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広場~二人の歌姫?~
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甘味食べ歩きツアーはその後も俺の財布にスリップダメージを与えつつ進んでいき、休憩を挟もうと言うことで割とお馴染みになった噴水広場にやってきた。
この噴水広場に来るといつぞやのレリスとのことを思い出してなんだか落ち着かない。
ふとレリスと見るとばったりと視線が合ってしまう。
そんな俺に対して、レリスが可愛くウインクをしてきた。なんだよ可愛いじゃないか。
思わず赤くなりそうな顔を左右に勢いよくぶんぶんと振ることでやり過ごす。
そんな俺をテレアが不思議そうな顔で見ていたが、お兄ちゃんはそんなことを気にしてる場合じゃないのだ。
相変わらずこの噴水広場はこの街に住む人たちの憩いの場となっており、沢山の人が思い思いにこの広場でくつろいでいる。
用意のいいことで、レリスが魔道式収納ボックスに大きめのシートを入れて持ってきていたので、丁度木陰になる芝生にシートを敷いて全員で一息つくことにした。
「いや~甘い物を食べると幸せな気分になれますね~」
「とはいえ、エナさんさすがに食べすぎだと思いますわよ?ある程度は自重いたしませんと……」
「あっ甘い物を食べてるときはそういうことは考えないようにしてるんです!だっていちいちそこを気にしてたら食べられないじゃないですか!」
「まあ言いたいことはわかるけど、後で体重計の前で泣きをみるんは自分やで?なあシュウ?」
やめて!そういうデリケートな話題を俺に振ってこないで!
エナはことさら体重を気にしてるし、下手なこと言うとしばらく口きいてもらえなくなるんだから!
「ていうかね……そろそろみんな自分のお金で食べてほしいんですけど……」
エナの「余計なことを言わないでくださいね?」という冷たい視線から逃げるように、俺は現状に対して異議申し立てをした。
このままのペースで食べ歩きツアーが続くと、僕おけらになっちゃう。つーかもうなってる。
「ごめんねお兄ちゃん、テレアつい調子に乗っちゃって……後でちゃんとお金渡すね?」
「何言ってんの!テレアからお金取るとかどんな鬼畜の所業だよ!!」
「じゃあ私たちからも取りませんよね?」
「鬼畜の所業らしいからな?」
「くっそがあぁぁーーーー!!」
叫びながらシート越しに地面をバンバンと叩く。
俺が何か行動を起こすたびに、俺が不利になっていく!!まったくもって酷い世の中だ!!
「皆様ももうその辺で……シューイチ様、この後はちゃんと自分たちの財布からお金を払いますからご安心くださいな」
「それならいいんだけどさ……」
厳密に言うと皆のおやつとなった俺のお金はもう帰ってこないので、あまりよくないんだけどもうこの際気にしないことにする。
ていうか君たちはまだ食べる気満々なのね?
俺なんてしばらく甘い物見たくないと思ってちゃってるよ?
「いやはや!愉快じゃのう!こんなに沢山のおやつを食べたのは初めてじゃ!」
ある意味今回の主役であるティアが、もう何個目かもわからなくなったお菓子を食べ終え、楽しそうに言った。
まあ楽しんでくれているなら、消えていった俺のお金たちも浮かばれるというものだな。
しかしこの小さな体のどこにあれだけのお菓子が入るんだろうか?
もう胃に入った瞬間に瞬間的に消化されてるとしか思えない。
「この後はどうするのじゃ?わらわはまだまだ甘味を味わいたいぞ!」
「気持ちはわかるけど、もう少しみんなで休憩してからやな」
「ぬう……しかし、わらわは疲れてはおらぬ!だから休憩は終わりにして早く行くのじゃ!」
まさに花より団子精神だ。
このくらいの子供ってまさしく無限の体力があるから疲れを知らないんだよな。
「みんながみんなティアみたいに動けるわけやないんやで?今は団体行動をしとるんやから、我慢してみんなに合わせんとあかん」
「嫌じゃ嫌じゃ!!わらわは今すぐに行きたいんじゃ!!」
自分の思い通りにならないからか、イライラした気持ちを全く隠そうともせずティアが喚き散らす。
ティアがでかい声で叫ぶもんだから、周りの人の注目を集めてしまっている……これはちょっとまずいな。
「……思い通りにならないからって暴れるなんて、やはり子供そのもの」
騒ぎ立てるティアを前にして、みんながどうしたものかと思っている中、今まで事の成り行きを静観していたフリルがぼそっと呟いた。
そのフリルの呟きを聞いたティアの動きがぴたりと止まり、勢いよくフリルへ振り向いた。
「なんじゃと!?よりもよってまたわらわを子供扱いするか!?」
「……そういうところが子供」
フリルがどんどん火に油を注いでいく。
その油を燃料にして燃え上がるのはもちろんティアだ。
「やはり我慢ならぬ!危うく甘味を食べることがこの国に残った目的に成り代わるところじゃったが、わらわはそもそもお主をぎゃふんと言わせるために……」
「……ぎゃふん」
「お主、バカにしておるのかーー!!」
まずいぞ、もう喧嘩になってしまう一歩手前だ。
みんなも二人を止めようとしているものの、タイミングを計りかねているように見えるし、頼みのスチカもなんだか真面目な顔して二人の成り行きを見ているだけだし……俺が止めるしかないな。
「……」
そう思って立ち上がった瞬間、俺たちの前に見知らぬ少女が立っていて、言い争いに発展しそうな二人を……というよりもフリルをじっと見ていた。
「……なに?」
これだけじっと見られれば、さすがのフリルも無視するわけにもいかず少女に声を掛ける。
フリルに声を掛けられたその少女が、なにやらモジモジし始める。
五秒ほどそうしていただろうか、ようやく口を開いた。
「おねえちゃん、このまえここでお歌うたってたおねえちゃんだよね?」
この前ここで歌った……?
もしかして店頭販売で魔法のオルゴールを買った時の話か!?
ということはこの少女はあの時フリルが歌うのを聴いてたのか!
「あのね、わたしね?ここにこればまたおねえちゃんのお歌がきけるかもっておもって、毎日かよってたの!」
「……ありがとう」
どうやらあの時のフリルの歌を聴いてファンになってくれたようだ。
危うく喧嘩になりそうだった二人も、この少女を前にしてクールダウンしていく。
「歌……?女子よフリルは歌を歌うのかえ?」
「そうだよ!おねえちゃんのお歌はすごいんだよ?きいたみんなが夢中になっちゃうの!」
「ほうほう……それはそれは……」
少女によるたどたどしい説明を受けたティアが、何やら名案を思い付いた顔をしながら不敵に笑ったと思ったら、フリルに振り返って口を開く。
「フリルよ?ここはひとつ歌で決着を着けようではないか?」
「……断る」
「決断が早すぎるのじゃ!もう少しくらい考えるのじゃ!!お互いこのままでは収まりがつかぬであろう?何を隠そう、わらわは歌には自信があるのじゃ!お主よりも聴いた者を魅了できる自信がある!」
その言葉を聞いたフリルが少しムッとした表情になった。
どうやらフリルのプライドを刺激して自分の土俵に引きずり込む作戦のようだが、フリルに対して歌で勝負を挑もうなんて無謀もいいところである。
……でももしかしたらということもあるし、ちょっと保護者に確認してみるか?
「ああ言ってるけど、ティアは歌うまいの?」
「まあ若干身内びいき入るけど、中々のもんやで?」
そう言ってスチカがちょっとだけ得意気な顔になった。
「なるほどねぇ……でもフリルには勝てないと思うなぁ」
「あの子そんなに凄いんか?」
「スチカは聞いたことない?ルーデンス旅芸人一座の新緑の歌姫って?」
「ああ、知っとる知っとる!うちも去年だったか一座の公演を見て……新緑の歌姫!?」
スチカが目を見開いてティアと睨みあうフリルを凝視する。
「……言われてみるとたしかにあの子、新緑の歌姫やん……全然気が付かなかったわ」
まあ初見でフリルを新緑の歌姫だと見抜ける人なんて今まで見たことないけどね。
「なるほどなぁ……こいつは面白うなってきたな!」
「このまま歌で勝負させたら、ティアの鼻っ面をへし折ることになるけどいいのか?」
俺の言葉を受けて、スチカが目を閉じ額に手を当ててうーんと小さく唸る。
「……まあええんちゃう?上には上がいることを知るええ機会やろ?好きなだけやらせたらええわ」
「そういうことなら……後は俺に任せとけ」
スチカとの話を終えて、立ち上がった俺は二人の元へ歩いて行き、パンッと手を叩いた。
その音にびっくりして、フリルとティアが俺を見上げる。
「面白そうじゃないか?丁度今日は人も大勢いるみたいだし盛り上がるかもな」
「そうじゃそうじゃ!さすがシューイチじゃな!よくわかっておる!」
俺がティアの提案に乗ったと思ったのか、フリルが面白くなさそうな顔で俺を見る。
まあちょいと待ちなよお嬢さん?
「フリル、別に勝負だなんて思わずに、この国で初めてお前さんのファンになってくれたこの子の為に歌ってあげるとかじゃダメか?」
俺のその提案を受けて、フリルがその少女と俺を交互に見る。
相変わらずその少女は、フリルのことをキラキラした瞳で見つめていた。
その姿に、フリルは諦めたようにため息をつく。
「……それならいい」
「じゃあ決まりだな!良かったな?お姉ちゃんが今から歌ってくれるってさ?」
「ほんとうに?ありがとうおねえちゃん!」
まるで花が咲いたような笑顔を見せるその少女に、場の空気が和やかな物になっていく。
「歌うのはいいにしても曲はどうしようか?オルゴールがあればあれでもいいと思うんだけど」
「……あのオルゴールは私の歌が入ってるから」
そういやそうだったな……それならアカペラで歌うしかないんだけど。
「曲ならあるのじゃ!スチカ!」
「はいはい」
のそりと立ち上がったスチカがポケットから長方形の何かを取り出してこちらへ歩いてきた。
妙に見覚えのあるそれは、ウォークマンだった。
「お前……そんなものまで作ってたのか……?」
「ええやろ?まだ試作品やから世に出回っとらんけど、もう少しで実用に耐えられる完成度になるはずやから楽しみ待っとってな?」
それなら携帯もどきの通信機にゲームアプリ入れてくれ……ってそれは今はどうでもいいんだよ。
「ティアの得意な曲でええか?」
「勿論なのじゃ!ではわらわから先に歌うのじゃ!女子よ、わらわの歌を聴くのじゃ!」
「ピンクのおねえちゃんも歌うの?」
「当然なのじゃ!お主は運がいいぞ?わらわの高貴な歌を聴けるのじゃからな?」
少女がなんかよくわからないといった表情で小さく頷いた。
どうでもいいけど、ピンクのお姉ちゃんって響きはなんかいやらしいな?
「なんだかよくわかりませんが、要するに私たちはまたフリルちゃんの歌が聞けるんですね?」
「楽しみですわ!まだわたくし戦い以外でフリルちゃんの歌を生で聞いたことがありませんもの!」
「テレアもリンデフランデの公演の時以来だから楽しみだよ!」
「ええいお主ら!少しはわらわの歌も楽しみにするのじゃ!!」
言いながらエナたちを指さしつつ地団駄を踏むティアを見てると、もうこの時点で勝負がついてるんじゃないかと思えて仕方がない。
そんな俺たちの様子に気が付いたのか、周りの人たちもなんだなんだと集まってきている。
いい感じに観客が集まってきたのでそろそろ始めようと思い、スチカに目配せする。
「それじゃあティア、準備はええか?」
「うむ!いつでもいいのじゃ!」
スチカが手元のウォークマンを操作すると、曲のイントロが流れ始めた。
突然音楽が流れ始めて、集まった観客たちの間にどよめきが走る。
かくしてフリルとティアの歌勝負が始まったのだった。
この噴水広場に来るといつぞやのレリスとのことを思い出してなんだか落ち着かない。
ふとレリスと見るとばったりと視線が合ってしまう。
そんな俺に対して、レリスが可愛くウインクをしてきた。なんだよ可愛いじゃないか。
思わず赤くなりそうな顔を左右に勢いよくぶんぶんと振ることでやり過ごす。
そんな俺をテレアが不思議そうな顔で見ていたが、お兄ちゃんはそんなことを気にしてる場合じゃないのだ。
相変わらずこの噴水広場はこの街に住む人たちの憩いの場となっており、沢山の人が思い思いにこの広場でくつろいでいる。
用意のいいことで、レリスが魔道式収納ボックスに大きめのシートを入れて持ってきていたので、丁度木陰になる芝生にシートを敷いて全員で一息つくことにした。
「いや~甘い物を食べると幸せな気分になれますね~」
「とはいえ、エナさんさすがに食べすぎだと思いますわよ?ある程度は自重いたしませんと……」
「あっ甘い物を食べてるときはそういうことは考えないようにしてるんです!だっていちいちそこを気にしてたら食べられないじゃないですか!」
「まあ言いたいことはわかるけど、後で体重計の前で泣きをみるんは自分やで?なあシュウ?」
やめて!そういうデリケートな話題を俺に振ってこないで!
エナはことさら体重を気にしてるし、下手なこと言うとしばらく口きいてもらえなくなるんだから!
「ていうかね……そろそろみんな自分のお金で食べてほしいんですけど……」
エナの「余計なことを言わないでくださいね?」という冷たい視線から逃げるように、俺は現状に対して異議申し立てをした。
このままのペースで食べ歩きツアーが続くと、僕おけらになっちゃう。つーかもうなってる。
「ごめんねお兄ちゃん、テレアつい調子に乗っちゃって……後でちゃんとお金渡すね?」
「何言ってんの!テレアからお金取るとかどんな鬼畜の所業だよ!!」
「じゃあ私たちからも取りませんよね?」
「鬼畜の所業らしいからな?」
「くっそがあぁぁーーーー!!」
叫びながらシート越しに地面をバンバンと叩く。
俺が何か行動を起こすたびに、俺が不利になっていく!!まったくもって酷い世の中だ!!
「皆様ももうその辺で……シューイチ様、この後はちゃんと自分たちの財布からお金を払いますからご安心くださいな」
「それならいいんだけどさ……」
厳密に言うと皆のおやつとなった俺のお金はもう帰ってこないので、あまりよくないんだけどもうこの際気にしないことにする。
ていうか君たちはまだ食べる気満々なのね?
俺なんてしばらく甘い物見たくないと思ってちゃってるよ?
「いやはや!愉快じゃのう!こんなに沢山のおやつを食べたのは初めてじゃ!」
ある意味今回の主役であるティアが、もう何個目かもわからなくなったお菓子を食べ終え、楽しそうに言った。
まあ楽しんでくれているなら、消えていった俺のお金たちも浮かばれるというものだな。
しかしこの小さな体のどこにあれだけのお菓子が入るんだろうか?
もう胃に入った瞬間に瞬間的に消化されてるとしか思えない。
「この後はどうするのじゃ?わらわはまだまだ甘味を味わいたいぞ!」
「気持ちはわかるけど、もう少しみんなで休憩してからやな」
「ぬう……しかし、わらわは疲れてはおらぬ!だから休憩は終わりにして早く行くのじゃ!」
まさに花より団子精神だ。
このくらいの子供ってまさしく無限の体力があるから疲れを知らないんだよな。
「みんながみんなティアみたいに動けるわけやないんやで?今は団体行動をしとるんやから、我慢してみんなに合わせんとあかん」
「嫌じゃ嫌じゃ!!わらわは今すぐに行きたいんじゃ!!」
自分の思い通りにならないからか、イライラした気持ちを全く隠そうともせずティアが喚き散らす。
ティアがでかい声で叫ぶもんだから、周りの人の注目を集めてしまっている……これはちょっとまずいな。
「……思い通りにならないからって暴れるなんて、やはり子供そのもの」
騒ぎ立てるティアを前にして、みんながどうしたものかと思っている中、今まで事の成り行きを静観していたフリルがぼそっと呟いた。
そのフリルの呟きを聞いたティアの動きがぴたりと止まり、勢いよくフリルへ振り向いた。
「なんじゃと!?よりもよってまたわらわを子供扱いするか!?」
「……そういうところが子供」
フリルがどんどん火に油を注いでいく。
その油を燃料にして燃え上がるのはもちろんティアだ。
「やはり我慢ならぬ!危うく甘味を食べることがこの国に残った目的に成り代わるところじゃったが、わらわはそもそもお主をぎゃふんと言わせるために……」
「……ぎゃふん」
「お主、バカにしておるのかーー!!」
まずいぞ、もう喧嘩になってしまう一歩手前だ。
みんなも二人を止めようとしているものの、タイミングを計りかねているように見えるし、頼みのスチカもなんだか真面目な顔して二人の成り行きを見ているだけだし……俺が止めるしかないな。
「……」
そう思って立ち上がった瞬間、俺たちの前に見知らぬ少女が立っていて、言い争いに発展しそうな二人を……というよりもフリルをじっと見ていた。
「……なに?」
これだけじっと見られれば、さすがのフリルも無視するわけにもいかず少女に声を掛ける。
フリルに声を掛けられたその少女が、なにやらモジモジし始める。
五秒ほどそうしていただろうか、ようやく口を開いた。
「おねえちゃん、このまえここでお歌うたってたおねえちゃんだよね?」
この前ここで歌った……?
もしかして店頭販売で魔法のオルゴールを買った時の話か!?
ということはこの少女はあの時フリルが歌うのを聴いてたのか!
「あのね、わたしね?ここにこればまたおねえちゃんのお歌がきけるかもっておもって、毎日かよってたの!」
「……ありがとう」
どうやらあの時のフリルの歌を聴いてファンになってくれたようだ。
危うく喧嘩になりそうだった二人も、この少女を前にしてクールダウンしていく。
「歌……?女子よフリルは歌を歌うのかえ?」
「そうだよ!おねえちゃんのお歌はすごいんだよ?きいたみんなが夢中になっちゃうの!」
「ほうほう……それはそれは……」
少女によるたどたどしい説明を受けたティアが、何やら名案を思い付いた顔をしながら不敵に笑ったと思ったら、フリルに振り返って口を開く。
「フリルよ?ここはひとつ歌で決着を着けようではないか?」
「……断る」
「決断が早すぎるのじゃ!もう少しくらい考えるのじゃ!!お互いこのままでは収まりがつかぬであろう?何を隠そう、わらわは歌には自信があるのじゃ!お主よりも聴いた者を魅了できる自信がある!」
その言葉を聞いたフリルが少しムッとした表情になった。
どうやらフリルのプライドを刺激して自分の土俵に引きずり込む作戦のようだが、フリルに対して歌で勝負を挑もうなんて無謀もいいところである。
……でももしかしたらということもあるし、ちょっと保護者に確認してみるか?
「ああ言ってるけど、ティアは歌うまいの?」
「まあ若干身内びいき入るけど、中々のもんやで?」
そう言ってスチカがちょっとだけ得意気な顔になった。
「なるほどねぇ……でもフリルには勝てないと思うなぁ」
「あの子そんなに凄いんか?」
「スチカは聞いたことない?ルーデンス旅芸人一座の新緑の歌姫って?」
「ああ、知っとる知っとる!うちも去年だったか一座の公演を見て……新緑の歌姫!?」
スチカが目を見開いてティアと睨みあうフリルを凝視する。
「……言われてみるとたしかにあの子、新緑の歌姫やん……全然気が付かなかったわ」
まあ初見でフリルを新緑の歌姫だと見抜ける人なんて今まで見たことないけどね。
「なるほどなぁ……こいつは面白うなってきたな!」
「このまま歌で勝負させたら、ティアの鼻っ面をへし折ることになるけどいいのか?」
俺の言葉を受けて、スチカが目を閉じ額に手を当ててうーんと小さく唸る。
「……まあええんちゃう?上には上がいることを知るええ機会やろ?好きなだけやらせたらええわ」
「そういうことなら……後は俺に任せとけ」
スチカとの話を終えて、立ち上がった俺は二人の元へ歩いて行き、パンッと手を叩いた。
その音にびっくりして、フリルとティアが俺を見上げる。
「面白そうじゃないか?丁度今日は人も大勢いるみたいだし盛り上がるかもな」
「そうじゃそうじゃ!さすがシューイチじゃな!よくわかっておる!」
俺がティアの提案に乗ったと思ったのか、フリルが面白くなさそうな顔で俺を見る。
まあちょいと待ちなよお嬢さん?
「フリル、別に勝負だなんて思わずに、この国で初めてお前さんのファンになってくれたこの子の為に歌ってあげるとかじゃダメか?」
俺のその提案を受けて、フリルがその少女と俺を交互に見る。
相変わらずその少女は、フリルのことをキラキラした瞳で見つめていた。
その姿に、フリルは諦めたようにため息をつく。
「……それならいい」
「じゃあ決まりだな!良かったな?お姉ちゃんが今から歌ってくれるってさ?」
「ほんとうに?ありがとうおねえちゃん!」
まるで花が咲いたような笑顔を見せるその少女に、場の空気が和やかな物になっていく。
「歌うのはいいにしても曲はどうしようか?オルゴールがあればあれでもいいと思うんだけど」
「……あのオルゴールは私の歌が入ってるから」
そういやそうだったな……それならアカペラで歌うしかないんだけど。
「曲ならあるのじゃ!スチカ!」
「はいはい」
のそりと立ち上がったスチカがポケットから長方形の何かを取り出してこちらへ歩いてきた。
妙に見覚えのあるそれは、ウォークマンだった。
「お前……そんなものまで作ってたのか……?」
「ええやろ?まだ試作品やから世に出回っとらんけど、もう少しで実用に耐えられる完成度になるはずやから楽しみ待っとってな?」
それなら携帯もどきの通信機にゲームアプリ入れてくれ……ってそれは今はどうでもいいんだよ。
「ティアの得意な曲でええか?」
「勿論なのじゃ!ではわらわから先に歌うのじゃ!女子よ、わらわの歌を聴くのじゃ!」
「ピンクのおねえちゃんも歌うの?」
「当然なのじゃ!お主は運がいいぞ?わらわの高貴な歌を聴けるのじゃからな?」
少女がなんかよくわからないといった表情で小さく頷いた。
どうでもいいけど、ピンクのお姉ちゃんって響きはなんかいやらしいな?
「なんだかよくわかりませんが、要するに私たちはまたフリルちゃんの歌が聞けるんですね?」
「楽しみですわ!まだわたくし戦い以外でフリルちゃんの歌を生で聞いたことがありませんもの!」
「テレアもリンデフランデの公演の時以来だから楽しみだよ!」
「ええいお主ら!少しはわらわの歌も楽しみにするのじゃ!!」
言いながらエナたちを指さしつつ地団駄を踏むティアを見てると、もうこの時点で勝負がついてるんじゃないかと思えて仕方がない。
そんな俺たちの様子に気が付いたのか、周りの人たちもなんだなんだと集まってきている。
いい感じに観客が集まってきたのでそろそろ始めようと思い、スチカに目配せする。
「それじゃあティア、準備はええか?」
「うむ!いつでもいいのじゃ!」
スチカが手元のウォークマンを操作すると、曲のイントロが流れ始めた。
突然音楽が流れ始めて、集まった観客たちの間にどよめきが走る。
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