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口論~思い出話を君と~
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さて、コランズの問題がなんとかなったのはいいが、次に待ち受けているのはフリルとティアの問題だ。
そもそも本題はこっちのほうなんだよな……コランズの件ですっかり頭から抜け落ちていた。
「いや~昨日も思ったけど、相変わらずエルサイムの城下町の人混みは半端ないなぁ」
「人が賑わっておるのはそれだけ国が平和ということじゃな!」
一概にそうとは言えないとは思うが、突っ込むのも面倒なので笑ってやりすごした。
「しかし、未だにフリルは目を覚まさぬとは……わらわはとても心配じゃ……」
「……まあ色々あったからね」
「それなのにわらわたちは呑気に観光などしていてもよいのじゃろうか?」
真摯にフリルの安否を気遣うティアを見て、罪悪感で少しばかり胸がチクリとした。
実のところ昨日の時点でもうすでに目を覚ましてる……なんて言えないよなぁ。
何で俺たち三人がこうしてエルサイムの街を観光しているかというと、レリスにお願いされたからである。
今日一日を準備に使うらしく、スチカと一緒にできるだけ長い時間ティアを外に連れ出すのが俺に課せられた重大な任務だ。しくじるわけにはいかない。
レリスたちが何の準備をしているのかは……まあそこは帰ってからのお楽しみということにしておこう。
「ティア、今日はどこに行くん?」
「甘味は昨日散々食したからのう……今日は何か娯楽を楽しみたいのじゃ!」
「……らしいで、シュウ?」
「娯楽か……何かあったかな?」
基本的にギルドの仕事とか、自分たちの生活の基盤を整えるのに追われていたせいで、この街の娯楽とかほとんど知らないのだ。
それに娯楽に関して言えば、エルサイムよりもリンデフランデの方が充実してるらしい。とは言ったものの俺たちはあんまりリンデフランデを観光できなかったわけだけども。
もし次に行く機会があったら、カジノはまあ置いといてきちんと観光してみたいもんだ。
「アーデンハイツには娯楽施設とかあるの?」
「勿論あるで?ていうかうちが国に言って作らせた」
お前さん国を巻き込んでなにしてんだよ?
というかスチカは、アーデンハイツの情勢にまで口出し出来る立場なの!?
「ていうかこの世界は娯楽に乏しいねん!うちのいた田舎でもそこそこの娯楽はあったで?」
「じいちゃんのいた田舎は車を20分も走らせれば駅前に出られたしな」
「くるま……というのはあれか?今スチカが我が国で作っておる自動で走るタイヤの付いた箱じゃな?」
「……なんやねんシュウその目は?うちはこの世界の文明の発達に貢献しとるんやで?そんな目で見られる筋合いはないわ」
行き過ぎた文明の発達は様々な軋轢を生むらしいぞ?
まあ俺たちが生きている間にそこまでのことにはならないとは思うけどね。
「そういえば、わらわはずっと気になっていることがあるのじゃが……お主たちは幼馴染なのじゃろう?昔はどのように過ごしておったのじゃ?」
「なんやねん藪から棒に?」
「スチカの話では、シューイチは昔の記憶を取り戻したのじゃろう?」
それだと俺が記憶喪失になっていたみたいだぞ?
「そういや確認はしとらかったな……そんじゃどこか落ち着けるところでシュウの記憶の確認作業でもするか?」
「えーマジで?また今度でいいじゃん?」
「うちらは明日にはアーデンハイツに帰るんやで?今日くらいしか確認する暇ないやんか」
「どの道あの国には行くことになるんだし、その時でいいだろ?」
「あかん!うちはそうやって油断しとったせいでシュウに大事なことが言えないままこの世界に戻ることになったんや!あの時の後悔は二度とせんで?」
俺に言いたかった大事なこと?なにかあったのかな?
「それなら決まりじゃな!では早速話の出来そうな所へ行くのじゃ!」
そう言いながらティアが落ち着ける場所を探そうとキョロキョロと周りを見回す。
もう決定事項なのか……ていうかスチカとの日本での思い出をティアに話して聞かせるとかどんな罰ゲームだよ。
俺とスチカの昔話ねぇ……結構な頻度で互いの恥や失敗談が出てくると思うんだけど……まあなるようにしかならないか。
そんなことを思いつつ、俺はスチカと共にティアの後に続いて行くのだった。
「いや何言ってんの!?あれはスチカのせいだろ!あの後俺がどれだけじいちゃんと父さんに怒られたと思ってんだよ!」
「元はと言えばシュウが軽はずみにあんなことするからやろ!?何うちのせいにしとんねん!いてこますぞ!!」
「最初にあそこに行きたいと言ったのはどこの誰でしたかねー?」
「シュウが暇だ暇だとうるさいから、うちが気を利かせたんやで?大体その前の日にシュウは……!」
「ふ……二人とも少し落ち着くのじゃ……!」
喫茶店でヒートアップする俺とスチカをティアが必死に宥める。
あれから適当に目についた喫茶店に入り、俺とスチカの昔話を始めたのだが……開始10分もしないうちに互いにヒートアップしてしまい、言い争いにまで発展してしまった。
互いにお茶を飲み干し気分を落ち着ける。
なんとなくこうなる気はしてたけど、まさかあっという間にここまでの言い争いにまで発展するとは……。
「しかし二人とも、昔から仲が良かったのじゃな」
「ティア、お前何を聞いとったんや?今までの話のどこでそんな感想が出てくるねん?」
「そうだぞティア?俺はこいつが田舎では同年代の友達がいないというから、仕方なく……そう仕方なく構っていてやっただけなんだぞ?」
「それこそこっちの台詞やで?田舎では誰も友達のいないぼっちの誰かさんの為にうちがどれだけ気を使てやったと思っとんねん?」
「はぁっ!?そんなこと頼んでませんけどー!?」
「うちやってじいさんに頼まれたから嫌々構ってやっとたんやで!?少しは感謝を……」
「……もうこの二人はダメなのじゃ」
再び言い争いが始まった俺とスチカを呆れた目で眺めつつ、ティアが諦めの境地に達した。
そんなこんなでお互いに言いたいことを好き放題言いあっていたら、気が付いたら2時間も経過していた。
「……二人とも気は済んだかえ?」
「はあはあ……今日のところはこのくらいにしといてやる……!」
「ぜえぜえ……それはこっちの台詞やで?うちはまだまだシュウの失敗談を知っとるんやからな?」
「しかしまあ、よくもそれだけ互いの失敗談が出てくるものじゃのう?ある意味で感心するのじゃ」
言われてみれば、夏休みに田舎へ遊びに行ったその年の一週間限定の付き合いにも関わらず、お互いに話題が尽きないのは少し驚きだ。
以前スチカがレリスに俺たちの五年間の密度について言っていたが、あながち嘘でもなかったんだな。
「失敗談はもうお腹一杯なのじゃ。次はもっと違う話題がいいのじゃ」
「違う話題ねぇ……なんかあったっけ?」
「あるにはあるけど、ちょっと他人に聞かせる話じゃないなぁ……」
「これだけ人に聞かせるのは憚れる互いの失敗談を公衆の面前で罵りあったというのに、それは今更ではないかえ?」
ティアの的確なツッコミが冴えわたる。
まあ俺もそういう話題がないかと言われるとないとは言えないが、おそらく十中八九またスチカと言い争いが始まる予感しかない。
「そうだなぁ……お祭りに行った話とかは?」
「そういや五年の間にシュウと地元のお祭りに行ったのはたったの一回やったな」
「なんでだっけ?」
「一年目はうちが当日に風邪引いて、二年目はシュウが風邪で、三年目は緊急の用事が出来たとかでシュウたちが祭りの前に帰ってもうて、四年目は前日に二人ともやんちゃしすぎて当日出禁食らったんやで?」
さすが絶対記憶力能力の保持者だ。ここまで完璧に覚えているとは……。
俺もおぼろげながら、浴衣を身に纏ったスチカの姿を思い出していた。
「五年目でようやく二人でお祭りに行けたんやけどな……シュウは折角うちが意を決して着た浴衣をスルーしたけど楽しかったなぁ……シュウは折角うちが意を決して着た浴衣をスルーしたけど」
大事なことなので二回言ったのか?
「あの頃はそれなりに色々と知識がついて女の子を意識する頃だったからなぁ……多分恥ずかしくて似合ってるって言えなかったんじゃないかな?」
「ほお~?うちのことちゃんと女の子扱いしとったんか?」
ついうっかり口が滑ったが、今の発言はまずったかもしれない。
俺の思った通り、スチカがニヤーっと笑みを浮かべながら俺を見ている。
「ほらほら?今からでも言ってええんやで?あの時のうちの浴衣は似合ってたーって?恥ずかしがらんとほらほら?」
果てしなくうざいな……。
そう言うことなら言ってやろうじゃないか!……え?本当に言うの!?
「……あの時のスチカ浴衣姿、似合ってたぞ……?」
なんだこれ、物凄く恥ずかしいんだけど!?
なんで7年も前のスチカの浴衣を今になって褒めなければならんのだ……バカバカしい!
柄にもなく自分の顔が熱くなっていくのがわかる。こんな気持ちになったのはレリスに告白の返事をしようとした時以来だ。
「そっ……そうか……?」
なんでお前まで赤くなってんだよ!!
ここは照れて赤くなった俺をそっちがからかってくる流れじゃないのかよ!!
「二人とも顔が真っ赤なのじゃ」
ティアの言葉で我を取り戻したかのように二人して咳払いをした。
あー恥ずかしかった……この場にティアが居なかったら互いに恥ずかしさで殺されていたかもしれない。
「ところで浴衣とはなんなのじゃ?二人の話を聞く限りでは衣服のようじゃが?」
「ああ、浴衣はな……説明するのが少しめんどいなぁ……帰ったら絵で描いて説明したるわ」
「こっちの世界には浴衣はないのか?」
「お祭りという文化自体はあるけどな?……そういえば花火もないな」
花火はないのか。それは少しばかり残念だが、まあその気になれば魔法でも再現できそうな気はするけどね。
田舎の祭りでスチカと一緒に花火を見たんだけど、あれは綺麗だったな。
そういえばスチカがあの時なにか言いたげにしていたけど、あれはなんだったんだろうか?
その次の日に俺は地元に帰ってしまったし、スチカもこの世界に強制送還されてしまったから、聞くに聞けなかったな。
「そういえばスチカさ、あの時―――」
そこまで言いかけた時、ズボンのポケットに入れてあった通信機が震えた。
ポケットから通信機を取り出してみると、もう一台の通信機からメールが来ているみたいで、早速開けてみてみると「準備が完了しましたので帰ってきてくださいませ」とレリスが書いたであろう文面が目に入った。
「そんじゃそろそろ帰るか」
「ん?もしかしてもう準備終わったんか?」
「準備?何の話じゃ?」
疑問を口にするティアを適当にあしらいつつ、俺たちは会計を済ませて喫茶店を後にした。
思えばずっと、大声でスチカと言い争いをしていたのでさぞかし迷惑な客だったであろう……心の中で最大限の謝罪をしておいた。
そんなこんなで、相変わらず人で賑わうエルサイムの城下町を三人で歩いて行く。
程なくして、すっかり我が家となった俺たちの拠点へと帰って来た。
「二人はちょっとここで待っててもらってもいいか?大丈夫そうなら合図をするからその時に入って来てくれ」
「了解」
「何が始まるのじゃ!いい加減教えるのじゃ!!」
「もうすぐわかるって!」
二人を入り口で待機させて、俺は家へと足を踏み入れてロビーへと赴く。
そこには全ての準備が完了し、今か今かと俺たちの帰りを待っていたみんなが待機していた。
全員に簡単に目配せしてから、俺は踵を返し入り口で待機している二人の元へと戻る。
「お待たせ-!そんじゃ二人とも入ってきていいぞ」
「一体何なのじゃ……?」
不安げに呟くティアを簡単に宥めつつ、俺たち三人は家に入りロビーへと足を踏み入れた。
その瞬間―――
「スチカちゃん!ティアちゃん!ようこそわが家へ!!」
エナの声と共に、それぞれが手にしたクラッカーを鳴らした。
さて……パーティーの始まりだ。
そもそも本題はこっちのほうなんだよな……コランズの件ですっかり頭から抜け落ちていた。
「いや~昨日も思ったけど、相変わらずエルサイムの城下町の人混みは半端ないなぁ」
「人が賑わっておるのはそれだけ国が平和ということじゃな!」
一概にそうとは言えないとは思うが、突っ込むのも面倒なので笑ってやりすごした。
「しかし、未だにフリルは目を覚まさぬとは……わらわはとても心配じゃ……」
「……まあ色々あったからね」
「それなのにわらわたちは呑気に観光などしていてもよいのじゃろうか?」
真摯にフリルの安否を気遣うティアを見て、罪悪感で少しばかり胸がチクリとした。
実のところ昨日の時点でもうすでに目を覚ましてる……なんて言えないよなぁ。
何で俺たち三人がこうしてエルサイムの街を観光しているかというと、レリスにお願いされたからである。
今日一日を準備に使うらしく、スチカと一緒にできるだけ長い時間ティアを外に連れ出すのが俺に課せられた重大な任務だ。しくじるわけにはいかない。
レリスたちが何の準備をしているのかは……まあそこは帰ってからのお楽しみということにしておこう。
「ティア、今日はどこに行くん?」
「甘味は昨日散々食したからのう……今日は何か娯楽を楽しみたいのじゃ!」
「……らしいで、シュウ?」
「娯楽か……何かあったかな?」
基本的にギルドの仕事とか、自分たちの生活の基盤を整えるのに追われていたせいで、この街の娯楽とかほとんど知らないのだ。
それに娯楽に関して言えば、エルサイムよりもリンデフランデの方が充実してるらしい。とは言ったものの俺たちはあんまりリンデフランデを観光できなかったわけだけども。
もし次に行く機会があったら、カジノはまあ置いといてきちんと観光してみたいもんだ。
「アーデンハイツには娯楽施設とかあるの?」
「勿論あるで?ていうかうちが国に言って作らせた」
お前さん国を巻き込んでなにしてんだよ?
というかスチカは、アーデンハイツの情勢にまで口出し出来る立場なの!?
「ていうかこの世界は娯楽に乏しいねん!うちのいた田舎でもそこそこの娯楽はあったで?」
「じいちゃんのいた田舎は車を20分も走らせれば駅前に出られたしな」
「くるま……というのはあれか?今スチカが我が国で作っておる自動で走るタイヤの付いた箱じゃな?」
「……なんやねんシュウその目は?うちはこの世界の文明の発達に貢献しとるんやで?そんな目で見られる筋合いはないわ」
行き過ぎた文明の発達は様々な軋轢を生むらしいぞ?
まあ俺たちが生きている間にそこまでのことにはならないとは思うけどね。
「そういえば、わらわはずっと気になっていることがあるのじゃが……お主たちは幼馴染なのじゃろう?昔はどのように過ごしておったのじゃ?」
「なんやねん藪から棒に?」
「スチカの話では、シューイチは昔の記憶を取り戻したのじゃろう?」
それだと俺が記憶喪失になっていたみたいだぞ?
「そういや確認はしとらかったな……そんじゃどこか落ち着けるところでシュウの記憶の確認作業でもするか?」
「えーマジで?また今度でいいじゃん?」
「うちらは明日にはアーデンハイツに帰るんやで?今日くらいしか確認する暇ないやんか」
「どの道あの国には行くことになるんだし、その時でいいだろ?」
「あかん!うちはそうやって油断しとったせいでシュウに大事なことが言えないままこの世界に戻ることになったんや!あの時の後悔は二度とせんで?」
俺に言いたかった大事なこと?なにかあったのかな?
「それなら決まりじゃな!では早速話の出来そうな所へ行くのじゃ!」
そう言いながらティアが落ち着ける場所を探そうとキョロキョロと周りを見回す。
もう決定事項なのか……ていうかスチカとの日本での思い出をティアに話して聞かせるとかどんな罰ゲームだよ。
俺とスチカの昔話ねぇ……結構な頻度で互いの恥や失敗談が出てくると思うんだけど……まあなるようにしかならないか。
そんなことを思いつつ、俺はスチカと共にティアの後に続いて行くのだった。
「いや何言ってんの!?あれはスチカのせいだろ!あの後俺がどれだけじいちゃんと父さんに怒られたと思ってんだよ!」
「元はと言えばシュウが軽はずみにあんなことするからやろ!?何うちのせいにしとんねん!いてこますぞ!!」
「最初にあそこに行きたいと言ったのはどこの誰でしたかねー?」
「シュウが暇だ暇だとうるさいから、うちが気を利かせたんやで?大体その前の日にシュウは……!」
「ふ……二人とも少し落ち着くのじゃ……!」
喫茶店でヒートアップする俺とスチカをティアが必死に宥める。
あれから適当に目についた喫茶店に入り、俺とスチカの昔話を始めたのだが……開始10分もしないうちに互いにヒートアップしてしまい、言い争いにまで発展してしまった。
互いにお茶を飲み干し気分を落ち着ける。
なんとなくこうなる気はしてたけど、まさかあっという間にここまでの言い争いにまで発展するとは……。
「しかし二人とも、昔から仲が良かったのじゃな」
「ティア、お前何を聞いとったんや?今までの話のどこでそんな感想が出てくるねん?」
「そうだぞティア?俺はこいつが田舎では同年代の友達がいないというから、仕方なく……そう仕方なく構っていてやっただけなんだぞ?」
「それこそこっちの台詞やで?田舎では誰も友達のいないぼっちの誰かさんの為にうちがどれだけ気を使てやったと思っとんねん?」
「はぁっ!?そんなこと頼んでませんけどー!?」
「うちやってじいさんに頼まれたから嫌々構ってやっとたんやで!?少しは感謝を……」
「……もうこの二人はダメなのじゃ」
再び言い争いが始まった俺とスチカを呆れた目で眺めつつ、ティアが諦めの境地に達した。
そんなこんなでお互いに言いたいことを好き放題言いあっていたら、気が付いたら2時間も経過していた。
「……二人とも気は済んだかえ?」
「はあはあ……今日のところはこのくらいにしといてやる……!」
「ぜえぜえ……それはこっちの台詞やで?うちはまだまだシュウの失敗談を知っとるんやからな?」
「しかしまあ、よくもそれだけ互いの失敗談が出てくるものじゃのう?ある意味で感心するのじゃ」
言われてみれば、夏休みに田舎へ遊びに行ったその年の一週間限定の付き合いにも関わらず、お互いに話題が尽きないのは少し驚きだ。
以前スチカがレリスに俺たちの五年間の密度について言っていたが、あながち嘘でもなかったんだな。
「失敗談はもうお腹一杯なのじゃ。次はもっと違う話題がいいのじゃ」
「違う話題ねぇ……なんかあったっけ?」
「あるにはあるけど、ちょっと他人に聞かせる話じゃないなぁ……」
「これだけ人に聞かせるのは憚れる互いの失敗談を公衆の面前で罵りあったというのに、それは今更ではないかえ?」
ティアの的確なツッコミが冴えわたる。
まあ俺もそういう話題がないかと言われるとないとは言えないが、おそらく十中八九またスチカと言い争いが始まる予感しかない。
「そうだなぁ……お祭りに行った話とかは?」
「そういや五年の間にシュウと地元のお祭りに行ったのはたったの一回やったな」
「なんでだっけ?」
「一年目はうちが当日に風邪引いて、二年目はシュウが風邪で、三年目は緊急の用事が出来たとかでシュウたちが祭りの前に帰ってもうて、四年目は前日に二人ともやんちゃしすぎて当日出禁食らったんやで?」
さすが絶対記憶力能力の保持者だ。ここまで完璧に覚えているとは……。
俺もおぼろげながら、浴衣を身に纏ったスチカの姿を思い出していた。
「五年目でようやく二人でお祭りに行けたんやけどな……シュウは折角うちが意を決して着た浴衣をスルーしたけど楽しかったなぁ……シュウは折角うちが意を決して着た浴衣をスルーしたけど」
大事なことなので二回言ったのか?
「あの頃はそれなりに色々と知識がついて女の子を意識する頃だったからなぁ……多分恥ずかしくて似合ってるって言えなかったんじゃないかな?」
「ほお~?うちのことちゃんと女の子扱いしとったんか?」
ついうっかり口が滑ったが、今の発言はまずったかもしれない。
俺の思った通り、スチカがニヤーっと笑みを浮かべながら俺を見ている。
「ほらほら?今からでも言ってええんやで?あの時のうちの浴衣は似合ってたーって?恥ずかしがらんとほらほら?」
果てしなくうざいな……。
そう言うことなら言ってやろうじゃないか!……え?本当に言うの!?
「……あの時のスチカ浴衣姿、似合ってたぞ……?」
なんだこれ、物凄く恥ずかしいんだけど!?
なんで7年も前のスチカの浴衣を今になって褒めなければならんのだ……バカバカしい!
柄にもなく自分の顔が熱くなっていくのがわかる。こんな気持ちになったのはレリスに告白の返事をしようとした時以来だ。
「そっ……そうか……?」
なんでお前まで赤くなってんだよ!!
ここは照れて赤くなった俺をそっちがからかってくる流れじゃないのかよ!!
「二人とも顔が真っ赤なのじゃ」
ティアの言葉で我を取り戻したかのように二人して咳払いをした。
あー恥ずかしかった……この場にティアが居なかったら互いに恥ずかしさで殺されていたかもしれない。
「ところで浴衣とはなんなのじゃ?二人の話を聞く限りでは衣服のようじゃが?」
「ああ、浴衣はな……説明するのが少しめんどいなぁ……帰ったら絵で描いて説明したるわ」
「こっちの世界には浴衣はないのか?」
「お祭りという文化自体はあるけどな?……そういえば花火もないな」
花火はないのか。それは少しばかり残念だが、まあその気になれば魔法でも再現できそうな気はするけどね。
田舎の祭りでスチカと一緒に花火を見たんだけど、あれは綺麗だったな。
そういえばスチカがあの時なにか言いたげにしていたけど、あれはなんだったんだろうか?
その次の日に俺は地元に帰ってしまったし、スチカもこの世界に強制送還されてしまったから、聞くに聞けなかったな。
「そういえばスチカさ、あの時―――」
そこまで言いかけた時、ズボンのポケットに入れてあった通信機が震えた。
ポケットから通信機を取り出してみると、もう一台の通信機からメールが来ているみたいで、早速開けてみてみると「準備が完了しましたので帰ってきてくださいませ」とレリスが書いたであろう文面が目に入った。
「そんじゃそろそろ帰るか」
「ん?もしかしてもう準備終わったんか?」
「準備?何の話じゃ?」
疑問を口にするティアを適当にあしらいつつ、俺たちは会計を済ませて喫茶店を後にした。
思えばずっと、大声でスチカと言い争いをしていたのでさぞかし迷惑な客だったであろう……心の中で最大限の謝罪をしておいた。
そんなこんなで、相変わらず人で賑わうエルサイムの城下町を三人で歩いて行く。
程なくして、すっかり我が家となった俺たちの拠点へと帰って来た。
「二人はちょっとここで待っててもらってもいいか?大丈夫そうなら合図をするからその時に入って来てくれ」
「了解」
「何が始まるのじゃ!いい加減教えるのじゃ!!」
「もうすぐわかるって!」
二人を入り口で待機させて、俺は家へと足を踏み入れてロビーへと赴く。
そこには全ての準備が完了し、今か今かと俺たちの帰りを待っていたみんなが待機していた。
全員に簡単に目配せしてから、俺は踵を返し入り口で待機している二人の元へと戻る。
「お待たせ-!そんじゃ二人とも入ってきていいぞ」
「一体何なのじゃ……?」
不安げに呟くティアを簡単に宥めつつ、俺たち三人は家に入りロビーへと足を踏み入れた。
その瞬間―――
「スチカちゃん!ティアちゃん!ようこそわが家へ!!」
エナの声と共に、それぞれが手にしたクラッカーを鳴らした。
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