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御方~親愛するあの御方の為~
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大分意識のはっきりしてきた王様が、何かに気が付いたように周囲を見回す。
「ティアはどこだ? この部屋にいたはずなのにいなくなっている!?」
「ティアちゃんがこの部屋にいたんですか!?」
王様の言葉を繰り返すように、エナが驚愕の声を上げる。
ここにいたはずのティアがいないとなると、事態はかなり緊急を要することになるぞ?
「王様はここにいてください!ティアは俺たちで探しますから!」
「頼む!私も行きたいがたぶん足手まといになる……ティアを助けてやってくれ!」
立ち上がった俺たちは、王様の声を背に出口へと駆け出し、見張りをしてくれていたテレアとスチカに合流した。
「ティアがいなくなったらしい」
「なんやて!?」
「ティアちゃんが……!?」
緊急の事態に二人が先程のエナと同じように驚愕の声を上げた。
だがこんな時の為のテレアだ! この子がいれば感覚強化の魔法で大まかな位置を割り出せるはずだ。
「テレア、ティアがどこにいるかわかるか?」
「……ごめんお兄ちゃん、お城に掛かってるっていう魔法のせいで邪魔されちゃってるみたい……」
なんてこった……頼みの綱のテレアの感覚強化で見つけれないとは。
となると自力で探すしかないな……。
「どうしますかシューイチさん?」
指示を待つエナが、俺の名前を呼んだ。
どうする……チームを二つにわけるか? いやこの状況で戦力を分散するのは危ない気がする……なるべく固まって動くべきだ。
よく考えろ……落ちついて敵の目的を順序立てて考えるんだ!
とりえずどうやってこんな大規模な魔法を使ったかとかは今はどうでもいいはずだ。それよりも城の人間たちをわざわざ昏倒させる理由は?
そもそもの敵がカルマ教団と想定するなら、狙いは青龍の核石……?
だとすると奴らの目的は城の人間を眠らせて、その隙に青龍の核石を奪取すること……!?
ともすれば、行くべきポイントは絞られてくる!
「地下にある青龍の核石のある部屋に向かおう! 敵がカルマ教団なら確実にそこを狙ってくるはずだ!」
「了解です!」
「うん! 行こうお兄ちゃん!」
「よっしゃ!! 待ってろよティア!!」
大急ぎで地下へ向かう中、俺は一人考える。
随分と思いっ切ったことをしてくるよな……こんなこと、この城に青龍の核石があると分かってないと出来ないぞ? いや逆だな、核石があることがわかったから強硬手段に出たんだ。
でもなぜバレたんだ? 地下の部屋の存在は誰にも喋っていないし、王様とその話をするときにはエナに隠蔽魔法を使ってもらうくらい気を使ったはずなのに……。
とここでまたしても俺の嫌な予想が、ぴたりと当てはまってしまった。
もしもこの予想が当たっていたとしたら、恐らく情報が漏れたのではなく……。
「シューイチさん、考え事しながら走るのは危ないですよ?」
「……ああ、ごめん!」
「何か心配事があるんですか?」
エナが心配そうな目で俺を見てきたので、「なんでもないよ」と言って手を軽く振って前を向き直った。
今はそっちのことよりも敵につかまっているかもしれないティアのことを優先しないと!
地下へ続く長い階段を大急ぎで下っていくと、薄暗い大きめの広場に出た。
そこでテレアが俺たちに止まるように視線を送って来た。
「どうしたテレア?」
「……誰かの話し声が聞こえる……ティアちゃんの声も聞こえるよ」
「ティアもいるんか? シュウの予想ドンピシャやな!」
「大体どれくらいの人数がいるかわかりますか?」
エナの言葉を受けたテレアが耳に手を当てて、さらに神経を集中させていく。
「ティアちゃんの他に二人……女の人と男の……おじいさんみたいな声……」
おじいさんねぇ……まさかと思うけどドレニクじゃないだろうな?
あいつがいるだけでも厄介だというのに、もう一人いる女というのが不気味だな……なんにせよ注意だけはしておかないと。
「もういいぞテレア、ありがとな?」
「どうしましょうか?」
「んなもん決まっとるやろ? ここでじっとしてても埒が明かんし正面対決や!」
「多分向こうもテレアたちのことに気が付いてると思う……スチカお姉ちゃんの言う通りここにいても仕方ないと思うよ」
小細工なしの正面対決か……まあそれしかないよな。
「よし、行こう! 皆準備はいいな? 恐らく数の上ではこちらが有利だろうけど、油断だけはするなよ?」
俺の声に、全員が大きく頷いたのを確認し、なるべく音を立てないように警戒しつつ進んでいく。
やがて薄暗い通路の先に、ローブを頭からすっぽりと被ったやけに身長差のある二人組が見えて来た。
その二人の傍らにはロープで縛られたティアと部屋の警備をしていた兵士が地べたに寝転がされている。
「よお? いきなり大それ事してくれるじゃねえか?」
「ふん、やはり貴様か」
もはや隠している意味などないと悟ったのか、二人組の大きい方がローブをまくった。
ローブの下から現れたその顔は、一週間ほど前にフリルから玄武の力を奪おうと色々と小細工して来たドレニクそのものだった。
「なに?また懲りずに俺たちにやられに来たわけ?」
「今回はこの間のようにはいかぬぞ?」
ドレニクがこちらを睨みつけて来たことで、俺たちの間に緊張が走る。
「スチカ! 皆! 助けてくれなのじゃ!!」
床に寝転がされていたティアが顔だけこちら上げて、助けを求めてきた。
仮にも一国の王女をぞんざいな扱いしやがって。それ相応の覚悟が出来てるんだろうな?
俺が腰の剣を引き抜き、エナが杖を構え、テレアが戦闘の構えを取り、スチカが懐から魔力銃を取り出し銃口を相手に向けた。
いかにドレニクと言えど俺たち全員を相手取ることは出来ないはずだ……速攻で勝負を決めてティアを助け―――
「ちょっとちょっと! 私を無視するんじゃないわよ!!」
なんかやたらと場違いな甲高い声をあげながら、背の低い方のローブを被った敵さんが俺たちとドレニクの間に割り込んできた。
「……下がっておれ、我々としてもお主を怪我させるとちと都合が悪い」
「そうはいかないわ! 私を差し置いて話を勝手に進めるなんて森羅万象に対する無礼を働いたも同義よ!!」
なんか自分本位なことをきゃんきゃん喚きながら地団太を踏む。
なんなんだこいつ、調子が狂うなぁ……。
「ふふふ……聞いて驚き見て驚きなさい? 私こそが……」
大げさな口調でそう言いながら、そいつは勢いよくローブを脱ぎ捨てた。
「栄光あるグウレシア家の三女、カレン=グウレシアよ!!」
長い金髪をツインドリルにした、やたらと豪華な装飾の入った高価な服を身に纏った少女が、典型的な高笑いを上げながら姿を現した。
カレン=グウレシアって……こいつまさかケニスさんの妹の一人か!?
「ふふふ……驚いて声も出ないようね?」
静まり返ってしまった俺たちを見て気を良くしたのか、なんだか見下したような目で俺たちを見てくる。
どちらかというと呆れて声が出ないんだが……何なんだこの絶妙な空気の読んでなさは?
「いいから下がっておれ……そんなところに堂々と立っていたら巻き添えをくらうぞ?」
「あなたたちが勝手に話を進めるからでしょうが! 私を無視するなんてあってはならないことなのよ!?」
ドニレクに振り返りビシッと指を指しながら、カレンがやたらと甲高い声で捲し立てる。
ちなみにここ結構声が響く上に、こいつの声やけに耳に刺さるから不快なことこの上ない。
「アンタがハヤマ=ショーイチね!!」
「ちげーよ!シューイチだ!!」
誰だよショーイチって?
「ふん! 私が黒と言ったら白も黒よ! だからあなたはシューイチではなくショーイチなのよ! 私が間違えるはずがないんだから!!」
もうやだ俺こいつと会話したくない。
もはや清々しさすら感じる自己中心的ぶりだ……ほんの二三言葉を交わしただけなのにもう疲れてきた。
「私は知っているのよ? アンタがあの御方の素晴らしい計画を、ことごとく邪魔する毛虫にも劣る存在なのを!」
「あの御方……?」
「私はあの御方の笑顔の為なら悪の道に染まることも厭わないわ! さあハヤマ=ショーイチ! 私とあの御方との明るい未来のために、大人しく私に成敗されることね!!」
そう言って懐から鞭を取り出し、鞭の先を勢いよく振り下ろしピシャンと地面に叩きつけた。
その様子を後ろから見ていたドレニクが何やら頭を抱えていた。……これはさすがに敵ながら同情してしまうなぁ……。
「……城に怪しげな魔法を掛けたのはお前かよ?」
「……いかにも。計画遂行のために邪魔な奴らは眠ってもらった」
「ちょっと!! 私を無視しないでよ!!」
もうこの際真ん中にいるキャンキャン娘は無視する方向で行こう。話が進まないし。
「こんな大規模な魔法……事前の準備も無しにどうやって!?」
「気になるか娘よ? 魔法の構築と解析……そしてマジックアイテムの開発は儂が最も得意とするところでな? 先日お主らから拝借した玄武の魔力を解析してこういうものを作り出したのだ」
言いながらドレニクが懐からなにやら錠剤のようなものを取り出した。
「これが何かわかるか? これはな……」
そのままドレニクがその錠剤を口の中に放り込んで飲み込むと、途端にドレニクの魔力が膨れ上がった。
この魔力の感じ……まさか!?
「わかるか小僧? この薬は玄武の力を儂が解析し作り出した、神獣薬ともいうべきものだ! これを飲むことで一時的に神獣の持つ魔力とほぼ同質の物を得られる!」
懸念していた通りだ! やっぱりほんの少し回収しきれてなかった玄武の力を解析されていた!
「さすがにあの時ほどの力は発揮できんが、これだけの魔力があればこの城全体に昏睡魔法を掛けることなぞ造作もないことよ」
「相変わらず借り物の力ででかい顔すんだな?」
「なんとでもいうがいい! 貴様がいうその借り物の力とやらで今度こそ貴様らを―――ふべっ!!?」
そこまで言いかけたドレニクの顔面に鞭がぶち込まれて、顔面を抑えながらドレニクが地面に片膝をついた。
見れば鞭を振るったカレンが怒りの形相で地面に片膝をついたドレニクを見降ろしていた。
「私を無視するなって、何度言ったらわかるのかしら? お・じ・い・ちゃ・ん?」
「ぐっ……なにをする……!?」
なんかもうドレニクが可哀そうになってきた。
しかしこのお嬢さんは本当に空気が読めないな? これならまだある意味全盛期だったティアのがまだマシだったぞ?
「いい? 私がアンタなんかと一緒に来たのはあの御方に頼まれたからよ? もう少し自分の立場と言う物をわきまえてほしい物だわ!」
「貴様! いい加減に―――ふぐぉ!!?」
またも顔面にカレンの鞭が炸裂し、もんどりを打ちながらドレニクが地面を転げまわる。
「なんなんでしょうねこの光景……」
「興が削がれるわぁ……」
「今のうちにティアちゃんを助けてきてもいいかなお兄ちゃん?」
「んー……そうしたいのは山々だけど、もうちょっと様子見た方がいいと思うなぁ」
盛り上がっていたこちらのボルテージもすっかり鎮静化してしまった。
どうしたもんかと思っていると、地面を転げまわるドレニクを尻目に、カレンがこちらに勢いよく振り返って指さしながら口を開いた。
「アンタたちも! これ以上私も無視して話を進めようというなら、こいつみたいに鞭をぶち込むわよ!」
「ていうかお前なんなん?」
思わずスチカが素で突っ込んでいた。
「……あなたたちはそもそも何をしに来たんですか?」
「決まってるじゃない! この城にある神獣の核石をもらいに来たのよ!」
もらいに来た? 強奪しに来たの間違いだろ?
ていうかやっぱり青龍の核石が目的だったんだな。そうとわかった以上、例えケニスさんの妹といえどみすみす逃すわけにはいかない。
「それと、さっきから気になっているんですが、あなたの言う「あの御方」とは誰なんですか?」
「聞きたい? 本来ならアンタたちなんかに聞かせるのも勿体ないくらいだけど、特別に教えてあげるわ! 私が愛してやまないあの御方とは何を隠そう、ロイ=マフロフ様よ!!」
その名前に、俺とエナが思わずズッコケそうになった。
「ティアはどこだ? この部屋にいたはずなのにいなくなっている!?」
「ティアちゃんがこの部屋にいたんですか!?」
王様の言葉を繰り返すように、エナが驚愕の声を上げる。
ここにいたはずのティアがいないとなると、事態はかなり緊急を要することになるぞ?
「王様はここにいてください!ティアは俺たちで探しますから!」
「頼む!私も行きたいがたぶん足手まといになる……ティアを助けてやってくれ!」
立ち上がった俺たちは、王様の声を背に出口へと駆け出し、見張りをしてくれていたテレアとスチカに合流した。
「ティアがいなくなったらしい」
「なんやて!?」
「ティアちゃんが……!?」
緊急の事態に二人が先程のエナと同じように驚愕の声を上げた。
だがこんな時の為のテレアだ! この子がいれば感覚強化の魔法で大まかな位置を割り出せるはずだ。
「テレア、ティアがどこにいるかわかるか?」
「……ごめんお兄ちゃん、お城に掛かってるっていう魔法のせいで邪魔されちゃってるみたい……」
なんてこった……頼みの綱のテレアの感覚強化で見つけれないとは。
となると自力で探すしかないな……。
「どうしますかシューイチさん?」
指示を待つエナが、俺の名前を呼んだ。
どうする……チームを二つにわけるか? いやこの状況で戦力を分散するのは危ない気がする……なるべく固まって動くべきだ。
よく考えろ……落ちついて敵の目的を順序立てて考えるんだ!
とりえずどうやってこんな大規模な魔法を使ったかとかは今はどうでもいいはずだ。それよりも城の人間たちをわざわざ昏倒させる理由は?
そもそもの敵がカルマ教団と想定するなら、狙いは青龍の核石……?
だとすると奴らの目的は城の人間を眠らせて、その隙に青龍の核石を奪取すること……!?
ともすれば、行くべきポイントは絞られてくる!
「地下にある青龍の核石のある部屋に向かおう! 敵がカルマ教団なら確実にそこを狙ってくるはずだ!」
「了解です!」
「うん! 行こうお兄ちゃん!」
「よっしゃ!! 待ってろよティア!!」
大急ぎで地下へ向かう中、俺は一人考える。
随分と思いっ切ったことをしてくるよな……こんなこと、この城に青龍の核石があると分かってないと出来ないぞ? いや逆だな、核石があることがわかったから強硬手段に出たんだ。
でもなぜバレたんだ? 地下の部屋の存在は誰にも喋っていないし、王様とその話をするときにはエナに隠蔽魔法を使ってもらうくらい気を使ったはずなのに……。
とここでまたしても俺の嫌な予想が、ぴたりと当てはまってしまった。
もしもこの予想が当たっていたとしたら、恐らく情報が漏れたのではなく……。
「シューイチさん、考え事しながら走るのは危ないですよ?」
「……ああ、ごめん!」
「何か心配事があるんですか?」
エナが心配そうな目で俺を見てきたので、「なんでもないよ」と言って手を軽く振って前を向き直った。
今はそっちのことよりも敵につかまっているかもしれないティアのことを優先しないと!
地下へ続く長い階段を大急ぎで下っていくと、薄暗い大きめの広場に出た。
そこでテレアが俺たちに止まるように視線を送って来た。
「どうしたテレア?」
「……誰かの話し声が聞こえる……ティアちゃんの声も聞こえるよ」
「ティアもいるんか? シュウの予想ドンピシャやな!」
「大体どれくらいの人数がいるかわかりますか?」
エナの言葉を受けたテレアが耳に手を当てて、さらに神経を集中させていく。
「ティアちゃんの他に二人……女の人と男の……おじいさんみたいな声……」
おじいさんねぇ……まさかと思うけどドレニクじゃないだろうな?
あいつがいるだけでも厄介だというのに、もう一人いる女というのが不気味だな……なんにせよ注意だけはしておかないと。
「もういいぞテレア、ありがとな?」
「どうしましょうか?」
「んなもん決まっとるやろ? ここでじっとしてても埒が明かんし正面対決や!」
「多分向こうもテレアたちのことに気が付いてると思う……スチカお姉ちゃんの言う通りここにいても仕方ないと思うよ」
小細工なしの正面対決か……まあそれしかないよな。
「よし、行こう! 皆準備はいいな? 恐らく数の上ではこちらが有利だろうけど、油断だけはするなよ?」
俺の声に、全員が大きく頷いたのを確認し、なるべく音を立てないように警戒しつつ進んでいく。
やがて薄暗い通路の先に、ローブを頭からすっぽりと被ったやけに身長差のある二人組が見えて来た。
その二人の傍らにはロープで縛られたティアと部屋の警備をしていた兵士が地べたに寝転がされている。
「よお? いきなり大それ事してくれるじゃねえか?」
「ふん、やはり貴様か」
もはや隠している意味などないと悟ったのか、二人組の大きい方がローブをまくった。
ローブの下から現れたその顔は、一週間ほど前にフリルから玄武の力を奪おうと色々と小細工して来たドレニクそのものだった。
「なに?また懲りずに俺たちにやられに来たわけ?」
「今回はこの間のようにはいかぬぞ?」
ドレニクがこちらを睨みつけて来たことで、俺たちの間に緊張が走る。
「スチカ! 皆! 助けてくれなのじゃ!!」
床に寝転がされていたティアが顔だけこちら上げて、助けを求めてきた。
仮にも一国の王女をぞんざいな扱いしやがって。それ相応の覚悟が出来てるんだろうな?
俺が腰の剣を引き抜き、エナが杖を構え、テレアが戦闘の構えを取り、スチカが懐から魔力銃を取り出し銃口を相手に向けた。
いかにドレニクと言えど俺たち全員を相手取ることは出来ないはずだ……速攻で勝負を決めてティアを助け―――
「ちょっとちょっと! 私を無視するんじゃないわよ!!」
なんかやたらと場違いな甲高い声をあげながら、背の低い方のローブを被った敵さんが俺たちとドレニクの間に割り込んできた。
「……下がっておれ、我々としてもお主を怪我させるとちと都合が悪い」
「そうはいかないわ! 私を差し置いて話を勝手に進めるなんて森羅万象に対する無礼を働いたも同義よ!!」
なんか自分本位なことをきゃんきゃん喚きながら地団太を踏む。
なんなんだこいつ、調子が狂うなぁ……。
「ふふふ……聞いて驚き見て驚きなさい? 私こそが……」
大げさな口調でそう言いながら、そいつは勢いよくローブを脱ぎ捨てた。
「栄光あるグウレシア家の三女、カレン=グウレシアよ!!」
長い金髪をツインドリルにした、やたらと豪華な装飾の入った高価な服を身に纏った少女が、典型的な高笑いを上げながら姿を現した。
カレン=グウレシアって……こいつまさかケニスさんの妹の一人か!?
「ふふふ……驚いて声も出ないようね?」
静まり返ってしまった俺たちを見て気を良くしたのか、なんだか見下したような目で俺たちを見てくる。
どちらかというと呆れて声が出ないんだが……何なんだこの絶妙な空気の読んでなさは?
「いいから下がっておれ……そんなところに堂々と立っていたら巻き添えをくらうぞ?」
「あなたたちが勝手に話を進めるからでしょうが! 私を無視するなんてあってはならないことなのよ!?」
ドニレクに振り返りビシッと指を指しながら、カレンがやたらと甲高い声で捲し立てる。
ちなみにここ結構声が響く上に、こいつの声やけに耳に刺さるから不快なことこの上ない。
「アンタがハヤマ=ショーイチね!!」
「ちげーよ!シューイチだ!!」
誰だよショーイチって?
「ふん! 私が黒と言ったら白も黒よ! だからあなたはシューイチではなくショーイチなのよ! 私が間違えるはずがないんだから!!」
もうやだ俺こいつと会話したくない。
もはや清々しさすら感じる自己中心的ぶりだ……ほんの二三言葉を交わしただけなのにもう疲れてきた。
「私は知っているのよ? アンタがあの御方の素晴らしい計画を、ことごとく邪魔する毛虫にも劣る存在なのを!」
「あの御方……?」
「私はあの御方の笑顔の為なら悪の道に染まることも厭わないわ! さあハヤマ=ショーイチ! 私とあの御方との明るい未来のために、大人しく私に成敗されることね!!」
そう言って懐から鞭を取り出し、鞭の先を勢いよく振り下ろしピシャンと地面に叩きつけた。
その様子を後ろから見ていたドレニクが何やら頭を抱えていた。……これはさすがに敵ながら同情してしまうなぁ……。
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「ちょっと!! 私を無視しないでよ!!」
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「気になるか娘よ? 魔法の構築と解析……そしてマジックアイテムの開発は儂が最も得意とするところでな? 先日お主らから拝借した玄武の魔力を解析してこういうものを作り出したのだ」
言いながらドレニクが懐からなにやら錠剤のようなものを取り出した。
「これが何かわかるか? これはな……」
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「んー……そうしたいのは山々だけど、もうちょっと様子見た方がいいと思うなぁ」
盛り上がっていたこちらのボルテージもすっかり鎮静化してしまった。
どうしたもんかと思っていると、地面を転げまわるドレニクを尻目に、カレンがこちらに勢いよく振り返って指さしながら口を開いた。
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「それと、さっきから気になっているんですが、あなたの言う「あの御方」とは誰なんですか?」
「聞きたい? 本来ならアンタたちなんかに聞かせるのも勿体ないくらいだけど、特別に教えてあげるわ! 私が愛してやまないあの御方とは何を隠そう、ロイ=マフロフ様よ!!」
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