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矢文~いなくなった双子~

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 その日の捜索が打ち切られ、関係者各位が城の作戦会議室に一堂に集められて定例会議を行う。
 俺たちも一応関係者ということで王様直々に出席を頼まれており、パーティの代表である俺とある意味では俺の参謀ともいうべきエナと二人で会議に参加することとなった。
 この会議によりわかったことは、依然残り二人の姉妹が見つかっていないことと、マリーの情報をもとに捜索した結果、三つの神獣薬が見つかったということだけだった。

「皆の者、本日はご苦労だった! ゆっくりと身体を休めて明日またよろしく頼むぞ!」

 王様のその声を最後に、二時間にも及んだ定例会議は終わりを告げた。
 ていうかあの王様、本当にちゃんとした場では王様らしく振舞うんだな……俺の中でフランクなイメージが根付いているせいでどうにも違和感しか感じられない。

「無駄に長い会議でしたね」
「どこの世界も結論がわかり切ってることを延々と無駄に話し合う物なんだなぁ……」

 会議と言う物は知らない間にコストを消費し続ける見えない魔物のような物……なんて言葉をどこかで聞いたような……。

「ハヤマ様とエナ様でございますね?」

 俺たちがそんなことを愚痴りあっていると、会議に出席していた兵士の一人が俺たちの元へとやって来て声を掛けてきた。

「王様からの伝言でございます……「夕食が終わった後でいいので王室まで来てほしい」とのことです」
「あー了解です」
「伝言、わざわざありがとうございます」

 エナが微笑みながら丁寧にお辞儀すると、兵士はなんだか顔を赤らめ照れたような顔をしながら俺たちから離れていった。

「エナも大概罪な子だよね」
「何がですか?」

 その返事に「なんでもないよ」と返して俺たちはテレアたちと合流すべく、作戦会議室から出て客室へと向かうのであった。



「やあ、わざわざ来てもらってすまないね」

 スチカ以外全員で夕食を取った後、王様に呼ばれていたこともあり、俺とエナの二人で王様の部屋へとやって来た。
 ちなみにスチカはというと、神獣薬の解析とその成分を探知できるように元からある魔力探知機を改良する作業で忙しいらしく、定例会議にも夕食時にも姿を見せなかった。
 一応国で重要なポジションを担う立場でそれは大丈夫なのかと周囲に尋ねたが、スチカの立場は元々オンリーワンみたいなところがあるとのことで、黙認されているらしい。
 まあその分ちゃんと国に貢献してるわけだしな。

「君たちにしか神獣についての話が出来ないからね……」
「ここまでの事態になっているんですから、いっそのこと青龍のことを国民に発表しちゃえばいいんじゃないですか?」

 ていうかなんでアーデンハイツは青龍の加護を受けていることを国民に秘匿してるんだろう?

「まったくもって君の言う通りなんだが、今ここでそれを公表することは余計な混乱を招く事態を引き起こしかねないからね」
「そもそもなんで青龍のことを隠してるんですか?」

 気になってしまったので、もう直接聞いてみることにした。

「アーデンハイツの成り立ちは君たちにも話したと思うが、青龍の核石を拾った私のご先祖さまの方針だそうだよ」

 聞けばアーデンハイツの王族のご先祖様である例の夫婦の生きていた時代というのは、神獣の存在が恐ろしい物であると伝わっていた時代らしい。
 そんな時代で封印された核石とはいえ、青龍の元を見つけたなどと周りに言いふらすわけにはいかず、その事実をひた隠しにし続けるうちにそれが当たり前になっていき、国となった今でもそれが続いているのだという。
 でもリンデフランデはこの国よりも歴史が古いのに、神獣を守り神として崇めていたんだよな?
 ……ああそうか! リンデフランデは過去に一度玄武の封印が解けて暴れたという経緯があるから、それがアーデンハイツのご先祖様の生きた時代だとすると、神獣が恐ろしい物であるという認識を持たれてるのも納得だな。
 そう考えるとリンデフランデって過去に暴走した玄武に滅ぼされかけてるのに、それでも玄武を守り神として崇めてたんだからタフな国だよなぁ。

「まあ国の方針というなら仕方ないのかもですね」
「うむ……それはそうと、例の神獣薬が国中で見つかったということについて聞きたいんだが」

 神獣薬という単語が出てきたことにより、俺たちの間で緊張が走る。

「昨日君たちからも報告を受けてはいたが……本当にあんな薬が神獣へと姿を変えるのか?」
「はい、実際に俺とエナとテレアとスチカはそれを見てますから、間違いないです」
「そんなものが国中に……もしもそれらが一斉に神獣へとなった場合、この国の兵士で対処できるものなのだろうか?」

 どうだろうな……実際のところ俺たちは直接人工神獣と戦ってないからなぁ……メイシャさん一人で倒しちゃったし。
 だがどう考えても暴走してた玄武ほどの脅威は感じられなかったから……。

「完全に目算ですが、一匹当たり10人ほど配置すれば恐らく何とかなるかと」
「ただ魔法を扱える者も含めないとまずいですね。前衛だけで10人だとあっという間に電撃でやられちゃいますよ」

 それではいけないとばかりに、エナが俺の意見に補足を入れてきた。

「電撃……その人工神獣とやらは電撃を撃ってくるのか?」
「まあ玄武の魔力をもとに作り出したっていう薬から生まれるやつですから、他の種類の神獣型にはならないと思います」
「どの道厄介だな……そうなると最悪の事態を想定して戦える者たちを予め集めておかないといけないな」
「……ぶしつけな質問なのですが、兵力は足りているんですか?」

 エナの質問に対して王様が静かに首を横に振った。

「この国は他国との戦争とは無縁だったからな……青龍の加護もあったから強力な力も持つ魔物が攻めてくることもなく、平和な国だったせいもあり他国ほど兵の育成に力を入れていないんだよ」

 それでも最低限の訓練だけはしていると王様が付け加えたが、それは少しばかり不安だな……。
 王様の口ぶりから察するに、兵の数も訓練も恐らく足りていないのだろう。
 平和って悪いことじゃないはずなんだけど、平和すぎるのもまた考え物だよな。

「そうなると、即席とはいえ戦力の確保が必要になりますよね」

 どうしたものかと、エナが額に手を当てて考え込んでしまう。
 そうだなぁ……城の兵士の戦力が当てにできないとあらば、頼れるところなんて……うん、あるな。

「王様、一つ相談……というかお願いがあるんですが?」




 そんなことがあって夜が明けた。
 朝の10分ほどの定例会議が終わり、昨日と同じように俺たちは城門前へと集まっていた。

「スチカお姉ちゃんがいないね?」
「まだ神獣薬を探知する機械の制作に携わっているのでは?」

 そんなことをテレアとレリスが話していると、城の中から俺たちへ向けて猛ダッシュしてくる人影が見えた。

「ぜえぜえ……間に合った……! できたで! 神獣薬の反応を探知する探知機!!」

 猛ダッシュしてきたせいで肩で息をしており、徹夜したのか知らないが目の下に盛大にくまを作ったスチカがプルプルと震えながら、俺たちに神獣薬探知機を見せてきた。
 スチカから手渡されたそれは、取っ手の先に輪っかのようなものが取り付けられてる、テレビとかでよく見かける金属探知機のような形をしていた。

「連続稼働時間は3時間! 充電は魔力でやってくれ!」
「おおぅ……なんていうかお疲れさん、スチカ」
「そんじゃ、うちはちょっと仮眠取りに行ってくる……昼には合流するわ……」

 そう言い残して、スチカはおぼつかない足取りで城の中へと戻っていった。
 言いたいことと渡したい物だけ渡して、さっさと帰っちゃったな……お礼を言い損ねた。

「……スッチー心配」
「まあ徹夜で作業してくれたみたいだし、その努力に報いるためにも俺たちはこの探知機を使って神獣薬を探そうか」
「今日もパーティーを二つに分けますか?」
「でも昨日は偶数だったから綺麗に分けられたけど、今日は奇数だし……」

 そういやスチカいないもんな。
 そんなことを話していると、見知った馬車がこちらへ向かってくるのが見えた。
 その馬車は俺たちの前へと停まり、中からこれまた見知った人物が降りてきて、俺たちの前へと降り立った。

「やあ、皆」
「ケニス様! おはようございますわ」

 降りてきたのは勿論ケニスさんだった。そしてその後ろからもう一人……。

「皆さんおはようございます」
「ティニアさん!?」

 レリスの姉であるティニアさんもケニスさんの後に続くように馬車から降りてきた。
 ケニスさんが来ることは予想してたけどまさかティニアさんまで来るとは。

「お姉様まで? 何かあったのですか?」
「ええ……実は困ったことになってるのよ」

 困ったこと? なんだろう……嫌な予感がするぞ。

「朝から妹たちの姿が見えないの」
「ルミスちゃんとルミアちゃんが!?」

 二人がいないという事実に、テレアが驚きの声を上げ、フリルが険しい表情へと変わる。
 短い時間とはいえ、テレアとフリルはあの二人と交流を深めていたからな……。

「どこかに遊びに行っているという可能性は?」
「ないわね……昨日から今外は危ないからなるべく屋敷から出ないように言い聞かせていたし、あの子たちも言いつけをきちんと守っていたから……」

 あれで聞きわけがないように見える双子だが、言われたことはきちんと守る側面はあったからな。
 どこかの三姉妹に爪の垢を煎じて飲ませたいよ、ほんとうに……。

「それに屋敷の人間以外に声を掛けられても迂闊について行ったりしないように言い聞かせてたから、余計に怪しいと思えて……」

 多分、ティニアさんはすでに一つの結論に辿り着いてるはずだし、そして俺も同じ結論に行きついてる。
 あまり考えたくないけど、事態は常に最悪のケースを想定しないといけない。

「誘拐されたのかも……」
「シューイチ様!?」
「やはり、そうなります……よね」
「お姉様も!? 待ってください、そんな……!」

 取り乱しそうになるレリスの肩に手を置いて、落ち着かせる意味を込めてレリスをまっすぐ見つめる。
 次第にレリスは落ち着きを取り戻し小さく「ごめんなさい」と呟いた。

「一つ確認なんですが、あの双子には屋敷以外の人間には警戒するように伝えてあったんですよね?」
「はい……今回のことだけでなく、それはあの二人にずっと言い聞かせていることです」
「そこまで徹底しているのに、なんで……」

 テレアの疑問に答えるように、エナが前に出て口を開いた。

「恐らくあの二人が知っている人が誘拐した……ということですね?」
「そんな!? わたくしの屋敷でそんなことをする人間がいるはず……」

 そこまで言ったレリスがハッとなり、口元に手を当てた。
 どうやら気が付いてしまったようだ。

「ソニアさん……!」

 あの人の隠密スキルは相当なものだし、元々エレニカ財閥でレリスのお世話係だったという彼女なら、堂々と屋敷に乗り込んであの二人を誘拐するなどたやすくやってのけるだろう。
 まだそうと決まったわけではないが、その可能性があまりにも高すぎる。

「でもどうしてルミスちゃんたちが……」
「恐らく、俺たちがマリーを捕獲したからかもな」
「やったらやり返すか……でも多分そんな単純な話じゃないんだろうね」

 ケニスさんの言葉に俺は大きく頷いた。

「ああ、皆さん! まだここにおられましたか!!」

 深刻な空気を纏う俺たちの元へ、昨日俺とエナに王様が呼んでることを伝えに来てくれた兵士が駆け寄って来た。

「先程王様の部屋にこのような物が……!」

 何やら慌てた様子の兵士から、それを受け取ってよく観察すると、俗に言う矢文というものだった。
 随分と原始的なことをしてくるな……ってそんなことはどうでもいいんだよ。
 矢じりの先端に括りつけられた手紙を破らないように取って、息を飲みこみながら広げていく。
 その手紙には簡潔にこう書かれていた。

『エレニカ家の三女と長男を預かっている。本日夕方までにマリー=グウレシアを連れて指定の場所まで来られたし』

 どうやら事態は考えられる最悪の方向へと転がっているようだった。
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