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青龍~突然の襲撃~
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「やあクルスティア、僕の出番かい?」
「うむ!存分にわらわの役に立つとよいぞ!」
光と共とに現れた小さな青い竜と親しげに話すティアという目の前の光景にテレアと二人で唖然とする。
ていうかちょっと待て!
「ティア、ちょーっといいかな?」
「どうしたのじゃ?」
「それ……神獣だよな?」
「おおっ!?シューイチは神獣のことを知っておるのか!それなら話は早いのじゃ!」
逆に言うとティアは俺たちが神獣と関わりがあるとことを知らなかったんだな……スチカからその辺の話を聞いてるものだとばかり思っていた。
「なんだ?クルスティアは気が付かなかったのかい?僕はとっくの昔に気が付いていたよ?」
「そうなのか?ならなぜ教えてくれなかったのじゃ!?」
「そこは僕にも事情というものがあるのさ」
ていうかこの青龍のナルシストみたいな喋り方どうにならないのかな?
「少なくとも二体の神獣の反応を感じていたよ?多分玄武と朱雀じゃないかな?」
「むう、そうなのか……」
しかしまさかこんなところで神獣をお目にかかることになるとは……ていうかほとんどの神獣の封印が解けてんじゃねーのか?
このパターンだと残りの白虎の封印も解けてるんじゃないだろうな?
「最初に君たちに言っておきたいことがあるんだが……悪いが僕の存在は玄武と朱雀には内緒にしておいてくれないかな?」
「なんで?」
「悪いが今は事情は話せない。君たちがアーデンハイツに来てくれた暁には喜んですべてを話すつもりではいるがね」
「そういうわけにはいかーよ、こっちだって神獣を鎮める役目任せられてるんだからさ」
神獣を鎮めないことにはシエルは何時まで経っても給仕係のままだからな。
いくら最近馴染んできたとはいえ、さすがにあのままなのは可哀そうだ。
「その条件を飲んでくれないのなら、悪いが僕は手伝えない」
「こんにゃろ……」
そう言ってプイっとそっぽ向いた青龍をジト目で睨みつける。
別にわざわざ無理してその条件を飲んで青龍の手を借りなくても、俺たちが自力でフリルを探し出せばいいだけだしな。
折角呼び出してもらっておいてなんだがここはお引き取り願って……。
「ちなみに、なにやら良くない気配が君たちの探しているレディに向かっているから探すなら急いだほうがいいと思うがね」
「なんだと!?」
そういうことは早く言え!つーか良くない気配ってなんだ!?
「どういうことなのじゃ?」
「このエルサイムに来てからずっと邪神の息のかかった者たちに監視されていたみたいだね。今この瞬間を好機として動き出したんじゃないな?」
くそっ、やっぱりろくなことにならなかった!
ていうか邪神の息のかかった者たちって誰だ?……って考えるまでもないか。
「お兄ちゃん、もしかしてカルマ教団がフリルお姉ちゃんを狙ってるんじゃ?」
「邪神の息のかかった連中なんてそいつらしかいないよな……!」
ていうかなんでフリルの方へ行くんだ?狙うならティアの方じゃないのか?
そう思ったところで、ロイがフリルを狙っていた理由を唐突に思い出した。
「フリルの歌魔法狙いか……?」
てっきりリンデフランデの件でフリルのことは諦めたのかと思ったが、そんなことなかったんだな。
ロイの奴は教団の目的とは別のところで動いてるみたいなこと言ってたし、ロイ的にはもう用済みだが教団的にはフリルの存在は必要なのかもしれない。
こりゃちょっとうかうかしてられない、一刻も早くフリルを見つけないと!
「青龍はフリルの居場所がわかるのか?」
「勿論さ?なにせ彼女には玄武が付いているからね?これだけ近い位置にいれば嫌でもわかる」
「さっきの条件を飲むから、フリルの居場所を教えてくれ!」
「嫌だね」
……は?
「僕は男に指図されるのは嫌なんでね?そうだな……そこの青い髪の可憐な少女にお願いされるなら、聞いてあげてもいいかな?」
この緊急時にこの蛇野郎なにをのたまってやがるんだ?
とはいえ今は一刻を争うし……背に腹は代えられないな……。
「テレア……そういうわけなので……」
「えっと……青龍さん?テレアたちをフリルお姉ちゃんのところまで連れて行ってくれないかな?」
「喜んで」
お前何かの拍子に暴走して暴れ出す時があったら覚えておけよ?
「では二人とも、クルスティアの手を取ってくれないかな?転移で飛ぶからさ」
「うむ、わかったのじゃ。二人ともわらわの手を」
青龍の奴転移が使えるのか?まあ玄武も転移でダンジョンの最下層の朱雀のところまで来たくらいだし、このくらいのことは朝飯前なのかもな。
「二人とも、悪いけど頭の中でフリルという名のレディの顔を思い浮かべてくれないかな?なるべく正確にね」
「わかった」
「うっうん……!」
ティアの手を取り、俺とテレアは頭の中でフリルの顔を思い浮かべる。
すると俺たちの身体を光が包み込んでいき、ふわりと浮き上がる。
「いい感じだ……それじゃあ飛ぶよ?」
青龍がそう言った瞬間、目の前の景色が一瞬だけ真っ暗になったか思うと、突然切り替わって見慣れない町並みが映し出された。
空中に出現した俺たちは、青龍の力でゆっくりと地面に着地する。
「どこだここは?」
エルサイムの城下町の中なのは間違いないだろうが、見慣れない景色に少し混乱してしまう。
見た感じは路地裏っぽいな。
「……シューイチ……?」
そこに聞きなれた声が後ろから聞こえてきたので、振り返ると驚いた表情のフリルが立っていた。
どうやら無事にフリルのもとに転移できたみたいだ。
お礼を言おうと思い青龍の姿を探すものの、いつのまにかいなくなっていた。
「フリルお姉ちゃん!よかった無事だったんだね!」
「……テレア?無事って……?」
そう言いかけたフリルが、テレアの後ろに隠れるティアの姿を見つけて硬直する。
「フリル……」
「……何しに来たの?」
フリルが冷たい目でティアを睨みながら突き放すような声で言った。
そう簡単に事が収まるとは思っていなかったが、これはちょっと根が深そうだな……。
「わらわはフリルに……」
「……話すことなんて何もない、スッチーと一緒に早く国に帰って」
明らかな拒絶の言葉を受けて、ティアの顔が青ざめる。
恐らく、ここまではっきりとした拒絶を受けるのは生まれて初めてなのだろう。
「ティア、ここで引き下がっちゃダメだ」
「わっ……わかっておる……」
頭ではわかっているんだろうが、身体がフリルの真っ向からの拒絶を受けたことで委縮してしまっている。
俺が間に入ることは可能だが、ここはティアが自分で何とかしないといけない場面だ。
テレアもそれがわかっているのか、俺の服のすそをぎゅっと握りながらじっと堪えている。
「……フ……フリル!わらわは!」
「はーいそこまで!」
突然空気の読めない声が聞こえてきたので、そちらに勢いよく振り返ると、リンデフランデで散々見た紋章の刻まれた腕章をつけた複数の男たちが立っていた。
「カルマ教団……!」
「お前らどうやって先回りした?俺の計算じゃお前らがここに来る前にそのガキを捕まえられる算段だったのによ」
見た感じ一番屈強な体格の男が一歩前に出て面白くなさそうにそう吐き捨てた。
「悪いけど企業秘密だ」
「そうか……悪いけどお前らの演じる茶番には興味ねえ……俺たちは早々に仕事を済ませなきゃならないんだ。悪いけど死んでもらうぜ」
そう言って屈強な男が深く腰を落とすと共に、後ろにいる男たちも各々の武器を構えだす。
まずいな……多勢に無勢すぎるぞ。こいつらが全部有象無象ならテレアと俺だけで事足りるとは思うけど、さっきから代表して喋っているあのごつい男は見た感じ相当の手練れだ。
そして後ろにいる男たちに交じって、やけに小柄で前髪で目を覆い隠した奴も異彩を放っている。
「……なに?どうなってるの?」
「カルマ教団だよ……フリル、玄武を呼んで結界を張ってもらうんだ。多分俺とテレアだけじゃフリルを守り切れない」
「……わっわかった」
「それから、ティアも一緒に守ってやってくれ……フリルの心情は察するけど今は緊急事態だ……わかるよな?」
「……うん……こっちにきて」
「わっわかったのじゃ……!」
俺の指示通りにフリルとティアが後ろに下がっていき壁を背にする。
「テレアは出来るだけあのでかい男を相手してくれ、周りの奴らは俺がなんとかしてみるから」
「うん……!」
とは言ったものの見たところ周りの連中は四人か……俺一人でなんとかなるかなぁ?
いやいやここで弱気になっちゃいけない!俺だってレリスと一緒にこの国のダンジョンで戦ってきたんだ!何とかなるはずだ!
「……おいコランズとお前らはあの女のガキを抑えろ。俺はあの男とタイマン張るから」
「―――わかりました」
コランズと呼ばれた小柄な少年がすすっと前に出てくる。
そのコランズの周りを見るからに教団の下っ端連中が武器を構えて陣形を取った。
くっ……こちらと真逆の作戦で来る気か!
「―――行きますよ」
そう言った瞬間コランズと呼ばれた少年が、テレアに向かって駆けだした。
仕方ないな……!
「テレア!作戦変更だ!複数相手で大変かもしれないけど、そいつらの相手を頼む!」
「わかったよお兄ちゃん!」
俺の指示を受けたテレアが、向かってくるコランズを迎え撃つべく腰を落とした。
「オラァ!!!」
テレアに支持を出し終えた瞬間、大柄な男が俺との間合いを一気に詰めて真上から拳を振り下ろしてきた。
「うおっ!?」
咄嗟に横に飛んで避けて事なきを得た物の、大柄な男の拳は石畳を粉々に砕きつつ地面に突き刺さった。
やばい……こんなのをまともに食らったらただじゃすまないぞ!?
「ちっめんどくせーな、躱すんじゃねえよ!」
「無茶なこと言ってくれるぜ!」
悪いが隙だらけだ!
体内の魔力を活性化させて、身体強化を発動した俺は腰の剣を引き抜き大柄な男に斬りかかった。
「おっと!」
地面から強引に拳を引き抜いたそいつが、その巨体に似合わぬ素早い動きで俺の剣を回避した。
そのまま俺と間合いを取り、拳を構えながら口を開く。
「挨拶がまだだったな?俺はカルマ教団三大幹部の一人、ゴルマだ!お前の話はロイの奴から聞いてるぜ?リンデフランデの神獣を倒したんだってな?」
「そういうことになってるらしいな」
「とぼけても無駄だぜ?つまらない任務だと思ったが、まさかお前のような強い奴と戦えるなんてな……もうけもんだぜ!」
残念ながら俺自身は全く強くないんだよなぁ。
単純な強さだけならそこで大勢を相手に立ち回っているテレアの方がよっぽど強い。
「せいぜい楽しませてくれよ!?行くぜ!!」
そう叫びながらゴルマが俺に向かって一直線に突進してくる。
動きは速いけど動きが一直線すぎる。
「猪かよ!」
そう言いながら身体を横にずらしゴルマの突進をかわし、隙だらけの背中を斬りつけようと剣を握りしめたところで、背中に悪寒が走った。このまま斬りかかるのはまずい!!
「ふん!!!」
その予感は的中し、後ろに大きく飛んだところ、俺のいた位置にゴルマが身体の回転を利かせた裏拳を打ち込んでいた。
物凄い勢いだったらしく、振り回した拳により発生した風圧が俺の元にまで届いた。
そのまま斬りかかっていたら今の裏拳が見事に直撃してたな……危なかった。
「ちっ……だから躱すんじゃねーよ!!」
なんだこいつ?本能で戦ってるのか?一見隙だらけなのに、思わぬ反撃が飛んできて迂闊に攻められないぞ!?
「うがあぁ……!」
とそこへ、謎のうめき声と共に誰かが地面に倒れる音が聞こえた。
そちらに目を向けると、テレアによって倒された教団の下っ端連中が地面に転がっていた。
どうやらあの小柄なコランズという少年以外は、テレアに一掃されたようだ。
「ちっ、やっぱり寄せ集めの連中じゃ役に立たねーな……おいコランズ!そのシルクスのガキを俺たちに近づけるなよ?」
「―――わかりました、近づけさせません」
どうやらテレアがシルクス夫妻の娘だというのを知ってるみたいだった。
これで数の有利は相手側になくなったが、それで状況が好転しているかと言われると怪しいな。
「やっぱりあの時、リドアードのボンボンに任せるより俺が直接出た方が良かったかもな……そうすれば今頃任務を達成できたはずだからな」
なにやら懐かしい名前がゴルマの口から出てきた。
もしかしてリドアードの裏で手を引いていたのはこいつなのか?
「うむ!存分にわらわの役に立つとよいぞ!」
光と共とに現れた小さな青い竜と親しげに話すティアという目の前の光景にテレアと二人で唖然とする。
ていうかちょっと待て!
「ティア、ちょーっといいかな?」
「どうしたのじゃ?」
「それ……神獣だよな?」
「おおっ!?シューイチは神獣のことを知っておるのか!それなら話は早いのじゃ!」
逆に言うとティアは俺たちが神獣と関わりがあるとことを知らなかったんだな……スチカからその辺の話を聞いてるものだとばかり思っていた。
「なんだ?クルスティアは気が付かなかったのかい?僕はとっくの昔に気が付いていたよ?」
「そうなのか?ならなぜ教えてくれなかったのじゃ!?」
「そこは僕にも事情というものがあるのさ」
ていうかこの青龍のナルシストみたいな喋り方どうにならないのかな?
「少なくとも二体の神獣の反応を感じていたよ?多分玄武と朱雀じゃないかな?」
「むう、そうなのか……」
しかしまさかこんなところで神獣をお目にかかることになるとは……ていうかほとんどの神獣の封印が解けてんじゃねーのか?
このパターンだと残りの白虎の封印も解けてるんじゃないだろうな?
「最初に君たちに言っておきたいことがあるんだが……悪いが僕の存在は玄武と朱雀には内緒にしておいてくれないかな?」
「なんで?」
「悪いが今は事情は話せない。君たちがアーデンハイツに来てくれた暁には喜んですべてを話すつもりではいるがね」
「そういうわけにはいかーよ、こっちだって神獣を鎮める役目任せられてるんだからさ」
神獣を鎮めないことにはシエルは何時まで経っても給仕係のままだからな。
いくら最近馴染んできたとはいえ、さすがにあのままなのは可哀そうだ。
「その条件を飲んでくれないのなら、悪いが僕は手伝えない」
「こんにゃろ……」
そう言ってプイっとそっぽ向いた青龍をジト目で睨みつける。
別にわざわざ無理してその条件を飲んで青龍の手を借りなくても、俺たちが自力でフリルを探し出せばいいだけだしな。
折角呼び出してもらっておいてなんだがここはお引き取り願って……。
「ちなみに、なにやら良くない気配が君たちの探しているレディに向かっているから探すなら急いだほうがいいと思うがね」
「なんだと!?」
そういうことは早く言え!つーか良くない気配ってなんだ!?
「どういうことなのじゃ?」
「このエルサイムに来てからずっと邪神の息のかかった者たちに監視されていたみたいだね。今この瞬間を好機として動き出したんじゃないな?」
くそっ、やっぱりろくなことにならなかった!
ていうか邪神の息のかかった者たちって誰だ?……って考えるまでもないか。
「お兄ちゃん、もしかしてカルマ教団がフリルお姉ちゃんを狙ってるんじゃ?」
「邪神の息のかかった連中なんてそいつらしかいないよな……!」
ていうかなんでフリルの方へ行くんだ?狙うならティアの方じゃないのか?
そう思ったところで、ロイがフリルを狙っていた理由を唐突に思い出した。
「フリルの歌魔法狙いか……?」
てっきりリンデフランデの件でフリルのことは諦めたのかと思ったが、そんなことなかったんだな。
ロイの奴は教団の目的とは別のところで動いてるみたいなこと言ってたし、ロイ的にはもう用済みだが教団的にはフリルの存在は必要なのかもしれない。
こりゃちょっとうかうかしてられない、一刻も早くフリルを見つけないと!
「青龍はフリルの居場所がわかるのか?」
「勿論さ?なにせ彼女には玄武が付いているからね?これだけ近い位置にいれば嫌でもわかる」
「さっきの条件を飲むから、フリルの居場所を教えてくれ!」
「嫌だね」
……は?
「僕は男に指図されるのは嫌なんでね?そうだな……そこの青い髪の可憐な少女にお願いされるなら、聞いてあげてもいいかな?」
この緊急時にこの蛇野郎なにをのたまってやがるんだ?
とはいえ今は一刻を争うし……背に腹は代えられないな……。
「テレア……そういうわけなので……」
「えっと……青龍さん?テレアたちをフリルお姉ちゃんのところまで連れて行ってくれないかな?」
「喜んで」
お前何かの拍子に暴走して暴れ出す時があったら覚えておけよ?
「では二人とも、クルスティアの手を取ってくれないかな?転移で飛ぶからさ」
「うむ、わかったのじゃ。二人ともわらわの手を」
青龍の奴転移が使えるのか?まあ玄武も転移でダンジョンの最下層の朱雀のところまで来たくらいだし、このくらいのことは朝飯前なのかもな。
「二人とも、悪いけど頭の中でフリルという名のレディの顔を思い浮かべてくれないかな?なるべく正確にね」
「わかった」
「うっうん……!」
ティアの手を取り、俺とテレアは頭の中でフリルの顔を思い浮かべる。
すると俺たちの身体を光が包み込んでいき、ふわりと浮き上がる。
「いい感じだ……それじゃあ飛ぶよ?」
青龍がそう言った瞬間、目の前の景色が一瞬だけ真っ暗になったか思うと、突然切り替わって見慣れない町並みが映し出された。
空中に出現した俺たちは、青龍の力でゆっくりと地面に着地する。
「どこだここは?」
エルサイムの城下町の中なのは間違いないだろうが、見慣れない景色に少し混乱してしまう。
見た感じは路地裏っぽいな。
「……シューイチ……?」
そこに聞きなれた声が後ろから聞こえてきたので、振り返ると驚いた表情のフリルが立っていた。
どうやら無事にフリルのもとに転移できたみたいだ。
お礼を言おうと思い青龍の姿を探すものの、いつのまにかいなくなっていた。
「フリルお姉ちゃん!よかった無事だったんだね!」
「……テレア?無事って……?」
そう言いかけたフリルが、テレアの後ろに隠れるティアの姿を見つけて硬直する。
「フリル……」
「……何しに来たの?」
フリルが冷たい目でティアを睨みながら突き放すような声で言った。
そう簡単に事が収まるとは思っていなかったが、これはちょっと根が深そうだな……。
「わらわはフリルに……」
「……話すことなんて何もない、スッチーと一緒に早く国に帰って」
明らかな拒絶の言葉を受けて、ティアの顔が青ざめる。
恐らく、ここまではっきりとした拒絶を受けるのは生まれて初めてなのだろう。
「ティア、ここで引き下がっちゃダメだ」
「わっ……わかっておる……」
頭ではわかっているんだろうが、身体がフリルの真っ向からの拒絶を受けたことで委縮してしまっている。
俺が間に入ることは可能だが、ここはティアが自分で何とかしないといけない場面だ。
テレアもそれがわかっているのか、俺の服のすそをぎゅっと握りながらじっと堪えている。
「……フ……フリル!わらわは!」
「はーいそこまで!」
突然空気の読めない声が聞こえてきたので、そちらに勢いよく振り返ると、リンデフランデで散々見た紋章の刻まれた腕章をつけた複数の男たちが立っていた。
「カルマ教団……!」
「お前らどうやって先回りした?俺の計算じゃお前らがここに来る前にそのガキを捕まえられる算段だったのによ」
見た感じ一番屈強な体格の男が一歩前に出て面白くなさそうにそう吐き捨てた。
「悪いけど企業秘密だ」
「そうか……悪いけどお前らの演じる茶番には興味ねえ……俺たちは早々に仕事を済ませなきゃならないんだ。悪いけど死んでもらうぜ」
そう言って屈強な男が深く腰を落とすと共に、後ろにいる男たちも各々の武器を構えだす。
まずいな……多勢に無勢すぎるぞ。こいつらが全部有象無象ならテレアと俺だけで事足りるとは思うけど、さっきから代表して喋っているあのごつい男は見た感じ相当の手練れだ。
そして後ろにいる男たちに交じって、やけに小柄で前髪で目を覆い隠した奴も異彩を放っている。
「……なに?どうなってるの?」
「カルマ教団だよ……フリル、玄武を呼んで結界を張ってもらうんだ。多分俺とテレアだけじゃフリルを守り切れない」
「……わっわかった」
「それから、ティアも一緒に守ってやってくれ……フリルの心情は察するけど今は緊急事態だ……わかるよな?」
「……うん……こっちにきて」
「わっわかったのじゃ……!」
俺の指示通りにフリルとティアが後ろに下がっていき壁を背にする。
「テレアは出来るだけあのでかい男を相手してくれ、周りの奴らは俺がなんとかしてみるから」
「うん……!」
とは言ったものの見たところ周りの連中は四人か……俺一人でなんとかなるかなぁ?
いやいやここで弱気になっちゃいけない!俺だってレリスと一緒にこの国のダンジョンで戦ってきたんだ!何とかなるはずだ!
「……おいコランズとお前らはあの女のガキを抑えろ。俺はあの男とタイマン張るから」
「―――わかりました」
コランズと呼ばれた小柄な少年がすすっと前に出てくる。
そのコランズの周りを見るからに教団の下っ端連中が武器を構えて陣形を取った。
くっ……こちらと真逆の作戦で来る気か!
「―――行きますよ」
そう言った瞬間コランズと呼ばれた少年が、テレアに向かって駆けだした。
仕方ないな……!
「テレア!作戦変更だ!複数相手で大変かもしれないけど、そいつらの相手を頼む!」
「わかったよお兄ちゃん!」
俺の指示を受けたテレアが、向かってくるコランズを迎え撃つべく腰を落とした。
「オラァ!!!」
テレアに支持を出し終えた瞬間、大柄な男が俺との間合いを一気に詰めて真上から拳を振り下ろしてきた。
「うおっ!?」
咄嗟に横に飛んで避けて事なきを得た物の、大柄な男の拳は石畳を粉々に砕きつつ地面に突き刺さった。
やばい……こんなのをまともに食らったらただじゃすまないぞ!?
「ちっめんどくせーな、躱すんじゃねえよ!」
「無茶なこと言ってくれるぜ!」
悪いが隙だらけだ!
体内の魔力を活性化させて、身体強化を発動した俺は腰の剣を引き抜き大柄な男に斬りかかった。
「おっと!」
地面から強引に拳を引き抜いたそいつが、その巨体に似合わぬ素早い動きで俺の剣を回避した。
そのまま俺と間合いを取り、拳を構えながら口を開く。
「挨拶がまだだったな?俺はカルマ教団三大幹部の一人、ゴルマだ!お前の話はロイの奴から聞いてるぜ?リンデフランデの神獣を倒したんだってな?」
「そういうことになってるらしいな」
「とぼけても無駄だぜ?つまらない任務だと思ったが、まさかお前のような強い奴と戦えるなんてな……もうけもんだぜ!」
残念ながら俺自身は全く強くないんだよなぁ。
単純な強さだけならそこで大勢を相手に立ち回っているテレアの方がよっぽど強い。
「せいぜい楽しませてくれよ!?行くぜ!!」
そう叫びながらゴルマが俺に向かって一直線に突進してくる。
動きは速いけど動きが一直線すぎる。
「猪かよ!」
そう言いながら身体を横にずらしゴルマの突進をかわし、隙だらけの背中を斬りつけようと剣を握りしめたところで、背中に悪寒が走った。このまま斬りかかるのはまずい!!
「ふん!!!」
その予感は的中し、後ろに大きく飛んだところ、俺のいた位置にゴルマが身体の回転を利かせた裏拳を打ち込んでいた。
物凄い勢いだったらしく、振り回した拳により発生した風圧が俺の元にまで届いた。
そのまま斬りかかっていたら今の裏拳が見事に直撃してたな……危なかった。
「ちっ……だから躱すんじゃねーよ!!」
なんだこいつ?本能で戦ってるのか?一見隙だらけなのに、思わぬ反撃が飛んできて迂闊に攻められないぞ!?
「うがあぁ……!」
とそこへ、謎のうめき声と共に誰かが地面に倒れる音が聞こえた。
そちらに目を向けると、テレアによって倒された教団の下っ端連中が地面に転がっていた。
どうやらあの小柄なコランズという少年以外は、テレアに一掃されたようだ。
「ちっ、やっぱり寄せ集めの連中じゃ役に立たねーな……おいコランズ!そのシルクスのガキを俺たちに近づけるなよ?」
「―――わかりました、近づけさせません」
どうやらテレアがシルクス夫妻の娘だというのを知ってるみたいだった。
これで数の有利は相手側になくなったが、それで状況が好転しているかと言われると怪しいな。
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