無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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信頼~最低同盟~

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 そろそろ真面目に話を聞こうと思い、真剣な声色と表情でケニスさんに言ったものの、当の本人は何がおかしいのかニコニコとしている。

「……まさかお城の俺の部屋に来てまで世間話しにきたわけじゃないですよね?」
「まあまあ、そんなに気負わなくてもいいよ。君たちがこの国に来るまでの間に家がしでかしたことを考えれば警戒されるのもわかるけどね」
「自分は無関係とでも?」
「僕自身の名誉のために言うけど、僕はその件に関しては無関係だよ」

 たしかにこの人の今までの言動や俺への態度を見てると、そう思いたくなるんだけどね。
 かといって簡単に信じて警戒を解く理由にはならない。

「今日君のところに来たのは、我が家の事情を話しておこうと思ってね」
「明日そちらに伺うことになってるはずですけど?」
「何も知らずにいては恐らく彼らの思うつぼになる可能性が高いからね。事前に色々と内情を知っておいた方がなにかと有利だと思わないかい?」

 たしかに……何分相手は一国の貴族だ。
 エナ曰く貴族は自らの保身の為なら割とどんなことでも平気でする傾向があるとのことだから、事前の予備知識を知っておくことは大事だ。
 でもケニスさんが今から話すことが事実であるという保証はない。

「君は中々に疑り深いんだね……もう一歩だけでいいから僕のことを信じてくれれば、これから僕の話すことが嘘じゃないってわかってもらえると思うんだけどね」
「そうは言われてもなぁ……」
「どうしたら信じてもらえるかな?」

 その言葉にうーんと頭を捻る。
 俺としては自分でも思っている以上に信頼を置いているつもりなんだけどなぁ……とはいえこれ以上は越えさせてはいけない一線というのは確実に存在しているので、こればっかりは……。

「よし!じゃあいいことを教えてあげよう!レリスのスリーサイズを知りたくないかい?」
「そんなことで俺を懐柔できると思わない方がいいですよ?一応聞いてあげますが」
「今君の心がどれだけテンションが上がっているか口頭で説明してあげようか?」

 やめて!今まで俺が保ってきた純真なイメージが崩れるから!!

「レリスがティニアに対してコンプレックスを持っていることは君も薄々気が付いてるとは思うが、唯一レリスがティニアに圧倒的に勝っている部分がある……それがあのレリスのプロポーションだ」
「でかいですからねぇ」

 なにがとは具体的には言わなかったものの、ケニスさんが大きく頷いてくれた。

「それについてはレリスもわかっているらしく、彼女は自分の体形を維持する為に並々ならぬ努力をしているんだ。それこそ日々の変動をミリ単位で暗記しているほどにね。彼女がそれを実際に口に出すことは絶対にないが、今日ティニアと話している時に自身の体形を比較した一瞬があってね……」

 まさかその一瞬の隙にレリスの心を読んで……。

「普通に最低ですね」
「僕を聖人君子か何かだと思っていたのかな? それに君だってさっき「貴族は自身の保身の為ならなんでもする連中」だと思っていたはずだよね?」
「そう言われてしまうと、俺はもうぐうの音もでないんですけど」

 俺のその言葉を同意と見たのか、ケニスさんが耳元へと顔を寄せてレリスの驚くべきそのプロポーションを上から順にそっと囁いた。
 その数字の大きさに俺は驚きで目を見開いた。

「……とんでもないですね……」
「ああ、本当にね……」

 俺の差し出した手を見て、ケニスさんが大きく頷きながら握手に応じてくれた。
 今ここに二人の間で確かな友情が芽生えたのだ。

「……というわけで、僕のことを信じてくれる気になったかな?」
「こんな秘密を知らされたのに、今更疑うなんてバカバカしいですよ」

 普通に最低なやり取りが展開されていたが、そこはまあ俺たちも男ということで……はい。
 そんなことを思っていると、ふと『あること』に気が付いた。

「……なるほど……そういうことでしたか」
「うん、それが君が僕のことを真に信頼してくれた証拠だよ。これでやっと真面目な話をする土台が整ったともいえる」

 たしかにこれなら俺もケニスさんをだますことが出来ないし、逆もまたしかりだ。
 それと同時に俺は一つの疑問が浮かんだ。

「これだとなんていうか……生きにくくありませんでしたか?」
「そうだね……この世界じゃ魔力を持たずに生まれてきたというだけで偏見に満ちた目で見られるばかりか、見下されるなんて日常茶飯事だったよ。加えてこの能力だろ? ティニアと出会って理解してもらえなかったら、僕は文字通り命を絶っていたかもしれないね」

 そうは言う物の、相変わらずケニスさんは笑顔だ。
 俺は残念ながらティニアさんではないので、ケニスさんの苦労を包み込んであげるなんてことは出来ないが、出来る限りの理解はしてあげたいと思う。
 それが俺という人間を信頼してくれているケニスさんにできる最大限の感謝なのだ。



 途中で休憩を挟みながらもケニスさんの話は続いていき、気が付いたら三時間ほど経っていた。
 中々にグウレシア家の濃い内情を聞かされたな……たしかにこれはあらかじめ知っておかないと、俺たちはまんまと騙されてしまっていたかもしれないな。
 しかしこの人はこれだけ濃い内情を抱えているグウレシア家で、魔力を持たないというハンデを背負っていたのにも関わらずここまで逞しく生き抜いてきたのか……。
 これはティニアさんと出会えてなかったら本当に自殺をしても仕方ない言えるな……俺のように日本でぬくぬくと生きてきた人間では到底耐えれない内情だ。

「あまり僕のことを買いかぶらないでほしいんだけどね。僕はぶっちゃけ自分とティニアのことだけしか考えてない人間だからね」
「その環境の中を生き抜いてきて、ティニアさんのことまで考えていられるだけでも凄いと思いますけどね」

 お互いに軽く笑いあう。

「さてと……思ったよりも時間が経ってしまったね……そろそろ僕はお暇するとしよう」
「城門まで送りましょうか?」
「いや見送りはいらないよ。そもそも僕はお忍びでここに来ているからね」
「ここでの話は俺の仲間たちに伝えても大丈夫なんですか?」
「君が伝えてもいい思った情報を取捨選択してくれればいいよ。君なら間違えないと思うし」

 爽やかイケメンスマイルにかこつけた、いわゆる丸投げである。
 まあ今ならこの人が俺のことを信頼してくれているはわかるし、俺だってもはやこの人をこれっぽっちも疑ってないからな。
 ケニスさんが俺という人間をここまで信じてくれたのだ……俺もそれに報いないといけない。

「それじゃあ僕はこれで失礼するよ。明日指定の時間には迎えにくるから、その時にまたよろしく」
「はい、今日はありがとうございました!」

 俺の言葉に笑顔と手を小さく振ることで返したケニスさんは、静かに部屋から出て行った。
 ケニスさんが閉めていった部屋の扉を見ながら、俺は一人思考を巡らせていく。
 真っ先に思い浮かんだのが「貴族ってやっぱり最低だな」であることから、ケニスさんの話がどんな内容であったかを察してもらえると思う。
 そんなことを思いつつため息を吐き、俺はズボンのポケットに入れてあった通信機を取り出し、とある連絡先を表示させて選択し、通信を試みる。
 数回のコール音を鳴らした後、相手からの反応がなかったので俺は通信終了のボタンを押した。

「ふむ……やっぱり出ないか……」

 意図的に出なかったのか、はたまた出れない状況なのかで解釈が変わってくるぞこれ。
 しかしアーデンハイツに来てまだ一日と経ってないが、色々と事情が変わってきてしまった。
 当初の目的ってなんだったっけ? そもそも神獣の手がかりを求めてきたはずなんだけどな。
 こうして面倒くさいことに巻き込まれるのはもはや通例なのかなぁ。
 手にした通信機を再びポケットにしまいながら、俺は小さくため息を吐いた。



 翌朝、朝食の時間ということでメイドさんに起こされた俺は眠い目をこすりながら顔を洗い、会食場へと足を運ぶと、俺以外のみんながなんかやたらと長いテーブルに並べられた豪華な椅子に座りながら俺を待っていた。
 昨日の夕食もこの場所で食べたんだが、この光景はやっぱり慣れないな……早くも俺たちの家が恋しい。

「おはようございますシューイチさん。珍しく起きるの遅かったですね?」
「まあ色々とあってね……寝るのが遅くなったんだ」

 実際にケニスさんが帰ったのは日が変わる直前だったからな。
 その後もケニスさんから聞いた話を元に色々と考察を重ねていたら、結構な時間となっていてそこから寝たので、実際の睡眠時間は3時間くらいだ。

「メイドから聞いたで。なんかシュウの元にお客さんが来てたんやろ?誰が来てん?」

 どうしよう……ケニスさんが昨日来てたことを皆に話してもいいんだろうか? 本人はどうするかは俺に任せると言っていたから、俺の好きにしていいと思うんだけどね。
 それに昨日のケニスさんのくれた情報は重要なことも多いので、みんなとある程度共有しておくことは大事だな。

「ケニスさんがいきなりやってきてね……」
「ケニス様が?」
「とりあえず朝食を食べながら、みんなに軽く説明していくよ」

 言いながら俺は席に着いて、皿に盛られたパンへと手を伸ばした。



 とりあえず今すぐ伝えておかないといけない情報を選出して、食事しながら皆に話していく。

「なんか予想以上に複雑なことになってますね……レリスさんの前で言うのは少し気が引けますが、これだから貴族というのは……」
「まあ、気持ちはわかりますわ、エナさん」

 ゲンナリした表情でため息を吐いたエナを、レリスが窘める。
 前にも貴族に対して苦言を漏らしていたし、やっぱりエナは貴族に対していい思い出がないんだろうな。

「やっぱりスチカお姉ちゃんも、魔力がないことで嫌な目に遭ったことがあったのかな?」
「そうやなぁ……うちはあまりそういうことはなかったな。そもそも物心ついた時にはスラムにおったし、あれよあれよといううちに日本に飛ばされたからなぁ……」

 まあ日本では魔力なんかないのが普通だからな。
 それにスチカはそのハンデを物ともしない絶対記憶力にて、日本で得た機械製作の知識なども持ち帰ってきて国に貢献してるから、あまり魔力がないことで陰口を叩かれることがないんだろうな。

「まあそこは生まれによる差も大きいと思うで? ケニスみたいに貴族生まれなのに魔力がないなんてなったら、風当たりも当然きついやろな」
「その辺の話もケニスさんから色々と聞いたけど、あの人も大変だったらしいぞ」
「グウレシア家も中々に複雑な事情を抱えておりますから……お姉様からの又聞きなのですが、ケニス様も苦労しているみたいですわね」

 ケニスさんの場合は現在進行形で大変なんだけどな。
 そんなことを話していると、ほどなく朝食を食べ終わり食後のコーヒーを飲んでいると、今まで黙っていたフリルが口を開いた。

「……今日も私とテレアは待機?」
「いや、今日はみんなで行こう。ティアには悪いけど多分もうお城で得られる情報もそんなにないだろうし」
「……実際何もわからなかったも当然だった」

 俺たちが帰ってきたときには、すでに調べものなんてしてなかったしな。
 お城に残してまだ無駄な時間を過ごさせるくらいなら、俺たちと一緒に来て、敵情を知っておいた方がいいだろう。

「ただ何が起こるかわからないから、充分気を付けておいてくれよ?」
「……うい」
「わかったよ、お兄ちゃん!」

 そんな感じで朝食は終わり、一時間ほど経った頃ケニスさんが迎えに来る時間となったので、俺たちはごねるティアをなんとか説き伏せてお城の城門前へとやってきた。
 城門前にはすでにケニスさんが馬車から降りて待機してつつ俺たちを待っていたようだった。

「おはようございますケニスさん」
「やあ皆、おはよう! 早速行こうと言いたいところだけど、少しばかり困ったことになった」

 俺たちを見るなり、ケニスさんが困ったような表情になった。
 困ったこと……何があったのだろうか?

「ケニス様、なにがあったのですか?」
「それがね……国からの令状が出ているにも関わらず、君たちの来訪を拒否すると言い出してきたんだ」

 ケニスさんには申し訳ないが、それを聞いて最初に頭に浮かんだ言葉が「馬鹿なんじゃないの?」だった。
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