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旋風~風のように~
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レリスが魔法剣を使う姿を見て、ルカーナさんが感心したような表情をする。
「ほう?まさか魔法剣を使えるとはな」
それでもルカーナさんは剣を抜こうとはしない。
確かエナの話では魔法剣は、剣と魔法を高い次元で扱えないと維持することすら難しい技術だと聞いたんだが……。
「……行きます!」
レリスが剣を構え、風のごとき速さで一気にルカーナさんの懐に入り込んだ。
はやっ!?テレアと模擬戦した時より早くないか!?
「はっ!!」
レリスが剣をまっすぐに突き出すも、ルカーナさんはそれを身体を軽く逸らすだけでかわす。
だがレリスは突き出した剣の切っ先の角度を変えて、そのまま斜めに袈裟斬りするも、肝心のルカーナさんの姿はもうそこにはなく、いつの間にかレリスの真後ろに回り込んでいた。
「えっ!?」
「これが実践なら、お前はここで負けているぞ」
レリスが驚愕の表情でルカーナさんを見た後、大きく後方に跳んで距離を稼ぐ。
しかしルカーナさんがぴったりと張り付くように、レリスに合わせて一緒に跳んでいく。
「どうした?距離を離してしまったら俺に攻撃は当てられないぞ?」
「……っ!!」
地面に着地した瞬間、レリスが剣を横薙ぎにするものの、やはりそこにルカーナさんはおらず、またもレリスの真後ろに回り込んでいた。
だがさすがにそれを読んでいたらしく、レリスは真後ろにいるルカーナさんに向けて回し蹴りを放つものの、スウェーバックでかわされてしまいその足は空を切った。
……なんだこれ?
傍で見ていてもルカーナさんの動きが不可解すぎる。
あまりにも早すぎて、俺が瞬きしてる間に気が付いたらルカーナさんが消えていて、一瞬で別の場所に立っている。はっきり言って俺の動体視力ではルカーナさんの動きを追うことができない。
さながら瞬間移動をしてるんじゃないかと疑ってしまう。
俺でさえこれなんだ、実際に戦っているレリスからすると、混乱に拍車がかかることだろう。
「まさかこれで終わりじゃないだろう?魔法剣を使えるくらいだ、まだ何か隠し玉はあるんだろう?」
「勿論……ですわ!」
レリスの魔力が急激に膨れ上がり、周囲に風が巻き起こりレリスの足元に集まっていく。
なんか日本にいた頃、漫画か何かで見たことあるぞ……多分これって……!
「ふっ!!」
レリスが先ほどとは比べものにならないスピードでルカーナさんの背後に回り込んだ!
やはりスピードをアップさせる魔法を使ったようだ。
はっきり言ってスピードだけならルカーナさんに引けを取らないぞこれ。
「はぁ!!」
後ろに回り込んだレリスが剣を振り下ろすものの、その攻撃は空を切り刀身の切っ先が地面に突き刺さった。
だが……!
「そこですわ!!」
地面から引き抜いた剣に魔力を込めたレリスが剣を突き出すと、刀身から凝縮された風の弾丸のようなものが打ち出されて真っすぐに飛んでいく。
その先にはレリスの死角に入り込もうとしていたルカーナさんがいた。
これは決まるか!?
「……ふん」
だけどルカーナさんは迫りくる風の弾丸に驚く様子もなく、それに向けて開いた手を前に突き出すと、なにやら風の幕みたいなものを発生させてその弾丸を霧散させた。
そのままルカーナさんは開いた手を指鉄砲の形に変えてレリスに狙いを定めた。
「お返しだ」
そう言って先ほどレリスが剣から打ち出した風の弾丸を、レリスに向けて指から打ち出した。
対するレリスはそれを魔力を纏った剣で切り払う。
二人の間に一瞬の静寂が訪れる。
「言っておくが風の魔法は通じないぞ?俺の得意な魔法も風なんだ」
「そのようですわね……」
「降参するか?」
「まだ時間になってませんわ!!」
再びレリスが風を纏い、ルカーナさんに向けて飛び出した。
「えっと……早すぎるし凄すぎるしでもうわけがわからないんですけど……」
「うん、俺も審判してる意味あるのかなって思い始めてる」
だって目で追えないのにどうやって審判すればいいんだって話だよ。
まさか生きている内に目で見えない戦いを見られることになるとは思わなかった。
目で見えない戦いを見られるとはこれいかに。
「レリスお姉ちゃんこんなに早かったんだね……テレアと戦った時は手加減してたのかな?」
「魔法の使用許可をしてなかったし、武器も使ってなかったから全力を出し切れてなかったのかもな」
「さすがのテレアちゃんでもあのスピードで来られたら太刀打ちできない感じですか?」
エナの言葉にテレアが考え込むそぶりを見せる。
「対処は出来ると思うけど、難しいと思う」
対処できるんだぁ……へぇ……。
「……シューイチそろそろ5分経つ」
「え?もう!?」
あらかじめ通信機のタイマー機能で時間を計っていたんだが、フリルの言うと通りもうすぐ5分経つみたいだった。
聞こえてるかどうかわからないけど、一応二人にも伝えておくか。
「もう5分です!」
俺がそう声を掛けるとルカーナさんが立ち止まり「そうか」と言って、腰にぶら下げた剣を引き抜いた。
ルカーナさんの剣は随分細い……突きに特化したレイピアだった。
それを見たレリスも離れたところで足を止め、剣を構えなおした。
二人をよく観察すると、ルカーナさんは息一つ乱していないのに対し、レリスはすでに肩で息をするほど体力を消耗してるようだ。
「お前の勝機は俺が剣を抜く前に何としてでも一撃入れることだったんだが……一応聞くぞ?まだ続ける気か?」
「も……もちろんです……わ」
「魔法剣を維持するだけでも魔力を消費するのに、風の魔法による速度強化ですでに魔力もカツカツだ。そんな状態で剣を抜いた俺と打ち合うことなどできるのか?」
「まだ10分経っていないのでしょう……?それなら最後まで……やりますわ……!」
ルカーナさんの言う通りだ、どう贔屓目にみてもレリスに勝ち目があるとは思えない。
「そうか……ならあと5分頑張って耐えるんだな」
その言葉と共に風が巻き起こり、ルカーナさんの全身を包んでいく。
そしてルカーナさんの身体がフッと傾いたかと思うと、俺の視界から一瞬で消え去った。
それはレリスも同じらしく、目の前から消えたルカーナさんを見つけるべく周囲を見回していたが、ふと何かに気が付いたように横に跳んだ。
一瞬だけレリスがいた場所にルカーナさんがレイピアを突き出した状態で出現したかと思うと、瞬く間に姿を消した。
「……テレア、これは……?」
俺が二人が戦っている場所を指さしながら聞くと、さすがのテレアも首を左右に振った。
もうどうやらテレアにも対処不可能な領域らしい。
多分強いとは思ってたけどまさかここまで次元が違う強さだったとは……。
俺が全裸になってガチで戦ったとしても、あのルカーナさんに攻撃を当てることは出来ないし、ルカーナさんは俺を倒すことが出来ないしで、永遠に決着はつかないだろうな。
こんなものを見せられては、この先全裸で無敵になったくらいでは乗り越えられない敵がわんさかいるのではないかと不安になってしまう。
そんなことを考えながら二人の戦いに顔を向けると、相変わらずレリスはルカーナさんの姿を捕らえることができないようで、辛うじて攻撃を弾いたり躱したりするものの、もう何時攻撃を食らってこの戦いが終わってもおかしくない状態だ。
これは完全にルカーナさんに遊ばれてるな……。ここまでくるとたとえ無理とわかっていてもレリスに勝ってほしいと思わずにはいられない。
「レリスお姉ちゃん、何かに気が付いたみたい」
「……なにか?」
テレアの言うと通り、レリスは足に纏っていた風の魔法を解き、剣を構えるのをやめて棒立ち状態になる。
一瞬勝負を捨てたのかと思ったが、レリスの瞳がまだ諦めたそれではなく、チャンスを伺っているようだった。
これはあれか?どうせ追いつけないのだから、ルカーナさんが攻撃する一瞬を捕らえようと意識を集中しているんだろうか?
ルカーナさんが地面を蹴る音だけが響く戦いの場で、レリスが目を閉じて全神経を研ぎ澄ます。
そして―――
「そこっ!!」
横を向き、突き出された剣の先が今まさにレイピアを突き出そうとしていたルカーナさんを捕らえた。
「むっ?」
だがレリスのその渾身の突きは、ルカーナさんのレイピアの切っ先を刀身に当てられることで軌道がそれてしまい、当たることはなかった。
「やるじゃないか。今のは少しだけヒヤッとしたぞ?」
そう言ってにやりと笑ったルカーナさんは、レイピアの柄の部分でレリスさんの首の後ろに一撃入れた。
するとレリスが糸の切れた人形のようにその場に膝から崩れ落ちて、その時点で試合終了となった。
「こんなところか……思ってたよりは楽しめたな」
「なんか早すぎて全然わからなかったんですけど……」
「この程度でか?お前はあのガルムスを倒したんだろ?ならこのくらいのスピードはどうとでも対処できるはずだろ?」
そこはほら……無敵能力で無理やり倒したんで。
とは言えないところがつらいところではあるよなぁ。
「……まあいい。俺はこのまま帰るから、その女を部屋で寝かせといてやれ」
「え?せめて何かレリスに一言……」
「敗者にかける言葉などない。これに懲りたらもう二度と俺に戦いを挑まないように言い聞かせておけ……じゃあな」
そう言い残してルカーナさんは門から出て帰ってしまった。
あまりのあっけない幕切れに一同全員唖然となってしまう。
「……とりあえずレリっちを部屋で寝かさないと」
「……そっそうですね!二人とも手伝ってもらっていいですか?」
「うっうん!」
エナの言葉に二人が頷いて、倒れているレリスのもとに駆け寄っていく。
なら俺は布団を引っ張り出して応接間に敷いておかないと……。
俺は大急ぎで拠点の中へと走っていった。
「ルカーナおじさん、きつい言い方してたけど、あれで負かしちゃった相手には結構気を使うんだよ」
レリスを布団に寝かしつけ一息ついたあと、テレアがそう言った。
まあたしかに自分に挑んできた相手を完膚なきまで叩きのめしたんだから、掛ける言葉なんて見つからないよなぁ……。
しかし少しくらいは善戦できるんじゃないかと思ってたけど、考えが甘かったな。
強いといっても遺跡で戦ったガルムスくらいの強さだと思ってたんだけど、はっきり言ってルカーナさんから感じる強さはそれ以上だった。
まあそのガルムスでさえ今の俺では全く歯が立たないだろうし、ヤクトさんと同等という話だし、相当強いのだろうけども。
「しかし凄い戦いでしたね……あんな速度で動ける人がいるなんて事実が存在してることが、未だに信じられませんよ私は」
「お父さんでもルカーナおじさんから一本取るのは骨が折れるって言ってたし……」
むしろそれはヤクトさんがあのルカーナさんと互角に戦えるという証明に他ならない。
なかなかにいい性格してるヤクトさんだけど、やっぱり強かったんだなぁ。
「うっ……うん……?」
そんな話をしていると、レリスが身をよじり目を覚ました。
「……レリっちおはよう」
「おはよう……ございますわ……あれ?」
いまいち状況を呑み込めてないレリスが部屋の中を見回す。
そして俺たちを視界に入れて、何かを思い出したのか表情が沈んでいく。
「……手も足も出ませんでしたわ」
「まあその……なんだ?元気出して?」
こんな時に適当な慰めしか出てこない自分を張り倒したくなるな。
「折角シューイチ様がルカーナ様を説得して試合の場を整えてくれたというに……」
「レリスお姉ちゃん……」
「世界はまだまだ広いのですわね……少しくらい善戦できるのでは?と思っていたわたくしは、井の中の蛙でしたのね……」
そう言ってレリスが大きくため息を吐き立ち上がる。
まさかこの敗戦がショックで国に帰るとか言い出すんじゃ……?
「もっと力をつけてからまた再挑戦いたしますわ!このままでは引き下がれませんもの!!」
レリスが拳を作り声高々に宣言した。
思った以上にタフで安心したよ俺は……。
「ほう?まさか魔法剣を使えるとはな」
それでもルカーナさんは剣を抜こうとはしない。
確かエナの話では魔法剣は、剣と魔法を高い次元で扱えないと維持することすら難しい技術だと聞いたんだが……。
「……行きます!」
レリスが剣を構え、風のごとき速さで一気にルカーナさんの懐に入り込んだ。
はやっ!?テレアと模擬戦した時より早くないか!?
「はっ!!」
レリスが剣をまっすぐに突き出すも、ルカーナさんはそれを身体を軽く逸らすだけでかわす。
だがレリスは突き出した剣の切っ先の角度を変えて、そのまま斜めに袈裟斬りするも、肝心のルカーナさんの姿はもうそこにはなく、いつの間にかレリスの真後ろに回り込んでいた。
「えっ!?」
「これが実践なら、お前はここで負けているぞ」
レリスが驚愕の表情でルカーナさんを見た後、大きく後方に跳んで距離を稼ぐ。
しかしルカーナさんがぴったりと張り付くように、レリスに合わせて一緒に跳んでいく。
「どうした?距離を離してしまったら俺に攻撃は当てられないぞ?」
「……っ!!」
地面に着地した瞬間、レリスが剣を横薙ぎにするものの、やはりそこにルカーナさんはおらず、またもレリスの真後ろに回り込んでいた。
だがさすがにそれを読んでいたらしく、レリスは真後ろにいるルカーナさんに向けて回し蹴りを放つものの、スウェーバックでかわされてしまいその足は空を切った。
……なんだこれ?
傍で見ていてもルカーナさんの動きが不可解すぎる。
あまりにも早すぎて、俺が瞬きしてる間に気が付いたらルカーナさんが消えていて、一瞬で別の場所に立っている。はっきり言って俺の動体視力ではルカーナさんの動きを追うことができない。
さながら瞬間移動をしてるんじゃないかと疑ってしまう。
俺でさえこれなんだ、実際に戦っているレリスからすると、混乱に拍車がかかることだろう。
「まさかこれで終わりじゃないだろう?魔法剣を使えるくらいだ、まだ何か隠し玉はあるんだろう?」
「勿論……ですわ!」
レリスの魔力が急激に膨れ上がり、周囲に風が巻き起こりレリスの足元に集まっていく。
なんか日本にいた頃、漫画か何かで見たことあるぞ……多分これって……!
「ふっ!!」
レリスが先ほどとは比べものにならないスピードでルカーナさんの背後に回り込んだ!
やはりスピードをアップさせる魔法を使ったようだ。
はっきり言ってスピードだけならルカーナさんに引けを取らないぞこれ。
「はぁ!!」
後ろに回り込んだレリスが剣を振り下ろすものの、その攻撃は空を切り刀身の切っ先が地面に突き刺さった。
だが……!
「そこですわ!!」
地面から引き抜いた剣に魔力を込めたレリスが剣を突き出すと、刀身から凝縮された風の弾丸のようなものが打ち出されて真っすぐに飛んでいく。
その先にはレリスの死角に入り込もうとしていたルカーナさんがいた。
これは決まるか!?
「……ふん」
だけどルカーナさんは迫りくる風の弾丸に驚く様子もなく、それに向けて開いた手を前に突き出すと、なにやら風の幕みたいなものを発生させてその弾丸を霧散させた。
そのままルカーナさんは開いた手を指鉄砲の形に変えてレリスに狙いを定めた。
「お返しだ」
そう言って先ほどレリスが剣から打ち出した風の弾丸を、レリスに向けて指から打ち出した。
対するレリスはそれを魔力を纏った剣で切り払う。
二人の間に一瞬の静寂が訪れる。
「言っておくが風の魔法は通じないぞ?俺の得意な魔法も風なんだ」
「そのようですわね……」
「降参するか?」
「まだ時間になってませんわ!!」
再びレリスが風を纏い、ルカーナさんに向けて飛び出した。
「えっと……早すぎるし凄すぎるしでもうわけがわからないんですけど……」
「うん、俺も審判してる意味あるのかなって思い始めてる」
だって目で追えないのにどうやって審判すればいいんだって話だよ。
まさか生きている内に目で見えない戦いを見られることになるとは思わなかった。
目で見えない戦いを見られるとはこれいかに。
「レリスお姉ちゃんこんなに早かったんだね……テレアと戦った時は手加減してたのかな?」
「魔法の使用許可をしてなかったし、武器も使ってなかったから全力を出し切れてなかったのかもな」
「さすがのテレアちゃんでもあのスピードで来られたら太刀打ちできない感じですか?」
エナの言葉にテレアが考え込むそぶりを見せる。
「対処は出来ると思うけど、難しいと思う」
対処できるんだぁ……へぇ……。
「……シューイチそろそろ5分経つ」
「え?もう!?」
あらかじめ通信機のタイマー機能で時間を計っていたんだが、フリルの言うと通りもうすぐ5分経つみたいだった。
聞こえてるかどうかわからないけど、一応二人にも伝えておくか。
「もう5分です!」
俺がそう声を掛けるとルカーナさんが立ち止まり「そうか」と言って、腰にぶら下げた剣を引き抜いた。
ルカーナさんの剣は随分細い……突きに特化したレイピアだった。
それを見たレリスも離れたところで足を止め、剣を構えなおした。
二人をよく観察すると、ルカーナさんは息一つ乱していないのに対し、レリスはすでに肩で息をするほど体力を消耗してるようだ。
「お前の勝機は俺が剣を抜く前に何としてでも一撃入れることだったんだが……一応聞くぞ?まだ続ける気か?」
「も……もちろんです……わ」
「魔法剣を維持するだけでも魔力を消費するのに、風の魔法による速度強化ですでに魔力もカツカツだ。そんな状態で剣を抜いた俺と打ち合うことなどできるのか?」
「まだ10分経っていないのでしょう……?それなら最後まで……やりますわ……!」
ルカーナさんの言う通りだ、どう贔屓目にみてもレリスに勝ち目があるとは思えない。
「そうか……ならあと5分頑張って耐えるんだな」
その言葉と共に風が巻き起こり、ルカーナさんの全身を包んでいく。
そしてルカーナさんの身体がフッと傾いたかと思うと、俺の視界から一瞬で消え去った。
それはレリスも同じらしく、目の前から消えたルカーナさんを見つけるべく周囲を見回していたが、ふと何かに気が付いたように横に跳んだ。
一瞬だけレリスがいた場所にルカーナさんがレイピアを突き出した状態で出現したかと思うと、瞬く間に姿を消した。
「……テレア、これは……?」
俺が二人が戦っている場所を指さしながら聞くと、さすがのテレアも首を左右に振った。
もうどうやらテレアにも対処不可能な領域らしい。
多分強いとは思ってたけどまさかここまで次元が違う強さだったとは……。
俺が全裸になってガチで戦ったとしても、あのルカーナさんに攻撃を当てることは出来ないし、ルカーナさんは俺を倒すことが出来ないしで、永遠に決着はつかないだろうな。
こんなものを見せられては、この先全裸で無敵になったくらいでは乗り越えられない敵がわんさかいるのではないかと不安になってしまう。
そんなことを考えながら二人の戦いに顔を向けると、相変わらずレリスはルカーナさんの姿を捕らえることができないようで、辛うじて攻撃を弾いたり躱したりするものの、もう何時攻撃を食らってこの戦いが終わってもおかしくない状態だ。
これは完全にルカーナさんに遊ばれてるな……。ここまでくるとたとえ無理とわかっていてもレリスに勝ってほしいと思わずにはいられない。
「レリスお姉ちゃん、何かに気が付いたみたい」
「……なにか?」
テレアの言うと通り、レリスは足に纏っていた風の魔法を解き、剣を構えるのをやめて棒立ち状態になる。
一瞬勝負を捨てたのかと思ったが、レリスの瞳がまだ諦めたそれではなく、チャンスを伺っているようだった。
これはあれか?どうせ追いつけないのだから、ルカーナさんが攻撃する一瞬を捕らえようと意識を集中しているんだろうか?
ルカーナさんが地面を蹴る音だけが響く戦いの場で、レリスが目を閉じて全神経を研ぎ澄ます。
そして―――
「そこっ!!」
横を向き、突き出された剣の先が今まさにレイピアを突き出そうとしていたルカーナさんを捕らえた。
「むっ?」
だがレリスのその渾身の突きは、ルカーナさんのレイピアの切っ先を刀身に当てられることで軌道がそれてしまい、当たることはなかった。
「やるじゃないか。今のは少しだけヒヤッとしたぞ?」
そう言ってにやりと笑ったルカーナさんは、レイピアの柄の部分でレリスさんの首の後ろに一撃入れた。
するとレリスが糸の切れた人形のようにその場に膝から崩れ落ちて、その時点で試合終了となった。
「こんなところか……思ってたよりは楽しめたな」
「なんか早すぎて全然わからなかったんですけど……」
「この程度でか?お前はあのガルムスを倒したんだろ?ならこのくらいのスピードはどうとでも対処できるはずだろ?」
そこはほら……無敵能力で無理やり倒したんで。
とは言えないところがつらいところではあるよなぁ。
「……まあいい。俺はこのまま帰るから、その女を部屋で寝かせといてやれ」
「え?せめて何かレリスに一言……」
「敗者にかける言葉などない。これに懲りたらもう二度と俺に戦いを挑まないように言い聞かせておけ……じゃあな」
そう言い残してルカーナさんは門から出て帰ってしまった。
あまりのあっけない幕切れに一同全員唖然となってしまう。
「……とりあえずレリっちを部屋で寝かさないと」
「……そっそうですね!二人とも手伝ってもらっていいですか?」
「うっうん!」
エナの言葉に二人が頷いて、倒れているレリスのもとに駆け寄っていく。
なら俺は布団を引っ張り出して応接間に敷いておかないと……。
俺は大急ぎで拠点の中へと走っていった。
「ルカーナおじさん、きつい言い方してたけど、あれで負かしちゃった相手には結構気を使うんだよ」
レリスを布団に寝かしつけ一息ついたあと、テレアがそう言った。
まあたしかに自分に挑んできた相手を完膚なきまで叩きのめしたんだから、掛ける言葉なんて見つからないよなぁ……。
しかし少しくらいは善戦できるんじゃないかと思ってたけど、考えが甘かったな。
強いといっても遺跡で戦ったガルムスくらいの強さだと思ってたんだけど、はっきり言ってルカーナさんから感じる強さはそれ以上だった。
まあそのガルムスでさえ今の俺では全く歯が立たないだろうし、ヤクトさんと同等という話だし、相当強いのだろうけども。
「しかし凄い戦いでしたね……あんな速度で動ける人がいるなんて事実が存在してることが、未だに信じられませんよ私は」
「お父さんでもルカーナおじさんから一本取るのは骨が折れるって言ってたし……」
むしろそれはヤクトさんがあのルカーナさんと互角に戦えるという証明に他ならない。
なかなかにいい性格してるヤクトさんだけど、やっぱり強かったんだなぁ。
「うっ……うん……?」
そんな話をしていると、レリスが身をよじり目を覚ました。
「……レリっちおはよう」
「おはよう……ございますわ……あれ?」
いまいち状況を呑み込めてないレリスが部屋の中を見回す。
そして俺たちを視界に入れて、何かを思い出したのか表情が沈んでいく。
「……手も足も出ませんでしたわ」
「まあその……なんだ?元気出して?」
こんな時に適当な慰めしか出てこない自分を張り倒したくなるな。
「折角シューイチ様がルカーナ様を説得して試合の場を整えてくれたというに……」
「レリスお姉ちゃん……」
「世界はまだまだ広いのですわね……少しくらい善戦できるのでは?と思っていたわたくしは、井の中の蛙でしたのね……」
そう言ってレリスが大きくため息を吐き立ち上がる。
まさかこの敗戦がショックで国に帰るとか言い出すんじゃ……?
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