無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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代償~全裸の英雄伝説~

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「いやいや、やりすぎなのはお互い様だし! お前見ろよこの惨状!!」

 はっきり言って更地もいいところである。
 可能な限り被害の出ないように戦ってたつもりだったが、あんだけ派手にドンパチしてればこうなるのも必然というか……いかにリンデフランデの時が奇跡的だったのがよくわかる。

『まあ、なんにせよ僕の暴走を鎮めてくれたことには感謝するよ……まさか頭だけの状態にされるとは思わなかったけどね』

 根に持つなぁ。

「やはり青龍はティアちゃんに宿るのですわね」
『ある意味ではアーデンハイツの王族と専属契約を結んでいるようなものだからね』

 野球選手みたいだ。
 一瞬だけテレアに宿るのを期待したんだけど、前にテレアは適合者ではないとはっきり言ってるからな。

「この数分で色々と常識では考えられない出来事に遭遇したなぁ……今までの価値観がひっくり返りそうだよ」
「ですよね、神獣とかありえないですよね」
「君がそれを言うのかい?」
「のんびりしたい気持ちはわかるけど、まだ国のあちこちで人工神獣が暴れとるんちゃうんか?」

 そうだった……青龍を鎮めた時点でなんかすべて終わった気になってたけど、教団連中が国中にばらまいた神獣薬のせいで出現した人工神獣は、未だにこの国を蹂躙しているのだ。
 一応この国の兵士と冒険者が総出で討伐に当たっているものの、絶賛苦戦中である。

「スチカの言う通りだな、そんじゃ残りの人工神獣を潰しに行きますか」
「早く何とかしないと国が滅茶滅茶にされてしまうのじゃ!」

 すでにあらゆる意味で滅茶滅茶にされてるが、被害を最大限に留めるためにはまだまだ頑張らないとな。

『ちょっと待ってもらってもいいかい?』

 比較的近場で地響きと轟音が鳴り響いたので、そちらへ歩き出そうとしたところを青龍が止めてきた。

『いちいち歩いて行ったのでは時間が掛かるだろう? 君に転移のやり方を教えてあげるよ』
「まじで!? いいの!?」
『色々と思うところはあるが、君は暴走した僕を止めてくれたからね、そのお礼だと思ってくれ』

 転移が使えるようになればこれから移動が楽になるぞ! いやはや俺も全裸になった甲斐があったと言う物だ!

『ただし現在の君が使用するためには今の状態にならないとダメだろうし、僕の使う転移は視界に届く範囲と、一度行ったことある場所と、君が一度でも会ったことのある人の元へしか飛べないから注意してくれよ』
「どこへでも好きなところへ飛べるわけじゃないんだな?」
『生憎とそんな万能な転移は無理だね』

 恐らく理の力で細工すればどこへでも飛べるようになるかもだけど、そのために貴重なリソースを消費するのも勿体ないな。
 まあ転移を使えるようになるだけでも御の字だよな。

 そんなわけで青龍から転移のやり方を教わった俺は、まずは転移の練習と称して城へと飛び、戦闘不能になったエナとテレアの二人を預けた。
 いきなり全裸で自分の前に現れた王様を多大に驚かせてしまうというアクシデントこそあったものの、とりあえず青龍の暴走を鎮めることを出来たことを伝えると、大いに喜んでくれた。
 その後は国のあちこちに飛び、まるで害虫駆除をするかのように人工神獣を全裸パワーで潰していく作業に没頭することになる。正確な数は覚えていないが、体感では20体くらい潰した気がする。
 よくもまあ、これだけの数の神獣薬をばらまいて行ったもんである。

 ちなみにこの出来事が後のアーデンハイツの歴史に大きく残ることになり、「国の危機を救った全裸の英雄伝説」として語り継がれていくことになるのだが、それは余計な話だし俺にとっては非常にいい迷惑である。




「此度の其方たちの働き、誠に大儀であった! 我が国の為に死力を尽くしてくれたことを、国民を代表し礼を言うぞ!」

 すべての人工神獣を倒し終わり、逃げ遅れた国民の救助作業などに準じていたのだが、王様が俺たちを呼んでいると例の兵士さんから言われたので、作業を一旦打ち切り俺たちは城の謁見の間へと赴くこととなった。

「……とまあ堅苦しいことは抜きにして、本当にありがとう!」
「もう少し威厳を保ってくれていてもいいんですよ?」
「元々堅苦しいのは苦手でね、それに今は君たちしかいないしいいじゃないか」

 この人はほんとにまあ……。
 あまりのフランクぶりに、スチカ以外のみんなも複雑な表情を浮かべる。

「国はかつてない大打撃を受けてしまったが、長い時間かけて修復をしていくよ。むしろこれだけの被害で済んだことが信じられないくらいだ」
「うむ! シューイチが頑張ってくれなかったら、最悪が国がなくなっておったかもしれぬからな!」

 その代償がこの国においての俺の体裁なのだが……まあそこもう今更だな。
 全裸のまま転移で国中のあちこちに飛び回ったもんだから、いい意味でも悪い意味でも俺の存在はこの国に認知される結果になってしまった。
 明日からこの国を無事に歩けるのか非常に心配である。

「国民の救助作業などは城の兵士に任せて、君たちはゆっくり休んでくれ! さすがに疲れているだろう?」

 俺は今の今まで全裸状態だったから肉体的には全然疲弊してないんだが、仲間たちはそういうわけにもいかず、全身すすだらけだし肉体的にも精神的にも疲労がたまっており、表情に疲れが色濃く出ている。
 折角だし、王様の厚意に甘えて休ませもらおうか……色々と気になることもあるしね。
 それから俺たちは王様と一言二言会話を交わした後、謁見の間を後にした。

「俺はこれから医務室へと行ってくるけど、皆はどうする?」
「……お風呂入りたい」
「あらフリルちゃん奇遇ですわね、わたくしもそう思っていましたの」
「全身泥だらけやしな」

 女性陣三人はこれからお風呂の行くようだ。まあ今までずっと戦ったり救助作業に準じていたから全身汚れてしまっているしな。
 俺だってひとまずやること全て終わったら風呂に入ってさっさと寝たいくらいだし。

「ケニスさんはどうしますか?」
「僕はこれからティニアの様子を見に行ってくるよ。ソニアさんが財閥本家まで運んでくれたらしいからね」
「転移で送りましょうか?」
「ハヤマ君も疲れているだろうし、馬車で行くよ」

 肉体的な疲労は全くないが、精神的には結構疲れてるからな……ケニスさんがそういうなら無理に出しゃばる必要もないか。

「じゃあせめて城門まで送りますよ」
「そうかい? それじゃあ行こうか」
「それではわたくしたちは一旦ここで……」

 レリスたちと別れた俺たちは連れ立って城門へと向かっていく。

「国は滅茶滅茶になってしまったけど、結果的には君のおかげでこの国は滅びずにすんだね」
「俺だけの力じゃないですよ、国の兵士や冒険者たちががんばったからですってば」
「だがその土台を整えていったのは君じゃないか? だからこの国は君に救われたと言っても過言じゃないさ」

 俺という人間は相変わらずこういうのに慣れてないから、こうして面と向かって褒められてしまうと言葉を失ってしまう。
 エナにも散々言われているが、もっと人からの厚意や称賛を素直に受け取れるようにならないとだよなぁ……。

「……君には話しておこうかな」
「ケニスさん?」

 不意に立ち止まったケニスさんが、廊下の窓に手を置き外を眺めながらぽつりぽつりと語り始める。

「僕は今回の事件の責任を取るために、グウレシア家の爵位を返上するつもりだ」
「はぁっ!? ちょっと待ってくださいよ! 王様から与えられた期限内に一応あの三人を国に突き出せたんですから、ケニスさんがそんな責任取ることもないでしょうに!?」
「さすがに「今回のことは妹たちが勝手にやったことです」と言ってしまうにはあまりにもことが大きすぎるからね。元を辿れば僕や両親たちの監督不行き届きが原因でもある」

 たしかにそうかもしれないが、今回の神獣絡みの事件はあの三人とカルマ教団が原因なんだから、ケニスさんがそれについて責任を感じる必要なんてこれっぽちもないはずだ。
 ちなみにまだ正式な処遇は決まっていないが、ケニスさんの妹たちは国を混乱に貶めた国賊ということでほぼ終身刑になるだろうとのこと。あの性悪三姉妹にふさわしい末路ではある。

「君たちは内情を知っているから僕に責任がないと庇ってくれるが、国民はそうはいかないよ」

 ケニスさんのその言葉に、俺は何も言えなくなってしまう。
 たしかに何も知らない人からしたら今回の事件は、グウレシア家とカルマ教団が引き起こした大事件という認識になる。
 俺たちは詳しい詳細を知っているからいいが、何も知らない国民からすればカルマ教団とグウレシア家に非難が集中するのは避けられないだろう。
 そうなってしまっては誰かが責任を取らなければ国民は黙ってはいないよな……。

「ティニアさんとの結婚はどうするんですか?」
「残念だけど白紙にするしかないだろうね……とてもそんなことをしている状況ではなくなってしまったし」

 ほんとにあの三姉妹とカルマ教団は碌なことをしないな!
 どうして事件解決のために死力を尽くし、かつ被害者と言ってもいいケニスさんが責任を取る羽目になるんだよ!

「この話はすでに僕の両親にもしてあるよ。明日には王様に進言するつもりだ」

 現グウレシア家当主であるケニスさんの両親は、妹たちを猫かわいがりしており今までの不祥事なども割と強引にもみ消していたらしいものの、今回の件についてはさすがに庇うことが出来ずついに見放したらしい。
 一応ケニスさんへの態度は妹たちほどひどい物ではなかったらしいが、ケニスさんが両親とチャネリングできないという事実があるだけで、どれだけ希薄な関係だったのかを察せてしまうな……。

「爵位返上に関しては渋々ながら了承してくれたよ、決して悪い人たちではないんだけどね……」

 今まであの三姉妹のやりたい放題好き放題を知っていながら庇ってたんだから、俺からすれば妹たちと同罪だ。
 何とも後味が悪い結果になってしまったな……。

「君がそこまで気にする必要はないよ。妹たちがいた時点でどの道遅かれ早かれグウレシア家に待っていたのは破滅だったろうしね」
「爵位を返上してその後はどうするんですか?」
「そうだね、貴族ではなくなるし……いっそ君たちの仲間となって冒険者になるのも面白いかもしれないな」

 暗くなってしまった雰囲気を吹き飛ばすように、ケニスさんがわざとらしく笑いながら明るくそう言った。

「俺は別にそれでもいいですけど、多分ティニアさんが許しませんよ?」
「だろうね……まあ両親と共に細々とこの国で暮らしていくさ」

 そう言ったケニスさんが再び歩き始めたので、俺もその横に並び共に歩いて行く。
 その後は特に会話らしい会話もなく、城門前に待機してた馬車に乗ってケニスさんがエレニカ財閥へと向かって行くのを見送った。

「……何ともやりきれないよな」

 小さくなっていく馬車を見ながら俺は独り言ちる。
 ケニスさんには幸せになってほしいんだけどなぁ……何とかならない物か?

「まあここでうだうだ考えてても仕方ないよな」

 再び独り言ちった俺は踵を返し、城内の医務室へと向かい歩き始めたのだった。



「あっお兄ちゃん!」
「テレア! もう起き上がっても平気なのか?」

 医務室の中は沢山の負傷した兵士が治療を受けており、割とごった返している。
 てんやわんやになっている治療班を手伝っていたテレアが、俺を見つけるなり嬉しそうな声を上げて駆け寄って来た。

「うん、もう全然平気だよ」
「そっか……なら手伝いはほどほどにして、今日は一日ゆっくり休むんだぞ?」

 そう言いながらテレアの頭を優しく撫でてあげると、テレアは目を閉じてくすぐったそうな顔をしながら頬を染めた。
 テレアについてはもう大丈夫だと思っていいだろうな……そうなると残るは。

「エナの様子はどうだ?」
「うん……ずっと寝たままだよ……」

 窓際に設置されたベッドには、あれから一向に目を覚まさないエナが寝かされていた。
 呼吸自体は落ち着いており、一見ただ寝ているだけに見えるものの、そうじゃないことを俺は知っている。

「テレアがもう少し頑張れれば、エナお姉ちゃんも……」
「テレアのせいじゃないんだから、そんな顔しちゃだめだぞ?」

 これについては俺の判断が甘かったせいだ。
 エナは俺のせいではないと言ってくれたが、この後悔だけはそう簡単にぬぐえそうにない。

「……ごめんな、エナ」

 小さく呟きながら、俺は寝ているエナのおでこをそっと撫でた。
 相変わらずその身体は触れたら火傷するのではないかという熱を持っていて、俺を不安にさせるのであった。
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