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洗脳~嬉しくない再会~
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「殺すならさっさと殺せよ」
戦いが終わり全員の無事を確認した後、エナとレリスによって倒されたゴルマを縛り上げて叩き起こした。
目を覚まし自分の現状を察したゴルマの台詞の第一声がそれである。
「いや殺さねーから、ちょっと話を聞かせてもらうだけだよ」
「なんでだよ?俺はお前らを殺そうとしただろうが!?」
何をそんなに死に急いでるんだよ……思わず大きくため息が出る。
たしかに殺されそうにはなったが、俺としては十分にやり返したと思っているから気は済んでいるんだけどなぁ。
一応ゴルマの処遇についてみんなからはちゃんと意見を取って「別に殺す必要はない」と結論が出ている。
甘いと言われるかもしれないが、このスタンスが俺たちなので仕方ないのだ。
「お前さんだって別に教団の為に死にたいだなんて思ってないだろ?」
「そりゃ思ってはいねーが、殺すつもりでお前らに喧嘩吹っ掛けたんだからそのくらいの覚悟はできてる」
そりゃまた殊勝なことで……。
「とにかく、俺たちはお前さんを殺すつもりはないし、今後の為にも教団が何を企んでいるのかを知りたいんだよ。どうせ教団はこれに懲りずにまた俺らにちょっかい出してくるんだろ?」
「……まあな。お前らのパーティーは教団の中ではトップ3に入るほど要注意集団になってるからな」
嬉しくないランキング入りしてんな……トップ1と2が気になるけど。
「とりあえず一番先に聞きたいことから質問するぞ?お前ら神獣の力を使って何しようとしてんだ?」
「知らねーよ」
「知らないわけないだろ、お前さんあの教団の三大幹部の一人なんだろ?」
自分でそうやって自己紹介してたからそこは間違いないはずだ。
「本当に知らねーんだよ。俺はそもそも教団の思想とか目的とかに賛同してあの教団にいるわけじゃなくて、俺の腕っぷしを見込まれて教団からの依頼を度々引き受けているうちに気が付いたら三大幹部の一人に数えられてたんだよ」
「そうなの?……ってことは本当に知らないのか?」
ということは、こいつは元々は外部協力者みたいなものだったということか?
それなのに気が付いたら三大幹部にねぇ……道理でなんかあの教団の持つイメージとは似つかわしくない人物なはずだ。
「まいったな……この様子じゃ満足に情報を得られそうにもないぞ」
思わず独り言ちる。
捕まえる人物を間違えたか……とはいえドレニクは俺が勢いに任せて外までぶっ飛ばしたせいでどこにいるかもわからないし、実質こいつしか事情を知ってそうな奴がいなかったんだが……完全に人選を誤ったな。
「どうしようか……」
「とりあえずこのまま憲兵団に引き渡しましょうか?」
「殺さないという選択を取る以上は、それが妥当なところですわね」
「いやその前にドローンの制作費を請求せなあかん!」
今のこいつがお金を持っているとは思えないけどね。
そんなことを話す合間に未だに目を覚まさないフリルに目をやる。
玄武曰く「魔力をフリルと同調している関係上、我の魔力を吸い取ることはフリル自身の魔力を吸い取られたことと同意だ。今は魔力切れと同じ現象が起きているだけから心配せずともそのうち目を覚ます」とのこと。
とりあえず死んでしまうような事態でなかったことは幸いだな。
ただあのまま助けるが遅くなっていたら本当に死んでしまっていたかもしれないとも玄武は言った。
本当に間に合ってよかった……。
「とりあえずお前さんはこのまま憲兵団に引き渡す」
「まあ死ぬよりかはましだな……好きにしろよ。どうせ俺は負けたんだから文句言う筋合いねえしな」
なんとなくだけど、こいつ元々そんなに悪い奴ではないんじゃなかろうか?
カルマ教団なんかと関わっているせいでどうしてもマイナスイメージが付きまとうが、ドレニクと違ってそこまで明確な悪意を感じないし……まてよ?こいつそもそも教団とは外部協力者みたいな関係だったんだよな?
それなのに気が付いたら三大幹部にされていて、教団の思惑通りに動かされて……。
「最後に一つ聞きたいんだけど、お前さんフリルを誘拐しようとしたことに関して何か思うところある?」
「なんだそりゃ?……まあいくら教団の依頼といえどこんなガキを誘拐するなんてとは思うけどよ」
やっぱりそうだ……こいつもコランズと同じで洗脳されていて、俺たちに倒された関係か知らないが、少しだけ洗脳が解けかけてるんだ。
みたところコランズほど明確な洗脳ではないだろうけど……なんだろう認識齟齬みたいな感じか?
心の中にある善悪を判断する部分にちょっとした認識を阻害する洗脳を施すことで、自身が知らない間に教団の手足として動かされていたんだろう。
恐らくあの教団内にはゴルマみたいに自分が洗脳されているとも思ってない団員たちが数多くいるだろうな。なんとも薄気味悪い話である。
「そんじゃ国の憲兵団の詰所に……」
「彼にはまだ利用価値があるのでそんなことをされたら困りますよ」
突如教会の入り口から聞こえてきたその声に反応して、全員が視線がその声の主に集中した。
この人を小馬鹿にするかのような口調……もしや……。
「ロイ……!」
「どうも、お久しぶりですね?」
相変わらずのアルカイックスマイルを携えつつ、教会の入り口の扉にもたれかかりながらロイが立っていた。
エナとテレアが一瞬で戦闘態勢に移行する……かくいう俺も一瞬で警戒心がマックスになった。
そんな俺たちの様子を見たレリスとスチカも、険しい顔をしながらロイを睨みつける。
「おっと、今日は戦いにきたわけでも、あなたたちにちょっかいを出しに来たわけでもないので、そんなに怖い顔をしないでいただきたいのですが」
「お前、よくもぬけぬけと俺らの前に顔を出せたな?次に会ったらぶん殴るって約束覚えてんだろ?」
「ああそんな約束をしましたね……ですがそれは反故にさせてもらってもいいですか?」
人を馬鹿にするような口ぶりは相変わらずだな。
「しかし今回のドレニクさんを退けたことといい、前回の玄武の時といい……あなたの存在は私のとって予想外ですよ」
「そんなことはどうでもいい!何をしに来やがった!」
「勿論、作戦失敗したドレニクさんとゴルマさんを引き取りに来たんですよ」
そう言ってロイが指をパチンと鳴らすと、瞬時にしてゴルマが消えてしまった。
「なっ……!?転移か!?」
「しかしちょっと見ない間に錚々たるメンバーが揃いましたね?今やマグリドの英雄にして貴族の娘であるテレア=シルクスに、新緑の歌姫フリル=フルリル……エレニカ財閥の一族であるレリス=エレニカときて、機械の申し子と名高いスチカ=リコレットですか……そしてエナさん……教団としてもあなたたちの存在はちょっとした恐怖ですよ」
「余計な口は慎みなさいロイ!」
エナが敵意を露わにしたまま、ロイに向けて手を向ける。
「……あなたはまだ御自身の身の上を打ち明けてはいないんですか?それなら今ここ私が話して差し上げましょうか?」
「やめなさい!!」
エナの激高を受け、ロイがやれやれとばかりにため息を吐きながら首を横に振った。
「何時までも隠しておけることでもないでしょう?それならいっそ私から……と思いましたが余計なお世話みたいなのでここらで私は消えますか……目標の回収は終わりましたし」
その口ぶりからすると、どうやらドレニクも発見して回収済みなんだろうな。
最後にロイがなんだか俺に意味深な目線を向けてくる。
おいやめろ、男にそんな目で見られても嬉しくもなんともないぞ。
「あなたに一つ忠告しておきます。エナさんの事情に踏み込むつもりならそれ相応の覚悟を持った方がいいですよ?」
「なんだと……?」
「ロイ!!」
「ふう……これ以上ここにいたらエナさんに何をされるかわかりませんから、ここらで帰りますか……それは皆さんまた近いうちに……」
そう言った瞬間、たちどころにロイの姿が消えてしまった。
どうやら本当にゴルマとドレニクを回収に来ただけのようだった。
緊張が一気に解けて大きく息を吐き出したところで、テレアが俺の元に近寄って来た。
「どうしたんだテレア?」
「お兄ちゃん……えっと……コランズ君が」
テレアがそう言って倒れているコランズを指さした。
あの野郎……コランズをほったらかしにしていきやがった!
教団的にももはや必要ないと判断されたのだろうか?洗脳していいように扱っていたはずなのに随分と勝手なことで……。
何かを訴えるように俺を見上げるテレアの頭を、俺は優しく撫でてあげる。
「わかってるよ、放っておけないんだよな?」
「うん……ありがとうお兄ちゃん」
倒れていたコランズを背負った俺は、みんなと一緒に教会を後にする。
そのまま3分ほど歩いて行くと、目を閉じて木にもたれかかっているルカーナさんがいたので声を掛ける。
「ルカーナさん!今回は本当に助かりました!」
「……どうやら終わったみたいだな?」
俺たちに気が付いたルカーナさんが目を開けて俺たちの元へと歩いてきた。
ボロボロになっている俺たちを見回したルカーナさんが小さくため息をついた。
「中々に壮絶な戦いがあったみたいだな?」
「はい、久々に色々と苦戦しましたね」
「お兄ちゃんなんて、身体中に穴を開けられてたよね……」
「……なぜ生きているんだお前は?」
疑惑の目を向けてくるルカーナさんから、俺はさっと目を逸らす。
そこはほら……チートというべきか……ねえ?
「やはりお前とも手合わせしてみたくなった。時間なら作るからお前の都合のいいときに……」
「だからやりませんってば!とにかく今回は本当にありがとうございました!」
俺がそう言って強引に話を打ち切ると、ルカーナさんはやれやれと言った感じで再び小さくため息を吐く。
何度だっていうが、平常時の俺がルカーナさんと戦ったところで10秒と持たずに瞬殺されること請け合いだ。
「まあいい……それじゃ俺は帰る……またな」
そう言い残して、ルカーナさんは歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送りつつ、急なことだったのに助けに来てくれたルカーナさんに心の中で感謝する俺たちだった。
「甘い物を求めて街に繰り出したはずなのに、なんでこんなボロボロになって帰ってくるんですかねぇ……」
「本当にな?」
シエルが大げさにため息をついた。
あれから無事に家に辿りついた俺たちは、ひとまずフリルを自室のベッドに、コランズを来客用の客間のベッドに寝かせてロビーへと集まった。
「とにかく、ありがとうなシエル?お前さんがルカーナさんを向かわせてくれたおかげでフリルは無事に助けられたよ」
「そうですよー?感謝してくださいねー?」
気を良くしたシエルがえっへんと薄い胸を張った。
エナもそうなんだけど、シエルも大概薄いよな……あえて何とは言わないが。
「シューイチ様、どこを見ているので?」
「それよりもこれからどうするかだ」
レリスのジト目から逃れるように俺は露骨に話題を逸らした。
「今回の件で教団に目を着けられているのが明確になってしまいましたね……」
「ピンポイントでフリル狙ってきたもんな」
こうなってくると、いくらエルサイムの城下町と言えどおちおち一人で出歩くわけにも行かなくなったな。
なにかしら手を打たないといけないが、こちらから出来ることなんて実のところ限られている。
「カルマ教団の本部ってどこにあるの?」
「宗教国家とも言われている、カーマベルクという国ですね」
宗教国家……俺のいた世界にもそういう国はあるけど、この異世界においては意味合いが違って聞こえてくるからやな感じだ。
「もしかしなくてもカルマ教団って国教だったりするのかな?」
「いえ、さすがに国教ではないですね」
「又聞きですが、たしか国教であるこの世界を救ったという二人の大天使の一人アグレスを祀る宗教「アグレス教」から分離した宗教だと聞いたことがありますわね」
それって実質、国教ってことなんじゃないんすかね?
どうやら事は教団本部にのりこんでぶっ潰せば収束するわけでもなさそうで、俺は深くため息を吐いてしまった。
戦いが終わり全員の無事を確認した後、エナとレリスによって倒されたゴルマを縛り上げて叩き起こした。
目を覚まし自分の現状を察したゴルマの台詞の第一声がそれである。
「いや殺さねーから、ちょっと話を聞かせてもらうだけだよ」
「なんでだよ?俺はお前らを殺そうとしただろうが!?」
何をそんなに死に急いでるんだよ……思わず大きくため息が出る。
たしかに殺されそうにはなったが、俺としては十分にやり返したと思っているから気は済んでいるんだけどなぁ。
一応ゴルマの処遇についてみんなからはちゃんと意見を取って「別に殺す必要はない」と結論が出ている。
甘いと言われるかもしれないが、このスタンスが俺たちなので仕方ないのだ。
「お前さんだって別に教団の為に死にたいだなんて思ってないだろ?」
「そりゃ思ってはいねーが、殺すつもりでお前らに喧嘩吹っ掛けたんだからそのくらいの覚悟はできてる」
そりゃまた殊勝なことで……。
「とにかく、俺たちはお前さんを殺すつもりはないし、今後の為にも教団が何を企んでいるのかを知りたいんだよ。どうせ教団はこれに懲りずにまた俺らにちょっかい出してくるんだろ?」
「……まあな。お前らのパーティーは教団の中ではトップ3に入るほど要注意集団になってるからな」
嬉しくないランキング入りしてんな……トップ1と2が気になるけど。
「とりあえず一番先に聞きたいことから質問するぞ?お前ら神獣の力を使って何しようとしてんだ?」
「知らねーよ」
「知らないわけないだろ、お前さんあの教団の三大幹部の一人なんだろ?」
自分でそうやって自己紹介してたからそこは間違いないはずだ。
「本当に知らねーんだよ。俺はそもそも教団の思想とか目的とかに賛同してあの教団にいるわけじゃなくて、俺の腕っぷしを見込まれて教団からの依頼を度々引き受けているうちに気が付いたら三大幹部の一人に数えられてたんだよ」
「そうなの?……ってことは本当に知らないのか?」
ということは、こいつは元々は外部協力者みたいなものだったということか?
それなのに気が付いたら三大幹部にねぇ……道理でなんかあの教団の持つイメージとは似つかわしくない人物なはずだ。
「まいったな……この様子じゃ満足に情報を得られそうにもないぞ」
思わず独り言ちる。
捕まえる人物を間違えたか……とはいえドレニクは俺が勢いに任せて外までぶっ飛ばしたせいでどこにいるかもわからないし、実質こいつしか事情を知ってそうな奴がいなかったんだが……完全に人選を誤ったな。
「どうしようか……」
「とりあえずこのまま憲兵団に引き渡しましょうか?」
「殺さないという選択を取る以上は、それが妥当なところですわね」
「いやその前にドローンの制作費を請求せなあかん!」
今のこいつがお金を持っているとは思えないけどね。
そんなことを話す合間に未だに目を覚まさないフリルに目をやる。
玄武曰く「魔力をフリルと同調している関係上、我の魔力を吸い取ることはフリル自身の魔力を吸い取られたことと同意だ。今は魔力切れと同じ現象が起きているだけから心配せずともそのうち目を覚ます」とのこと。
とりあえず死んでしまうような事態でなかったことは幸いだな。
ただあのまま助けるが遅くなっていたら本当に死んでしまっていたかもしれないとも玄武は言った。
本当に間に合ってよかった……。
「とりあえずお前さんはこのまま憲兵団に引き渡す」
「まあ死ぬよりかはましだな……好きにしろよ。どうせ俺は負けたんだから文句言う筋合いねえしな」
なんとなくだけど、こいつ元々そんなに悪い奴ではないんじゃなかろうか?
カルマ教団なんかと関わっているせいでどうしてもマイナスイメージが付きまとうが、ドレニクと違ってそこまで明確な悪意を感じないし……まてよ?こいつそもそも教団とは外部協力者みたいな関係だったんだよな?
それなのに気が付いたら三大幹部にされていて、教団の思惑通りに動かされて……。
「最後に一つ聞きたいんだけど、お前さんフリルを誘拐しようとしたことに関して何か思うところある?」
「なんだそりゃ?……まあいくら教団の依頼といえどこんなガキを誘拐するなんてとは思うけどよ」
やっぱりそうだ……こいつもコランズと同じで洗脳されていて、俺たちに倒された関係か知らないが、少しだけ洗脳が解けかけてるんだ。
みたところコランズほど明確な洗脳ではないだろうけど……なんだろう認識齟齬みたいな感じか?
心の中にある善悪を判断する部分にちょっとした認識を阻害する洗脳を施すことで、自身が知らない間に教団の手足として動かされていたんだろう。
恐らくあの教団内にはゴルマみたいに自分が洗脳されているとも思ってない団員たちが数多くいるだろうな。なんとも薄気味悪い話である。
「そんじゃ国の憲兵団の詰所に……」
「彼にはまだ利用価値があるのでそんなことをされたら困りますよ」
突如教会の入り口から聞こえてきたその声に反応して、全員が視線がその声の主に集中した。
この人を小馬鹿にするかのような口調……もしや……。
「ロイ……!」
「どうも、お久しぶりですね?」
相変わらずのアルカイックスマイルを携えつつ、教会の入り口の扉にもたれかかりながらロイが立っていた。
エナとテレアが一瞬で戦闘態勢に移行する……かくいう俺も一瞬で警戒心がマックスになった。
そんな俺たちの様子を見たレリスとスチカも、険しい顔をしながらロイを睨みつける。
「おっと、今日は戦いにきたわけでも、あなたたちにちょっかいを出しに来たわけでもないので、そんなに怖い顔をしないでいただきたいのですが」
「お前、よくもぬけぬけと俺らの前に顔を出せたな?次に会ったらぶん殴るって約束覚えてんだろ?」
「ああそんな約束をしましたね……ですがそれは反故にさせてもらってもいいですか?」
人を馬鹿にするような口ぶりは相変わらずだな。
「しかし今回のドレニクさんを退けたことといい、前回の玄武の時といい……あなたの存在は私のとって予想外ですよ」
「そんなことはどうでもいい!何をしに来やがった!」
「勿論、作戦失敗したドレニクさんとゴルマさんを引き取りに来たんですよ」
そう言ってロイが指をパチンと鳴らすと、瞬時にしてゴルマが消えてしまった。
「なっ……!?転移か!?」
「しかしちょっと見ない間に錚々たるメンバーが揃いましたね?今やマグリドの英雄にして貴族の娘であるテレア=シルクスに、新緑の歌姫フリル=フルリル……エレニカ財閥の一族であるレリス=エレニカときて、機械の申し子と名高いスチカ=リコレットですか……そしてエナさん……教団としてもあなたたちの存在はちょっとした恐怖ですよ」
「余計な口は慎みなさいロイ!」
エナが敵意を露わにしたまま、ロイに向けて手を向ける。
「……あなたはまだ御自身の身の上を打ち明けてはいないんですか?それなら今ここ私が話して差し上げましょうか?」
「やめなさい!!」
エナの激高を受け、ロイがやれやれとばかりにため息を吐きながら首を横に振った。
「何時までも隠しておけることでもないでしょう?それならいっそ私から……と思いましたが余計なお世話みたいなのでここらで私は消えますか……目標の回収は終わりましたし」
その口ぶりからすると、どうやらドレニクも発見して回収済みなんだろうな。
最後にロイがなんだか俺に意味深な目線を向けてくる。
おいやめろ、男にそんな目で見られても嬉しくもなんともないぞ。
「あなたに一つ忠告しておきます。エナさんの事情に踏み込むつもりならそれ相応の覚悟を持った方がいいですよ?」
「なんだと……?」
「ロイ!!」
「ふう……これ以上ここにいたらエナさんに何をされるかわかりませんから、ここらで帰りますか……それは皆さんまた近いうちに……」
そう言った瞬間、たちどころにロイの姿が消えてしまった。
どうやら本当にゴルマとドレニクを回収に来ただけのようだった。
緊張が一気に解けて大きく息を吐き出したところで、テレアが俺の元に近寄って来た。
「どうしたんだテレア?」
「お兄ちゃん……えっと……コランズ君が」
テレアがそう言って倒れているコランズを指さした。
あの野郎……コランズをほったらかしにしていきやがった!
教団的にももはや必要ないと判断されたのだろうか?洗脳していいように扱っていたはずなのに随分と勝手なことで……。
何かを訴えるように俺を見上げるテレアの頭を、俺は優しく撫でてあげる。
「わかってるよ、放っておけないんだよな?」
「うん……ありがとうお兄ちゃん」
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そのまま3分ほど歩いて行くと、目を閉じて木にもたれかかっているルカーナさんがいたので声を掛ける。
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ボロボロになっている俺たちを見回したルカーナさんが小さくため息をついた。
「中々に壮絶な戦いがあったみたいだな?」
「はい、久々に色々と苦戦しましたね」
「お兄ちゃんなんて、身体中に穴を開けられてたよね……」
「……なぜ生きているんだお前は?」
疑惑の目を向けてくるルカーナさんから、俺はさっと目を逸らす。
そこはほら……チートというべきか……ねえ?
「やはりお前とも手合わせしてみたくなった。時間なら作るからお前の都合のいいときに……」
「だからやりませんってば!とにかく今回は本当にありがとうございました!」
俺がそう言って強引に話を打ち切ると、ルカーナさんはやれやれと言った感じで再び小さくため息を吐く。
何度だっていうが、平常時の俺がルカーナさんと戦ったところで10秒と持たずに瞬殺されること請け合いだ。
「まあいい……それじゃ俺は帰る……またな」
そう言い残して、ルカーナさんは歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送りつつ、急なことだったのに助けに来てくれたルカーナさんに心の中で感謝する俺たちだった。
「甘い物を求めて街に繰り出したはずなのに、なんでこんなボロボロになって帰ってくるんですかねぇ……」
「本当にな?」
シエルが大げさにため息をついた。
あれから無事に家に辿りついた俺たちは、ひとまずフリルを自室のベッドに、コランズを来客用の客間のベッドに寝かせてロビーへと集まった。
「とにかく、ありがとうなシエル?お前さんがルカーナさんを向かわせてくれたおかげでフリルは無事に助けられたよ」
「そうですよー?感謝してくださいねー?」
気を良くしたシエルがえっへんと薄い胸を張った。
エナもそうなんだけど、シエルも大概薄いよな……あえて何とは言わないが。
「シューイチ様、どこを見ているので?」
「それよりもこれからどうするかだ」
レリスのジト目から逃れるように俺は露骨に話題を逸らした。
「今回の件で教団に目を着けられているのが明確になってしまいましたね……」
「ピンポイントでフリル狙ってきたもんな」
こうなってくると、いくらエルサイムの城下町と言えどおちおち一人で出歩くわけにも行かなくなったな。
なにかしら手を打たないといけないが、こちらから出来ることなんて実のところ限られている。
「カルマ教団の本部ってどこにあるの?」
「宗教国家とも言われている、カーマベルクという国ですね」
宗教国家……俺のいた世界にもそういう国はあるけど、この異世界においては意味合いが違って聞こえてくるからやな感じだ。
「もしかしなくてもカルマ教団って国教だったりするのかな?」
「いえ、さすがに国教ではないですね」
「又聞きですが、たしか国教であるこの世界を救ったという二人の大天使の一人アグレスを祀る宗教「アグレス教」から分離した宗教だと聞いたことがありますわね」
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