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偽物~彼女を呼び戻すために~
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ケニスさんの着替えが終わるのを待ってから、俺たちは再びエレニカ財閥の本家へと移動し、今度は客室ではなく応接間へと通された。
ちなみにルミスとルミアは「これから大人の話をするから」とティニアさんに諭されて、どこぞへと遊びに行ってしまった。まあ難しい話をするだろうし、あの子たちには直接関係はないことだしな。
「では改めまして……ティニア=エレニカです。財閥の代表補佐を務めさせていただいております、どうぞよろしくお願いします」
ティニアさんの自己紹介を皮切りに、こちらもそれぞれ自己紹介をしていく最中、終始レリスがばつの悪そうな表情をして俯いてしまっていた。
聞けば家出も当然だったというし、合わせる顔がないと言った心境なんだろうな……。
「レリス」
自己紹介が終わったところでティニアさんがレリスに声を掛けると、レリスの肩がその声に反応してビクッとなる。
「レリス、お願い顔を上げてちょうだい?」
「……ティニアお姉様……」
相変わらずばつが悪そうな顔をしたまま、レリスが恐る恐る顔を上げてティニアさんと目を合わせる。
それに対しティニアさんは怒ってるわけでもないらしく、顔には微笑を浮かべてさえいる。
「あなたの家を出てからの動向は、ソニアさんを通じて私に伝わっていたわ。あれから二か月くらいかしらね? ……そんなに長い時間じゃないはずだけど、随分と見違えたわ」
「……怒ってはおりませんの?」
「怒る? 財閥という狭い世界しか知らなかったレリスが、外の世界で多くのことを学び成長した姿を見せに来てくれたのに、どうして怒らなければいけないのかしら?」
何だこの人、女神様か何かなの?
家出当然で財閥を飛び出したレリスを咎めるわけでもなく、むしろその行為自体を悪いことと断定せずむしろ肯定すらし、成長したレリスを褒めるだなんて。
昔俺が小学生だったころに家出した時なんかは、母さんにビンタされたというのに……まああれは心配させてしまった俺のせいなんだけどさ。
「だからそんな顔をしないでちょうだい? こうして元気な姿を再び見られて私は本当に嬉しく思っているのよ?」
「お姉様……ありがとうございます。そしてご迷惑をおかけしましたわ」
ティニアさんと再会してからというもの、ずっと沈んだ表情だったレリスにようやく笑顔が戻った。
そんな二人のやり取りを見ていた俺たちもほっと一息だ……こう見えても結構レリスのことは心配してたからね。
「皆様もレリスを迎え入れていただき、本当にありがとうございます」
レリスから視線を外したティニアさんが、俺たちに向けて深々と頭を下げてきた。
「気にしないでください、俺たちは特にお礼を言われるようなことなんてしてませんから!」
「そうですよ!むしろお世話になってるのは私たちの方なんですから!」
「そうそう!美味しいごはんやお菓子作ってくれたりな!」
「拠点の掃除なんかも率先してやってもらってますし、資産の管理なんかもやってもらってますし!」
「あんたらレリスがいないと何もできんとちゃうか?」
レリスの有用さを必死で話していると、横からスチカの鋭いツッコミが飛んできた。
実際問題、俺たちのパーティーはレリスの手腕によって運営されてるところが大きいからな……いつの間にこうなったんだろうか?
「ふふふ……ソニアさんの報告通り面白い人たちですね。ちょっとだけレリスが羨ましいわ」
「……自慢の仲間たちですから」
ティニアさんの言葉にレリスが少し照れたように顔を赤くしつつも笑顔で返した。
それからしばし世間話に花が咲くが、10分ほど話し込んだところでケニスさんがティニアさんに目配せをしたことで、世間話タイムは終了となった。
「さて……本題の方に入りましょうか。本日はどのようなご用件で?」
今までとは違い凛とした表情となったティニアさんが、真剣な目でこちらを見据えてくる。
その雰囲気はさすがはエレニカ財閥の時期代表といったところだった。
「俺たちがそもそもアーデンハイツに来たのは、ソニアさんからティニアさんたちの様子が変だと報告を受けたからなんですが……」
下手に隠してもしょうがないと悟った俺は、直球勝負に出た。
これまでのやり取りでティニアさんとケニスさんの人となりは把握し、信用に値する人物であることはわかったがそれとこれとは話が別だからな。
「私たちの様子がおかしい?」
「レリスの監視を辞めるように言ったそうじゃないですか?それを不審に思ったソニアさんが俺にコンタクトを取ってきたことがそもそもの始まりなんですよ」
「……本当にソニアさんがそう言ったのですか?」
「えっと……はい」
何やら怪訝な表情をしながら、再度俺に確認を取ったティニアさんが口元の手を当てて眉をひそめた。
「そんな指令はソニアさんに出してはいないのですが……おかしいですね……」
「そうなんですか?」
「ええ、私がソニアさんに監視を辞めるように指令を出すなら、それこそレリスを説得して連れ戻すように付け加えます」
やっぱりそうだよな……ただ監視を辞めろだなんてそれは遠回しにもう放っておけって言ってるようなもんだし。ここまでのレリスとのやり取りを見てて、この人がそんな人ではないことは十分に分かっているつもりだ。
「そうなると考えられるのは、誰かが私の振りをしてソニアさんにそういう指令を出したってことになりますね」
「その線が濃厚ですけど、それだとだれが何のためにって話になりますねぇ……」
ティニアさんの言葉を受けて、エナが考え込むそぶりをする。
それに倣って俺も思考を巡らす。
ティニアさんの振りをしてソニアさんに嘘の指令を出すことで、誰に何のメリットがあるんだろう?
それにレリスの性格を考えると「監視を辞めろ」だなんて指令が出たことを伝えたら、絶対不振に思って財閥へ戻ろうと思うはずなのに。
……まてよ? レリスがそういう性格なのを知って、あえてそう言う指令を出してそれをソニアさんに伝えさせた……?
もしそうならティニアさんの振りをした誰かは、レリスをアーデンハイツないしエレニカ財閥に呼び戻す意図があったということになる。
誰が一体何のために……?
「あっ……!?」
「ん?どないしたシュウ?」
「いや……なんでもない」
一つ可能性が頭をよぎり、俺はつい声を漏らしてしまった。
もしこの可能性が現実の物だとしたら、いろんなことが一本に繋がってしまうが、さすがにこの考えを今ここで口に出すにはあまりにもこちらの情報が少なすぎる。
俺がそんな風に頭の中で思考を展開している様子を、ケニスさんが真剣な表情で見ていた。
「えっと……なにか?」
「いや、気にしないでくれ」
そう言われてもめっちゃ気になるんだが……さっきから薄々思ってることなんけど、もしかしてこの人そっちの趣味があるんじゃないだろうな?
なんか俺に対する視線や距離感が近いというか……。
「この件に関しては後でこちらからもソニアさんに確認を取っておきます。情報の提供感謝します」
「いえいえ! ……えっともう一つだけ聞きたいことがあるんですけど」
とりあえずケニスさんのことは頭の片隅に置いておいて、俺はエレニカ財閥がアーデンハイツの王族から派生して生まれたことを前置きとしてティニアさんに話していき、本題に触れていく。
「この国が神獣の加護を受けていることはご存知ですよね?」
「……そうですね。それはこの国の王族やそこから派生したエレニカ財閥の一部の人たちだけで、一般には知らされていないこの国の事情です」
それを知っているなら話は早いな。
「では単刀直入に聞きますが、この国の神獣を蘇らせるのに必要な二つの宝石について、何か知っている情報があれば教えてもらいたいんです」
「……失礼ですが、それを知ってどうしたいのでしょうか?」
こちらの真意を見定めようとティニアさんの目が鋭くなった。
これで何の疑いもなくこちらに情報を提供してきたら、逆に疑いを強めていたところなのでその当たり前の反応に少しばかり安心してしまった。
「こちらの情報も隠さずに話しますが、俺たちは一年以内……実質もう半年くらいしかないんですが、この世界の四神獣を鎮めなければならないんです」
「その話の根拠はおありで?」
「今ここにはいませんが、俺の仲間のうちの一人が実際に玄武の加護を受けていて、そこのレリスも朱雀の加護を実際に受けています」
「レリスが!?」
レリスを見ながらティニアさんが思わず椅子から立ち上がった。
てっきりこの情報はソニアさんを通じて伝わっているものだと思っていたが、そうじゃなかったみたいだ。
よくよく考えればフリルが玄武の加護を受けた時はまだレリスとは知り合ってなかったし、レリスが朱雀の加護を受けた時はダンジョンの最深部だったから、さすがのソニアさんと言えど把握しきれてなかったんだろうな。
「実のところソニアさんからの連絡がなくても、俺たちは神獣の件でこの国には来る予定でした。王様からも直々に許可をもらって俺たちはここに来ています。すぐに信じられないのはわかりますが、どうか神獣について知っている情報があれば教えていただけないでしょうか?」
俺の言葉を受けて、ティニアさんが押し黙る。
「それとカルマ教団という邪神を信仰している宗教団体があるんですが、そいつらがこの国の神獣の力を手に入れようとすでに行動を開始していて、実際に国に対して何らかのアクションを起こしてると王様から聞きました。ケニスさんの前で言うのはあれですが、あいつらはグウレシア家と手を組んでいるらしく、俺たちがこの国に来る道中で何度か襲撃を受けたんですよ」
「カルマ教団……グウレシア家……」
訝しげに俺を見つつティニアさんが呟く。
やはりそう簡単には信じてもらえないだろうな……とりあえず今日のところはこの辺にして明日また改めて来た方がよさそうだな。
「ティニア、彼の言うことは信じてもいいよ」
俺がそんなことを思っていると、ティニアさんの隣に座るケニスさんが突如口を開いた。
今までずっとこちらの様子を見ていただけだったので、ちょっとビックリした。
それはティニアさんも同じだったようで、驚いた顔をしながらケニスさんの顔をじっと見つめている。
「……あなたがそういうなら、きっと彼のことは信じても大丈夫なのね……」
「うん、僕が保証するよ」
「……わかりました。ですがハヤマさん、この件に関しては私一人の一存では決められません。父に話を通して確認と許可をもらわないといけないのです」
生憎代表であるレリスたちの父親は留守にしており、夜にならないと帰ってこないらしい。
それならと、また明日改めて父親を交えて話し合いをすることとし、今回の話し合いはお開きと相成った。
ティニアさんに見送られる形でエレニカ財閥の本家の屋敷を出た俺たちは、丁度帰るところだったケニスさんの乗る馬車に続いて来た道を引き返していく。
「どうなることかと思ったけど、この調子なら明日には有力な情報を得られそうだな」
「そうですね……色々と謎は残りましたが」
ティニアさんの振りをしてソニアさんに偽の指令を出したという謎の人物の存在……どうにも不気味である。
「明日はグウレシア家にも足を運ばないといけませんわね」
「グウレシア家と言えば……」
どうにもケニスさんの存在が俺の心に大きな印象を残した。
なんだろうな……あの俺のことを見透かしたような態度と言動は? でもあんまり不快感は感じないのが不思議だ。
彼の雰囲気がそうさせるのか、はたまた剣を交えたことで俺の中で一定の信頼をあの人に置くことができたからなのか……理由はわからない。
現状敵であるかもしれないグウレシア家の人間であるはずなのに、なぜか信じてもいいと思える何かが彼にはある。ティニアさんもケニスさんには全幅の信頼を置いているみたいだし。
色々な感情を乗せたまま、馬車はエレニカ財閥の敷地の出口へと向けてゆっくりと進んでいくのであった。
ちなみにルミスとルミアは「これから大人の話をするから」とティニアさんに諭されて、どこぞへと遊びに行ってしまった。まあ難しい話をするだろうし、あの子たちには直接関係はないことだしな。
「では改めまして……ティニア=エレニカです。財閥の代表補佐を務めさせていただいております、どうぞよろしくお願いします」
ティニアさんの自己紹介を皮切りに、こちらもそれぞれ自己紹介をしていく最中、終始レリスがばつの悪そうな表情をして俯いてしまっていた。
聞けば家出も当然だったというし、合わせる顔がないと言った心境なんだろうな……。
「レリス」
自己紹介が終わったところでティニアさんがレリスに声を掛けると、レリスの肩がその声に反応してビクッとなる。
「レリス、お願い顔を上げてちょうだい?」
「……ティニアお姉様……」
相変わらずばつが悪そうな顔をしたまま、レリスが恐る恐る顔を上げてティニアさんと目を合わせる。
それに対しティニアさんは怒ってるわけでもないらしく、顔には微笑を浮かべてさえいる。
「あなたの家を出てからの動向は、ソニアさんを通じて私に伝わっていたわ。あれから二か月くらいかしらね? ……そんなに長い時間じゃないはずだけど、随分と見違えたわ」
「……怒ってはおりませんの?」
「怒る? 財閥という狭い世界しか知らなかったレリスが、外の世界で多くのことを学び成長した姿を見せに来てくれたのに、どうして怒らなければいけないのかしら?」
何だこの人、女神様か何かなの?
家出当然で財閥を飛び出したレリスを咎めるわけでもなく、むしろその行為自体を悪いことと断定せずむしろ肯定すらし、成長したレリスを褒めるだなんて。
昔俺が小学生だったころに家出した時なんかは、母さんにビンタされたというのに……まああれは心配させてしまった俺のせいなんだけどさ。
「だからそんな顔をしないでちょうだい? こうして元気な姿を再び見られて私は本当に嬉しく思っているのよ?」
「お姉様……ありがとうございます。そしてご迷惑をおかけしましたわ」
ティニアさんと再会してからというもの、ずっと沈んだ表情だったレリスにようやく笑顔が戻った。
そんな二人のやり取りを見ていた俺たちもほっと一息だ……こう見えても結構レリスのことは心配してたからね。
「皆様もレリスを迎え入れていただき、本当にありがとうございます」
レリスから視線を外したティニアさんが、俺たちに向けて深々と頭を下げてきた。
「気にしないでください、俺たちは特にお礼を言われるようなことなんてしてませんから!」
「そうですよ!むしろお世話になってるのは私たちの方なんですから!」
「そうそう!美味しいごはんやお菓子作ってくれたりな!」
「拠点の掃除なんかも率先してやってもらってますし、資産の管理なんかもやってもらってますし!」
「あんたらレリスがいないと何もできんとちゃうか?」
レリスの有用さを必死で話していると、横からスチカの鋭いツッコミが飛んできた。
実際問題、俺たちのパーティーはレリスの手腕によって運営されてるところが大きいからな……いつの間にこうなったんだろうか?
「ふふふ……ソニアさんの報告通り面白い人たちですね。ちょっとだけレリスが羨ましいわ」
「……自慢の仲間たちですから」
ティニアさんの言葉にレリスが少し照れたように顔を赤くしつつも笑顔で返した。
それからしばし世間話に花が咲くが、10分ほど話し込んだところでケニスさんがティニアさんに目配せをしたことで、世間話タイムは終了となった。
「さて……本題の方に入りましょうか。本日はどのようなご用件で?」
今までとは違い凛とした表情となったティニアさんが、真剣な目でこちらを見据えてくる。
その雰囲気はさすがはエレニカ財閥の時期代表といったところだった。
「俺たちがそもそもアーデンハイツに来たのは、ソニアさんからティニアさんたちの様子が変だと報告を受けたからなんですが……」
下手に隠してもしょうがないと悟った俺は、直球勝負に出た。
これまでのやり取りでティニアさんとケニスさんの人となりは把握し、信用に値する人物であることはわかったがそれとこれとは話が別だからな。
「私たちの様子がおかしい?」
「レリスの監視を辞めるように言ったそうじゃないですか?それを不審に思ったソニアさんが俺にコンタクトを取ってきたことがそもそもの始まりなんですよ」
「……本当にソニアさんがそう言ったのですか?」
「えっと……はい」
何やら怪訝な表情をしながら、再度俺に確認を取ったティニアさんが口元の手を当てて眉をひそめた。
「そんな指令はソニアさんに出してはいないのですが……おかしいですね……」
「そうなんですか?」
「ええ、私がソニアさんに監視を辞めるように指令を出すなら、それこそレリスを説得して連れ戻すように付け加えます」
やっぱりそうだよな……ただ監視を辞めろだなんてそれは遠回しにもう放っておけって言ってるようなもんだし。ここまでのレリスとのやり取りを見てて、この人がそんな人ではないことは十分に分かっているつもりだ。
「そうなると考えられるのは、誰かが私の振りをしてソニアさんにそういう指令を出したってことになりますね」
「その線が濃厚ですけど、それだとだれが何のためにって話になりますねぇ……」
ティニアさんの言葉を受けて、エナが考え込むそぶりをする。
それに倣って俺も思考を巡らす。
ティニアさんの振りをしてソニアさんに嘘の指令を出すことで、誰に何のメリットがあるんだろう?
それにレリスの性格を考えると「監視を辞めろ」だなんて指令が出たことを伝えたら、絶対不振に思って財閥へ戻ろうと思うはずなのに。
……まてよ? レリスがそういう性格なのを知って、あえてそう言う指令を出してそれをソニアさんに伝えさせた……?
もしそうならティニアさんの振りをした誰かは、レリスをアーデンハイツないしエレニカ財閥に呼び戻す意図があったということになる。
誰が一体何のために……?
「あっ……!?」
「ん?どないしたシュウ?」
「いや……なんでもない」
一つ可能性が頭をよぎり、俺はつい声を漏らしてしまった。
もしこの可能性が現実の物だとしたら、いろんなことが一本に繋がってしまうが、さすがにこの考えを今ここで口に出すにはあまりにもこちらの情報が少なすぎる。
俺がそんな風に頭の中で思考を展開している様子を、ケニスさんが真剣な表情で見ていた。
「えっと……なにか?」
「いや、気にしないでくれ」
そう言われてもめっちゃ気になるんだが……さっきから薄々思ってることなんけど、もしかしてこの人そっちの趣味があるんじゃないだろうな?
なんか俺に対する視線や距離感が近いというか……。
「この件に関しては後でこちらからもソニアさんに確認を取っておきます。情報の提供感謝します」
「いえいえ! ……えっともう一つだけ聞きたいことがあるんですけど」
とりあえずケニスさんのことは頭の片隅に置いておいて、俺はエレニカ財閥がアーデンハイツの王族から派生して生まれたことを前置きとしてティニアさんに話していき、本題に触れていく。
「この国が神獣の加護を受けていることはご存知ですよね?」
「……そうですね。それはこの国の王族やそこから派生したエレニカ財閥の一部の人たちだけで、一般には知らされていないこの国の事情です」
それを知っているなら話は早いな。
「では単刀直入に聞きますが、この国の神獣を蘇らせるのに必要な二つの宝石について、何か知っている情報があれば教えてもらいたいんです」
「……失礼ですが、それを知ってどうしたいのでしょうか?」
こちらの真意を見定めようとティニアさんの目が鋭くなった。
これで何の疑いもなくこちらに情報を提供してきたら、逆に疑いを強めていたところなのでその当たり前の反応に少しばかり安心してしまった。
「こちらの情報も隠さずに話しますが、俺たちは一年以内……実質もう半年くらいしかないんですが、この世界の四神獣を鎮めなければならないんです」
「その話の根拠はおありで?」
「今ここにはいませんが、俺の仲間のうちの一人が実際に玄武の加護を受けていて、そこのレリスも朱雀の加護を実際に受けています」
「レリスが!?」
レリスを見ながらティニアさんが思わず椅子から立ち上がった。
てっきりこの情報はソニアさんを通じて伝わっているものだと思っていたが、そうじゃなかったみたいだ。
よくよく考えればフリルが玄武の加護を受けた時はまだレリスとは知り合ってなかったし、レリスが朱雀の加護を受けた時はダンジョンの最深部だったから、さすがのソニアさんと言えど把握しきれてなかったんだろうな。
「実のところソニアさんからの連絡がなくても、俺たちは神獣の件でこの国には来る予定でした。王様からも直々に許可をもらって俺たちはここに来ています。すぐに信じられないのはわかりますが、どうか神獣について知っている情報があれば教えていただけないでしょうか?」
俺の言葉を受けて、ティニアさんが押し黙る。
「それとカルマ教団という邪神を信仰している宗教団体があるんですが、そいつらがこの国の神獣の力を手に入れようとすでに行動を開始していて、実際に国に対して何らかのアクションを起こしてると王様から聞きました。ケニスさんの前で言うのはあれですが、あいつらはグウレシア家と手を組んでいるらしく、俺たちがこの国に来る道中で何度か襲撃を受けたんですよ」
「カルマ教団……グウレシア家……」
訝しげに俺を見つつティニアさんが呟く。
やはりそう簡単には信じてもらえないだろうな……とりあえず今日のところはこの辺にして明日また改めて来た方がよさそうだな。
「ティニア、彼の言うことは信じてもいいよ」
俺がそんなことを思っていると、ティニアさんの隣に座るケニスさんが突如口を開いた。
今までずっとこちらの様子を見ていただけだったので、ちょっとビックリした。
それはティニアさんも同じだったようで、驚いた顔をしながらケニスさんの顔をじっと見つめている。
「……あなたがそういうなら、きっと彼のことは信じても大丈夫なのね……」
「うん、僕が保証するよ」
「……わかりました。ですがハヤマさん、この件に関しては私一人の一存では決められません。父に話を通して確認と許可をもらわないといけないのです」
生憎代表であるレリスたちの父親は留守にしており、夜にならないと帰ってこないらしい。
それならと、また明日改めて父親を交えて話し合いをすることとし、今回の話し合いはお開きと相成った。
ティニアさんに見送られる形でエレニカ財閥の本家の屋敷を出た俺たちは、丁度帰るところだったケニスさんの乗る馬車に続いて来た道を引き返していく。
「どうなることかと思ったけど、この調子なら明日には有力な情報を得られそうだな」
「そうですね……色々と謎は残りましたが」
ティニアさんの振りをしてソニアさんに偽の指令を出したという謎の人物の存在……どうにも不気味である。
「明日はグウレシア家にも足を運ばないといけませんわね」
「グウレシア家と言えば……」
どうにもケニスさんの存在が俺の心に大きな印象を残した。
なんだろうな……あの俺のことを見透かしたような態度と言動は? でもあんまり不快感は感じないのが不思議だ。
彼の雰囲気がそうさせるのか、はたまた剣を交えたことで俺の中で一定の信頼をあの人に置くことができたからなのか……理由はわからない。
現状敵であるかもしれないグウレシア家の人間であるはずなのに、なぜか信じてもいいと思える何かが彼にはある。ティニアさんもケニスさんには全幅の信頼を置いているみたいだし。
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