77 / 169
飛行~関西弁の少女~
しおりを挟む
レリス関連のあれこれが一応の解決を見てから、一週間が経過した。
このことについてはまだ皆には公表しておらず、二人だけの秘密ということになっているが、事情を知っているエナとシエルには軽く報告だけはしておいた。
テレアとフリルには、折を見て報告するつもりではあるが、それがいつになるのかはまだ不明である。
それはそれとして、最近はそれにばかり目が行ってしまいがちだったが俺たちには一年以内にこの世界の四神獣を鎮めなければならないという役目がある。
一年は結構長い気もするが、朱雀のように何かしらの手を使い封印を解いてるパターンも存在しているので、決して悠長に構えてはいられないのだ。
もちろんこの一週間の間に神獣の行方について色々調べまわったりもしたが、これが中々有力な情報が見つからない。
軽く事情を説明して、ヤクトさんやリンデフランデのギルマスのクエスさんの二人にも調べてもらってはいるが、未だ発見には至ってないのだ。
肝心の玄武と朱雀もまだ本調子ではないらしく、残りの神獣の気配を感じることができないとのこと。
……まあつまるところ、俺はたちは今ちょっとしたお手上げ状態なのである。
そんな日々を過ごす最中、俺たちの拠点にとある人物が訪ねて来ることで状況は一変することになる。
「アーデンハイツに行くつもりなのか?」
「はい、この国で手をこまねいていても仕方ないですし、別の国に行けば有力な情報が見つかるかもしれないんで」
拠点にやってきたルカーナさんにお茶を振舞いながら、前々から行くつもりだったアーデンハイツのことを話す。
ちなみにこの人、割と頻繁に様子を見に来たと言いながら家に来るんだけど、もしかして暇なんじゃなかろうか?
「ルカーナさんならどんな国なのか知ってるんじゃないかなと」
「そうだな……あの国は一言で言うなら商人の国だな」
レリスの実家であるエレニカ財閥の本拠地らしいからな、多分そういう方面が盛んな国なんだろうとは思ってはいた。
「商人を志すならアーデンハイツに行っていろはを学べと言われているくらいだ」
「なるほどなるほど」
「……というか俺じゃなくて、レリスに聞けばいいんじゃないのか?あいつエレニカ財閥の人間なんだろう?」
あっ、やっぱりルカーナさんはそのことに気が付いていたのね。
「それはごもっともなんですけど、ちょっと大っぴらに聞けない事情がありまして……」
レリスはあまり実家のことについては話したがらないんだよね。
聞いてほしくない雰囲気を出す時もあるからこちらも中々踏み込めないのだ。
「まあいい……それとここ五年ほどであの国は機械に関する技術については、他の追従を許さないほどの先進国になったな」
「この国でもちょくちょく機械関連の物を見かけますけど、そのほとんどがアーデンハイツ製ですもんね」
「五年前は全くそうでもなかったはずなんだがな……突如として機械関連の技術が発展しだしたんだ」
「スチカ=リコレット……ですか?」
「ああ。五年前にいきなり現れて機械技術の発展に大きく貢献し、今なお最先端で手腕を振るっているそうだ」
スチカ=リコレットか……俺も持っているまるっきり携帯電話な見た目の通信機を作ったのも彼女だというし、一度会ってみたいと思ってるんだよね。
予想では俺のいた世界となんらかの関りがあると睨んでいる。でなければこんな携帯電話みたいな見た目の物を作れるはずがない。
「最近では空を飛ぶ機械を作っているらしいな」
「飛行機ですか?」
「ひこう……き?まあ名称は知らんが、それが完成すれば国間の行き来も楽になるだろうな」
たしかに電車すらないこの世界において空を飛ぶ飛行機を作り出したら、かなりの革命だよな。
大体この世界は国間の移動に時間が掛かりすぎるんだよね。
実際マグリドからエルサイムなんて電車でもあれば一日で辿りつけそうな距離だしな。
まあ電車を運行しようと思ったら線路とか引くために色々と準備をしなければならないだろうから、そう簡単な話ではないんだろうけど。
「……さてと、俺はそろそろ帰る。テレアによろしく言っておいてくれ」
「わかりましたルカーナおじさん」
「死にたいのか?」
「冗談ですから、本気で殺す目にならないでくださいよ」
「……まあそれはともかく、機会があればお前とは手合わせしてみたいと思っているがな」
「それはマジで勘弁してください」
レリスでも手も足も出ない相手に俺が勝てるはずがない。
10秒で瞬殺される自信があるぞ俺は。
帰っていくルカーナさんを見送った俺は、通信機を手にしもう一台の通信機の番号を呼び出しプッシュした。
『もしもしお兄ちゃん?』
「ようテレア!そっちはどう?」
『うん、依頼はもう終わってこれからギルドに報告に行くところだよ』
「マジで!?早くないか?」
『だってお兄ちゃん以外のみんながいるんだもん、あっという間だったよ』
たしか今日はかなり強めの魔物の討伐依頼だったはずだが……まあ俺を除いた四人で挑んでるんだからそりゃ早いだろうな。
テレアも勿論のこと、レリスなんか元々強かったのに今じゃ朱雀の加護を受けたおかげで強さに拍車がかかったし。
おまけにエナとフリルのサポートがあるんだから、向かうところ敵なし状態だ。いくら強めの魔物でもあの四人が相手では手も足もでないだろうな。
『もうすぐ帰るから、待っててねお兄ちゃん』
「最後まで気を抜かないようにな?それじゃあ」
そう言って通話を終えた俺は、庭へと赴く。
そこには庭の手入れをしているシエルがいて、俺が来たことに気が付いたのか、こちらを振り返った。
「おーっす、やっとるかね?」
「暇そうですね宗一さん」
「暇じゃないよ、さっきまでルカーナさんの相手してたし」
ルカーナさんの相手をするのは俺という暗黙の了解がなぜか出来上がっている。
見た感じ気難しい感じの人だし、話しかけてもそっけない態度しか取らないから、必然的に俺にお鉢が回ってくるんだよなぁ……。
ああ見えてあの人結構話しやすいんだけど、性格で損してるよな。
「今は暇なんですよね?なら家事を手伝ってください」
「前から思ってたんだけどさ、この家を一人で掃除とかするのしんどいんじゃない?」
「うわー!給仕係に指名した本人がそういうこと言うんですかー!?」
厳密に言うと給仕係に指名したのはフリルなんだけどね。
「いや、だから人を増やそうかと思うんだけどって話」
「私以外の給仕係を雇うんですか?」
「人手があったほうがシエルだって楽できるだろ?」
一人くらいならお給金を払えるくらいの蓄えはあるんだよね。
リンデフランデでもらった報酬金は俺たち全員の家具を揃えたくらいではびくともしない額なのだ。
それ以外ではあのお金にほとんど手を付けてないし、どうせなら新たに人を雇うのもありだと思うんだよね。
「後輩が出来るのはいいですね……ぜひお願いしたいところですね」
「そんじゃ今度求人でも出しておくか」
「それはそれとして、暇なら家事を手伝ってくださいよ」
ちっ……話を逸らせなかったか。
どうやって逃げようかと策略を脳内で張り巡らそうとした瞬間、空に何かが飛んでいるのが目に入った。
なんだろう、鳥かな?それにしてはなんか生き物らしさを感じないな……?
「宗一さん聞いてますか!?」
「いや、なんか飛んでるだよ……ほらあれ」
「どうせ鳥で……あれ?違いますね?」
俺がその飛んでいる物体を指さすと、シエルもそれに釣られて空を見上げてその飛んでいる物体を確認したようだ。
……っていうかアレ、こっちに向かって来てないか?
「なんかこっちに向かって飛んできてる気がするんですけど?」
「シエルもそう思った?実は俺もなんだよね?」
俺たちがそんなことを話してる間にも、その謎の飛行物体はどんどんこの家に向かって近づいてきて、最終的には俺たちの真上までやって来て、そのまま空中で停止した。
下から見てわかったが、これ飛行機じゃないのか?
「……なんか降りるから少し離れてくれって言ってますね」
「え?聞こえるの!?」
「まあ力を封印されているとはいえ一応神様見習いですからこのくらいのことは」
まあどいてくれと言われているならどこうじゃないか。
庭の隅へと非難した俺たちは、念のためにとフル・プロテクションを唱え万一の事態に備える。
何が出てきてもいいように、戦える準備だけはしておかないとな。
そうこうしているうちに、飛行機はホバリングしながらゆっくりと高度を落としていき、庭へと着陸した。
こうしてみると大きさ的にはそんなでもなく、この庭に収まる程度には小型な飛行機だ。
ていうかさっきは気にしなかったけど、なんでヘリでもないのにホバリングできるんだ?
この飛行機の構造的にホバリングできるとは思えないんだけど……まあそこは魔法で強引に何とかしてるんだと思い強引に納得した。
「いやー着いた着いた!長距離飛行は初めてやったけど何の問題もなかったな!さすがうちやで!」
操縦席からヘルメットとゴーグルをつけた少女らしき人物が顔を出して、開口一番に歓喜の声を上げた。
「もう空の旅は終わりかえ?」
「目的地に着いたからな!アーデンハイツからずっと飛んできたからさすがのうちもバテバテや!」
「しかしこの飛行機とやらは凄いのじゃ!エルサイムまでこんなに早く来れるなんて!」
どうやらもう一人乗っているようだが、同じくヘルメットとゴーグルをつけているため顔がわからない。
声からして二人とも女の子なのはわかるんだけどね。
「えっと……君たちは……?」
どうやらいきなり襲い掛かってくることもなさそうなので、俺はバリヤーを解いて未だに飛行機の操縦席に座って駄弁っている二人に声を掛ける。
先頭の座席に座っていた女の子が俺に気が付き、ゴーグル越しとはいえ目が合った。
「……お前……!?」
その少女がなにやら驚愕した表情で操縦席から飛び降りると、華麗に着地して俺の元に勢いよく走り寄って来た。
そのまま目の前までやって来て、頭突きされるんじゃないかって勢いで俺の顔面に顔を近づけて……って近い近い!!
「やっぱりそうや……エルサイムのこの場所におるって話聞いて、半信半疑で来てみたけどほんまやったんやな……!」
「えっと……もしかして俺に会いに来たのか?」
「あっそうか、この格好じゃわからんよな……ちょい待っててな!」
そう言って慌てた様子でヘルメットとゴーグルを外していく目の前の少女。
さっきから気になってるけど、この子が喋ってるの関西弁だよな?
まさかこの異世界に置いてこの関西弁を再び聞くことが出来るとは……ん?再び?
俺がなにやら心に引っかかりを感じていると、その少女はヘルメットとゴーグルを外し終え、満面の笑顔を見せた。
「ひっさしぶりやなシュウ!うちのこと覚えとるやろ!?」
オレンジ色の髪に三角形のヘアピンをつけ、長い髪を後ろで三つ編みにして縛ったその少女が、俺にそう言ってきた。
「え?ごめん、誰!?」
「はあぁー!?」
ありえないと言った感じの驚愕した表情でその少女が俺を見てくる。
いや本当に誰だかわからないから、そんな顔されても困るんだけど……。
でもその「シュウ」という呼ばれ方には、どことなく心当たりがある。
「うちや!うち!心臓に悪い冗談はやめーや!!」
「いやほんとに誰!?」
「う……嘘やろ……?」
なにやらこの世の終わりみたいな顔で一歩、また一歩とその少女が後ずさりがっくりと膝をついた。
なんだか可哀そうになって来たけど、本当に知らないからどうしようもない。
何か声を掛けた方がいいかと思い、一歩踏み出したところでその少女が勢いよく立ち上がった。
そして―――
「うちはスチカ=リコレットや!ほんまにうちのこと覚えてないんか!?シュウ!!」
俺がぜひとも会ってみたいと思っていたその名を、その少女が名乗った。
このことについてはまだ皆には公表しておらず、二人だけの秘密ということになっているが、事情を知っているエナとシエルには軽く報告だけはしておいた。
テレアとフリルには、折を見て報告するつもりではあるが、それがいつになるのかはまだ不明である。
それはそれとして、最近はそれにばかり目が行ってしまいがちだったが俺たちには一年以内にこの世界の四神獣を鎮めなければならないという役目がある。
一年は結構長い気もするが、朱雀のように何かしらの手を使い封印を解いてるパターンも存在しているので、決して悠長に構えてはいられないのだ。
もちろんこの一週間の間に神獣の行方について色々調べまわったりもしたが、これが中々有力な情報が見つからない。
軽く事情を説明して、ヤクトさんやリンデフランデのギルマスのクエスさんの二人にも調べてもらってはいるが、未だ発見には至ってないのだ。
肝心の玄武と朱雀もまだ本調子ではないらしく、残りの神獣の気配を感じることができないとのこと。
……まあつまるところ、俺はたちは今ちょっとしたお手上げ状態なのである。
そんな日々を過ごす最中、俺たちの拠点にとある人物が訪ねて来ることで状況は一変することになる。
「アーデンハイツに行くつもりなのか?」
「はい、この国で手をこまねいていても仕方ないですし、別の国に行けば有力な情報が見つかるかもしれないんで」
拠点にやってきたルカーナさんにお茶を振舞いながら、前々から行くつもりだったアーデンハイツのことを話す。
ちなみにこの人、割と頻繁に様子を見に来たと言いながら家に来るんだけど、もしかして暇なんじゃなかろうか?
「ルカーナさんならどんな国なのか知ってるんじゃないかなと」
「そうだな……あの国は一言で言うなら商人の国だな」
レリスの実家であるエレニカ財閥の本拠地らしいからな、多分そういう方面が盛んな国なんだろうとは思ってはいた。
「商人を志すならアーデンハイツに行っていろはを学べと言われているくらいだ」
「なるほどなるほど」
「……というか俺じゃなくて、レリスに聞けばいいんじゃないのか?あいつエレニカ財閥の人間なんだろう?」
あっ、やっぱりルカーナさんはそのことに気が付いていたのね。
「それはごもっともなんですけど、ちょっと大っぴらに聞けない事情がありまして……」
レリスはあまり実家のことについては話したがらないんだよね。
聞いてほしくない雰囲気を出す時もあるからこちらも中々踏み込めないのだ。
「まあいい……それとここ五年ほどであの国は機械に関する技術については、他の追従を許さないほどの先進国になったな」
「この国でもちょくちょく機械関連の物を見かけますけど、そのほとんどがアーデンハイツ製ですもんね」
「五年前は全くそうでもなかったはずなんだがな……突如として機械関連の技術が発展しだしたんだ」
「スチカ=リコレット……ですか?」
「ああ。五年前にいきなり現れて機械技術の発展に大きく貢献し、今なお最先端で手腕を振るっているそうだ」
スチカ=リコレットか……俺も持っているまるっきり携帯電話な見た目の通信機を作ったのも彼女だというし、一度会ってみたいと思ってるんだよね。
予想では俺のいた世界となんらかの関りがあると睨んでいる。でなければこんな携帯電話みたいな見た目の物を作れるはずがない。
「最近では空を飛ぶ機械を作っているらしいな」
「飛行機ですか?」
「ひこう……き?まあ名称は知らんが、それが完成すれば国間の行き来も楽になるだろうな」
たしかに電車すらないこの世界において空を飛ぶ飛行機を作り出したら、かなりの革命だよな。
大体この世界は国間の移動に時間が掛かりすぎるんだよね。
実際マグリドからエルサイムなんて電車でもあれば一日で辿りつけそうな距離だしな。
まあ電車を運行しようと思ったら線路とか引くために色々と準備をしなければならないだろうから、そう簡単な話ではないんだろうけど。
「……さてと、俺はそろそろ帰る。テレアによろしく言っておいてくれ」
「わかりましたルカーナおじさん」
「死にたいのか?」
「冗談ですから、本気で殺す目にならないでくださいよ」
「……まあそれはともかく、機会があればお前とは手合わせしてみたいと思っているがな」
「それはマジで勘弁してください」
レリスでも手も足も出ない相手に俺が勝てるはずがない。
10秒で瞬殺される自信があるぞ俺は。
帰っていくルカーナさんを見送った俺は、通信機を手にしもう一台の通信機の番号を呼び出しプッシュした。
『もしもしお兄ちゃん?』
「ようテレア!そっちはどう?」
『うん、依頼はもう終わってこれからギルドに報告に行くところだよ』
「マジで!?早くないか?」
『だってお兄ちゃん以外のみんながいるんだもん、あっという間だったよ』
たしか今日はかなり強めの魔物の討伐依頼だったはずだが……まあ俺を除いた四人で挑んでるんだからそりゃ早いだろうな。
テレアも勿論のこと、レリスなんか元々強かったのに今じゃ朱雀の加護を受けたおかげで強さに拍車がかかったし。
おまけにエナとフリルのサポートがあるんだから、向かうところ敵なし状態だ。いくら強めの魔物でもあの四人が相手では手も足もでないだろうな。
『もうすぐ帰るから、待っててねお兄ちゃん』
「最後まで気を抜かないようにな?それじゃあ」
そう言って通話を終えた俺は、庭へと赴く。
そこには庭の手入れをしているシエルがいて、俺が来たことに気が付いたのか、こちらを振り返った。
「おーっす、やっとるかね?」
「暇そうですね宗一さん」
「暇じゃないよ、さっきまでルカーナさんの相手してたし」
ルカーナさんの相手をするのは俺という暗黙の了解がなぜか出来上がっている。
見た感じ気難しい感じの人だし、話しかけてもそっけない態度しか取らないから、必然的に俺にお鉢が回ってくるんだよなぁ……。
ああ見えてあの人結構話しやすいんだけど、性格で損してるよな。
「今は暇なんですよね?なら家事を手伝ってください」
「前から思ってたんだけどさ、この家を一人で掃除とかするのしんどいんじゃない?」
「うわー!給仕係に指名した本人がそういうこと言うんですかー!?」
厳密に言うと給仕係に指名したのはフリルなんだけどね。
「いや、だから人を増やそうかと思うんだけどって話」
「私以外の給仕係を雇うんですか?」
「人手があったほうがシエルだって楽できるだろ?」
一人くらいならお給金を払えるくらいの蓄えはあるんだよね。
リンデフランデでもらった報酬金は俺たち全員の家具を揃えたくらいではびくともしない額なのだ。
それ以外ではあのお金にほとんど手を付けてないし、どうせなら新たに人を雇うのもありだと思うんだよね。
「後輩が出来るのはいいですね……ぜひお願いしたいところですね」
「そんじゃ今度求人でも出しておくか」
「それはそれとして、暇なら家事を手伝ってくださいよ」
ちっ……話を逸らせなかったか。
どうやって逃げようかと策略を脳内で張り巡らそうとした瞬間、空に何かが飛んでいるのが目に入った。
なんだろう、鳥かな?それにしてはなんか生き物らしさを感じないな……?
「宗一さん聞いてますか!?」
「いや、なんか飛んでるだよ……ほらあれ」
「どうせ鳥で……あれ?違いますね?」
俺がその飛んでいる物体を指さすと、シエルもそれに釣られて空を見上げてその飛んでいる物体を確認したようだ。
……っていうかアレ、こっちに向かって来てないか?
「なんかこっちに向かって飛んできてる気がするんですけど?」
「シエルもそう思った?実は俺もなんだよね?」
俺たちがそんなことを話してる間にも、その謎の飛行物体はどんどんこの家に向かって近づいてきて、最終的には俺たちの真上までやって来て、そのまま空中で停止した。
下から見てわかったが、これ飛行機じゃないのか?
「……なんか降りるから少し離れてくれって言ってますね」
「え?聞こえるの!?」
「まあ力を封印されているとはいえ一応神様見習いですからこのくらいのことは」
まあどいてくれと言われているならどこうじゃないか。
庭の隅へと非難した俺たちは、念のためにとフル・プロテクションを唱え万一の事態に備える。
何が出てきてもいいように、戦える準備だけはしておかないとな。
そうこうしているうちに、飛行機はホバリングしながらゆっくりと高度を落としていき、庭へと着陸した。
こうしてみると大きさ的にはそんなでもなく、この庭に収まる程度には小型な飛行機だ。
ていうかさっきは気にしなかったけど、なんでヘリでもないのにホバリングできるんだ?
この飛行機の構造的にホバリングできるとは思えないんだけど……まあそこは魔法で強引に何とかしてるんだと思い強引に納得した。
「いやー着いた着いた!長距離飛行は初めてやったけど何の問題もなかったな!さすがうちやで!」
操縦席からヘルメットとゴーグルをつけた少女らしき人物が顔を出して、開口一番に歓喜の声を上げた。
「もう空の旅は終わりかえ?」
「目的地に着いたからな!アーデンハイツからずっと飛んできたからさすがのうちもバテバテや!」
「しかしこの飛行機とやらは凄いのじゃ!エルサイムまでこんなに早く来れるなんて!」
どうやらもう一人乗っているようだが、同じくヘルメットとゴーグルをつけているため顔がわからない。
声からして二人とも女の子なのはわかるんだけどね。
「えっと……君たちは……?」
どうやらいきなり襲い掛かってくることもなさそうなので、俺はバリヤーを解いて未だに飛行機の操縦席に座って駄弁っている二人に声を掛ける。
先頭の座席に座っていた女の子が俺に気が付き、ゴーグル越しとはいえ目が合った。
「……お前……!?」
その少女がなにやら驚愕した表情で操縦席から飛び降りると、華麗に着地して俺の元に勢いよく走り寄って来た。
そのまま目の前までやって来て、頭突きされるんじゃないかって勢いで俺の顔面に顔を近づけて……って近い近い!!
「やっぱりそうや……エルサイムのこの場所におるって話聞いて、半信半疑で来てみたけどほんまやったんやな……!」
「えっと……もしかして俺に会いに来たのか?」
「あっそうか、この格好じゃわからんよな……ちょい待っててな!」
そう言って慌てた様子でヘルメットとゴーグルを外していく目の前の少女。
さっきから気になってるけど、この子が喋ってるの関西弁だよな?
まさかこの異世界に置いてこの関西弁を再び聞くことが出来るとは……ん?再び?
俺がなにやら心に引っかかりを感じていると、その少女はヘルメットとゴーグルを外し終え、満面の笑顔を見せた。
「ひっさしぶりやなシュウ!うちのこと覚えとるやろ!?」
オレンジ色の髪に三角形のヘアピンをつけ、長い髪を後ろで三つ編みにして縛ったその少女が、俺にそう言ってきた。
「え?ごめん、誰!?」
「はあぁー!?」
ありえないと言った感じの驚愕した表情でその少女が俺を見てくる。
いや本当に誰だかわからないから、そんな顔されても困るんだけど……。
でもその「シュウ」という呼ばれ方には、どことなく心当たりがある。
「うちや!うち!心臓に悪い冗談はやめーや!!」
「いやほんとに誰!?」
「う……嘘やろ……?」
なにやらこの世の終わりみたいな顔で一歩、また一歩とその少女が後ずさりがっくりと膝をついた。
なんだか可哀そうになって来たけど、本当に知らないからどうしようもない。
何か声を掛けた方がいいかと思い、一歩踏み出したところでその少女が勢いよく立ち上がった。
そして―――
「うちはスチカ=リコレットや!ほんまにうちのこと覚えてないんか!?シュウ!!」
俺がぜひとも会ってみたいと思っていたその名を、その少女が名乗った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる