無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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謀反~地下室の攻防~

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 なんなの? もしかしてこのお嬢さんあのロイなんかの為にこんな国に反逆してると思われても仕方ないことしちゃってんの? 馬鹿なんじゃないの!?

「えっと……悪いことは言いませんから、あの男と関わるのはやめた方がいいですよ?」
「どうしてあなたにそんなことを言われなきゃいけないのかしら? ……まさかそんなこと言って私からロイ様を奪い取る気ね? そうはいかないんだから!!」
「誰があんな男を奪いますか!!」

 心外とばかりにエナがカレンに激高するその様子を、スチカとテレアが驚いた表情で見ていた。

「あんな男ですって!? あの素晴らしいロイ様をあんな男ですって!? 私の前でロイ様を侮辱するとはいい度胸ね!!」
「ええ、何とでも言ってあげますとも!! あの男は顔がいいだけで、中身は狡猾で残忍で自分のことしか考えてない、この世でもっとも最低な男と言っても差し支えない最悪な男です!!!」

 顔がいいとは思ってるんだな……。
 しかしエナがここまで感情むき出しで叫ぶのも珍しいな……そこまでロイのこと嫌いなのか。

「何やえらい感情籠ってんな? たしかにいけ好かない奴とは思ったけど」
「エナお姉ちゃん怖い……」

 二人の視線を受けたエナが我に返り、コホンと咳払いをしつつ少し顔を赤らめた。

「とっとにかく! あの男に協力したところでいつか必ず裏切られますから、今からでも手を切った方がいいですよ」
「悪いけど私はあの方に出会って初めて愛と言う物を知ったわ……この愛の為なら私はどこまでも堕ちていける……そう! すべてはロイ様の為!!」

 もう頭痛くなってきた。
 とてもじゃないけど同じ感情を持った人間だとは思えない。
 このお嬢さんが元々どうだったかは知らないが、愛はここまで人を歪めてしまう物なのだろうか?

「一応聞いてやるけど、こんなことしでかしてケニスさんに悪いとは思わないのか?」
「ケニス? ……ああ、あの顔だけしか取り柄のない無能な兄のことかしら? 愛に目覚めた今、もはやアレを兄と呼ぶのですら虫唾が走るわ」

 実の兄に対して何たる言い草……これではあまりにもケニスさんが可哀そうだ。
 しかしこんなのが後二人もいるのか……正直な話関わりたくないとすら思ってしまっている。
 これならまだドレニクを相手にしていたほうが幾分か気が楽だ。
 そしてそのドレニクだが、ようやく顔の痛みが治まったらしくよろよろと立ち上がって来た。

「どいつもこいつも……これだからロイの息のかかった人間を相手にしたくはないのだ……! とにかく儂がこいつらの足止めをするから、今のうちにロイから言われた目的を果たせ!」
「あなたに命令されるのは癪だけど、ロイ様の為だものね……それじゃあしっかり足止めをしなさい?」

 そう言って、地面に倒れている兵士のポケットから鍵の束を取り出し、カレンが扉へと向かっていく。
 悪いけどそうはさせない……!

「俺とエナでドレニクを抑えるから、テレアとスチカはあのお嬢さんを止めてくれ!」
「うん!」
「了解!!」

 再び剣を構えなおした俺はドレニクを睨みつけ、隣に立ったエナも杖を構えて魔力を活性化させていく。

「いいのか、たった二人で? 神獣薬で力を増している儂の力を甘く見てるのではないか?」
「お前こそ、この間俺にコテンパンにやられた癖にそんなにのんびり構えてていいのかよ? もしかしてこの前は油断したーとか言うつもりか?」
「相変わらず口の減らない小僧だ……この間のようにはいかぬといっただろう!」

 ドレニクから発せられる魔力が異常なほどに膨れ上がる。神獣薬とやらでドーピングしてる上に、元々エナの魔法を軽々防ぐほどの相手だ……一瞬たりとも油断できない。

「出来るだけ私がドレニクの魔法を抑えますから、隙が出来たと思ったらシューイチさんはどんどん攻めてください」
「大丈夫か? なんか薬のせいで偉くパワーアップしてるみたいだけど?」
「この城に掛かってる昏睡魔法は使い手が魔力を提供し続けないと維持できない類のものです。おそらくそちらに多くの魔力を割いてるはずですから、こちらが思ってるほどの大きな反撃は出来ないと思いますし、ドレニクの発している魔力も大きく見せかけているだけのいわゆるはったりです」

 なるほど、ハンデを負っていることを隠すためにあえて魔力を大きく見せているだけなのか……この場にエナが居なかったら、見せかけの魔力に騙されてまんまと怖気づいてるところだったな。

「そういうことなら……マジック・ニードル!」

 俺は瞬時に魔力を活性化させて、魔力針を生成しドレニクに向けて発射した。

「相変わらず芸のない……」

 ドレニクが魔力を右手に集中し、飛んできた魔力針を防ごうと手を向けるが……。

「芸なら仕込んでるぜ?」
「何? ぐおっ!?」

 魔力針がドレニクの右手に着弾した瞬間、砕け散った魔力針から小規模の閃光を含んだ爆発が起きて、ドレニクの視界を奪った。
 その隙を見逃さず、俺は身体強化を発動してドレニクの懐に潜り込み剣で斬りつけた!

「がはっ!? 小癪な真似を!!」
「小癪で結構……!」

 俺だっていつまでも役立たずのままじゃいられないからな、自分なりに創意工夫を重ねて日々進化してるわけよ? 今の閃光を発する魔力針はその工夫の賜物だ。
 これをチャンスと、俺は休むことなくドレニクを剣で斬りつけていくが、それらをドレニクがすんでのところでかわし続けていく。
 以前のように魔法による反撃や防御を行ってこないところを見るに、エナの言う通り本当に昏睡魔法の維持のために多くの魔力を割いてるようだ。

「調子に乗るなよ小僧!!」

 激高したドレニクが、右手に魔力を集中させて魔法を放とうとするが……。

「プロテクション!」

 絶妙なタイミングでエナが作り出した魔法壁により、その攻撃が俺に届くことはなかった。

「くそっ!」
「隙だらけだ!!」

 俺の突き出した剣をかわしきれず、ドニレクの左肩に突き刺さった。
 この調子なら俺とエナだけで倒せるかもしれないな……とはいえ油断は禁物だ!

「やっやむを得ん!! フル・シャドウ・バインド!!」

 窮地に追い込まれたドレニクが魔法を唱えたかと思うと、剣を振りかぶった俺の身体が突然動かなくなった。
 なんだ? 意識ははっきりしてるのに全く身体が動かないぞ!?

「くっ……やられました……拘束魔法とは……」

 後ろからエナの声が聞こえてきたことで、俺とエナがドレニクによって動きを封じられてしまったのを理解した。
 まずいぞ、この状態で攻撃されたら防げない……!
 だが肝心のドレニクは両手を突き出した状態のまま、俺たちと同じように微動だにしておらず、苦し気な表情で俺たちを睨みつけているだけだった。

「ぐっ……カレンよ、早く役目を果たせ!長くはもたんぞ!!」

 もしかしてこの拘束魔法って、使い手が魔力を放出し続けないと効果が切れてしまう類の物か?
 ハンデを負った状態では俺とエナに勝てないと思って、イチかバチか自分も動けなくなることがわかっていながら動きを封じる作戦に出たのか!

「悪あがきすんなよじいさん!」
「なんとでも……いうがいい!」

 魔力を放出し続けるドレニクの表情も苦しそうであり、この拘束を維持するために全魔力を注ぎ込んでいるのがわかる。
 俺たちが動けない以上、後はテレアとスチカに任せるしかない。

「しつこいわね!! これ以上邪魔するならただじゃおかないわよ!!」

 なにやらイライラしたように叫び声がしたのでそちらに意識を向けると、部屋の入り口を前にテレアとスチカの二人に邪魔されて先へ進めないでいるカレンが鞭を振るっていた。

「やんちゃなお嬢さんやな! いい加減往生せいや!!」
「そっちこそ、ブスの癖に邪魔しないでよ!!」
「誰がブスやねん!! テレア、遠慮なんかせんでええ! ぶちかましたれ!!」
「えっと……」

 がむしゃらに振り回される鞭を巧みにかわしながら、テレアがどうしたものかと微妙な表情をする。
 あんな闇雲の攻撃はとてもじゃないがテレアには当たらないだろうな……どうやらこのまま時間さえ過ぎればドレニクも魔力を使い果たして何もできなくなるだろうし、あのお嬢さんもテレアたちに阻まれて青龍の核石を奪うどころじゃないだろうな。
 一時はどうなることかと思ったが、青龍の核石は守れそうだ。


 そう思ったのも束の間、事態は一瞬にしてひっくり返されることになる。


「申し訳ありませんが、動かないでいただけますか?」

 突然聞こえてきたその声にテレアとスチカが振り返ると、何者かによって抱えられたティアが、喉物にナイフを押し付けられていた。

「何やお前!? どこから出てきた!?」
「何をするのじゃ!! わらわから手を離せ無礼者!!」
「そういうわけにはいきません、申し訳ありませんがあなたには人質になってもらいます」

 ティアを抱えている謎の人物はローブを頭から被っておりその顔を伺うことが出来ないものの、どうやらテレアの目から……というより耳は誤魔化せなかったようだ。

「今の声って……まさか……?」
「……やはりあなたたちを欺くことは出来ませんね」

 いったんナイフをティアの喉元から離したそいつが、ローブをまくるとそこには見知った顔があった。

「ソニアさん……!?」

 まさかの人物の登場に、エナが驚きの声を上げた。

「お久しぶりですね? 六日ぶりでしょうか?」
「そんな……どうしてソニアさんが……」
「なんやの? シュウたちの顔見知りか?」

 ソニアさんと会ったことのないスチカが困惑の表情を浮かべて、俺たちとソニアさんに交互に顔を向けた。

「ハヤマ様、先日は通信機に連絡をくださったのに出ることが出来ずに、申し訳ありませんでした」
「別にそれはいいんだけどさ……納得のいく説明をしてくんないかな?」
「失礼ながら、ハヤマ様は気が付いていらっしゃるのでは?」

 まあね……ぶっちゃけると昨日の時点でそうなんじゃないかとは思っていた。

「でかしたわソニア! そのままそいつらを牽制し続けておいてちょうだい!」
「かしこまりましたカレン様」
「かしこまりましたやないわ!! お前なんやねん!! ティアから手を離せ!!」

 スチカが魔力銃を向けると、ソニアさんはティアを盾にするように向きを変える。

「撃てますか?」
「ぐっ……!」

 魔力銃を撃てずに固まってしまったスチカを尻目に、カレンは部屋の中へと入っていく。

「待って……!」
「動かないでくださいと、言ったはずですが?」

 追いかけようとしたテレアを牽制するように、ソニアさんが冷たく言い放つと、ティアの身の安全を考えたテレアが足を止めてしまった。
 まずいぞ……考えられる最悪の状況で裏切られた!

「シューイチさん、どういうことなんですか!?」
「見ての通りだよ、あの人は最初から俺たちの味方なんかじゃなかったんだ」
「そんな!? だってソニアさんはレリスさんの……」

 確かにこの人はレリスのお世話係だったのだろう……だがそれは表の顔で、裏の顔も持っていたということだ。
 ほどなくしてカレンが青龍の核石を抱えながら部屋から出てきた。

「核石を手に入れたわ! 残念だったわね? これはもう私たちの物よ!!」
「よくやったぞカレン、ソニア!」
「お褒めに預かり光栄にございます」

 ドニレクが俺とエナに掛けていた拘束魔法を解いたらしく、動くことが出来るようになったが、依然としてティアを人質に取られている関係で、俺たちは不用意に動くことができない。

「こうなった以上、最早昏睡魔法も必要がない」

 ドレニクがそう言うと、城全体に掛かっていた昏睡魔法が解かれたらしく、不快な感じが消え失せた。

「さて、よくもここまで痛めつけてくれたものだ……お主らには礼をしなければならんな?」

 そう言ったドレニクが懐から例の神獣薬を取り出すと、それに魔力を注ぎ込み地面に放り投げた。
 地面に落ちた神獣薬が突然スパークをし、眩いばかりの閃光を放ったかと思うと、驚いたことに巨大な……リンデフランデで見たあの暴走状態の玄武のような亀の魔物へと変貌を遂げた。
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