無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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苦戦~筋肉バカ~

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「お前がリドアードを裏で操ってたのか?」

 俺が問いかけると、ゴルマはにやりと笑い口を開く。

「シルクス夫妻が邪魔だから何とかしたいと教団に泣きついてきたから、ちょいとばかし知恵を貸してやったんだよ。まあ結局ダメだったみたいだけどな」

 ヤクトさんが裏でカルマ教団が関わっているかもしれないと言っていたが、どうやらドンピシャだったようだ。
 余計なことしてくれやがって……そのせいでこっちは異世界に転生して早々に面倒なことに巻き込まれる羽目に陥ったじゃねーか!

「ライノスとマグリドを戦争させようと仕組んだのもお前か?」
「それも俺だよ!あの二国に小競り合いをさせてる間に教団がどちらかの国を乗っ取るつもりだったんだがな……お前のせいで台無しだよ!」

 言いながらゴルマが真正面から飛びかかってきて、これまたまっすぐなストレートを打ち込んできたので、横に飛んでかわす。
 一見隙だらけに見えるが、このまま攻め入ると思わぬ反撃が飛んでくるのは先ほど学習したからな……接近戦は不利だな。
 なるべく距離を取り、ゴルマの動きを観察しながら攻撃する手段を考えつつ、もう少し情報を引き出させよう。

「あの槍の男もお前らの差し金か?」
「槍の男……?ああ、サムスンのことか?あいつは俺が雇った傭兵だったんだがな……まさかあの時はサムスンを退けるなんて思わなかったぜ?」

 いろんなことを隠さずにぼろぼろと喋ってくれるな。
 どうせ殺すつもりだから……とか考えてるんだろうけど、俺から見れば迂闊以外の何者でもない。
 しかしリドアードの一件は巡り巡ってこいつのせいになるのか……お前のせいでテレアは誘拐されるわ泣く羽目に陥るわあの成金クソ野郎に蹴飛ばされることになるわで、本当にテレアに取って碌なことにならなかったな。
 怒りがふつふつと湧き上がってくる。

「悪いけどお前のことを許すわけにはいかなくなったわ」
「俺だっててめーを許す気なんてねーよ!!」

 ゴルマが激高しながらまたしても俺に対し真っすぐに突進してくる。
 当たったらただでは済まないその攻撃をかわしたり受け流したりしつつ、一定の距離を保ち続ける。
 その辺の奴に比べたら目を見張るスピードだが、散々テレアと修練を重ねた経験がここに来て生きてきたな……どうにか対処できる。
 だが油断は禁物だ、仮にも教団の三大幹部らしいしこの程度のはずがないだろうしな。

「ちょこまかちょこまか避けやがって!やる気あんのか!?」
「やる気があるから当たらないように避けてるんだろうが」

 なんか頭脳派を演出したがってるようだが、単純な頭の悪さが透けて見えるな。
 今のところは対処できているし、少しテレアの方に気を配ってみよう……。
 テレアとコランズと呼ばれた前髪で目の隠れた小柄な少年との戦いは均衡を保っているようだ。
 相手はどうやら暗器使いらしく、さまざまな武器を駆使してテレアと真っ向から渡り合っている。
 テレアも自分に向けられたその数々の暗器を華麗に捌きながら、隙あらばコランズへと距離を詰めて攻め入るも、どうやら相手は中距離で戦うタイプのようで、すぐに逃げられてしまう。
 テレアの奴攻めあぐねてるな……どうやら相性が悪い相手のようだな。

「―――あなたの弱点、わかりました」

 テレアと距離を取ったコランズがそう呟くと、手をすっぽりと覆い隠す長い袖の中から先に重りの付いた鎖を取り出し左手に装備した。
 漫画で見たことあるぞ、あれって忍者が使う万力鎖って奴だ。
 相手の体の一部分に絡みつかせて動きを制限させる武器だな。
 コランズはその鎖を手元で遠心力をつけるように振り回しつつ、テレアと距離をじりじりと詰めていく。
 テレアも警戒しつつコランズから目を離さないようにし、いつ何が来てもいいように集中していく。

「―――行きますよ」

 抑揚のない機械のような声でコランズがそう宣言すると、左手で振り回している万力鎖ではなく、右手から杭のようなものを数本取り出し、それをテレアに対して素早く投げつけた。
 一瞬だけ呆気に取られたテレアだったが、すぐさま冷静に投げつけられた杭を全てはたき落とす―――が。

「あっ!」

 その一瞬の隙をついてコランズから投げつけられた万力鎖に左足をからめとられてしまっていた。
 さっきの杭は囮だったのか!?
 そっちに集中させて隙を作り、あっという間にテレアの動きを封じてしまった。

「―――降参しませんか?僕はあまり人を殺したくありません」
「テレアは降参しないよ!お兄ちゃんが負けない限り、テレアだって負けないんだから!」

 言い返すテレアだったが、左足が封じられてしまってはテレアお得意のスピードを生かした戦術を発揮できない。劣勢に追い込まれたのは火を見るより明らかだった。

「―――近づけなければあなたは僕を攻撃できないでしょう?降参したほうがいいですよ?」

 コランズがそう言いながら右手から再び先ほどの杭を取り出しテレアに投げつけた。
 テレアも先ほどと同じようにそれらをすべてはたき落とそうと構えるも―――

「―――させません」

 コランズが左手の鎖をわずかに動かしただけで、テレアの顔が苦痛にゆがみバランスを崩した。
 その状態でもなんとか迫って来た杭をいくつかはたき落としたものの、迎撃しきれなかった二本の杭がテレアに直撃した。

「あうっ!!」

 まずいな……相手に動きを完全にコントロールされてしまっている。手を貸したいところだが……。

「戦闘中によそ見するとか余裕じゃねーか!」

 テレアたちの戦いの様子を伺っていた俺に向けて、ゴルマが一直線に突進してきた。

「いい加減真っすぐ突進してくる以外の芸を見せろよ!!」

 体内の魔力を活性化させて迫ってくるゴルマに向けて手を向ける。

「プロテクション!!」

 ゴルマの目の前にお馴染みの防御壁を作り出した。

「ぬおっ!?」

 予想通り俺の作り出した防御壁に激突し、ゴルマがよろめいた。
 その隙を見逃さず、俺はテレアを助けるべく再び体内の魔力を活性化させて練り上げていく。
 実戦で使うのは初めてだが……うまくいってくれよ!
 練り上げた魔力を両手の空間に集めていき、それを数本の細い針のような形に形成していく。
 それを一か所に集めた俺は、テレアの動きを阻害しているコランズの鎖へと狙いを定めた。

「発射!!」

 名付けてマジックニードルガン!……うん、そのままだというツッコミは受け付けないぞ。
 勢いよく射出された大量の魔力の針は纏まりながら飛んでいき、コランズの鎖を見事に断ち切って地面に5cmほどの小さな穴を開けた。

「ありがとうお兄ちゃん!」

 どうやらうまくいったようだ!
 今のはガルムスの使っていた魔力剣の原理を応用した技だ。
 未だに素の状態で魔力剣を使えない俺が、エナに相談し漫画やアニメで得た知識を駆使し試行錯誤を繰り返した結果、生み出した遠距離攻撃技だ。
 あのサイズの針を作るなら少ない魔力消費でかつコントロールも難しくないので今の俺でもなんとかできる。
 一本一本の威力はさほどでもないが一か所に纏めて相手にぶつければ中々の威力を生み出せる。
 短針銃をヒントに編み出した技だが、実際の短針銃はそこまで威力がないらしいけど、そこは魔法で何とかしている。
 テレアとの実践訓練のほかに魔力の操作も毎日地道に練習していたので、これはその成果とも言えるな。

 動きを邪魔するものがなくなったテレアが一気にコランズへと距離を詰める。

「―――余計なことをしないでください」

 感情の籠ってない目でコランズが俺を見て呟いたが、そんなことは知ったこっちゃないのである。
 ゴルマの奴は俺とタイマンしてるつもりだが、俺はテレアと二人で戦ってるのだ。
 そのテレアがピンチになったら助けるのは当たり前だろ?

「今度は逃がさないよ!」

 その宣言通り、接近戦を嫌って距離を開けようとするコランズに対し、テレアが執拗に距離を詰めていく。
 どうやら形勢は振り出しに戻ったみたいだ。
 それなら俺はこっちに集中しないとな!

「邪魔だ!!!」

 その怒号と共に、ゴルマの拳が防御壁を粉々に打ち砕いた。
 うへー……素手でプロテクション破壊するとかなんなんだよこいつ?

「そろそろ遊びは終わりにしようぜ?俺も呑気にてめーと遊んでるわけにはいかねーんだ!」
「そりゃこっちの台詞だっつーの」

 問題はこの筋肉バカなんだよなぁ……動きは単調だからかわすこと自体は簡単だけど、謎の野生の本能が働いてるのかこちらが攻めようとすると即座に反撃してくるんだよな。
 何とかして全裸になれれば、文字通り苦労することもなく倒せるだろうけど、ここまで切迫した状況ではとても全裸になってる暇なんてない。
 テレアがあのコランズを倒して加勢に来てくれれば攻め入る隙も見つかるだろうけど、まだまだ時間が掛かりそうだ。
 俺の魔力だっていつまで持つかはわからないし、早々に何かしらの手を打たないといけない。

「そんじゃ久しぶりに本気出すか……おおおぉぉ!!」

 突然叫び出したかと思うと、ゴルマの魔力が活性化し大きく膨れ上がっていく。
 とんでもない量の魔力だ……だてに教団の第三幹部を名乗ってないな!

「ミラージュボディ!!」

 何やら魔法を唱えたと思ったら、再びゴルマがこちらに猛スピードで突進してきた。
 なんだ?明らかに魔法を使ったはずなのに、なんでまた普通に突進してきてんだこいつ?
 疑問に思いながらその突進を横跳びでかわすと、着地した俺に向かって何者かがものすごい勢いで迫って来た。

「なっ!?なんだぁ!!??」

 そいつが大きく振りかぶって拳を叩きつけようとしてきたので、今度はバックステップでかわす。
 着地して顔を上げその何者かの顔をよく見るとゴルマだった。
 ちょっと待て?俺さっきゴルマの突進をかわしたのに、なんでまたゴルマが……ってまさか!?

「「よくかわしたな?まあ今ので決着がついても面白くなかったけどよ!!」」

 驚いたことに、ゴルマが二人になっていた。
 そういやミラージュボディとか言ってたな……どうやら自分の分身を作り出す魔法を使ったようだ。
 って冷静に判断してる場合じゃないぞ!?今は偶然かわせたけど、ゴルマが二人とかシャレにならない状況だぞこれ!?

「「次は当てるぜ!!」」

 ただでさえやかましいのに、二人になったせいでやかましさに拍車がかかっている。
 そんなことを考えていると、二人のゴルマが俺に向けて突進してきた。
 二人になったからと言って数を生かした連携を取ってくるわけじゃないのかよ!?
 でもシンプルなものほど堅実とも言う……油断は出来ないな!

「フル・プロテクション!!」

 念のためにと自分の周囲にドーム状のバリアを張る。
 しかし普通のプロテクションを素手ぶち壊してくる相手に、こんなのは焼け石に水だ。

「「そんな薄っぺらい壁で俺の拳を止められると思うな!!」」

 実際ゴルマのパンチであっけなくバリアは粉砕されてしまったが、これは計算通りだ!

「マジックニードル!!」

 その隙をついて数本の魔力針を作り出した俺は、片方のゴルマに向けて勢いよく射出した。

「ふんっ!!」

 だがゴルマが身体に力を入れただけで、俺の放った魔力針はゴルマを貫くことなく砕け散っていく。
 くっ……咄嗟だったから魔力をあまりこめられなかった……!

「「ぬるい攻撃してんじゃねーよ!」」

 俺に拳を叩きつけようと二人のゴルマが振りかぶる。
 ならこいつで……!

「エア・バースト!!」

 周囲に向けて魔法の突風を発生させて二人のゴルマを吹き飛ばした。

「「ちっ!次から次へとめんどくせえ野郎だな!!」」

 立ち上がったゴルマが俺に悪態をつく。
 俺からすれば二人に増えたお前の方がよっぽどめんどくさいよ!
 ただでさえ攻撃するチャンスがなかったというのに、二人に増えたせいでますます防戦一方になってしまった……今はなんとかしのげているけどこのまま長期戦に持ち込まれると、不利になるのは俺の方だ。
 テレアのほうも未だにコランズ相手に苦戦している……このままではまずい。

「「いい加減そろそろ終わりにしてやる!!行くぞオラァ!!」」

「あら?何を終わりにするつもりなのですか?」

 二人のゴルマを迎え撃とうと構えた俺の耳に、聞きなれた上品な声が聞こえた。
 どうやら事態を好転させる増援が来てくれたようだった。
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