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帰還~新たなボスの誕生~
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「お疲れ様レリス!やったな!!」
「……レリっちナイスファイト」
『うむ!実に見事な立ち回りであった』
見事に朱雀を相手取り奮闘したレリスを俺たちは口々に褒めたたえる。
フリルの歌魔法で強化状態だったこともあるけど、終盤の怒涛のラッシュは本当に凄かった。
「そんな……シューイチ様が炎を引き付け、玄武さんが結界で守ってくれて、フリルちゃんが歌魔法で朱雀を鎮めてくれたから……皆がいればこそですわ」
「でも今のレリスだったら、ルカーナさんともいい勝負できるんじゃないかな?」
「いえ、さすがにあの方にはまだ届きませんわ……」
あの人の強さは、なんか次元が一つ違うんじゃないかって感じするからな。
さて、無駄話はこれくらいにしよう。
「こうして無事に朱雀を鎮めることに成功したわけだけど……一つ問題が」
「……なに?」
「俺たちどうやって地上に戻ったらいいんだ?」
俺のそのセリフはこの場の空気を瞬時に凍り付かせた。
「そういえば、脱出については何も考えてませんでしたわね……どうにかして下に行くことばかりで」
ざっと階層を見回してみた物の、地上へ脱出できるような魔法陣は出ていないようだった。
「……亀ならなんとかできるんじゃないの?」
『すまぬ……さすがの我も条件付きでなければ転移はできぬのだ……』
この亀肝心なところで使えないな?
「シエルがまだ神の力を封印されてなければ念話で連絡取って、転移で迎えに来てもらうことも出来たと思うんだけどね」
「今の状態のシューイチ様なら転移魔法も使えるのでは?」
「やろうと思えば出来るだろうけど、ちょっとお勧めしないなぁ」
下手に失敗して異空間に閉じ込められたら目も当てられない。
いやでもここは俺が動かないといけない場面だよな……失敗を恐れずに何でもチャレンジしてみなければ!
「……あの、朱雀が皆様にお話ししたいことがあるらしいですわ」
「朱雀が?」
「今呼び出しますわね?……えい!」
その掛け声とともに、レリスの胸の中から光が現れて、徐々に鳥の形に変わっていく。
ほどなくしてミニ玄武と同じ感じでデフォルメされたミニ朱雀が光の中から姿を現した。
『いやーみんなお疲れ様!』
「なーにがお疲れ様じゃ!!いきなり暴走状態になりやがって!?殺す気か!?」
『あれはその……ついちょっと熱くなっちゃって……ねえ?』
そう言って朱雀がウインクしながら首を傾げた。
言っておくがちっともかわいくないからな?その仕草?
『それにして玄武ってば久しぶりねー!相変わらず頭堅そうで安心したわ!』
『そういう貴様はいつまでたっても軽いな……もう少し神獣としての威厳を保てるようにしたらどうだ?』
『あら?わたしほど神獣らしさが似合う神獣なんて、いないわよ?』
「あの……何かお話があったのでは?」
レリスに諭されて、朱雀はコホンと咳ばらいをしつつ真面目な表情になった。
『実のところ、わたしがこのダンジョンに封印されて以来、ずっとこのダンジョンの所有権はわたしにあったのよね。でもわたしはこうして倒されてレリスの所有物になったから、今このダンジョンは誰も管理してない野良ダンジョンになってるわけよ』
俺の世界の価値観が抜けきっていないせいで、野良ダンジョンという単語にどうしても違和感を感じてしまうのはいかがなものか?
『階層のボスを倒したときの下に進むための階段や、地上へ戻る魔法陣とかは、この国の宮廷魔術師がそういう魔法を―――なんて言われてるけど、あれ実際は全部私が裏で操作してたのよね』
「まあ実際俺とレリスは脱出できないようにされてたわけだしな」
地上へ戻ることも出来ずにただ闇雲に下に降っていくしかない絶望感ときたら……。
『野良ダンジョンのままだと、多分一か月もしないうちに冒険者たちに全てを狩りつくされて、ここはダンジョンとして機能しなくなるわね』
「それはこの国にとってはあまり都合がよろしくないのでは?」
『まあこのダンジョンはその辺のとは規模が違うし、この国にとっては重要な資源みたいな一面もあるから、下手したら国の経済が傾くかもしれないわね』
え?そこまでの話に発展するの?
もしかして俺たちは、とんでもないことをしてしまったのか?
大丈夫かな?逮捕されたりしない?
『だからわたしの分け身をこのダンジョンに配置しようと思うのよ』
「分け身?それはどういったものなのですか?」
『簡単にいうと完全な実体をもった分身かしら?私の力の一部を切り離すわけだから、私の力を問題なく使えるし、時間が経ってこのダンジョンの魔力と上手く同調していけば完全に私と同じ強さを持った個体になれる可能性もあるわね』
「そんなことして大丈夫なのか?」
『今のままじゃ駄目ね。そのうちあの邪神に目をつけられて暴走の種を植え付けられて、ダンジョンもろともこの国を滅茶滅茶にするでしょうね……だから玄武に頼みがあるのよ』
『大体察した……我の結界の力を使うのだな?』
ようするに、玄武の結界で邪神の目から朱雀の分け身を守るわけか。
『そういうことよ!私ベースで分け身を作るから、あんたの力もその分け身に混ぜてほしいの!そうすればあんたがいちいち結界を張りなおしにくる必要もなくなるわ!』
『そういうことなら、我も力を貸そう』
『そんじゃ三人とも、少し離れてくれないかしら?ぱぱっと済ませちゃうから』
朱雀に言われて、俺たちは少し離れたところに移動した。
ほどなくして、玄武と朱雀の身体が光り輝いていき、その光が離れて一か所に集まっていく。
その光はどんどん大きくなっていき、やがて先ほどまで戦っていた巨大な鳥へと変わっていった。
「これって、このダンジョンの新しいボスの誕生に立ち会ってることになるんだよな?」
「そのようですわね……」
「……また今度チャレンジしに来る?」
「しばらくダンジョンは」
「こりごりですわね……」
俺とレリスがそろってため息を吐く。
俺たちがそんなことを話している間に分け身を作る作業は進んでいたらしく、たった今作られた朱雀の分け身が羽を羽ばたかせて浮かび上がっていく。
『成功だわ!それじゃあ今度からあなたがこのダンジョンの守護者ってことで、冒険者をほどほどに蹴散らしていってちょうだい!』
「クエエェェェ!!」
『我の力もちゃんと機能してるようだ……これなら向こう千年は役目を果たしていけるだろう』
千年とかまた先の長い話ですな。
『それじゃあ早速初仕事よ!地上へと出られる魔法陣を作り出してちょうだい!』
朱雀が分け身にそう命じると、俺たちの目の前の地面に光を放つ魔法陣が出現した。
どうやらこの魔法陣を使えば俺たちは地上へ戻れるようだ。
『これでここから出られるはずよ?それからこのダンジョンの最終的な権限は私とレリスが持ってるから、これからはこのダンジョンの好きな階層に跳べるようになるわよ!』
「「えっ!?」」
俺とレリスがそろって声を上げた。
それって、レリスがいれば俺たちはこのダンジョンの好きな階層に自由に移動できるってことか!?
ダンジョン使い放題じゃん!!
「さすがにこのダンジョンまるごとは、わたくしの手に余るのですが……」
『まあそんなに難しく考えないでいいわ。ちょっと用がある時にでも気軽に来ればいいのよ!』
そんな気軽にダンジョンに来る用事があってたまるかい!
いやでも、魔物との実践訓練とかしたいときはいいかもしれないな……それに希少価値の高い素材なんかも気軽に取りに行けるわけだし……あれ?結構いいことづくめだぞ?
「とにかく難しいことを考えるのはまた今度にしようか?今はともかく……」
「ええ、一刻も早く地上へ戻りたいですわ……」
「……レリっちも家に寄ってく?大きいお風呂ある」
「それは素敵ですわね!わたくしの泊っている宿屋のお風呂はそんなに大きくはありませんから」
「それじゃあ帰りますかー!」
そんなことを話しながら、俺たちは魔法陣で地上へと戻るのだった。
実に三日ぶりの外の空気は、とても新鮮に思えた。
さてはて、俺たちが無事にダンジョンから戻ってからというもの、それからが中々に大変だった。
拠点に戻るとそこにはテレアとシエルがいて、無事に戻った俺を見るなり号泣しながらテレアが俺に抱き着いてきた。
涙と鼻水で服がべたべたにされたが、心配をさせてしまったのはこちらなのでそこは甘んじて受け入れた。
それからすぐに、ルカーナさんとともに俺たちの捜索隊に参加していたエナに通信機で連絡を取り無事に帰還したことを伝えると、二人一緒に拠点へとすっ飛んできた。
聞くところによるとこの二人を含めた数人の捜索隊は、俺たちを探すために三日間ダンジョンに潜り続けて、かなり深い階層まで到達したらしい。
俺とレリスを見たエナは安心して力が抜けたのか床にへなへなと座り込み、ルカーナさんには神獣と戦うことが出来なかったことを散々ぼやかれた。
仕方がないので朱雀の了承を取ったうえで、レリスに頼めばダンジョンの好きな階層に行く事ができるので、好きな時に朱雀と戦うことができることを教えてあげることで、ようやく留飲を下げてくれた。
近々挑戦しに行くとのことだ……分け身の朱雀が倒されてしまわないか非常に心配である。
その後はギルドへ赴き、今回の件についての謝罪をこれでもかと受けた後、ダンジョンの中でどのようなことが起きていたのかを聞かれた。
ちなみにルカーナさん曰く、あのダンジョンを最下層まで攻略したのは俺たちが初めてだそうだ。
とはいえ一番上の階層から順に攻略していったわけではないし、今回のことは出来るだけ大事にしたくないのでギルドには偶然地上への魔法陣が出現したと適当な理由をでっちあげて、納得してもらった。
さすがにギルドを介さず自由にダンジョンの望む階層に行けるようになりました!なんて馬鹿正直に言うわけにはいかないからな。
それとこれは少し後の話だが、この事件が切っ掛けで俺とレリスの名前はこの国の冒険者たちに良くも悪くも広まることになる。
マグリドやリンデフランデの時のような城に招かれる事態は避けることが出来たのは、なるべくことを大事にしたくない俺にとっては救いだった。
そんな日々が慌ただしく過ぎていき……俺たちがダンジョンから戻って3日が経った。
「宗一さん!いつまでもダラダラしてないでシャキッとしてくださいよ!」
「あー……ダンジョンから戻ってから、なんかいまいちやる気出ないんだよなぁ……」
リビングのソファでダラダラしてたら、掃除をしていたシエルが俺を見つけてお小言を言ってきたので、だらしなくソファに寝転がりながら答えた。
ていうかシエルの奴、結構真面目に給仕係として働いてるんだな……少しばかりびっくりだ。
掃除の仕方や料理なども本を読んで勉強してるみたいだし、普段はあれだけど根は真面目なんだろうな。
「暇なら掃除手伝ってくださいよ?この家結構広いから掃除に時間かかるんですよ」
「俺これから体調悪くなるからまた今度ね?」
シエルが手に持ったはたきで寝ている俺の脇腹をつついてきた。
「くすぐったいだろ!やめて!やめくださいお願いします!!明日からちゃんとしますから!!」
「今ちゃんとしてください!」
俺たちがそんな風に遊んでいると、テレアがやって来た。
「お兄ちゃん、レリスお姉ちゃんが来たよ?」
「レリスが?なんの用だろう?」
ソファから立ち上がり、テレアの後について玄関まで行くと、そこには大荷物を抱えたレリスが立っていた。
えっと……家出でもして来たのかな?
「ようレリス!三日ぶりだな!今日はどうしたんだ?」
「ごきげんようシューイチ様……今日はお願いがあってまいりました!」
「お願い?なになに?」
俺が軽くそう聞き返すと、レリスが深呼吸をしてから真剣な顔つきで口を開いた。
「わたくしを、シューイチ様たちの仲間にしてほしいのです!」
「……レリっちナイスファイト」
『うむ!実に見事な立ち回りであった』
見事に朱雀を相手取り奮闘したレリスを俺たちは口々に褒めたたえる。
フリルの歌魔法で強化状態だったこともあるけど、終盤の怒涛のラッシュは本当に凄かった。
「そんな……シューイチ様が炎を引き付け、玄武さんが結界で守ってくれて、フリルちゃんが歌魔法で朱雀を鎮めてくれたから……皆がいればこそですわ」
「でも今のレリスだったら、ルカーナさんともいい勝負できるんじゃないかな?」
「いえ、さすがにあの方にはまだ届きませんわ……」
あの人の強さは、なんか次元が一つ違うんじゃないかって感じするからな。
さて、無駄話はこれくらいにしよう。
「こうして無事に朱雀を鎮めることに成功したわけだけど……一つ問題が」
「……なに?」
「俺たちどうやって地上に戻ったらいいんだ?」
俺のそのセリフはこの場の空気を瞬時に凍り付かせた。
「そういえば、脱出については何も考えてませんでしたわね……どうにかして下に行くことばかりで」
ざっと階層を見回してみた物の、地上へ脱出できるような魔法陣は出ていないようだった。
「……亀ならなんとかできるんじゃないの?」
『すまぬ……さすがの我も条件付きでなければ転移はできぬのだ……』
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「今の状態のシューイチ様なら転移魔法も使えるのでは?」
「やろうと思えば出来るだろうけど、ちょっとお勧めしないなぁ」
下手に失敗して異空間に閉じ込められたら目も当てられない。
いやでもここは俺が動かないといけない場面だよな……失敗を恐れずに何でもチャレンジしてみなければ!
「……あの、朱雀が皆様にお話ししたいことがあるらしいですわ」
「朱雀が?」
「今呼び出しますわね?……えい!」
その掛け声とともに、レリスの胸の中から光が現れて、徐々に鳥の形に変わっていく。
ほどなくしてミニ玄武と同じ感じでデフォルメされたミニ朱雀が光の中から姿を現した。
『いやーみんなお疲れ様!』
「なーにがお疲れ様じゃ!!いきなり暴走状態になりやがって!?殺す気か!?」
『あれはその……ついちょっと熱くなっちゃって……ねえ?』
そう言って朱雀がウインクしながら首を傾げた。
言っておくがちっともかわいくないからな?その仕草?
『それにして玄武ってば久しぶりねー!相変わらず頭堅そうで安心したわ!』
『そういう貴様はいつまでたっても軽いな……もう少し神獣としての威厳を保てるようにしたらどうだ?』
『あら?わたしほど神獣らしさが似合う神獣なんて、いないわよ?』
「あの……何かお話があったのでは?」
レリスに諭されて、朱雀はコホンと咳ばらいをしつつ真面目な表情になった。
『実のところ、わたしがこのダンジョンに封印されて以来、ずっとこのダンジョンの所有権はわたしにあったのよね。でもわたしはこうして倒されてレリスの所有物になったから、今このダンジョンは誰も管理してない野良ダンジョンになってるわけよ』
俺の世界の価値観が抜けきっていないせいで、野良ダンジョンという単語にどうしても違和感を感じてしまうのはいかがなものか?
『階層のボスを倒したときの下に進むための階段や、地上へ戻る魔法陣とかは、この国の宮廷魔術師がそういう魔法を―――なんて言われてるけど、あれ実際は全部私が裏で操作してたのよね』
「まあ実際俺とレリスは脱出できないようにされてたわけだしな」
地上へ戻ることも出来ずにただ闇雲に下に降っていくしかない絶望感ときたら……。
『野良ダンジョンのままだと、多分一か月もしないうちに冒険者たちに全てを狩りつくされて、ここはダンジョンとして機能しなくなるわね』
「それはこの国にとってはあまり都合がよろしくないのでは?」
『まあこのダンジョンはその辺のとは規模が違うし、この国にとっては重要な資源みたいな一面もあるから、下手したら国の経済が傾くかもしれないわね』
え?そこまでの話に発展するの?
もしかして俺たちは、とんでもないことをしてしまったのか?
大丈夫かな?逮捕されたりしない?
『だからわたしの分け身をこのダンジョンに配置しようと思うのよ』
「分け身?それはどういったものなのですか?」
『簡単にいうと完全な実体をもった分身かしら?私の力の一部を切り離すわけだから、私の力を問題なく使えるし、時間が経ってこのダンジョンの魔力と上手く同調していけば完全に私と同じ強さを持った個体になれる可能性もあるわね』
「そんなことして大丈夫なのか?」
『今のままじゃ駄目ね。そのうちあの邪神に目をつけられて暴走の種を植え付けられて、ダンジョンもろともこの国を滅茶滅茶にするでしょうね……だから玄武に頼みがあるのよ』
『大体察した……我の結界の力を使うのだな?』
ようするに、玄武の結界で邪神の目から朱雀の分け身を守るわけか。
『そういうことよ!私ベースで分け身を作るから、あんたの力もその分け身に混ぜてほしいの!そうすればあんたがいちいち結界を張りなおしにくる必要もなくなるわ!』
『そういうことなら、我も力を貸そう』
『そんじゃ三人とも、少し離れてくれないかしら?ぱぱっと済ませちゃうから』
朱雀に言われて、俺たちは少し離れたところに移動した。
ほどなくして、玄武と朱雀の身体が光り輝いていき、その光が離れて一か所に集まっていく。
その光はどんどん大きくなっていき、やがて先ほどまで戦っていた巨大な鳥へと変わっていった。
「これって、このダンジョンの新しいボスの誕生に立ち会ってることになるんだよな?」
「そのようですわね……」
「……また今度チャレンジしに来る?」
「しばらくダンジョンは」
「こりごりですわね……」
俺とレリスがそろってため息を吐く。
俺たちがそんなことを話している間に分け身を作る作業は進んでいたらしく、たった今作られた朱雀の分け身が羽を羽ばたかせて浮かび上がっていく。
『成功だわ!それじゃあ今度からあなたがこのダンジョンの守護者ってことで、冒険者をほどほどに蹴散らしていってちょうだい!』
「クエエェェェ!!」
『我の力もちゃんと機能してるようだ……これなら向こう千年は役目を果たしていけるだろう』
千年とかまた先の長い話ですな。
『それじゃあ早速初仕事よ!地上へと出られる魔法陣を作り出してちょうだい!』
朱雀が分け身にそう命じると、俺たちの目の前の地面に光を放つ魔法陣が出現した。
どうやらこの魔法陣を使えば俺たちは地上へ戻れるようだ。
『これでここから出られるはずよ?それからこのダンジョンの最終的な権限は私とレリスが持ってるから、これからはこのダンジョンの好きな階層に跳べるようになるわよ!』
「「えっ!?」」
俺とレリスがそろって声を上げた。
それって、レリスがいれば俺たちはこのダンジョンの好きな階層に自由に移動できるってことか!?
ダンジョン使い放題じゃん!!
「さすがにこのダンジョンまるごとは、わたくしの手に余るのですが……」
『まあそんなに難しく考えないでいいわ。ちょっと用がある時にでも気軽に来ればいいのよ!』
そんな気軽にダンジョンに来る用事があってたまるかい!
いやでも、魔物との実践訓練とかしたいときはいいかもしれないな……それに希少価値の高い素材なんかも気軽に取りに行けるわけだし……あれ?結構いいことづくめだぞ?
「とにかく難しいことを考えるのはまた今度にしようか?今はともかく……」
「ええ、一刻も早く地上へ戻りたいですわ……」
「……レリっちも家に寄ってく?大きいお風呂ある」
「それは素敵ですわね!わたくしの泊っている宿屋のお風呂はそんなに大きくはありませんから」
「それじゃあ帰りますかー!」
そんなことを話しながら、俺たちは魔法陣で地上へと戻るのだった。
実に三日ぶりの外の空気は、とても新鮮に思えた。
さてはて、俺たちが無事にダンジョンから戻ってからというもの、それからが中々に大変だった。
拠点に戻るとそこにはテレアとシエルがいて、無事に戻った俺を見るなり号泣しながらテレアが俺に抱き着いてきた。
涙と鼻水で服がべたべたにされたが、心配をさせてしまったのはこちらなのでそこは甘んじて受け入れた。
それからすぐに、ルカーナさんとともに俺たちの捜索隊に参加していたエナに通信機で連絡を取り無事に帰還したことを伝えると、二人一緒に拠点へとすっ飛んできた。
聞くところによるとこの二人を含めた数人の捜索隊は、俺たちを探すために三日間ダンジョンに潜り続けて、かなり深い階層まで到達したらしい。
俺とレリスを見たエナは安心して力が抜けたのか床にへなへなと座り込み、ルカーナさんには神獣と戦うことが出来なかったことを散々ぼやかれた。
仕方がないので朱雀の了承を取ったうえで、レリスに頼めばダンジョンの好きな階層に行く事ができるので、好きな時に朱雀と戦うことができることを教えてあげることで、ようやく留飲を下げてくれた。
近々挑戦しに行くとのことだ……分け身の朱雀が倒されてしまわないか非常に心配である。
その後はギルドへ赴き、今回の件についての謝罪をこれでもかと受けた後、ダンジョンの中でどのようなことが起きていたのかを聞かれた。
ちなみにルカーナさん曰く、あのダンジョンを最下層まで攻略したのは俺たちが初めてだそうだ。
とはいえ一番上の階層から順に攻略していったわけではないし、今回のことは出来るだけ大事にしたくないのでギルドには偶然地上への魔法陣が出現したと適当な理由をでっちあげて、納得してもらった。
さすがにギルドを介さず自由にダンジョンの望む階層に行けるようになりました!なんて馬鹿正直に言うわけにはいかないからな。
それとこれは少し後の話だが、この事件が切っ掛けで俺とレリスの名前はこの国の冒険者たちに良くも悪くも広まることになる。
マグリドやリンデフランデの時のような城に招かれる事態は避けることが出来たのは、なるべくことを大事にしたくない俺にとっては救いだった。
そんな日々が慌ただしく過ぎていき……俺たちがダンジョンから戻って3日が経った。
「宗一さん!いつまでもダラダラしてないでシャキッとしてくださいよ!」
「あー……ダンジョンから戻ってから、なんかいまいちやる気出ないんだよなぁ……」
リビングのソファでダラダラしてたら、掃除をしていたシエルが俺を見つけてお小言を言ってきたので、だらしなくソファに寝転がりながら答えた。
ていうかシエルの奴、結構真面目に給仕係として働いてるんだな……少しばかりびっくりだ。
掃除の仕方や料理なども本を読んで勉強してるみたいだし、普段はあれだけど根は真面目なんだろうな。
「暇なら掃除手伝ってくださいよ?この家結構広いから掃除に時間かかるんですよ」
「俺これから体調悪くなるからまた今度ね?」
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「くすぐったいだろ!やめて!やめくださいお願いします!!明日からちゃんとしますから!!」
「今ちゃんとしてください!」
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「お兄ちゃん、レリスお姉ちゃんが来たよ?」
「レリスが?なんの用だろう?」
ソファから立ち上がり、テレアの後について玄関まで行くと、そこには大荷物を抱えたレリスが立っていた。
えっと……家出でもして来たのかな?
「ようレリス!三日ぶりだな!今日はどうしたんだ?」
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