無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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宿敵~愛の戦い~

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 マリーが懐から取り出した神獣薬を目にした俺たちの間で緊張が走る。

「ていうか、お前さん自分で神獣薬持ってるんだから、わざわざ俺たちが持って行ったのを返せとか言わなくてもそれを置いて行けばいい話なんじゃないのか?」
「あなた馬鹿なのですぅ! あなたたちが持って行った神獣薬はロイ様が特別な魔法を掛けた特注品でぇ、マリーが持っている物とは違う物なのですよぉ!」

 スゲー自然に馬鹿にされた気がするけど、結構重要な情報が聞けたので特別にそこはスルーしてやろう。
 もとから回収するつもりだったけど、特別な魔法の掛かったものと分かった以上、ますます回収しなければならなくなったな。

「貴重な情報の提供、感謝いたしますわねマリー?」
「ぐぬぬ……ひどいですぅ! マリーのことだましたですぅ!」

 騙してねぇよ……お前さんが勝手にベラベラ喋ったんだろうが……。

「絶対に許せないですよぉ! マリーとロイ様の愛の為にぃ、ここでレリスと決着を着けますよぉ!!」

 瞳に涙を滲ませながら叫んだマリーが、手にした神獣薬を勢いよく口の中に放り込み喉を鳴らしながら飲み込んだ。
 その瞬間マリーからとてつもない魔力が吹き出し周囲に蔓延していく。

「これは……神獣の持つ魔力と同質の物?」
『話には聞いてたけど、こうして実際に見るととんでもない物を作り出したという感想しか出てこないわね』
「凄いですぅ……この力があればレリスなんてちょちょいのちょいですよぉ!」

 神獣薬を呑み込んでパワーアップしたマリーが、やる気に満ちた表情で俺たちを……レリスを睨みつける。

「降参するなら今のうちですよぉ! 今のマリーは無敵ですからぁ!!」
「たしかに……普通に考えたら勝ち目がないと思える魔力量ですわね」

 そう言いながらも剣を構えたまま、レリスはマリーへと一歩踏み出した。
 自分の元へと歩み寄ってくるレリスを見たマリーがにやりと笑う。

「お馬鹿さんなのですぅ! 今のマリーに真正面から挑むつもりですかぁ?」
「そのつもりですが?」
「やっぱりお馬鹿さんなのですぅ! 昔のレリスはもっと思慮深く冷静だったですがぁ、どうやら後ろにいる間抜けな顔した男なんかと関わったせいでぇ、力の差もわからないお馬鹿さんになっちゃったみたいですねぇ!」
「わたくしをバカにするのは全然構いませんが、シューイチ様をバカにするのだけは許しませんよマリー?」

 レリスに鋭い目つきで睨まれたマリーが、その恐ろしさで一歩後ずさる。
 もうこの時点で勝敗は決している気もするけど……あちらさんはやる気満々みたいだし、もう少し様子を見るかな。

「シューイチ様は世間知らずだったわたくしに様々なことを教え、気が付かせてくれたわたくしの恩人ですわ。あなたがロイとやらの愛に生きると言うなら、わたしくもシューイチ様への愛を糧に戦っていると言っても過言じゃありませんわね」
「……ああ申されておりますが?」
「ちょっと今は俺の顔を見ないでくれませんかね?」

 多分耳まで真っ赤になってる自覚があるから。
 からかうようなフリルの視線をかわすように、さっと目を逸らす。
 ていうかレリスも何恥ずかしいことを口走ってんだよ! テレアもそうだったけど戦闘中は気分が高揚して普段言わないようなことまで言っちゃう物なのか?
 まあそこについては俺も心当たりがあるわけだけども……。

「それならこれは愛の戦いですぅ! マリーの愛とレリスの愛のどちらか強いか決めるのですよぉ!!」

 さっきから愛って言葉を軽々しく使いすぎてないかこの子ら?

「愛ってなんだろうな……」
「……振り向かないってこと」

 それは若さだ。

「御託はもういいですから、そろそろその神獣薬のおかげでパワーアップしたという力を見せてくださいな?」
「そうやって馬鹿にしていられるのも今のうちですぅ! 行きますよぉ!!」

 どうやら第二ラウンドの始まりのようだ。
 マリーは大きく振りかぶったメイスを振り下ろすと、先端部分が分離してそのままレリスに向けて真っすぐに飛んでいく。

「またそれですか?」

 それを横に身体をそらすことで危なげなく回避したレリスが、マリーへ向けて一歩踏み出す。

「甘いのですぅ!」

 そう叫んだマリーの魔力が一気に膨れ上がり、それがレリスがかわしたメイスの先端部分に集まっていく。

「とおりゃあああああぁ!!」

 何とも気の抜けるような掛け声とは裏腹に、マリーの魔力を宿したメイスの先端部分が急カーブを描いて再びレリスに向けて飛んでいく。見た目によらず中々器用なことをするな……。
 だがそのメイスの先端はレリスに当たることなく、レリスの周りをクルクルと回るだけだ。
 なんだ? あそこまで器用にメイスの先端を操ることが出来るのになぜレリスに直接ぶつけないんだ?

「……飛んでるアレに変な紐みたいのが付いてて、レリっちに巻き付く一歩手間で停まってる」
「紐? そんなのは見えないけど?」

 フリルがそう言いながら飛んでるメイスの先端部分を指さすも、俺には何も見えない。
 いやでも待てよ……今までもフリルは俺たちが気が付かなかった音楽に洗脳魔法が掛かっていたことや、隠蔽魔法の存在などを見破っているんだ、そのフリルが言うんだから間違ないなく紐があるはずだ!

「レリス! 魔力を活性化させて周囲をよく見るんだ!!」
「シューイチ様?」

 レリスに向けて叫びながら、俺自身も魔力を活性化させてレリスの周囲に目を凝らすと、フリルの言った通りレリスの周囲を取り囲むようにうっすらと光る紐のようなものが見えた。

「なっ!? これは……!」

 どうやらレリスにも見えたらしく、予想だにしてなかった事態に驚愕の表情を浮かべた。

「気が付くのが遅いのですぅ!」

 マリーが叫びながら先端の着いてないメイスを高々と掲げると、まるでけん玉の玉の部分が収まるかのような感じで、メイスの先端部分がマリーの持つ柄の先へと綺麗に収まった。
 その瞬間今まで認識できなかった紐のような物が実体化し、瞬時にしてレリスに巻き付いて行く。

「そんな……!?」
「ふふふ……これでもうレリスは満足に動くことができないのですぅ!」

 魔力の紐によって剣を持つ腕ごと上半身をぐるぐる巻きにされてしまったレリスを見て、マリーがメイスをぶんぶんと振り回しながら迫っていく。

「得意の剣もその状態では使えないはずですぅ! これはもう勝負あったですよぉ! やっぱり愛は勝つんですぅ!」

 そのままレリスの眼前へとやってきたマリーが手にしたメイスを大きく振りかぶって、レリスに向けて一直線に振り下ろした!
 周囲に凄まじい打撃音が響き渡る……が。

「……あれぇ?」

 それは無機物同士がぶつかった音であり、人間へとぶつけられた音ではなかった。

「レリスがいない……あの状態でかわせるはずが……?」
「あなたも大概詰めが甘いですわね」
「うひゃぁ!?」

 突然後ろから聞こえたレリスの声にびっくりしたのか、マリーが大きく飛び上がった。

「なっなぜ動けるのですかぁ!!」

 叫びつつメイスを横に薙ぎ払うマリーだったが、その攻撃はレリスのバックステップで軽くかわされてしまった。
 そりゃあ動けない方が不思議だよなぁ……。

「まさかの戦法に一瞬驚きましたが、わたくしの動きを封じたかったのならまずは足を縛り上げるべきでしたわね」
「……はっ!?」

 マリーが封じたのはレリスの上半身だけであり、その下……下半身には全くの手つかずだった。

「でっでも上半身が使えなければぁ、いくらレリスと言えど剣で攻撃することはできないはずですぅ!!」
「たしかに剣は使えませんわね」

 再びレリスを攻撃しようと、手にしたメイスを振り降ろすマリーだったが―――

「はっ!」
「はえぇ!?」

 バシッといい音がしたかと思うと、マリーが手にしていたメイスが宙高く放り上げられていた。
 そのままマリーの頭上を通りすぎて、真後ろの地面にメイスの先端部分から音と共に深々と突き刺さる。
 マリーは突然消えたメイスを探し周囲を見回すものの、対するレリスはメイスを蹴り上げ、高々に突き上げられていた右足をそっと地面に下していた。
 そうなのだ……レリスは剣を使えなくても、テレアにも引けをとらない足技があるのだ。
 マリーのメイスを器用に蹴り飛ばしたレリスが、マリーを見て深くため息を吐いた。

「たしかにあなたの魔力は、今のわたくしとは比べるのも馬鹿らしいほどの差がありますが……その使い方があまりにもお粗末過ぎますわ」
『宝の持ち腐れってやつよね』
「なっ……なっ……!?」

 レリスの動きを封じようとしたのはいい作戦だと思うが、いかんせん詰めが甘すぎたな。
 如何に強力な力を手にしても、上手く扱えなければ全然脅威にもならないんだなぁ……今回のことでよく学習できたわ。

「……シューイチはあんな風になったらダメよ?」
「うん、気を付けるね? ……ってなんでやねん!」
「……シューイチ、ノリツッコミはもっとテンポを重視して?」

 なぜだか俺が怒られる羽目になっているのはなんでなんだろうな?

「まだなにか手品を隠しているなら、全て見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「むっかぁ~!! そうやってまたマリーをバカにしてぇ!!」

 怒ったマリーがレリスに向けて手を向けると、レリスの上半身を縛り上げている紐が光を放ち始めた。
 その瞬間、レリスの顔が苦悶に彩られる。

「紐が……身体を締め付けて……!?」
「魔法の紐はどんどんきつくなっていくですよぉ? さあ降参するなら今のうちですぅ!」

 アレはさすがにまずいか!?
 レリスを助け出そうと一歩踏み出した俺に気が付いたレリスが、俺の顔を見て上品に微笑む。

「この程度、どうということもありませんので、シューイチ様はそこでフリルちゃんと一緒にわたくしの勝利を見届けてくださいませ」
「……わかった。けどもしもって時は助けるからな?」

 俺の言葉に小さく頷いたレリスが、マリーに向き直り睨みつける。

「そんな顔しても、今のレリスなんて怖くもなんともないですぅ!」
「学舎時代は色々とあなたの立場やその他もろもろを考慮して、あまりあなたと事を荒立てないようにしておりましたが、今はもう学舎ではありませんから別に構いませんわよね?」

 レリスがそう言って魔力を活性化させて、なにやら魔法を唱えた。

「あれ? 紐が……?」

 質量をもった風の壁がレリスの内側から発生し、身体を縛り上げている魔力の紐を徐々に外側へと押し出していく。
 あれってレリスが空中戦をするときによく使う風のフィールドだよな?

「このままじゃ逃げられて……こうなったらぁ!!」

 膨れ上がったマリーの魔力がレリスを縛る魔力の紐へと注がれていき……そして。

 目を開けていられないほどの閃光を発し、魔力の紐が大爆発を起こした。

「レリス!!!」

 爆風と爆音が収まり、目を開けてレリスの無事を確認するも、肝心のレリスの姿が影も形もなかった。
 まさか……今の爆発で? そんなバカな!!

「勝ったぁ……ついにあのレリスに勝ったぁ!! 積年の恨み晴らしてやったですよぉ!!」

 大はしゃぎで飛び跳ねていたマリーが、今度は俺たちに顔を向けてニヤリと笑う。

「さてぇ……今度はあなたたちの番ですよぉ?」
「やれるもんならやってみろよ……!」

 レリスがやられてしまったとあらば、俺も容赦なんて……。

「勝手に勝った気になられては困りますわね?」
「はえっ!?」

 突然マリーの真後ろに現れたレリスが、剣の柄の部分をマリーの首筋に打ち込むと、がっくりと膝をついて地面に仰向けに倒れた。

「きゅうぅ~……」
「最後の攻撃だけはさすがにヒヤッとしましたわね」
「えっと……なんで無事なの?」
「簡単なことですわ? 爆発の直前に風の魔法で加速してあの場から瞬時に退避した……それだけですわ」

 いやいや、マリーが紐に魔力を込めてから爆発まで二秒もなかったぞ!?

『かわしきれない爆発は私の力で逸らしたしね』
「感謝いたしますわ、朱雀」

 レリスと朱雀ってほんと息ぴったりだよなぁ……まあなんにせよレリスが無事でよかった!

「そういうわけで……終わりましたわ、シューイチ様」
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