無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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反則~言っていいことと悪いこと~

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 スチカの持つウォークマンから流れてくる曲は、オーケストラ張りの壮大な感じの曲だった。
 それこそオペラとかで流れてそうなやつ。
 フリルの歌ものとはベクトルが全然違うな……ある意味これだと勝負にならないと思うけど、集まった客の反応で勝負を決めるのだから歌のジャンル違いはあまり関係ないか。

「……―――!」

 俺がそんなことを思っていると、ティアの歌が始まった。
 普段のやかましい姿からは想像もできないほど、綺麗で透き通った歌声だ……なるほどスチカが得意気になるのもわかる気がする。
 これなら自信をもって「歌が得意」と口にしても十分に許されるレベルだ。というか単純な歌の技量だけならはっきり言ってフリルよりもずっと上だと思う。
 でもフリルの歌はそういう技術とか技量とかそういうものに囚われない別の何かがある。
 周りの観客たちを見回すと、みんなティアの歌に聞き惚れているようだ。そりゃこんな噴水広場でゲリラ的にオペラ歌手並みの歌が聞こえてきたら誰だって足を止めるだろうな。
 うちの女性陣もフリルの歌を聴きに来たというあの少女も、ティアの歌に聞き惚れているようだ。
 あのフリルですら感心した様子でティアの歌を静かに聞いているほどだ。

「……ふう」

 歌が終わり、ティアが小さく息を吐いた。
 そして上品な所作で観客に向けてお辞儀をしたところで、観客たちから歓声と拍手が沸き起こった。
 この観客たちの反応も納得の結果だ。それくらいティアの歌は凄かった。

「さすがですわね。おう……ティアちゃんは歌が得意であると噂で聞いておりましたがこれほどとは」
「ティアちゃん凄かった!」
「これはさすがのフリルちゃんも危ないかもしれませんね……!」

 うちの女性陣たちも口々にティアの歌声を褒めたたえる。

「どうやシュウ!うちの言った通りなかなかのもんやったやろ?」
「まあね。正直ここまでとは思わなかった」

 そんなことを話している俺たちを尻目に、ティアがフリルに近寄っていき勢いよく指さした。

「どうじゃフリルよ!わらわの力を思い知ったか!今なら素直に降参すれば今までの無礼共々許してやっても良いぞ?」
「……凄い歌だった、そこは素直に評価する」
「そっそうか?」

 まさかそんな素直な感想を言われるとは思っていなかったのか、ティアが少し顔を赤らめながら一歩たじろぐ。

「……でも別に降参はしない」
「まあよい……どうせわらわの勝ちは決まっているようなものじゃが、歌いたいならやるがよいのじゃ!」

 ティアとそんな会話を交わした後、フリルがスチカへ近寄ってきた。

「ん?どうかしたんか?」
「……スッチーのそれ、どんな曲でも入ってるの?」
「スッチー!?いや、さすがにどんな曲もってことはないけど、それなりに曲数はあるで?」

 突然のスッチー呼ばわりに驚愕しつつも、スチカは手にしたウォークマンの画面をフリルに見せた。
 ちなみにこれは後からスチカに聞いた話なんだけど、この世界にも一応音楽を録音できるアイテムは存在しているようだが、二分ほどしか録音できないだけでなくしかも一回音楽を再生させたら壊れてなくなってしまう代物だそうだ。
 それを見かねたスチカが急遽作り出したのがあのウォークマンとのこと。
 俺の買ったあの魔法のオルゴールはかなりのレア物らしく、本来ならかなりの値が張る代物らしいのだが、とうやら売っていた店主には価値がわからなかったから安く買えたのだろうと言われた。
 中々に運が良かったようだ。
 どうやらフリルが知っている曲があったらしく、それを歌うことで話はついたみたいだな。

「こっちの準備はできとるから、合図さえくれればいつでも行けるで?」
「……わかった」

 どうやら話はついたらしく、先程までティアが歌っていた位置へとフリルが歩いて行く。

「あれ?あの子ってもしかして……?」
「この前ここで店頭販売してた時に、凄い歌を歌った子じゃないのか?」

 フリルの姿を見た観客たちの一部から声が上がる。
 どうやらあの少女だけでなく、以前ここでフリルの歌を聴いたことがある人たちがいるようだ。

「みどりのおねえちゃん!がんばってねー!」

 少女の声援にフリルが小さく手を振ることで答える。
 肝心のティアもお手並み拝見とばかりに腕を組みながらフリルの様子を伺っていた。

「……スッチーやっちゃって」
「スッチー……まあええわ、そんじゃ再生するで?」

 何やら複雑な表情をしながらスチカがウォークマンを操作して曲が再生され始めた。
 この曲はたしか俺たちが初めてフリルの歌を聞いた時に、団員たちが後ろで演奏していた奴か?
 曲のイントロが終わり、息を吸い込んだフリルが歌い出した。
 この歌は初めてフリルの歌を聞いた時のことを思いだすな……そしてあの時と同じようにフリルの歌は何物にも邪魔されることなく俺の心に響き渡る。
 たしかに単純な歌の上手さならティアのほうに軍配が上がるだろうが、フリルの歌は聴いている人の心に響く強い想いが込められている。
 それ自体は歌魔法の力も多少は作用しているだろうが、それだけで片づけられない何かがあるのだ。

「やっぱりいいですね、フリルちゃんの歌は……」
「テレアもフリルお姉ちゃんの歌、大好きだよ」
「素敵ですわね……生で聞くフリルちゃんの歌がこれほど感動するものとは……」

 いやはやまったくもってその通りである。
 フリルは歌うのが好きな割にはこういった特別な時でしか歌わないのだ。
 だからフリルの仲間であるはずの俺たちですら、フリルの生歌は滅多なことでは聞くことができないので、みんなのこの反応は納得の物である。
 そして俺たちだけでなく、周りの観客たちもフリルの歌に聞き惚れてうっとりとしてる。
 スチカでさえ感心した様子でフリルの歌を聴いているが、肝心のティアはというとなんだか難しい顔をしている。
 なんというか、歌自体はちゃんと聴いてるんだけど、それ以外の何かに気を取られているような感じだ。

 そうこうしているうちに、歌は終わりフリルが観客に向けて小さくお辞儀をした。
 その瞬間、ティアの時とは比べ物にならないほどの歓声と拍手が沸き起こった。
 ティアの歌も凄かったが、やはりフリルは別格だ……この勝負どちらの勝ちかなんてこの観客の反応を見れば火を見るよりも明らかだな。
 こちらにトコトコと歩いてきたフリルを労うように、俺はフリルの頭に手を乗せる。

「お疲れ様フリル!やっぱりフリルの歌は凄いな!」
「……子供扱いはNG」

 そう言いながら、フリルが俺の手をそっと払いのける。
 その後はやはり以前のオルゴールを買った時と同じように観客たちに取り囲まれたフリルを俺が助けるというハプニングこそあったが、ほどなくして集まった観客たちが思い思いの感想を述べながら散っていった。
 先ほどの少女もフリルと握手を交わした後、大きく手を振りながら大満足な様子で帰っていった。

「凄かった!うちも昔一座の公演でフリルの歌を聴いたことがあったけど、近くで聞くとその凄さがようわかったで!」
「……ありがとう」

 スチカにべた褒めされたフリルが、まんざらでもないと言った表情でお礼を述べた。

「これはさすがに負けを認めんとあかんな?なあティア?」

 だが肝心のティアは先ほどと同じように難しい表情をしたまま、フリルをじっと睨んでいた。
 なんだろう?勝負に負けて悔しいから……って感じではないな?
 俺がそんなことを思っていると、ようやくティアが口を開いた。

「今の勝負は反則じゃ!」
「はあ?何言うてんの?どう考えてもティアの負けやろ?」
「反則と言ったら反則じゃ!フリルは卑怯なことをしたのじゃ!!」

 卑怯?いきなり何を言い出すんだこの子は?

「フリル!お主歌に魔力を込めておったな!?ずるいのじゃ!!」
「……っ!?」

 まさかティアの奴、フリルの歌に込められた魔力に気が付いたのか!?
 以前にエナから聞いたんだけど、フリルの歌に魔力が込められていることに気が付けるのは、よほど魔力の扱いに長けたものでないと無理だと聞いていたんだけど、まさかティアにそれがわかるなんて……。
 だとするとティアも相当の魔力の持ち主ということになる。

「そうなんか?でもそれを反則というのはちと違うんやないか?」
「何を言う!わらわは知っておるぞ、世の中には人を洗脳する魔法の音楽があるのじゃ!それはスチカも知っておろう?」
「洗脳はどうか知らんが、音楽に魔力を込める装置自体は作ったことがあったな」

 それのせいで俺たちは洗脳されかけたり、神獣が復活してしまったのだが、今はそれをスチカに追及する場面ではないな。

「それと同じじゃ!フリルは歌に魔力を込めて聴いたものを洗脳したに違いないのじゃ!!だからこの勝負フリルの反則負けじゃ!!」

 そう捲し立てたティアがフリルに真っすぐに向き直る。

「卑怯なのじゃ!!そこまでしてわらわに勝ちたかったのか!!」
「……違う……」

 狼狽したようにフリルが一歩後ずさる。
 さすがにこれは見ていられない。
 いくら何でも言っていいことと悪いことがある。いくらティアが子供で一国の王女様と言えど、そんなことは関係ない。
 ティアを止めようと俺が一歩踏み出したのと同じタイミングで、フリルが背を向けて走り出し、噴水広場から出て行ってしまう。
 あまりに突然だったため、思わずその場のみんなが呆気に取られて動けなかった。

「フリル!!」
「逃げたのじゃ!!見よ皆の者!わらわの勝ちじゃ!!」

 その後を追いかけようとしたところで後ろからティアの勝ち誇ったような声が聞こえてきて、思わず振り返る。
 さすがに温厚な俺でも今のティアを見過ごすことなんてできない。
 俺はある種の覚悟を決めてティアに向けて一歩踏み出したところで―――

「この馬鹿っ!!!!」

 スチカがティアの頬を思いっきりビンタした。
 バチンといい音が響いて、俺は思わず呆気に取られる。

「なっ……なにをするのじゃ……」
「それはこっちの台詞やボケ!!お前こそなにしとんねん!?自分が何をしたかわからんのか!?」
「なにって……卑怯なフリルを成敗して……」
「卑怯なのはお前や!早くあの子のとこ行って謝って来い!!」
「なぜわらわが謝る必要があるのじゃ!?むしろ謝るのは卑怯な手段でわらわに勝とうとしたフリルではないか!」

 納得が行かないとばかりにティアが抗議するも、それを聞いたスチカの表情がさらに強張っていく。

「あんまりふざけたこと抜かすならもう一発……!」
「ストーップ!スチカちゃん!ストップです!!」
「落ち着いてくださいませ、スチカさん!」

 ティアに向けて手を振り上げたスチカを、エナとレリスが身体を張って必死に止めた。
 そんな二人を振りほどくとスチカが必死に暴れる。

「離さんかい!このアホはもう一発くらい殴らんとわからんのや!」
「わかりました!わかりましたから、少し頭冷やしましょうね?」
「シューイチ様!スチカさんはわたくしとエナさんに任せて、テレアちゃんと一緒にティアちゃんを連れてフリルちゃんを!」
「あっ……ああ、わかった!テレア、一緒に来てくれ!」

 事態について行けずオロオロとしていたテレアだったが、俺の呼びかけに反応して大きく頷いた後、こちらに駆け寄って来た。

「……ティアも一緒に行くぞ」
「嫌じゃ!なぜわらわまで……」
「いいから来い!」

 俺は大声でそう言うと、ティアの手を強引に取ってフリルの後を追うべく走り出した。
 俺たちのすぐ横をテレアがぴったりと着いてくる。

 後ろから聞こえてくるスチカの怒号を置き去りにして、俺とテレアのティアの三人はフリルを追うべく噴水広場を後にした。
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