76 / 169
結論~一年後の自分は~
しおりを挟む
決断の時が迫っている!なんて格好つけた癖に、ウダウダしてたらあれから五日も経ってしまった。
我ながら何をやっているのかと思いつつも、勢いで動いて後悔しか残らない結果になってしまうのも嫌なので慎重にならざるを得ない俺の心境も察してほしいところではある。
……まあこれは言い訳だよな、わかってはいるんだ。
結局のところ俺はいくじがないんだろうなぁ……なんて答えを返すのかはすでに決めたけども、それをレリスに伝えた時の反応が怖くて仕方ないのだ。
「だけど、今日こそはこのモヤモヤした気持ちに決着をつける」
なんて意気込んでレリスの部屋の前に来たものの、そこで立ち尽くしてしまい硬直してしまう。
こんなところを誰かに見られでもしたら不審者認定待ったなしだ。
そうならないためにもこの扉をノックして部屋の主を呼び出してしまえばいいだけのことなのに、それすらできないでいる。
……いつまでもこうしているわけにもいかないし、一度部屋をノックして返事がなかったら今日のところは諦めよう!そうしよう!
コンコン……
意を決した俺はレリスの部屋の扉をノックした……が。
「……いないのかな?」
決意を固めた俺の心が空気が抜けたように萎んでいく。
うん!いないなら仕方ないな!また今度にしよう!
……そうやって俺はまた問題を先延ばしにして行くんだな……こうして罪悪感が募っていくんだ。
ため息を吐き自分の部屋に戻ろうとして踵を返した。
「あら?シューイチ様!」
ばったりとレリスと遭遇してしまった。
そらノックしても反応ないわけだわ、部屋にいないんだもんよ!
いかん、あまりの突然の事態に当たり前のことを心の中で叫んでしまった。
「わたくしに何か御用なのですか?」
「あーいやーそのー」
なぜここまで来て及び腰になってしまうんだ俺は!
ちゃんと決着つけるつもりで来たんだろ!?
よくよくレリスを観察すると肌も上気して髪がしっとりと濡れており、風呂上りなのがよくわかる。
眼鏡も掛けておらず若干薄着で、レリスのプロポーションも合わさり目に毒なことこの上ない。
「……もしかしたら、例の話でしょうか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
「少しここで待っていてくださいな、上着を羽織ってきますので。……外でお話ししましょう」
「あい……」
そう言ってレリスが自身の部屋へ入っていくと、すぐに上着を羽織って出てきた。
「少し歩きますが噴水広場まで行きましょう」
「あい……」
生返事しかすることができず、そのままトボトボとレリスの後ろについていくしかできない俺であった。
夜も遅く静かな街並みを、レリスと連れ立って歩いて行く。
さすがに道行く人も少なく、噴水広場に着くまでに片手で数えられる人数としかすれ違わなかった。
肝心の噴水広場も、人で賑わう昼間とは違いほとんど人が見当たらない。
俺たちは広場の中央にある噴水の周りに設置されたベンチに並んで腰かける。
「少し肌寒いですね……上着を羽織ってきて正解でしたわ」
「そういえば、眼鏡かけてないレリス見るの初めてな気がする」
「そうでしたか?」
「眼鏡なくても大丈夫なの?」
「平気ですわ、そもそもあの眼鏡度が入っておりませんし」
どうやらただのファッションアイテムだったようだ。
そこで会話が一旦途切れ、俺たちを静寂が包み込む。
そよ風が吹いて、レリスの髪がそっとなびく。
もうここまで来てしまったんだ……いい加減に覚悟を決めないといけない。
「えっと……話があるんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
レリスが落ち着いた表情で俺をまっすぐに見据える。
俺はこんなにも心臓が爆発しそうになっているというのに、どうしてこの子はこんなにも冷静なのだろうか?
その事実に頭の中が真っ白になってしまい、言うべきだった言葉がどこかへすっ飛んで行ってしまった。
思わず逃げ出したくなったものの、ふと俺の右手に柔らかく暖かい何かが覆いかぶさった。
見降ろすとレリスが両手で俺の右手を優しく包み込んでいた。
「落ち着いてくださいシューイチ様……慌てなくてもわたくしはここにおりますわ」
俺をまっすぐに見ながら、まるで言い聞かせるように、レリスがふんわりと微笑む。
混乱して真っ白になってしまっていた、俺の頭が次第に落ち着きを取り戻していく。
「ゆっくりでも要領を得なくても構いません、シューイチ様の言葉を聞かせてくださいませ」
「……ありがとうレリス」
あれだけ取り乱していた俺の心が、すっかり平穏を取り戻していた。
今なら思っていたことをすんなり言えそうだ。
「えっと……レリスが俺に告白してくれたあの日からずっと色々考えててさ……」
「はい……」
思えばあれから一週間以上経っている……随分と待たせてしまった。
「俺が返事をする前に一つだけ聞いておかなきゃならないことがあって……レリスはさ、最終的に俺とどうなりたいのかなって」
「そうですわね……わたくしとしてはシューイチ様の伴侶になって傍で支えていきたいと思っておりますわ」
思った通り、結婚まで視野に入れていたようだ。
それならやはり俺の答えは一つしかない。
「だとしたら、最低でも一年は待ってもらわないとだな」
「……と言いますと?」
「この世界ではどうなのか知らないけど、俺のいた世界だと今の年齢じゃ結婚できないんだよね」
「そうなのですか?」
なにもここにきて俺の世界の常識を当てはめる必要なんてこれぽっちもないが、これはいわゆる俺の準備期間だと思ってもらいたい。
さすがに「結婚しましょう、はいそうしましょう」とは気軽に言えないのだ。
「仮に結婚するにしても、結局俺がレリスのことをどう思ってるのかって部分に収束していくんだけどさ?これの答えがずっと出てこなくてなぁ……」
「……」
俺の言葉をレリスが真剣な表情で聴いてくれている。
「でも今こうしてレリスが俺の手に握ってくれた時にわかったんだよ……こんだけ悩むってことはそういうことなんだなって」
何とも思ってない相手の気持ちを考えたって、ここまで悩むことはないはずだ。
遠回しにあれこれ言ってるけど突き詰めると……まあそういうことだ。
「でもなんだかんだ言って、俺とレリスはまだ出会って一か月くらいしか経ってないしさ、そんなに急ぐこともないと思うんだ」
「それはつまり……」
「うん、俺が18になるまでお待ちいただきたいと……」
結局俺が出した結論は、ぶっちゃけ「後一年待ってください」ということだ。
まさか自分が女の子に対してこんな甲斐性もへったくれもない言葉を言うことになることになるとは思わなかった。
悩みに悩んだ結論がこれなんだから、殴られても文句言えないもん。
「……ということなんですが……?」
「……」
レリスがすっかり黙ってしまった。
これは……うん、殴られる覚悟をしておいた方がよさそうだな。
「……ふふふ……やっぱりそうですわよね……エナさんの言った通りでしたわ」
「はい?」
なんでレリスが嬉しそうに笑ってるのかもわからないし、どうしてここでエナの名前が出てくるのかも不明だった。
「実はわたくし今回の件をエナさんに相談してましたの」
「なんてことを」
「そしたらエナさんは……」
「シューイチさんのことですから、恐らくはっきりとした結論は出せないでしょうね。大方あと一年くらい待ってくれとか言うと思いますよ?お人よしですからあの人は」
……なんというか、さすがエナである。
シエルに次いで付き合いが長いことだけはある。
「エナさんの言っていたことと内容がほとんど変わらなかったので、思わず笑ってしまいました。お気に障ったのなら謝罪しますわ」
「いや、俺の方こそ怒らせてしまったのかと……ていうかごめんな?こんな結論でさ」
「まあこれならはっきりと断ってくれた方が気が楽ではありますわね」
「断るって選択はなかったなぁ」
あれ?この発想って結構最低じゃね?
個人的にはレリスのことは前向きに考えてるけど、レリスからすれば一年もモヤモヤしなければいけないし。
「……シューイチ様に一つだけ我儘を言ってもいいでしょうか?」
「なんなりと」
「一言で構いません……今のシューイチ様がわたくしに抱いてる想いを聞かせていただけませんか?」
あーやっぱりそこはそれっぽい言葉で取り繕ってもダメですよねー!
言うのが恥ずかしいから避けてたんだけど、はっきり伝えないといけないよなぁ。
「えっと……なんだ……レリスのこと嫌いじゃない……」
「嫌いじゃない?」
「……好きだと思い……ます……よ?」
ここではっきりと言えないあたり、ヘタレるのもいい加減にしろと我ながら思う。
「……今はそれでいいですわ。あとはわたくしの頑張りしだいですし」
「もうほんと面目ない……」
「正直わたくしも抜け駆けしてしまっておりますので、これ以上を望んでしまうのは悪いですし」
抜け……駆け?
「何を抜いて駆け抜けてきたのかな?」
「心当たりがおありなのでは?」
ないということにしたいなぁ。
「わたくしにもそういう事情がありますので、今はシューイチ様から「好き」という単語が聞けただけで充分です」
エナが「覚悟しておけ」と言った意味が少しわかって来た。
恐らく今回のことはこれから起こりうることへの布石なのだろう。
何が起こるのかって?
それはきっと嬉しいことである反面、俺の頭から湯気が出るくらい悩ませる事であることは想像に難しくない。
「ここでシューイチ様の気苦労を和らげる情報を一つ……この世界では一定の条件を満たせば重婚は可能ですわ」
「そうなの!?」
さすが異世界!都合がいいな!
ってそうじゃなくて!!
「ちなみにその条件とは……?」
「あら?そこはご自分でお調べになればよろしいかと?」
そう言ってレリスが俺の肩にそっと寄り添ってきた。
いきなり何するのこの子!?そういうことされると心臓爆発しちゃうでしょ!?
「これからは、わたくし遠慮しませんので」
「お手やわらかにお願いします……」
俺を見上げるレリスの表情があまりにも幸せそうなので、結局俺は何も言うことができずレリスの気が済むまでその状態を続けることとなった。
レリスの温もりを肩で感じながら、俺は今後のことを考えていく。
こんなあやふや関係になったというのに、この子は今はそれでもいいと言ってくれたのだから、これからは意識して俺の意識改革をしていないとな。
それと必要かどうかはわからないが、重婚の条件も一応調べておかないといけない気がする。
あんまり必要な状況になってほしくないけどなぁ……そこまで多くの物を抱えきれないだろうし。
しかし一年か……一年たったら俺はどうなっているんだろうな?
そんなことをぼんやりと思いながら、夜空で輝きを放つ星たちを眺めていた。
そんなことがあって数日が経ち、俺たちの拠点にとある人物が訪ねてくることで、再び大きな騒動に巻まれることになる。
その騒動の中で、俺は予想だにしなかった人と再会することになるのだ。
我ながら何をやっているのかと思いつつも、勢いで動いて後悔しか残らない結果になってしまうのも嫌なので慎重にならざるを得ない俺の心境も察してほしいところではある。
……まあこれは言い訳だよな、わかってはいるんだ。
結局のところ俺はいくじがないんだろうなぁ……なんて答えを返すのかはすでに決めたけども、それをレリスに伝えた時の反応が怖くて仕方ないのだ。
「だけど、今日こそはこのモヤモヤした気持ちに決着をつける」
なんて意気込んでレリスの部屋の前に来たものの、そこで立ち尽くしてしまい硬直してしまう。
こんなところを誰かに見られでもしたら不審者認定待ったなしだ。
そうならないためにもこの扉をノックして部屋の主を呼び出してしまえばいいだけのことなのに、それすらできないでいる。
……いつまでもこうしているわけにもいかないし、一度部屋をノックして返事がなかったら今日のところは諦めよう!そうしよう!
コンコン……
意を決した俺はレリスの部屋の扉をノックした……が。
「……いないのかな?」
決意を固めた俺の心が空気が抜けたように萎んでいく。
うん!いないなら仕方ないな!また今度にしよう!
……そうやって俺はまた問題を先延ばしにして行くんだな……こうして罪悪感が募っていくんだ。
ため息を吐き自分の部屋に戻ろうとして踵を返した。
「あら?シューイチ様!」
ばったりとレリスと遭遇してしまった。
そらノックしても反応ないわけだわ、部屋にいないんだもんよ!
いかん、あまりの突然の事態に当たり前のことを心の中で叫んでしまった。
「わたくしに何か御用なのですか?」
「あーいやーそのー」
なぜここまで来て及び腰になってしまうんだ俺は!
ちゃんと決着つけるつもりで来たんだろ!?
よくよくレリスを観察すると肌も上気して髪がしっとりと濡れており、風呂上りなのがよくわかる。
眼鏡も掛けておらず若干薄着で、レリスのプロポーションも合わさり目に毒なことこの上ない。
「……もしかしたら、例の話でしょうか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
「少しここで待っていてくださいな、上着を羽織ってきますので。……外でお話ししましょう」
「あい……」
そう言ってレリスが自身の部屋へ入っていくと、すぐに上着を羽織って出てきた。
「少し歩きますが噴水広場まで行きましょう」
「あい……」
生返事しかすることができず、そのままトボトボとレリスの後ろについていくしかできない俺であった。
夜も遅く静かな街並みを、レリスと連れ立って歩いて行く。
さすがに道行く人も少なく、噴水広場に着くまでに片手で数えられる人数としかすれ違わなかった。
肝心の噴水広場も、人で賑わう昼間とは違いほとんど人が見当たらない。
俺たちは広場の中央にある噴水の周りに設置されたベンチに並んで腰かける。
「少し肌寒いですね……上着を羽織ってきて正解でしたわ」
「そういえば、眼鏡かけてないレリス見るの初めてな気がする」
「そうでしたか?」
「眼鏡なくても大丈夫なの?」
「平気ですわ、そもそもあの眼鏡度が入っておりませんし」
どうやらただのファッションアイテムだったようだ。
そこで会話が一旦途切れ、俺たちを静寂が包み込む。
そよ風が吹いて、レリスの髪がそっとなびく。
もうここまで来てしまったんだ……いい加減に覚悟を決めないといけない。
「えっと……話があるんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
レリスが落ち着いた表情で俺をまっすぐに見据える。
俺はこんなにも心臓が爆発しそうになっているというのに、どうしてこの子はこんなにも冷静なのだろうか?
その事実に頭の中が真っ白になってしまい、言うべきだった言葉がどこかへすっ飛んで行ってしまった。
思わず逃げ出したくなったものの、ふと俺の右手に柔らかく暖かい何かが覆いかぶさった。
見降ろすとレリスが両手で俺の右手を優しく包み込んでいた。
「落ち着いてくださいシューイチ様……慌てなくてもわたくしはここにおりますわ」
俺をまっすぐに見ながら、まるで言い聞かせるように、レリスがふんわりと微笑む。
混乱して真っ白になってしまっていた、俺の頭が次第に落ち着きを取り戻していく。
「ゆっくりでも要領を得なくても構いません、シューイチ様の言葉を聞かせてくださいませ」
「……ありがとうレリス」
あれだけ取り乱していた俺の心が、すっかり平穏を取り戻していた。
今なら思っていたことをすんなり言えそうだ。
「えっと……レリスが俺に告白してくれたあの日からずっと色々考えててさ……」
「はい……」
思えばあれから一週間以上経っている……随分と待たせてしまった。
「俺が返事をする前に一つだけ聞いておかなきゃならないことがあって……レリスはさ、最終的に俺とどうなりたいのかなって」
「そうですわね……わたくしとしてはシューイチ様の伴侶になって傍で支えていきたいと思っておりますわ」
思った通り、結婚まで視野に入れていたようだ。
それならやはり俺の答えは一つしかない。
「だとしたら、最低でも一年は待ってもらわないとだな」
「……と言いますと?」
「この世界ではどうなのか知らないけど、俺のいた世界だと今の年齢じゃ結婚できないんだよね」
「そうなのですか?」
なにもここにきて俺の世界の常識を当てはめる必要なんてこれぽっちもないが、これはいわゆる俺の準備期間だと思ってもらいたい。
さすがに「結婚しましょう、はいそうしましょう」とは気軽に言えないのだ。
「仮に結婚するにしても、結局俺がレリスのことをどう思ってるのかって部分に収束していくんだけどさ?これの答えがずっと出てこなくてなぁ……」
「……」
俺の言葉をレリスが真剣な表情で聴いてくれている。
「でも今こうしてレリスが俺の手に握ってくれた時にわかったんだよ……こんだけ悩むってことはそういうことなんだなって」
何とも思ってない相手の気持ちを考えたって、ここまで悩むことはないはずだ。
遠回しにあれこれ言ってるけど突き詰めると……まあそういうことだ。
「でもなんだかんだ言って、俺とレリスはまだ出会って一か月くらいしか経ってないしさ、そんなに急ぐこともないと思うんだ」
「それはつまり……」
「うん、俺が18になるまでお待ちいただきたいと……」
結局俺が出した結論は、ぶっちゃけ「後一年待ってください」ということだ。
まさか自分が女の子に対してこんな甲斐性もへったくれもない言葉を言うことになることになるとは思わなかった。
悩みに悩んだ結論がこれなんだから、殴られても文句言えないもん。
「……ということなんですが……?」
「……」
レリスがすっかり黙ってしまった。
これは……うん、殴られる覚悟をしておいた方がよさそうだな。
「……ふふふ……やっぱりそうですわよね……エナさんの言った通りでしたわ」
「はい?」
なんでレリスが嬉しそうに笑ってるのかもわからないし、どうしてここでエナの名前が出てくるのかも不明だった。
「実はわたくし今回の件をエナさんに相談してましたの」
「なんてことを」
「そしたらエナさんは……」
「シューイチさんのことですから、恐らくはっきりとした結論は出せないでしょうね。大方あと一年くらい待ってくれとか言うと思いますよ?お人よしですからあの人は」
……なんというか、さすがエナである。
シエルに次いで付き合いが長いことだけはある。
「エナさんの言っていたことと内容がほとんど変わらなかったので、思わず笑ってしまいました。お気に障ったのなら謝罪しますわ」
「いや、俺の方こそ怒らせてしまったのかと……ていうかごめんな?こんな結論でさ」
「まあこれならはっきりと断ってくれた方が気が楽ではありますわね」
「断るって選択はなかったなぁ」
あれ?この発想って結構最低じゃね?
個人的にはレリスのことは前向きに考えてるけど、レリスからすれば一年もモヤモヤしなければいけないし。
「……シューイチ様に一つだけ我儘を言ってもいいでしょうか?」
「なんなりと」
「一言で構いません……今のシューイチ様がわたくしに抱いてる想いを聞かせていただけませんか?」
あーやっぱりそこはそれっぽい言葉で取り繕ってもダメですよねー!
言うのが恥ずかしいから避けてたんだけど、はっきり伝えないといけないよなぁ。
「えっと……なんだ……レリスのこと嫌いじゃない……」
「嫌いじゃない?」
「……好きだと思い……ます……よ?」
ここではっきりと言えないあたり、ヘタレるのもいい加減にしろと我ながら思う。
「……今はそれでいいですわ。あとはわたくしの頑張りしだいですし」
「もうほんと面目ない……」
「正直わたくしも抜け駆けしてしまっておりますので、これ以上を望んでしまうのは悪いですし」
抜け……駆け?
「何を抜いて駆け抜けてきたのかな?」
「心当たりがおありなのでは?」
ないということにしたいなぁ。
「わたくしにもそういう事情がありますので、今はシューイチ様から「好き」という単語が聞けただけで充分です」
エナが「覚悟しておけ」と言った意味が少しわかって来た。
恐らく今回のことはこれから起こりうることへの布石なのだろう。
何が起こるのかって?
それはきっと嬉しいことである反面、俺の頭から湯気が出るくらい悩ませる事であることは想像に難しくない。
「ここでシューイチ様の気苦労を和らげる情報を一つ……この世界では一定の条件を満たせば重婚は可能ですわ」
「そうなの!?」
さすが異世界!都合がいいな!
ってそうじゃなくて!!
「ちなみにその条件とは……?」
「あら?そこはご自分でお調べになればよろしいかと?」
そう言ってレリスが俺の肩にそっと寄り添ってきた。
いきなり何するのこの子!?そういうことされると心臓爆発しちゃうでしょ!?
「これからは、わたくし遠慮しませんので」
「お手やわらかにお願いします……」
俺を見上げるレリスの表情があまりにも幸せそうなので、結局俺は何も言うことができずレリスの気が済むまでその状態を続けることとなった。
レリスの温もりを肩で感じながら、俺は今後のことを考えていく。
こんなあやふや関係になったというのに、この子は今はそれでもいいと言ってくれたのだから、これからは意識して俺の意識改革をしていないとな。
それと必要かどうかはわからないが、重婚の条件も一応調べておかないといけない気がする。
あんまり必要な状況になってほしくないけどなぁ……そこまで多くの物を抱えきれないだろうし。
しかし一年か……一年たったら俺はどうなっているんだろうな?
そんなことをぼんやりと思いながら、夜空で輝きを放つ星たちを眺めていた。
そんなことがあって数日が経ち、俺たちの拠点にとある人物が訪ねてくることで、再び大きな騒動に巻まれることになる。
その騒動の中で、俺は予想だにしなかった人と再会することになるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる