無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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深部~神獣を倒さないで~

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 全裸になった俺の快進撃は止まらない。
 出てくる魔物やトラップなんのそので、風の弾丸と化した俺は破竹の勢いでダンジョンを駆け抜けていく。
 ボス部屋に到達しても、もはやボスの姿すら見るのも面倒くさくて出現と同時に巨大な魔力ハンマーでプチっと潰していく。
 そんな倒し方をしてしまったら素材が剥ぎ取れないじゃないかと非難を受けるかもしれないが、今の俺たちにそんなものを必要ないのである。
 ようはいかにしてこのダンジョンを効率よく攻略していくか?これに尽きる。
 とはいったものの、もはや攻略なんて耳当たりの優しい言葉なんてものではなくなっているのが現状だ。
 俺が全裸になって文字通りダンジョンを駆け抜け始めてゆうに3時間ほど経ち、その間に5階層ほど進んだのだが……いかに早く進めるかしか俺の頭になかったせいでどんな光景や魔物がいたかなんて全く覚えてないのである。
 自分でもダンジョン探索の醍醐味をぶち壊してる自覚はちゃんとあるものの、はっきり言ってそんなことで歩みを止めれない。

「ここまで無茶苦茶な勢いでダンジョンを攻略されていくと、もはや文句もでませんわね……」

 最初こそ驚き声も出ないことの多かったレリスも、もはや達観の領域に足を踏み込んでいる。
 なんだか夢を壊してしまった気がして申し訳ない。

「シューイチ様と二人で苦労してダンジョンを進んでいたあの三日間が、遠い幻のように思えてきましたわ」
「なんかごめんね?」
「いいえ、助けてもらっているのですもの……その方法にまで文句を言うほどわたくしは恩知らずではないつもりですわ」
「それならさ、ここから出られたら今度はレリスの行きたいところに付き合うよ、俺たちでさ」
「あら?わたくしの憧れを壊したのはシューイチ様ですのよ?それならばシューイチ様一人でわたくしに付き合ってくださるのが道理ではなくて?」

 俺の背に負ぶさっているレリスが、そう言ってなにやら楽し気に微笑む。
 レリスも大分余裕が出てきたみたいで良かった良かった。

「あはは、りょーかい!気の済むまでレリスに付き合うよ」
「ええ、付き合ってもらいますわ。わたくし本気ですからね?」

 二人して死亡フラグ立てすぎな気がするが、全裸で無敵状態の俺にはそんなもの関係なしだ。
 そんな話をしていると、どうやらこの階層のボスの元に辿り着いたらしく、目の前で大量の魔力が渦巻いて巨大な魔物を作り出していく。

「邪魔っ」

 だがその魔力が魔物の形になった瞬間、ありったけの魔力を集めて作った魔力爆弾を放り投げて、生まれたてのこの階層のボスを爆殺した。
 爆風と爆音が収まり、部屋の奥に目を向けると下へ続く階段が生成されていた。
 ここまでくるともはや流れ作業である。
 階段を降りて下の階層に行こうと足を踏み出した途端、階段の先から今までは全く質の違う魔力が流れ込んでいるのに気が付き、思わず足を止める。

「シューイチ様……」
「うん、俺も気が付いたよ」

 今までとは違う魔力の質。
 間違いない……俺たちはどうやら目的の場所に辿り着くことが出来たようだ。

「次の階層が恐らくこのダンジョンの最深部だ」
「ええ……ようやくここまで来ましたわね」

 二人して階段を見ながら息をのむ。

「それじゃあ突っ込むけど……大丈夫かレリス?」
「ここまで来たのですもの、最後までシューイチ様にお付き合いいたしますわ」

 二人して覚悟を決めて足を一歩踏み出そうとしたその刹那。

『宗一さーん』
『なんだよシリアスブレーカーシエル』
『変な二つ名をつけないでくださいよ!給仕係シエルと呼んでください!!』

 お前それでええんか?
 急に足を止めた俺に、レリスが顔を傾げる。

『玄武さんが伝えたいことがあるとのことで』
『玄武が?』
『左様』

 突然シエルとは違う声が頭に響いたのでびっくりした。

『何だよお前!いきなり話しかけてくるなよ!!ビックリすんだろうが!?』
『なぜ出合い頭でそんなに怒っておるのだお主は?……まあよい、お主に大事な話がある』

 まあ話があるというなら聞こうじゃないか。
 わざわざこのタイミングで念話を飛ばしてきたということは、重要な話だろうしな。

『我の予想が正しければ、お主たちは今そのダンジョンの最下層直前まで来ておるのではないか?』
『よくわかるね?』
『3時間ほど前にお主の魔力が無尽蔵に膨れ上がり、そのおかげでこちらでその動きを捕らえることが出来るようになったのだ』

 3時間前ということは、俺が全裸になったあたりだな。

『我からすればもっと早くその状態になってほしかったものであるが』
『こっちだって色々と事情があるんだよ』
『であろうな……それで話というのは、その先にいるであろう朱雀のことだ』

 まあこのタイミングだから、間違いなく朱雀のことだろうとは思った。
 ていうかやっぱりこの下の階層にいるんだな。

『お主の魔力を通してそちらの様子をわずかながらに感じ取ることが出来るのだが、どうやら我が想定していた事態とは異なるようだ』
『何か変なのか?』
『恐らくであるが、朱雀の封印は解けておる』

 おま、後一年は大丈夫なんじゃなかったのかよ!?

『だが少し変なのだ。我の知ってる朱雀の魔力に似ているようで少しばかり違うのでな』
『何がどう違うんだよ?』
『別の魔力が混じっておるのだ……その魔力は恐らくそのダンジョンの魔力で間違いない』
『……あーなんかわかってきたわ』

 玄武のその言葉で、俺はレリスと二人で飛ばされた時から思っていたことに確信を持つことが出来た。

『俺たちはやっぱり朱雀の力でこのダンジョンの深いところまで引き込まれたんだな?』
『その認識で間違いない。お主たちは朱雀に招かれている』

 まったくもって迷惑な話だ。
 おかげさまでこっちとら死ぬ思いをしたぞ。
 どうせ招くなら一気に自分の元に飛ばしてくれればいいのに、なんでわざわざ中途半端なところに飛ばしたんだろうか?

『一言文句を言ってやらないと気が済まないな……』
『今のお主では朱雀を殺しかねん……できれば穏便に済ませてほしいのだが』
『どうせお前ら倒しても復活してくるじゃん?』

 それならば俺の気の済むまで何度でもぶちのめせば、少しは俺の気も晴れると言うものだ。

『あれは我固有の能力であって、他の神獣にはない力だ。そもそもあそこまで何度も復活できたのは邪神に暴走の種を植え付けられていたせいであって、本来の我ではあそこまでしつこく復活することは叶わぬのだ』
『それはそれは良いことを聞いた』
『宗一さん、悪いことをする人の口調になってますよ?』

 今まで俺たちの念話を黙って聞いてたシエルがここぞとばかりに口を挟んできた。

『この世界の神様との約束ですから、殺してしまうのは勘弁してほしいんですけど……』
『じゃあ首の皮一枚で許してやらなくもない』
『これは相当腹に据えかねておるな』
『そうみたいですねぇ……』

 シエルと玄武がそろってため息を吐いた。

『お主が朱雀と接触することが出来れば、こちらも恐らく禁じ手を使うことが出来るはずだ。だからあまり朱雀を刺激しないでほしいのだが』
『禁じ手?』
『時間もかかる上に成功率も低いのだ……確実に成功する保証がないので全容は伝えられぬ。それにこの念話ももしかしたら朱雀に聞かれておるかもしれぬ』
『なんだと!?おいこらこの鳥野郎!!聞いてるなら返事しろコラぁ!!』
『だから下手に刺激するなと言ったであろう!?我の話を聞いておったのかお主は!?』

 突然怒鳴り出した俺を、玄武が慌てて止めてくる。
 うるさいなぁ……こっちは一言文句言ってやらないと気が済まないんだよ!
 
『とにかくそこまで来た以上、一刻も早く朱雀と接触してくれ!』
『お前らが自分で水を差してきたんじゃんか』
『先程も神の眷属が言ったが、お主が朱雀を殺してしまう可能性があったからだ』

 まあ復活する前提で戦う予定だったから、まず間違いなく跡形もなく消し飛ばしてただろうね。

『我の知っておる朱雀なら、恐らくむやみな戦いにはならぬはずだ』
『そうなの?朱雀って実は紳士的な奴なのか?』
『紳士……ではないな。面倒くさい奴ではあるが』

 もうその面倒くさいというワードだけで行く気が失せてくる。

『まあいいや……とりあえず行くけどいいんだよな?』
『ああ構わぬ。くれぐれも注意だけはしておいてくれ』
『あいよー』

 さてと……どうしたもんかね?

「シューイチ様、どうかなされたのですか?」
「ああ、ごめん!ちょっと上から連絡が来てさ」
「上から連絡?」
「詳しい話は省くけど、やっぱりこの下に朱雀がいるらしい」

 俺の言葉にレリスの表情が強張る。

「なるべく倒さないようにしてくれって念を押された」
「普通は相手に倒されないようにと念を押されると思うのですが……まあ今のシューイチ様ならそのような念を押されるのも納得ですわね」

 この三時間の間でレリスの価値観がすっかり変わってしまったようで、責任を感じずにはいられないな。

「事情が詳しい奴が言うには、おそらく朱雀は復活してるだろうって」
「封印されていたのではなかったのですか?」
「そう聞いてたんだけどねぇ」

 多分このダンジョンの魔力をうまく利用して本来よりも早く封印を解いたとかそんなところだろうな。
 しかしなんで朱雀は俺たちをこのダンジョンの奥深くにわざわざ招き入れるような真似をしたのだろうか?
 俺たちに用があるなら一気に自分の元まで来させればいい物を……。

「まあここであれこれ考えていても仕方ないし、下に降りよう」
「そうですわね」

 俺たちが互いに頷きあい、今度こそ階段に足を踏み入れた。
 物音一つしない静かな空間に、俺の足音が響く。
 下に降りていくにつれ、肌で感じる魔力の質がどんどん変わっていくのがわかる。
 そうして二分ほど階段を降りていくと、ようやく出口に辿り着いた。
 階段の出口を抜けて周囲を見渡すと、そこはリンデフランデで見た王宮のような階層だった。
 道なりに進んでいくと、やがて大きな扉が俺たちに立ちふさがった。
 扉を見上げると、大きな鳥の画が彫られている。

「この先にいるみたいだな……」
「そのようですわね」

 扉の奥から感じる厳粛な空気に俺たちは息をのむ。
 このダンジョンに閉じ込められてから早三日経ったが、ようやくここまで来られたんだな……。

「シューイチ様、わたくしもう自分の足で立てるくらいには回復しましたわ」
「そうか?じゃあ名残惜しいけど……」

 レリスをそっと背中から降ろすと、まだ少し足元がおぼつかない感じがするものの、レリスは自分の足で立てるくらいに回復しているようだった。
 ああ、背中に当たっていたあの幸せの膨らみの感触が懐かしい……。

「シューイチ様?」
「なんでもありませんことよ?」

 つーかここまで来て何をバカなことしてるんだって話だよ。
 俺は気を入れなおし扉に向き直る。

「行くぞレリス」
「ええ、覚悟はできてますわ」
「よーっし……!」

 扉に手を添えてそっと押してやると、音を立てながら扉が開いていく。
 足を踏み入れると、思ってた以上に真っ暗で静かな空間だったので少し面を食らう。
 レリスと二人で歩いて行くと、俺たちの通った場所にあったらしいたいまつに灯がともっていく。
 どんな演出だよこれは……。
 そうして30秒ほど歩いていくと、ふいに部屋中のたいまつに灯がともり一気に視界が開けた。
 目の前には大きな玉座があり、そしてそこには―――

「来たわね……待ってたわよ」

 立派な玉座に座るおおよそ不釣り合いな一人の少女が、俺たちを見降ろしながら偉そうな口調でそう言った。
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