録承認試験は、国とクエスさんからの特別処置ということで免除された。
「正直合ってないような試験だし、それに君たちが付いているなら何の問題もないだろう」
「いいんですか?ギルドマスターがそんなこと言って?」
「これが国の騎士団入団試験ならこうはいかないが、ここは冒険者ギルドだろ?」
そう言ってクエスさんがにやりと笑う。
散々お世話になっておいてなんだが、この人も中々食えない人だ。
「まあそういうことだよ……それとこれが王からの推薦状だ」
「どうも……それはともかく依頼報酬あんなにもらってよかったんですか?」
「国からの特別依頼の報酬が多いのは当たり前だろ?」
だからって多すぎなんだよなぁ……額を見て目玉が飛び出るかと思ったぞ。
正確な額はあえて伏せるが、しばらくは何もせず遊んで暮らせるのではないかと思える額だった。
まあ遊んで暮らそうだなんて思っちゃいないわけだが。
これから冒険していく上でお金は必要になってくるだろうし、このお金は活動費として大事に使っていかないとな。
「君のおかげでこの国は神獣の被害から救われた。例を言うよ」
「こちらこそ色々と無理を聞いてもらってありがとうございました!これからもよろしくお願いします」
「出来ればもう勘弁してほしいところだが、君は通信機を持ってるしな……まあ立場上困ったことがあったら頼ってくれと言っておくよ」
そう言って俺たちは握手を交わした後、笑顔で別れたのだった。
「忘れ物はありませんね?」
「うん!ちゃんと確認したから大丈夫だよ!」
一週間くらいお世話になった宿屋を前に馬車を停めて、俺たちは最後の確認を行う。
そうしていると、フリルを連れた一座のみんながぞろぞろと宿の前にやって来た。
さすがにルーデンスさんはいないだろうと思ったが、ラフタさんにおんぶされる形でこの場に来ていた。
「こりゃまた大勢で来ましたね」
「そりゃそうだぜ!なんたって俺たちの家族のフリルの門出だかんな!」
「それにアンタたちだってもう家族みたいなもんだよ!だからこうして一座総出で来たってわけさ!」
笑いながらダックスとラフタさんが俺に言った。
この二人にも結構世話になったなぁ……ラフタさんには背中叩かれてばかりだったような気がするけど。
「お前さんたちのおかげで、最後の一座の公演を有終の美で飾ることができた……感謝しておるよ」
「いえいえ!俺たちもいい物を見させてもらったので!」
ラフタさんに背負われたルーデンスさんが笑いながらお礼を言ってきた。
むしろ最終日はただで公演を見せてもらったんだからお礼を言うのはこっちのなんだけどね。
「さあフリル」
「……おじじ今までありがとう……ございました……私……」
「お前さんとの別れは昨日までで散々済ませたじゃろ?これ以上話すことはない」
「……うん!……おじじも元気で」
「うむ、達者でなフリル」
その言葉に頷いたフリルが、俺たちの下に駆け寄って来た。
そして立ち止まり、深々と頭を下げる。
「……これからよろしくお願いします」
「はい!今日からフリルちゃんは私たちの仲間ですよ!」
「うん!よろしくねフリルお姉ちゃん!」
「よろしくな!」
俺たちの歓迎の言葉を聞き顔を上げたフリルが、一座のみんなに振り替えり再び頭を下げる。
「……今までお世話になりました……行ってきます!」
「おう!行ってこい!」
「新緑の歌姫の歌を世界に広めて来い!!」
「フリルちゃん元気でね!」
「たまには帰って来いよ!!」
一座のみんなの別れの言葉を受けたフリルが顔を上げ、俺に振り返った。
「……それじゃあ運ちゃん、行ってくれ」
「誰が運ちゃんやねん!!」
そのやりとりに、周りからどっと笑いが沸き起こった。
こんな状況でも……いやこんな状況だからこそフリルはフリルなんだよな。
俺たち四人は馬車に乗り込み、一座のみんなの声に見送られながら馬車を走らせた。
こうして俺たち一行は新たな仲間を加えて、この国を後にしたのだった。
さらばリンデフランデ!
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