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告白~それは突然に~
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「うん、いいよ?」
「そんなあっさり!?」
だって断る理由がないからなぁ。
前々からレリスには仲間になってほしいなって思ってたし、実のところそろそろ来るんじゃないかと思ってたくらいだ。
まあ予想よりもずいぶん速かったわけだけども。
「わたくしも断られるとは思っておりませんでしたが、こうまであっさりだとは……」
「えっと……これからはレリスお姉ちゃんもこの家に住むってことなのかな?」
「そうだぞ?テレア、レリスが新顔だからっていじめたらだめだぞ?」
「だからテレアはそんなことしないよぅ!?」
俺とテレアのやり取りを、苦笑いしながらレリスが眺めていると、リビングの入り口から何事かとシエルが顔を覗かせていた。
「宗一さんがまた新しい女の子を囲おうとしている……」
「人聞きの悪いことを言わないでくれないかな?」
しかし実際のところうちのパーティーって男が俺しかいないんだよな。
ギルドに仕事を探しに行くと、いつも違う女の子を連れている軟派野郎と陰口叩かれているのを、俺は知っているのだ。
俺自身の名誉のために言うが、決してチャラついてる気持ちなどないぞ?
……若干の優越感を感じることはあるけども。
「前にもお会いしましたよね?私はこの家で給仕係を務めさせていただいているシエルと言います」
「これはご丁寧に!わたくしはレリス=エレニカですわ!今日からこの家に住むことになりましたのでよろしくお願いいたします!」
レリスとシエルがお互いにお辞儀をしながら自己紹介をした。
三日前にダンジョンから帰ってこの家に来た時にお互い会っているはずだが、あの時は俺もレリスも精神的な疲れが半端なかったからろくに挨拶もしてなかったんだよね。
まあシエルはそういうことあんまり気にしないし、念話で散々レリスについても説明しておいたから特に気にしてなかったみたいだけど。
「とりあえず立ち話もなんだし、応接間に移動しようか?レリスも仲間になるなら色々と説明しておかないといけないこともあるし」
「そうですわね、わたくしも色々と聞きたいこともございますので」
「それじゃあお茶の用意をしてきますねぇ~」
「じゃあテレアはみんなを呼んでくるよ!」
テレアとシエルが忙しくパタパタと小走りしていく姿を眺めながら、俺とレリスは応接間に移動した。
ほどなくしてエナとフリルを連れたテレアがやって来て、全員がソファに腰かけつつ軽く挨拶を交わす。
そうして女子たちが雑談を交わしていると、全員分のお茶をトレイに乗せたシエルがやってきたので、雑談は終了し真面目な話をする空気に変わった。
「えっと……うちのパーティーの信条は『働かざるもの食うべからず』です。なんて言ったものの、みんな基本的には自由にやってるから、レリスもそんなに堅苦しく考えなくていいよ」
「皆様、伸び伸びしてらっしゃいますものね」
実のところ、俺も普段みんなが何をしているのかなんて全然把握できてない。
一応このパーティーの代表を名乗っている俺がそんなことでどうするんだと怒られるかもしれないが、それがうちの方針なので仕方がないのである。
この方針で誰かから文句が出たことはないので、俺も特に気にしてないのが現状だ。
「他のパーティーでは基本ノルマを設定していて、それをこなせないものは強制脱退なんてところもあるみたいですよ?」
「何それ怖い」
「まあそれだけパーティーを維持していくというのは大変だということですよ。うちはほら、拠点がありますし日々の宿代を稼ぐ必要がありませんから」
どこのパーティーもうちみたいに自分たちの拠点を持ってるわけじゃないもんな。
そう考えると俺たちはヤクトさんからこんな立派な家をもらえて幸運だった。
「エルサイムで冒険者として活動していくパーティーが、一番の目標とするところが拠点の確保ですからね。それができてようやく一人前と言われるくらいですし」
「じゃあ俺たちはもう一人前なんだな」
「……その発想はどうかと思う」
フリルの鋭いツッコミが飛んできた。
うん、俺もちょっと調子に乗ってしまいました。
「でもシューイチ様たちの名前はギルドでよく耳にしたことがありますわよ?わりと注目株だったのではないですか?」
その半分が、いつも違う女の子を連れている俺への嫉妬だと思う。これだけは自信を持って言える。
「まあそれはさておき、部屋もまだ空いてるし好きな部屋を使っていいからさ」
「はい、ありがとうございますわ」
さてと……建前的な話はこれで終わり。
ここからは俺とシエルの詳しい事情を説明する時間だ。
「そんじゃここからは大事な話な?多分レリスが一番気になってる事を話していくけど……いい?」
「はい。とはいえすでにダンジョンで色々と常識では考えられない事態に散々遭遇いたしましたもの、どんな話が出てきても今更驚きませんわ」
そりゃ頼もしいことで。
「そんじゃ順を追って話していくな?まずは俺がこの世界に転生して来た経緯から」
「転生?」
そうして俺がこの世界に転生する羽目に陥った経緯から始まり、何で俺たちが神獣を鎮めなければならないのかまでを、包み隠さず話していく。
ある程度の覚悟はしていたレリスだったものの、さすがにこの世界の神様の話まで持ち出されたことで、呆気に取られた様子で話を聞いていた。
「まさかここまで荒唐無稽な話を聞かされるとは……ダンジョンでの件がなければとても信じられる話ではありませんわね……」
「信じてもらえないとこちらが困るわけだけども」
「勿論疑う余地などございませんわ……わたくしだって朱雀の加護を受けてしまいましたし。しかし……」
「ああっ!なんか私に対する視線が冷たい気がします!!」
レリスになんだか冷めた目で見られたシエルがもだえ苦しんでいた。
あの時のフリルほどではないにしろ、やはりシエルに対しては思うところがあるようだ。
「まあシエルはちゃんと反省してるから、あんまり邪険に扱わないであげてくれないかな?」
「ダンジョンでは色々と助けていただいたわけですし、シューイチ様がそこまでおっしゃるのであれば……」
実際ダンジョンに閉じ込めらた時は、地上への連絡係として俺たちのフォローしてくれたわけだしね。
神様見習いとしての力をほとんど封印されてしまったシエルだけど、俺と念話が出来る宝玉を持っているだけで十分な存在価値があるからな。
最近は給仕係として色々と覚えて始めているみたいだし、これからの汚名返上に期待するばかりである。
「シューイチ様がここまで自身のことを話してくれたのですものね……わたくしもこのパーティーの一員になる以上は隠し事はなしに致しませんと……」
言いながらレリスがお茶を飲み一息入れた。
そういえばレリスがエレニカ財閥のお嬢様だということはエナから聞いていたものの、それ以外の事情は全く知らないのだった。
「もうみなさんお気づきではあると思いますが、わたくしの実家はこの世界の流通を一手に請け負うエレニカ財閥ですわ」
「お兄ちゃんからそれとなく聞いてたけど、レリスお姉ちゃんは本当にお嬢様だったんだね」
それを言ったらテレアだって今や貴族令嬢だ。
本人にその自覚は全くないだろうけど。
「わたくしはエレニカ財閥では次女にあたりますわ。上に姉が一人で、下に双子の妹と弟がおりますの」
レリスに姉がいることは朱雀との戦いのときに口走っていたから知ってたけど、下に双子の兄妹もいるのか。
「実家は姉が継ぐことがすでに決まっておりますので、時期が来たら急いで帰らなければならないということにはなりませんから、そこはご安心いただけると」
「……なんで一人旅してたの?」
みんなが気になっていたことを、フリルが率先して聞いてくれた。
「自身の見聞を広めるため……というのは建前ですわね……ここまで来た以上隠しませんが、一番の理由はお姉さまに追いつきたかったからですわね」
「レリスさんのお姉さんってそんなに凄い人なんですか?」
「ええ、容姿端麗で性格よし器量よしの文武両道はお姉さまの為にある言葉だと言っても過言ではありませんわね」
レリスも相当なものだと思うんだけど、さらにその上をいくのか……どんな人なのか全く想像できないぞ。
「姉と自分を比べてしまいある種の劣等感に苛まれて、それに身を任せるようにほぼ家出当然で旅に出ました」
「え?それじゃあ、今頃レリスお姉ちゃんの家は大騒ぎになってるんじゃ……?」
「なっておりますでしょうね……実際何度か家から使いの者が来てわたくしを連れ戻そうとしてきたことがありましたが、来るたびに拒否していたらある時からぱったりと来なくなりましたわね」
なんかさらっと言ってるけど、それって結構重要なことだよね!?
これ絶対にレリスのお家騒動に巻き込まれる流れだぞ!?
とはいえ、受け入れた以上は追い出すなんてことはしないけど……色々と覚悟だけはしておいた方がよさそうだ。
「まあわたくしのお姉さまに対する固執は、ダンジョンでの一件で折り合いも着きましたので、これからはこのパーティーの一員として皆様に貢献しつつ、自分自身も磨いていきたい所存ですわ」
そう言ってレリスが立ち上がり深々と頭を下げた。
それに習って俺たちも立ち上がり負けじと頭を下げる。
「なんですかこの光景……?」
その光景を黙って見ていたシエルがそう呟いたのを合図に、応接間での会合は終わりを告げたのだった。
「じゃあこれからはここがレリスの部屋になるから」
「ありがとうございます!大切に使わせていただきますわ!」
レリスが感激した様子で、まだ何も置かれていない部屋を見回す。
「家具とか買いに行きたいときは遠慮なく言ってね?うちの共同資産からお金出すから」
「何から何まで……本当にありがとうございます」
しばらくはレリスの環境を整える手伝いをすることになりそうだな。
「どうする?まだそんなに遅い時間でもないし最低限の物でも買いに行く?」
「えっと……その前にシューイチ様に聞いておきたいことがありまして……」
俺に聞きたいこと?なんだろうか、さっき聞き忘れたことでもあったのかな?
そう思ってレリスを見ると、なんだか頬を染めながらモジモジとし始めた。
「その……ここにいる皆様はシューイチ様と婚姻関係を結んでおられるのでしょうか?」
「ぶっ!!」
レリスから発せられたその発言に、思わず吹き出してしまった。
つーか何を言い出すんだこの子は!?
「え?俺ってそんなに軟派な男に見える!?」
「違うのですか?」
「違う違う!!みんなとはそんな関係じゃないよ!!」
もしそうなら俺はとんだすけこまし野郎じゃねーか!!
「それを聞いて安心いたしましたわ」
「まったくだよ……俺がそんなにモテるわけが……」
「わたくし、シューイチ様をお慕いいたしております」
なんか今レリスの口からとんでもない台詞が飛び出してきた気がする。
えっと……お慕いってどういう意味だっけ?
ああ、たしか好きってことだったはずだ!なーんだそうかぁ!!
「はぁ!?いやっあの……はぁ!!??」
「信じていただけないのでしょうか?」
「信じるとかそういう問題じゃなくて……嘘だろ!?」
「嘘ではありませんわ!わたくしがシューイチ様に抱いているこの気持ちは本物です!」
なんか頭くらくらしてきた。
嫌われてるとは思ってなかったけど、まさか好意を抱かれていたとは……。
「ほら?それってつり橋効果って奴じゃないかな!?俺たちダンジョンで割と危険な状況だったわけだし!」
「シューイチ様のおかげで、わたくしはお姉さまへの固執を払拭できました……そのほかにもダンジョンの中でシューイチ様がわたくしに掛けてくれた言葉の数々……シューイチ様をお慕いするのに十分な理由がわたくしにはありますわ」
「ええ~ちょっと待って……ええ~!?」
嬉しいことは嬉しいんだけど、あまりにも突然なので完全に頭が回らない。
どうしたらいいんだこの状況?
「そんなあっさり!?」
だって断る理由がないからなぁ。
前々からレリスには仲間になってほしいなって思ってたし、実のところそろそろ来るんじゃないかと思ってたくらいだ。
まあ予想よりもずいぶん速かったわけだけども。
「わたくしも断られるとは思っておりませんでしたが、こうまであっさりだとは……」
「えっと……これからはレリスお姉ちゃんもこの家に住むってことなのかな?」
「そうだぞ?テレア、レリスが新顔だからっていじめたらだめだぞ?」
「だからテレアはそんなことしないよぅ!?」
俺とテレアのやり取りを、苦笑いしながらレリスが眺めていると、リビングの入り口から何事かとシエルが顔を覗かせていた。
「宗一さんがまた新しい女の子を囲おうとしている……」
「人聞きの悪いことを言わないでくれないかな?」
しかし実際のところうちのパーティーって男が俺しかいないんだよな。
ギルドに仕事を探しに行くと、いつも違う女の子を連れている軟派野郎と陰口叩かれているのを、俺は知っているのだ。
俺自身の名誉のために言うが、決してチャラついてる気持ちなどないぞ?
……若干の優越感を感じることはあるけども。
「前にもお会いしましたよね?私はこの家で給仕係を務めさせていただいているシエルと言います」
「これはご丁寧に!わたくしはレリス=エレニカですわ!今日からこの家に住むことになりましたのでよろしくお願いいたします!」
レリスとシエルがお互いにお辞儀をしながら自己紹介をした。
三日前にダンジョンから帰ってこの家に来た時にお互い会っているはずだが、あの時は俺もレリスも精神的な疲れが半端なかったからろくに挨拶もしてなかったんだよね。
まあシエルはそういうことあんまり気にしないし、念話で散々レリスについても説明しておいたから特に気にしてなかったみたいだけど。
「とりあえず立ち話もなんだし、応接間に移動しようか?レリスも仲間になるなら色々と説明しておかないといけないこともあるし」
「そうですわね、わたくしも色々と聞きたいこともございますので」
「それじゃあお茶の用意をしてきますねぇ~」
「じゃあテレアはみんなを呼んでくるよ!」
テレアとシエルが忙しくパタパタと小走りしていく姿を眺めながら、俺とレリスは応接間に移動した。
ほどなくしてエナとフリルを連れたテレアがやって来て、全員がソファに腰かけつつ軽く挨拶を交わす。
そうして女子たちが雑談を交わしていると、全員分のお茶をトレイに乗せたシエルがやってきたので、雑談は終了し真面目な話をする空気に変わった。
「えっと……うちのパーティーの信条は『働かざるもの食うべからず』です。なんて言ったものの、みんな基本的には自由にやってるから、レリスもそんなに堅苦しく考えなくていいよ」
「皆様、伸び伸びしてらっしゃいますものね」
実のところ、俺も普段みんなが何をしているのかなんて全然把握できてない。
一応このパーティーの代表を名乗っている俺がそんなことでどうするんだと怒られるかもしれないが、それがうちの方針なので仕方がないのである。
この方針で誰かから文句が出たことはないので、俺も特に気にしてないのが現状だ。
「他のパーティーでは基本ノルマを設定していて、それをこなせないものは強制脱退なんてところもあるみたいですよ?」
「何それ怖い」
「まあそれだけパーティーを維持していくというのは大変だということですよ。うちはほら、拠点がありますし日々の宿代を稼ぐ必要がありませんから」
どこのパーティーもうちみたいに自分たちの拠点を持ってるわけじゃないもんな。
そう考えると俺たちはヤクトさんからこんな立派な家をもらえて幸運だった。
「エルサイムで冒険者として活動していくパーティーが、一番の目標とするところが拠点の確保ですからね。それができてようやく一人前と言われるくらいですし」
「じゃあ俺たちはもう一人前なんだな」
「……その発想はどうかと思う」
フリルの鋭いツッコミが飛んできた。
うん、俺もちょっと調子に乗ってしまいました。
「でもシューイチ様たちの名前はギルドでよく耳にしたことがありますわよ?わりと注目株だったのではないですか?」
その半分が、いつも違う女の子を連れている俺への嫉妬だと思う。これだけは自信を持って言える。
「まあそれはさておき、部屋もまだ空いてるし好きな部屋を使っていいからさ」
「はい、ありがとうございますわ」
さてと……建前的な話はこれで終わり。
ここからは俺とシエルの詳しい事情を説明する時間だ。
「そんじゃここからは大事な話な?多分レリスが一番気になってる事を話していくけど……いい?」
「はい。とはいえすでにダンジョンで色々と常識では考えられない事態に散々遭遇いたしましたもの、どんな話が出てきても今更驚きませんわ」
そりゃ頼もしいことで。
「そんじゃ順を追って話していくな?まずは俺がこの世界に転生して来た経緯から」
「転生?」
そうして俺がこの世界に転生する羽目に陥った経緯から始まり、何で俺たちが神獣を鎮めなければならないのかまでを、包み隠さず話していく。
ある程度の覚悟はしていたレリスだったものの、さすがにこの世界の神様の話まで持ち出されたことで、呆気に取られた様子で話を聞いていた。
「まさかここまで荒唐無稽な話を聞かされるとは……ダンジョンでの件がなければとても信じられる話ではありませんわね……」
「信じてもらえないとこちらが困るわけだけども」
「勿論疑う余地などございませんわ……わたくしだって朱雀の加護を受けてしまいましたし。しかし……」
「ああっ!なんか私に対する視線が冷たい気がします!!」
レリスになんだか冷めた目で見られたシエルがもだえ苦しんでいた。
あの時のフリルほどではないにしろ、やはりシエルに対しては思うところがあるようだ。
「まあシエルはちゃんと反省してるから、あんまり邪険に扱わないであげてくれないかな?」
「ダンジョンでは色々と助けていただいたわけですし、シューイチ様がそこまでおっしゃるのであれば……」
実際ダンジョンに閉じ込めらた時は、地上への連絡係として俺たちのフォローしてくれたわけだしね。
神様見習いとしての力をほとんど封印されてしまったシエルだけど、俺と念話が出来る宝玉を持っているだけで十分な存在価値があるからな。
最近は給仕係として色々と覚えて始めているみたいだし、これからの汚名返上に期待するばかりである。
「シューイチ様がここまで自身のことを話してくれたのですものね……わたくしもこのパーティーの一員になる以上は隠し事はなしに致しませんと……」
言いながらレリスがお茶を飲み一息入れた。
そういえばレリスがエレニカ財閥のお嬢様だということはエナから聞いていたものの、それ以外の事情は全く知らないのだった。
「もうみなさんお気づきではあると思いますが、わたくしの実家はこの世界の流通を一手に請け負うエレニカ財閥ですわ」
「お兄ちゃんからそれとなく聞いてたけど、レリスお姉ちゃんは本当にお嬢様だったんだね」
それを言ったらテレアだって今や貴族令嬢だ。
本人にその自覚は全くないだろうけど。
「わたくしはエレニカ財閥では次女にあたりますわ。上に姉が一人で、下に双子の妹と弟がおりますの」
レリスに姉がいることは朱雀との戦いのときに口走っていたから知ってたけど、下に双子の兄妹もいるのか。
「実家は姉が継ぐことがすでに決まっておりますので、時期が来たら急いで帰らなければならないということにはなりませんから、そこはご安心いただけると」
「……なんで一人旅してたの?」
みんなが気になっていたことを、フリルが率先して聞いてくれた。
「自身の見聞を広めるため……というのは建前ですわね……ここまで来た以上隠しませんが、一番の理由はお姉さまに追いつきたかったからですわね」
「レリスさんのお姉さんってそんなに凄い人なんですか?」
「ええ、容姿端麗で性格よし器量よしの文武両道はお姉さまの為にある言葉だと言っても過言ではありませんわね」
レリスも相当なものだと思うんだけど、さらにその上をいくのか……どんな人なのか全く想像できないぞ。
「姉と自分を比べてしまいある種の劣等感に苛まれて、それに身を任せるようにほぼ家出当然で旅に出ました」
「え?それじゃあ、今頃レリスお姉ちゃんの家は大騒ぎになってるんじゃ……?」
「なっておりますでしょうね……実際何度か家から使いの者が来てわたくしを連れ戻そうとしてきたことがありましたが、来るたびに拒否していたらある時からぱったりと来なくなりましたわね」
なんかさらっと言ってるけど、それって結構重要なことだよね!?
これ絶対にレリスのお家騒動に巻き込まれる流れだぞ!?
とはいえ、受け入れた以上は追い出すなんてことはしないけど……色々と覚悟だけはしておいた方がよさそうだ。
「まあわたくしのお姉さまに対する固執は、ダンジョンでの一件で折り合いも着きましたので、これからはこのパーティーの一員として皆様に貢献しつつ、自分自身も磨いていきたい所存ですわ」
そう言ってレリスが立ち上がり深々と頭を下げた。
それに習って俺たちも立ち上がり負けじと頭を下げる。
「なんですかこの光景……?」
その光景を黙って見ていたシエルがそう呟いたのを合図に、応接間での会合は終わりを告げたのだった。
「じゃあこれからはここがレリスの部屋になるから」
「ありがとうございます!大切に使わせていただきますわ!」
レリスが感激した様子で、まだ何も置かれていない部屋を見回す。
「家具とか買いに行きたいときは遠慮なく言ってね?うちの共同資産からお金出すから」
「何から何まで……本当にありがとうございます」
しばらくはレリスの環境を整える手伝いをすることになりそうだな。
「どうする?まだそんなに遅い時間でもないし最低限の物でも買いに行く?」
「えっと……その前にシューイチ様に聞いておきたいことがありまして……」
俺に聞きたいこと?なんだろうか、さっき聞き忘れたことでもあったのかな?
そう思ってレリスを見ると、なんだか頬を染めながらモジモジとし始めた。
「その……ここにいる皆様はシューイチ様と婚姻関係を結んでおられるのでしょうか?」
「ぶっ!!」
レリスから発せられたその発言に、思わず吹き出してしまった。
つーか何を言い出すんだこの子は!?
「え?俺ってそんなに軟派な男に見える!?」
「違うのですか?」
「違う違う!!みんなとはそんな関係じゃないよ!!」
もしそうなら俺はとんだすけこまし野郎じゃねーか!!
「それを聞いて安心いたしましたわ」
「まったくだよ……俺がそんなにモテるわけが……」
「わたくし、シューイチ様をお慕いいたしております」
なんか今レリスの口からとんでもない台詞が飛び出してきた気がする。
えっと……お慕いってどういう意味だっけ?
ああ、たしか好きってことだったはずだ!なーんだそうかぁ!!
「はぁ!?いやっあの……はぁ!!??」
「信じていただけないのでしょうか?」
「信じるとかそういう問題じゃなくて……嘘だろ!?」
「嘘ではありませんわ!わたくしがシューイチ様に抱いているこの気持ちは本物です!」
なんか頭くらくらしてきた。
嫌われてるとは思ってなかったけど、まさか好意を抱かれていたとは……。
「ほら?それってつり橋効果って奴じゃないかな!?俺たちダンジョンで割と危険な状況だったわけだし!」
「シューイチ様のおかげで、わたくしはお姉さまへの固執を払拭できました……そのほかにもダンジョンの中でシューイチ様がわたくしに掛けてくれた言葉の数々……シューイチ様をお慕いするのに十分な理由がわたくしにはありますわ」
「ええ~ちょっと待って……ええ~!?」
嬉しいことは嬉しいんだけど、あまりにも突然なので完全に頭が回らない。
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