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悪女~グウレシア三姉妹~
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「国からの令状が出ているというのに、彼女らはそれを無視するというのか!?」
「ですから……それをわたくしめに申されましても……」
ケニスさんに詰め寄られたメイドさんが、怯えた表情で一歩後ずさった。
「ケニス様、少し落ち着いてくださいませ」
「レリス……すまない……」
レリスに窘められ、少し落ち着きを取り戻したケニスさんが大きくため息を吐いた。
「すまないね……君に詰め寄ったところでどうにもならないというのに……」
「申し訳ありませんケニス様……わたくしめもただ妹様方からそのように伝えるようにと言われただけで……」
あの後すぐにケニスさんの乗って来た馬車で、俺たちはグウレシア家へ真意を確かめるためにやって来たのだが……。
件のグウレシア家の連中はその辺のメイドに一方的に「俺たちとは会わない」と言伝を伝えるだけ伝えて、引っ込んでしまったらしい。
つくづく思う……馬鹿なんじゃないのか?
いっぱしの貴族なら国からの令状を無視したらどうなるかなんてわかるはずなのに。
「……つくづく面倒くさいことになっとるなぁ」
「ほんとになぁ……」
「結局テレアたちはどうしたらいいのかな?」
問題はそこだよなぁ……グウレシア家で相手側の情報を仕入れることが今日の主な目的の一つだったもんな。
一応この後にエレニカ財閥にも顔を出す予定ではあるけど、約束した時間まで半日くらい時間があるのだ。
そんなことを考えていると、レリスとケニスさんが疲れた顔をしながら俺たちの乗る馬車へと戻って来た。
「すまない……こんなことになってしまって」
「いやまあ……相手の立場からすれば俺たちと顔を合わせるのは避けたいだろうとは思いますけど……」
「さすがに行動が露骨すぎますよね。これじゃあ疑ってくださいと言ってるようなものですよ」
向こうからすれば自分たちが疑われていることなどとっくの昔にわかってることだし、今更疑いを強められたところで痛くもかゆくもないだろうけど……それにしたってこれはエナの言う通り露骨すぎるよな。
「仕方がない……彼女たちが会いたくないと言っている以上ここにいても仕方がない。ティニアに連絡するから約束の時間を前倒ししてもらおう」
「どうする?この件王様に連絡しとくか?」
「そうだね……国からの令状に背いているわけだしそうしてもらうしかないな……まったく彼女たちは何を考えているんだ」
ちなみにケニスさんには3人の妹たちが存在している。
長女のクレア=グウレシアに次女のマリー=グウレシアときて三女のカレン=グウレシアは、このアーデンハイツでは知らない物はいないと言われている美人三姉妹と評判である。
だがそれは悪い意味での評判であり、実際には「美人」というよりも「悪女」三姉妹としての悪評判が目立つそうな。
自分たちの持って生まれた美貌と、アーデンハイツに置いて並ぶものがいない貴族の娘である立場を笠に着て、好き放題やりたい放題するせいでその評判はまさに地に落ちている。
目下のところケニスさんの一番の悩みとなっているのがこの三姉妹なのだ。
「とりあえずエレニカ財閥へと向かおう。行きの馬車の中で今回の騒動について僕が知っていることを全て話すよ」
「でもケニス様よろしいのですか?たしか明日にはお姉様との結婚式が控えているのでは……?」
確かに普通に考えたら結婚式を明日に控えている人が、こんなところで俺たちに会ってる時間なんてないと思うよな。
でも俺は昨日のケニスさんからその辺の話も全て聞いてる。
「レリスはこの国に来て街の様子を見て不思議に思わなかった?」
「えっ?この国の様子を……ですか?」
「……この国の有名な二人が結婚するって話なのに、街ではそれについての話題がまったく流れてない」
フリルの言葉にレリスがハッとなり、ケニスさんに心配そうに振り返った。
「そのことについても馬車の中で話すよ……さあ行こうか」
ケニスさんのその言葉を合図に、俺たちは再び馬車に乗り込みグウレシア家を後にしたのだった。
「結婚すること自体は本当のことだよ。ただ書類の上だけの結婚で、式はしないんだ」
「そんな……それではまるでお二人の結婚を国に知られたくないかのような……」
「……国に知られたくない事情があるんですか?」
エナの言葉に、ケニスさんが苦虫を噛みつぶしたような顔で小さく頷いた。
「誤解がないように言っておくけど、僕とティニアは誰かに……ましてや妹たちの策略とかで結婚を強要されたわけでなく、自分たちの意志で結婚することを決めたんだ。本来ならもっと時間をかけて式の準備をしたり友人知人に招待状を送り、盛大に式を挙げるつもりだったんだよ」
「もしかしてあの三姉妹の横やりが入ったんか?」
「その通りだよ。ティニアとの結婚を決めたことを家族に伝えた数日後かな、突然妹たちが式を急かしてきてね」
聞けば、両親たちは二人の結婚を喜んでくれたが、妹たちは特に関心もなさそうな態度だったのに、ある日突然二人の結婚について強引に横やりを入れてくるようになったとのこと。
今まで無関心だったのにさすがにおかしいと思ったケニスさんが独自に妹たちの動向について調べたところ、勿論背後にいたのが……。
「もしかしてカルマ教団……ですか?」
「ああ、どうやら教団に何かを吹き込まれたらしくてね……それが何かはわからないが、妹たちが明らかにおかしくなったのはその時からだね」
元々兄であり次期当主でもあるケニスさんのことを、魔力がない出来損ないと陰口を叩いていたらしい物の、基本的にはケニスさんと妹たちの関係性は希薄な物であり、互いに無関心を貫いていたらしい。
その妹たちが教団に何かを吹き込まれただけでいきなり目の色を変えたかのように、兄の結婚に関して干渉してこれば誰だって怪しいと思うよなぁ。
「でも昨日君たちがティニアと話していた内容を聞いてようやく見当がついたよ。妹たちはエレニカ財閥の秘匿している神獣の秘密を狙っているんだな」
「まさしくそうでしょうね」
ケニスさんの出した結論を、エナが肯定した。
恐らく、さっさとケニスさんとティニアさんを結婚させてしまえば、自分たちも兄の親族ということでエレニカ財閥の関係者となれるし、そうすれば神獣の秘密にも容易に近づけると踏んでいるんだろう。
あの教団連中の考えそうなことだ。
「そのことを踏まえてティニアと相談した結果、結婚式をするのは先延ばしにして籍だけ先に入れようという結果になってね……このまま妹たちの言うままに式をしてしまっては、それは僕たちの本意ではないし背後にカルマ教団が関わっていることが明るみに出て国中に広まるかもしれないと判断したんだ」
ただでさえカルマ教団は評判の悪い教団だからな。そんな連中がケニスさんとティニアさんの結婚式に関わってるなんて話が広まったら、どんな噂が立つか分かったもんじゃない。
とりあえず籍だけをいれて形式上結婚したことにすれば、妹たちの留飲を下げられるし、国にもひとまず秘密にすることが出来る……ティニアさんとケニスさんにとっては苦肉の策だったのだろう
「それはそれとして、アーデンハイツまでの道中にシュウたちが襲撃された理由がわからんな?」
「ここまで得た情報を統合しても、事はエレニカ財閥とグウレシア家の間の問題であって、私たちに被害が飛んでくる理由がありませんしね」
「それについて俺なりに予想してみたんだけどさ」
スチカとエナの言葉を繋ぐように俺が口を開くと、その場の全員が俺に注目したので、俺は言葉を続けていく。
「俺たちを襲撃してきたのは、俺たちをアーデンハイツに来させないためだと思ってたけど、多分違う気がするんだ。もしも俺たちがアーデンハイツにいること事態が奴らにとって不都合でしかないなら、今なお俺たちを殺そうと襲撃してくるはずだろ?」
「この国に来てから、テレアたち襲われなくなったもんね」
「だろ? そこから考えると奴らにとって俺たちがこの国に来てしまったこと自体は不都合なんかじゃなくて、むしろ好都合なんじゃないかって思うんだ」
「……ん? ならなんでわざわざ襲撃なんてしてきたん?」
スチカが脳裏に疑問符を浮かべながら首を捻った。
「多分俺たちを執拗に襲撃して来たのは、俺たちを倒すことが目的じゃなく、俺たちの持つ何かが目当てだったんじゃないかな?」
「私たちの持つ何か……?」
「……もしやわたくしですか?」
レリスが若干青い顔をしながら、俺の目をまっすぐに見つつ聞いてきた。
本当なら違うと否定したいところだったが、ここに来て誤魔化しても仕方がないので、俺は小さく頷いた。
「なるほどな、エレニカ財閥に神獣の手がかりがあると踏んだそいつらが、財閥の関係者を野放しにしとく理由なんてないもんな」
「ちょっ!スチカさん!? それにシューイチさんもそんな……!」
「いいんですエナさん、シューイチ様とスチカさんの言う通りですわ」
そう言って重苦しい表情をしたレリスが俯いてしまったのを見て、エナも何も言えなくなってしまい馬車の中を重い沈黙が支配する。
だが、その中でたった一人だけがその空気をものともせず、口を開いた。
「だったら……テレアたち皆でレリスお姉ちゃんを守らないとだよね?」
小さな少女の口から出たその言葉は、あまりにもまっすぐに俺たちの心に響く。
俺たちを取り巻いていた重苦しい空気が、その言葉で一気吹き飛ばされたような気がした。
「そうですよね!敵がレリスさんを狙っているというなら、私たちがやることなんて一つしかありませんよ!」
「……レリっちは私たちが守る」
「レリスには日本でのシュウのことを教える約束もしとるからな!」
「皆さん……」
皆のその力強い発言に、レリスが涙ぐみ目を指で拭った。
「まあ俺もレリスが狙われてる―――なんて言ったけど、この国に来てから襲撃がなくなったことを考えると、あいつらにとってレリスの存在自体がそこまで重要じゃないのかもしれないしな」
「なるほど……そうなると妹たちとカルマ教団はレリスの持つ何かが必要なのか知れないな」
「……レリっち心当たりは?」
「……残念ながらありませんわね……そもそもわたくしは実家が神獣と関わりがあること自体知りませんでしたもの」
そうなってくると、やはり連中が狙っているのはレリス本人よりも、レリスの持っている「何か」ということになるな。
それが何なのかわからないが、十分に気を付けないといけないな……。
ふとそこで以前レリスが感じたという違和感の話を唐突に思い出した。
あの時レリスは、ティニアさんへのコンプレックスが限界を超えて家出をしたという事実に違和感を感じているといった。
これは行き過ぎた発想なんだが、もしかしたらレリスはティニアさんへの固執を増大させるような洗脳を受けていたのではないか?
そうすることで意図的にレリスをアーデンハイツから追い出した……? でも誰が何のために? そうすることで何かメリットがあるのか?
……待て待て、そもそも追い出したという発想自体が間違っているんじゃないか?
その誰かはレリスを追い出したのではなく……守るためにあえて……?
我ながら飛躍した考えだと思うが、もしこれが真実なら俺はあの人に確認しないといけない。
「お兄ちゃんどうしたの? なんか難しい顔してるよ?」
「ん? ああちょっと考え事をね……でも大丈夫だよ」
心配そうに俺を見つめるテレアの頭を優しく撫でる。
とにもかくにも、やはり全ての答えはエレニカ財閥にあると見ていいようだ。
そんなこんなで馬車は進んでいき、俺たちは昨日も訪れたエレニカ財閥の敷地内へと到着したのだった。
「ですから……それをわたくしめに申されましても……」
ケニスさんに詰め寄られたメイドさんが、怯えた表情で一歩後ずさった。
「ケニス様、少し落ち着いてくださいませ」
「レリス……すまない……」
レリスに窘められ、少し落ち着きを取り戻したケニスさんが大きくため息を吐いた。
「すまないね……君に詰め寄ったところでどうにもならないというのに……」
「申し訳ありませんケニス様……わたくしめもただ妹様方からそのように伝えるようにと言われただけで……」
あの後すぐにケニスさんの乗って来た馬車で、俺たちはグウレシア家へ真意を確かめるためにやって来たのだが……。
件のグウレシア家の連中はその辺のメイドに一方的に「俺たちとは会わない」と言伝を伝えるだけ伝えて、引っ込んでしまったらしい。
つくづく思う……馬鹿なんじゃないのか?
いっぱしの貴族なら国からの令状を無視したらどうなるかなんてわかるはずなのに。
「……つくづく面倒くさいことになっとるなぁ」
「ほんとになぁ……」
「結局テレアたちはどうしたらいいのかな?」
問題はそこだよなぁ……グウレシア家で相手側の情報を仕入れることが今日の主な目的の一つだったもんな。
一応この後にエレニカ財閥にも顔を出す予定ではあるけど、約束した時間まで半日くらい時間があるのだ。
そんなことを考えていると、レリスとケニスさんが疲れた顔をしながら俺たちの乗る馬車へと戻って来た。
「すまない……こんなことになってしまって」
「いやまあ……相手の立場からすれば俺たちと顔を合わせるのは避けたいだろうとは思いますけど……」
「さすがに行動が露骨すぎますよね。これじゃあ疑ってくださいと言ってるようなものですよ」
向こうからすれば自分たちが疑われていることなどとっくの昔にわかってることだし、今更疑いを強められたところで痛くもかゆくもないだろうけど……それにしたってこれはエナの言う通り露骨すぎるよな。
「仕方がない……彼女たちが会いたくないと言っている以上ここにいても仕方がない。ティニアに連絡するから約束の時間を前倒ししてもらおう」
「どうする?この件王様に連絡しとくか?」
「そうだね……国からの令状に背いているわけだしそうしてもらうしかないな……まったく彼女たちは何を考えているんだ」
ちなみにケニスさんには3人の妹たちが存在している。
長女のクレア=グウレシアに次女のマリー=グウレシアときて三女のカレン=グウレシアは、このアーデンハイツでは知らない物はいないと言われている美人三姉妹と評判である。
だがそれは悪い意味での評判であり、実際には「美人」というよりも「悪女」三姉妹としての悪評判が目立つそうな。
自分たちの持って生まれた美貌と、アーデンハイツに置いて並ぶものがいない貴族の娘である立場を笠に着て、好き放題やりたい放題するせいでその評判はまさに地に落ちている。
目下のところケニスさんの一番の悩みとなっているのがこの三姉妹なのだ。
「とりあえずエレニカ財閥へと向かおう。行きの馬車の中で今回の騒動について僕が知っていることを全て話すよ」
「でもケニス様よろしいのですか?たしか明日にはお姉様との結婚式が控えているのでは……?」
確かに普通に考えたら結婚式を明日に控えている人が、こんなところで俺たちに会ってる時間なんてないと思うよな。
でも俺は昨日のケニスさんからその辺の話も全て聞いてる。
「レリスはこの国に来て街の様子を見て不思議に思わなかった?」
「えっ?この国の様子を……ですか?」
「……この国の有名な二人が結婚するって話なのに、街ではそれについての話題がまったく流れてない」
フリルの言葉にレリスがハッとなり、ケニスさんに心配そうに振り返った。
「そのことについても馬車の中で話すよ……さあ行こうか」
ケニスさんのその言葉を合図に、俺たちは再び馬車に乗り込みグウレシア家を後にしたのだった。
「結婚すること自体は本当のことだよ。ただ書類の上だけの結婚で、式はしないんだ」
「そんな……それではまるでお二人の結婚を国に知られたくないかのような……」
「……国に知られたくない事情があるんですか?」
エナの言葉に、ケニスさんが苦虫を噛みつぶしたような顔で小さく頷いた。
「誤解がないように言っておくけど、僕とティニアは誰かに……ましてや妹たちの策略とかで結婚を強要されたわけでなく、自分たちの意志で結婚することを決めたんだ。本来ならもっと時間をかけて式の準備をしたり友人知人に招待状を送り、盛大に式を挙げるつもりだったんだよ」
「もしかしてあの三姉妹の横やりが入ったんか?」
「その通りだよ。ティニアとの結婚を決めたことを家族に伝えた数日後かな、突然妹たちが式を急かしてきてね」
聞けば、両親たちは二人の結婚を喜んでくれたが、妹たちは特に関心もなさそうな態度だったのに、ある日突然二人の結婚について強引に横やりを入れてくるようになったとのこと。
今まで無関心だったのにさすがにおかしいと思ったケニスさんが独自に妹たちの動向について調べたところ、勿論背後にいたのが……。
「もしかしてカルマ教団……ですか?」
「ああ、どうやら教団に何かを吹き込まれたらしくてね……それが何かはわからないが、妹たちが明らかにおかしくなったのはその時からだね」
元々兄であり次期当主でもあるケニスさんのことを、魔力がない出来損ないと陰口を叩いていたらしい物の、基本的にはケニスさんと妹たちの関係性は希薄な物であり、互いに無関心を貫いていたらしい。
その妹たちが教団に何かを吹き込まれただけでいきなり目の色を変えたかのように、兄の結婚に関して干渉してこれば誰だって怪しいと思うよなぁ。
「でも昨日君たちがティニアと話していた内容を聞いてようやく見当がついたよ。妹たちはエレニカ財閥の秘匿している神獣の秘密を狙っているんだな」
「まさしくそうでしょうね」
ケニスさんの出した結論を、エナが肯定した。
恐らく、さっさとケニスさんとティニアさんを結婚させてしまえば、自分たちも兄の親族ということでエレニカ財閥の関係者となれるし、そうすれば神獣の秘密にも容易に近づけると踏んでいるんだろう。
あの教団連中の考えそうなことだ。
「そのことを踏まえてティニアと相談した結果、結婚式をするのは先延ばしにして籍だけ先に入れようという結果になってね……このまま妹たちの言うままに式をしてしまっては、それは僕たちの本意ではないし背後にカルマ教団が関わっていることが明るみに出て国中に広まるかもしれないと判断したんだ」
ただでさえカルマ教団は評判の悪い教団だからな。そんな連中がケニスさんとティニアさんの結婚式に関わってるなんて話が広まったら、どんな噂が立つか分かったもんじゃない。
とりあえず籍だけをいれて形式上結婚したことにすれば、妹たちの留飲を下げられるし、国にもひとまず秘密にすることが出来る……ティニアさんとケニスさんにとっては苦肉の策だったのだろう
「それはそれとして、アーデンハイツまでの道中にシュウたちが襲撃された理由がわからんな?」
「ここまで得た情報を統合しても、事はエレニカ財閥とグウレシア家の間の問題であって、私たちに被害が飛んでくる理由がありませんしね」
「それについて俺なりに予想してみたんだけどさ」
スチカとエナの言葉を繋ぐように俺が口を開くと、その場の全員が俺に注目したので、俺は言葉を続けていく。
「俺たちを襲撃してきたのは、俺たちをアーデンハイツに来させないためだと思ってたけど、多分違う気がするんだ。もしも俺たちがアーデンハイツにいること事態が奴らにとって不都合でしかないなら、今なお俺たちを殺そうと襲撃してくるはずだろ?」
「この国に来てから、テレアたち襲われなくなったもんね」
「だろ? そこから考えると奴らにとって俺たちがこの国に来てしまったこと自体は不都合なんかじゃなくて、むしろ好都合なんじゃないかって思うんだ」
「……ん? ならなんでわざわざ襲撃なんてしてきたん?」
スチカが脳裏に疑問符を浮かべながら首を捻った。
「多分俺たちを執拗に襲撃して来たのは、俺たちを倒すことが目的じゃなく、俺たちの持つ何かが目当てだったんじゃないかな?」
「私たちの持つ何か……?」
「……もしやわたくしですか?」
レリスが若干青い顔をしながら、俺の目をまっすぐに見つつ聞いてきた。
本当なら違うと否定したいところだったが、ここに来て誤魔化しても仕方がないので、俺は小さく頷いた。
「なるほどな、エレニカ財閥に神獣の手がかりがあると踏んだそいつらが、財閥の関係者を野放しにしとく理由なんてないもんな」
「ちょっ!スチカさん!? それにシューイチさんもそんな……!」
「いいんですエナさん、シューイチ様とスチカさんの言う通りですわ」
そう言って重苦しい表情をしたレリスが俯いてしまったのを見て、エナも何も言えなくなってしまい馬車の中を重い沈黙が支配する。
だが、その中でたった一人だけがその空気をものともせず、口を開いた。
「だったら……テレアたち皆でレリスお姉ちゃんを守らないとだよね?」
小さな少女の口から出たその言葉は、あまりにもまっすぐに俺たちの心に響く。
俺たちを取り巻いていた重苦しい空気が、その言葉で一気吹き飛ばされたような気がした。
「そうですよね!敵がレリスさんを狙っているというなら、私たちがやることなんて一つしかありませんよ!」
「……レリっちは私たちが守る」
「レリスには日本でのシュウのことを教える約束もしとるからな!」
「皆さん……」
皆のその力強い発言に、レリスが涙ぐみ目を指で拭った。
「まあ俺もレリスが狙われてる―――なんて言ったけど、この国に来てから襲撃がなくなったことを考えると、あいつらにとってレリスの存在自体がそこまで重要じゃないのかもしれないしな」
「なるほど……そうなると妹たちとカルマ教団はレリスの持つ何かが必要なのか知れないな」
「……レリっち心当たりは?」
「……残念ながらありませんわね……そもそもわたくしは実家が神獣と関わりがあること自体知りませんでしたもの」
そうなってくると、やはり連中が狙っているのはレリス本人よりも、レリスの持っている「何か」ということになるな。
それが何なのかわからないが、十分に気を付けないといけないな……。
ふとそこで以前レリスが感じたという違和感の話を唐突に思い出した。
あの時レリスは、ティニアさんへのコンプレックスが限界を超えて家出をしたという事実に違和感を感じているといった。
これは行き過ぎた発想なんだが、もしかしたらレリスはティニアさんへの固執を増大させるような洗脳を受けていたのではないか?
そうすることで意図的にレリスをアーデンハイツから追い出した……? でも誰が何のために? そうすることで何かメリットがあるのか?
……待て待て、そもそも追い出したという発想自体が間違っているんじゃないか?
その誰かはレリスを追い出したのではなく……守るためにあえて……?
我ながら飛躍した考えだと思うが、もしこれが真実なら俺はあの人に確認しないといけない。
「お兄ちゃんどうしたの? なんか難しい顔してるよ?」
「ん? ああちょっと考え事をね……でも大丈夫だよ」
心配そうに俺を見つめるテレアの頭を優しく撫でる。
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