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故郷~幼馴染はスチカ?~
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こちらから会いに行こうと思っていた人物が、まさか自分から来てくれるとは思わなかった。
しかも相手はどうやら俺のことを知っている様子なんだけど……。
「お前さんがスチカ=リコレットなのか?」
「そう!思い出してくれたんか!?」
「いや、全然?」
「なんでやー!!」
そんな叫ばれてもわからない物はわからないんだから仕方がない。
でもなんだろう……なにか大事なことを忘れているような気がしてならない。
「おい!お主!!」
俺がそんな感じでモヤモヤした気分を抱えていると、飛行機に乗っていたもう一人の女の子が操縦席から飛び降りて、被っていたヘルメットとゴーグルを投げ捨て怒りをまき散らしながら俺の元に駆け寄って来た。
ヘルメットを脱いだことで、ともすれば踵まで届きそうなピンクの髪が露わになる。
ざっと見た感じ随分小さいな……ひょっとしたらテレアよりも小さいんじゃないのか?
でも顔立ちは物凄く整っていて、大人になれば物凄い美人になるんじゃないかって雰囲気を感じる。
しかもなんか如何にも高級そうなドレスを身に纏っているし……これ絶対こんな場所にいて良い身分の子じゃないだろうな……。
「スチカはわらわの大切な友人じゃ!傷つけたらただではおかんぞ!」
「いやそう言われてもなぁ……」
ていうかそもそもこの二人は何をしに来たんだ?
俺に会いに来たみたいなことをさっきスチカが言っていたが、そもそもなんで俺の存在を知ってるんだろう?
とりあえずこんな状態では満足に話も出来そうにないな……。
「えっと……ここじゃなんだし、お茶とかお菓子とかも出すからうちの中で話さないか?俺も詳しい事情を聞きたいしさ」
「なに!?お茶とお菓子だと!?わらわは今腹ペコじゃ!そういうことならいただこうではないか!」
「あかん……シュウに忘れられるなんて……この世の終わりや……」
「なんなんですか?この凸凹コンビは?」
俺の言いたかったツッコミを、シエルが代わりにしてくれた。
「落ち着いたか?」
「美味いのじゃ!このお菓子はなんというお菓子なのじゃ?」
「それはマカロンですよ」
「なんでや……うちはシュウのこと忘れたことなんてないのに、なんでシュウは……」
「全然落ち着いてねえし」
もう相手するの面倒くさくなってきた。
要件済ませて早く帰ってくれないかなぁ?
……とりあえずマカロンを頬張ってるちびっこの方はシエルに任せて、スチカから話を聞き出すとしよう。
「えっと……お前さんのことを覚えてないことについては謝るよ……ごめん」
「謝らんといて……余計に悲しくなるから……」
もうどうしたらいいんだよ!ニトログリセリンかよ!!
「とりあえずそこは保留にしておいて、どうしてわざわざ俺に会いに来たのかを教えてほしいんだけど」
「そんなもん、お前がうちの知ってるシュウかどうかを確認するために決まっとるやんか……」
「そもそもどうやって俺の存在を知ったんだ?」
「マグリドとリンデフランデの両国の王から推薦状をもらっとって、かつこの国のダンジョンの最下層から無事に生還を果たした冒険者ってことで、あんたらアーデンハイツの冒険者ギルドでも結構有名になっとるで?」
あーやっぱりそっち方面で俺のことを知ったのか……そうだとは思った。
ていうか今この子、「ダンジョンの最下層から生還した」って言ってたけど、どうしてそれを知ってるんだ?
俺とレリスとフリルがこの国のダンジョンの最下層で朱雀を鎮めたことは、俺たちのパーティーと極一部の人しか知らないはずなんだが……。
あまり話を大事にしたくなかった俺は、適当にダンジョンを彷徨ってたら偶然魔法陣が出現してそれで地上に戻れたという体でギルドに報告しているはずなんだけど。
「ていうか、そもそもなんでシュウがこの世界におるんや!?お前この世界の人間ちゃうやろ!?」
「なっ!?」
スチカのその言葉に、心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらい驚いた。
俺が異世界人であることを知っている……?
「ちょっと待て!なんで俺がこの世界の人間じゃないって知ってるんだ!?」
これこそ俺の周りの女性陣しか知らない情報だぞ!?
比較的近い位置にいるルカーナさんにすら話していない情報なのに、どこから漏れたんだ!?
「そんなことも忘れたんか……ほんまにうちのこと忘れてしまったんやな……」
「えっと……出来ることなら俺も君のことをちゃんと思い出したいから、詳しい話を聞かせてくれると嬉しいんだけど……」
俺は全く覚えてないが、スチカの様子を見るに相当親しい仲だったと推測できる。
折角わざわざ俺に会いに来てくれたんだから、何とかして思い出してあげたい。
「そうやな……簡潔に言うとな、うちは昔日本に飛ばされたことがあるねん」
「日本に!?」
まさかの事実に、俺はまたも驚愕の声を上げる。
さっきから驚くことばかりだ……まさかもう二度と聞くことがないと思っていた俺の故郷の国の名前を再び耳にする日が来るとは……。
「飛ばされた理由ははっきりとは覚えとらんし、なんでこの世界に戻って来れられたのかも未だにわかっとらん」
「マジかよ……俺と全く逆パターンなんだな……」
「日本に飛ばされたのはうちがまだ5歳の頃やった。そこからとある田舎町に行きついてそこで5年間過ごした後、気が付いたら元の世界に強制送還されとったんや」
田舎町……なんだろう、相変わらず思い出せないものの、色々な情報がパズルのピースのように組みあがっていく感覚だ。
「その田舎町ってもしかして……」
もしやと思い俺のじいちゃんの住んでいた田舎の名前を言ってみたところ、スチカの目が大きく見開かれた。
「そうそう!そんでうちは紆余曲折あって葉山のじいさんに拾われて、その田舎で暮すことになったんや!」
「葉山のじいさんって、もしかして葉山耕三って名前の人か?」
「その通りや、あのじいさんには世話になった」
スチカの話を信じるなら、五歳の時に日本に飛ばされてうちの田舎のじいちゃんに拾われ、それから強制送還されるまでの五年間あの田舎町で暮らしてたってことだよな?
そんなに長い間あの田舎にいたのなら、夏休みの間に遊びに来た俺と絶対に何度も会ってるはずなのに、俺の記憶の中にはスチカの姿が全くと言っていいほど見当たらない。
……あれ?そうでもないのか……?いたような気がしてきた……ぞ?なんだこれ?
この不気味な感覚前にもあったな……あれはたしか、シエルにレリスのことを相談してた時だ。
もしかしてシエルの言っていたもう一人の幼馴染ってスチカのことなのか?
「なあ?ここまで話してもうちのこと思い出せんか?」
「えっと……なんていうか……たしかにそういう子がいたのかもしれないって思うくらいしか……」
こんだけ状況証拠のようなものが揃っているにも関わらず、あやふやにしか思い出せないのはなぜなんだろう?
「まあでも……うちのこと覚えてなかったのはショックやけど、こうしてまたシュウと再会できて嬉しいわ」
そう言ってスチカがニカッと笑う。
その笑顔はどこか見覚えのあるものだった。
「ただいまー」
「あれ?お客様ですか?」
スチカと話をしている間に、仕事に出ていたみんなが揃って帰宅して来た。
「おかえり皆」
「ただいま戻りましたわ、シューイチさ……ま!?」
「あー!!お前!」
スチカを見たレリスが固まり、そしてレリスを見たスチカが立ち上がってレリスを指さした。
なんだなんだ?この二人顔見知りなのか!?
「お前何でこんなところにおるんや!?お前んち今大騒ぎになっとるで!」
「そっそれは重々承知しておりますが……そもそもどうしてスチカさんがここに?」
「うちは飛行機の試運転も兼ねて、シュウに会いに来たんや!」
「シュウ?それはもしやシューイチ様のことですか?」
「ちょっと待った!二人は顔見知りなの?」
なんかヒートアップしそうだったので、俺は二人の間に割って入るように制止した。
「むっ!?なんじゃお主は!?このマカロンはわらわのものじゃぞ!勝手に持っていくでないわ!」
「……うちのメイドが作ったマカロンなんだから私が食べても問題ない」
「喧嘩しないでください、代わりを作りますから」
「あー!そのピンクの色の奴はわらわが最後に食べようと思って大事に取っておいた物じゃぞ!」
「……色で味が変わるわけじゃない」
「だから喧嘩しないでくださいってばー!」
向こうは向こうでなんだかお菓子を巡って争いが勃発していた。
「えっと……何ですかこの状況?」
喧々囂々とするこのカオスな状況の中で、エナの呟きが空しく消えていった。
「お疲れさん、シエル」
「ぜえぜえ……もうしばらくお菓子は作りたくない……です」
「シエルお姉ちゃん、大丈夫?」
ここにいる全員分のお菓子を必死に作り続けたシエルは、疲れ果てて真っ白になっていた。
そんなシエルを気遣い、エナがうちわでぱたぱたとシエルを仰いであげていた。
シエルの尊い犠牲のおかげで、場はさっきよりも落ち着きを取り戻しており、若干和気藹々とした空気になっている。
……あくまでも表面上はね。
「それじゃ順番に聞いていきたいんだけど……レリスはスチカと知り合いなのか?」
「ええ、わたくしがアーデンハイツにいた頃、よくスチカさんの発明品のもにたー?というものをしていたので」
「レリスの協力のおかげで世に出た物もいくつかあるんやで?」
ということは、ダンジョンでレリスの使っていた収納ボックスはモニター品だったのか。
「出会いは何時でしたでしょうか……たしかお父様とお姉さまの付き添いで社交場に出向いた時だったと記憶しておりますが……」
「ああ、あのかたっ苦しいところな?アーデンハイツの王様に一度でいいからって言われて仕方く参加した時の話やな」
聞けばレリスはその頃から冒険者になることを決めていて、たまたまそこで出会ったスチカと意気投合し、そのことを打ち明けたところ丁度冒険者用グッズの開発に着手していたスチカに試作品のモニター役に任命されたとのこと。
しかしまさかお互いがお互いにこんなところにいるとは思わず、しかも俺と関わりがあるなんて思ってなかっただろうなぁ……スチカに関しては未だに思い出せないわけだが。
「シューイチ様はスチカさんとどのようなご関係なのですか?」
うわーなんか視線が冷たい気がするなー。
「えっと俺自身の名誉ために言うけど、スチカが一方的に俺のこと知ってただけだからね?」
「まあシューイチ様が嘘を吐くとは思えませんが……本当にスチカさんのことを覚えていらっしゃらないので?」
「スチカには本当に申し訳ないと思うけど、これがさっぱり」
「改めて言われると傷つくわぁ……」
俺のその言葉に見るからにスチカが凹んだ様子を見せる。
俺だって思い出してあげたいんだけどねぇ……。
「そんで次の質問なんだけど、スチカが一緒に連れてきたその子……どこのどなた?」
「よくぞ聞いてくれた!」
スチカに質問したはずなのに、お菓子を頬張りながらその女の子が勢いよく立ち上がった。
「わらわこそアーデンハイツの第一王女、クルスティア=アーデンハイツなるぞ!!」
多分そうだろうなとは思っていたけど、まさか本当にアーデンハイツの王族だった。
しかも第一王女ときたもんだ。
俺はまた何かしら面倒ごとに巻まれる気配を感じてしまい、頭を抱えてしまった。
そんな俺の様子を見て、テレアがうちわを仰いでくれる。
この優しさのつまったそよ風が俺の苦悩を押し流してくれるといいんだけどなぁ……。
しかも相手はどうやら俺のことを知っている様子なんだけど……。
「お前さんがスチカ=リコレットなのか?」
「そう!思い出してくれたんか!?」
「いや、全然?」
「なんでやー!!」
そんな叫ばれてもわからない物はわからないんだから仕方がない。
でもなんだろう……なにか大事なことを忘れているような気がしてならない。
「おい!お主!!」
俺がそんな感じでモヤモヤした気分を抱えていると、飛行機に乗っていたもう一人の女の子が操縦席から飛び降りて、被っていたヘルメットとゴーグルを投げ捨て怒りをまき散らしながら俺の元に駆け寄って来た。
ヘルメットを脱いだことで、ともすれば踵まで届きそうなピンクの髪が露わになる。
ざっと見た感じ随分小さいな……ひょっとしたらテレアよりも小さいんじゃないのか?
でも顔立ちは物凄く整っていて、大人になれば物凄い美人になるんじゃないかって雰囲気を感じる。
しかもなんか如何にも高級そうなドレスを身に纏っているし……これ絶対こんな場所にいて良い身分の子じゃないだろうな……。
「スチカはわらわの大切な友人じゃ!傷つけたらただではおかんぞ!」
「いやそう言われてもなぁ……」
ていうかそもそもこの二人は何をしに来たんだ?
俺に会いに来たみたいなことをさっきスチカが言っていたが、そもそもなんで俺の存在を知ってるんだろう?
とりあえずこんな状態では満足に話も出来そうにないな……。
「えっと……ここじゃなんだし、お茶とかお菓子とかも出すからうちの中で話さないか?俺も詳しい事情を聞きたいしさ」
「なに!?お茶とお菓子だと!?わらわは今腹ペコじゃ!そういうことならいただこうではないか!」
「あかん……シュウに忘れられるなんて……この世の終わりや……」
「なんなんですか?この凸凹コンビは?」
俺の言いたかったツッコミを、シエルが代わりにしてくれた。
「落ち着いたか?」
「美味いのじゃ!このお菓子はなんというお菓子なのじゃ?」
「それはマカロンですよ」
「なんでや……うちはシュウのこと忘れたことなんてないのに、なんでシュウは……」
「全然落ち着いてねえし」
もう相手するの面倒くさくなってきた。
要件済ませて早く帰ってくれないかなぁ?
……とりあえずマカロンを頬張ってるちびっこの方はシエルに任せて、スチカから話を聞き出すとしよう。
「えっと……お前さんのことを覚えてないことについては謝るよ……ごめん」
「謝らんといて……余計に悲しくなるから……」
もうどうしたらいいんだよ!ニトログリセリンかよ!!
「とりあえずそこは保留にしておいて、どうしてわざわざ俺に会いに来たのかを教えてほしいんだけど」
「そんなもん、お前がうちの知ってるシュウかどうかを確認するために決まっとるやんか……」
「そもそもどうやって俺の存在を知ったんだ?」
「マグリドとリンデフランデの両国の王から推薦状をもらっとって、かつこの国のダンジョンの最下層から無事に生還を果たした冒険者ってことで、あんたらアーデンハイツの冒険者ギルドでも結構有名になっとるで?」
あーやっぱりそっち方面で俺のことを知ったのか……そうだとは思った。
ていうか今この子、「ダンジョンの最下層から生還した」って言ってたけど、どうしてそれを知ってるんだ?
俺とレリスとフリルがこの国のダンジョンの最下層で朱雀を鎮めたことは、俺たちのパーティーと極一部の人しか知らないはずなんだが……。
あまり話を大事にしたくなかった俺は、適当にダンジョンを彷徨ってたら偶然魔法陣が出現してそれで地上に戻れたという体でギルドに報告しているはずなんだけど。
「ていうか、そもそもなんでシュウがこの世界におるんや!?お前この世界の人間ちゃうやろ!?」
「なっ!?」
スチカのその言葉に、心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらい驚いた。
俺が異世界人であることを知っている……?
「ちょっと待て!なんで俺がこの世界の人間じゃないって知ってるんだ!?」
これこそ俺の周りの女性陣しか知らない情報だぞ!?
比較的近い位置にいるルカーナさんにすら話していない情報なのに、どこから漏れたんだ!?
「そんなことも忘れたんか……ほんまにうちのこと忘れてしまったんやな……」
「えっと……出来ることなら俺も君のことをちゃんと思い出したいから、詳しい話を聞かせてくれると嬉しいんだけど……」
俺は全く覚えてないが、スチカの様子を見るに相当親しい仲だったと推測できる。
折角わざわざ俺に会いに来てくれたんだから、何とかして思い出してあげたい。
「そうやな……簡潔に言うとな、うちは昔日本に飛ばされたことがあるねん」
「日本に!?」
まさかの事実に、俺はまたも驚愕の声を上げる。
さっきから驚くことばかりだ……まさかもう二度と聞くことがないと思っていた俺の故郷の国の名前を再び耳にする日が来るとは……。
「飛ばされた理由ははっきりとは覚えとらんし、なんでこの世界に戻って来れられたのかも未だにわかっとらん」
「マジかよ……俺と全く逆パターンなんだな……」
「日本に飛ばされたのはうちがまだ5歳の頃やった。そこからとある田舎町に行きついてそこで5年間過ごした後、気が付いたら元の世界に強制送還されとったんや」
田舎町……なんだろう、相変わらず思い出せないものの、色々な情報がパズルのピースのように組みあがっていく感覚だ。
「その田舎町ってもしかして……」
もしやと思い俺のじいちゃんの住んでいた田舎の名前を言ってみたところ、スチカの目が大きく見開かれた。
「そうそう!そんでうちは紆余曲折あって葉山のじいさんに拾われて、その田舎で暮すことになったんや!」
「葉山のじいさんって、もしかして葉山耕三って名前の人か?」
「その通りや、あのじいさんには世話になった」
スチカの話を信じるなら、五歳の時に日本に飛ばされてうちの田舎のじいちゃんに拾われ、それから強制送還されるまでの五年間あの田舎町で暮らしてたってことだよな?
そんなに長い間あの田舎にいたのなら、夏休みの間に遊びに来た俺と絶対に何度も会ってるはずなのに、俺の記憶の中にはスチカの姿が全くと言っていいほど見当たらない。
……あれ?そうでもないのか……?いたような気がしてきた……ぞ?なんだこれ?
この不気味な感覚前にもあったな……あれはたしか、シエルにレリスのことを相談してた時だ。
もしかしてシエルの言っていたもう一人の幼馴染ってスチカのことなのか?
「なあ?ここまで話してもうちのこと思い出せんか?」
「えっと……なんていうか……たしかにそういう子がいたのかもしれないって思うくらいしか……」
こんだけ状況証拠のようなものが揃っているにも関わらず、あやふやにしか思い出せないのはなぜなんだろう?
「まあでも……うちのこと覚えてなかったのはショックやけど、こうしてまたシュウと再会できて嬉しいわ」
そう言ってスチカがニカッと笑う。
その笑顔はどこか見覚えのあるものだった。
「ただいまー」
「あれ?お客様ですか?」
スチカと話をしている間に、仕事に出ていたみんなが揃って帰宅して来た。
「おかえり皆」
「ただいま戻りましたわ、シューイチさ……ま!?」
「あー!!お前!」
スチカを見たレリスが固まり、そしてレリスを見たスチカが立ち上がってレリスを指さした。
なんだなんだ?この二人顔見知りなのか!?
「お前何でこんなところにおるんや!?お前んち今大騒ぎになっとるで!」
「そっそれは重々承知しておりますが……そもそもどうしてスチカさんがここに?」
「うちは飛行機の試運転も兼ねて、シュウに会いに来たんや!」
「シュウ?それはもしやシューイチ様のことですか?」
「ちょっと待った!二人は顔見知りなの?」
なんかヒートアップしそうだったので、俺は二人の間に割って入るように制止した。
「むっ!?なんじゃお主は!?このマカロンはわらわのものじゃぞ!勝手に持っていくでないわ!」
「……うちのメイドが作ったマカロンなんだから私が食べても問題ない」
「喧嘩しないでください、代わりを作りますから」
「あー!そのピンクの色の奴はわらわが最後に食べようと思って大事に取っておいた物じゃぞ!」
「……色で味が変わるわけじゃない」
「だから喧嘩しないでくださいってばー!」
向こうは向こうでなんだかお菓子を巡って争いが勃発していた。
「えっと……何ですかこの状況?」
喧々囂々とするこのカオスな状況の中で、エナの呟きが空しく消えていった。
「お疲れさん、シエル」
「ぜえぜえ……もうしばらくお菓子は作りたくない……です」
「シエルお姉ちゃん、大丈夫?」
ここにいる全員分のお菓子を必死に作り続けたシエルは、疲れ果てて真っ白になっていた。
そんなシエルを気遣い、エナがうちわでぱたぱたとシエルを仰いであげていた。
シエルの尊い犠牲のおかげで、場はさっきよりも落ち着きを取り戻しており、若干和気藹々とした空気になっている。
……あくまでも表面上はね。
「それじゃ順番に聞いていきたいんだけど……レリスはスチカと知り合いなのか?」
「ええ、わたくしがアーデンハイツにいた頃、よくスチカさんの発明品のもにたー?というものをしていたので」
「レリスの協力のおかげで世に出た物もいくつかあるんやで?」
ということは、ダンジョンでレリスの使っていた収納ボックスはモニター品だったのか。
「出会いは何時でしたでしょうか……たしかお父様とお姉さまの付き添いで社交場に出向いた時だったと記憶しておりますが……」
「ああ、あのかたっ苦しいところな?アーデンハイツの王様に一度でいいからって言われて仕方く参加した時の話やな」
聞けばレリスはその頃から冒険者になることを決めていて、たまたまそこで出会ったスチカと意気投合し、そのことを打ち明けたところ丁度冒険者用グッズの開発に着手していたスチカに試作品のモニター役に任命されたとのこと。
しかしまさかお互いがお互いにこんなところにいるとは思わず、しかも俺と関わりがあるなんて思ってなかっただろうなぁ……スチカに関しては未だに思い出せないわけだが。
「シューイチ様はスチカさんとどのようなご関係なのですか?」
うわーなんか視線が冷たい気がするなー。
「えっと俺自身の名誉ために言うけど、スチカが一方的に俺のこと知ってただけだからね?」
「まあシューイチ様が嘘を吐くとは思えませんが……本当にスチカさんのことを覚えていらっしゃらないので?」
「スチカには本当に申し訳ないと思うけど、これがさっぱり」
「改めて言われると傷つくわぁ……」
俺のその言葉に見るからにスチカが凹んだ様子を見せる。
俺だって思い出してあげたいんだけどねぇ……。
「そんで次の質問なんだけど、スチカが一緒に連れてきたその子……どこのどなた?」
「よくぞ聞いてくれた!」
スチカに質問したはずなのに、お菓子を頬張りながらその女の子が勢いよく立ち上がった。
「わらわこそアーデンハイツの第一王女、クルスティア=アーデンハイツなるぞ!!」
多分そうだろうなとは思っていたけど、まさか本当にアーデンハイツの王族だった。
しかも第一王女ときたもんだ。
俺はまた何かしら面倒ごとに巻まれる気配を感じてしまい、頭を抱えてしまった。
そんな俺の様子を見て、テレアがうちわを仰いでくれる。
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