128 / 169
心酔~大きな子供~
しおりを挟む
路地裏での戦いが終わってすぐにエナたちと連絡を取ると、なんとなくこちらで何が起こっていたのかを予測しており、何があってもすぐ動けるよう喫茶店で待機していたらしくものの五分で俺たちの元へと駆け付けてくれた。
「この人がケニスさんの妹さんの一人ですか?」
「グウレシア三姉妹の次女でマリーです」
「……学舎でレリっちと同学だとか言ってた」
「学舎と言えばあれですね? 高い授業料を払い様々な学問について学ぶことが出来る、実質貴族専門機関と化しているあれですね?」
高い授業料ねぇ……エナの口ぶりからすると庶民ではとても払えない金額なんだろうな。
「マリーとはその学舎で二年間共に学んでいたのですが……それはもうことあるごとに目の敵にされておりましたわね」
「積年の恨み晴らしてやるですぅ!……とか言ってたもんな」
「……ぷっ! シューイチ、今の中途半端に似てた……ぷふっ」
何が面白かったのか知らないが、フリルの笑いのツボにはまってしまったようだ。
「しかし貴族専門ねぇ……俺のいた世界じゃ五歳になったら義務教育が始まるからなぁ」
「お兄ちゃんのいた世界じゃそうなんだ?」
「そうだぞ? 五歳から幼稚園でその後小学校になって中学校に繰り上がっていくんだ。中学で義務教育は終わるからその上の高校に行くかどうかは本人の意思次第だけどな」
まあよほど深刻な家庭事情を抱えてなければ、大体は高校に進学するもんだけど。
「だからこの世界みたいに文字の読み書きが出来ない大人とかっていうのは物凄く珍しいな」
「なんだか窮屈そうですね、シューイチさんの元居た世界は」
「……って話が脱線したな。それでこのマリーはどうしようか?」
未だに気を失い地面に転がされているマリーを見つつ、レリスへと問いかける。
一応幼馴染っぽい感じだし、レリスに確認を取ってみた次第なのだが……。
「勿論このまま国へ突き出しますわ。同学のよしみで手荒なことはしないとは言いましたが、国へ突き出さないとはわたくし言ってませんもの」
うん、たしかに言ってなかったね、うん。
そんなわけで俺たちは未だに目を覚まさないマリーを担いで、城へと戻っていくのだった。
城へ到達すると俺たちの連絡を受けたケニスさんが出迎えてくれた。
そのままマリーを城の医務室へと運んでいき、ベッドに寝かすことで俺たちはようやく一息つけることとなった。
「まさかこんなに早く妹たちの一人が見つかるとは……君たちはさすがだね……」
「まあそれと同時に面倒くさい物も見つかっちゃったわけでなんですけどね」
医務室のベッドに寝かされたマリーを見て、ケニスさんが感嘆のため息を吐いた。
しかしここに運ぶまでの間に一回も目を覚まさなかったな。
「さて、すぐにでもマリーから話を聞かないといけないね」
「ええ、そうですわね」
「え? でもこの人ずっと寝たまんまですけど?」
エナの疑問に対してレリスとケニスさんが小さく首を横に振る。
その様子を見て疑問符を浮かべたエナの服の袖を、テレアが軽く引っ張った。
「エナお姉ちゃん、この人随分前に目を覚ましてたよ?」
「そうなんですか!?」
そうだったのか!?
ってことは、こいつ寝たふりしてやがるのか!?
「マリー、君は昔から都合が悪くなると寝たふりをする癖があるが……そこは今も変わらないみたいだね?」
ケニスさんの言葉に、気を失っているはずのマリーがビクッと反応する。
「マリー? あなたのその癖、学舎にいるころから変わりませんのね……あれから少しは成長したのかと思いましたが、その様子が見られないのでがっかり致しましたわ」
「二人ともさっきから失礼ですぅ!! マリーはこう見えてもちゃんと成長……」
「やっぱり起きてたね」
「やっぱり起きてましたわね」
レリスとケニスさんの二人に煽られたマリーが、我慢できずに起き上がって反論するも、咄嗟にばつが悪そうに顔を逸らした。
本当に寝たふりしてただけとは……そんなことをしてもこの状況を切り抜けられるはずがないだろうに……。
「さてマリー……何か僕に言うことはあるかい?」
「……お兄様! マリーは騙されていただけなのですよぉ! お兄様なら信じてくれますよねぇ!?」
「良く言うよ、あんだけケニスさんのことをバカにしまくってたくせに」
俺がそう口を挟むと、マリーが一瞬言葉を詰まらせるものの、すぐさま涙目になってケニスに追い縋っていく。
「あっ……あれはそういう風に言わないといけないって、脅されて……!」
「誰に? あなたの敬愛するあのロイという男にですか?」
「ロイ様はそんなことを言えだなんて言わないですぅ!」
お前さんの嘘、さっきからぶれっぶれやないか。
「マリー……君たちは今国中に指名手配されている身だ。これ以上嘘を重ねて事実を言わないのであればどんどん罪が重くなっていくことになるよ?」
「どうしてですかぁ? マリーたち何も悪いことしてないですよぉ!! ロイ様とマリーたちはこの国を神獣の力で浄化するために一生懸命頑張っているのですぅ! 指名手配されるようなことなんてしてないですよぉ!!」
「……これだけのことをしでかして、指名手配されないと思ってるほうが不思議」
まさしくフリルの言う通りである。もはや基本的な倫理観が欠落してるとかしか思えない。
(なあエナ? もしかして洗脳魔法とか掛かってたりする?)
(見たところその形跡はありませんね……恐らく本心からロイに篭絡されているんでしょう)
(マジかよ……あいつのどこにそんな魅力があるんだ?)
(話術で人をその気にさせるのが、あの男の最も得意とするところですからね……加えてあの顔の良さですから、体よく口説かれてしまったんでしょうね)
もう厄介なことこの上ないな……一種のマインドコントールの領域だぞこれ。
まだ魔法による洗脳の方がわかりやすい解決手段がある分マシだよなぁ……。
「ハヤマ君、少し聞きたいことがあるんだけどいいかい? 君たちも前に言っていたけど、ロイという男は一体何者なんだい?」
「う~ん……ロイについては俺よりもエナの方がよっぽど詳しいんですけどね」
そう言ってエナに視線を向けると、大分嫌そうな顔をしながらも渋々エナが口を開いた。
「そうですねぇ……あの男はとにかく口が上手く、かつ洗脳魔法を得意としていて、人を思い通りに操ることに長けた最低な男ですね」
「……随分と私怨が混じっているが大体把握したよ。マリーは……というよりうちの妹たちは昔から顔のいい男に弱いところがあったからね」
そう言ってケニスさんが深くため息を吐き、再びマリーへと向き直る。
「マリー、君たちが何を企んでいるのか正直にすべて話すんだ。なんなら王様に口利きをして君の罪を軽くしてもらえるように頼んでもいい」
「罪も何もマリーたちは悪いことしてないって言ってるじゃないですかぁ!」
こりゃだめだな……正攻法では何もしゃべりそうにないぞ。
こういう相手を動かすにはそうだなぁ……。
脳内で日本にいた頃の団地時代の記憶を掘り返していき、今のマリーと似たような感じの子供がいないかを検索していく。
対象が子供だというところがなんかアレな感じだが、このマリー自身が身体がでかいだけの子供みたいな存在だからまあ問題ないだろう。
「ケニスさん、ちょっとでいいから俺に任せてもらってもいいですか?」
「いいけど……大丈夫かい?」
「まあ、こういう感じに自分の非を全く認めない子供と接した記憶があるんで多分大丈夫ですよ」
「子供……まあ似たような物か……うん、それじゃ君に任せるよ」
俺の子供発言に一瞬だけ何とも言えない表情をしたケニスさんだったが、このままでは埒が明かないと思ったのか、俺に任せるように一歩後ろへと下がった。
さてと、任された以上は結果を出さないとな。
「えっと……お前さんに聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「何を聞かれてもマリーから話すことなんてなにもありませんよぉ!」
「聞きたいってのはお前さんが大好きなロイについてなんだけどさ? お前さんはロイのどこがそんなに好きなんだ? お前さんのような美少女がここまで入れ込むんだから、さぞやすごい奴なのかと思ってさ」
俺がそう言うと、美少女と呼ばれたことに気を良くしたのか、はたまたロイのことを知りたいと言ったからかは知らないが、途端に嬉しそうな顔になって俺を見てくる。
「もしかしてあなた、ロイ様のことについて知りたいのですかぁ? しょうがないですねぇ! そこまで言うなら教えてあげなくもないですよぉ?」
「ぜひご教授頼むわ」
「ロイ様は二か月ほど前に突然マリーたちの前に現れた王子様ですぅ! あの綺麗な銀髪を華麗になびかせながら颯爽とマリーたちの前に現れたロイ様はまさに王子様と呼ぶにふさわしいお方でしたぁ」
ロイが王子様ねぇ……一瞬吹き出しそうになったものの話を聞くためにぐっと堪えた。
「そのロイ様がマリーたちに言いましたぁ……「この国は汚れてしまっている、それを神獣の力を使い浄化するために君たちの力を貸してくれないか?」とぉ!」
「この国が汚れてる? そこんとこもうちょっと詳しく教えてくれないか?」
「……どうしてそんなことまであなたに言わないといけないんですかぁ?」
「勿論、ロイの素晴らしい考えとやらを知りたいからだよ! 俺みたいなスクールカーストの底辺に位置するような奴は、上にいる人間の考えを真似て少しでも上に行きたいって思うからさ」
我ながらものすごい適当なことを言ってる自覚はあるが、どうせスクールカーストなんて言葉はこの世界には存在しないだろうし分かりっこないだろ。
ちなみに俺自身は別にスクールカーストの底辺だったわけじゃないぞ? 位置としては多分中間位だった……はず。
「言葉の意味はよくわかりませんがぁ、ロイ様のようになりたいというあなたの気持ちは伝わって来たのですよぉ! いいでしょう、ロイ様の崇高な計画を話して聞かせてあげるですぅ!」
よし、掛かった!
この手の誰かに命令されてるだけで自分が悪いことしてるなんて思ってない奴は、命令してる奴に心酔してることが多いからそいつを立ててやるだけでこうやって喋ってくれることが多いのだ。
団地にいるころ、好きな男の子に命令されて悪戯に手を染めていた女の子がいたから、それに当てはめてみたんだが……どうやらうまくいったようだ。
そんなわけで、マリーの口からロイ……引いては教団や自分たちが何を企んでいるのかを二時間ほど聞かされるとこととなった。
ちなみ、もう少し要点を短く抑えてわかりやすく話してくれれば30分で終わりそうな話だったことを付け加えておこう。
全ての話を聞いた後、城の警備兵を呼んでもらいマリーを引き渡し、城の牢屋へと連行してもらった。
当のマリーは勿論「どうして全て話したのにマリーが捕まらないといけないんですかぁ!?」とか言っていたけど、勿論そんな叫びに耳を貸すものなんて誰一人としていなかった。
「……疲れました……」
なんかげっそりとした表情でエナがため息を吐いた。
あの甘ったるい喋り方で尚且つ、話の内容が取っ散らかっていて要領を得ないこちらの疲労ばかりが溜まっていく素敵なトークを繰り広げられたもんだから、エナだけでなく肉親のケニスさんでさえ疲れた様子だった。
「しかし……よくあのマリーをあそこまで喋らせる気にさせられたものだね、ハヤマ君」
「まあ昔取った杵柄ってやつですよ。それにしても色々と厄介なことが分かりましたね」
「そうですわね……マリーの話の要点を抜き出しますと、カルマ教団は神獣の封印を解いてこの国を滅ぼすすつもりみたいですし」
マリーの話からわかったことは、教団は神獣の力と神獣薬の二つを使い、この国を文字通り滅ぼすつもりらしい。
だがなぜこの国を滅ぼしたいのかという肝心な部分はさすがにマリーは知らなかった。
後は、残りの妹たちの潜伏場所についてだが、こちらも別行動をしていたらしく詳しいことはわからないそうであまり有力な情報は得られなかった。
だが大体の場所の特定はできたので、以前よりはずっと探索範囲を絞ることが出来るだろう。
そして残りの神獣薬の隠し場所についても、マリーが知っている範囲で白状させたのでそちらの探索も併せて行うこととなった。
結果から言うと、そこまで期待していた有力な情報は得られなかったということで、俺たちは再び残りの姉妹の探索を続けることとなったわけだ。
結局この日は三個ほど神獣薬が見つかっただけで、捜索は打ち切られ翌日に持ち越されることなるが……まさにその翌日に事態が大きく動くことになるのである。
「この人がケニスさんの妹さんの一人ですか?」
「グウレシア三姉妹の次女でマリーです」
「……学舎でレリっちと同学だとか言ってた」
「学舎と言えばあれですね? 高い授業料を払い様々な学問について学ぶことが出来る、実質貴族専門機関と化しているあれですね?」
高い授業料ねぇ……エナの口ぶりからすると庶民ではとても払えない金額なんだろうな。
「マリーとはその学舎で二年間共に学んでいたのですが……それはもうことあるごとに目の敵にされておりましたわね」
「積年の恨み晴らしてやるですぅ!……とか言ってたもんな」
「……ぷっ! シューイチ、今の中途半端に似てた……ぷふっ」
何が面白かったのか知らないが、フリルの笑いのツボにはまってしまったようだ。
「しかし貴族専門ねぇ……俺のいた世界じゃ五歳になったら義務教育が始まるからなぁ」
「お兄ちゃんのいた世界じゃそうなんだ?」
「そうだぞ? 五歳から幼稚園でその後小学校になって中学校に繰り上がっていくんだ。中学で義務教育は終わるからその上の高校に行くかどうかは本人の意思次第だけどな」
まあよほど深刻な家庭事情を抱えてなければ、大体は高校に進学するもんだけど。
「だからこの世界みたいに文字の読み書きが出来ない大人とかっていうのは物凄く珍しいな」
「なんだか窮屈そうですね、シューイチさんの元居た世界は」
「……って話が脱線したな。それでこのマリーはどうしようか?」
未だに気を失い地面に転がされているマリーを見つつ、レリスへと問いかける。
一応幼馴染っぽい感じだし、レリスに確認を取ってみた次第なのだが……。
「勿論このまま国へ突き出しますわ。同学のよしみで手荒なことはしないとは言いましたが、国へ突き出さないとはわたくし言ってませんもの」
うん、たしかに言ってなかったね、うん。
そんなわけで俺たちは未だに目を覚まさないマリーを担いで、城へと戻っていくのだった。
城へ到達すると俺たちの連絡を受けたケニスさんが出迎えてくれた。
そのままマリーを城の医務室へと運んでいき、ベッドに寝かすことで俺たちはようやく一息つけることとなった。
「まさかこんなに早く妹たちの一人が見つかるとは……君たちはさすがだね……」
「まあそれと同時に面倒くさい物も見つかっちゃったわけでなんですけどね」
医務室のベッドに寝かされたマリーを見て、ケニスさんが感嘆のため息を吐いた。
しかしここに運ぶまでの間に一回も目を覚まさなかったな。
「さて、すぐにでもマリーから話を聞かないといけないね」
「ええ、そうですわね」
「え? でもこの人ずっと寝たまんまですけど?」
エナの疑問に対してレリスとケニスさんが小さく首を横に振る。
その様子を見て疑問符を浮かべたエナの服の袖を、テレアが軽く引っ張った。
「エナお姉ちゃん、この人随分前に目を覚ましてたよ?」
「そうなんですか!?」
そうだったのか!?
ってことは、こいつ寝たふりしてやがるのか!?
「マリー、君は昔から都合が悪くなると寝たふりをする癖があるが……そこは今も変わらないみたいだね?」
ケニスさんの言葉に、気を失っているはずのマリーがビクッと反応する。
「マリー? あなたのその癖、学舎にいるころから変わりませんのね……あれから少しは成長したのかと思いましたが、その様子が見られないのでがっかり致しましたわ」
「二人ともさっきから失礼ですぅ!! マリーはこう見えてもちゃんと成長……」
「やっぱり起きてたね」
「やっぱり起きてましたわね」
レリスとケニスさんの二人に煽られたマリーが、我慢できずに起き上がって反論するも、咄嗟にばつが悪そうに顔を逸らした。
本当に寝たふりしてただけとは……そんなことをしてもこの状況を切り抜けられるはずがないだろうに……。
「さてマリー……何か僕に言うことはあるかい?」
「……お兄様! マリーは騙されていただけなのですよぉ! お兄様なら信じてくれますよねぇ!?」
「良く言うよ、あんだけケニスさんのことをバカにしまくってたくせに」
俺がそう口を挟むと、マリーが一瞬言葉を詰まらせるものの、すぐさま涙目になってケニスに追い縋っていく。
「あっ……あれはそういう風に言わないといけないって、脅されて……!」
「誰に? あなたの敬愛するあのロイという男にですか?」
「ロイ様はそんなことを言えだなんて言わないですぅ!」
お前さんの嘘、さっきからぶれっぶれやないか。
「マリー……君たちは今国中に指名手配されている身だ。これ以上嘘を重ねて事実を言わないのであればどんどん罪が重くなっていくことになるよ?」
「どうしてですかぁ? マリーたち何も悪いことしてないですよぉ!! ロイ様とマリーたちはこの国を神獣の力で浄化するために一生懸命頑張っているのですぅ! 指名手配されるようなことなんてしてないですよぉ!!」
「……これだけのことをしでかして、指名手配されないと思ってるほうが不思議」
まさしくフリルの言う通りである。もはや基本的な倫理観が欠落してるとかしか思えない。
(なあエナ? もしかして洗脳魔法とか掛かってたりする?)
(見たところその形跡はありませんね……恐らく本心からロイに篭絡されているんでしょう)
(マジかよ……あいつのどこにそんな魅力があるんだ?)
(話術で人をその気にさせるのが、あの男の最も得意とするところですからね……加えてあの顔の良さですから、体よく口説かれてしまったんでしょうね)
もう厄介なことこの上ないな……一種のマインドコントールの領域だぞこれ。
まだ魔法による洗脳の方がわかりやすい解決手段がある分マシだよなぁ……。
「ハヤマ君、少し聞きたいことがあるんだけどいいかい? 君たちも前に言っていたけど、ロイという男は一体何者なんだい?」
「う~ん……ロイについては俺よりもエナの方がよっぽど詳しいんですけどね」
そう言ってエナに視線を向けると、大分嫌そうな顔をしながらも渋々エナが口を開いた。
「そうですねぇ……あの男はとにかく口が上手く、かつ洗脳魔法を得意としていて、人を思い通りに操ることに長けた最低な男ですね」
「……随分と私怨が混じっているが大体把握したよ。マリーは……というよりうちの妹たちは昔から顔のいい男に弱いところがあったからね」
そう言ってケニスさんが深くため息を吐き、再びマリーへと向き直る。
「マリー、君たちが何を企んでいるのか正直にすべて話すんだ。なんなら王様に口利きをして君の罪を軽くしてもらえるように頼んでもいい」
「罪も何もマリーたちは悪いことしてないって言ってるじゃないですかぁ!」
こりゃだめだな……正攻法では何もしゃべりそうにないぞ。
こういう相手を動かすにはそうだなぁ……。
脳内で日本にいた頃の団地時代の記憶を掘り返していき、今のマリーと似たような感じの子供がいないかを検索していく。
対象が子供だというところがなんかアレな感じだが、このマリー自身が身体がでかいだけの子供みたいな存在だからまあ問題ないだろう。
「ケニスさん、ちょっとでいいから俺に任せてもらってもいいですか?」
「いいけど……大丈夫かい?」
「まあ、こういう感じに自分の非を全く認めない子供と接した記憶があるんで多分大丈夫ですよ」
「子供……まあ似たような物か……うん、それじゃ君に任せるよ」
俺の子供発言に一瞬だけ何とも言えない表情をしたケニスさんだったが、このままでは埒が明かないと思ったのか、俺に任せるように一歩後ろへと下がった。
さてと、任された以上は結果を出さないとな。
「えっと……お前さんに聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「何を聞かれてもマリーから話すことなんてなにもありませんよぉ!」
「聞きたいってのはお前さんが大好きなロイについてなんだけどさ? お前さんはロイのどこがそんなに好きなんだ? お前さんのような美少女がここまで入れ込むんだから、さぞやすごい奴なのかと思ってさ」
俺がそう言うと、美少女と呼ばれたことに気を良くしたのか、はたまたロイのことを知りたいと言ったからかは知らないが、途端に嬉しそうな顔になって俺を見てくる。
「もしかしてあなた、ロイ様のことについて知りたいのですかぁ? しょうがないですねぇ! そこまで言うなら教えてあげなくもないですよぉ?」
「ぜひご教授頼むわ」
「ロイ様は二か月ほど前に突然マリーたちの前に現れた王子様ですぅ! あの綺麗な銀髪を華麗になびかせながら颯爽とマリーたちの前に現れたロイ様はまさに王子様と呼ぶにふさわしいお方でしたぁ」
ロイが王子様ねぇ……一瞬吹き出しそうになったものの話を聞くためにぐっと堪えた。
「そのロイ様がマリーたちに言いましたぁ……「この国は汚れてしまっている、それを神獣の力を使い浄化するために君たちの力を貸してくれないか?」とぉ!」
「この国が汚れてる? そこんとこもうちょっと詳しく教えてくれないか?」
「……どうしてそんなことまであなたに言わないといけないんですかぁ?」
「勿論、ロイの素晴らしい考えとやらを知りたいからだよ! 俺みたいなスクールカーストの底辺に位置するような奴は、上にいる人間の考えを真似て少しでも上に行きたいって思うからさ」
我ながらものすごい適当なことを言ってる自覚はあるが、どうせスクールカーストなんて言葉はこの世界には存在しないだろうし分かりっこないだろ。
ちなみに俺自身は別にスクールカーストの底辺だったわけじゃないぞ? 位置としては多分中間位だった……はず。
「言葉の意味はよくわかりませんがぁ、ロイ様のようになりたいというあなたの気持ちは伝わって来たのですよぉ! いいでしょう、ロイ様の崇高な計画を話して聞かせてあげるですぅ!」
よし、掛かった!
この手の誰かに命令されてるだけで自分が悪いことしてるなんて思ってない奴は、命令してる奴に心酔してることが多いからそいつを立ててやるだけでこうやって喋ってくれることが多いのだ。
団地にいるころ、好きな男の子に命令されて悪戯に手を染めていた女の子がいたから、それに当てはめてみたんだが……どうやらうまくいったようだ。
そんなわけで、マリーの口からロイ……引いては教団や自分たちが何を企んでいるのかを二時間ほど聞かされるとこととなった。
ちなみ、もう少し要点を短く抑えてわかりやすく話してくれれば30分で終わりそうな話だったことを付け加えておこう。
全ての話を聞いた後、城の警備兵を呼んでもらいマリーを引き渡し、城の牢屋へと連行してもらった。
当のマリーは勿論「どうして全て話したのにマリーが捕まらないといけないんですかぁ!?」とか言っていたけど、勿論そんな叫びに耳を貸すものなんて誰一人としていなかった。
「……疲れました……」
なんかげっそりとした表情でエナがため息を吐いた。
あの甘ったるい喋り方で尚且つ、話の内容が取っ散らかっていて要領を得ないこちらの疲労ばかりが溜まっていく素敵なトークを繰り広げられたもんだから、エナだけでなく肉親のケニスさんでさえ疲れた様子だった。
「しかし……よくあのマリーをあそこまで喋らせる気にさせられたものだね、ハヤマ君」
「まあ昔取った杵柄ってやつですよ。それにしても色々と厄介なことが分かりましたね」
「そうですわね……マリーの話の要点を抜き出しますと、カルマ教団は神獣の封印を解いてこの国を滅ぼすすつもりみたいですし」
マリーの話からわかったことは、教団は神獣の力と神獣薬の二つを使い、この国を文字通り滅ぼすつもりらしい。
だがなぜこの国を滅ぼしたいのかという肝心な部分はさすがにマリーは知らなかった。
後は、残りの妹たちの潜伏場所についてだが、こちらも別行動をしていたらしく詳しいことはわからないそうであまり有力な情報は得られなかった。
だが大体の場所の特定はできたので、以前よりはずっと探索範囲を絞ることが出来るだろう。
そして残りの神獣薬の隠し場所についても、マリーが知っている範囲で白状させたのでそちらの探索も併せて行うこととなった。
結果から言うと、そこまで期待していた有力な情報は得られなかったということで、俺たちは再び残りの姉妹の探索を続けることとなったわけだ。
結局この日は三個ほど神獣薬が見つかっただけで、捜索は打ち切られ翌日に持ち越されることなるが……まさにその翌日に事態が大きく動くことになるのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる