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3分~面倒くさい戦い~
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自身へと駆け出してくる俺に向けて、青龍が冷気を含んだ風の弾丸を矢継ぎ早に打ち込んでくる。
直撃するたびに俺を凍り付かせようと、まるで生き物のように氷が侵食してくるが、ちょっと魔力を流し込んでやるだけであっさりと砕け散っていく。
痛くもかゆくもないんだけど、逐一うざいな……。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
青龍が雄たけびを上げると、足元に魔力が集まっていきそこから天まで突き抜けるかのような冷気をふんだんに含んだ竜巻が発生し、俺はそのまま全身を凍り付かせながら宙へと放り上げられた。
宙に浮きかつ全身が氷漬けなおかげで身動きを取れない俺に向けて、風のカッターを乱射して切り刻もうとしてくる。
だがそれは俺に傷一つつけられないばかりか、身体にこびりついた氷を切り裂いていくだけに留まった。
「おおーすげー! 建物がスパスパ切れていくな!」
俺に当たらず別の方角に飛んで行った風のカッターが遠くの建物を綺麗に一刀両断していく。
……って感心してる場合じゃないな、こんな滅茶苦茶な攻撃をさせていたのでは周りの被害がとんでもないことになってしまう!
「リフレクト・フル・プロテクション!」
青龍の周りにドーム状のバリアを張ると、周囲に飛び散っていく風のカッターが次々とバリアに直撃して砕けていく……とかと思いきや。
「ギャオオオアアア!!」
その全てが発射元である青龍へ跳ね返っていき、自身の身体を無数に斬りつけていく。
斬られた部分が再生しているのを見るに、玄武ほどではないにせよそれなりの再生能力を持っているのが見て取れる。これなら俺も多少は攻撃をしても大丈夫みたいだな。
身体にこびりついた氷を砕き、早速俺は魔力を活性化させて……いつもは近接武器ばかり作るからたまには遠距離武器を生成してみるか。
両手の空間に魔力を集めていき、大きな弓をイメージして魔力を操作していくと、ほどなくして魔力で出来たシンプルな形の弓が生成された。
……こういうときデザインセンスのない自分がちょっとばかし恨めしくなるな。
「まあ、ようは形よりも実用性だよな!」
実際の弓なんて使ったことはないが、これは魔力で出来たまがい物だ。ある程度は俺の魔力でコントロールできるだろう。
巨大な矢をイメージして生成していき、弓にあてがい弦を引き絞りながら狙いを定めていく。
そんな俺の様子に気が付いたのか、弓を構えて無防備な俺に向けて青龍が冷気を含んだ風の弾丸を打ち出してきた。
「ほらよ!」
弦から指を放すと、青龍が打ち出した風の弾丸をあっさりとぶち抜きながら、魔力の矢が青龍に向けて真っすぐ飛んでいく。
迫りくる矢を回避しようと青龍がその長い胴体を翻すが、それは生憎普通の矢ではなく魔力で出来た矢だ。
魔力によって強引に軌道を修正された矢が青龍の尻尾辺りを貫くと、その周辺を巻き込むかのように青龍の胴体辺りまで一緒に消し飛んだ。
やべっ、やりすぎた!!
「グゴゴオオォォォ……!」
青龍が低い唸り声をあげると、じわじわと失われた胴体が再生していく。
危なかったな……もうちょっと威力を調整しないと青龍そのものを消し飛ばしてしまう。それに当てる場所も考えないとな。
先ほどよりも威力を控えめにした魔力の矢を生成した俺は、再び弓にあてがい弦を引き絞り狙いを定めていく。
「……僕は一体何を見せられているんだろう……」
「まあ気持ちはお察ししますわ……わたくしも以前この状態のシューイチ様を見て、自分の価値観というか……倫理観がひっくり返った気がしましたもの」
「全裸のシュウは文字通り無敵そのものやからな」
「……これぞ無敵の全裸パワー」
「凄いのじゃ! シューイチよ! そのまま青龍を完膚なきまで叩きのめすのじゃ!!」
朱雀の結界に守られたそれぞれの面子による、現状を目にした正直な感想が俺の耳に届いてくる。
ていうか無敵の全裸パワーってもう字面がやばいな……まるで俺が変態みたいじゃないか。
それにティア、今まで散々一緒に過ごしてきて思い入れもあるだろう青龍に対してそれはないだろう。いやまあ分け身と本体は別という認識があるのかもだけどさ。
なんだかなあ……と思いつつ、俺は青龍へ向けて矢を放つと、先程と同じように青龍の尻尾辺りを貫くも威力を調整した甲斐もあって胴体まで消し飛ばすようなことはなかった。
よしよし、この威力を保ったままとにかく矢を撃ちまくって再生をさせまくれば、それだけでロイが注ぎ込んでいった邪神の力とやらを使い切らせそうだ。
「ほいほいっと」
次々と矢を生成し、まるで機械のように等間隔で青龍に向けて矢を撃ちだしていく。
「ギャッ……ギャオオオオォォ―――!!!!!」
なんか「やってられるか!」と言わんばかりに青龍がひときわ大きな雄たけびを上げると、俺の視界から一瞬にして消えてしまった。
なんだ、転移で逃げたのか? 悪いけど逃がすわけにはいかないんだよね。
俺は魔力を自身の五感へと集めていき、周囲を観察する。
わずかながらに青龍の魔力の反応があるけど……なんだこれ? 上手く言えないが……なんというかこことは別の次元に反応を感じる。
明らかにここにいるんだろうけど、どうしたもんだろう?
『青龍の奴、次元転移で表層世界の裏へと逃げたわね』
「次元転移……? それは一体どういうことですの?」
『えっと……例えば両面真っ白な紙があるとして……いま私たちがいるのが紙の表なのよ。青龍は次元転移で紙の裏側へと逃げたってわけね。あいつは昔から都合が悪くなると転移で表層世界の裏側に引っ込んで出てこなくなるのよねぇ……』
「……駄々っ子?」
『否定はしないわ……』
元々分け身の時から転移の力を操ってたから、そっち方面に能力が特化してるとは思ってたけど、まさか次元の壁を越えていくとは。
悪いけど逃がすわけにはいかない。
「朱雀の話から察するに、要するに紙の裏側にいるんだよな?」
全身の魔力を両目に総動員していき青龍のいた場所を凝視すると、うっすらとだが青龍の姿が見えてきた。
なんだろう、イメージ的には薄いカーテンの裏にいるみたいな感じだな……それなら!
両目に魔力を保ったまま今度は両手に魔力を集めていき、青龍の元まで跳んだ俺はイメージ的に薄いカーテンに触れるような感じで空を掴んだ。
両手に今まで感じたことのない不思議な感触が伝わってくる、これが次元の壁って奴かな?
そのまま勢いに任せてそれを引っぺがしてやると、今までうっすらとしか見えなかった青龍の姿がはっきりと見えるようになった。
『ギャッ!!??』
まるで自室でいけないことをしてたのを、突然ノックもなしに部屋に入ってき母親に見つかったような顔をされた。
いやそんな顔をされても……俺だってお前さんに逃げられるわけにはいかないんだよ。
『……今あいつ、さらっととんでもないことをしたわね……』
「全裸のシュウに掛かれば、どこへ逃げても無駄っちゅーことか」
「……何それ怖い」
外野がうるさいなぁ……俺だってまさか引きこもりの息子を強引に外に連れ出す母親のような真似をすることになろうとは思わなかったよ!
「ギャオオオオォォ―――!!!」
悲鳴みたいな声を上げなら、青龍が身を翻し猛スピードで俺から離脱を図るも、俺にしっぽを掴まれたせいでそれすらも叶わず、よほどの勢いだったのか長い棒のように全身がピンっとなった。
「逃げるのは無しな?」
そのまま両手で青龍の尻尾を掴み、勢いに任せて地面へと叩きつけると、衝撃で瓦礫が宙に浮かび地響きと共に軽いクレーターが出来た。
『シューイチ、あと30秒くらいよ!』
もうそんなに経ったのか? 体感ではまだ1分くらいだと思ってんだけど。
「それでどうだ? 大分邪神の力をやらは抜けてきてる?」
『もう少しってところね、次元転送でかなりの力を消費したみたい』
それならもう一度くらい逃がしてみるか? いやでもまた同じことするの面倒くさいだよな……地味にプロセスも複雑だし。
そんなことを考えていると、不意に身体が勢いよく宙に放り出された。
驚きながら下を見ると、青龍が尻尾を振り上げた状態で俺を睨みつけていた。
ああ、そういえば尻尾を掴みっぱなしになってたっけ……そのせいで上に放り投げられたのか。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
青龍がもう何度目かの雄たけびを上げると、尻尾の先から徐々に身体が風に溶け込んでいく。
なんだ、また逃げる気か……いや、さっきと様子が違うな?
警戒しながら観察していると、そのまま完全に青龍自身が風に溶け込んで見えなくなってしまったが、どうやらさっきみたいに次元の壁を越えたわけではないようだ。
その証拠に風に乗って青龍の魔力が俺に向かって来ているしな。
「なんやのあいつ、また逃げたんか?」
「違いますわ……先ほどとは違い青龍の魔力をはっきりと感じますもの」
「……蛇が風に紛れてシューイチの身体に入っていってる」
「蛇とは青龍のことかえ?」
青龍が風に紛れて俺の中に侵入してきてる? ということは、内部から俺を倒そうとしてきてるのか?
確かにフリルの言う通り、俺の身体に青龍の魔力が流れ込んできてるみたいだ……どうやら最後の手段にでたようだな。
放っておいても害はないだろうけど、俺の体内に侵入してきているという事実がなんだかとっても気にいらない。これが可愛い女の子ならオールオッケーだが、あの青龍だろ?
俺は精神を集中させて、体内に紛れ込んだ青龍の魔力を感知する。
悪いけどお前さんに逃げ場なんてないんだって教えてやるよ!
「うおおおおぉぉぉ!!!」
体内の魔力を活性化させて、外へ向けて一気に放出していく。
素の状態でこんなことをしたら魔力切れどころか命を危険に晒す行為だが、生憎今の俺は無尽蔵に魔力が湧いてくるからそんなことはお構いなしだ。
とめどなく俺から放出される魔力に押し流されるように、青龍の魔力が体内から抜けて出ていくのがわかる。
また風に紛れて逃げられても困るので、体内にわずかに残っていた青龍の魔力を逃がさないように俺の魔力でコーティングして両手の空間に集めていく。
これで全部かな? よーし……!
「かくれんぼはおしまいだ! 逃げてばかりいないでいい加減出て来い!!」
両手の空間に集められて光る球体へと圧縮された青龍の魔力を放り投げて、それを包んでいた俺の魔力を一気に解除してやると球体が弾けて周囲の青龍の魔力を巻き込みながら大きく渦巻いていく。
程なくしてもはや見慣れた青龍の姿が目の前に顕現された。
「ギャッ!!??」
やっと姿を見せたか……時間もないことだしこれで終わりにしてやる!
右手で拳を作り、魔力など一切含めず単純に力を込めて大きく振りかぶった。
「おりゃああぁぁ!!!」
そのまま勢いよく青龍の胴体に拳をぶち込むと、やたら軽快な破裂音とともに青龍の首から下が綺麗に消しとんだ。
「ゴアアァァァ……」
頭だけになった青龍が音を立てながら地面へと落ちて転がった。
少し様子を伺うが再生する気配がないのを見るに、ようやくロイによって継ぎ足されたという邪神の力とやらを使い果たしたようだ。
その証拠に赤黒かった青龍の鱗が、分け身の時のように青く変わっていき、黒く濁っていたその瞳もレリスの剣に宝石として収まっていた時のような蒼く綺麗な物へと変わっていった。
「ふう……これで多分大丈夫だな!」
『そうね、もう邪神の力は感じられないし』
いつの間にか俺の隣に飛んできていた朱雀が、頭だけになった青龍を見降ろしながら胸をなでおろしていた。
「いやはや……とんでもない物を見せられたね」
「お疲れ様でしたシューイチ様」
朱雀の結界に守られていた皆が、ぞろぞろと俺の元へとやって来た。
「皆、怪我はない?」
「朱雀のおかげで傷一つないで」
元気よくスチカが答えるのを見て、俺もほっと胸をなでおろした。
なんか色々と面倒くさい戦いだったな……俺がこの世界に来た中で一二を争う面倒くささだった。
そんなことを考えていると、青龍の頭が光球へと代わり、そのまま宙に浮いてまるで逃げるようにティアの中へと吸い込まれていった。あーやっぱりティアの元に戻るのね……。
やがてティアの身体が青い光に包まれて、その光が小さな龍の形になっていく。そして以前の分け身と寸分違わぬ姿へと変わると、開口一番に叫んだ。
「やりすぎだ!!!」
直撃するたびに俺を凍り付かせようと、まるで生き物のように氷が侵食してくるが、ちょっと魔力を流し込んでやるだけであっさりと砕け散っていく。
痛くもかゆくもないんだけど、逐一うざいな……。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
青龍が雄たけびを上げると、足元に魔力が集まっていきそこから天まで突き抜けるかのような冷気をふんだんに含んだ竜巻が発生し、俺はそのまま全身を凍り付かせながら宙へと放り上げられた。
宙に浮きかつ全身が氷漬けなおかげで身動きを取れない俺に向けて、風のカッターを乱射して切り刻もうとしてくる。
だがそれは俺に傷一つつけられないばかりか、身体にこびりついた氷を切り裂いていくだけに留まった。
「おおーすげー! 建物がスパスパ切れていくな!」
俺に当たらず別の方角に飛んで行った風のカッターが遠くの建物を綺麗に一刀両断していく。
……って感心してる場合じゃないな、こんな滅茶苦茶な攻撃をさせていたのでは周りの被害がとんでもないことになってしまう!
「リフレクト・フル・プロテクション!」
青龍の周りにドーム状のバリアを張ると、周囲に飛び散っていく風のカッターが次々とバリアに直撃して砕けていく……とかと思いきや。
「ギャオオオアアア!!」
その全てが発射元である青龍へ跳ね返っていき、自身の身体を無数に斬りつけていく。
斬られた部分が再生しているのを見るに、玄武ほどではないにせよそれなりの再生能力を持っているのが見て取れる。これなら俺も多少は攻撃をしても大丈夫みたいだな。
身体にこびりついた氷を砕き、早速俺は魔力を活性化させて……いつもは近接武器ばかり作るからたまには遠距離武器を生成してみるか。
両手の空間に魔力を集めていき、大きな弓をイメージして魔力を操作していくと、ほどなくして魔力で出来たシンプルな形の弓が生成された。
……こういうときデザインセンスのない自分がちょっとばかし恨めしくなるな。
「まあ、ようは形よりも実用性だよな!」
実際の弓なんて使ったことはないが、これは魔力で出来たまがい物だ。ある程度は俺の魔力でコントロールできるだろう。
巨大な矢をイメージして生成していき、弓にあてがい弦を引き絞りながら狙いを定めていく。
そんな俺の様子に気が付いたのか、弓を構えて無防備な俺に向けて青龍が冷気を含んだ風の弾丸を打ち出してきた。
「ほらよ!」
弦から指を放すと、青龍が打ち出した風の弾丸をあっさりとぶち抜きながら、魔力の矢が青龍に向けて真っすぐ飛んでいく。
迫りくる矢を回避しようと青龍がその長い胴体を翻すが、それは生憎普通の矢ではなく魔力で出来た矢だ。
魔力によって強引に軌道を修正された矢が青龍の尻尾辺りを貫くと、その周辺を巻き込むかのように青龍の胴体辺りまで一緒に消し飛んだ。
やべっ、やりすぎた!!
「グゴゴオオォォォ……!」
青龍が低い唸り声をあげると、じわじわと失われた胴体が再生していく。
危なかったな……もうちょっと威力を調整しないと青龍そのものを消し飛ばしてしまう。それに当てる場所も考えないとな。
先ほどよりも威力を控えめにした魔力の矢を生成した俺は、再び弓にあてがい弦を引き絞り狙いを定めていく。
「……僕は一体何を見せられているんだろう……」
「まあ気持ちはお察ししますわ……わたくしも以前この状態のシューイチ様を見て、自分の価値観というか……倫理観がひっくり返った気がしましたもの」
「全裸のシュウは文字通り無敵そのものやからな」
「……これぞ無敵の全裸パワー」
「凄いのじゃ! シューイチよ! そのまま青龍を完膚なきまで叩きのめすのじゃ!!」
朱雀の結界に守られたそれぞれの面子による、現状を目にした正直な感想が俺の耳に届いてくる。
ていうか無敵の全裸パワーってもう字面がやばいな……まるで俺が変態みたいじゃないか。
それにティア、今まで散々一緒に過ごしてきて思い入れもあるだろう青龍に対してそれはないだろう。いやまあ分け身と本体は別という認識があるのかもだけどさ。
なんだかなあ……と思いつつ、俺は青龍へ向けて矢を放つと、先程と同じように青龍の尻尾辺りを貫くも威力を調整した甲斐もあって胴体まで消し飛ばすようなことはなかった。
よしよし、この威力を保ったままとにかく矢を撃ちまくって再生をさせまくれば、それだけでロイが注ぎ込んでいった邪神の力とやらを使い切らせそうだ。
「ほいほいっと」
次々と矢を生成し、まるで機械のように等間隔で青龍に向けて矢を撃ちだしていく。
「ギャッ……ギャオオオオォォ―――!!!!!」
なんか「やってられるか!」と言わんばかりに青龍がひときわ大きな雄たけびを上げると、俺の視界から一瞬にして消えてしまった。
なんだ、転移で逃げたのか? 悪いけど逃がすわけにはいかないんだよね。
俺は魔力を自身の五感へと集めていき、周囲を観察する。
わずかながらに青龍の魔力の反応があるけど……なんだこれ? 上手く言えないが……なんというかこことは別の次元に反応を感じる。
明らかにここにいるんだろうけど、どうしたもんだろう?
『青龍の奴、次元転移で表層世界の裏へと逃げたわね』
「次元転移……? それは一体どういうことですの?」
『えっと……例えば両面真っ白な紙があるとして……いま私たちがいるのが紙の表なのよ。青龍は次元転移で紙の裏側へと逃げたってわけね。あいつは昔から都合が悪くなると転移で表層世界の裏側に引っ込んで出てこなくなるのよねぇ……』
「……駄々っ子?」
『否定はしないわ……』
元々分け身の時から転移の力を操ってたから、そっち方面に能力が特化してるとは思ってたけど、まさか次元の壁を越えていくとは。
悪いけど逃がすわけにはいかない。
「朱雀の話から察するに、要するに紙の裏側にいるんだよな?」
全身の魔力を両目に総動員していき青龍のいた場所を凝視すると、うっすらとだが青龍の姿が見えてきた。
なんだろう、イメージ的には薄いカーテンの裏にいるみたいな感じだな……それなら!
両目に魔力を保ったまま今度は両手に魔力を集めていき、青龍の元まで跳んだ俺はイメージ的に薄いカーテンに触れるような感じで空を掴んだ。
両手に今まで感じたことのない不思議な感触が伝わってくる、これが次元の壁って奴かな?
そのまま勢いに任せてそれを引っぺがしてやると、今までうっすらとしか見えなかった青龍の姿がはっきりと見えるようになった。
『ギャッ!!??』
まるで自室でいけないことをしてたのを、突然ノックもなしに部屋に入ってき母親に見つかったような顔をされた。
いやそんな顔をされても……俺だってお前さんに逃げられるわけにはいかないんだよ。
『……今あいつ、さらっととんでもないことをしたわね……』
「全裸のシュウに掛かれば、どこへ逃げても無駄っちゅーことか」
「……何それ怖い」
外野がうるさいなぁ……俺だってまさか引きこもりの息子を強引に外に連れ出す母親のような真似をすることになろうとは思わなかったよ!
「ギャオオオオォォ―――!!!」
悲鳴みたいな声を上げなら、青龍が身を翻し猛スピードで俺から離脱を図るも、俺にしっぽを掴まれたせいでそれすらも叶わず、よほどの勢いだったのか長い棒のように全身がピンっとなった。
「逃げるのは無しな?」
そのまま両手で青龍の尻尾を掴み、勢いに任せて地面へと叩きつけると、衝撃で瓦礫が宙に浮かび地響きと共に軽いクレーターが出来た。
『シューイチ、あと30秒くらいよ!』
もうそんなに経ったのか? 体感ではまだ1分くらいだと思ってんだけど。
「それでどうだ? 大分邪神の力をやらは抜けてきてる?」
『もう少しってところね、次元転送でかなりの力を消費したみたい』
それならもう一度くらい逃がしてみるか? いやでもまた同じことするの面倒くさいだよな……地味にプロセスも複雑だし。
そんなことを考えていると、不意に身体が勢いよく宙に放り出された。
驚きながら下を見ると、青龍が尻尾を振り上げた状態で俺を睨みつけていた。
ああ、そういえば尻尾を掴みっぱなしになってたっけ……そのせいで上に放り投げられたのか。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
青龍がもう何度目かの雄たけびを上げると、尻尾の先から徐々に身体が風に溶け込んでいく。
なんだ、また逃げる気か……いや、さっきと様子が違うな?
警戒しながら観察していると、そのまま完全に青龍自身が風に溶け込んで見えなくなってしまったが、どうやらさっきみたいに次元の壁を越えたわけではないようだ。
その証拠に風に乗って青龍の魔力が俺に向かって来ているしな。
「なんやのあいつ、また逃げたんか?」
「違いますわ……先ほどとは違い青龍の魔力をはっきりと感じますもの」
「……蛇が風に紛れてシューイチの身体に入っていってる」
「蛇とは青龍のことかえ?」
青龍が風に紛れて俺の中に侵入してきてる? ということは、内部から俺を倒そうとしてきてるのか?
確かにフリルの言う通り、俺の身体に青龍の魔力が流れ込んできてるみたいだ……どうやら最後の手段にでたようだな。
放っておいても害はないだろうけど、俺の体内に侵入してきているという事実がなんだかとっても気にいらない。これが可愛い女の子ならオールオッケーだが、あの青龍だろ?
俺は精神を集中させて、体内に紛れ込んだ青龍の魔力を感知する。
悪いけどお前さんに逃げ場なんてないんだって教えてやるよ!
「うおおおおぉぉぉ!!!」
体内の魔力を活性化させて、外へ向けて一気に放出していく。
素の状態でこんなことをしたら魔力切れどころか命を危険に晒す行為だが、生憎今の俺は無尽蔵に魔力が湧いてくるからそんなことはお構いなしだ。
とめどなく俺から放出される魔力に押し流されるように、青龍の魔力が体内から抜けて出ていくのがわかる。
また風に紛れて逃げられても困るので、体内にわずかに残っていた青龍の魔力を逃がさないように俺の魔力でコーティングして両手の空間に集めていく。
これで全部かな? よーし……!
「かくれんぼはおしまいだ! 逃げてばかりいないでいい加減出て来い!!」
両手の空間に集められて光る球体へと圧縮された青龍の魔力を放り投げて、それを包んでいた俺の魔力を一気に解除してやると球体が弾けて周囲の青龍の魔力を巻き込みながら大きく渦巻いていく。
程なくしてもはや見慣れた青龍の姿が目の前に顕現された。
「ギャッ!!??」
やっと姿を見せたか……時間もないことだしこれで終わりにしてやる!
右手で拳を作り、魔力など一切含めず単純に力を込めて大きく振りかぶった。
「おりゃああぁぁ!!!」
そのまま勢いよく青龍の胴体に拳をぶち込むと、やたら軽快な破裂音とともに青龍の首から下が綺麗に消しとんだ。
「ゴアアァァァ……」
頭だけになった青龍が音を立てながら地面へと落ちて転がった。
少し様子を伺うが再生する気配がないのを見るに、ようやくロイによって継ぎ足されたという邪神の力とやらを使い果たしたようだ。
その証拠に赤黒かった青龍の鱗が、分け身の時のように青く変わっていき、黒く濁っていたその瞳もレリスの剣に宝石として収まっていた時のような蒼く綺麗な物へと変わっていった。
「ふう……これで多分大丈夫だな!」
『そうね、もう邪神の力は感じられないし』
いつの間にか俺の隣に飛んできていた朱雀が、頭だけになった青龍を見降ろしながら胸をなでおろしていた。
「いやはや……とんでもない物を見せられたね」
「お疲れ様でしたシューイチ様」
朱雀の結界に守られていた皆が、ぞろぞろと俺の元へとやって来た。
「皆、怪我はない?」
「朱雀のおかげで傷一つないで」
元気よくスチカが答えるのを見て、俺もほっと胸をなでおろした。
なんか色々と面倒くさい戦いだったな……俺がこの世界に来た中で一二を争う面倒くささだった。
そんなことを考えていると、青龍の頭が光球へと代わり、そのまま宙に浮いてまるで逃げるようにティアの中へと吸い込まれていった。あーやっぱりティアの元に戻るのね……。
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