無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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激戦~姉の背中~

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「驚いた! この状況でまだ自分が勝てると思ってるんですか!?」

 またも無数の電撃へと分散したクレアが、一斉にティニアさんに襲い掛かっていく。
 それらを大きくバックステップすることでかわしたティニアさんが、リングアウトするギリギリのラインで着地し、そのまま壇上のラインに沿って走り始める。

「リングアウトギリギリのラインを陣取ることで、私が勢いよく外へ出てしまうことを期待しているのですか? 随分姑息なことを考えますね!!」

 クレアが走るティニアさんを追いかけるように無数の電撃を放っていくが、それらは壇上に突き刺さるだけで一つとしてティニアさんには命中していない。
 やがて壇上の周囲を一周するとティニアさんが立ち止まった。度重なるダメージのせいか肩で大きく息をして……ん?
 
「なんかおかしくないか?」
「たしかに……壇上を一周しただけにしては体力消費が激しいような……あっ!」

 どうやらエナも気が付いたようだ。
 ティニアさんが消費してるのは体力ではなく……。

「立ち止まってどうしたのですか? もう逃げ回る体力すら残ってないみたいですね?」

 肩で息をしながら立ち止まるティニアさんに向けて、一本の大きな電撃となったクレアが一直線に飛んでいくが、ティニアさんは俯いたまま全く動きが見られない。

「ティニアお姉ちゃん危ない!」

 テレアが叫ぶのと同時に、顔を上げたティニアさんが魔力を剣に乗せ、剣の切っ先を地面すれすれの状態から一気に飛んでくるクレアに向けて斬り上げた。

「おっと!」

 その切り上げ攻撃を二本の電撃に分裂することでクレアが回避するも、ティニアさんの剣から放たれた魔力は地面を伝いまっすぐに伸びていき、壇上を包む光の壁にぶつかりはじけて消えた。

「ギリギリまで引き付けて斬り伏せるつもりでしたか……油断も隙もありませんね」
「はあ……はあ……っ!」

 剣に魔力を乗せ切っ先を地面すれすれの状態で保ったまま、ティニアさんが再び走り始めた。

「この壇上であなたに逃げ場などありませんよ!」

 そんなティニアさんをあざ笑うように、クレアが自身を大きな光球へと変質させて、そこから無数の電撃の雨を降らせていく。

「あぐっ!」

 それらが数本直撃しダメージを負うも、それでもティニアさんはまっすぐ走っていき、壇上の隅まで到達すると今度は角度を変えて再びまっすぐに走っていく。

「ちょこまかちょこまかと!!」

 すげーな……いや何がって、あそこまでティニアさんが露骨な動きをしてるのに、クレアが全く気が付いてないのが凄いな……と。
 少し冷静になれば、ティニアさんが今何を目的にして壇上を走り回ってるかなんて、わかるはずなのに。
 だがいくらクレアが気が付いていないとはいえ、ティニアさんのダメージも蓄積されているのもまた事実だ……決して油断はできない状況ではある。

「どうやら攻撃をかわす気力すら残っていないようですね? そろそろ終わりにしてあげます!」

 満身創痍なティニアさんを確実に仕留めようと、より一層電撃の雨を苛烈にさせていくカレンだが、それでもティニアさんは真っすぐ走るのを止めない。
 合計6回ほどそれを繰りかえしたティニアさんがようやく立ち止まり、地面に突き立てた剣をもたれかかるように膝をついた。

「はあっ……はあっ……」
「もう走る体力もないみたいですね……これで終わりです!!」

 再び一本の電撃と化したクレアが、膝をついたティニアさんへとまっすぐに飛んでいく。

「はぁ……結局最後まであなたは気が付かなかったわね」

 そう呟いたティニアさんが風を纏い壇上の中心へと跳んで、クレアの攻撃を回避した。

「まだそんな力が残っていたとは……ですが」
「鬼ごっこはもう終わりよ? いい加減私も走りつかれたから……!」

 そう言ったティニアさんが剣に魔力を乗せて勢いよく壇上に突き立てると、剣から魔力が地面を伝っていき、壇上全体を覆うような魔法陣が現れた。

「なっ!? いつの間にこんなものを!?」

 全然いつの間にかじゃねーよ、さっきからずっとティニアさんがそのために走り回ってただろうが。
 勝利に目がくらみすぎて本当に気が付いてなかったんだな。

「魔法が……変質魔法が……!?」

 魔法陣の効果なのか、クレアが変質魔法を維持できなくなっていき人間の姿へと戻ってしまった。
 この魔法陣はなんだろうか? 解除魔法の拡大版か?

「あの魔法陣は、恐らく体内の魔力の活性化を阻害する物ですね」
「……魔法が使えなくなる?」

 フリルの疑問に、エナが小さく頷いて答えた。
 魔力の活性化を阻害する魔法陣で、その範囲内にいると魔法が使えなくなる……と。
 魔法が使えなければクレアは変質魔法を維持できなくなるから、もう自身を電撃に変えて攻撃することは出来なくなるわけだ。
 でも魔法が使えないのはティニアさんも同じことだよな?

「えっ!? 大丈夫なのかそれ!? これって結局自分も不利になるんじゃ!?」

 言ってしまえば両者とも魔法を使うことが出来なくなったことで、戦いは振り出しに戻ったということだ。

「わたくしはそうは思いませんわ」
「そうだね、この状況でティニアが負けるところなんて想像できないよ」

 レリスとケニスさんが壇上のティニアさんから目を話すことなく頷きあった。
 この二人のティニアさんへの信頼は全く揺らがないのが本当に凄いな……。

「さて……これでお互い魔法を使えず、単純な技量での勝負になるわね」
「まっ魔法が使えなくても、今のボロボロな状態のあなたなんて……!」

 まだ自分が優位だと思っているクレアが睨みつけるも、そんなもの関係ないとばかりにティニアさんが一歩踏み出した。

「あなたさっき私を嬲り殺すと言ったわね?」
「そうです……! あなたと兄を殺し私が……!」

 その言葉を無視し、ティニアさんがもう一歩踏み出す。その姿は今までとは違う鬼気迫るものだ。
 そんなティニアさんを目の当たりにして、怯えたようにクレアが一歩後ずさった。

「そう……なら私もあなたを殺すことで抵抗しなければならないわね?」
「あっ……あなたにそんなことができるんですか!?」
「あなたがどんな気持ちでこの戦いに挑んだのかは知らないけど、少なくとも私は最悪あなたを殺してでも勝つつもりだったし、負けたら殺されるのを覚悟で挑んでいたわ?」

 一歩、また一歩とティニアさんがクレアに迫っていく。

「逆にあなたに聞くけど、あなたは自分が殺されてもいい覚悟があったのかしら? その覚悟もない癖に私のことを殺すと言ったの?」

 ティニアさんの気迫に圧倒されて、もはやクレアは後ずさることすら忘れてカタカタと小さく震えながら立ちすくんでいた。

「あなたの今までの人生を否定するつもりはないけど……自分に危害が及ばない位置で私利私欲の為だけに生きてきたあなたに負けるほど、私は甘くないつもりよ?」
「ろっ……ロイ様! たすけ……!」
「自分の身が危なくなったら人に頼るのね? 私を殺すと口にした以上は今この場で私の喉物に食らいつくくらいの気概を見せてほしいのだけど?」

 クレアに迫りながら、ティニアさんが手にした剣を構える。

「やめ……やめて……殺さないで……!」
「ここで見逃したらあなたはまた私やケニスを殺そうとするんでしょ? ならここで憂いは絶っておかないといけないわ」
「ひっ人殺し!!!」
「その言葉そっくりあなたにお返ししますね」

 冷たく言い放ったティニアさんが大きく剣を振りかぶり、一呼吸の間を置いた後勢いよく振り下ろした!

「ぎゃあぁ―――!!!」

 恥も外聞も無視した悲鳴を上げるクレアの目前で剣がぴたりと止まるが、立ったまま気を失ったらしく、そのままがっくりと膝をついて仰向けに倒れてしまった。
 完全に勝負ありだな……いやはやある意味ではあっけない最後だったな。

「どうやら勝負ありのようですね……まああまり大きな期待はしていませんでしたがこんなものでしょう」

 そう言いながらロイが指を鳴らすと、壇上を覆っていた光の壁が消失した。
 それを見届けたティニアさんが、まるで糸の切れた人形のように地面に倒れる。

「お姉様!!」
「ティニア!!」

 レリスとケニスさんがいち早く壇上へと駆け上がっていき、倒れたティニアさんを助け起こした。
 その後に続くように俺たちも壇上へと上がっていくと、壇上はボロボロになっており先ほどの戦いの激しさを物語っていた。

「しっかりしてくださいお姉様!」
「ふう……さすがに疲れたわ……最近訓練をサボってたツケが回って来たわね……」
「喋らなくていいから、今は身体を休めるんだ」

 見たところティニアさんは相当ダメージを受けていたらしく、立ち上がる気力すら残っていないようだ。こんな状態になるまで戦っていたのか……本当に凄い人だ。

「レリス……私の背中を見ていてくれたかしら?」
「見てましたわ……やはりお姉様はこの世界で一番信じられる人だと改めて実感致しましたわ!」
「良かった……忘れないでレリス……例え人に裏切られて目の前が真っ暗になったとしても、あなたが真に信じるべき人は必ずいるわ……少なくとも私はあなたが最後の最後まで信じられる存在であり続けるつもりよ」
「はい……!」

 ティニアさんがこの戦いを通じてレリスに伝えたかったこと……それはどんな時でも自分を裏切ることのない人がいるということ。
 ソニアさんに裏切られたレリスを救うべく、ここまで傷つくことを覚悟しながらも身体を張ったティニアさん。
 これが俗に言う姉妹愛と言う物なのだろうか? 俺には兄弟がいないが、この二人を見てると俺にもなんとなく理解できる。
 こんな凄い背中を見せられて、この人を信じられないなどと言う人はいないだろう。……少しばかりレリスが羨ましいな。

「わたくしはもう大丈夫ですわ……どんな時でもお姉様が見ていてくれると分かった以上、これ以上情けない姿を見せられませんもの!」
「それはよかったわ……でも私だけでなく周りの人たち……あなたが心から好きだと思う人もあなたが信じるに値する人だということも忘れないで……」
「はい……はい!」

 あふれ出る涙が自身を覆っていた不安や悲しみを押し流していったのか、レリスが晴れやかな表情でティニアさんの言葉に力強く頷いた。

「さすがに疲れたわ……後は皆さんに任せますから、私は一足先にお休みします……ね……」

 限界が来たのか、ケニスさんの腕に抱かれながらティニアさんが意識を手放し、小さく寝息を立て始めた。

「お疲れ様、ティニア」

 寝息を立てるティニアさんのおでこを、ケニスさんが優しく撫でる。
 ゆっくりと二人っきりにさせてあげたいところだが、残念だが今はそんな悠長な事態ではない。
 俺は立ち上がりロイを睨みつけると、相手もそれに気が付いたようでゆっくりとした足取りで壇上へと上がって来た。

「お見事でした! さすがはエレニカ財閥の次期当主と言ったところでしょうか?」
「時間稼ぎは済んだんだろ? 御託はいいから、そろそろ本題に入ろうぜ?」
「せっかちですねぇ……まあいいでしょう。君の言う通り青龍が復活出来るだけの準備はすでに整いました。あとは最後の仕上げをするだけです」

 ロイがそう言ってさやから抜かれたままになっていたレリスの剣へと手を向ける。

「その剣にはめ込まれた宝石は、青龍の両目らしいですよ? つまるところその宝石は青龍の一部だというわけです」

 そう言い終わった瞬間、レリスの剣から二つの宝石が外れ宙に浮き、そのままロイ手元へと飛んで行った。

「もっと青龍復活を阻止するべく抵抗してくると思いましたが、思いのほか何もしてこないんですね?」
「うるせーよ、こっちにだって色々と事情があるんだよ」
「そうでしょうね、あなたたちの役割上どの道神獣は復活させないといけないんですから」

 もしかしてこいつ、俺たちが神獣を封印する役目をこの世界の神に押し付けられたことを知ってるのか!?

「いわば私はあなたたちの役割のお手伝いをしてあげているのですから、もう少し感謝してほしいところですよ」
「いい加減にしなさいロイ! あなたの戯言はうんざりです!!」

 エナが立ち上がり憎しみを込めた目でロイを睨みつける。

「これ以上はエナさんの機嫌を損ねてしまうようなので、私も本来の目的を果たすとしますか……」

 再びロイが指を鳴らすと、目の前にアーデンハイツ城の地下から奪い取った青龍の核石が現れた。

「それでは、楽しい楽しいショーの開幕と行きますか」

 ロイが不敵に笑うのと、青龍の核石が赤黒い輝きを発すのは同時だった。
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