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決断~二つの蒼い宝石~
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双子が誘拐された疑惑が出ていたが、敵さんからのこの手紙のせいで確信へと変わってしまった。
「指定場所は……コロシアム? この国にコロシアムなんてあるの?」
「ありますよ? 主に武道大会などが開かれたりしますが、国を挙げての催し物を開催したりなどに使われたりします」
俺のちょっとした疑問に、ティニアさんがすかさず答えてくれる。
コロシアムだなんて、ネットの写真でしか見たことないから、不謹慎だと分かっているがちょっとだけテンション上がってしまう。
「しかしなぁ……ケニスさんの前で言うのもなんだけど、あのマリーを人質取ってまで交換を要求するほど取り戻したいものなのかな?」
アレを自分たちの手元に取り戻したとして役に立つとは到底思えないんだよな、あまりにも迂闊すぎるし。
「いや、多分連中はマリーを取り戻したいんじゃないのかもしれないな」
「そうですね……もしもマリーさんが連中にとってどうしても必要で、何が何でも取り戻したいなら青龍の核石を奪いに来た時のように、強硬手段に出てくると思いますよ」
ケニスさんの言葉に、「あいつらはそういう連中ですから」とエナが付け加えて答える。
となると、本当の目的はマリーを取り戻すことじゃなくて……。
「レリスを呼び寄せることだろうなぁ」
「わたくしを……ですか?」
「たしかに、連中の狙いがレリスの「アレ」なら、双子たちを餌におびき出せば一発だろうね」
「となると、マリーの奪還はそのためのついでということになるな」
憐れすぎる……。
「とにかくこれは俺たちだけで判断できる問題じゃないし、一度王様のところまで行って相談しないとだな」
俺の言葉に全員が頷いたのを確認し、俺たちは全員で王様の元へと向かうことになった。
「その矢文が飛んできたときはびっくりしたが、まさかそのようなことになっておるとは……」
謁見の間へとやって来た俺たちは、レリスの双子の妹たちが誘拐されたことと、手紙に書かれていたことの両方を王様へと説明していく。
話を聞いた王様が、眉間にしわを寄せて考え込む仕草を取った。
ちなみに今はケニスさんとティニアさんがいるので、仕事モードらしく威厳ある振る舞いを見せてくれている。
「さっきも説明しましたけど、連中の本当の狙いはレリスなんですよ」
「マリーさんの奪還についてはそのついでですね」
「ふむ……ハヤマ=シューイチよ、其方はこの件に関してどのように考えておるのだ?」
顔を上げた王様が、まっすぐに俺を見据えながら口を開いた。
真剣な態度の裏で「ちょっと私では判断しかねる問題だから、シューイチ君、何かいい案ないかな?」という思考が透けて見えるんだが……まあいいや。
「そうですねぇ……ぶっちゃけマリーについては渡しちゃっても問題ないと思うんですよね、大した情報も持ってなかったし」
せいぜい知ってる範囲でのばらまかれている神獣薬の場所くらいしか引き出せなかったし、ぶっちゃけると人質として価値もない。
それどころかこちらがマリーを捕まえてるのをいいことに、あちらさんに付け入る隙を合法的に与えてしまってるしな。
「俺としてはマリーなんかよりもレリスの妹たちの身の安全の方がよっぽど大事なので、マリーと引き換えであの二人が助けられるなら、喜んで引き渡します」
「シューイチさん、随分とぶっちゃけますね……」
「今更取り繕ったってしょうがないだろ? 事はもう起きちゃってるし、実際問題俺たちにとってもマリーにもう利用価値なんてないわけだし」
最低な言い方をしてしまえば、単なる獄潰しだ。
逆にこちらがマリーを使ってあいつらから有利な条件を引き出せないかを色々と考えてみたけど、相手はカルマ教団でひいてはロイだ……マリーくらいは簡単に切り捨てるだろう。
とまあ色々と俺なりに考えた結果、マリーを素直に引き渡した方がいいと判断したわけだ。
「恐らく何かしらの罠を張ってるとは思いますけど、かくれんぼにはもう飽き飽きだし向こうから出てきてくれるならむしろ好都合ですよ」
「そうか……」
「ただ覚悟しておいてほしいのが、このままマリーを引き渡しに行けば、確実に青龍の封印は解かれますね」
「なんだと!?」
俺のその言葉に王様が驚愕の表情と共に椅子から立ち上がった。
そして王様だけでなく、レリスとケニスさんたちを除いた全員が驚きで俺を見てくる。
「どうしてそうなるんですか!?」
「え? 青龍さん復活しちゃうの!?」
「……なんで?」
んーもうここまでの事態になった以上隠してても仕方ないし、恐らく敵さんも確信を持っていることだろうし、皆にも話しておいた方がいいよな……。
そんなことを思いながら俺はケニスさんとティニアさんの二人を見ると、二人は苦虫を噛みつぶしたような顔をしつつも頷いてくれた。
「レリス、悪いけど剣を貸してくれないかな?」
「……はい」
俺の言葉を受け、レリスが留め具を外し鞘ごと腰の剣を俺に手渡してきた。
初めて持たせてもらったけど、凄い軽い剣だな……グリップ感も悪くないし扱いやすそうないい剣だ。
宝物を扱うように鞘から剣を引き抜き、皆にも見えるようにレリスの剣を高々と掲げた。
「青龍の封印を解くための二つの宝石は、ここにあります」
「そんなものがどこに……まさか!?」
王様が目を見開き、玉座から俺の元に駆け寄ってきて、剣にはめ込まれている二つの蒼い宝石を凝視してきた。
「ちょっと待ってください! 本当なんですかそれ!?」
「うん、正真正銘レリスの剣についてるこの宝石が青龍の封印を解くための二つの宝石だよ」
「そんな重要なこと、どうして話してくれなかったんですか!?」
「話したかったけど、どこでソニアさんが聞き耳立ててるからわかんなかったからさ」
「ああ……だからあの時シエルさんと念話で……」
エナなりに色々と納得してくれたようだ。
この事実は面倒くさいプロセスを経て、念話によってレリスに伝えていたんだが……よくよく考えれば、俺がここまで念入りにレリスに伝える過程をソニアさんに見られていたとしたら、声に出してなくても敵に確信を与えることになるよな……俺もちょっとばかし迂闊だったな。
奴らがどこまで知っているのかはわからないが、こうして行動を起こしてきたことを考えれば、すでにレリスの剣の宝石が青龍復活の為のキーだと確信してるだろう。
「そっか……だからテレアたちはアーデンハイツに来るまでの道中であんなにしつこく襲われたんだね?」
「そう考えると連中はその時点でレリスの剣の宝石がそれだと予想してたのかもな」
俺たちがアーデンハイツに着くまでにレリスの剣を回収できればそれでよし。
もしそれが出来なくても、俺たちがアーデンハイツに到着すればチャンスはいくらでもあると踏んでたんだろう。
まったくもってその通りだよこの野郎め。
「王様も知ってる通り、俺たちの本来の目的は、青龍の封印を解いてそれを鎮めることなんです。そして神獣の暴走を鎮めるための手段を俺たちは持ってます」
そう言ってフリルに視線を送ると、それに気が付いたフリルが小さく頷き、それを確認した俺は再度王様へと向き直る。
「王様さえ決断してくれれば、俺たちはすぐにでも青龍封印の為に動き出します」
俺たちでその準備をできなかったというのが残念だが、遅かれ早かれ青龍の封印は解かねばならないし、このまま放っておいても半年もすれば青龍の封印は勝手に解かれてしまうのだ。
決して過信してるわけではないが、こちらには暴走した神獣を鎮めることのできるフリルがいる。
上手く立ち回ることが出来れば、被害は最小限で抑えられるかもしれないのだ。
「王様のお気持ちは察します……ですが今は決断の時だと思われます」
成り行きを見守っていたティニアさんが、王様の元へとやって来て言葉を続けていく。
「エレニカ財閥現当主である父からも、青龍の件についての了解は取っております」
「そうなのか? そうか……彼も腹を括ったとなれば、私がここでうだうだ考えていてはダメだな……すまないが君たちの誰でもいいから、クルスティアを呼んできてはもらえないだろうか? 恐らくは私の部屋にいるはずだ」
「……私が行ってくる」
王様の言葉を受けて、フリルがティアを呼びに行くために王室を後にした。
5分ほど待っていると、ティアを連れたフリルが謁見の間へと戻って来た。
「来たのじゃお父様!」
「クルスティア……すまないが青龍を呼び出してはくれないだろうか?」
「わかったのじゃ!」
ティアが魔力を活性化させて精神を集中し始めると、ティアの目の前に青い光が集まっていき、やがて光の中から小さな青い龍が姿を現した。
『やあ、どうやら深刻な状況になっているようだね』
「恐らく察していると思うが、青龍の封印を解く時がきた」
『彼らがこの国に来た時からその時が近いことは覚悟していたよ』
相変わらずどこか飄々とした青龍の分け身が、俺たちを見て言葉を続けていく。
『君たち一族には代々話してきたことだが、僕の封印はどの道解かれることになる。まあそれが君の代になるとは思わなかったがね』
「そうだな……」
その言葉に王様が少し悲しそうに顔を伏せた。
『まあ本体がどうなろうと僕は分け身だから……多少の影響は受けるかもしれないが消えることになったりはしないさ。長い年月を経て僕は本来の青龍とは全く別の存在になってしまっているからね』
「そうなのか? それを聞いて少し気が楽になったよ……」
『……だから安心して決断してくれ。僕とてこの国が暴走した本体に滅茶滅茶にされるのは忍びないんだ。なあに、彼らに任せておけばどうとでもしてくれるさ?』
そう言いながら、青龍が俺の顔をからかうような目で見てくる。
「軽く言ってくれるなぁ」
『こう見えても君のことは信頼してるのさ。珍しいことだよ、僕がこの国の王族以外の男を信頼するのはね』
「そんじゃお前さんのことを心配する必要はないんだな?」
『むしろこのままいつ復活するかもしれない本体を思って気を揉むよりも、ここでスパッと復活させて鎮めてくれた方が僕としてもありがたいね』
自分の本体のことなのにすげーあっさりしてるな。
まあそういうことなら俺たちも全力で事に当たるまでだ。
そんなことを思っていると王様がしっかりした足取りで玉座まで戻っていき、そして俺たち全員を見回して口を開いた。
「ハヤマ=シューイチとその仲間たちへと命ずる。復活する神獣を見事鎮め、この国を護るのだ!」
威厳を背にした王様のその言葉に、俺たちは膝をつき首を垂れることで答えた。
「なんやうちが仮眠取ってる間に、とんでもないことになっとるんやな? もしかして神獣薬探知機作った意味なかったんか?」
「いや、あれはあれでちゃんと意味はあるぞ? あの機械を使って今大至急神獣薬を探してもらってるし」
青龍への対策を客室で話し合っていると、仮眠から目覚めたスチカがやって来たので、事の経緯を聞かせた。
ちなみに神獣薬探知機だが別の捜索隊の隊長さんに渡してある。なにせ俺たちはそれどころではなくなってしまったからな。
事が起こるまでに出来るだけ多くの神獣薬を探して回収してもらわないといけないが……どうにもさっきから少し嫌な感じが付きまとうんだよな……。
このまま神獣薬を回収していくのは、いざという時に国中で人工神獣が出現するのを防ぐという意味でやらなければならないことなのは間違いないのだが。
「シューイチ様?」
「ああ、ごめん!」
レリスに声を掛けられ、嫌な予感を振り払うように俺は首をふった。
「今回はリンデフランデの時のように、情報不足のまま神獣復活を迎えることがないというだけでも恵まれてますね」
「あの時はいきなりだったもんね……」
玄武の時のことを思いだしてか、エナとテレアが揃ってため息を吐く。
「それを言ったら朱雀の時もなんですが……まあたしかに今回は最善の準備をして臨むことが出来るという点では、エナさんの意見に同意ですわね」
「あちらさんが舞台を整えてくれているからな」
決して本意でもないし、ぶっちゃけありがたくもなんともないんだけどね!
「コロシアムには僕とティニアも同行するよ」
「決して足手まといにはなりませんので」
「手は多いに越したことはないのでありがたいですよ!」
俺が二人とそんなことを話していると、なにやらレリスが複雑な表情でティニアさんのことを見ていた。
どうしたんだろう? 何かティニアさんに話でもあるのかな?
そんなことを思っていると、レリスが意を決したような表情で口を開いた。
「お姉様……一つだけ伺いたいことがあります」
「指定場所は……コロシアム? この国にコロシアムなんてあるの?」
「ありますよ? 主に武道大会などが開かれたりしますが、国を挙げての催し物を開催したりなどに使われたりします」
俺のちょっとした疑問に、ティニアさんがすかさず答えてくれる。
コロシアムだなんて、ネットの写真でしか見たことないから、不謹慎だと分かっているがちょっとだけテンション上がってしまう。
「しかしなぁ……ケニスさんの前で言うのもなんだけど、あのマリーを人質取ってまで交換を要求するほど取り戻したいものなのかな?」
アレを自分たちの手元に取り戻したとして役に立つとは到底思えないんだよな、あまりにも迂闊すぎるし。
「いや、多分連中はマリーを取り戻したいんじゃないのかもしれないな」
「そうですね……もしもマリーさんが連中にとってどうしても必要で、何が何でも取り戻したいなら青龍の核石を奪いに来た時のように、強硬手段に出てくると思いますよ」
ケニスさんの言葉に、「あいつらはそういう連中ですから」とエナが付け加えて答える。
となると、本当の目的はマリーを取り戻すことじゃなくて……。
「レリスを呼び寄せることだろうなぁ」
「わたくしを……ですか?」
「たしかに、連中の狙いがレリスの「アレ」なら、双子たちを餌におびき出せば一発だろうね」
「となると、マリーの奪還はそのためのついでということになるな」
憐れすぎる……。
「とにかくこれは俺たちだけで判断できる問題じゃないし、一度王様のところまで行って相談しないとだな」
俺の言葉に全員が頷いたのを確認し、俺たちは全員で王様の元へと向かうことになった。
「その矢文が飛んできたときはびっくりしたが、まさかそのようなことになっておるとは……」
謁見の間へとやって来た俺たちは、レリスの双子の妹たちが誘拐されたことと、手紙に書かれていたことの両方を王様へと説明していく。
話を聞いた王様が、眉間にしわを寄せて考え込む仕草を取った。
ちなみに今はケニスさんとティニアさんがいるので、仕事モードらしく威厳ある振る舞いを見せてくれている。
「さっきも説明しましたけど、連中の本当の狙いはレリスなんですよ」
「マリーさんの奪還についてはそのついでですね」
「ふむ……ハヤマ=シューイチよ、其方はこの件に関してどのように考えておるのだ?」
顔を上げた王様が、まっすぐに俺を見据えながら口を開いた。
真剣な態度の裏で「ちょっと私では判断しかねる問題だから、シューイチ君、何かいい案ないかな?」という思考が透けて見えるんだが……まあいいや。
「そうですねぇ……ぶっちゃけマリーについては渡しちゃっても問題ないと思うんですよね、大した情報も持ってなかったし」
せいぜい知ってる範囲でのばらまかれている神獣薬の場所くらいしか引き出せなかったし、ぶっちゃけると人質として価値もない。
それどころかこちらがマリーを捕まえてるのをいいことに、あちらさんに付け入る隙を合法的に与えてしまってるしな。
「俺としてはマリーなんかよりもレリスの妹たちの身の安全の方がよっぽど大事なので、マリーと引き換えであの二人が助けられるなら、喜んで引き渡します」
「シューイチさん、随分とぶっちゃけますね……」
「今更取り繕ったってしょうがないだろ? 事はもう起きちゃってるし、実際問題俺たちにとってもマリーにもう利用価値なんてないわけだし」
最低な言い方をしてしまえば、単なる獄潰しだ。
逆にこちらがマリーを使ってあいつらから有利な条件を引き出せないかを色々と考えてみたけど、相手はカルマ教団でひいてはロイだ……マリーくらいは簡単に切り捨てるだろう。
とまあ色々と俺なりに考えた結果、マリーを素直に引き渡した方がいいと判断したわけだ。
「恐らく何かしらの罠を張ってるとは思いますけど、かくれんぼにはもう飽き飽きだし向こうから出てきてくれるならむしろ好都合ですよ」
「そうか……」
「ただ覚悟しておいてほしいのが、このままマリーを引き渡しに行けば、確実に青龍の封印は解かれますね」
「なんだと!?」
俺のその言葉に王様が驚愕の表情と共に椅子から立ち上がった。
そして王様だけでなく、レリスとケニスさんたちを除いた全員が驚きで俺を見てくる。
「どうしてそうなるんですか!?」
「え? 青龍さん復活しちゃうの!?」
「……なんで?」
んーもうここまでの事態になった以上隠してても仕方ないし、恐らく敵さんも確信を持っていることだろうし、皆にも話しておいた方がいいよな……。
そんなことを思いながら俺はケニスさんとティニアさんの二人を見ると、二人は苦虫を噛みつぶしたような顔をしつつも頷いてくれた。
「レリス、悪いけど剣を貸してくれないかな?」
「……はい」
俺の言葉を受け、レリスが留め具を外し鞘ごと腰の剣を俺に手渡してきた。
初めて持たせてもらったけど、凄い軽い剣だな……グリップ感も悪くないし扱いやすそうないい剣だ。
宝物を扱うように鞘から剣を引き抜き、皆にも見えるようにレリスの剣を高々と掲げた。
「青龍の封印を解くための二つの宝石は、ここにあります」
「そんなものがどこに……まさか!?」
王様が目を見開き、玉座から俺の元に駆け寄ってきて、剣にはめ込まれている二つの蒼い宝石を凝視してきた。
「ちょっと待ってください! 本当なんですかそれ!?」
「うん、正真正銘レリスの剣についてるこの宝石が青龍の封印を解くための二つの宝石だよ」
「そんな重要なこと、どうして話してくれなかったんですか!?」
「話したかったけど、どこでソニアさんが聞き耳立ててるからわかんなかったからさ」
「ああ……だからあの時シエルさんと念話で……」
エナなりに色々と納得してくれたようだ。
この事実は面倒くさいプロセスを経て、念話によってレリスに伝えていたんだが……よくよく考えれば、俺がここまで念入りにレリスに伝える過程をソニアさんに見られていたとしたら、声に出してなくても敵に確信を与えることになるよな……俺もちょっとばかし迂闊だったな。
奴らがどこまで知っているのかはわからないが、こうして行動を起こしてきたことを考えれば、すでにレリスの剣の宝石が青龍復活の為のキーだと確信してるだろう。
「そっか……だからテレアたちはアーデンハイツに来るまでの道中であんなにしつこく襲われたんだね?」
「そう考えると連中はその時点でレリスの剣の宝石がそれだと予想してたのかもな」
俺たちがアーデンハイツに着くまでにレリスの剣を回収できればそれでよし。
もしそれが出来なくても、俺たちがアーデンハイツに到着すればチャンスはいくらでもあると踏んでたんだろう。
まったくもってその通りだよこの野郎め。
「王様も知ってる通り、俺たちの本来の目的は、青龍の封印を解いてそれを鎮めることなんです。そして神獣の暴走を鎮めるための手段を俺たちは持ってます」
そう言ってフリルに視線を送ると、それに気が付いたフリルが小さく頷き、それを確認した俺は再度王様へと向き直る。
「王様さえ決断してくれれば、俺たちはすぐにでも青龍封印の為に動き出します」
俺たちでその準備をできなかったというのが残念だが、遅かれ早かれ青龍の封印は解かねばならないし、このまま放っておいても半年もすれば青龍の封印は勝手に解かれてしまうのだ。
決して過信してるわけではないが、こちらには暴走した神獣を鎮めることのできるフリルがいる。
上手く立ち回ることが出来れば、被害は最小限で抑えられるかもしれないのだ。
「王様のお気持ちは察します……ですが今は決断の時だと思われます」
成り行きを見守っていたティニアさんが、王様の元へとやって来て言葉を続けていく。
「エレニカ財閥現当主である父からも、青龍の件についての了解は取っております」
「そうなのか? そうか……彼も腹を括ったとなれば、私がここでうだうだ考えていてはダメだな……すまないが君たちの誰でもいいから、クルスティアを呼んできてはもらえないだろうか? 恐らくは私の部屋にいるはずだ」
「……私が行ってくる」
王様の言葉を受けて、フリルがティアを呼びに行くために王室を後にした。
5分ほど待っていると、ティアを連れたフリルが謁見の間へと戻って来た。
「来たのじゃお父様!」
「クルスティア……すまないが青龍を呼び出してはくれないだろうか?」
「わかったのじゃ!」
ティアが魔力を活性化させて精神を集中し始めると、ティアの目の前に青い光が集まっていき、やがて光の中から小さな青い龍が姿を現した。
『やあ、どうやら深刻な状況になっているようだね』
「恐らく察していると思うが、青龍の封印を解く時がきた」
『彼らがこの国に来た時からその時が近いことは覚悟していたよ』
相変わらずどこか飄々とした青龍の分け身が、俺たちを見て言葉を続けていく。
『君たち一族には代々話してきたことだが、僕の封印はどの道解かれることになる。まあそれが君の代になるとは思わなかったがね』
「そうだな……」
その言葉に王様が少し悲しそうに顔を伏せた。
『まあ本体がどうなろうと僕は分け身だから……多少の影響は受けるかもしれないが消えることになったりはしないさ。長い年月を経て僕は本来の青龍とは全く別の存在になってしまっているからね』
「そうなのか? それを聞いて少し気が楽になったよ……」
『……だから安心して決断してくれ。僕とてこの国が暴走した本体に滅茶滅茶にされるのは忍びないんだ。なあに、彼らに任せておけばどうとでもしてくれるさ?』
そう言いながら、青龍が俺の顔をからかうような目で見てくる。
「軽く言ってくれるなぁ」
『こう見えても君のことは信頼してるのさ。珍しいことだよ、僕がこの国の王族以外の男を信頼するのはね』
「そんじゃお前さんのことを心配する必要はないんだな?」
『むしろこのままいつ復活するかもしれない本体を思って気を揉むよりも、ここでスパッと復活させて鎮めてくれた方が僕としてもありがたいね』
自分の本体のことなのにすげーあっさりしてるな。
まあそういうことなら俺たちも全力で事に当たるまでだ。
そんなことを思っていると王様がしっかりした足取りで玉座まで戻っていき、そして俺たち全員を見回して口を開いた。
「ハヤマ=シューイチとその仲間たちへと命ずる。復活する神獣を見事鎮め、この国を護るのだ!」
威厳を背にした王様のその言葉に、俺たちは膝をつき首を垂れることで答えた。
「なんやうちが仮眠取ってる間に、とんでもないことになっとるんやな? もしかして神獣薬探知機作った意味なかったんか?」
「いや、あれはあれでちゃんと意味はあるぞ? あの機械を使って今大至急神獣薬を探してもらってるし」
青龍への対策を客室で話し合っていると、仮眠から目覚めたスチカがやって来たので、事の経緯を聞かせた。
ちなみに神獣薬探知機だが別の捜索隊の隊長さんに渡してある。なにせ俺たちはそれどころではなくなってしまったからな。
事が起こるまでに出来るだけ多くの神獣薬を探して回収してもらわないといけないが……どうにもさっきから少し嫌な感じが付きまとうんだよな……。
このまま神獣薬を回収していくのは、いざという時に国中で人工神獣が出現するのを防ぐという意味でやらなければならないことなのは間違いないのだが。
「シューイチ様?」
「ああ、ごめん!」
レリスに声を掛けられ、嫌な予感を振り払うように俺は首をふった。
「今回はリンデフランデの時のように、情報不足のまま神獣復活を迎えることがないというだけでも恵まれてますね」
「あの時はいきなりだったもんね……」
玄武の時のことを思いだしてか、エナとテレアが揃ってため息を吐く。
「それを言ったら朱雀の時もなんですが……まあたしかに今回は最善の準備をして臨むことが出来るという点では、エナさんの意見に同意ですわね」
「あちらさんが舞台を整えてくれているからな」
決して本意でもないし、ぶっちゃけありがたくもなんともないんだけどね!
「コロシアムには僕とティニアも同行するよ」
「決して足手まといにはなりませんので」
「手は多いに越したことはないのでありがたいですよ!」
俺が二人とそんなことを話していると、なにやらレリスが複雑な表情でティニアさんのことを見ていた。
どうしたんだろう? 何かティニアさんに話でもあるのかな?
そんなことを思っていると、レリスが意を決したような表情で口を開いた。
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