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宴会~仲直りのマカロン~
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突然のクラッカー攻撃を受けてティアが唖然となったが、スチカには事前に話してあったため、特にこれと言って驚いた様子は見られない。
3秒ほど固まった後、ようやくティアが口を開いた。
「なっ……なんなのじゃいきなり!?」
「何って、歓迎会だよ」
「あまりにも突然のことだったから、やってなかったですしね」
「ささ、腕によりをかけて料理もいたしましたので、早速いただきましょう!」
「ティアちゃんは、ここに座ってね!」
あれよあれよといううちに上座に座らされたティアが呆気に取られつつも、料理の乗せられた皿を目の当たりにして目を輝かせる。
色々な疑問や言いたいことも、美味しそうな料理を前にして吹き飛んでしまったようだ。
「なんだかよくわからぬが、食べるのじゃ!いただきますなのじゃ!!」
いやはや単純な子で良かった。この調子ならなんで今更になって歓迎パーティーなど行われているかなんて秒で忘れるだろう。
「しかし、歓迎パーティーってほんと今更やな?」
「まあいいじゃないのさ?飲んで歌って楽しく騒ぐのは人間の本分だしな?」
「そんな珍説聞いたこともありませんよ」
唐揚げを頬張りながら、エナに突っ込まれた。
どうでもいいけどその唐揚げは俺がレリスにリクエストして作ってもらったものだぞ?全部食べ切ったらいくらエナと言えど許さないからな?
「おっお兄ちゃん!これ美味しいよ?」
そんなことを二人と話していると、料理を皿に乗せたテレアがやって来た。
皿の料理に目をやると、ソースとマヨネーズの掛かったふっくら卵焼きが乗せられていた。
「おっ、とん平焼きやん!うちのリクエスト作ってくれたんやな!さすがレリスやで!!」
「スチカさんが正確にどんな料理なのかを覚えておいででしたので、作るのは容易でしたわね」
「お前レリスに何作らせてるんだよ……」
呆れながらもとん平焼きに箸を伸ばすが、テレアにさっとよけられる。
……何?もしかしてこの子見せびらかしに来たの?
そんな風に思っていると、テレアが皿の上のとん平焼きを綺麗に切り分けて箸で摘まむ。
「あっ……あ~んっ」
え?この子何やってんの!?なんでいきなりそんな大胆な行動に出てるの!?
パーティーとは恐ろしい……テレアのような大人しい子のテンションまでも上げてしまうのか?
「食べないんですか?」
「食べないんですの?」
「食べないんか?」
三人のからかうような視線が突き刺さる。ちょっとじろじろと見ないでくださいませんかね?
俺がいつまでたっても食べようとしないので、テレアが顔を真っ赤にしながらプルプルと震え始めてしまった。
……恥ずかしがってる場合じゃないな、折角のテレアの厚意を無駄にするわけにはいかない。
「あっあーん」
差し出されたとん平焼きを意を決して口にする。
……うん、卵もふわとろで中の豚肉もジューシーでソースとマヨネーズが上手く絡み合って、非常に美味である。
「美味しいよテレア、ありがとうな?」
「えへへ……うんっ」
テレアがまるで花が咲いたような笑顔を見せた後、気恥ずかしくなったのかいそいそとティアのところへと戻っていってしまった。
気恥ずかしいのは俺も同じなんですけど、俺はどこに逃げればいいんですかね?
「なんだか妬いてしまいますわね」
「仕方ありませんよ……テレアちゃんにはある意味では誰も勝てませんからね」
「シュウ、女の子の手から食べるとん平焼きは美味かったか?」
「うるさいですよ?」
なんとかそれだけ絞り出して反論するも、自分の顔が赤くなってしまっているのがわかるだけに、その反論に何の効力もないことは自明の理である。
恥ずかしさから逃れるように周囲をキョロキョロと見回す。
どうやらある意味での今回の主役がまだこの場に姿を現していないようだ。
「えっと……フリルは?」
「準備の方はとっくにできているはずなんですが……」
なるほど、まだ覚悟が出来てないと?
フリルってああ見えて意外と臆病なところがあるからなぁ……。
呼びに行くことは可能だけど、ここはフリル自身が勇気を出さないといけない場面だと思うので、我慢しないとな。
「―――どうしていきなりパーティーが始まっているのでしょうか?」
「まあそこは……うおっ!?」
いつの間にか隣にやって来て呟いたコランズを見ると、なにやら執事のような服装を身に纏っていたので、驚いて声を上げてしまった。
「―――何か?」
「いや……その服どうしたの?」
「―――シエル先輩に着せられました」
シエル……先輩……?
「ふっふっふっ……どうですか?私のコーディネイトは?」
気が付くとなにやら腕を組みながら偉そうに笑うシエルがコランズの横に立っていた。
なんか今日は何時にもなくご機嫌だなおい。
「給仕係としてやっていくのですから、それ相応のユニフォームを身に纏うのは当たり前ですよね!」
「とりあえずあれだ……コランズをおもちゃにすんなや。ていうかコランズも嫌ならちゃんと断れよ?」
「―――いえ、特に嫌ということはありませんので」
そうか……それならもう俺が言えることはなにもないな。
「それはともかく……ある意味ではコランズの歓迎会も兼ねてるところあるから、お前も遠慮せずにたくさん食べていいんだぞ?」
「―――それなら僕もいただきます」
まだ初日だし、みんなと打ち解ける意味でもここはパーティーに参加しておいたほうがいいだろう。
給仕係とはいえこれから俺たちの仲間になるんだしな。
そんなこんなでパーティーがつつがなく進んでいき三十分ほどたった頃、ついにティアの口からその言葉が出てくる事態となった。
「……そういえばフリルはどうしたのじゃ?」
その言葉に全員の箸が止まる。
このパーティーが始まってからというもの一向に姿を見せない。
「フリルはまだ寝ているのじゃろう?それなのにわらわたちがこんなに騒いでいていいのじゃろうか?」
二日前のティアからは想像もできない台詞だな。
他人のことなんか関係ない、自分さえ楽しい思いが出来ていればそれで良さそうだったのに……ここでほんの少し俺たちと共に過ごしただけでいい影響を与えることが出来たのなら、俺たちも苦労した甲斐があったというものだ。
……若干アーデンハイツの王様の手の上で踊らされている感否めないけどな。
「なんやティア?フリルのことが心配なんか?」
「あっ当たり前なのじゃ!わらわのせいでフリルにはここ数日沢山迷惑を掛けてしまったのじゃ……だからここから帰る前にちゃんと……あっ」
台詞の途中でティアがロビーの入り口を見ながら小さく声を上げた。
それに倣うようにその場の全員が入り口に目を向けると、そこにはお皿になにやらお菓子を乗せたフリルがいつもの無表情で立っていた。
……ようやく出てくる決心がついたみたいだな。
そのまま全員が見守る中、フリルが皿のお菓子を手に持ったまま、ゆっくりとティアの元に歩み寄っていく。
フリルが目の前に到着すると、ティアが椅子から立ち上がってお互いに見つめあう形になった。
「……フリル」
「……ん」
フリルが手にした皿をティアの前に突き出した。
よく見るとその皿の上には、不揃いな形をした様々の色のマカロンが乗せられている。
「これは……なんなのじゃ?」
「……マカロン、私が作った……嫌なら食べなくていい」
「だっ誰もいらないなどと言っておらぬ!食べるのじゃ……!」
そう言って、ティアがお皿の上の不格好なマカロンを一つ摘まんで、恐る恐る口の中に入れる。
そのまま咀嚼して飲み込むと、ティアの顔がなんとも言えない複雑な表情になった。
「……あんまり美味しくないのじゃ」
「……初めて作ったから少し失敗した」
「……美味しくないけど、もう一ついただくのじゃ」
そのまま一つ、もう一つとマカロンを口にして行くティアだったが、次第に目に涙が溜まっていく。
次第に堪えていた涙が零れ、頬を伝っていく。
「美味しくない……おいしくないのじゃぁ……!」
次第に我慢できなくなったティアがあふれ出る涙を止めないまま、フリルに抱き着いた。
「ごめんなさい……ごめんなさいなのじゃあ!!わらわが悪かったのじゃ!!」
「……私も悪かった……ごめんなさい」
抱き着き涙ながらに謝罪を繰り返すティアを、フリルが優しく抱き返しながら頭をなでる。
そんなフリルの瞳にもうっすらと涙が光っていた。
「……これで一応一件落着やな」
「ですわね……どうなることかと思いましたけど」
「レリスもありがとうな?準備大変だったろ?」
「いえいえ……久々に沢山料理が出来て楽しかったですわ」
「うええええん!フリルちゃんティアちゃん良かったです!!うえええええん!!!」
相変わらず感受性の高いエナがティア並みに号泣していた。
その様子を見かねたテレアがハンカチをエナに差し出すも、いつぞやの時と同じようにハンカチで鼻をかまれたことでテレアが微妙な表情になる。
「……それにしても、このマカロンは本当に美味しくないのじゃ」
「普通の料理はそれなりにできるけど、お菓子作りは苦手」
「わらわはもっと美味しいマカロンが食べたいのじゃ!次の機会までにもっと精進してくるのじゃ!」
「……ふっ」
「なぜ鼻で笑うのじゃ!?」
ほっこりした気持ちで二人を見守っていると、一瞬にして喧嘩が始まりそうな雰囲気になっていた。
「……そっちこそトーストを一人で食べられるように精進しとくべき」
「何を言うか!トーストなどもはや一人で食べられるのじゃ!」
「……どうだか」
「ぐぬぬ……なぜフリルはそうもわらわを馬鹿にするのじゃ!」
会話だけ聞いているとすでに喧嘩していると思われても仕方ないやり取りだが、昨日までの険悪な雰囲気はもう微塵も感じられない。
恐らくこの二人はこんな感じでこれからも続いていくのかもしれないな。
そんなことを思いながらも、フリルがようやく加わったことでよりにぎやかになったこのパーティーは日付が変わる寸前まで続いていくのだった。
これはまだまだ遠い未来の話なのだが、アーデンハイツの女王として即位したクルスティアの唯一無二な親友としてフリル=フルリルの名が歴史に刻まれることになるのだが……さっき言った通りこれは本当に遠い未来の話なので、今はただこの二人が無事に仲直り出来たという事実だけがあればそれでいいのだ。
「ようやく終わったな……」
いつまでも続くんじゃないかと思っていたパーティーもようやく終わり、俺は二階のベランダにて一人黄昏る。
楽しかったなぁ……美味い物も沢山食べられたし。
ちなみにフリルの作ったマカロンだが、ティアの言っていた通り本当に美味しくなかった。
とは言っても一生懸命作ったという思いだけは詰まっていたらしく、文句を言いながらもティアは全部綺麗に平らげた。
ベランダの柵にもたれかかり夜空を見上げる。
心地よい風が頬を撫でていき、パーティーによって高揚した気分を優しく鎮めていく。
色々と考えないといけないことは山積みである。
明日、スチカとティアの帰りを見送った後、俺たちはすぐにアーデンハイツに向けて出発しなければいけない。
アーデンハイツに行けば俺たちは間違いなく神獣絡みの事件に巻き込まれることになるだろう。
だがそれは俺たちが解決しなければいけない問題なので、むしろ望むところなのである。
そして神獣のことと同じくらい重要な問題もある……カルマ教団だ。
玄武曰く「吸われた魔力の全てを回収することは出来なかった」とのこと。
その回収しきれなかった玄武の魔力を、あのドレイクとロイにより解析されてしまうことで、もしかしたら何か良くない事件が起こるかもしれない。
今まで以上に教団の動向には気を配らないといけないのだ。
そしてアーデンハイツにはレリスの実家である「エレニカ財閥」がある。
アーデンハイツに行く以上、エレニカ財閥は恐らく避けては通れないだろう。
俺たちはまず確実にレリスのお家騒動に巻き込まれることになるだろうな。
思わず小さくため息を吐いた。
そのため息は夜風にさらわれ、夜の闇へと消えていく。
まったく俺の人生、この世界に転生してからというもの楽しいことが目白押しだな!
思わず漏れたその笑みは、自虐によるものなのかはたまた……。
とにもかくにも、俺は今後のことを考えながら夜空に思いを馳せるのだった。
「いい加減姿を見せてもいいんじゃないの?もうずっと俺のこと監視してるだろアンタ?」
どこに向けるでもない俺のその言葉に反応するかのように、ベランダに一番近い庭の木がガサっと揺れた。
そしてようやく……本当にようやくその人物は俺の前にその姿を現した。
「長々と監視してたけど、アンタはエレニカ財閥の差し金?」
「……こうして話すのは初めてでございますね……私はエレニカ財閥の諜報部隊の一人、ソニア=コートレスと申します……以後お見知りおきを」
このソニアとの邂逅が、新たな事件の引き金となるのは、言うまでもない。
3秒ほど固まった後、ようやくティアが口を開いた。
「なっ……なんなのじゃいきなり!?」
「何って、歓迎会だよ」
「あまりにも突然のことだったから、やってなかったですしね」
「ささ、腕によりをかけて料理もいたしましたので、早速いただきましょう!」
「ティアちゃんは、ここに座ってね!」
あれよあれよといううちに上座に座らされたティアが呆気に取られつつも、料理の乗せられた皿を目の当たりにして目を輝かせる。
色々な疑問や言いたいことも、美味しそうな料理を前にして吹き飛んでしまったようだ。
「なんだかよくわからぬが、食べるのじゃ!いただきますなのじゃ!!」
いやはや単純な子で良かった。この調子ならなんで今更になって歓迎パーティーなど行われているかなんて秒で忘れるだろう。
「しかし、歓迎パーティーってほんと今更やな?」
「まあいいじゃないのさ?飲んで歌って楽しく騒ぐのは人間の本分だしな?」
「そんな珍説聞いたこともありませんよ」
唐揚げを頬張りながら、エナに突っ込まれた。
どうでもいいけどその唐揚げは俺がレリスにリクエストして作ってもらったものだぞ?全部食べ切ったらいくらエナと言えど許さないからな?
「おっお兄ちゃん!これ美味しいよ?」
そんなことを二人と話していると、料理を皿に乗せたテレアがやって来た。
皿の料理に目をやると、ソースとマヨネーズの掛かったふっくら卵焼きが乗せられていた。
「おっ、とん平焼きやん!うちのリクエスト作ってくれたんやな!さすがレリスやで!!」
「スチカさんが正確にどんな料理なのかを覚えておいででしたので、作るのは容易でしたわね」
「お前レリスに何作らせてるんだよ……」
呆れながらもとん平焼きに箸を伸ばすが、テレアにさっとよけられる。
……何?もしかしてこの子見せびらかしに来たの?
そんな風に思っていると、テレアが皿の上のとん平焼きを綺麗に切り分けて箸で摘まむ。
「あっ……あ~んっ」
え?この子何やってんの!?なんでいきなりそんな大胆な行動に出てるの!?
パーティーとは恐ろしい……テレアのような大人しい子のテンションまでも上げてしまうのか?
「食べないんですか?」
「食べないんですの?」
「食べないんか?」
三人のからかうような視線が突き刺さる。ちょっとじろじろと見ないでくださいませんかね?
俺がいつまでたっても食べようとしないので、テレアが顔を真っ赤にしながらプルプルと震え始めてしまった。
……恥ずかしがってる場合じゃないな、折角のテレアの厚意を無駄にするわけにはいかない。
「あっあーん」
差し出されたとん平焼きを意を決して口にする。
……うん、卵もふわとろで中の豚肉もジューシーでソースとマヨネーズが上手く絡み合って、非常に美味である。
「美味しいよテレア、ありがとうな?」
「えへへ……うんっ」
テレアがまるで花が咲いたような笑顔を見せた後、気恥ずかしくなったのかいそいそとティアのところへと戻っていってしまった。
気恥ずかしいのは俺も同じなんですけど、俺はどこに逃げればいいんですかね?
「なんだか妬いてしまいますわね」
「仕方ありませんよ……テレアちゃんにはある意味では誰も勝てませんからね」
「シュウ、女の子の手から食べるとん平焼きは美味かったか?」
「うるさいですよ?」
なんとかそれだけ絞り出して反論するも、自分の顔が赤くなってしまっているのがわかるだけに、その反論に何の効力もないことは自明の理である。
恥ずかしさから逃れるように周囲をキョロキョロと見回す。
どうやらある意味での今回の主役がまだこの場に姿を現していないようだ。
「えっと……フリルは?」
「準備の方はとっくにできているはずなんですが……」
なるほど、まだ覚悟が出来てないと?
フリルってああ見えて意外と臆病なところがあるからなぁ……。
呼びに行くことは可能だけど、ここはフリル自身が勇気を出さないといけない場面だと思うので、我慢しないとな。
「―――どうしていきなりパーティーが始まっているのでしょうか?」
「まあそこは……うおっ!?」
いつの間にか隣にやって来て呟いたコランズを見ると、なにやら執事のような服装を身に纏っていたので、驚いて声を上げてしまった。
「―――何か?」
「いや……その服どうしたの?」
「―――シエル先輩に着せられました」
シエル……先輩……?
「ふっふっふっ……どうですか?私のコーディネイトは?」
気が付くとなにやら腕を組みながら偉そうに笑うシエルがコランズの横に立っていた。
なんか今日は何時にもなくご機嫌だなおい。
「給仕係としてやっていくのですから、それ相応のユニフォームを身に纏うのは当たり前ですよね!」
「とりあえずあれだ……コランズをおもちゃにすんなや。ていうかコランズも嫌ならちゃんと断れよ?」
「―――いえ、特に嫌ということはありませんので」
そうか……それならもう俺が言えることはなにもないな。
「それはともかく……ある意味ではコランズの歓迎会も兼ねてるところあるから、お前も遠慮せずにたくさん食べていいんだぞ?」
「―――それなら僕もいただきます」
まだ初日だし、みんなと打ち解ける意味でもここはパーティーに参加しておいたほうがいいだろう。
給仕係とはいえこれから俺たちの仲間になるんだしな。
そんなこんなでパーティーがつつがなく進んでいき三十分ほどたった頃、ついにティアの口からその言葉が出てくる事態となった。
「……そういえばフリルはどうしたのじゃ?」
その言葉に全員の箸が止まる。
このパーティーが始まってからというもの一向に姿を見せない。
「フリルはまだ寝ているのじゃろう?それなのにわらわたちがこんなに騒いでいていいのじゃろうか?」
二日前のティアからは想像もできない台詞だな。
他人のことなんか関係ない、自分さえ楽しい思いが出来ていればそれで良さそうだったのに……ここでほんの少し俺たちと共に過ごしただけでいい影響を与えることが出来たのなら、俺たちも苦労した甲斐があったというものだ。
……若干アーデンハイツの王様の手の上で踊らされている感否めないけどな。
「なんやティア?フリルのことが心配なんか?」
「あっ当たり前なのじゃ!わらわのせいでフリルにはここ数日沢山迷惑を掛けてしまったのじゃ……だからここから帰る前にちゃんと……あっ」
台詞の途中でティアがロビーの入り口を見ながら小さく声を上げた。
それに倣うようにその場の全員が入り口に目を向けると、そこにはお皿になにやらお菓子を乗せたフリルがいつもの無表情で立っていた。
……ようやく出てくる決心がついたみたいだな。
そのまま全員が見守る中、フリルが皿のお菓子を手に持ったまま、ゆっくりとティアの元に歩み寄っていく。
フリルが目の前に到着すると、ティアが椅子から立ち上がってお互いに見つめあう形になった。
「……フリル」
「……ん」
フリルが手にした皿をティアの前に突き出した。
よく見るとその皿の上には、不揃いな形をした様々の色のマカロンが乗せられている。
「これは……なんなのじゃ?」
「……マカロン、私が作った……嫌なら食べなくていい」
「だっ誰もいらないなどと言っておらぬ!食べるのじゃ……!」
そう言って、ティアがお皿の上の不格好なマカロンを一つ摘まんで、恐る恐る口の中に入れる。
そのまま咀嚼して飲み込むと、ティアの顔がなんとも言えない複雑な表情になった。
「……あんまり美味しくないのじゃ」
「……初めて作ったから少し失敗した」
「……美味しくないけど、もう一ついただくのじゃ」
そのまま一つ、もう一つとマカロンを口にして行くティアだったが、次第に目に涙が溜まっていく。
次第に堪えていた涙が零れ、頬を伝っていく。
「美味しくない……おいしくないのじゃぁ……!」
次第に我慢できなくなったティアがあふれ出る涙を止めないまま、フリルに抱き着いた。
「ごめんなさい……ごめんなさいなのじゃあ!!わらわが悪かったのじゃ!!」
「……私も悪かった……ごめんなさい」
抱き着き涙ながらに謝罪を繰り返すティアを、フリルが優しく抱き返しながら頭をなでる。
そんなフリルの瞳にもうっすらと涙が光っていた。
「……これで一応一件落着やな」
「ですわね……どうなることかと思いましたけど」
「レリスもありがとうな?準備大変だったろ?」
「いえいえ……久々に沢山料理が出来て楽しかったですわ」
「うええええん!フリルちゃんティアちゃん良かったです!!うえええええん!!!」
相変わらず感受性の高いエナがティア並みに号泣していた。
その様子を見かねたテレアがハンカチをエナに差し出すも、いつぞやの時と同じようにハンカチで鼻をかまれたことでテレアが微妙な表情になる。
「……それにしても、このマカロンは本当に美味しくないのじゃ」
「普通の料理はそれなりにできるけど、お菓子作りは苦手」
「わらわはもっと美味しいマカロンが食べたいのじゃ!次の機会までにもっと精進してくるのじゃ!」
「……ふっ」
「なぜ鼻で笑うのじゃ!?」
ほっこりした気持ちで二人を見守っていると、一瞬にして喧嘩が始まりそうな雰囲気になっていた。
「……そっちこそトーストを一人で食べられるように精進しとくべき」
「何を言うか!トーストなどもはや一人で食べられるのじゃ!」
「……どうだか」
「ぐぬぬ……なぜフリルはそうもわらわを馬鹿にするのじゃ!」
会話だけ聞いているとすでに喧嘩していると思われても仕方ないやり取りだが、昨日までの険悪な雰囲気はもう微塵も感じられない。
恐らくこの二人はこんな感じでこれからも続いていくのかもしれないな。
そんなことを思いながらも、フリルがようやく加わったことでよりにぎやかになったこのパーティーは日付が変わる寸前まで続いていくのだった。
これはまだまだ遠い未来の話なのだが、アーデンハイツの女王として即位したクルスティアの唯一無二な親友としてフリル=フルリルの名が歴史に刻まれることになるのだが……さっき言った通りこれは本当に遠い未来の話なので、今はただこの二人が無事に仲直り出来たという事実だけがあればそれでいいのだ。
「ようやく終わったな……」
いつまでも続くんじゃないかと思っていたパーティーもようやく終わり、俺は二階のベランダにて一人黄昏る。
楽しかったなぁ……美味い物も沢山食べられたし。
ちなみにフリルの作ったマカロンだが、ティアの言っていた通り本当に美味しくなかった。
とは言っても一生懸命作ったという思いだけは詰まっていたらしく、文句を言いながらもティアは全部綺麗に平らげた。
ベランダの柵にもたれかかり夜空を見上げる。
心地よい風が頬を撫でていき、パーティーによって高揚した気分を優しく鎮めていく。
色々と考えないといけないことは山積みである。
明日、スチカとティアの帰りを見送った後、俺たちはすぐにアーデンハイツに向けて出発しなければいけない。
アーデンハイツに行けば俺たちは間違いなく神獣絡みの事件に巻き込まれることになるだろう。
だがそれは俺たちが解決しなければいけない問題なので、むしろ望むところなのである。
そして神獣のことと同じくらい重要な問題もある……カルマ教団だ。
玄武曰く「吸われた魔力の全てを回収することは出来なかった」とのこと。
その回収しきれなかった玄武の魔力を、あのドレイクとロイにより解析されてしまうことで、もしかしたら何か良くない事件が起こるかもしれない。
今まで以上に教団の動向には気を配らないといけないのだ。
そしてアーデンハイツにはレリスの実家である「エレニカ財閥」がある。
アーデンハイツに行く以上、エレニカ財閥は恐らく避けては通れないだろう。
俺たちはまず確実にレリスのお家騒動に巻き込まれることになるだろうな。
思わず小さくため息を吐いた。
そのため息は夜風にさらわれ、夜の闇へと消えていく。
まったく俺の人生、この世界に転生してからというもの楽しいことが目白押しだな!
思わず漏れたその笑みは、自虐によるものなのかはたまた……。
とにもかくにも、俺は今後のことを考えながら夜空に思いを馳せるのだった。
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どこに向けるでもない俺のその言葉に反応するかのように、ベランダに一番近い庭の木がガサっと揺れた。
そしてようやく……本当にようやくその人物は俺の前にその姿を現した。
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