無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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昔話~絵に描いたような成り上がり~

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「そもそもうちが生まれたんは、アーデンハイツでもどこでもないとあるジャンク街やった」
「アーデンハイツじゃなかったのか」

 俺の言葉にスチカが小さく頷く。

「物心ついた時にはあるジャンク屋のじいさんのところで小間使いのように働かされとったわ、まだ五歳だったのになぁ」
「両親は?」
「さあ?ジャンク屋のじいさんがいうにはお前は捨てられてここに来たってことくらいしか聞いとらん」

 それは……フリルに似てる境遇だけど、スチカの方が何倍も辛い環境だな……。

「両親については正直どうでもええと思っとる。そりゃ何かの拍子に見つけたら文句の一つでも言ってやりたいとは思うけどな」

 そう言って、本当に何とも思ってないとばかりにスチカが笑う。

「後なこれは最初に知っといてほしいことなんやけど、うちには魔力がないねん」
「魔力がない?」
「そそ、まったくこれっぽっちもな」

 エナが言うにはこの世界に人間は少なからず魔力を持って生まれてくるらしいのに、スチカみたいなケースもあるのか?

「でもな?うちにみたいに魔力を持たずに生まれてきた人間には、神様から一つの才能をもらえるんやって。うちも例外やなかった」
「ていうことにはスチカにも?」
「うちには「覚えた物事を絶対に忘れない」能力がある」

 絶対に忘れない能力……結構色んな分野で役に立ちそうな能力だ。

「うちにそういう能力があること前提で話進めてくな?物心ついて一か月も経たんうちに、育ててくれたジャンク屋のじいさんが病気でぽっくり逝ってしまってな?そんでついにうちは五歳にして天涯孤独の身になってもうたんや」
「明るく言ってるけどそれ結構ヤバい状況だよね?」

 終始スチカが明るく話すもんだから全然悲壮感が伝わってこない。
 本人にとってはもう過去の話だからだろうけど、聞いてる俺からするとそういうわけにもいかない。

「まあ当時は目の前真っ暗になったで?んで周りの人たちの協力でどうにかじいさんを弔って、その日の夜泣きながら布団にくるまって寝とった時に不思議な夢を見たんや」
「不思議な夢?」
「なんかごっつい奇麗なねーちゃんが出てきてな?「あなたが望むならここではない別の世界へ連れてってあげましょう」っていうねん?」

 なんかタイミング的にも見計らった感じで気味が悪いな……よりにもよって育ての親を失って一番心が弱ってるときにそんなこと言いながら夢に出てくるとか、こうして客観的に聞いていると胡散臭いことこの上ない。

「どの道こんな世界で一人で生きていける自信なんてなかったからな、二つ返事でOKしたわ」
「怖いもの知らずだな」
「せやろ?そんで次の日目が覚めたら見覚えのない森の中におるねん!目玉飛び出るかってくらいビックリしたわ!」

 俺の時も森だったな。
 なんだろう……異世界人は転生したら森の中に出ないといけない決まりでもあるのか?

「そんで丸一日森の中で彷徨っとったんやけど、結局体力の限界が来て倒れてもうたんやけど……次に目が覚めたときは病院のベッドの上やったな」
「誰かが見つけてくれたんだな」
「そういうことやな。んで、それから一週間くらいは病院で過ごしとったんやけど、ある日突然「お前さんは今日から儂が引き取ることにした」とか言われて車に乗せられて連れてかれたんや」
「それが、うちのじーちゃんだったと?」
「結局森……つーか山の中でうちのこと見つけてくれたのも葉山のじいさんやったんや」

 まあ、あのじいちゃんなら山で行き倒れてたスチカを見捨てることなんてしないだろうな……俺の同じくらいお人よしだし。

「今にして思えばほんまにええ人やったな……その二年後には学校にも行かせてくれたし」
「じいちゃんらしいな……」
「でもそこからが大変やったな。病院にいるときはあまり人と会話しなかったから良かったけど、じいさんちに引き取られてからはそうもいかんかった」

 そういえば言葉がわからなくて苦労したって言ってたもんな。

「とりあえず日中はじいさんの畑仕事の手伝いをして、それが終わったら日本語を覚えるために勉強させられたな。まあうちの覚えたことは絶対に忘れない能力のおかげで普通よりはずっと早く覚えられたけど」

 なんだか遠い目をしつつ、懐かしい日を思い浮かべるようにスチカが空を見あげる。

「そういや葉山のじいさん元気か?」
「去年ちょっと大きな病気やっちゃったせいで大分弱くなったけど、まだ元気だよ」
「そっか!もしもう一度会えるならちゃんとお礼言っときたいわ」

 しかし中々にスリリングな人生を送ってるなスチカは。
 なのに普段の様子からはそんな雰囲気を微塵も感じさせないのだから、正直頭が下がる思いだ。

「そんでその年の夏かな……シュウと初めて会ったのは」
「ようやく俺のお出ましか?」
「前々からじいさんからシュウのことは聞いとったから存在は知ってたけど、会うのは初めてだったからな……あの時は緊張したわ」

 スチカが五歳の時に日本に飛ばされてそこで五年過ごした後に元の世界に戻されてさらにそこから五年って話だから、今スチカの年齢は一五歳か。
 ということは俺のその時の年齢は七歳だな。

「そん時の俺どうだった?」
「本人の前で言うのもなんやけど、めっちゃやな奴やったな!全然優しくないしうちに悪戯ばかりしよるし!いてこましたろうかと思ったわ!」

 あら怖い。
 まあその頃の俺はクソガキだった自覚があるしな。

「しかもそんな奴が一週間もおるって言うんやで?正直たまらんかったわ!」
「なんかごめんなさい」

 相変わらず全然思い出せないわけだが。

「まあシュウとの思い出を逐一話してたらこの話終わらんからそこは飛ばしていくな?」
「え?そこが一番重要だと思うんだけど?」
「そこはほら?シュウ自身が思い出してくれんとな」

 まあごもっともだ。
 そこを事細かく話してたら夜が明けてもこの話終わんないだろうし。

「えっと……まあそんな感じで過ごしていくうちに二年くらいたったある日だったか、たまたま見ていたTV番組で機械の製造工程を紹介する奴をやっとってな?そこで興味を持って町の図書館とかで機械関連の本を読み漁る日々が始まったんや」

 聞けば元々の絶対記憶能力と手先の器用さがうまいこと合致して、七歳にして簡単な構造の機械なら作ることが出来たという。
 そこから機械作りにのめり込むようになり、スチカの部屋がお手製の機械で一杯になった頃、見かねたじいちゃんが倉庫になっていた物置を一つ開けてくれて、そこをスチカ専用の作業場にしてくれたらしい。
 自分専用の作業場を手に入れたスチカはさらに機械いじりに没頭していき、それに気をよくしたじいちゃんも通販や知人の伝手で難しい機械工学の本などを取り寄せるなどしてスチカに与えていったそうだ。

「気が付いたら今のうちが出来上がとったな」
「じいちゃん思いっきり戦犯じゃねーか!」

 多分面白がって後先考えずにあれこれスチカに与えたんだろうな。
 おかげでこの世界の一部だけ機械文明レベルが上がってしまったじゃないか……いやまあそれはそれでいいことなんだろうけども。

「そんな感じで機械いじりしながら楽しくやっとるうちに、うちも十歳になってな?じいさんや町の親しい人たちを呼んで誕生会開いてもらったんや……楽しかったなぁ、あの誕生会は。まあそれがうちの日本での最後の記憶になるんやけどな」
「え?じゃあ十歳の誕生日の日に……?」
「そや、寝て起きて気が付いたらこの世界のアーデンハイツのはずれにある森の中で目を覚ました」

 だからなんで森の中なんだよ!
 もう少し別のパターンがあってもいいだろうに。

「酷い話やろ?戻すなら戻すで一言くらいあってもええやんな?」

 このあたりの話ってもしかしたらシエルに聞けば詳しい話を聞けるかもしれないな……まあ今はスチカの話を聞く方が先だけど。

「そんな感じで日本での暮らしはいきなり終わりを告げたんや。せめて一言くらい別れの挨拶くらいしたかったなぁ……」
「あのさスチカ、もしかしたらなんだけど……俺がスチカのこと忘れてるのと同じように、多分じいちゃんたちもスチカのこと忘れてるんじゃないかな?」
「……やっぱりそう思うか?」
「スチカがいなくなった後も俺はじいちゃんの田舎に行ったけど、スチカのことを話す人なんて誰もいなかったからな……」

 それこそじいちゃんですらスチカの話なんてしなかった。
 スチカの様子だと、俺とはそれなりに仲良かったらしいし、それならじいちゃんから何か一言くらいあってもよさそうなのに、まったくそのことに触れなかったからな。
 それこそスチカなんて初めからいなかったかのようだった。

「あーやっぱりそうかー……シュウがうちのこと覚えてないから多分そうなんじゃないかと思っとたんやけど……なんかショックやわぁ……」

 そう言ってスチカががっくりとうなだれる。
 五年も共に過ごした人たちが自分のことを忘れたなんて知ったら、多分俺だってこうなると思う。

「一応聞くけど……その後どうなったんだ?」
「生憎知識だけはちゃんと残っとったからな?まずは十歳でも働かせてくれるところに上手いこと転がりこんでお金稼いで、そのお金で機械の材料になりそうなもんを必死でかき集めて……最初は目覚まし時計をいくつか作ってそれをバザーで売りに出して資金稼ぎしてたな」
「十歳なのに凄いな……」

 その頃の俺なんて親のすねかじりながら生きてたからなぁ……本当に頭が下がる思いだ。

「他にもいろんなもん作ってバザーに流してたら、そのうちアーデンハイツの技術者の目に留まってな?そこからはまあまあ順調やったな」

 その後は十二歳の頃にアーデンハイツの技術者にその技術を買われて、その知識と手腕を振るっていき二年後には若くして機械技術の権威になったそうだ。
 そりゃそうだ……この世界にはない未知の技術をスチカは持っているわけだしな。

「そんな感じで自分の好きなように機械いじりできる環境を手に入れて、いろんなもん作ってたらアーデンハイツの王様の目に留まって、気が付いたら国のお抱え技術者になっとったわ」
「絵に描いたような成り上がり人生だな」
「まったくやな」

 二人して薄く笑いあう。

「その頃やな、ティア……王女様と出会ったのは」
「あの子随分とスチカのこと信頼してるみたいだな?」
「まあな?嫌われてはおらんな」

 あの如何にも我儘で誰の指示も受けない王女様も、スチカの言うことには渋々従うくらいだからな。

「色々と面倒くさいところもあるけど、あれはあれでちゃんとええ子なんやで?」
「スチカがそういうならそうなんだろうな」
「ただな……うちじゃあの子の目線で物事を見てやれん……本当の意味であの子のことを理解してやることはできん」

 そう言ったスチカが少し複雑な表情で顔を伏せる。
 あの子にはあの子なりの事情があるのが、そのスチカの様子から伺える。

「変な話やけど、ティアとあのフリル?ってのが騒いでるの見て、すこーし期待しとるんや」
「期待……ね」

 スチカがフリルに何を期待しているのかは、おおよそ察することができる。
 ただ肝心のフリルがなぁ……まあここは俺たちでなんとかするしかないな。

「シュウもなんや苦労しとるんやな?」
「まったくだよ……ここまで来るのに死ぬ思いも実際にしたしな」
「おっええな!今度はシュウの話聞かせてもらおうか?うちだけ話させて自分はだんまりってことはないやろ?」

 スチカがニカッと笑う。
 その笑顔がなんだかとても懐かしいもののように思えた俺は、思わず吹き出してしまった。

「なんで笑うん!?」
「ごめんごめん!えっと俺の話か……じゃあ俺がこの世界に来る羽目になった事件から順番に語っていくか」

 そうして俺は、今日までのいきさつをスチカに話していく。
 この子とは昔こんな風に仲良く色んなことを話していたんじゃないかって思う。
 スチカの話を聞いて、俺と昔仲良かったというのも嘘じゃないってわかったしな。
 だからこそ俺はスチカのことを思い出してあげたい。
 そうしてすべてを思い出した上で、もう一度スチカと昔話に花を咲かせたいと、スチカの笑顔を見ながら思うのだった。
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