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貴族~爽やかイケメン~
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ケニスさんたちの乗った馬車に先導されて、エレニカ財閥の敷地内を進むこと5分。俺たちは程なくしてレリスの実家であるエレニカ財閥本家へと到着した。
ていうかね……敷地内を5分も馬車で行かないと見えてこないってどんだけだよ……もっと近い場所に家を作りなさいよ……。
馬繋場にて馬を停めてケニスさんたちと合流し、そのまま本家の建物の中へと足を踏み入れていく。
さすがにアーデンハイツ城には負けるものの、この家も昔ネットで見たセレブがシャンパン片手に微笑んでる写真を彷彿とさせる、色々と規格外の立派な内装だ。
こういうところに来ると俺のちっぽけな庶民根性が刺激されてしまって精神衛生上よろしくない。
そのまま俺たちはルミスたちを含めて客室へと通された。
「じゃあティニアを呼んでくるから少しだけ待っていてもらえないかな?」
そう言い残してケニスさんは客室の扉を静かに閉めた。
思わず俺以外の全員を見回すと、エナとスチカに至ってはもうこういう場にすっかり慣れてしまっているのか平然としており、近くにあったソファに腰かけて何やら楽しそうに談笑していた。
レリスは双子の妹たちに引っ切り無しに纏わりつかれており、苦笑いも浮かべつつもどこか嬉しそうにも見えた。
うーむ……俺だけが手持ち無沙汰になってしまったな。
仕方なしにとその辺に飾られている豪華な壺やら油絵を眺めていると、二つの小さな気配が近づいてきた。
「……ん?どうしたんだ?」
レリスと楽しそうに談笑してたはずの双子が俺を見上げていたので、かがんで目線の高さを合わせる。
双子のうちの一人であるルミスが俺の顔を不思議そうな顔して見つめてから、口を開いた。
「おにーさんはお兄ちゃんなのです?」
「えっと……どういう意味かな?」
「おにーさんは、レリスお姉様と夫婦になるの……?」
ルミアの発言に思わず吹き出してしまった。
えっ!? いきなり何を言い出すのこの双子のモンチッチたちは!?
「ゲホゲホ、……ごほん! もしかしてお姉ちゃんから何か聞いたのか?」
「『シューイチ様はわたくしの婚約者だから、失礼のないように』っとレリスお姉様が言ってたのですよー」
思わず勢いよくレリスに振り返ると、ばつが悪そうな顔してさっと顔を逸らされた。
ありゃ思わず口が滑ったって顔だな……どうしたもんか。
「ちょいまち、今なんか聞き捨てならん台詞が聞こえてきたんやけど?」
なぜかその言葉に反応してやたらと険しい表情をしたスチカが俺たちの間に割り込んできた。
エナと話してたはずなのになんでこういう時に抜群の聴覚を発揮するかなぁ!?
「シュウ……お前昔うちが日本におるころに、うちのこと嫁さんにしてくれるって約束したの覚えてんやろ?」
「えっと……」
実は完全に思い出しておりますです、はい……。
とはいえそれはよくある子供同士が口約束で交わすアレであって……そこまで本気じゃないと思ってたんだけど。
「あれはそういうノリの冗談なのかと……」
「うちは冗談でそういうことは言わんで?」
場の空気が一瞬で殺伐とした物へと変貌した。
頼みの綱であるエナはなんが面白いのかニヤニヤしながら成り行きを見守っているし、レリスはレリスでなんかすっげー真顔で俺とスチカのこと見てるし、この空気を作り出した原因の双子のモンチッチたちはすでに飽きたのか元気に追いかけっこを始めてしまっている始末だ。
えー、どうすればいいのこの空気?
「やあ、お待たせ。ティニアの仕事がまだ終わらなくてね、もうすぐ行くから先に戻っていて待っていてくれと言われてしまったよ」
そこへ客室の扉を開けて、ケニスさんが苦笑いをしながら入って来た。
「そうなんですね!! いやー参ったなぁ!!」
これ幸いとばかりに、逃げるようにケニスさんに駆け寄っていき大げさに話しかけた。
ううっ……これってなんか最低な男が取る行動だよなぁ……。
いや、いつまでもはっきりしない俺がいけないのもあるんだけどさ。
そんなことを心の中で思いながら少し重たい気分に浸っていると、ケニスさんが俺の肩に手に置いて口を開いた。
「大丈夫、君は最低なんかじゃないよ」
「はいっ?」
間の抜けた返事を返す俺に対し、ケニスさんがニッコリと返してきた。
何だこの感覚……今もしかして……?
「そうだ、ティニアが来るまでまだ時間があるみたいだし一つ君に頼みたいことがあるんだ」
「俺に……ですか?」
ぶっちゃけさっきの空気はちょっと耐えれられない物があるので、そこから脱出できるなら頼みごとの一つや二つなんでもござれだ!
「僕と剣による手合わせをお願いしたいんだけど」
「……俺と手合わせですか!?」
確かになんでもとは思ったが、いきなり手合わせだなんて……何を考えてるんだこの人は!?
困惑した表情でケニスさんを見ていると、まるで俺の心を見透かしているかのように再びニッコリと微笑む。
「君は僕の元にまで噂が届くほどの凄腕の冒険者だからね、それならぜひ一度その実力を見てみたいと思ったんだが」
「いやいや!俺なんてそんな大したもんじゃないんで!」
これは謙遜でもなんでもなく本心だ。
実際に俺たちのパーティーで本当に凄いのは俺以外の仲間たちであって、俺自身は全裸にでもならない限りまるで相手にならないのだ。
手合わせを拒否する理由を一生懸命探していると、ケニスさんがスッと顔を近づけてきた。
(ここで断ったら、またさっきの空気に戻るんじゃないかな?)
(え?)
もしかしてこの人、俺のこと助けてくれようとしてる? 何のメリットがあってそんなことをするんだ?
でもたしかにケニスさんの言う通りだ……何もこんなところに来てまで色恋の話をするなんて冗談ではない。
「……わかりました、けどがっかりしないでくださいよ?」
「ありがとう!それじゃあ訓練場が近くにあるからそっちに移動しようか?」
色々と疑問は尽きない物の、結局俺はケニスさんの提案に乗ることにしたのだった。
「なんでこんなことになったんだろうなぁ……」
本家を出て歩くこと三分、ケニスさんの言っていた訓練場へと全員でやって来た。
訓練用の木刀をケニスさんから渡されて思わず茫然としていると、レリスが近寄って来た。
「なんだか変な事になってしまいましたわね」
「ほんとにね……ところで一つ聞きたいんだけど、ケニスさんって強いの?」
「少なくとも剣術ならわたくしと引けを取らない腕前ですわね」
レリスと同等か……こりゃ勝てそうにもないな。
テレアとの訓練に加えてレリスとも剣の訓練を日々繰り返している俺ではあるが、未だにレリスから一本取ったことがない。
それでも最近では両者から「初期とは見違えてきた」とお褒めの言葉を頂くことがあるが、俺の実力なんてたかが知れた物である。
「勝ち負けは抜きにして、胸を借りるつもりでよろしいかと」
「あっさり負けても、見放さないでね?」
「それはありえませんからご安心を」
そう言ってレリスがニッコリと微笑んだのを見て、少し気分が晴れた。
「そろそろ始めたいんだが、いいかな?」
「あっはい!」
ケニスさんに促されたので、俺はレリスとの話を打ち切りケニスさんの元へと向かう。
先ほどまでは如何にも貴族と言った身なりのいい服装だったが、これから運動をするからか今は動きやすさを重視した簡素な服へと着替えている。
それでも剣を持った姿が様になっているあたり、さすが正真正銘の爽やかイケメンの面目躍如といったところである。
「ルールは実戦形式の無制限一本勝負でいこう。それでいいかな?」
「構いませんよ」
「それじゃあ始めよう」
その声を合図に俺たちは距離を取り、剣を構える。
「レリス、審判を頼めないかな?」
「了解しましたわ」
ケニスさんによって審判へと任命されたレリスが、向かい合う俺たちの間にやって来て咳ばらいを一つ。
「それでは……はじめ!」
その声を合図に俺とケニスさんの実戦形式の模擬戦が始まった。
今までの俺なら先手必勝とばかりに飛びかかっていったものだが、俺も数々の戦いを経て成長しているのだ。
まずはケニスさんの出方を伺うべく、神経を研ぎ澄ます。
なにせ相手はレリスと同等の剣の腕らしいからな……迂闊に攻め込んではあっさり撃退されてしまうだろう。
じりじりとすり足で少しずつ距離を詰めつつ、ケニスさんから目を離さないように集中する。
ケニスさんの動きは未だに見られない……もうすぐお互いの剣の射程範囲に入るが……。
「……っ!」
刹那、木刀を中断に構えたままケニスさんが地を蹴って一気に距離を詰めてきた。
そのまま木刀をまっすぐに俺に向けて突き出したが、こちらも木刀の切っ先で払いのけることで相手の木刀を逸らした。
それでもこちらへ向かってくるケニスさんに向けて、俺も一歩踏み込み胴に向けて木刀を振りぬくが真横にスライドされて回避されてしまい俺の木刀が空を切った。
そのまま華麗な足運びで俺の死角に入り一撃を入れようとしてくるケニスさんだったが、そこはテレアとの実践訓練の賜物で、俺はなんとかその動きについていくことが出来る。
ケニスさんは突きを主体とした攻撃で俺を攻め立ててくるのに対し、それらをかわし、時に受け流しながら俺も攻撃のチャンスを伺う。
「膠着状態になりましたね」
「日本にいた頃の印象が強いせいで、未だにシュウがああやって戦ってる姿を見るのは違和感あるなぁ」
「一度その頃のシューイチ様のお話をスチカさんから聞かないといけませんわね」
「奇遇やな? うちもさっきのことについてレリスと話したいことあるねんな?」
なんか外野で女同士の戦いが勃発しようとしているが、それは今どうでもいい。
「中々やるじゃないか!さすが冒険者として名を馳せるだけはあるね!」
「結構一杯一杯なんですけどね!」
横薙ぎにした木刀をひらりとかわしたケニスさんが、もう何度目かの突き攻撃を放ってくる。
それを身体を逸らすことで回避したが、その瞬間俺の脳内に警笛が発せられた。
「……うわっと!」
突き出された木刀が制止したかと思ったその刹那、木刀の切っ先がこちらに向きを変えてそのまま横に振りぬかれた。
すんでのところでそれをしゃがんで回避した俺はたまらずバックステップで距離を取る。
あっぶねぇ……! なんとかかわせたけど完全に意表を突かれた攻撃だったぞ今の!
「今ので決めるつもりだったんだが……中々勘が鋭いじゃないか」
「それだけ生きてるような物なんでね」
今までの突きを主体とした攻撃はこの攻撃の為の伏線だったのか……油断も隙もあったもんじゃないな。
恐らくこれからは突き以外の攻撃も織り交ぜてくるだろう……気を引き締めないと!
「久々に本気で打ち合えそうだ……行くよ!」
「こっちは手加減をお願いしたいんですけどね!」
さっきとは打って変わってより攻撃的な空気を纏ったケニスさんが木刀を上段に構えた状態でこちらに向かって突進してきた。
俺もそれを迎え撃とうと木刀を強く握りなおした―――
「そこまで!」
―――ところで聞きなれない女性の声が訓練場に響き渡ったことにより、全員がそちらに注視し、勝負が中断された。
「客室に行ったら誰もいないから変だと思って訓練場まで来てみたら……なかなか面白いことしてるのね」
そこには整った顔立ちで腰まで届く綺麗な黒髪の女性が呆れたような顔をしながら立っていた。
その顔立ちは俺の知っている誰かさんを彷彿とさせる。
「ティニアお姉様!!」
「ティニア!」
レリスとケニスさんに名前を呼ばれたその女性が俺たちの元へとゆっくり歩いてきた。
「勝負はここで中断してね?」
「残念だけど仕方ないね……中々楽しかったよハヤマ君」
「えっと……こちらこそ」
ていうかあのまま戦ってたら多分負けてたな俺。打ち合っている間に手加減されてるのを感じてたし。
少しばかりの悔しさが俺の心にしこりを残す。俺もこういうことで悔しさを感じるようになったんだなぁ……もっと強くならないとな。
「ケニスが失礼しましたね……それとお待たせしてしまってごめんなさい。私がレリスの姉のティニア=エレニカです。初めましてハヤマ=シューイチさん」
ていうかね……敷地内を5分も馬車で行かないと見えてこないってどんだけだよ……もっと近い場所に家を作りなさいよ……。
馬繋場にて馬を停めてケニスさんたちと合流し、そのまま本家の建物の中へと足を踏み入れていく。
さすがにアーデンハイツ城には負けるものの、この家も昔ネットで見たセレブがシャンパン片手に微笑んでる写真を彷彿とさせる、色々と規格外の立派な内装だ。
こういうところに来ると俺のちっぽけな庶民根性が刺激されてしまって精神衛生上よろしくない。
そのまま俺たちはルミスたちを含めて客室へと通された。
「じゃあティニアを呼んでくるから少しだけ待っていてもらえないかな?」
そう言い残してケニスさんは客室の扉を静かに閉めた。
思わず俺以外の全員を見回すと、エナとスチカに至ってはもうこういう場にすっかり慣れてしまっているのか平然としており、近くにあったソファに腰かけて何やら楽しそうに談笑していた。
レリスは双子の妹たちに引っ切り無しに纏わりつかれており、苦笑いも浮かべつつもどこか嬉しそうにも見えた。
うーむ……俺だけが手持ち無沙汰になってしまったな。
仕方なしにとその辺に飾られている豪華な壺やら油絵を眺めていると、二つの小さな気配が近づいてきた。
「……ん?どうしたんだ?」
レリスと楽しそうに談笑してたはずの双子が俺を見上げていたので、かがんで目線の高さを合わせる。
双子のうちの一人であるルミスが俺の顔を不思議そうな顔して見つめてから、口を開いた。
「おにーさんはお兄ちゃんなのです?」
「えっと……どういう意味かな?」
「おにーさんは、レリスお姉様と夫婦になるの……?」
ルミアの発言に思わず吹き出してしまった。
えっ!? いきなり何を言い出すのこの双子のモンチッチたちは!?
「ゲホゲホ、……ごほん! もしかしてお姉ちゃんから何か聞いたのか?」
「『シューイチ様はわたくしの婚約者だから、失礼のないように』っとレリスお姉様が言ってたのですよー」
思わず勢いよくレリスに振り返ると、ばつが悪そうな顔してさっと顔を逸らされた。
ありゃ思わず口が滑ったって顔だな……どうしたもんか。
「ちょいまち、今なんか聞き捨てならん台詞が聞こえてきたんやけど?」
なぜかその言葉に反応してやたらと険しい表情をしたスチカが俺たちの間に割り込んできた。
エナと話してたはずなのになんでこういう時に抜群の聴覚を発揮するかなぁ!?
「シュウ……お前昔うちが日本におるころに、うちのこと嫁さんにしてくれるって約束したの覚えてんやろ?」
「えっと……」
実は完全に思い出しておりますです、はい……。
とはいえそれはよくある子供同士が口約束で交わすアレであって……そこまで本気じゃないと思ってたんだけど。
「あれはそういうノリの冗談なのかと……」
「うちは冗談でそういうことは言わんで?」
場の空気が一瞬で殺伐とした物へと変貌した。
頼みの綱であるエナはなんが面白いのかニヤニヤしながら成り行きを見守っているし、レリスはレリスでなんかすっげー真顔で俺とスチカのこと見てるし、この空気を作り出した原因の双子のモンチッチたちはすでに飽きたのか元気に追いかけっこを始めてしまっている始末だ。
えー、どうすればいいのこの空気?
「やあ、お待たせ。ティニアの仕事がまだ終わらなくてね、もうすぐ行くから先に戻っていて待っていてくれと言われてしまったよ」
そこへ客室の扉を開けて、ケニスさんが苦笑いをしながら入って来た。
「そうなんですね!! いやー参ったなぁ!!」
これ幸いとばかりに、逃げるようにケニスさんに駆け寄っていき大げさに話しかけた。
ううっ……これってなんか最低な男が取る行動だよなぁ……。
いや、いつまでもはっきりしない俺がいけないのもあるんだけどさ。
そんなことを心の中で思いながら少し重たい気分に浸っていると、ケニスさんが俺の肩に手に置いて口を開いた。
「大丈夫、君は最低なんかじゃないよ」
「はいっ?」
間の抜けた返事を返す俺に対し、ケニスさんがニッコリと返してきた。
何だこの感覚……今もしかして……?
「そうだ、ティニアが来るまでまだ時間があるみたいだし一つ君に頼みたいことがあるんだ」
「俺に……ですか?」
ぶっちゃけさっきの空気はちょっと耐えれられない物があるので、そこから脱出できるなら頼みごとの一つや二つなんでもござれだ!
「僕と剣による手合わせをお願いしたいんだけど」
「……俺と手合わせですか!?」
確かになんでもとは思ったが、いきなり手合わせだなんて……何を考えてるんだこの人は!?
困惑した表情でケニスさんを見ていると、まるで俺の心を見透かしているかのように再びニッコリと微笑む。
「君は僕の元にまで噂が届くほどの凄腕の冒険者だからね、それならぜひ一度その実力を見てみたいと思ったんだが」
「いやいや!俺なんてそんな大したもんじゃないんで!」
これは謙遜でもなんでもなく本心だ。
実際に俺たちのパーティーで本当に凄いのは俺以外の仲間たちであって、俺自身は全裸にでもならない限りまるで相手にならないのだ。
手合わせを拒否する理由を一生懸命探していると、ケニスさんがスッと顔を近づけてきた。
(ここで断ったら、またさっきの空気に戻るんじゃないかな?)
(え?)
もしかしてこの人、俺のこと助けてくれようとしてる? 何のメリットがあってそんなことをするんだ?
でもたしかにケニスさんの言う通りだ……何もこんなところに来てまで色恋の話をするなんて冗談ではない。
「……わかりました、けどがっかりしないでくださいよ?」
「ありがとう!それじゃあ訓練場が近くにあるからそっちに移動しようか?」
色々と疑問は尽きない物の、結局俺はケニスさんの提案に乗ることにしたのだった。
「なんでこんなことになったんだろうなぁ……」
本家を出て歩くこと三分、ケニスさんの言っていた訓練場へと全員でやって来た。
訓練用の木刀をケニスさんから渡されて思わず茫然としていると、レリスが近寄って来た。
「なんだか変な事になってしまいましたわね」
「ほんとにね……ところで一つ聞きたいんだけど、ケニスさんって強いの?」
「少なくとも剣術ならわたくしと引けを取らない腕前ですわね」
レリスと同等か……こりゃ勝てそうにもないな。
テレアとの訓練に加えてレリスとも剣の訓練を日々繰り返している俺ではあるが、未だにレリスから一本取ったことがない。
それでも最近では両者から「初期とは見違えてきた」とお褒めの言葉を頂くことがあるが、俺の実力なんてたかが知れた物である。
「勝ち負けは抜きにして、胸を借りるつもりでよろしいかと」
「あっさり負けても、見放さないでね?」
「それはありえませんからご安心を」
そう言ってレリスがニッコリと微笑んだのを見て、少し気分が晴れた。
「そろそろ始めたいんだが、いいかな?」
「あっはい!」
ケニスさんに促されたので、俺はレリスとの話を打ち切りケニスさんの元へと向かう。
先ほどまでは如何にも貴族と言った身なりのいい服装だったが、これから運動をするからか今は動きやすさを重視した簡素な服へと着替えている。
それでも剣を持った姿が様になっているあたり、さすが正真正銘の爽やかイケメンの面目躍如といったところである。
「ルールは実戦形式の無制限一本勝負でいこう。それでいいかな?」
「構いませんよ」
「それじゃあ始めよう」
その声を合図に俺たちは距離を取り、剣を構える。
「レリス、審判を頼めないかな?」
「了解しましたわ」
ケニスさんによって審判へと任命されたレリスが、向かい合う俺たちの間にやって来て咳ばらいを一つ。
「それでは……はじめ!」
その声を合図に俺とケニスさんの実戦形式の模擬戦が始まった。
今までの俺なら先手必勝とばかりに飛びかかっていったものだが、俺も数々の戦いを経て成長しているのだ。
まずはケニスさんの出方を伺うべく、神経を研ぎ澄ます。
なにせ相手はレリスと同等の剣の腕らしいからな……迂闊に攻め込んではあっさり撃退されてしまうだろう。
じりじりとすり足で少しずつ距離を詰めつつ、ケニスさんから目を離さないように集中する。
ケニスさんの動きは未だに見られない……もうすぐお互いの剣の射程範囲に入るが……。
「……っ!」
刹那、木刀を中断に構えたままケニスさんが地を蹴って一気に距離を詰めてきた。
そのまま木刀をまっすぐに俺に向けて突き出したが、こちらも木刀の切っ先で払いのけることで相手の木刀を逸らした。
それでもこちらへ向かってくるケニスさんに向けて、俺も一歩踏み込み胴に向けて木刀を振りぬくが真横にスライドされて回避されてしまい俺の木刀が空を切った。
そのまま華麗な足運びで俺の死角に入り一撃を入れようとしてくるケニスさんだったが、そこはテレアとの実践訓練の賜物で、俺はなんとかその動きについていくことが出来る。
ケニスさんは突きを主体とした攻撃で俺を攻め立ててくるのに対し、それらをかわし、時に受け流しながら俺も攻撃のチャンスを伺う。
「膠着状態になりましたね」
「日本にいた頃の印象が強いせいで、未だにシュウがああやって戦ってる姿を見るのは違和感あるなぁ」
「一度その頃のシューイチ様のお話をスチカさんから聞かないといけませんわね」
「奇遇やな? うちもさっきのことについてレリスと話したいことあるねんな?」
なんか外野で女同士の戦いが勃発しようとしているが、それは今どうでもいい。
「中々やるじゃないか!さすが冒険者として名を馳せるだけはあるね!」
「結構一杯一杯なんですけどね!」
横薙ぎにした木刀をひらりとかわしたケニスさんが、もう何度目かの突き攻撃を放ってくる。
それを身体を逸らすことで回避したが、その瞬間俺の脳内に警笛が発せられた。
「……うわっと!」
突き出された木刀が制止したかと思ったその刹那、木刀の切っ先がこちらに向きを変えてそのまま横に振りぬかれた。
すんでのところでそれをしゃがんで回避した俺はたまらずバックステップで距離を取る。
あっぶねぇ……! なんとかかわせたけど完全に意表を突かれた攻撃だったぞ今の!
「今ので決めるつもりだったんだが……中々勘が鋭いじゃないか」
「それだけ生きてるような物なんでね」
今までの突きを主体とした攻撃はこの攻撃の為の伏線だったのか……油断も隙もあったもんじゃないな。
恐らくこれからは突き以外の攻撃も織り交ぜてくるだろう……気を引き締めないと!
「久々に本気で打ち合えそうだ……行くよ!」
「こっちは手加減をお願いしたいんですけどね!」
さっきとは打って変わってより攻撃的な空気を纏ったケニスさんが木刀を上段に構えた状態でこちらに向かって突進してきた。
俺もそれを迎え撃とうと木刀を強く握りなおした―――
「そこまで!」
―――ところで聞きなれない女性の声が訓練場に響き渡ったことにより、全員がそちらに注視し、勝負が中断された。
「客室に行ったら誰もいないから変だと思って訓練場まで来てみたら……なかなか面白いことしてるのね」
そこには整った顔立ちで腰まで届く綺麗な黒髪の女性が呆れたような顔をしながら立っていた。
その顔立ちは俺の知っている誰かさんを彷彿とさせる。
「ティニアお姉様!!」
「ティニア!」
レリスとケニスさんに名前を呼ばれたその女性が俺たちの元へとゆっくり歩いてきた。
「勝負はここで中断してね?」
「残念だけど仕方ないね……中々楽しかったよハヤマ君」
「えっと……こちらこそ」
ていうかあのまま戦ってたら多分負けてたな俺。打ち合っている間に手加減されてるのを感じてたし。
少しばかりの悔しさが俺の心にしこりを残す。俺もこういうことで悔しさを感じるようになったんだなぁ……もっと強くならないとな。
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