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三重~アグレス教団のスパイ~
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夕食を取り風呂に入って今日の一日の汚れと疲れを落とし、もはやすっかり自分の部屋みたいな感覚になってしまったお城の客室のフカフカベッドにダイブする。
「肉体的な疲労は全裸になったらなくなるとはいえ、精神的には滅茶滅茶堪えたな……」
今日一日で色々とありすぎたし、そして今日一日で多くの問題も解決できた。
そしてまたいくつもの問題も発生したわけだが……。
「エナはどうなってしまうんだろうな……」
飯を食ってるときも、風呂に入っている時も、気になるのはエナのことばかりだ。
エナは今も医務室のベッドで死んだように眠り続けている。
医者や宮廷魔術師でも現在のエナの症状についてはお手上げ状態であり、どうすることも出来ないと言われた。
以前はまるっと一日寝ることで目を覚ましたから、今回もその可能性に縋るしかないのが本当に歯がゆい。
エナが目を覚ますことがあったら今度こそはっきりと色々と聞かないといけない。
そしてももう一つ気になると言えばケニスさんのこともそうだ。
王様から「三日以内に妹たちを捕まえてつれてこい」という難題をなんとかこなし、爵位剥奪を回避することができたというのに、あの人は今回の事件の責任を取るために爵位を返上すると言い出した。
たしかに何かしらの責任を取る必要のある「誰か」は必要かもしれないが、その「誰か」がケニスさんである必要などどこにもないはずだ。
そもそもあの人は魔力がない体質のせいで、実の両親からあまり愛情を与えられず、妹たちからは自殺寸前まで精神的に追い詰められても、その逆境に負けずに頑張りつつけてグウレシア家を継ぐにふさわしい人間に成長し、ティニアさんというパートナーを得てようやくこれから……って時だったのに。
だがケニスさんの言い分もわかるんだよなぁ……たしかに何も事実を知らず今回の事件に巻き込まれたこの国の国民からしたら、今後事実が公表されてあの三姉妹が原因と周知されたとしても、完全にグウレシア家の対して不信感はぬぐえないだろうし。
「大きな戦いってのは、実際に戦ってる時よりも終わった後始末の方が大変なんだなぁ……」
ゲームや漫画などではわからなかった、この面倒くささ。
マグリドの騒動の時はヤクトさんが、リンデフランデの時はギルドや一座の皆が後始末を請け負ってくれたからなぁ。
今回の事件については頭からつま先までがっつり関わっているせいで、こうして後始末のことまで考えないといけないし、目的であった神獣を復活させ暴走を鎮めたから「じゃあ俺たちは帰ります」と気軽に言うわけにはいかないのだ。
これだけアーデンハイツに被害が出たのだから、俺たちは少なからず今回の事件を持ち込んでしまった責任を取らないといけない。
だがそこについては国自身も大きく関わっているし、王様も後始末に尽力してくれるだろうからそこまで俺たちが気にかける必要はないのかもしれないが、国が関わらない小さな問題……ようするに俺の周りで発生している身内の問題は俺たちで解決するしかないのだ。
そのうちの一つを今から解決しなければならないので、俺はベッドに身を預けていながらも睡魔の誘惑にも負けずにこうして寝ないように待っているのだが……。
「シューイチ様、レリスですわ」
その声と共に扉がノックされた。
来ることはわかっていたので、俺はゆっくりと起きあがりベッドから降りて、来訪者であるレリスを部屋へと招き入れた。
「悪いね、早く休みたいだろうに」
「いえ、シューイチ様からのお誘いですもの……休んでなどいられませんわ」
そう言ったレリスが、モジモジと顔を赤らめてうつむいてしまった。
……何だろうこの空気?
「とっとりあえず座って?」
「はい……」
俺から座るように促されたレリスが、何の迷いもなく俺のベッドへと歩いて行きそっと腰を下ろした。
……ん~?
「レリス?」
「はい大丈夫ですわ! かっ覚悟はできております!」
何の覚悟だよ!!
やっぱり変な勘違いしてるし!
「えっと……たしかに後で俺の部屋に来てくれって言ったけど、俺の言葉が足りなかったんだよな……レリスを呼んだのはえっと……そういうことじゃないんだ」
「そっそうなのですか……?」
なんでそこで少しがっかりしたような顔しちゃうかなこの子!?
俺も男だしそう言うことに興味がないと言ったら嘘になるが、婚約関係だとはいえ未だにレリスとの関係ははっきりしてないし、そこまでのことはまだ考えてないのだ。
この空気をごまかすように、ごほんと咳払いを一つ。
「あのな……今回レリスを呼んだのは大事な話をする為なんだ……三人で」
「三人で大事な話……?」
「そう、三人でな? ……いるんだろ、ソニアさん?」
俺が少しだけ声量を上げて呼びかけると、隠密魔法を解いたのかスウーッと部屋の隅にソニアさんが姿を現した。
「ソニアさん!?」
「……私のことは気にせず事に及んでいただいてもよろしかったのですよ?」
「いや及ばねーから! アンタ頭堅そうな雰囲気してるくせに、結構ふざけてるよね!?」
ひょっとしたらこの人天然なんじゃなかろうか?
「レリスお嬢様の成長を見届けるのも、曲がり何もお世話係だった私の役目でもありますので」
「そっソニアさん……もうそのへんで……」
まさか見られていたとは思っていなかったレリスが、ゆでだこのように顔を真っ赤にしながら必死でソニアさんを止めに掛かる。
「えっと……そろそろ真面目な話をしたいんだけどいいかな?」
「私は何時だって真面目ですが?」
この人留まるところを知らねーな!!
もういいや、強引に話を進めて行こう。
「ソニアさん今日言いましたよね? 事が終わったら自分が何者なのかちゃんと話してくれるって」
「確かに言いましたね」
「実はソニアさんが最初に俺たちを裏切った時にも思ったけど、俺はあなたが本当の意味で敵だとはどうしても思えなかった」
「……わたくしも未だにあなたがわたくしたちの敵だとはどうしても信じられませんわ……何か理由があるのでしょう?」
俺たち二人の言葉を受けて、ソニアさんがそっと顔を伏せた。その表情からは何を思っているのかは伺い知れない。
時間にして10秒ほどそしていたかと思うと、顔を上げたソニアさんがぽつぽつと語り始める。
「簡単な話、わたしは三重スパイでした」
「三重スパイ……?」
「レリスお嬢様のお世話係としてエレニカ財閥に取り入る傍ら、グウレシア家のカレン様を雇い主とし、そしてカルマ教団の三大幹部の一人ドレニク様に雇われ、アーデンハイツが秘匿する神獣についての情報を集める役目を仰せつかっておりました」
それまたなんというか……。
「三重スパイというからには、本当の雇い主がいるわけなんですよね?」
「はい、私の本当の雇い主はカーマベルクを本拠地とし、この世界に多く広まる宗教団体「アグレス教団」の教祖マレシア様です」
アグレス教団……以前エナが言っていた大昔にこの世界を邪神カルマの手から救ったという二人の大天使の片方を崇める宗教団体だったか。カルマ教団もそこから派生したとも聞いたな。
「私の役目は先ほど述べた通り、この国の神獣について情報を集めることでした」
「えっと……どうしてアグレス教団とやらが神獣のことを……?」
「簡単な話です、アグレス教団は神獣の力でこの世界を邪神などの悪意から守ることを目的とするからです」
カルマ教団とまるっきり逆なんだな……とはいえ俺はカルマ教団がなんで神獣の力を欲してるのかなんて知らないわけだが。
「ちょっと待ってください……ソニアさんがわたくしのお世話係になったのはわたくしが7歳の頃でしたわよね? もしかしてそんな昔から……?」
「そうですね」
レリスは確か俺より一つ上の18歳とのことだから、少なくとも10年以上前からスパイを続けている計算になるな……なんとも気の長い話だ。
ていうかこの人今何歳なんだろう? ……ってそんなことよりもだ。
ソニアさんがアグレス教団のスパイというなら、あの時自分の立場は中立だと言った意味もなんとなくわかる。
初めからこの人は俺たちの味方でもなければ敵でもなかったということだ。
「どうしてアグレス教団は神獣の力をほしがるんですか?」
「先程も言いましたが、神獣の力でこの世界を護るためです。ハヤマ様が思うよりも神獣の力というのは強大でして、この世界を護るための力にもなれば滅ぼす力にもなるのです」
「カルマ教団が神獣の力をほしがるのも、やっぱり邪神復活に必要だから?」
「そうですね……元々神獣はこの世界を邪神から救った二人の大天使が、邪神討伐の為に天界から連れてきた……という経緯が存在します」
まあ神の獣なんて名が付いてるわけだし、そんなところだとは思うが……。
「二人の大天使は四匹の神獣たちと力を合わせ邪神カルマの封印に成功しましたが、カルマは自身が封印される直前に四匹の神獣に暴走の種を植え付けたのです」
まさにとんでもない置き土産をして言ったわけか……そういう経緯で神獣は暴走の種を植え付けられているんだな。
「暴走する四匹の神獣を、大天使の二人は矢無負えずカルマに施したのと同じ種類の封印で、四匹の神獣を封じこの世界の各地へと封印したのです」
「なるほど……だからカルマ教団は神獣の封印を解くことに躍起になってるのか」
「シューイチ様、どういうことですの?」
「えっと……今のソニアさんの話が本当のことだしたら、神獣に掛けられている封印ってのは邪神に掛けられてる封印と同じものなんだよ。神獣の封印を解けるようになることは、それすなわち邪神の封印も解けるようになるってことなんだ」
俺がレリスにそう説明する様子を、なんだか感心したような表情でソニアさんが見ていた。
「ハヤマ様の言う通りです……ですが未だに邪神は封印を解かれずにいるのですが……それについてはどうお考えで?」
「ん~……考えれるのはその二人の大天使は元々邪神に掛けた封印になにかしら追加で細工を施したんじゃないかな? 例えば、四匹の神獣の封印を解かないと邪神の封印も完全に解けない……とか」
「その通りです。だから三匹の神獣の封印が解かれている今この現状においても、カルマの封印は解かれてはいないのです」
リンデフランデで玄武を復活させたロイの奴が、神獣に施された封印が「天使に施された封印」って言ってたのを、ふと思い出した。
そういや玄武だけは一度だけその封印が解けて暴走しリンデフランデを滅茶苦茶にしたことがあるんだよな?
今度その辺についての詳しい詳細を玄武に聞いてみないといけないな。
「ソニアさんの事情ついてはわかりました……じゃあ今回の青龍の件の解決を俺たちに依頼して来たのも、アグレス教団から言われたからなんですか?」
「そこは完全に私情です。カルマ教団が青龍関連でエレニカ財閥を……引いてはレリスお嬢様を間接的に狙っていることがわかっていたので、それを何とかするためにハヤマ様を頼りました」
「そうなのか……それにしたってあまりにも口から出まかせが多かった気がしますけどね」
今にして思えば、ソニアさんの話はほとんどが嘘だらけだったな。
まあその中には事実も幾分か含まれていたから、一概に嘘だらけとは言えないのがなんとも……。
「たしかに私はアグレス教団のスパイではありましたが、レリスお嬢様のお世話係でもありました。そのレリスお嬢様がカルマ教団に狙わているという事実を目の前にして放っておくことなどできるわけがありません」
「ソニアさん……」
「ですが客観的にはレリスお嬢様を裏切ったと思われても仕方がないことを私はしました……その結果が今日のこの国の惨状です」
多分この人はレリスのお世話係と、アグレス教団のスパイとしての立場の間で板挟みなって苦しんでいたのだろう。
恐らくこの人は自身の役目を全うしつつも、レリスを助けられる方法をずっと模索してたんじゃないだろか? だからこそ最終的に俺のところへ来たのだろう。
「許してほしいとは言いません……レリスお嬢様が罪を償えと言えば、私は喜んでこの首を国に差し出す覚悟もあります」
「ソニアさん……」
現にそれをするだけでは済まされないことを、ソニアさんは結果的にしてしまっている。
だからこそ罪滅ぼしの意味を込めて、青龍との戦いのときは俺たちのフォローへとまわってくれたのだろう。
何かを考えるように、レリスはうつむいて唇に手を当てていたが、10秒ほど経過したあたりで顔を上げてソニアさんをまっすぐに見つめながら口を開いた。
「ソニアさん、わたくしはあなたに罪を問う気はありません」
それがレリスの出した結論だった。
「肉体的な疲労は全裸になったらなくなるとはいえ、精神的には滅茶滅茶堪えたな……」
今日一日で色々とありすぎたし、そして今日一日で多くの問題も解決できた。
そしてまたいくつもの問題も発生したわけだが……。
「エナはどうなってしまうんだろうな……」
飯を食ってるときも、風呂に入っている時も、気になるのはエナのことばかりだ。
エナは今も医務室のベッドで死んだように眠り続けている。
医者や宮廷魔術師でも現在のエナの症状についてはお手上げ状態であり、どうすることも出来ないと言われた。
以前はまるっと一日寝ることで目を覚ましたから、今回もその可能性に縋るしかないのが本当に歯がゆい。
エナが目を覚ますことがあったら今度こそはっきりと色々と聞かないといけない。
そしてももう一つ気になると言えばケニスさんのこともそうだ。
王様から「三日以内に妹たちを捕まえてつれてこい」という難題をなんとかこなし、爵位剥奪を回避することができたというのに、あの人は今回の事件の責任を取るために爵位を返上すると言い出した。
たしかに何かしらの責任を取る必要のある「誰か」は必要かもしれないが、その「誰か」がケニスさんである必要などどこにもないはずだ。
そもそもあの人は魔力がない体質のせいで、実の両親からあまり愛情を与えられず、妹たちからは自殺寸前まで精神的に追い詰められても、その逆境に負けずに頑張りつつけてグウレシア家を継ぐにふさわしい人間に成長し、ティニアさんというパートナーを得てようやくこれから……って時だったのに。
だがケニスさんの言い分もわかるんだよなぁ……たしかに何も事実を知らず今回の事件に巻き込まれたこの国の国民からしたら、今後事実が公表されてあの三姉妹が原因と周知されたとしても、完全にグウレシア家の対して不信感はぬぐえないだろうし。
「大きな戦いってのは、実際に戦ってる時よりも終わった後始末の方が大変なんだなぁ……」
ゲームや漫画などではわからなかった、この面倒くささ。
マグリドの騒動の時はヤクトさんが、リンデフランデの時はギルドや一座の皆が後始末を請け負ってくれたからなぁ。
今回の事件については頭からつま先までがっつり関わっているせいで、こうして後始末のことまで考えないといけないし、目的であった神獣を復活させ暴走を鎮めたから「じゃあ俺たちは帰ります」と気軽に言うわけにはいかないのだ。
これだけアーデンハイツに被害が出たのだから、俺たちは少なからず今回の事件を持ち込んでしまった責任を取らないといけない。
だがそこについては国自身も大きく関わっているし、王様も後始末に尽力してくれるだろうからそこまで俺たちが気にかける必要はないのかもしれないが、国が関わらない小さな問題……ようするに俺の周りで発生している身内の問題は俺たちで解決するしかないのだ。
そのうちの一つを今から解決しなければならないので、俺はベッドに身を預けていながらも睡魔の誘惑にも負けずにこうして寝ないように待っているのだが……。
「シューイチ様、レリスですわ」
その声と共に扉がノックされた。
来ることはわかっていたので、俺はゆっくりと起きあがりベッドから降りて、来訪者であるレリスを部屋へと招き入れた。
「悪いね、早く休みたいだろうに」
「いえ、シューイチ様からのお誘いですもの……休んでなどいられませんわ」
そう言ったレリスが、モジモジと顔を赤らめてうつむいてしまった。
……何だろうこの空気?
「とっとりあえず座って?」
「はい……」
俺から座るように促されたレリスが、何の迷いもなく俺のベッドへと歩いて行きそっと腰を下ろした。
……ん~?
「レリス?」
「はい大丈夫ですわ! かっ覚悟はできております!」
何の覚悟だよ!!
やっぱり変な勘違いしてるし!
「えっと……たしかに後で俺の部屋に来てくれって言ったけど、俺の言葉が足りなかったんだよな……レリスを呼んだのはえっと……そういうことじゃないんだ」
「そっそうなのですか……?」
なんでそこで少しがっかりしたような顔しちゃうかなこの子!?
俺も男だしそう言うことに興味がないと言ったら嘘になるが、婚約関係だとはいえ未だにレリスとの関係ははっきりしてないし、そこまでのことはまだ考えてないのだ。
この空気をごまかすように、ごほんと咳払いを一つ。
「あのな……今回レリスを呼んだのは大事な話をする為なんだ……三人で」
「三人で大事な話……?」
「そう、三人でな? ……いるんだろ、ソニアさん?」
俺が少しだけ声量を上げて呼びかけると、隠密魔法を解いたのかスウーッと部屋の隅にソニアさんが姿を現した。
「ソニアさん!?」
「……私のことは気にせず事に及んでいただいてもよろしかったのですよ?」
「いや及ばねーから! アンタ頭堅そうな雰囲気してるくせに、結構ふざけてるよね!?」
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「レリスお嬢様の成長を見届けるのも、曲がり何もお世話係だった私の役目でもありますので」
「そっソニアさん……もうそのへんで……」
まさか見られていたとは思っていなかったレリスが、ゆでだこのように顔を真っ赤にしながら必死でソニアさんを止めに掛かる。
「えっと……そろそろ真面目な話をしたいんだけどいいかな?」
「私は何時だって真面目ですが?」
この人留まるところを知らねーな!!
もういいや、強引に話を進めて行こう。
「ソニアさん今日言いましたよね? 事が終わったら自分が何者なのかちゃんと話してくれるって」
「確かに言いましたね」
「実はソニアさんが最初に俺たちを裏切った時にも思ったけど、俺はあなたが本当の意味で敵だとはどうしても思えなかった」
「……わたくしも未だにあなたがわたくしたちの敵だとはどうしても信じられませんわ……何か理由があるのでしょう?」
俺たち二人の言葉を受けて、ソニアさんがそっと顔を伏せた。その表情からは何を思っているのかは伺い知れない。
時間にして10秒ほどそしていたかと思うと、顔を上げたソニアさんがぽつぽつと語り始める。
「簡単な話、わたしは三重スパイでした」
「三重スパイ……?」
「レリスお嬢様のお世話係としてエレニカ財閥に取り入る傍ら、グウレシア家のカレン様を雇い主とし、そしてカルマ教団の三大幹部の一人ドレニク様に雇われ、アーデンハイツが秘匿する神獣についての情報を集める役目を仰せつかっておりました」
それまたなんというか……。
「三重スパイというからには、本当の雇い主がいるわけなんですよね?」
「はい、私の本当の雇い主はカーマベルクを本拠地とし、この世界に多く広まる宗教団体「アグレス教団」の教祖マレシア様です」
アグレス教団……以前エナが言っていた大昔にこの世界を邪神カルマの手から救ったという二人の大天使の片方を崇める宗教団体だったか。カルマ教団もそこから派生したとも聞いたな。
「私の役目は先ほど述べた通り、この国の神獣について情報を集めることでした」
「えっと……どうしてアグレス教団とやらが神獣のことを……?」
「簡単な話です、アグレス教団は神獣の力でこの世界を邪神などの悪意から守ることを目的とするからです」
カルマ教団とまるっきり逆なんだな……とはいえ俺はカルマ教団がなんで神獣の力を欲してるのかなんて知らないわけだが。
「ちょっと待ってください……ソニアさんがわたくしのお世話係になったのはわたくしが7歳の頃でしたわよね? もしかしてそんな昔から……?」
「そうですね」
レリスは確か俺より一つ上の18歳とのことだから、少なくとも10年以上前からスパイを続けている計算になるな……なんとも気の長い話だ。
ていうかこの人今何歳なんだろう? ……ってそんなことよりもだ。
ソニアさんがアグレス教団のスパイというなら、あの時自分の立場は中立だと言った意味もなんとなくわかる。
初めからこの人は俺たちの味方でもなければ敵でもなかったということだ。
「どうしてアグレス教団は神獣の力をほしがるんですか?」
「先程も言いましたが、神獣の力でこの世界を護るためです。ハヤマ様が思うよりも神獣の力というのは強大でして、この世界を護るための力にもなれば滅ぼす力にもなるのです」
「カルマ教団が神獣の力をほしがるのも、やっぱり邪神復活に必要だから?」
「そうですね……元々神獣はこの世界を邪神から救った二人の大天使が、邪神討伐の為に天界から連れてきた……という経緯が存在します」
まあ神の獣なんて名が付いてるわけだし、そんなところだとは思うが……。
「二人の大天使は四匹の神獣たちと力を合わせ邪神カルマの封印に成功しましたが、カルマは自身が封印される直前に四匹の神獣に暴走の種を植え付けたのです」
まさにとんでもない置き土産をして言ったわけか……そういう経緯で神獣は暴走の種を植え付けられているんだな。
「暴走する四匹の神獣を、大天使の二人は矢無負えずカルマに施したのと同じ種類の封印で、四匹の神獣を封じこの世界の各地へと封印したのです」
「なるほど……だからカルマ教団は神獣の封印を解くことに躍起になってるのか」
「シューイチ様、どういうことですの?」
「えっと……今のソニアさんの話が本当のことだしたら、神獣に掛けられている封印ってのは邪神に掛けられてる封印と同じものなんだよ。神獣の封印を解けるようになることは、それすなわち邪神の封印も解けるようになるってことなんだ」
俺がレリスにそう説明する様子を、なんだか感心したような表情でソニアさんが見ていた。
「ハヤマ様の言う通りです……ですが未だに邪神は封印を解かれずにいるのですが……それについてはどうお考えで?」
「ん~……考えれるのはその二人の大天使は元々邪神に掛けた封印になにかしら追加で細工を施したんじゃないかな? 例えば、四匹の神獣の封印を解かないと邪神の封印も完全に解けない……とか」
「その通りです。だから三匹の神獣の封印が解かれている今この現状においても、カルマの封印は解かれてはいないのです」
リンデフランデで玄武を復活させたロイの奴が、神獣に施された封印が「天使に施された封印」って言ってたのを、ふと思い出した。
そういや玄武だけは一度だけその封印が解けて暴走しリンデフランデを滅茶苦茶にしたことがあるんだよな?
今度その辺についての詳しい詳細を玄武に聞いてみないといけないな。
「ソニアさんの事情ついてはわかりました……じゃあ今回の青龍の件の解決を俺たちに依頼して来たのも、アグレス教団から言われたからなんですか?」
「そこは完全に私情です。カルマ教団が青龍関連でエレニカ財閥を……引いてはレリスお嬢様を間接的に狙っていることがわかっていたので、それを何とかするためにハヤマ様を頼りました」
「そうなのか……それにしたってあまりにも口から出まかせが多かった気がしますけどね」
今にして思えば、ソニアさんの話はほとんどが嘘だらけだったな。
まあその中には事実も幾分か含まれていたから、一概に嘘だらけとは言えないのがなんとも……。
「たしかに私はアグレス教団のスパイではありましたが、レリスお嬢様のお世話係でもありました。そのレリスお嬢様がカルマ教団に狙わているという事実を目の前にして放っておくことなどできるわけがありません」
「ソニアさん……」
「ですが客観的にはレリスお嬢様を裏切ったと思われても仕方がないことを私はしました……その結果が今日のこの国の惨状です」
多分この人はレリスのお世話係と、アグレス教団のスパイとしての立場の間で板挟みなって苦しんでいたのだろう。
恐らくこの人は自身の役目を全うしつつも、レリスを助けられる方法をずっと模索してたんじゃないだろか? だからこそ最終的に俺のところへ来たのだろう。
「許してほしいとは言いません……レリスお嬢様が罪を償えと言えば、私は喜んでこの首を国に差し出す覚悟もあります」
「ソニアさん……」
現にそれをするだけでは済まされないことを、ソニアさんは結果的にしてしまっている。
だからこそ罪滅ぼしの意味を込めて、青龍との戦いのときは俺たちのフォローへとまわってくれたのだろう。
何かを考えるように、レリスはうつむいて唇に手を当てていたが、10秒ほど経過したあたりで顔を上げてソニアさんをまっすぐに見つめながら口を開いた。
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