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落胆~ユニコーンブラック~
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「シューイチ様!」
「了解……プロテクション!」
レリスに向けて骸骨剣士が振り下ろした剣が、俺のプロテクションに阻まれる。
金属音と共に剣を弾かれた骸骨剣士がのけぞり、その隙を逃さずレリスが骸骨剣士を斬りつけるとガラガラと音を立てながら崩れ落ち、まるで地面に溶け込むようにサラサラと砂になって消えていった。
「殲滅完了ですわね」
「一階層に比べて、魔物の出現頻度が高いな」
魔物の群れを殲滅したと思ったら、その五分後には新しい群れが出てくる勢いだ。
おかげで散策がちっとも進まない。
あれから俺たちはボスを倒してダンジョンから脱出しようということになり、こうしてボス部屋を探しながら、鍾乳洞を散策していた。
「いちいち戦ってたらキリがないよなぁ」
「といはいえ無視して進んで別の群れと無視した群れと挟み撃ち……なんて事態も避けないといけませんし」
これがゲームだったなら、戦力を温存するためにガン逃げスタイルで進んでいくが、生憎これは現実なんだよなぁ……。
ゲームなら一度逃げればその群れは完全に無視できるが、現実では無視してもその群れは俺たちを執拗に追いかけてくるし、そいつらから逃げてる間に別の群れと遭遇するなんて事態が平然と起こる。
そうなっては二人しかいない俺たちは完全に不利になってしまうので、こうして遭遇した群れは完全に撃破してからでないと安心して進めないのだ。
出てくる魔物は今のところ、レリスの強さでなんとかなっているが、それもいつまで続くかはわからない。
「でも結構先に進んだから、そろそろボスの部屋に着くと思うんだけど」
「……シューイチ様の言った通りですわね、あそこ……」
レリスが指さした先は、狭い入り口から中に入ると広いスペースとなっている場所のようだった。
こういうところは一階層の時と同じなんだな。
「レリス、行ける?」
「はい、シューイチ様のフォローのおかげでダメージも受けてませんし、魔力の消費もほとんどありませんもの……行けますわ」
「よし……そんじゃいっちょボス討伐と行きますか!」
俺たち互いに頷きあい、ボスの部屋へと足を踏み入れる。
すると一階層の時と同じように目視できるほどの魔力が部屋の中心に渦巻いていき、額から大きな角を生やした巨大なユニコーンのような馬の魔物が現れた。
俺の知ってるユニコーンとは違いそいつは真っ黒であり、とても純潔な乙女を求めるよう外見ではなかった。
さながらユニコーンブラックと言ったところか?
「中々の大きさですわね」
「どうやって戦おうか?」
「今まで戦ってきた魔物であれば、先程までの陣形で問題はありませんが……」
つまるところレリスが積極的に前に出て、俺が後ろでフォローしていく陣形だ。
いつもはエナが収まるポジションを俺が担っているわけだ。
この階層の魔物はそれでなんとかなっていたが、こいつはどうだろうなぁ。
そんなことを思いながらユニコーンを見上げていると、俺たちの存在に気が付いたのか、こちらを睨みつけるように見下ろしてきた。
するとユニコーンの魔力が突然膨れ上がっていき、周囲に風を纏っていく……どこかでみた魔法だな。
「なるほど……わたしくとおなじく風の魔法を操ると……」
「ならやってくることは大体想像できるな」
ユニコーンが一方の前肢で地面を前掻きし、こちらに狙いを定める。
「させません、先手必勝ですわ!シューイチ様、フォローをお願いします!」
「あいよ!」
レリスがユニコーンに向かって駆けだしながら、奴と同じように全身に風を纏い始めていく。
その途端に目に見えてレリスのスピードが上がり、手にした剣を構えてユニコーン目掛けて飛び上がった。
「はあっ!!」
一階層で戦った蛇のようのに、その首筋に向けて剣を横に一閃した。
ユニコーンの首元から血が噴出するも、さすがに一撃で斬り飛ばすことはできないようだった。
「さすがに硬いですわね」
ユニコーンが額の長い角に風を集中させていき、その角から空中で身動きを取れないレリスに向けて風の弾丸を発射した。
「レリス!」
「大丈夫ですわ!!」
そう言ったレリスの足元に風にフィールドが出来上がり、それを蹴ることでさらに高く飛翔することで風の弾丸を華麗にかわす。
すげー二段ジャンプじゃんあれ……。
さらにレリスは風のフィールドを巧みに使いながら空中で方向転換していき、器用にユニコーンの真後ろに回り込んだ。
そして再び方向を調整しユニコーン目掛けてすっ飛んでいき、背中に剣を突き立てた。
「ヒヒヒーン!!」
なんか空中で方向転換しながら巧みに飛び回ってるんですけど?
あまりにも非現実な光景に呆気に取られるも、ダメージを受けたことと背中に張り付かれたことで、ユニコーンがレリスを振り落とそうと暴れ出したのを見て、気を取り直す。
「あら?女性を乗せるのならもっと嫋やかに致しませんと?」
暴れるユニコーンの背中で、レリスが剣を持っていない手の指先に魔力を集中させて、それを剣に込めていく……魔法剣を使うつもりのようだ。
いつまでたっても敵を振り落とせないユニコーンがしびれを切らしたのか、レリスの周りにいくつもの風の塊を形成していく。
アレはちょっとまずいな……!
俺は魔力を活性化させて魔力を練り上げていく。
「フル・プロテクション!」
レリスの周囲に結界を張ったが、フルのほうは全範囲カバーできる反面、普通のプロテクションに比べて強度が低いんだよな……耐えられるだろうか?
俺がそんな心配をしていると、レリスの周囲にあった風の塊が弾丸となってレリス向けて発射された。
いくつもの風の弾丸が結界に当たってはじけ飛んでいくが、次第に結界にひびが入っていく。
あの様子だとそんなに持たないぞ!
「シューイチ様!もう大丈夫ですわ!」
どうやらレリスの準備が整ったようなので、ユニコーンの攻撃の止むタイミングを見計らい結界を解いた。
その刹那、レリスがユニコーンの背中の上を首元目掛けて猛スピードで駆け出していく。
「はあああー!!」
斬りつける瞬間、風の魔法で瞬間的に加速をつけたレリスが再度ユニコーンの首を剣で一閃した。
レリスが地面に着地すると同時に、ユニコーンの頭が胴体からずれ落ち、地響きと砂煙を上げながら地面に落下した。
やがて力を失ったユニコーンの胴体も同じように地面に崩れ落ちていく。
その光景は俺たちの勝利を意味していた。
「こりゃまた危なげなく勝ったな……」
「いえ、実際のところそこまでの余裕はありませんでしたわ」
あんな一方的な展開を見せられて、余裕がなかったなんて言われても信じられない。
「先に動かれていたら、恐らくわたくしたちは相手の攻撃を防ぐことはできなかったでしょうし、早めに決着をつけるために、わたくしも少しばかり無理をしましたから」
よく見るとレリスの額にはうっすらと汗がにじんでいて、息も上がっている。
なるほど、先に攻撃されていたら危なかったので、多少無理して先手を取っていたのか。
「それよりもシューイチ様……」
「おっとそうだな!」
ボス部屋の端にいつの間にか下の階層へ続く階段が出来ていたが……。
「地上へ帰還する魔法陣がないな……」
「どういうことなんでしょうか?」
話と違うじゃないか!と怒りたい気分だったが、実のところこの事態はある程度想定済みだった。
そもそも俺たちがこの階層まで飛ばされたのだって全くの想定外だったんだし、なんとなくだがこういうこともあり得るだろうと思っていたんだが……この予想は外れてほしかったなぁ。
俺たちは目の前の残酷な現実に思わずその場でへたり込んだ。
「はあ~……予想してた展開とはいえ、実際に目の当たりにすると凹むなぁ」
「これからどうしましょうか?」
エナ曰く、階層のボスを倒すとしばらくは魔物が出現しなくなるとのことなので、気の抜けた俺たちはその場で寝転がりながらあーでもないこーでもないと話し合う。
「なんかこうなってくると、例えここに地上への帰るスクロールがあったとしても機能しなかったんじゃないかと思えてくるよな」
「このダンジョンに何かが起こっているのでしょうか?」
一つだけ心当たりはある。
恐らくだけど朱雀が封印されていることが原因だと思うんだけどね。
「とりあえず……お腹すいたな」
この階層の探索を始めて、こうしてボスを倒すまで実に三時間くらいはかかっている。
一階層の探索時間も含めると実に、五時間は経ってる計算になるな。
普通に探索しているならまだいいが、魔物と戦いながらだったから疲労の蓄積もそれに比例して高くなっていく。
つまり俺たち二人はもうバテバテなのだ。
「そうですわね……ちょうどよくお肉もあることですし……少し腹ごしらえをしましょうか?」
「お肉って……どこに?」
俺がそう聞くと、レリスがユニコーンの死骸を指さした。
アレを食うの……本気マジ!?
「胴体は思ったほど固くはありませんでしたし」
「イヤイヤちょっと待って!本気で言ってるの!?」
「背に腹は代えられませんわ」
レリスの目が料理人のそれになっている。
そう言えば料理得意なんだったな……それなら任せておいても大丈夫なの……か?
「わたしくこういう事態を想定して、常に簡易料理セットを携帯してますの」
レリスが自分の道具袋からなにやら平ぺったい箱のような物を取り出しそれを開けると、その薄いスペースのどこにそんなに入ってたの?と叫びたくなるくらい沢山の料理道具が飛び出してきた。
「何その四次元ボックス!?怖いんだけど!!」
「よじげん……?ええとこれは、わたくしの祖国の誇るスチカ=リコレット様の作り出した『魔道式収納ボックス』というものでして、この箱には簡易収納魔法が掛かっていてこのくらいの荷物なら楽に収納できますのよ」
まーたスチカ=リコレットか!!
お前何者なんだよ本当に!!
いろんなもの作りすぎだ!ありがとうコンチクショウ!!
「まだ試作品ということで世には出回っておりませんが、近いうちにもっと改良を重ねた物が市場に出回ると思いますわ」
「その辺の話はまあいいや……それで、そのお料理セットであの馬を美味しくいただこうということ?」
「その通りですわ!ここには幸い地底湖もありますし水には困りませんから、色々と作れると思いますわ」
ちなみに地底湖の水は飲んでも問題ないことをすでに確認済みだったりする。
「恐らく下の階層に行くことになると思いますし、ここで保存食を出来る限り作っておきましょう」
地上への魔法陣が出なかった現状を考えると、やっぱ下の階層に行くしか選択肢ないんだよな……。
これは俺の予想なんだけど、多分朱雀を何とかしないと俺たちはこのダンジョンから出られないのだと思う。
シエルや玄武の話だと神獣たちの封印は解けかかってるらしいし、ダンジョンの魔力が何らかの作用を起こして、朱雀の封印に影響を与えているのかもしれない。
もしくはその逆で、朱雀の封印が解けかかっていることが、このダンジョンに影響を及ぼしていると考えることも出来る。
どの道遅かれ早かれ俺たちは朱雀を何とかしに行かねばならなかったんだし……とは言うもののまさかレリスと二人でそれに挑むことになるとは思いもしなかった。
とにもかくにも、一度そのことを含めてレリスとしっかり話をしないといけないな。
料理の準備をてきぱきと整えていくレリスを眺めながら、俺はそんなことを考えていたのだった。
「了解……プロテクション!」
レリスに向けて骸骨剣士が振り下ろした剣が、俺のプロテクションに阻まれる。
金属音と共に剣を弾かれた骸骨剣士がのけぞり、その隙を逃さずレリスが骸骨剣士を斬りつけるとガラガラと音を立てながら崩れ落ち、まるで地面に溶け込むようにサラサラと砂になって消えていった。
「殲滅完了ですわね」
「一階層に比べて、魔物の出現頻度が高いな」
魔物の群れを殲滅したと思ったら、その五分後には新しい群れが出てくる勢いだ。
おかげで散策がちっとも進まない。
あれから俺たちはボスを倒してダンジョンから脱出しようということになり、こうしてボス部屋を探しながら、鍾乳洞を散策していた。
「いちいち戦ってたらキリがないよなぁ」
「といはいえ無視して進んで別の群れと無視した群れと挟み撃ち……なんて事態も避けないといけませんし」
これがゲームだったなら、戦力を温存するためにガン逃げスタイルで進んでいくが、生憎これは現実なんだよなぁ……。
ゲームなら一度逃げればその群れは完全に無視できるが、現実では無視してもその群れは俺たちを執拗に追いかけてくるし、そいつらから逃げてる間に別の群れと遭遇するなんて事態が平然と起こる。
そうなっては二人しかいない俺たちは完全に不利になってしまうので、こうして遭遇した群れは完全に撃破してからでないと安心して進めないのだ。
出てくる魔物は今のところ、レリスの強さでなんとかなっているが、それもいつまで続くかはわからない。
「でも結構先に進んだから、そろそろボスの部屋に着くと思うんだけど」
「……シューイチ様の言った通りですわね、あそこ……」
レリスが指さした先は、狭い入り口から中に入ると広いスペースとなっている場所のようだった。
こういうところは一階層の時と同じなんだな。
「レリス、行ける?」
「はい、シューイチ様のフォローのおかげでダメージも受けてませんし、魔力の消費もほとんどありませんもの……行けますわ」
「よし……そんじゃいっちょボス討伐と行きますか!」
俺たち互いに頷きあい、ボスの部屋へと足を踏み入れる。
すると一階層の時と同じように目視できるほどの魔力が部屋の中心に渦巻いていき、額から大きな角を生やした巨大なユニコーンのような馬の魔物が現れた。
俺の知ってるユニコーンとは違いそいつは真っ黒であり、とても純潔な乙女を求めるよう外見ではなかった。
さながらユニコーンブラックと言ったところか?
「中々の大きさですわね」
「どうやって戦おうか?」
「今まで戦ってきた魔物であれば、先程までの陣形で問題はありませんが……」
つまるところレリスが積極的に前に出て、俺が後ろでフォローしていく陣形だ。
いつもはエナが収まるポジションを俺が担っているわけだ。
この階層の魔物はそれでなんとかなっていたが、こいつはどうだろうなぁ。
そんなことを思いながらユニコーンを見上げていると、俺たちの存在に気が付いたのか、こちらを睨みつけるように見下ろしてきた。
するとユニコーンの魔力が突然膨れ上がっていき、周囲に風を纏っていく……どこかでみた魔法だな。
「なるほど……わたしくとおなじく風の魔法を操ると……」
「ならやってくることは大体想像できるな」
ユニコーンが一方の前肢で地面を前掻きし、こちらに狙いを定める。
「させません、先手必勝ですわ!シューイチ様、フォローをお願いします!」
「あいよ!」
レリスがユニコーンに向かって駆けだしながら、奴と同じように全身に風を纏い始めていく。
その途端に目に見えてレリスのスピードが上がり、手にした剣を構えてユニコーン目掛けて飛び上がった。
「はあっ!!」
一階層で戦った蛇のようのに、その首筋に向けて剣を横に一閃した。
ユニコーンの首元から血が噴出するも、さすがに一撃で斬り飛ばすことはできないようだった。
「さすがに硬いですわね」
ユニコーンが額の長い角に風を集中させていき、その角から空中で身動きを取れないレリスに向けて風の弾丸を発射した。
「レリス!」
「大丈夫ですわ!!」
そう言ったレリスの足元に風にフィールドが出来上がり、それを蹴ることでさらに高く飛翔することで風の弾丸を華麗にかわす。
すげー二段ジャンプじゃんあれ……。
さらにレリスは風のフィールドを巧みに使いながら空中で方向転換していき、器用にユニコーンの真後ろに回り込んだ。
そして再び方向を調整しユニコーン目掛けてすっ飛んでいき、背中に剣を突き立てた。
「ヒヒヒーン!!」
なんか空中で方向転換しながら巧みに飛び回ってるんですけど?
あまりにも非現実な光景に呆気に取られるも、ダメージを受けたことと背中に張り付かれたことで、ユニコーンがレリスを振り落とそうと暴れ出したのを見て、気を取り直す。
「あら?女性を乗せるのならもっと嫋やかに致しませんと?」
暴れるユニコーンの背中で、レリスが剣を持っていない手の指先に魔力を集中させて、それを剣に込めていく……魔法剣を使うつもりのようだ。
いつまでたっても敵を振り落とせないユニコーンがしびれを切らしたのか、レリスの周りにいくつもの風の塊を形成していく。
アレはちょっとまずいな……!
俺は魔力を活性化させて魔力を練り上げていく。
「フル・プロテクション!」
レリスの周囲に結界を張ったが、フルのほうは全範囲カバーできる反面、普通のプロテクションに比べて強度が低いんだよな……耐えられるだろうか?
俺がそんな心配をしていると、レリスの周囲にあった風の塊が弾丸となってレリス向けて発射された。
いくつもの風の弾丸が結界に当たってはじけ飛んでいくが、次第に結界にひびが入っていく。
あの様子だとそんなに持たないぞ!
「シューイチ様!もう大丈夫ですわ!」
どうやらレリスの準備が整ったようなので、ユニコーンの攻撃の止むタイミングを見計らい結界を解いた。
その刹那、レリスがユニコーンの背中の上を首元目掛けて猛スピードで駆け出していく。
「はあああー!!」
斬りつける瞬間、風の魔法で瞬間的に加速をつけたレリスが再度ユニコーンの首を剣で一閃した。
レリスが地面に着地すると同時に、ユニコーンの頭が胴体からずれ落ち、地響きと砂煙を上げながら地面に落下した。
やがて力を失ったユニコーンの胴体も同じように地面に崩れ落ちていく。
その光景は俺たちの勝利を意味していた。
「こりゃまた危なげなく勝ったな……」
「いえ、実際のところそこまでの余裕はありませんでしたわ」
あんな一方的な展開を見せられて、余裕がなかったなんて言われても信じられない。
「先に動かれていたら、恐らくわたくしたちは相手の攻撃を防ぐことはできなかったでしょうし、早めに決着をつけるために、わたくしも少しばかり無理をしましたから」
よく見るとレリスの額にはうっすらと汗がにじんでいて、息も上がっている。
なるほど、先に攻撃されていたら危なかったので、多少無理して先手を取っていたのか。
「それよりもシューイチ様……」
「おっとそうだな!」
ボス部屋の端にいつの間にか下の階層へ続く階段が出来ていたが……。
「地上へ帰還する魔法陣がないな……」
「どういうことなんでしょうか?」
話と違うじゃないか!と怒りたい気分だったが、実のところこの事態はある程度想定済みだった。
そもそも俺たちがこの階層まで飛ばされたのだって全くの想定外だったんだし、なんとなくだがこういうこともあり得るだろうと思っていたんだが……この予想は外れてほしかったなぁ。
俺たちは目の前の残酷な現実に思わずその場でへたり込んだ。
「はあ~……予想してた展開とはいえ、実際に目の当たりにすると凹むなぁ」
「これからどうしましょうか?」
エナ曰く、階層のボスを倒すとしばらくは魔物が出現しなくなるとのことなので、気の抜けた俺たちはその場で寝転がりながらあーでもないこーでもないと話し合う。
「なんかこうなってくると、例えここに地上への帰るスクロールがあったとしても機能しなかったんじゃないかと思えてくるよな」
「このダンジョンに何かが起こっているのでしょうか?」
一つだけ心当たりはある。
恐らくだけど朱雀が封印されていることが原因だと思うんだけどね。
「とりあえず……お腹すいたな」
この階層の探索を始めて、こうしてボスを倒すまで実に三時間くらいはかかっている。
一階層の探索時間も含めると実に、五時間は経ってる計算になるな。
普通に探索しているならまだいいが、魔物と戦いながらだったから疲労の蓄積もそれに比例して高くなっていく。
つまり俺たち二人はもうバテバテなのだ。
「そうですわね……ちょうどよくお肉もあることですし……少し腹ごしらえをしましょうか?」
「お肉って……どこに?」
俺がそう聞くと、レリスがユニコーンの死骸を指さした。
アレを食うの……本気マジ!?
「胴体は思ったほど固くはありませんでしたし」
「イヤイヤちょっと待って!本気で言ってるの!?」
「背に腹は代えられませんわ」
レリスの目が料理人のそれになっている。
そう言えば料理得意なんだったな……それなら任せておいても大丈夫なの……か?
「わたしくこういう事態を想定して、常に簡易料理セットを携帯してますの」
レリスが自分の道具袋からなにやら平ぺったい箱のような物を取り出しそれを開けると、その薄いスペースのどこにそんなに入ってたの?と叫びたくなるくらい沢山の料理道具が飛び出してきた。
「何その四次元ボックス!?怖いんだけど!!」
「よじげん……?ええとこれは、わたくしの祖国の誇るスチカ=リコレット様の作り出した『魔道式収納ボックス』というものでして、この箱には簡易収納魔法が掛かっていてこのくらいの荷物なら楽に収納できますのよ」
まーたスチカ=リコレットか!!
お前何者なんだよ本当に!!
いろんなもの作りすぎだ!ありがとうコンチクショウ!!
「まだ試作品ということで世には出回っておりませんが、近いうちにもっと改良を重ねた物が市場に出回ると思いますわ」
「その辺の話はまあいいや……それで、そのお料理セットであの馬を美味しくいただこうということ?」
「その通りですわ!ここには幸い地底湖もありますし水には困りませんから、色々と作れると思いますわ」
ちなみに地底湖の水は飲んでも問題ないことをすでに確認済みだったりする。
「恐らく下の階層に行くことになると思いますし、ここで保存食を出来る限り作っておきましょう」
地上への魔法陣が出なかった現状を考えると、やっぱ下の階層に行くしか選択肢ないんだよな……。
これは俺の予想なんだけど、多分朱雀を何とかしないと俺たちはこのダンジョンから出られないのだと思う。
シエルや玄武の話だと神獣たちの封印は解けかかってるらしいし、ダンジョンの魔力が何らかの作用を起こして、朱雀の封印に影響を与えているのかもしれない。
もしくはその逆で、朱雀の封印が解けかかっていることが、このダンジョンに影響を及ぼしていると考えることも出来る。
どの道遅かれ早かれ俺たちは朱雀を何とかしに行かねばならなかったんだし……とは言うもののまさかレリスと二人でそれに挑むことになるとは思いもしなかった。
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