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真相~剣に込められた想い~
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「私に聞きたいこと?」
レリスがあまりにも真剣な表情なので、ティニアさんが少し驚いた顔をしつつもレリスに向き直る。
そんなティニアさんをまっすぐに見据えながら、レリスが口を開いた。
「お姉様はこの剣の宝石が青龍の封印を解く為の宝石だと知っていたのですよね?」
「そうね、それを知っていてあなたにその宝石を預けたわ」
「どうしてですか? そんな貴重な物なら、それこそお姉様が持っておくのにふさわしいですのに!」
そう言ったレリスの顔を、少しばかりの寂しさをエッセンスさせたような表情でティニアさんが見つめる。
「レリスは私がその剣をあなたに上げた時のことを覚えているかしら?」
「はい、学舎を卒業した記念にと……」
「レリスは昔からよく私の真似をしていたわね……私と同じように剣を覚えて、私と同じように風の魔法を一生懸命練習して……一生懸命私の後を追いかけてくるあなたの目標であろうと、私も日々の鍛錬に身が入った物よ」
昔を思い出しているのか、ティニアさんが思い出を噛み締めるように一言ずつ丁寧に言葉を紡いでいく。
「でもそんなあなたが少し心配でもあったわ。このまま私を追いかけるあまり、本当はレリスが選ぶべきだった道を通り過ぎてしまうんじゃないかって……だから渋るあなたに「学舎に通ったらどう?」と勧めたのよ?」
ティニアさんもやはりそこを心配していたんだな。
レリス自身も心当たりがあるのか、真剣に話を聞いているようだ。
聞けば一度学舎に入ってしまうと、二年間の寮生活を余儀なくされるらしく、それが一番レリスが渋った原因だったんだろうなと、勝手に納得した。
「私の狙い通り……って言ったら変な話になるけど、あなたは学舎で色々と多くを学び、一つの可能性を見つけて帰って来たわ。あなたが冒険者になりたいと思うようになったのは、学舎で何かを学んできたからよね?」
「……わたくしの恩師が昔冒険者をしており、そのお話を聞いているうちにわたくしも冒険者に憧れるようになりましたわ」
「やっぱりそうなのね。……それを嬉しく思う反面、少し寂しくもあったわね……レリスはもう私の後をただついてくるだけの子じゃなくなったんだ……って。おかしな話よね、それじゃいけないんじゃないかって思っていたはずなのに」
ティニアさんがまるで自虐するかのように小さく笑う。
「レリスが学舎から帰ってくる少し前に、父の意向で私が財閥の正式な跡取りとなることが決まったわ。そして財閥の当主が管理するべきその宝石を私が受け継ぐこととなったの……本来なら」
「本来なら……?」
「あなたがさっき言った通り、その宝石は本来なら私が受け継ぐ物だったけど、どうしてだかそれは私が持つべきではないと思えてしまったのよ。これから財閥を支えるべく自由を失っていく私ではなく、様々な可能性が広がっているレリスこそ持つべきなんじゃないかって……だからその宝石をはめ込める剣を特注して、学舎を卒業した記念にとレリスにプレゼントしたのよ」
そこまでの意志が込められていたとは思わなかったのか、レリスが腰の剣を見つめながら静かに手を添えた。
「このことは父も承知の上よ?」
「お父様も!?」
「母がルミスたちを生んだときに死んでしまってから、父も子供たちにはなるべく自由にさせてやりたいと言うようになってね……だからレリスにこの宝石を持たせることも二つ返事でOKしたわ」
エレニカ財閥には二度ほど足を運んでいるのに、レリスの母親を見かけなかったから変だなぁとは思っていたが、そうか……もういなかったんだな……。
「それならば初めからそうおっしゃってくださればよろしかったのに……そうすればわたくしは!」
「それを言ってしまったら、きっとあなたは折角見つけた夢や憧れを手放して、財閥に囚われたままになってしまうと思ったから、あえて言うのは控えたのよ?」
「うぅ……」
自分でもそうしていたかもしれないと思ったのか、レリスが苦虫を噛みつぶしたような顔で俯いてしまった。
「……ここまで話した以上白状するけど、あなたが家を出るように仕向けたのは全部私よ」
「えっ!?」
驚きのあまりレリスが椅子から立ち上がるが、俺はそのことをなんとなくだが察していた。
レリスが違和感を感じていた……と話してくれた時に、大体の予想を立てていたがやはりか。
「洗脳というと少し聞こえが悪いけど、意識誘導というのかしら……レリスが私に持っているコンプレックスを刺激するように、精神に働きかける魔法を使ったの」
「やはりそうでしたのね……家を出て日々を過ごしていくうちに当時感じていた衝動に少しずつ違和感を感じていったので、おかしいとは常々思っていたのですが……」
「そうでもしないとレリスは自分から動き出さないと思ったから……そして理由はそれだけじゃないの」
まだなにかあるのか?……という顔でレリスがティニアさんを見つめる。
そんなレリスの視線から逃げることなく、ティニアさんが言葉を続けていく。
「当時から財閥に探りを入れてくる何者かがいたのよ。今思えばその時からカルマ教団がその宝石を狙っていたのかもしれないわね……実際奴らは財閥のいくつかある派閥にまで潜り込んで宝石を狙っていたの」
レリスたちには伏せていたが、盗難にまで発生しかけた事件もあったとティニアさんが付け加えた。
「だからその問題から少しでもレリスとその宝石を遠ざけようと、少し無理やりな手を使ってしまったと思っているわ……ごめんなさいレリス」
「そんな……お姉様が謝ることではありませんわ!」
それを聞いて色々と納得がいった。
エルサイムにいたレリスを執拗に連れ戻そうとした財閥の連中というのは、カルマ教団の息のかかった……もしくは財閥に潜り込んだ教団の人間そのものだったんだな。
当時からレリスの持つ剣にはめ込まれた宝石こそが青龍復活の為のキーだと確信して動いていたんだろう。まったくもって迷惑な連中だ。
そしてティニアさんやその父親も執拗に宝石を狙ってくる教団連中に少しばかり焦っていたんだろうな……だからレリスを家出させるなんて無茶な方法を取ってしまっただろう。
「でも結果的にそうしてよかったと思ってるわ。レリスは私が思っていた以上に成長して、こうしてその姿を見せてくれたし、素敵な将来のパートナーまで見つけてきたみたいだし……ね?」
そう言ってなんだか意地悪な顔をしながら、ティニアさんが俺とレリスを交互に見てきた。
あーやっぱり思った通り、俺とレリスのことは全部筒抜けなのね……うん、わかってたよ!
「……ふふ」
「何笑ってんですかケニスさん?」
「いや、気にしないでくれ」
この人はまた人の心を勝手に読んでくれちゃってまあ……いかにも紳士然とした人なのにその実態は悪戯好きの子供みたいな人だよな。
そんな風に思っていると、ケニスさんが「心外だな」と言った表情で俺を見てきた。知らんがな。
「この事件が無事に終わって落ち着いたら、その辺の詳しい話を聞かせてもらえるのよね?」
「ええ……まあ」
レリスが顔を赤くしながらティニアさんから目を逸らした。
「え? レリスお姉ちゃんにそんな人がいるの? テレア全然気が付かなかったよ!」
あまりにも理解が追い付いてないテレアのその発言を受け、場の空気が鎮まるがそれは一瞬のことで、すぐさま笑い声で溢れることとなった。
終始、テレアだけがその状況を分かっておらず疑問符を浮かべていたのだった。
時刻は夕方に差し掛かろうかという頃、俺たちはこの国のコロシアムへとやってきた。
コロシアムは割と想像していた通りの円形状の建物で、そこそこの規模の大きさだ。
「思った以上に街の中心に使い位置にありますね」
「こんなところで青龍が復活したら絶対ヤバいことになるな」
とはいえ青龍の復活自体は恐らく避けられないだろう。
相手がどんな罠を仕掛けているかもわからない以上、俺たちに出来るのは可能な限り被害を減らすことだけだ。気を抜くわけにはいかない。
「このコロシアムがあなたたちの墓場になるんですねぇ! マリーに酷いことをした罰ですよぉ! ざまあみろですぅ!」
縄で自由を奪われ不愉快そうな顔をしたマリーがコロシアムを見上げながら、なにかのたまっていた。
……なんで口も塞いでおかないのかなぁ?
「ルミスとルミアが心配ですわ……早く助けてあげないと」
「恐らくはカレンとクレアもいるだろうね」
マリーと同じようにコロシアムを見上げながら、ケニスさんが小さくため息を吐いた。
「そう言えば私たちはまだクレアさんには会ったことがないんですが、どういう人なんですか?」
「そうだねぇ……」
エナの質問を受けて、ケニスさんが顎に手を当てる。
そう言えば俺も知らないんだよな……この機会にちゃんと聞いておかないと。
「恐ろしく頭が切れる子だよ。僕が居なかったらそれこそクレアがグウレシアの次期当主になっていただろうね」
「彼女もその頭の切れを一族の繁栄のために使えれば良かったんですけどね……」
つまりそうじゃないと?
まあ悪評の広まってるグウレシア三姉妹な上、その頂点に収まってるんだからその程度が知れるよなぁ。
「マリーたち三姉妹が揃えば無敵ですぅ! お前たちなんてぇ、けちょんけちょんですよぉ!」
誰かこの女の口塞いどけよもう。
「なんにせよ油断だけはしないでおいてほしい」
「……おっけー」
「気を引き締めていかんとあかんなぁ」
「ちょっとぉ、無視しないでくださいよぉ!!」
何やら叫んでいるマリーを無視し、俺たちはコロシアムへと足を踏み入れていく。
古代ローマを思わせるような内装だ……こんな事態じゃなかったらもっとじっくり見てみたいが……。
そんなことを思いながらコロシアム内を見回していると、不意にテレアが俺の服のすそを軽く引いてきた。
「どうしたんだテレア?」
「誰かがテレアたちを見てる……多分ソニアお姉ちゃんだと思う」
今までソニアさんが見ていても気が付けなかったテレアだが、メイシャさんから気功術を教わってからは人の体内にある気の流れを感じ取れるようになったらしく、一層探知能力に磨きがかかった。
そのテレアが言うのだから間違いないだろう……。
「間違いないんだな?」
「うん」
「それなら……ソニアさん見てるんだろ、姿を見せてくれよ!」
突然大声を上げた俺にびっくりして、全員が俺の顔を見てくる。
一刻の間があった後、柱の陰から見知った人物が姿を現した。
「なるほど……もはや姿を隠しても無駄ということですか」
「ソニアさん……!」
レリスとティニアさんが突然現れたソニアさんの顔を見て思わず声を上げた。
「お前さん、よくもぬけぬけとうちらの前に顔を出せたもんやな?」
目の前でティアを乱雑に扱われたことを根に持っているのか、スチカがソニアさんを目にして険しい表情へと変わる。
そんなスチカに一瞥をくれたソニアさんだったが、興味がないとばかりにレリスとティニアさんへと向き直った。
「レリスお嬢様をおびき出すためとは言え、ルミス様とルミア様に少しばかり手荒なことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「……あなたがあの二人を誘拐したことを認めるのですね?」
「もはや隠し立てする必要もありませんので」
ティニアさんの問いに対し、少しも悪びれた様子も見せずにソニアさんが答える。
そんなソニアさんの様子を少し悲しそうな表情で見ていたレリスが、ソニアさんの元へと歩いて行く。
「ソニアさん……わたくしはあなたがこんなことをする人だと未だに信じられませんわ。何か事情があるのでしょう?」
「レリスお嬢様の信頼を裏切るのは非常に心苦しいですが、私は元々内通を目的として―――」
「積もる話もあるでしょうが、そこまでにしていただけないかしら?」
突然聞いたことのない声が廊下の先から聞こえてたので、ソニアさんを除いた全員がそちらに視線を送ると金髪のショートヘア-に、整った顔立ちを持ちながらも鋭い目つきでこちらを見ながら歩いてくる女性の姿があった。
「……クレア」
「クレアさん……」
ついに三姉妹の最後の一人、クレア=グウレシアが俺たちの前に姿を現した。
レリスがあまりにも真剣な表情なので、ティニアさんが少し驚いた顔をしつつもレリスに向き直る。
そんなティニアさんをまっすぐに見据えながら、レリスが口を開いた。
「お姉様はこの剣の宝石が青龍の封印を解く為の宝石だと知っていたのですよね?」
「そうね、それを知っていてあなたにその宝石を預けたわ」
「どうしてですか? そんな貴重な物なら、それこそお姉様が持っておくのにふさわしいですのに!」
そう言ったレリスの顔を、少しばかりの寂しさをエッセンスさせたような表情でティニアさんが見つめる。
「レリスは私がその剣をあなたに上げた時のことを覚えているかしら?」
「はい、学舎を卒業した記念にと……」
「レリスは昔からよく私の真似をしていたわね……私と同じように剣を覚えて、私と同じように風の魔法を一生懸命練習して……一生懸命私の後を追いかけてくるあなたの目標であろうと、私も日々の鍛錬に身が入った物よ」
昔を思い出しているのか、ティニアさんが思い出を噛み締めるように一言ずつ丁寧に言葉を紡いでいく。
「でもそんなあなたが少し心配でもあったわ。このまま私を追いかけるあまり、本当はレリスが選ぶべきだった道を通り過ぎてしまうんじゃないかって……だから渋るあなたに「学舎に通ったらどう?」と勧めたのよ?」
ティニアさんもやはりそこを心配していたんだな。
レリス自身も心当たりがあるのか、真剣に話を聞いているようだ。
聞けば一度学舎に入ってしまうと、二年間の寮生活を余儀なくされるらしく、それが一番レリスが渋った原因だったんだろうなと、勝手に納得した。
「私の狙い通り……って言ったら変な話になるけど、あなたは学舎で色々と多くを学び、一つの可能性を見つけて帰って来たわ。あなたが冒険者になりたいと思うようになったのは、学舎で何かを学んできたからよね?」
「……わたくしの恩師が昔冒険者をしており、そのお話を聞いているうちにわたくしも冒険者に憧れるようになりましたわ」
「やっぱりそうなのね。……それを嬉しく思う反面、少し寂しくもあったわね……レリスはもう私の後をただついてくるだけの子じゃなくなったんだ……って。おかしな話よね、それじゃいけないんじゃないかって思っていたはずなのに」
ティニアさんがまるで自虐するかのように小さく笑う。
「レリスが学舎から帰ってくる少し前に、父の意向で私が財閥の正式な跡取りとなることが決まったわ。そして財閥の当主が管理するべきその宝石を私が受け継ぐこととなったの……本来なら」
「本来なら……?」
「あなたがさっき言った通り、その宝石は本来なら私が受け継ぐ物だったけど、どうしてだかそれは私が持つべきではないと思えてしまったのよ。これから財閥を支えるべく自由を失っていく私ではなく、様々な可能性が広がっているレリスこそ持つべきなんじゃないかって……だからその宝石をはめ込める剣を特注して、学舎を卒業した記念にとレリスにプレゼントしたのよ」
そこまでの意志が込められていたとは思わなかったのか、レリスが腰の剣を見つめながら静かに手を添えた。
「このことは父も承知の上よ?」
「お父様も!?」
「母がルミスたちを生んだときに死んでしまってから、父も子供たちにはなるべく自由にさせてやりたいと言うようになってね……だからレリスにこの宝石を持たせることも二つ返事でOKしたわ」
エレニカ財閥には二度ほど足を運んでいるのに、レリスの母親を見かけなかったから変だなぁとは思っていたが、そうか……もういなかったんだな……。
「それならば初めからそうおっしゃってくださればよろしかったのに……そうすればわたくしは!」
「それを言ってしまったら、きっとあなたは折角見つけた夢や憧れを手放して、財閥に囚われたままになってしまうと思ったから、あえて言うのは控えたのよ?」
「うぅ……」
自分でもそうしていたかもしれないと思ったのか、レリスが苦虫を噛みつぶしたような顔で俯いてしまった。
「……ここまで話した以上白状するけど、あなたが家を出るように仕向けたのは全部私よ」
「えっ!?」
驚きのあまりレリスが椅子から立ち上がるが、俺はそのことをなんとなくだが察していた。
レリスが違和感を感じていた……と話してくれた時に、大体の予想を立てていたがやはりか。
「洗脳というと少し聞こえが悪いけど、意識誘導というのかしら……レリスが私に持っているコンプレックスを刺激するように、精神に働きかける魔法を使ったの」
「やはりそうでしたのね……家を出て日々を過ごしていくうちに当時感じていた衝動に少しずつ違和感を感じていったので、おかしいとは常々思っていたのですが……」
「そうでもしないとレリスは自分から動き出さないと思ったから……そして理由はそれだけじゃないの」
まだなにかあるのか?……という顔でレリスがティニアさんを見つめる。
そんなレリスの視線から逃げることなく、ティニアさんが言葉を続けていく。
「当時から財閥に探りを入れてくる何者かがいたのよ。今思えばその時からカルマ教団がその宝石を狙っていたのかもしれないわね……実際奴らは財閥のいくつかある派閥にまで潜り込んで宝石を狙っていたの」
レリスたちには伏せていたが、盗難にまで発生しかけた事件もあったとティニアさんが付け加えた。
「だからその問題から少しでもレリスとその宝石を遠ざけようと、少し無理やりな手を使ってしまったと思っているわ……ごめんなさいレリス」
「そんな……お姉様が謝ることではありませんわ!」
それを聞いて色々と納得がいった。
エルサイムにいたレリスを執拗に連れ戻そうとした財閥の連中というのは、カルマ教団の息のかかった……もしくは財閥に潜り込んだ教団の人間そのものだったんだな。
当時からレリスの持つ剣にはめ込まれた宝石こそが青龍復活の為のキーだと確信して動いていたんだろう。まったくもって迷惑な連中だ。
そしてティニアさんやその父親も執拗に宝石を狙ってくる教団連中に少しばかり焦っていたんだろうな……だからレリスを家出させるなんて無茶な方法を取ってしまっただろう。
「でも結果的にそうしてよかったと思ってるわ。レリスは私が思っていた以上に成長して、こうしてその姿を見せてくれたし、素敵な将来のパートナーまで見つけてきたみたいだし……ね?」
そう言ってなんだか意地悪な顔をしながら、ティニアさんが俺とレリスを交互に見てきた。
あーやっぱり思った通り、俺とレリスのことは全部筒抜けなのね……うん、わかってたよ!
「……ふふ」
「何笑ってんですかケニスさん?」
「いや、気にしないでくれ」
この人はまた人の心を勝手に読んでくれちゃってまあ……いかにも紳士然とした人なのにその実態は悪戯好きの子供みたいな人だよな。
そんな風に思っていると、ケニスさんが「心外だな」と言った表情で俺を見てきた。知らんがな。
「この事件が無事に終わって落ち着いたら、その辺の詳しい話を聞かせてもらえるのよね?」
「ええ……まあ」
レリスが顔を赤くしながらティニアさんから目を逸らした。
「え? レリスお姉ちゃんにそんな人がいるの? テレア全然気が付かなかったよ!」
あまりにも理解が追い付いてないテレアのその発言を受け、場の空気が鎮まるがそれは一瞬のことで、すぐさま笑い声で溢れることとなった。
終始、テレアだけがその状況を分かっておらず疑問符を浮かべていたのだった。
時刻は夕方に差し掛かろうかという頃、俺たちはこの国のコロシアムへとやってきた。
コロシアムは割と想像していた通りの円形状の建物で、そこそこの規模の大きさだ。
「思った以上に街の中心に使い位置にありますね」
「こんなところで青龍が復活したら絶対ヤバいことになるな」
とはいえ青龍の復活自体は恐らく避けられないだろう。
相手がどんな罠を仕掛けているかもわからない以上、俺たちに出来るのは可能な限り被害を減らすことだけだ。気を抜くわけにはいかない。
「このコロシアムがあなたたちの墓場になるんですねぇ! マリーに酷いことをした罰ですよぉ! ざまあみろですぅ!」
縄で自由を奪われ不愉快そうな顔をしたマリーがコロシアムを見上げながら、なにかのたまっていた。
……なんで口も塞いでおかないのかなぁ?
「ルミスとルミアが心配ですわ……早く助けてあげないと」
「恐らくはカレンとクレアもいるだろうね」
マリーと同じようにコロシアムを見上げながら、ケニスさんが小さくため息を吐いた。
「そう言えば私たちはまだクレアさんには会ったことがないんですが、どういう人なんですか?」
「そうだねぇ……」
エナの質問を受けて、ケニスさんが顎に手を当てる。
そう言えば俺も知らないんだよな……この機会にちゃんと聞いておかないと。
「恐ろしく頭が切れる子だよ。僕が居なかったらそれこそクレアがグウレシアの次期当主になっていただろうね」
「彼女もその頭の切れを一族の繁栄のために使えれば良かったんですけどね……」
つまりそうじゃないと?
まあ悪評の広まってるグウレシア三姉妹な上、その頂点に収まってるんだからその程度が知れるよなぁ。
「マリーたち三姉妹が揃えば無敵ですぅ! お前たちなんてぇ、けちょんけちょんですよぉ!」
誰かこの女の口塞いどけよもう。
「なんにせよ油断だけはしないでおいてほしい」
「……おっけー」
「気を引き締めていかんとあかんなぁ」
「ちょっとぉ、無視しないでくださいよぉ!!」
何やら叫んでいるマリーを無視し、俺たちはコロシアムへと足を踏み入れていく。
古代ローマを思わせるような内装だ……こんな事態じゃなかったらもっとじっくり見てみたいが……。
そんなことを思いながらコロシアム内を見回していると、不意にテレアが俺の服のすそを軽く引いてきた。
「どうしたんだテレア?」
「誰かがテレアたちを見てる……多分ソニアお姉ちゃんだと思う」
今までソニアさんが見ていても気が付けなかったテレアだが、メイシャさんから気功術を教わってからは人の体内にある気の流れを感じ取れるようになったらしく、一層探知能力に磨きがかかった。
そのテレアが言うのだから間違いないだろう……。
「間違いないんだな?」
「うん」
「それなら……ソニアさん見てるんだろ、姿を見せてくれよ!」
突然大声を上げた俺にびっくりして、全員が俺の顔を見てくる。
一刻の間があった後、柱の陰から見知った人物が姿を現した。
「なるほど……もはや姿を隠しても無駄ということですか」
「ソニアさん……!」
レリスとティニアさんが突然現れたソニアさんの顔を見て思わず声を上げた。
「お前さん、よくもぬけぬけとうちらの前に顔を出せたもんやな?」
目の前でティアを乱雑に扱われたことを根に持っているのか、スチカがソニアさんを目にして険しい表情へと変わる。
そんなスチカに一瞥をくれたソニアさんだったが、興味がないとばかりにレリスとティニアさんへと向き直った。
「レリスお嬢様をおびき出すためとは言え、ルミス様とルミア様に少しばかり手荒なことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「……あなたがあの二人を誘拐したことを認めるのですね?」
「もはや隠し立てする必要もありませんので」
ティニアさんの問いに対し、少しも悪びれた様子も見せずにソニアさんが答える。
そんなソニアさんの様子を少し悲しそうな表情で見ていたレリスが、ソニアさんの元へと歩いて行く。
「ソニアさん……わたくしはあなたがこんなことをする人だと未だに信じられませんわ。何か事情があるのでしょう?」
「レリスお嬢様の信頼を裏切るのは非常に心苦しいですが、私は元々内通を目的として―――」
「積もる話もあるでしょうが、そこまでにしていただけないかしら?」
突然聞いたことのない声が廊下の先から聞こえてたので、ソニアさんを除いた全員がそちらに視線を送ると金髪のショートヘア-に、整った顔立ちを持ちながらも鋭い目つきでこちらを見ながら歩いてくる女性の姿があった。
「……クレア」
「クレアさん……」
ついに三姉妹の最後の一人、クレア=グウレシアが俺たちの前に姿を現した。
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