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我儘~行けるところまで~
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「うまっ!ユニコーンの肉うまっ!!」
馬だけになっ!ってやかましいわ!
「喜んでいただけて光栄ですわ」
勢いよく肉を胃袋に掻っ込む俺を見ながら、レリスが上品に笑う。
しかし料理が得意なのは知ってたけど、自前の道具を持ってきていたとはいえ、よくもまあこんな環境でここまで美味しい物を作れるもんだ……感心してしまう。
「レリスも見てばっかりいないで食えよ」
「そうですわね、あんまりもシューイチさんが美味しそうに食べてらっしゃるのでつい……では、わたくしも」
レリスが手を合わせていただきますをして、自身の作った料理に手を伸ばしていく。
その後は二人して黙々と料理を食べていく。
あまりお互いに口には出してなかったが、相当お腹が減っていたようだった。
「ふー!ご馳走様!!」
「おそまつさまでしたわ」
腹も膨れたことで気が緩み眠気が押し寄せてくるが、その前にすべきことがあるのでしっかりしないとな。
「レリスにちょっと話があるんだ。なんで俺たちがこのダンジョンに用があるのかってのを教えておきたいと思って」
「良いのですか?なにか言いづらい事情があったのでは?」
こちらの事情をなんとなく察してくれていたのだろうか、レリスがそう言ってこちらを気遣ってくれる。
「もう完全にこちらの事情に巻き込んじゃってるしさ、ちゃんと話しておかないといけないって思って」
「……そういうことでしたら」
まずどこから説明していくべきか……。
そんなことを思いながら、一つずつ順番に俺たちのことやリンデフランデでの神獣事件などを説明していく。
俺自身の事情はたぶん信じてもらえないと思うので、そこは上手く誤魔化しておく。
10分ほど使い大体の事情を説明し終わったので、俺はレリスの反応を伺う。
「わたくしが旅に出たあたりで、リンデフランデでそういう事件があったというのはなんとなく耳にしておりましたが……」
「簡単には信じてもらえないと思うけど、ちゃんと事実なんだ」
証明できるものが何一つないのがつらいところだけどね。
「今までシューイチ様の人となりを拝見しておりましたから、嘘を吐く方ではないのは承知しておりますが……」
「そう?俺結構適当なことばっかり言うよ?」
褒められるとそれを素直に受け取れないのは、俺の悪い癖だよなあ。
「まあとにかく、このダンジョンの最下層に朱雀がいるらしくて、恐らく俺たちがこのダンジョンを出られないのはそいつのせいじゃないかと思うんだよ」
「もしその予想が当たっていたとしたら、わたくしたちはかなり危険な状況に置かれているのでは?」
そうなんだよなぁ……朱雀のいる階層までたどり着くことは出来ると思うけど、フリルがいない以上俺たちは朱雀を鎮める手段がないのだ。
じゃあフリルがここに来るまで待っていたほうがいいのか?っとなるとそれはそれで望みが薄い。
これはこのダンジョンに入った時から思ってたことなんだけど、これだけ長時間探索をしていたにも関わらず、俺たちは他の冒険者に一度も遭遇してないのだ。
今いる階層がもしかしたら一般の冒険者が立ち入ることができない階層なら仕方ないと思うが、一階層を探索していた時ですら誰にも会わなかったのはさすがにおかしい。
恐らくこのダンジョンに足を踏み入れた時から、俺たちだけを引き込むために朱雀が何かしら細工をしているのかもしれない。
もしそうなら救助を待つだけ無駄ということになる。
「結局俺たちは下に行くしかないんだよなぁ」
「わたくしたちだけで、神獣のいるところまでたどり着けるのでしょうか?」
実のところ、辿り着くことだけはできる。
それこそ俺が全裸で無敵状態になれば、何もかもを正面突破して一直線に最下層を目指すことが出来るんだ。
レリスが巻き込まれていなければ、俺は真っ先にその手段を取っていたはずだ。
とはいえその手段を取る前にミノタウロスに襲われて死ぬ寸前だったから、レリスが来てくれて助かったのは事実なんだけどね。
……一応聞いておこうかな?
「ちょっと突拍子もない話するな?実は俺、全裸になったら無敵になる能力があるんだよ」
「……はい?」
いきなりわけのわからないことを言い出した俺を、レリスが怪訝な表情で見てくる。
うん、正常な反応だよね!
「俺の体裁を犠牲にしてその能力を使えば、最下層までは確実に辿り着けるはずなんだ」
「シューイチ様、今そのような冗談を……」
「うん信じられないのはわかるよ?けどとりあえずそういう能力があるんだってことを前提に聞いてほしいんだ」
「はあ……?」
レリスが信じようが信じまいが、来るべき時が来たら俺は問答無用で全裸になるけどね。
この状況で二人して生き延びるためなら、俺の体裁なんてあってないようなもんだ。
「でだ?俺自身はこの力にはあんまり頼りたくないんだけど、もうこんな状況を一刻も早くなんとかしたいってレリスが言ってくれるなら、俺は今すぐ全裸になって最下層まで突っ切っていくつもりなんだけど」
「……」
「ただ、その方法なら確実に朱雀の元に辿りつけるけど、結局俺の力じゃ神獣を完全に倒しきることができないんだよね。リンデフランデで神獣と戦った時もそうだったし」
とはいえ、ここで手をこまねているよりはいいと思う。
二人してこの階層で共倒れになるくらいなら、最下層に行くことで事態が変わることに賭けるべきだ。
俺たちの間をしばらく沈黙が支配していたが、ようやくレリスが顔を上げて口を開いた。
「シューイチ様が嘘を吐くはずがありませんので、きっとそういう能力があるのでしょうね……」
「まあこればっかりは実際に見てもらわないと証明できないんだけどね」
「その能力があるということを前提で、少しだけわたくしの我儘を聞いていただけないでしょうか?」
「我儘?」
信じてもらえるならちょっとくらいの我儘なんていくらでも聞くけど、なんだろうか?
「シューイチ様がその力に頼りたくないとおっしゃったように、わたくしも出来るだけ自分自身の力で現状を打破したいと思っていますわ」
「前に話した時もそんなこと言ってたね」
俺の勧誘を断った時も、その理由だったのを覚えている。
「今の自分のこの状況は、わたくしにとって自身の力を試すいい機会だと思っております」
レリスが俺に言いたいという我儘がどんな内容なのかわかってきた気がする。
「ですので、わたくしが力尽き倒れるその時までは……」
「わかったよ。レリスがそういうのなら俺はその意見を尊重する」
「よいのですか?」
「俺のこんな話を信じてくれたんだから、俺もレリスの我儘を聞くくらいはしないとね」
「シューイチ様……申し訳ありません、こんな状況なのに……」
「ただし!俺がもう無理だと判断したら素直に俺の判断に従うこと!いいね?」
「はい……そのときはシューイチ様にお任せしますわ」
きっと他の人が見たら「そんな我儘聞かずにさっさとお前の能力で下までいけばいいじゃないか!」と言うだろうが、そんなことは知ったこっちゃないのである。
本当のところはわからないが、これは俺の無茶な話を信じてくれたレリスに対しての感謝の気持ちみたいなものなのだ。
だから……。
「大丈夫!何があっても俺が絶対レリスを死なせたりしないからさ!」
「……はい」
ありったけの保存食と、可能な限り水を確保した俺たちは、いよいよ次の階層に行く準備を始めた。
正直ここまで恵まれた環境を手放して下に行くのは辛いが、ここでこうしていたって事態は好転しない。
「下に行ったらもう食料も水も補充できないかもしれないから、可能な限り持って行かないとな」
「この先、手に入る保証はありませんものね」
レリスの言う通り、この先は全くの未知の領域であり何が待ち構えているかはわからない。
だからこそここでしっかり準備していかないとな。
「正直な話、この環境を手放すのは惜しいですわね」
「水を飲み放題ってだけでも最高だったな」
正味な話、下の階層がどんな環境なのかと考えるだけで憂鬱な気分になってくる。
だが俺たちは進まないといけない。
「忘れ物はないな……よし行こう!」
「はい!」
俺たちは互いに頷きあい、下の階層へと続く階段へ足を踏み入れる。
そのまま無言で二分ほど階段を下っていく。
階段の出口に差し掛かるにつれ、段々と気温が上がっている気がする。
もうそれだけで次の階層がどんな場所なのか想像できてしまって、思わず足を止めたくなってしまう。
階段を抜けるとそこは―――
「あつ……!」
「上の階層とは真逆ですわね……」
上の階層を一言で言うなら『青』だったが、この階層を一言で言うなれば……『赤』である。
もう一面真っ赤!マグマで真っ赤!!
おかげで暑いことこの上ない!もうこれは暑いではなく熱いだ!
「来たばっかりなのに、もう上の階層に戻りたくなってきたぞ……」
「ですがもう上には戻れませんし」
「わかってます!わかってますとも!!」
結局俺たちは進むしかないんだ……例えそこが暑くても寒くてもだ。
上の階層で水をありったけ補充したけど、もしやこの階層でなくなるんじゃないだろうな?
「この階層は危険だ……なるべく素早くボスを見つけて下の階層に行こう!」
「大いに賛成ですわ……!」
俺たち二人の意志は一つである。
互いに頷きあい俺たちは一歩を踏み出した。
それからどのくらい経ったのだろうか……体感では三日くらい経ったと思う。
その間の俺とレリスのことを簡単に説明していこうと思う。
汗だくになりながらも、あのマグマの階層を突破した俺たちは、こんな熱いところにはいられないとばかりにさっさと下の階層へ降りて行った。
ちなみ階層のボスはフレイムリザードンという迷惑極まりない炎を操る巨大なトカゲだった。
さすがのレリスもこいつを料理したいとは言わなかった。
次の階層は複数の空中に浮かぶ離島で構成された階層だった。
階段なんて探さなくてもこのまま下に落ちれば一気に最下層まで行けるんじゃないかと思ったものの、それで死んだら元も子もないので、その発想を3秒で捨てた。
離島には魔法陣が設置されており、そこに入ると一瞬で別の離島にワープする仕組みだった。
この階層は敵の分断が容易だったこともあり、そこまで苦労することはなかった。
一応空を飛ぶ魔物もいたがそこまでの脅威ではなく、俺たちは順調に歩を進めていく。
そうして辿り着いたボスは巨大なグリフォンだった。
危なくなると空に逃げて時間稼ぎしようとするのが面倒くさかったが、そこに苦労しただけで大して苦戦はしなかった。
その次の階層は、一面がクリスタルで覆われたなんとも目に痛い空間だった。
この階層の特徴として出てくる敵が総じて堅く、しかもクリスタルの反射を利用したビームなどを撃ってくる敵がわんさかいて、思いのほか苦労した。
ただ、今まで見てきた階層の中で最も綺麗な光景だったことが印象的だった。
階層のボスはクリスタルベアーという、身体中クリスタルで構成されたとにかく堅い熊の魔物だった。
堅いだけで動きは遅かったので、魔法剣で攻撃力を強化されたレリスに翻弄されて切り刻まれていき、なすすべもなく倒されていった。
その後もまるで何かの生き物の中のような壁や床が蠢く階層だったり、いたるところにトラップが仕掛けられた城の中のような階層だったり、一件なんの変哲もない普通の洞窟のように見えるものの遭遇する魔物が恐ろしく強い階層だったり……。
俺たちは二人で協力し、苦労しながらそれらを踏破して行ったが……。
ついに俺たちは限界を迎えることとなる。
馬だけになっ!ってやかましいわ!
「喜んでいただけて光栄ですわ」
勢いよく肉を胃袋に掻っ込む俺を見ながら、レリスが上品に笑う。
しかし料理が得意なのは知ってたけど、自前の道具を持ってきていたとはいえ、よくもまあこんな環境でここまで美味しい物を作れるもんだ……感心してしまう。
「レリスも見てばっかりいないで食えよ」
「そうですわね、あんまりもシューイチさんが美味しそうに食べてらっしゃるのでつい……では、わたくしも」
レリスが手を合わせていただきますをして、自身の作った料理に手を伸ばしていく。
その後は二人して黙々と料理を食べていく。
あまりお互いに口には出してなかったが、相当お腹が減っていたようだった。
「ふー!ご馳走様!!」
「おそまつさまでしたわ」
腹も膨れたことで気が緩み眠気が押し寄せてくるが、その前にすべきことがあるのでしっかりしないとな。
「レリスにちょっと話があるんだ。なんで俺たちがこのダンジョンに用があるのかってのを教えておきたいと思って」
「良いのですか?なにか言いづらい事情があったのでは?」
こちらの事情をなんとなく察してくれていたのだろうか、レリスがそう言ってこちらを気遣ってくれる。
「もう完全にこちらの事情に巻き込んじゃってるしさ、ちゃんと話しておかないといけないって思って」
「……そういうことでしたら」
まずどこから説明していくべきか……。
そんなことを思いながら、一つずつ順番に俺たちのことやリンデフランデでの神獣事件などを説明していく。
俺自身の事情はたぶん信じてもらえないと思うので、そこは上手く誤魔化しておく。
10分ほど使い大体の事情を説明し終わったので、俺はレリスの反応を伺う。
「わたくしが旅に出たあたりで、リンデフランデでそういう事件があったというのはなんとなく耳にしておりましたが……」
「簡単には信じてもらえないと思うけど、ちゃんと事実なんだ」
証明できるものが何一つないのがつらいところだけどね。
「今までシューイチ様の人となりを拝見しておりましたから、嘘を吐く方ではないのは承知しておりますが……」
「そう?俺結構適当なことばっかり言うよ?」
褒められるとそれを素直に受け取れないのは、俺の悪い癖だよなあ。
「まあとにかく、このダンジョンの最下層に朱雀がいるらしくて、恐らく俺たちがこのダンジョンを出られないのはそいつのせいじゃないかと思うんだよ」
「もしその予想が当たっていたとしたら、わたくしたちはかなり危険な状況に置かれているのでは?」
そうなんだよなぁ……朱雀のいる階層までたどり着くことは出来ると思うけど、フリルがいない以上俺たちは朱雀を鎮める手段がないのだ。
じゃあフリルがここに来るまで待っていたほうがいいのか?っとなるとそれはそれで望みが薄い。
これはこのダンジョンに入った時から思ってたことなんだけど、これだけ長時間探索をしていたにも関わらず、俺たちは他の冒険者に一度も遭遇してないのだ。
今いる階層がもしかしたら一般の冒険者が立ち入ることができない階層なら仕方ないと思うが、一階層を探索していた時ですら誰にも会わなかったのはさすがにおかしい。
恐らくこのダンジョンに足を踏み入れた時から、俺たちだけを引き込むために朱雀が何かしら細工をしているのかもしれない。
もしそうなら救助を待つだけ無駄ということになる。
「結局俺たちは下に行くしかないんだよなぁ」
「わたくしたちだけで、神獣のいるところまでたどり着けるのでしょうか?」
実のところ、辿り着くことだけはできる。
それこそ俺が全裸で無敵状態になれば、何もかもを正面突破して一直線に最下層を目指すことが出来るんだ。
レリスが巻き込まれていなければ、俺は真っ先にその手段を取っていたはずだ。
とはいえその手段を取る前にミノタウロスに襲われて死ぬ寸前だったから、レリスが来てくれて助かったのは事実なんだけどね。
……一応聞いておこうかな?
「ちょっと突拍子もない話するな?実は俺、全裸になったら無敵になる能力があるんだよ」
「……はい?」
いきなりわけのわからないことを言い出した俺を、レリスが怪訝な表情で見てくる。
うん、正常な反応だよね!
「俺の体裁を犠牲にしてその能力を使えば、最下層までは確実に辿り着けるはずなんだ」
「シューイチ様、今そのような冗談を……」
「うん信じられないのはわかるよ?けどとりあえずそういう能力があるんだってことを前提に聞いてほしいんだ」
「はあ……?」
レリスが信じようが信じまいが、来るべき時が来たら俺は問答無用で全裸になるけどね。
この状況で二人して生き延びるためなら、俺の体裁なんてあってないようなもんだ。
「でだ?俺自身はこの力にはあんまり頼りたくないんだけど、もうこんな状況を一刻も早くなんとかしたいってレリスが言ってくれるなら、俺は今すぐ全裸になって最下層まで突っ切っていくつもりなんだけど」
「……」
「ただ、その方法なら確実に朱雀の元に辿りつけるけど、結局俺の力じゃ神獣を完全に倒しきることができないんだよね。リンデフランデで神獣と戦った時もそうだったし」
とはいえ、ここで手をこまねているよりはいいと思う。
二人してこの階層で共倒れになるくらいなら、最下層に行くことで事態が変わることに賭けるべきだ。
俺たちの間をしばらく沈黙が支配していたが、ようやくレリスが顔を上げて口を開いた。
「シューイチ様が嘘を吐くはずがありませんので、きっとそういう能力があるのでしょうね……」
「まあこればっかりは実際に見てもらわないと証明できないんだけどね」
「その能力があるということを前提で、少しだけわたくしの我儘を聞いていただけないでしょうか?」
「我儘?」
信じてもらえるならちょっとくらいの我儘なんていくらでも聞くけど、なんだろうか?
「シューイチ様がその力に頼りたくないとおっしゃったように、わたくしも出来るだけ自分自身の力で現状を打破したいと思っていますわ」
「前に話した時もそんなこと言ってたね」
俺の勧誘を断った時も、その理由だったのを覚えている。
「今の自分のこの状況は、わたくしにとって自身の力を試すいい機会だと思っております」
レリスが俺に言いたいという我儘がどんな内容なのかわかってきた気がする。
「ですので、わたくしが力尽き倒れるその時までは……」
「わかったよ。レリスがそういうのなら俺はその意見を尊重する」
「よいのですか?」
「俺のこんな話を信じてくれたんだから、俺もレリスの我儘を聞くくらいはしないとね」
「シューイチ様……申し訳ありません、こんな状況なのに……」
「ただし!俺がもう無理だと判断したら素直に俺の判断に従うこと!いいね?」
「はい……そのときはシューイチ様にお任せしますわ」
きっと他の人が見たら「そんな我儘聞かずにさっさとお前の能力で下までいけばいいじゃないか!」と言うだろうが、そんなことは知ったこっちゃないのである。
本当のところはわからないが、これは俺の無茶な話を信じてくれたレリスに対しての感謝の気持ちみたいなものなのだ。
だから……。
「大丈夫!何があっても俺が絶対レリスを死なせたりしないからさ!」
「……はい」
ありったけの保存食と、可能な限り水を確保した俺たちは、いよいよ次の階層に行く準備を始めた。
正直ここまで恵まれた環境を手放して下に行くのは辛いが、ここでこうしていたって事態は好転しない。
「下に行ったらもう食料も水も補充できないかもしれないから、可能な限り持って行かないとな」
「この先、手に入る保証はありませんものね」
レリスの言う通り、この先は全くの未知の領域であり何が待ち構えているかはわからない。
だからこそここでしっかり準備していかないとな。
「正直な話、この環境を手放すのは惜しいですわね」
「水を飲み放題ってだけでも最高だったな」
正味な話、下の階層がどんな環境なのかと考えるだけで憂鬱な気分になってくる。
だが俺たちは進まないといけない。
「忘れ物はないな……よし行こう!」
「はい!」
俺たちは互いに頷きあい、下の階層へと続く階段へ足を踏み入れる。
そのまま無言で二分ほど階段を下っていく。
階段の出口に差し掛かるにつれ、段々と気温が上がっている気がする。
もうそれだけで次の階層がどんな場所なのか想像できてしまって、思わず足を止めたくなってしまう。
階段を抜けるとそこは―――
「あつ……!」
「上の階層とは真逆ですわね……」
上の階層を一言で言うなら『青』だったが、この階層を一言で言うなれば……『赤』である。
もう一面真っ赤!マグマで真っ赤!!
おかげで暑いことこの上ない!もうこれは暑いではなく熱いだ!
「来たばっかりなのに、もう上の階層に戻りたくなってきたぞ……」
「ですがもう上には戻れませんし」
「わかってます!わかってますとも!!」
結局俺たちは進むしかないんだ……例えそこが暑くても寒くてもだ。
上の階層で水をありったけ補充したけど、もしやこの階層でなくなるんじゃないだろうな?
「この階層は危険だ……なるべく素早くボスを見つけて下の階層に行こう!」
「大いに賛成ですわ……!」
俺たち二人の意志は一つである。
互いに頷きあい俺たちは一歩を踏み出した。
それからどのくらい経ったのだろうか……体感では三日くらい経ったと思う。
その間の俺とレリスのことを簡単に説明していこうと思う。
汗だくになりながらも、あのマグマの階層を突破した俺たちは、こんな熱いところにはいられないとばかりにさっさと下の階層へ降りて行った。
ちなみ階層のボスはフレイムリザードンという迷惑極まりない炎を操る巨大なトカゲだった。
さすがのレリスもこいつを料理したいとは言わなかった。
次の階層は複数の空中に浮かぶ離島で構成された階層だった。
階段なんて探さなくてもこのまま下に落ちれば一気に最下層まで行けるんじゃないかと思ったものの、それで死んだら元も子もないので、その発想を3秒で捨てた。
離島には魔法陣が設置されており、そこに入ると一瞬で別の離島にワープする仕組みだった。
この階層は敵の分断が容易だったこともあり、そこまで苦労することはなかった。
一応空を飛ぶ魔物もいたがそこまでの脅威ではなく、俺たちは順調に歩を進めていく。
そうして辿り着いたボスは巨大なグリフォンだった。
危なくなると空に逃げて時間稼ぎしようとするのが面倒くさかったが、そこに苦労しただけで大して苦戦はしなかった。
その次の階層は、一面がクリスタルで覆われたなんとも目に痛い空間だった。
この階層の特徴として出てくる敵が総じて堅く、しかもクリスタルの反射を利用したビームなどを撃ってくる敵がわんさかいて、思いのほか苦労した。
ただ、今まで見てきた階層の中で最も綺麗な光景だったことが印象的だった。
階層のボスはクリスタルベアーという、身体中クリスタルで構成されたとにかく堅い熊の魔物だった。
堅いだけで動きは遅かったので、魔法剣で攻撃力を強化されたレリスに翻弄されて切り刻まれていき、なすすべもなく倒されていった。
その後もまるで何かの生き物の中のような壁や床が蠢く階層だったり、いたるところにトラップが仕掛けられた城の中のような階層だったり、一件なんの変哲もない普通の洞窟のように見えるものの遭遇する魔物が恐ろしく強い階層だったり……。
俺たちは二人で協力し、苦労しながらそれらを踏破して行ったが……。
ついに俺たちは限界を迎えることとなる。
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