無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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朝食~ひとりでできるもん!~

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 結局あれから日が昇るんじゃないかってくらいの時間までスチカと話し込んだ後、俺たちはようやく眠りについた。
 三時間ほど寝た後、眠い目をこすりながらリビングに行くとシエルが正座させられていて、それを怒りの形相で見降ろし睨みつけるスチカがいた。
 なに?シエルの奴なにかやらかしたのか?

「おはよー……早速で悪いけど何事?」
「あっお兄ちゃん!なんかスチカお姉ちゃんがシエルお姉ちゃんを見るなりいきなり怒り出して……」
「……スッチー怒り有頂天?」

 スッチー……!?
 いやいやそれよりも、スチカがいきなり怒り出した?
 そんな理不尽な怒りを撒き散らすような子じゃないことは……。

「あっやべ」
「その様子、何か心当たりがありますね?」

 いつの間にか隣に立っていたエナにジト目で見られる。
 心当たりどころか、この状況はある意味俺のせいでもある。

「昨日スチカに、俺がこの世界に来る経緯を話した……」
「あー……それは……」

 俺は覚えてないものの、スチカは昔の俺と随分仲が良かったみたいだし、その俺を誤って死なせたシエルに対して何とも思わないはずがないんだよな……完全に迂闊だった。

「お前ほんとなにしてくれとんねん?」
「えっと……ですからさっきも言いましたけど、だからこそこうして責任を取って宗一さんをこの世界に……」
「言い訳すんなや」
「うぅ……」

 可哀そうに……スチカの威圧感に圧倒されてシエルの奴半泣きになってる。
 俺自身はものそのことについては許したというか、そもそもあんまり気にしてないというか……。
 ていうかこの状況は俺のせいなんだから、俺が責任もって止めるべきだよな?

「おーっす!おはよう二人とも!」

 努めて明るい声で挨拶しながら、二人の間に割って入る。
 突如現れた俺を見て、シエルの顔が救いの女神を目にしたかのように輝きだす。

「宗一さ~ん!!」
「おお~よしよし、怖かったなー?」
「悪いけど、どいてくれんかシュウ?そいつにシュウを死なせた落とし前つけさせんといかん」

 スチカの怒りの籠った声に、思わずたじろぐ。 
 そうなんだよ、スチカは昔から激怒するときは静かに怒るから余計に怖いんだよ……。
 怒ったスチカを宥めるのは結構骨が折れるな。多分怒りで俺を「死なせた」という部分だけしか見えてない可能性があるから、こういう時は……。

「スチカ、落ち着いて考えてくれ?たしかに俺はシエルのせいでこの世界に転生する羽目になった?そこは変えようのない事実だ」
「そうやろ?だからそいつに落とし前を……」
「でもこういう考え方もあるぞ?シエルがこの世界に転生させてくれたから、俺たちは再びこうして再会することが出来たんだ」
「そっ……それはそうやけど……」

 この際俺がスチカのことを覚えてないという事実については、気にしない方向で。
 今そこに触れると話がややこしくなるからな?

「たしかにうちも、もう二度とシュウには会えんもんやって思っとったし……そういう意味では感謝する部分もあるかもやけど……でも!」
「それにシエルだって責任を感じてるから今まで俺のことを助けてくれたし、こうして給仕係に落ちぶれるのを覚悟で、この世界の神様と取引して俺たちが窮地を脱するきっかけを作ってくれたりしてくれたんだよ。たしかにシエルが俺のことを誤って死なせたことについて思うところがないかって言うと嘘になるけど、でも俺はそれ以上にシエルには感謝してるんだ」

 スチカに反論の隙を与えないため、一気にまくしたてる。
 怒りの沸点の低いスチカであるが、実は冷めるのも早かったりする。

「……シュウはそれでええんか?」
「もう一度言うけど、俺はシエルに感謝してるからな」
「はー……シュウは昔からお人好しやな……あんたがそう言うならうちから言えることはもうなにもないわ」

 どうやら俺の狙い通り、スチカの怒りの熱は徐々に冷めてきたようだ。
 まるで毒気を抜かれたようにスチカがため息を吐いて、土下座してるシエルの元に歩みよる。

「悪かったな、少し頭に血が上ってもうた……言われてみればシュウと再会できたのはあんたのおかげやしな」
「とっとっとんでもないです!むしろ許してくれてありがとうございます!!」

 スチカが手を差し伸べ、それを掴んだシエルが立ち上がりお互いに頭を下げた。
 多分これで大丈夫だと思う。
 しかしスチカは昔から……あれ?昔から……なんだっけ?
 さっきまですらすらと思い出せてたはずなんだけど……あれ?

「それでは喧嘩はそれまでにして朝ごはんにいたしましょうか」

 レリスが手をぱんぱんと叩きながら宣言したのを皮切りに、当人たちを含め事の成り行きをハラハラしながら見守っていた全員がテーブルに着いていく。
 さすがレリスだ、この短い間にみんなをコントロールする術をばっちり身に着けている。

「あれ?」

 俺も席に着こうとしたところで、一人足りないことに気が付いた。

「そういえばあの王女様は?」

 俺のその言葉に反応するかのように、みんなの視線が一気にスチカに集まった。

「あー……怒りで我を忘れてて、ティアのこと起こすの忘れてたわ」

 どんだけ怒ってたんだよ……まあ仕方ないかもしれないけど。
 起こしに行くべく俺は席を立つが、それと同時にスチカも席を立った。

「ティアの奴起こしにいくんやろ?うちも着いてくわ」
「そうか?そんじゃ行こうか」

 そんなわけで俺はスチカを伴い、二人が一時的に寝泊りしている部屋へと赴く。
 部屋の扉の前に来ると、スチカにここで待てと言わんばかりに視線で促される。

「俺が入ったらまずいの?」
「シュウがっていうより、慣れてない赤の他人がいるのがちとまずい」

 そう言ってスチカが「ティアー開けるぞー!」と言いながら豪快に扉を開けて部屋へと入っていく。
 俺は扉の影に隠れながら中の様子を伺う。

「なんじゃ……わらわはまだ眠いのじゃ……寝かせてくれ……」
「ダメや!自分の我儘でこの家に厄介になるんやろ?郷に入れば郷に従えや!しっかり起きてみんなと一緒に朝食食べる!はよ起き!」
「……この家……?」

 そう言って上半身だけ起こした王女様がキョロキョロと周りを見回す。
 ひとしきり見回した後、なぜか顔の血の気が引いていく。

「どっどっどこじゃここは!?わらわはなんでこんなところにおるんじゃ!?」
「落ち着いてよーく思い出してみい?」
「えっ……えっと……わらわは……」

 とその時、王女様と目が合ってしまった。

「だっ誰じゃ貴様は!!スチカ!!あの不審者を今すぐひっ捕らえるのじゃ!!」

 俺を見るなりベッドの上に立ち上がり勢いよく俺を指さしながら王女様が叫んだ。
 スチカが慣れてない他人がいるのがまずいと言った意味がよく分かった。
 この子寝たら前日に起こったことを一時的に忘れちゃう子なんだな……。

「いいから……落ち着け!!」

 そう言ってスチカが王女様の頭に拳骨を落とした。
 ゴンっという音がこちらまで聞こえてくる……アレは痛そうだ。
 案の定王女様は頭を押さえながら涙目でプルプルし始めた。

「にゃっにゃにおする!!」
「あいつは葉山宗一、昨日寝る前に説明したやろ?この家の主で、ティアがわがまま言うたから仕方なしにうちらを三日間ここに泊めてくれる心のひろーい男や?」
「そっ……そうじゃった……ちと寝ぼけていたようじゃ……」

 落ち着きを取り戻した王女様を確認し、スチカがこちらを向き手招きした。
 どうやらもう入ってもいいらしい。

「スチカ、いくらなんでも一国の王女様の頭に拳骨するとか……」
「おっちゃんからは、わがまま言ったりしたら容赦なくいけって言われとるからな、これでええんや」

 王様も結構大概だった。

「お主、シューイチと言ったな?お主に言っておくことがあるのじゃ!」
「え?何?」
「わらわのことを王女様と呼ぶでない!スチカと同じくティアと呼ぶのじゃ!!」

 俺のビシッと指さし、大声でそう言ってきた。
 つーか起き抜けでよくこんなにテンション上げられるなぁ……。
 どうしたもんかと思い、スチカの顔を見合わせると目を伏せながら静かに頷いた。
 どうやら愛称で呼んでもOKらしい。

「そんじゃ……ティア王女?」
「王女はいらぬ!」
「えっと……ティア?」
「それでよい」

 満足したのか、ティアが腕を組みながらウンウンと頷く。
 俺自身、一国の王女様を愛称かつ呼び捨てしてしまってる事実が恐れ多いというのに……。

「そっそれじゃあティア、朝飯が出来てるからみんなと一緒に食べようか?」
「なにを言う?高貴なるわらわが庶民と一緒になどと」
「いいから行くで?みんな待っとるんやから?」
「ああこらスチカ!引っ張る出ない!自分で歩けるのじゃ!!」

 スチカが王女……ティアを引きずりながら俺をスルーして部屋を出ていった。
 ……なんだか朝からどっと疲れた……こんなことは今日だけで勘弁願いたい。
 そんなことを思いながら俺はトボトボと二人の後を追いかけるように部屋を出るのだった。



 ひと悶着あったものの、ようやく全員がそろったのでいただきますをして朝食を食べ始める。
 程よい焦げ目の付いたトーストにバターを塗ってかぶりつく。
 うんうん、やっぱり朝と言えばパンだよな!
 口の中でパンを十分に味わった後、コーヒーで一気に流し込む。
 うむ、美味い。

「シューイチ様は本当に美味しそうに食べますわね」
「だって美味しいからね!」
「お褒めにお預かり光栄ですわ」

 料理についてはまだシエルが不慣れなため、レリス主導で作られている。
 レリス曰くシエルもこの短い間に随分と料理の腕が上達しているらしく、そう遠くない日にシエル主導で料理が出来る日も来るだろうとのこと。
 美味しい物が食べられるなら望むところである。
 早々にトーストを一枚平らげて、バケットに盛られたトーストの山に手を伸ばしたところでふと気が付く。

「どうしたんだティア?食べないのか?」 

 朝食の盛られた皿をじっと見つめたまま、ティアは石のように固まっていた。
 その様子を見たスチカがため息を吐いてティアの肩に手を置いて口を開いた。

「ティア、ここでは待っていても誰もお前さんに食べさせてはくれんで?」
「なっなに!?そんなバカな!!」

 いやこっちがそんなバカなだよ!
 もしかして食べさせてもらうのをずっと待っていたのか?

「ではどうやってわらわは朝食を食べればよいのじゃ!?」
「みんながやってるみたいに、自分で食べるんや」

 この子、お城でどういう生活を送っていたんだろうか?
 朝は起きてこなかったし、ご飯も一人で食べられないみたいだし……もしかして一人じゃ何もできないんじゃないのか?
 そのやり取りを見て、ティアの隣に座っていたテレアが見かねた様子でティアに話しかける。

「えっと、おう……ティアちゃん?テレアで良かったらご飯の食べ方教えてあげようか?」
「なっ!?見くびるでない!朝食などわらわ一人で食べられるわ!!」

 そう言ってティアがおっかなびっくりにトーストに手を伸ばすものの、まだほんのり熱を持っていたトーストに驚いて手を引っ込めた。
 ひょっとして焼き立てのパンが熱いことすら知らないのか……?
 昨日はマカロンを手掴みでバクバク食べていたのに……まあアレは見るからにお菓子って感じだったし、あんまり抵抗はなかったのかもな。
 もしくはちゃんとした食事とお菓子は別物と考えてる可能性もある。

「えっと……こうすれば食べやすいから……」

 テレアがティアのお皿に乗っていたトーストを手に取り、食べやすいサイズにちぎってあげた。

「ふむふむ……」
「そしたらこのバターをつけるの」
「うわっ!なんかネチャっとしとる!ネチャっと!!」

 ちぎったトーストをバターにつけようとした際、誤って指がバターに触れてしまいまたもティアが手を引っ込める。

「大丈夫だよ、バターはそういうものだから」
「うっ……うむ!」

 そうして悪戦苦闘しつつも、ようやくバターをつけたトーストを恐る恐るティアが口に運んでいく。

「うっ美味いのじゃ!!こんなに美味しいパンは初めてなのじゃ!!」
「もう一人で食べられるかな?」
「大丈夫なのじゃ!……えっと其方は?」
「えっと……テレア=シルクスだよ」
「うむ!テレアよ!恩に着るのじゃ!」

 トースト一つ食べるだけでこれとは……この先が思いやられる朝のひと時だった。
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