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合流~エリートたちの塔~
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「はぁ……」
先生との話を終えた私は、自室でお茶を飲みつつ本を読んでいたものの、本の内容なんて全く頭に入ってなど来なかった。
思い出されるのは先ほどのこのクルテグラ周辺で起きている異変のことばかり。
雪山に生息したかもしれない、生態系を狂わせるほどの何か。
それにより山を追いやれた魔物たちがこの国周辺に現れて、国に被害を出すようになったのは一か月ほど前からだと先生は言っていた。
今までも群れから追い出されたはぐれのスノウレイヴェが、こうして人里周辺に降りてきて悪さをすること自体はなかったわけではないものの、それが毎回のように続いてしまったのでは国民にとっては死活問題にまで発展するだろう。
そしてこの件をこのまま放っておけば、そのうちスノウレイヴェだけではなく他の魔物も山を追いやられてこの国周辺に集まってしまうかもしれないのだ。
そうなってしまってはそう遠くない日に、この周辺の生態系は狂わされた挙句、直接的な被害が国に出るかもしれない……事態は先生の言う通り緊急を要するのだ。
「フリルちゃんに連絡を取ってくれ……かぁ」
先生の見たてでは、雪山に住み着いた生態系を狂わせるほどの何かは神獣なのではないかとのこと。
もしそうなら、それを鎮められるのは鎮めの唄を歌うことが出来るフリルちゃんだけということになる。
しかし仮に神獣が関わっていると考えると、あまりにも被害が小さすぎる。
本格的に暴走した神獣が復活していると仮定すると、最悪アーデンハイツ規模の被害が想定されるのに、雪山の生態系を少し狂わせるくらいの規模に収まっているのがどうにも解せない。
だからと言って、先生の推測を頭から否定できる材料を私は持っていないのだ。
「なんにせよ、事実の確認が必要になるんですよね」
だがその事実を確認のために雪山へ登った冒険者は未だに帰ってこないとのこと。
その冒険者さえ帰ってこればもう少し色々と対策を考えられるのだけど……。
「……それならやることは一つしかありませんよね……」
私はもう、シューイチさんたちと二度と会わないと決めたのだ。
今更どんな顔をして、この事件の解決の手伝いを頼めると言うのだろう?
一つ小さな決意をした私は、本を閉じて席を立った。
「うおおおぉぉ! ここがクルテグラか!! 何やこの光景めっちゃ心躍るやん!!」
「中々に凄い光景ですわ……わたくしの好奇心が刺激されますわね!」
「なあー? テンション上がるよなぁ!?」
全員を連れて転移で再びクルテグラへとやってくると、眼前に広がるスチームパンクの世界を目の当たりにしたレリスとスチカのテンションがいきなりMAXになった。
「……テレアはあんな子供みたいな大人になっちゃダメよ?」
「えっと……あはは」
そんな俺たちを一歩離れたところから、年少組の二人が冷めた目で見ていた。
「フリル、大人に「大人であること」を期待しても無駄だぞ? 大人だって楽しい物を目にしたらいつだって子供に帰るんだからな?」
「深いことを言ってるような気がするけど、全然中身ないやんけ!」
やたらとテンションの高いスチカが、鋭いツッコミを披露して来た。
さてと……アホなことをしてないで早く二人を待たせているギルドへと行かないとな。
「テレアはラトルさんとルカさんには会ったとこあるのか?」
「うん、昔は二人ともマグリド周辺にいたから、よくテレアの家に遊びに来てくれてたよ?」
昔はマグリド周辺にいたのか……なんで今はクルテグラにいるんだろうな?
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、ほどなくして冒険者ギルドへと到着した。
中に入り喫茶スペースへと目を向けると、先程俺が座っていたテーブルにて談笑しているルトラス夫婦をすぐに発見できた。
「二人ともお待たせしました」
「おうっ、やっと帰って来たなシューイチ!」
「そちらの方々があなたの仲間……?」
そこまで言いかけたルカさんの視線がある一点で止まり、驚愕の表情に変わった。
「テレア!?」
「えっ? ……うおっ、本当だ!?」
まさかの人物登場に、二人が驚きのあまり席を立ちこちらへ駆け寄ってくる。
「えっと……久しぶりです」
「久しぶりだな! でもなんでシューイチと一緒にいるんだ!?」
「えーっと、そこを話すと少し長くなるんで、先に俺の仲間たちの紹介を……」
「あっそうね! ごめんなさい驚いてしまってつい……」
そうして全員で席につき軽く自己紹介をした後、テレアの身の回りで起こったマグリドでの貴族事件について説明していく。
「そんなことになってたのね……まさかヤクトが貴族になるだなんて……」
「大変だったなテレア」
「うん……でもお兄ちゃんが助けてくれたから」
あの事件からもう半年余り経つが、俺もよくよく考えればこの世界に来たばかりなのに面倒くさい事件に巻き込まれたなと、少し感慨深い気持ちになる。
思えばあれから色々とあったなぁ……。
「ていうかシューイチもシューイチだぜ? テレアやヤクトと知り合いなら言ってくれればいいじゃねーか!」
「いやいや!? 知り合いだなんて普通は思いませんってば!?」
「まあそうだけどさ……しかしテレアもしばらく見ないうちに随分と逞しくなったな」
「昔はリリアさんの後ろに隠れてばかりだったのにね」
「あう……」
ルカさんにからかわれたテレアが赤くなって俯いてしまった。
二人の知っているテレアの昔話もぜひとも聞いてみたいものだが、それはまた今度にしてもらおう。
「そういやシュウから聞いたんやけど、この国の周辺で厄介な魔物がうろついとるんやって?」
話題を変えるようにスチカが言うと、二人が椅子に座りなおし真剣な表情に変わる。
「本来雪山に生息している魔物がこの国周辺で何匹も確認されているのよ」
「俺たちはギルドから依頼を受けてその調査をしていたんだけどな……こっちとら冒険者稼業は引退してるってのになぁ」
そういやルカーナさんが自分以外の元仲間たちは全員冒険者を引退してるって言ってたな。
聞けばこの二人は今回の調査依頼を出した人物と旧知の仲らしく、その伝手でお鉢が回って来た依頼だという。
「まだ聞いてませんでしたけど、その依頼を出してきた人ってどんな人なんですか?」
「この国にある魔術師の塔の最高責任者である「シオン=ラーハルト」さんよ」
「シオン=ラーハルト……たしか今も魔法の発展に大きく貢献している、魔法業界の権威だと記憶しておりますわ」
「その人で間違いないわ」
そんなに凄い人なのか……二人の見立てではエナは魔術師の塔とやらにいるかもとのことだし、そのシオンという人がエナの知り合いである可能性も高いな。
しかしこの二人もそんなすごい人と知り合いなんだよな……昔はヤクトさんたちとパーティー組んでいた有名な冒険者だったみたいだし、この二人も冒険者ギルドの間では有名なんだろう。
「今から依頼の達成報告のために魔術師たちの塔にいるシオンのところへ行くんだが、お前さんたちも一緒に行くか?」
「俺たちが行っても大丈夫なんですかね?」
「本来なら関係者以外は塔の受付までしか行けないけど、私たちが一緒なら多分大丈夫だと思うわ」
「そんなら、お言葉に甘えた方がええんちゃう?」
スチカの言葉に、俺たちは全員で頷いた。
「それじゃあ早速行きましょうか?」
「エナお姉ちゃん、いるといいなぁ……」
「そうだな、とっ捕まえて一言文句を言ってやらないといけないしな」
「……右に同じく」
「わたくしたちに何も言わずにいなくなったのですから、文句の一言くらいは許されますわね」
「まったくやな! あの横っ面ひっぱたいてやりたいわ!」
「その子、本当にお前さんらの仲間なのか?」
色々と物騒なことを言い出した俺たちを見て、ラトルさんが怪訝な表情で呟いた。
ルトラス夫婦の案内の元、ギルドから出て30分ほど歩くと目的地である魔術師たちの塔へと到着した。
空から見た時もその大きさに驚いたものだが、こうして見上げるとその高さに唯々感嘆するばかりだ。
「凄いね……何階建てなのかな?」
「たしか10階くらいじゃなかったか?」
「塔自体も不思議な鉱石で作られていて、未だに解析も出来てないし再現することも出来ないって言われてるわね」
まさかその解析も再現も出来ないと言われている未知の鉱石が、その辺に転がっている石と全く同じとは間違っても言えないな。
まあ神獣たちの力が込められてるという話だし、その時点で普通の石ではなくなってるのかもしれないけどな。
二人の後に続いて塔に入っていくと、冒険者ギルドのような受付カウンターがあるのが見えるのと同時に、俺たちにとってすっかり身近となった魔力が塔全体に満ちているのが肌で感じ取れる。
「この魔力……朱雀の……神獣の魔力と同じ性質ですわね」
「……亀と似たような魔力」
普段から神獣をその身に宿す二人は気が付いたようだ。
「神獣というと、アーデンハイツやリンデフランデに現れたという?」
「ええ、その神獣で間違っておりませんわ」
「へー、そんじゃ案外この塔の鉱石ってその神獣の魔力が注がれてたりしてな!」
この人変なところで鋭いな……。
「さて……それじゃあちょっと受付で話し通してくるからちょっと待っててくれるか?」
「あっはい!」
そう言い残したラトルさんとルカさんが受付と行き、なにやら話し始めた。
上手くそのシオンという人に会わせてもらえるといいんだけどな。
「もしもエナさんがこの塔と関わりの深いのだとしたら、魔法に関してあれだけ詳しい知識を有していた理由も納得ですわね」
「良く知らないんだけど、この塔には魔術師たちが集まってるんだっけか?」
「学舎で学んだのですが、まず魔法学校を卒業し魔術師組合へと加入しそこで少なくとも5年は学び、厳しい試験を全てパスすることでようやくこの塔に来ることが許されるらしいですから」
「ほんならここにおる魔術師連中はエリート中のエリートってわけやな?」
朱雀が現在は魔術師たちがたくさん住み着いていると言っていたのは、そういう背景があるからなのか。
たしかにそれならエナがやたらと魔法に関して詳しかったりするのも納得いくな。
「あっ、二人が戻ってくるよ」
受付から戻ってくる二人を見たテレアが声を上げた。
上手く話しは通ったのだろうか?
「待たせたな! 大丈夫だってさ!」
「なんだかシオンさん、あなたたちのことを知ってるみたいね。受付さんがそんなことを言っていたわ」
「そうなんですか? 俺たちは向こうのことなんて知らないのにな……」
そうなると、ここにエナがいて俺たちのことを聞いたのだろうか?
現状最も可能性が高いのがそれだよな……そうなるとほぼ間違いなくここにエナがいるはずだ。
「それじゃあ早速行きましょうか? 先生は最上階にいるから」
「……階段で登っていくの?」
「転送魔法陣があるから、それで最上階まで行けるのよ」
フリルの疑問に、ルカさんがにこやかに返した。
良かった……この高い塔の最上階まで歩いて行くのかと思って、少し身構えてしまった。
そんな俺の心境をよそに俺たちは転送魔法陣のある部屋に通され、全員ではみ出さないように魔法陣の上に乗っていく。
ルカさんが目を閉じ意識を集中させると、魔法陣が光を発し俺たち全員を浮遊感が包み込み、気が付いたら景色が切り替わっていて、目の前に扉が現れた。
凄いな……本当に一瞬にして最上階まで来てしまったようだ。
「シオンさん、ルカです。依頼の調査の件について報告と、お客様を連れてきました」
「どうぞ、入ってください」
ルカさんがノックと共に呼びかけると、扉の向こうから聞こえてきた部屋の主らしき男の人の声で入室許可を頂いたので、俺たちは扉を開けて部屋の中に入っていく。
「うおっ、なんだこりゃ!?」
部屋は薄暗く、無数の魔導書の詰められた本棚がまるで壁のように立ちはだかっており、ちょっとした迷路のようになっていた。
床を見るとこれまたたくさんの紙が丸めて無造作に捨てられていた。
どうやらこの部屋の主は恐ろしくずぼらな人の様だ。
本棚の迷路を抜けていくと、こちらが来るのを待ち構えていたようにニッコリと微笑む金髪の男がソファに座っていた。
「お二人ともご苦労様です……そしてあなた方がハヤマ=シューイチ君とその仲間たちですね。初めまして、この魔術師たちの塔の最高責任者のシオン=ラーハルトです。以後お見知りおきを」
開いているのか閉じてるのかわからない目を更に細めながら、ソファに座る男がそう名乗った。
先生との話を終えた私は、自室でお茶を飲みつつ本を読んでいたものの、本の内容なんて全く頭に入ってなど来なかった。
思い出されるのは先ほどのこのクルテグラ周辺で起きている異変のことばかり。
雪山に生息したかもしれない、生態系を狂わせるほどの何か。
それにより山を追いやれた魔物たちがこの国周辺に現れて、国に被害を出すようになったのは一か月ほど前からだと先生は言っていた。
今までも群れから追い出されたはぐれのスノウレイヴェが、こうして人里周辺に降りてきて悪さをすること自体はなかったわけではないものの、それが毎回のように続いてしまったのでは国民にとっては死活問題にまで発展するだろう。
そしてこの件をこのまま放っておけば、そのうちスノウレイヴェだけではなく他の魔物も山を追いやられてこの国周辺に集まってしまうかもしれないのだ。
そうなってしまってはそう遠くない日に、この周辺の生態系は狂わされた挙句、直接的な被害が国に出るかもしれない……事態は先生の言う通り緊急を要するのだ。
「フリルちゃんに連絡を取ってくれ……かぁ」
先生の見たてでは、雪山に住み着いた生態系を狂わせるほどの何かは神獣なのではないかとのこと。
もしそうなら、それを鎮められるのは鎮めの唄を歌うことが出来るフリルちゃんだけということになる。
しかし仮に神獣が関わっていると考えると、あまりにも被害が小さすぎる。
本格的に暴走した神獣が復活していると仮定すると、最悪アーデンハイツ規模の被害が想定されるのに、雪山の生態系を少し狂わせるくらいの規模に収まっているのがどうにも解せない。
だからと言って、先生の推測を頭から否定できる材料を私は持っていないのだ。
「なんにせよ、事実の確認が必要になるんですよね」
だがその事実を確認のために雪山へ登った冒険者は未だに帰ってこないとのこと。
その冒険者さえ帰ってこればもう少し色々と対策を考えられるのだけど……。
「……それならやることは一つしかありませんよね……」
私はもう、シューイチさんたちと二度と会わないと決めたのだ。
今更どんな顔をして、この事件の解決の手伝いを頼めると言うのだろう?
一つ小さな決意をした私は、本を閉じて席を立った。
「うおおおぉぉ! ここがクルテグラか!! 何やこの光景めっちゃ心躍るやん!!」
「中々に凄い光景ですわ……わたくしの好奇心が刺激されますわね!」
「なあー? テンション上がるよなぁ!?」
全員を連れて転移で再びクルテグラへとやってくると、眼前に広がるスチームパンクの世界を目の当たりにしたレリスとスチカのテンションがいきなりMAXになった。
「……テレアはあんな子供みたいな大人になっちゃダメよ?」
「えっと……あはは」
そんな俺たちを一歩離れたところから、年少組の二人が冷めた目で見ていた。
「フリル、大人に「大人であること」を期待しても無駄だぞ? 大人だって楽しい物を目にしたらいつだって子供に帰るんだからな?」
「深いことを言ってるような気がするけど、全然中身ないやんけ!」
やたらとテンションの高いスチカが、鋭いツッコミを披露して来た。
さてと……アホなことをしてないで早く二人を待たせているギルドへと行かないとな。
「テレアはラトルさんとルカさんには会ったとこあるのか?」
「うん、昔は二人ともマグリド周辺にいたから、よくテレアの家に遊びに来てくれてたよ?」
昔はマグリド周辺にいたのか……なんで今はクルテグラにいるんだろうな?
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、ほどなくして冒険者ギルドへと到着した。
中に入り喫茶スペースへと目を向けると、先程俺が座っていたテーブルにて談笑しているルトラス夫婦をすぐに発見できた。
「二人ともお待たせしました」
「おうっ、やっと帰って来たなシューイチ!」
「そちらの方々があなたの仲間……?」
そこまで言いかけたルカさんの視線がある一点で止まり、驚愕の表情に変わった。
「テレア!?」
「えっ? ……うおっ、本当だ!?」
まさかの人物登場に、二人が驚きのあまり席を立ちこちらへ駆け寄ってくる。
「えっと……久しぶりです」
「久しぶりだな! でもなんでシューイチと一緒にいるんだ!?」
「えーっと、そこを話すと少し長くなるんで、先に俺の仲間たちの紹介を……」
「あっそうね! ごめんなさい驚いてしまってつい……」
そうして全員で席につき軽く自己紹介をした後、テレアの身の回りで起こったマグリドでの貴族事件について説明していく。
「そんなことになってたのね……まさかヤクトが貴族になるだなんて……」
「大変だったなテレア」
「うん……でもお兄ちゃんが助けてくれたから」
あの事件からもう半年余り経つが、俺もよくよく考えればこの世界に来たばかりなのに面倒くさい事件に巻き込まれたなと、少し感慨深い気持ちになる。
思えばあれから色々とあったなぁ……。
「ていうかシューイチもシューイチだぜ? テレアやヤクトと知り合いなら言ってくれればいいじゃねーか!」
「いやいや!? 知り合いだなんて普通は思いませんってば!?」
「まあそうだけどさ……しかしテレアもしばらく見ないうちに随分と逞しくなったな」
「昔はリリアさんの後ろに隠れてばかりだったのにね」
「あう……」
ルカさんにからかわれたテレアが赤くなって俯いてしまった。
二人の知っているテレアの昔話もぜひとも聞いてみたいものだが、それはまた今度にしてもらおう。
「そういやシュウから聞いたんやけど、この国の周辺で厄介な魔物がうろついとるんやって?」
話題を変えるようにスチカが言うと、二人が椅子に座りなおし真剣な表情に変わる。
「本来雪山に生息している魔物がこの国周辺で何匹も確認されているのよ」
「俺たちはギルドから依頼を受けてその調査をしていたんだけどな……こっちとら冒険者稼業は引退してるってのになぁ」
そういやルカーナさんが自分以外の元仲間たちは全員冒険者を引退してるって言ってたな。
聞けばこの二人は今回の調査依頼を出した人物と旧知の仲らしく、その伝手でお鉢が回って来た依頼だという。
「まだ聞いてませんでしたけど、その依頼を出してきた人ってどんな人なんですか?」
「この国にある魔術師の塔の最高責任者である「シオン=ラーハルト」さんよ」
「シオン=ラーハルト……たしか今も魔法の発展に大きく貢献している、魔法業界の権威だと記憶しておりますわ」
「その人で間違いないわ」
そんなに凄い人なのか……二人の見立てではエナは魔術師の塔とやらにいるかもとのことだし、そのシオンという人がエナの知り合いである可能性も高いな。
しかしこの二人もそんなすごい人と知り合いなんだよな……昔はヤクトさんたちとパーティー組んでいた有名な冒険者だったみたいだし、この二人も冒険者ギルドの間では有名なんだろう。
「今から依頼の達成報告のために魔術師たちの塔にいるシオンのところへ行くんだが、お前さんたちも一緒に行くか?」
「俺たちが行っても大丈夫なんですかね?」
「本来なら関係者以外は塔の受付までしか行けないけど、私たちが一緒なら多分大丈夫だと思うわ」
「そんなら、お言葉に甘えた方がええんちゃう?」
スチカの言葉に、俺たちは全員で頷いた。
「それじゃあ早速行きましょうか?」
「エナお姉ちゃん、いるといいなぁ……」
「そうだな、とっ捕まえて一言文句を言ってやらないといけないしな」
「……右に同じく」
「わたくしたちに何も言わずにいなくなったのですから、文句の一言くらいは許されますわね」
「まったくやな! あの横っ面ひっぱたいてやりたいわ!」
「その子、本当にお前さんらの仲間なのか?」
色々と物騒なことを言い出した俺たちを見て、ラトルさんが怪訝な表情で呟いた。
ルトラス夫婦の案内の元、ギルドから出て30分ほど歩くと目的地である魔術師たちの塔へと到着した。
空から見た時もその大きさに驚いたものだが、こうして見上げるとその高さに唯々感嘆するばかりだ。
「凄いね……何階建てなのかな?」
「たしか10階くらいじゃなかったか?」
「塔自体も不思議な鉱石で作られていて、未だに解析も出来てないし再現することも出来ないって言われてるわね」
まさかその解析も再現も出来ないと言われている未知の鉱石が、その辺に転がっている石と全く同じとは間違っても言えないな。
まあ神獣たちの力が込められてるという話だし、その時点で普通の石ではなくなってるのかもしれないけどな。
二人の後に続いて塔に入っていくと、冒険者ギルドのような受付カウンターがあるのが見えるのと同時に、俺たちにとってすっかり身近となった魔力が塔全体に満ちているのが肌で感じ取れる。
「この魔力……朱雀の……神獣の魔力と同じ性質ですわね」
「……亀と似たような魔力」
普段から神獣をその身に宿す二人は気が付いたようだ。
「神獣というと、アーデンハイツやリンデフランデに現れたという?」
「ええ、その神獣で間違っておりませんわ」
「へー、そんじゃ案外この塔の鉱石ってその神獣の魔力が注がれてたりしてな!」
この人変なところで鋭いな……。
「さて……それじゃあちょっと受付で話し通してくるからちょっと待っててくれるか?」
「あっはい!」
そう言い残したラトルさんとルカさんが受付と行き、なにやら話し始めた。
上手くそのシオンという人に会わせてもらえるといいんだけどな。
「もしもエナさんがこの塔と関わりの深いのだとしたら、魔法に関してあれだけ詳しい知識を有していた理由も納得ですわね」
「良く知らないんだけど、この塔には魔術師たちが集まってるんだっけか?」
「学舎で学んだのですが、まず魔法学校を卒業し魔術師組合へと加入しそこで少なくとも5年は学び、厳しい試験を全てパスすることでようやくこの塔に来ることが許されるらしいですから」
「ほんならここにおる魔術師連中はエリート中のエリートってわけやな?」
朱雀が現在は魔術師たちがたくさん住み着いていると言っていたのは、そういう背景があるからなのか。
たしかにそれならエナがやたらと魔法に関して詳しかったりするのも納得いくな。
「あっ、二人が戻ってくるよ」
受付から戻ってくる二人を見たテレアが声を上げた。
上手く話しは通ったのだろうか?
「待たせたな! 大丈夫だってさ!」
「なんだかシオンさん、あなたたちのことを知ってるみたいね。受付さんがそんなことを言っていたわ」
「そうなんですか? 俺たちは向こうのことなんて知らないのにな……」
そうなると、ここにエナがいて俺たちのことを聞いたのだろうか?
現状最も可能性が高いのがそれだよな……そうなるとほぼ間違いなくここにエナがいるはずだ。
「それじゃあ早速行きましょうか? 先生は最上階にいるから」
「……階段で登っていくの?」
「転送魔法陣があるから、それで最上階まで行けるのよ」
フリルの疑問に、ルカさんがにこやかに返した。
良かった……この高い塔の最上階まで歩いて行くのかと思って、少し身構えてしまった。
そんな俺の心境をよそに俺たちは転送魔法陣のある部屋に通され、全員ではみ出さないように魔法陣の上に乗っていく。
ルカさんが目を閉じ意識を集中させると、魔法陣が光を発し俺たち全員を浮遊感が包み込み、気が付いたら景色が切り替わっていて、目の前に扉が現れた。
凄いな……本当に一瞬にして最上階まで来てしまったようだ。
「シオンさん、ルカです。依頼の調査の件について報告と、お客様を連れてきました」
「どうぞ、入ってください」
ルカさんがノックと共に呼びかけると、扉の向こうから聞こえてきた部屋の主らしき男の人の声で入室許可を頂いたので、俺たちは扉を開けて部屋の中に入っていく。
「うおっ、なんだこりゃ!?」
部屋は薄暗く、無数の魔導書の詰められた本棚がまるで壁のように立ちはだかっており、ちょっとした迷路のようになっていた。
床を見るとこれまたたくさんの紙が丸めて無造作に捨てられていた。
どうやらこの部屋の主は恐ろしくずぼらな人の様だ。
本棚の迷路を抜けていくと、こちらが来るのを待ち構えていたようにニッコリと微笑む金髪の男がソファに座っていた。
「お二人ともご苦労様です……そしてあなた方がハヤマ=シューイチ君とその仲間たちですね。初めまして、この魔術師たちの塔の最高責任者のシオン=ラーハルトです。以後お見知りおきを」
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