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黒炎~意志を持った炎~
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目の前に現れた怪鳥とも呼べるべき巨大な鳥を前に、俺とレリスは思わず言葉を失う。
きっとこれが本来の朱雀の姿なのだろう。
しかし暴走状態なのか、依然の玄武と同じように全身が赤黒く染まって禍々しい外見をしており、その瞳にはこの世の全てを憎むかのような……って!
「おいこら!負けそうになったからって本来の姿に戻るとか卑怯だぞ!?」
「いえシューイチ様……恐らく暴走の力を抑えられなくなったのだと思いますわ!」
「なんで?そうならないためにダンジョンに力を逃がしてたんじゃなかったのか?」
「多分なのですが、わたくしと剣を交えるうちに知らず知らずに力を引き戻していたのでは?」
それじゃあなにか?開き直り覚醒したレリスを相手にしようとして力を引き戻した結果、暴走の力も一緒に引き戻しちゃって制御できなくなったのか?
「結局自業自得じゃねーか!!」
「……そうですわね」
折角神獣と戦わなくて済むかと思ったのに、結局はこうなるんだな……。
しかしどうしたもんだろうか、朱雀は玄武のように復活したりしないらしいから、多分倒すだけなら簡単だ。
だが、シエルや玄武から朱雀を倒さないでくれと釘を刺されてるんだよなぁ……。
「シューイチ様、いかがいたしましょうか?」
レリスもそれをわかっているのか、俺に判断を求めてきている。
「まあ、こうなった以上勝負は朱雀の反則負けでいいと思うんだけどね」
「そこも重要ではありますが、今はそこではなくて……」
「わかってるよ……俺が前に出れば倒すこと自体は簡単なんだけどなぁ」
倒さずに耐えるにしても、それはこの場にフリルがいることを前提とした状況だし、どうすればいいんだ?
幸いなことに朱雀は復活したばかりで意識が定まっていないのか、動く気配がない。
この間にどうするのかを決めないといけない!
『宗一さん!聞こえますか!』
とそこへ、俺の脳内に聞きなれた声が響いてきた。
『玄武さんから朱雀の魔力が急に膨れ上がったって聞いたんですけど、もしかして……』
『そちらの予想通り、絶賛暴走中だよ!俺らの名誉のために言うけど、朱雀が勝手に暴走したんだからな?』
『別にそこを疑うわけではありませんが……とりあえず玄武さんに変わりますね?』
『シューイチよ、どうやら朱雀が完全に復活してしまったようだな』
可愛い声から急に渋い声に変わるとその変化についていけなくて混乱するな?
『どうした?』
『なんでもないよ……お察しの通りだよ』
『そちらにとっては厳しい状況かもしれぬが、逆にこちらにとっては好都合だ』
『好都合ってどういうことだよ?』
『それだけはっきりと朱雀の…力が感じ取れるな…、それ……って……ルをそちら…………せることができるかもし…ん』
なんか所々が聞こえずらい。
『え?なんだって?はっきり聞き取れないんだけど!?』
『ぬ?どう……暴走した朱雀の魔力と………ョンの魔力がせ…ぎあい発生した力場の……で上手く念話が出来………だ』
断片的に聞き取れた情報から察するに、どうやら暴走した朱雀とダンジョンのせいで念話が上手く受信できないっぽいな。
『とりあえずどうすればいいのか、端的に頼のむ!』
『耐えて……!10分…いい!』
『わかった!10分耐える!!』
10分も耐えるのか……でもそれで事態が好転するならそうするしかないな。
どの道俺たちにできることなど、そう多くないのだ。
「レリス、今から10分耐えるぞ」
「それはまた地上からの……ですか?」
「そういうこと!じゃあ俺が前に出てなるべく朱雀を抑え込むから……」
「お待ちくださいシューイチ様」
そう言って前に出ようとした俺を、レリスが引き留めてくる。
「わたくしと朱雀の勝負はまだついておりませんわ」
「え?たしかにそうだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃ」
「わかっております……でもわたくしはこのままさっきの勝負を有耶無耶で終わらせたくありません」
レリスの言い分もわからなくもないが……さてこのレリスを説得するのは骨が折れるな。
これが普通の魔物だったらレリスに任せるのは全然問題ないんだけど、相手は神獣だ。
いくらレリスと言えどさすがに荷が重すぎる。
「……シューイチ様はわたくしが信じられませんか?」
「うわーその言い方ずるいわー!」
そんなこと言われて「はい、信じてません」なんて言えるわけないじゃん!
レリスと共にダンジョンに閉じ込められて三日間、レリスを信じてよかったと思った状況なんて腐るほどあったというのに!
「引き際はわきまえます!お願いです!わたくしを信じてください!!」
レリスの真摯な瞳が俺をまっすぐに見据える。
こうしてる間にもいつ朱雀が動き出すかわからない……早めに決断しなければ。
レリスのことは勿論信じてる……だけどここで軽はずみは判断をして最悪な事態が起きたら、俺は一生後悔し続けることになるだろう。
だがレリスはそれを承知の上で、自分に戦わせてほしいと言っているんだ……ならその意志も汲んであげたい。
「……わかった……でもレリス一人に戦わせるわけにはいかない」
このまま何もしなかったせいでレリスにもしものことが起きてしまうのだけは絶対に嫌だ。
レリスが我儘を通すなら俺も我儘を通させてもらおう。
「ここに来るまでと同じだ。レリスが前に出て俺が後ろでフォローする!」
「シューイチ様……それは」
「なんだ?レリスは俺のことが信じられないのか?」
そう言って俺がにやりと笑うと、レリスが目を丸くする。
「まあ!やり返されてしまいましたわ!」
「そういうことだよ?俺とレリスはこのダンジョンで共に戦ってきたんだ、いわば一心同体みたいな?」
「やはり自分だけ我儘を通すのは無理がありましたわね……」
レリスがいつものように上品に笑う。
いつの間にかすっかり俺はその笑顔を見ると安心するようになってしまった。
「俺とレリスの二人で朱雀を止めよう!」
「ええ!この背中と命は、シューイチ様に預けますわ!」
俺たちはそろって朱雀に向き直る。
まるでそれを待っていたかのように、朱雀が自身の巨大な羽を羽ばたかせた。
その風圧で吹き飛ばされそうになるものの、足に力を込めることでグッと堪える。
「クエエェェェ――――――――――――!!!」
朱雀のその雄たけびが戦闘開始の合図だった。
「出ます!」
レリスが風を身体に纏いながら勢いよく飛び出した。
そのレリスを迎撃するかのように朱雀が黒い氷を生成し、それを弾丸のように打ち出した。
「はっ!!」
レリスが剣に魔力を込めてその氷の弾丸を斬り伏せるが……。
「なっ!?」
「氷の中から炎!?」
レリスによって真っ二つにされた黒い氷から、これまた黒い炎が噴き出しレリスに襲い掛かる。
だが咄嗟に風の幕を張ることでその炎を周囲に逸らし、レリスはどうにか事なきを得た。
「レリス!その氷の弾丸は斬っちゃだめだ!可能な限りかわしながら朱雀に接近しろ!」
「はい!!」
高く飛び上がった朱雀を追うように、レリスが足元に風のフィールドを張り、それを蹴ってさらに飛翔する。
追ってくるレリスを撃ち落とそうと、朱雀が無数の氷の弾丸を打ち出していくが、例の風のフィールドを巧みに操り空中で様々に方向転換しながら、レリスが朱雀へと接近していく。
ついにレリスの剣の届く範囲に朱雀を捕らえたが―――
「レリス後ろ!!」
「え?」
朱雀の放った氷の弾丸を内側から溶かした黒い炎が、まるで意志を持つかのようにレリスに向かって伸びていく。
「プロテクション!!」
レリスを守るように俺は防御壁を張るが、黒い炎が防御壁を包んだ瞬間あっと今に溶かされてしまった。
「んなバカな!?」
玄武の時も思ったが、もしかして神獣の攻撃って魔法に対して特攻属性でも付いてるんじゃないのか!?
そうでなければあの時のエナの全力フルプロテクションや、全裸状態の俺のプロテクションがやすやすと突破されるはずがないのだ。
攻撃どころではなくなったレリスは地面に降り立ち、剣に風を集めて朱雀に狙いを定めた。
「ストームスティンガー!!」
レリスお得意の貫通力の高い風の弾丸が宙に浮かぶ朱雀に向かって真っすぐに飛んでいく。
だがその攻撃は朱雀が羽を羽ばたかせることで発生した突風によって、あっさりと掻き消されてしまった。
「クエエェェェ―――!」
お返しとばかりに朱雀がレリスの周りに黒い氷の柱を五本出現させた。
「やばい!!」
俺は身体強化を発動しレリスの元へとすっとんだ。
俺がレリスの元に辿り着くと同時に周囲の黒い氷の柱が砕け、そこから赤黒い意志を持った炎が一斉に俺たちに襲い掛かった。
先ほどの様子からおそらくこの炎はプロテクションでは防げないな……なら!
「レリス!なるべく俺のそばに!!」
「はい!」
イメージだ……ここに来るまでの間に俺は散々やって来たんだから出来るはずだ!
「エア・バースト!!」
魔力を解き放った俺を中心に風の爆発が起き、まるで黒い炎を押し出すように、凄まじい突風が吹き荒れる。
しぶとく俺たちを襲おうとしていた黒い炎は、その突風によって散らされていった。
どうにか凌ぎ切ったようだ。
攻めるにも守るにも、あの黒い炎が厄介だな……。
「シューイチ様!あれを!!」
慌てた様子のレリスが指さした方角を見ると、俺が散らしたはずの黒い炎がしぶとく集まっていき再び俺たちに襲い掛かろうとしている光景だった。
「ええぇ~……なにそれぇ?」
「どうやら風で一時的に凌げても、根本的な解決にはならないみたいですわね……」
こんな調子で朱雀がこの攻撃を続けていたら、この階層はあっという間に黒い炎の海になるぞ!?
そうなってしまったら俺たちに逃げ場はなくなってしまう。
「クエエェェェ!!」
そんなことを考えていると、朱雀の鳴き声と共に黒い炎の一部が細長い形状になったかと思うと、それが黒い氷で包まれた。
さながらそれは氷の槍のようだった。
「あれってもしかして……」
俺がそう言ったと同時に、その氷の槍が俺たちに向けて勢いよく射出された。
「やべっ!!?」
咄嗟にレリスの前に出て、俺の身体で氷の槍を受けとめると、案の定黒い炎が砕けた氷から噴き出して、俺の身体を包み込んだ。
「シューイチ様!?」
「俺なら平気だ!それよりも油断するなレリス!まだ撃ってくるつもりだぞ!」
見ると俺たちを囲むようにしていた黒い炎の一部から次々と氷の槍を生成されていき、その全てが俺たちに向けられている。
これを一斉に撃たれたら、俺はともかくレリスはやばいよな……恐らく俺たちが別々に逃げてもそれぞれを的確に狙ってくるだろうし。
……あっそうだ!
「レリス!今すぐ俺から離れてくれ!出来るだけ遠くに!」
「なにか考えがあるのですね?わかりましたわ!!」
そう言ってレリスが風を全身に纏い、勢いよく俺の真上に飛翔した。
だがそのレリスを狙って、無数の槍の一部がレリスに狙いを定めるように上に向いた。
上手くいってくれよ……!
「ヘイトブースト!」
敵の注意を引き付ける魔法を俺自身に掛ける。
なにせ全裸状態の俺がありったけの魔力を込めたんだ、効果がなかったら困るが……。
「シュっ……シューイチ様!?」
無数の氷の槍が俺に向けられ、その全てが一斉に俺に向けて射出される地獄のような光景を空中から見下ろしたレリスが、思わず俺の名前を叫んだ。
次々と俺の身体に氷の槍がぶつかり砕けて、そこから黒い炎が噴き出して俺を焼き尽くそうとするが、生憎今の俺には全く効果がないんだよなぁ。
しかし俺の予想通りだったな。この炎が朱雀から独立した意志を持っているなら、俺に注意を引き付けられるんじゃないかと思ったが、どうやらビンゴだったようだ。
しかも全裸状態の俺が使う魔法だ、その強制力は相当な物だろう。
「クエエェェェ!!」
その時、空中で無防備になっているレリスに向けて朱雀からいくつもの氷の弾丸が打ち出された。
レリスがその弾丸を反射的に斬り伏せてしまい、氷から噴き出した炎がレリスを襲うかと思いきや、俺に向かって真っすぐに伸びてきた。
うん、ものすごい効果だ!自分でもビックリ!
「レリス!黒い炎は俺が引き付けるから、全力で朱雀に攻撃するんだ!!」
きっとこれが本来の朱雀の姿なのだろう。
しかし暴走状態なのか、依然の玄武と同じように全身が赤黒く染まって禍々しい外見をしており、その瞳にはこの世の全てを憎むかのような……って!
「おいこら!負けそうになったからって本来の姿に戻るとか卑怯だぞ!?」
「いえシューイチ様……恐らく暴走の力を抑えられなくなったのだと思いますわ!」
「なんで?そうならないためにダンジョンに力を逃がしてたんじゃなかったのか?」
「多分なのですが、わたくしと剣を交えるうちに知らず知らずに力を引き戻していたのでは?」
それじゃあなにか?開き直り覚醒したレリスを相手にしようとして力を引き戻した結果、暴走の力も一緒に引き戻しちゃって制御できなくなったのか?
「結局自業自得じゃねーか!!」
「……そうですわね」
折角神獣と戦わなくて済むかと思ったのに、結局はこうなるんだな……。
しかしどうしたもんだろうか、朱雀は玄武のように復活したりしないらしいから、多分倒すだけなら簡単だ。
だが、シエルや玄武から朱雀を倒さないでくれと釘を刺されてるんだよなぁ……。
「シューイチ様、いかがいたしましょうか?」
レリスもそれをわかっているのか、俺に判断を求めてきている。
「まあ、こうなった以上勝負は朱雀の反則負けでいいと思うんだけどね」
「そこも重要ではありますが、今はそこではなくて……」
「わかってるよ……俺が前に出れば倒すこと自体は簡単なんだけどなぁ」
倒さずに耐えるにしても、それはこの場にフリルがいることを前提とした状況だし、どうすればいいんだ?
幸いなことに朱雀は復活したばかりで意識が定まっていないのか、動く気配がない。
この間にどうするのかを決めないといけない!
『宗一さん!聞こえますか!』
とそこへ、俺の脳内に聞きなれた声が響いてきた。
『玄武さんから朱雀の魔力が急に膨れ上がったって聞いたんですけど、もしかして……』
『そちらの予想通り、絶賛暴走中だよ!俺らの名誉のために言うけど、朱雀が勝手に暴走したんだからな?』
『別にそこを疑うわけではありませんが……とりあえず玄武さんに変わりますね?』
『シューイチよ、どうやら朱雀が完全に復活してしまったようだな』
可愛い声から急に渋い声に変わるとその変化についていけなくて混乱するな?
『どうした?』
『なんでもないよ……お察しの通りだよ』
『そちらにとっては厳しい状況かもしれぬが、逆にこちらにとっては好都合だ』
『好都合ってどういうことだよ?』
『それだけはっきりと朱雀の…力が感じ取れるな…、それ……って……ルをそちら…………せることができるかもし…ん』
なんか所々が聞こえずらい。
『え?なんだって?はっきり聞き取れないんだけど!?』
『ぬ?どう……暴走した朱雀の魔力と………ョンの魔力がせ…ぎあい発生した力場の……で上手く念話が出来………だ』
断片的に聞き取れた情報から察するに、どうやら暴走した朱雀とダンジョンのせいで念話が上手く受信できないっぽいな。
『とりあえずどうすればいいのか、端的に頼のむ!』
『耐えて……!10分…いい!』
『わかった!10分耐える!!』
10分も耐えるのか……でもそれで事態が好転するならそうするしかないな。
どの道俺たちにできることなど、そう多くないのだ。
「レリス、今から10分耐えるぞ」
「それはまた地上からの……ですか?」
「そういうこと!じゃあ俺が前に出てなるべく朱雀を抑え込むから……」
「お待ちくださいシューイチ様」
そう言って前に出ようとした俺を、レリスが引き留めてくる。
「わたくしと朱雀の勝負はまだついておりませんわ」
「え?たしかにそうだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃ」
「わかっております……でもわたくしはこのままさっきの勝負を有耶無耶で終わらせたくありません」
レリスの言い分もわからなくもないが……さてこのレリスを説得するのは骨が折れるな。
これが普通の魔物だったらレリスに任せるのは全然問題ないんだけど、相手は神獣だ。
いくらレリスと言えどさすがに荷が重すぎる。
「……シューイチ様はわたくしが信じられませんか?」
「うわーその言い方ずるいわー!」
そんなこと言われて「はい、信じてません」なんて言えるわけないじゃん!
レリスと共にダンジョンに閉じ込められて三日間、レリスを信じてよかったと思った状況なんて腐るほどあったというのに!
「引き際はわきまえます!お願いです!わたくしを信じてください!!」
レリスの真摯な瞳が俺をまっすぐに見据える。
こうしてる間にもいつ朱雀が動き出すかわからない……早めに決断しなければ。
レリスのことは勿論信じてる……だけどここで軽はずみは判断をして最悪な事態が起きたら、俺は一生後悔し続けることになるだろう。
だがレリスはそれを承知の上で、自分に戦わせてほしいと言っているんだ……ならその意志も汲んであげたい。
「……わかった……でもレリス一人に戦わせるわけにはいかない」
このまま何もしなかったせいでレリスにもしものことが起きてしまうのだけは絶対に嫌だ。
レリスが我儘を通すなら俺も我儘を通させてもらおう。
「ここに来るまでと同じだ。レリスが前に出て俺が後ろでフォローする!」
「シューイチ様……それは」
「なんだ?レリスは俺のことが信じられないのか?」
そう言って俺がにやりと笑うと、レリスが目を丸くする。
「まあ!やり返されてしまいましたわ!」
「そういうことだよ?俺とレリスはこのダンジョンで共に戦ってきたんだ、いわば一心同体みたいな?」
「やはり自分だけ我儘を通すのは無理がありましたわね……」
レリスがいつものように上品に笑う。
いつの間にかすっかり俺はその笑顔を見ると安心するようになってしまった。
「俺とレリスの二人で朱雀を止めよう!」
「ええ!この背中と命は、シューイチ様に預けますわ!」
俺たちはそろって朱雀に向き直る。
まるでそれを待っていたかのように、朱雀が自身の巨大な羽を羽ばたかせた。
その風圧で吹き飛ばされそうになるものの、足に力を込めることでグッと堪える。
「クエエェェェ――――――――――――!!!」
朱雀のその雄たけびが戦闘開始の合図だった。
「出ます!」
レリスが風を身体に纏いながら勢いよく飛び出した。
そのレリスを迎撃するかのように朱雀が黒い氷を生成し、それを弾丸のように打ち出した。
「はっ!!」
レリスが剣に魔力を込めてその氷の弾丸を斬り伏せるが……。
「なっ!?」
「氷の中から炎!?」
レリスによって真っ二つにされた黒い氷から、これまた黒い炎が噴き出しレリスに襲い掛かる。
だが咄嗟に風の幕を張ることでその炎を周囲に逸らし、レリスはどうにか事なきを得た。
「レリス!その氷の弾丸は斬っちゃだめだ!可能な限りかわしながら朱雀に接近しろ!」
「はい!!」
高く飛び上がった朱雀を追うように、レリスが足元に風のフィールドを張り、それを蹴ってさらに飛翔する。
追ってくるレリスを撃ち落とそうと、朱雀が無数の氷の弾丸を打ち出していくが、例の風のフィールドを巧みに操り空中で様々に方向転換しながら、レリスが朱雀へと接近していく。
ついにレリスの剣の届く範囲に朱雀を捕らえたが―――
「レリス後ろ!!」
「え?」
朱雀の放った氷の弾丸を内側から溶かした黒い炎が、まるで意志を持つかのようにレリスに向かって伸びていく。
「プロテクション!!」
レリスを守るように俺は防御壁を張るが、黒い炎が防御壁を包んだ瞬間あっと今に溶かされてしまった。
「んなバカな!?」
玄武の時も思ったが、もしかして神獣の攻撃って魔法に対して特攻属性でも付いてるんじゃないのか!?
そうでなければあの時のエナの全力フルプロテクションや、全裸状態の俺のプロテクションがやすやすと突破されるはずがないのだ。
攻撃どころではなくなったレリスは地面に降り立ち、剣に風を集めて朱雀に狙いを定めた。
「ストームスティンガー!!」
レリスお得意の貫通力の高い風の弾丸が宙に浮かぶ朱雀に向かって真っすぐに飛んでいく。
だがその攻撃は朱雀が羽を羽ばたかせることで発生した突風によって、あっさりと掻き消されてしまった。
「クエエェェェ―――!」
お返しとばかりに朱雀がレリスの周りに黒い氷の柱を五本出現させた。
「やばい!!」
俺は身体強化を発動しレリスの元へとすっとんだ。
俺がレリスの元に辿り着くと同時に周囲の黒い氷の柱が砕け、そこから赤黒い意志を持った炎が一斉に俺たちに襲い掛かった。
先ほどの様子からおそらくこの炎はプロテクションでは防げないな……なら!
「レリス!なるべく俺のそばに!!」
「はい!」
イメージだ……ここに来るまでの間に俺は散々やって来たんだから出来るはずだ!
「エア・バースト!!」
魔力を解き放った俺を中心に風の爆発が起き、まるで黒い炎を押し出すように、凄まじい突風が吹き荒れる。
しぶとく俺たちを襲おうとしていた黒い炎は、その突風によって散らされていった。
どうにか凌ぎ切ったようだ。
攻めるにも守るにも、あの黒い炎が厄介だな……。
「シューイチ様!あれを!!」
慌てた様子のレリスが指さした方角を見ると、俺が散らしたはずの黒い炎がしぶとく集まっていき再び俺たちに襲い掛かろうとしている光景だった。
「ええぇ~……なにそれぇ?」
「どうやら風で一時的に凌げても、根本的な解決にはならないみたいですわね……」
こんな調子で朱雀がこの攻撃を続けていたら、この階層はあっという間に黒い炎の海になるぞ!?
そうなってしまったら俺たちに逃げ場はなくなってしまう。
「クエエェェェ!!」
そんなことを考えていると、朱雀の鳴き声と共に黒い炎の一部が細長い形状になったかと思うと、それが黒い氷で包まれた。
さながらそれは氷の槍のようだった。
「あれってもしかして……」
俺がそう言ったと同時に、その氷の槍が俺たちに向けて勢いよく射出された。
「やべっ!!?」
咄嗟にレリスの前に出て、俺の身体で氷の槍を受けとめると、案の定黒い炎が砕けた氷から噴き出して、俺の身体を包み込んだ。
「シューイチ様!?」
「俺なら平気だ!それよりも油断するなレリス!まだ撃ってくるつもりだぞ!」
見ると俺たちを囲むようにしていた黒い炎の一部から次々と氷の槍を生成されていき、その全てが俺たちに向けられている。
これを一斉に撃たれたら、俺はともかくレリスはやばいよな……恐らく俺たちが別々に逃げてもそれぞれを的確に狙ってくるだろうし。
……あっそうだ!
「レリス!今すぐ俺から離れてくれ!出来るだけ遠くに!」
「なにか考えがあるのですね?わかりましたわ!!」
そう言ってレリスが風を全身に纏い、勢いよく俺の真上に飛翔した。
だがそのレリスを狙って、無数の槍の一部がレリスに狙いを定めるように上に向いた。
上手くいってくれよ……!
「ヘイトブースト!」
敵の注意を引き付ける魔法を俺自身に掛ける。
なにせ全裸状態の俺がありったけの魔力を込めたんだ、効果がなかったら困るが……。
「シュっ……シューイチ様!?」
無数の氷の槍が俺に向けられ、その全てが一斉に俺に向けて射出される地獄のような光景を空中から見下ろしたレリスが、思わず俺の名前を叫んだ。
次々と俺の身体に氷の槍がぶつかり砕けて、そこから黒い炎が噴き出して俺を焼き尽くそうとするが、生憎今の俺には全く効果がないんだよなぁ。
しかし俺の予想通りだったな。この炎が朱雀から独立した意志を持っているなら、俺に注意を引き付けられるんじゃないかと思ったが、どうやらビンゴだったようだ。
しかも全裸状態の俺が使う魔法だ、その強制力は相当な物だろう。
「クエエェェェ!!」
その時、空中で無防備になっているレリスに向けて朱雀からいくつもの氷の弾丸が打ち出された。
レリスがその弾丸を反射的に斬り伏せてしまい、氷から噴き出した炎がレリスを襲うかと思いきや、俺に向かって真っすぐに伸びてきた。
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